以上、各国の成功事例を概観したが、財政再建を達成するためのポイントを整理すると、以下の4点に要約される。
(1)緩やかなペースでの着実な財政再建による成長との両立
歳出削減、歳入増加等の財政赤字削減策(財政収支GDP比の分子対策)をしっかりと進め、構造的財政赤字を着実に削減していくことが重要である。ただし、削減策の実施にあたっては、景気循環に配慮する必要がある。財政再建には少なからず景気を下押しする効果を伴うため、景気回復局面に財政再建を開始することが望ましい。循環的要因による財政の下押し圧力を緩和するためにも、景気動向に十分留意し、適切なタイミング及びペースを選択することが求められる。
(2)財政再建の実効性・持続性を高めるための制度・仕組みづくり
財政再建の実効性・持続性を高めるための制度・仕組みをつくることが求められる。例えば、財政赤字削減策を着実に遂行するための法的枠組みを設けることも有用である。その際、エスケープ・クローズのような非常時への対処措置を設けることも重要であるが、同時に緩い運用や恣意的な運用によって実効性が失われないようにすることも必要である。また、予算編成プロセスを改革し、内閣のリーダーシップを強化する一方、所管分野内の再配分については大臣の裁量を拡大することも重要である。さらに、最近の動きとしては、予算作成機関から独立した専門性の高い財政政策機関による見通しの作成や財政政策の評価等がみられる。
(3)財政再建に対する国民の理解の確保
財政再建に対する政治の強いコミットメントと、国民からの理解の確保も不可欠である。これらと財政再建は相互補完的な関係にあり、財政再建の実現性・継続性を高めるための重要な要素である。また、財政再建の目標・工程・ルールを明確にするとともに、政府の強いコミットメントを通じて財政再建に対する市場の信認を確保する必要がある。さらに、これにより、家計や企業にとっての先行きの不確実性の低下やリスクプレミアムの低下等を通じて、財政再建に伴う景気の下押し圧力を抑制する効果も期待できる。
(4)規制改革・金融緩和等による補完
経済成長を支えるための各種の施策に取り組み、財政再建を支えることも有効である。規制改革あるいは労働市場改革等を通じて潜在GDPの底上げを図ること(分母対策)が重要である。また、緩和的な金融政策が維持され財政再建を補完することが期待される。