補論:諸外国における住宅ローン市場の規制緩和
アメリカやイギリスで、住宅資産の価値上昇を通じた消費が可能となった背景には、80年代以降の住宅ローン市場における規制緩和の進展があります。以下、その概要を簡単に紹介しましょう。
アメリカでは、80年以降、要求払預金に対する付利禁止と定期・貯蓄預金に対する支払金利の最高限度を定めたレギュレーションQが段階的に廃止され、銀行にとっては住宅ローン貸付けのための資金調達に関する制約は取り除かれることとなりました。さらに、住宅資金の積立て・融資を行う貯蓄貸付組合(S&L)に対する税制優遇措置が削減されたことを受けて、銀行等が住宅ローン市場に参入するようになりました。また、二次モーゲージ市場(住宅ローン債権の売買市場)の発展により、それまで貸付資金を短期預金に依存していた金融機関にとって住宅ローン等の長期貸出向けの資金調達が容易になったことも、銀行等が住宅ローン市場への参入を促進したと考えられます。一方で、80年代前半にS&Lは業界全体で赤字になるなど、第一次S&L危機が起きました。
イギリスでは、80年にコルセット規制(注)が廃止されたことにより資金調達に関する制約が緩和され、それが銀行による住宅ローン市場参入のきっかけになりました。また、84年には住宅金融組合が金利協定を廃止し、それぞれ独自の金利で貸出しができるようになりました。こうしたことを背景に、銀行が住宅金融への進出を積極的に行うようになり、銀行と住宅金融組合の間で競争が行われるようになりました。
このようにアメリカ、イギリスや北欧諸国等では80年代に規制緩和が進み、住宅ローン市場での競争が促進されました。その結果、家計は比較的容易に住宅資金を調達でき、住宅資産に基づく住宅ローンの積増し等ができる環境にありました。一方、大陸欧州等でも住宅ローン市場に関する規制緩和が行われましたが、資金調達面で公的金融機関が依然として優遇されていたことなど、アメリカやイギリスと比較すると、規制緩和は限定的なものにとどまりました。
(注)コルセット規制とは、全銀行及び割賦販売金融会社(対象債務500万ポンド以上)に対して、債務の増加率が基準率を上回った場合に、その増加額について一定比率をイングランド銀行に無利子で預入することを義務付けた規制です。
参考文献
海外住宅金融研究会編[2000]『欧米の住宅政策と住宅金融』住宅金融普及協会
Girouard,N. and Blondal,S. [2001]“House Prices and Economic Activity”, Economics Department Working Papers No.279, OECD |