第2章 第1節
金融政策正常化に向かう経緯
アメリカ経済は09年6月を底として、6年以上にわたり景気回復局面が続いている。この間、FRB(連邦準備制度理事会)はFFレート(フェデラル・ファンドレート)を0~0.25%に抑えるとともに、国債等の購入による量的緩和政策で景気を下支えしてきた。景気や労働市場が着実に回復する中、インフレが加速して景気が過熱する可能性も指摘されるようになっている。また、金融政策において、金利の調節の柔軟性を高めることは、今後景気が減速した際に金融政策の余地を広げることにもなる。こうしたことを背景に金融政策の正常化が必要な状況となっている。
FRBは14年10月に資産購入プログラム(後述)を終了し、15年3月の声明文では、「労働市場がさらに改善し、インフレ率が中期的に2%に戻ると合理的な自信が得られた場合は利上げが適切となる」とした(第2-1-1表)。6月には、FOMC(連邦公開市場委員会)の参加者の大半が15年年内の利上げが適切と想定しているとした。
アメリカの好調な経済指標を受け、15年8月半ばくらいまでは、9月利上げ説が市場でも支持されていた。そのような状況下で、中国を中心とする世界的な金融市場の混乱が起こり、9月のFOMCの判断に世界中の注目が集まった。
国際機関の見方は分かれた。OECDは、9月のFOMCの直前に公表したInterim Economic Outlookにおいて、最初の利上げが15年9月に行われた場合と16年1月の場合を比較し、17年のアメリカの成長率への影響には大差なく、FRBは早期に利上げを開始すべきとした1。一方世界銀行は、アメリカの利上げが新興国からの資金流出を通じて経済成長と金融市場の安定に深刻な悪影響を及ぼすおそれがあると指摘した上で、新興国に対して財政・金融政策の最適化を求めるレポートを公表した2。
結局、9月のFOMCでは利上げは見送りとなり、イエレンFRB議長は記者会見において、「海外情勢の見通しは一段と不透明さを増しており、中国やその他の新興国の成長をめぐる懸念が出ていることで、金融市場のボラティリティが著しく高まった」、「アメリカと諸外国の経済・金融上の関わり合いが相互に大きいことを踏まえると、海外情勢に注視する必要がある」と指摘した。
10月会合でも利上げは見送りになったが、FOMC声明文において世界経済のリスクに関する記述が後退するとともに、12月利上げに含みを残した。FRBの高官はデータ次第としながらも年内の利上げの可能性を繰り返し指摘しており、また、10月の雇用者数の増加が市場予想を上回って改善し、単月ではあるが賃金上昇率も09年7月以来の高水準となる前年同月比2.5%となったことから、市場では12月利上げを織り込んでいる。