第2章 緊急避難的な経済政策からの出口戦略 |
第3節 金融政策の出口戦略
1.主要国の伝統的・非伝統的金融政策の動向
●アメリカの伝統的・非伝統的金融政策の動向
アメリカでは、07年8月にヨーロッパ大手金融機関BNPパリバ傘下の投資ファンドが償還凍結を発表したこと(いわゆる「パリバ・ショック」)を契機とした金融市場の混乱、08年9月のリーマン・ブラザーズ破たんに端を発する金融危機と急速な実体経済の落ち込みに対応するため、政策金利の引下げに加え、幅広い非伝統的な金融政策が採られている。
まず政策金利については、FRBは2008年12月にフェデラル・ファンド・レート(FFレート)を0〜0.25%にまで引き下げ、その後10か月にわたって同水準を据え置いている(1) 。さらに、09年3月に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文(2) において、異例の低金利が「更に長い期間(for an extended period)」妥当となる公算が高いとし、政策転換までの時間軸を抽象的ながら示した。
また、政策金利の引下げによる伝統的な金融政策に加え、信用緩和(Credit Easing)として、市場の流動性や安定性を確保するために各種資産の買取り等の非伝統的金融政策を実施している。
08年9月のリーマン・ブラザーズ破たん等で新規発行が困難となっていたCP市場への対策として、同月には資産担保CP(ABCP)を買い取る金融機関に貸出を行う制度(AMLF:Asset Backed Commercial Paper Money Market Mutual Fund Liquidity Facility)を創設した。また、CPを買い取る制度(CPFF:Commercial Paper Funding Facility)や、短期債務市場における流動性の改善や資金の調達可能性を高めるためMMFから対象資産の買取りを行う民間の特別目的会社に対して貸出を行う制度(MMIFF:Money Market Investor Funding Facility、貸出規模:最大5,400億ドル)を創設した。
08年11月には、住宅ローン市場を支えるため、GSE債務及びGSE保証住宅ローン担保証券(MBS)の買取プログラム(買取規模:最大1兆4,250億ドル)を発表した。また、資産担保証券(ABS)市場における流動性を回復するため、消費者・中小企業向けローンを担保とするABSの保有者に対して貸出を行う制度(TALF:Term Asset-Backed Securities Loan Facility、貸出規模:最大1兆ドル)を創設した。
さらに、09年3月には家計や企業にとってのコストを下げて信用の利用を改善するためとして、国債の買取り(買取規模:最大3,000億ドル)を発表した。
他方、金融機関の流動性対策として、07年12月に連銀窓口貸出の担保として幅広い種類の担保に対して、期間物資金の入札を実施する制度(TAF:Term Auction Facility)を創設した。また、08年3月からは、プライマリーディーラーに対し、担保資産の差入れと引き換えに、公定歩合と同率で貸出を行う制度(PDCF:Primary Dealer Credit Facility)や、プライマリーディーラーに対し、政府機関債や民間の住宅ローン担保証券を担保に、米国債(財務省証券)の貸出を行う制度(TSLF:Term Securities Lending Facility)等を開始している(第2-3-1図)。
●ヨーロッパの伝統的・非伝統的金融政策の動向
ヨーロッパも、今回の世界金融危機の震源である。金融危機と実体経済の悪化に対応するため、ECB、BOEともに政策金利の引下げと資産買取りによる非伝統的な金融政策を実施している。ECBについては、09年5月に政策金利を1.25%から1.0%に引き下げた後、11月まで6か月にわたって1%で据え置いている。英国BOEも、09年3月に政策金利を1.0%から0.5%に引き下げた後、11月まで8か月にわたって据え置いている。
政策金利による伝統的な金融政策のほか、ECBは、09年5月にカバード・ボンドの買取りを発表(買取規模:600億ユーロ、実施は7月から)(3) し、また、ターム物の資金供給オペであるLTRO(Longer-term Refinancing Operation)(4) の期間をそれまでの6か月から12か月に延長することなどを実施した(第2-3-2図)。
BOEは、09年1月に社債、CP等を買取ることで金融機関や事業会社の資金繰りを支援する資産買取ファシリティ(APF:Asset Purchase Facility)を発表し、2月から買取りを実施した。3月には対象を中・長期の国債等にも拡大し(買取りの上限枠は1,500億ポンド)、8月には買取枠を1,750億ポンドにまで拡大した。その後、11月には銀行のバランスシート調整による信用収縮、また、高水準の家計債務残高によって消費が抑制されることから、先行きは緩慢な景気回復が見込まれるため、中期的にインフレ目標を満たすためには更なる景気の下支えが必要との判断等から、買取りの上限枠を2,000億ポンドにまで拡大することを決定した。