4 資金調達市場に情報の非対称性がないという完全な金融資本市場の存在を前提とする伝統的なモジリアーニ=ミラー(MM)命題によれば、設備投資決定の問題と資金調達の問題は切り離され、いわゆる分離定理が成立する。しかし、情報の非対称性が存在する場合、法人税が存在する場合などは、MM命題は成立しなくなるが、このような場合、企業がどのように資金調達をすべきかの議論として、最適資本構成の理論がある。同理論には、様々な仮説(ペッギング・オーダー仮説、ガバナンス構造仮説など)があるが、例えば、ペッギング・オーダー仮説によれば、経営者は資金調達を、内部留保、負債、増資の順に優先づけする。その理由としては、(1)内部留保は経営者が最も自由に利用できるという点でエージェンシー・コストが最も低いこと、(2)新株発行や社債発行には、手数料等の直接な発行費用が必要であること、(3)株式や社債を購入する投資家よりも貸出を行う銀行の方が、情報生産を通じて企業に関する情報に精通しているため、企業の投資プロジェクトをより正確に把握できるという、いわゆる投資家・銀行間における情報の非対称性の問題がある。