高度情報通信社会上委員会報告参考資料2

(参考資料2) 高度情報通信社会における我が国情報通信関連分野の展望

 高度情報通信社会小委員会報告書では、高度情報通信社会の将来像及び意義について、一般国民、産業分野、公的部門の立場から整理を行うとともに、その実現に至る道筋を明らかにした。特に、第1章では、産業分野にとっての高度情報通信社会構築の意義について、「新産業の創出」と「生産性の向上」の2点が指摘されている。
 こうした分析を踏まえた上で、本報告書で指摘された諸課題への取組が十分に実施され、情報通信の高度化が進んだ21世紀初頭に、我が国産業の情報通信関連分野はどのような姿を示すのであろうか。この点についてできるだけ定量的に分析し、具体的なイメージを描くことは、自由で活力ある経済社会をいかに構築していくかを議論していく上で非常に有用なものと考えられる。
 本資料は、事務局において、高度情報通信社会小委員会の議論の参考とするために作成されたものであり、高度情報通信社会小委員会報告書とは別に、その概要を参考までに付するものである。また、ここで示した21世紀初頭の諸数値は、我が国経済は民間活動がその主体を成すものであること、また、国際環境の変化には予見し難い要素が多いこと等に鑑み、それぞれ一定の前提に基づいて試算した結果であり、ある程度の幅をもって理解されるべきものである。

(1) 基本的な考え方

1) 「情報通信の高度化」と産業の関係について

 広い意味での情報活動は、人間の個人生活・社会活動のほとんど全てにかかわっている。そこで、ここでは、「情報通信の高度化」は、大きく分けて、次の2つの経路を通じて、我が国産業に影響を与えるものと考える。まず、第1に、情報通信技術の発達によって、情報通信機器・情報通信サービスを供給する、いわゆる「情報通信関連分野」が成長するであろう。第2に、「情報通信関連分野」で生産された様々な情報通信機器・情報通信サービスが、「情報通信関連分野」のみならず、それ以外の産業や家計で使用されて、直接あるいは間接に生産を増加させるであろう。

2) 推計方法

 我が国産業の長期的発展の方向を提示するため、多部門モデル(計量委員会の指導の下に開発)による総合的な展望作業を行った。この作業では産業間の相互依存関係を考慮するとともに、規制緩和の進展や情報通信の高度化といった諸条件を明示的な形で取り込んでいる。
 なお、試算にあたっては、今後の生産技術について様々な想定を行っている。そうした想定を行うに当たっては、各産業の技術動向に詳しい専門家に対し、今後の生産、労働需要、技術等についてヒアリング調査を実施するとともに、当該産業における規制緩和や情報通信の高度化の具体的なイメージを想定し、それらの生産技術への影響を盛り込む作業を行った。

(2) 情報通信関連分野の展望

1) 高度情報通信社会のイメージ

 情報通信の高度化の影響を踏まえた我が国の情報通信関連分野の展望を描くに当たり、想定した高度情報通信社会のイメージは以下のとおりである。

○21世紀初頭の日本。
○学校で情報通信教育を受けた世代が社会を支える中核世代。
○2010年までに広帯域・双方向通信が可能な光ファイバーが各事業所、各家庭へ普及。これにより、高品質な動画像サービスや高速データ伝送が可能。
○「行政情報化推進基本計画」に基づく、行政分野における情報通信機器の導入やLAN・WANの構築による省庁間・地方自治体との相互利用の進展。
○生産管理部門を中心に、LAN、CIM、CALS等の情報ネットワークの構築が進む。それに伴う業務の統合、組織改革等の進展による、オフィスの形態の大幅な変化。
○安価で使いやすいハードやソフトの開発・普及による、パソコンの1人1台体制の確立。それとともに、大企業と中小企業との間の情報化の格差は現在よりも解消。
○在宅勤務やサテライト・オフィスといった多様な勤務形態の実現。
○従来、金融・保険、一般機械及び電気機械等を中心に行われていた情報化投資が、今後は、卸売・小売といった流通業やサービス業においても活発に実施。
○先進国の中で高齢化が最も進展し、在宅医療等の新たな医療サービスが実現。
○道路・交通の情報化の進展。

2) 成長期待産業の1つとして期待される情報通信関連分野

 21世紀を迎えるに当たって、今後、成長が期待できる産業分野として、高齢化の進展等に対応した医療保健・福祉関連分野、地球環境問題の顕在化等に伴う環境関連分野、多様化する企業ニーズを充足させるための企業活動支援関連分野等が考えられるが、それらの中で、最も重要性を増す分野が情報通信関連分野である(図表1)。
 情報通信の高度化により、情報の伝達・処理コストが低減し、知的創造が大きな経済活動として発展するようになるであろう。情報通信の高度化による市場の創出についてみると、現時点では、企業向けについてはデータサービス等の市場が形成されているものの、一般利用者向けのサービスとしては商用パソコン通信やFAXの普及等の需要の高まりがみられる程度であり、新市場として急速な展開をみせるには至っていない。しかし、情報通信の高度化は、業務の効率化、生産性の向上を通じてビジネスや研究部門等で大きな効果をもたらすとともに、高度なサービスの提供により新たな産業を創出するので、今後、急速に進展するであろう。そのため、今後は、情報通信の高度化を活用して、利用者のニーズを的確に把握した、企業向けや家庭向けサービス(例えば、ホームショッピング、遠隔教育、ビデオ・オン・デマンド等)が普及し、高度なサービスに必要なコンテンツに対する需要が拡大していくものと見込まれる。
 本分野の国内生産額(1990年価格)は、現在(1993年時点)の約56兆円から2010年には、約 155兆円に達すると見込まれる。これは、現時点の輸送機械産業(自動車製造業、船舶製造業、その他の輸送用機械製造業)の国内生産額(約46兆円)の約 3.4倍の規模である(図表2)。
 また、情報通信関連分野の就業者の数は、2010年までの間に、現在(1993年時点)より約 150万人程度増加すると見込まれる。この増加分は、現時点の輸送機械製造業の就業者数(約 120万人)を上回る規模である(図表3)。

3) 情報通信の高度化によるビジネス環境の変容

 2で述べたような高度な情報通信機器・情報通信サービスを使うことによって、ビジネス環境は今後大幅に変容していくものと思われる。例えば、データベースの活用等、各種の情報ツールの導入によって、意思決定の迅速化、国内外の情報の的確・迅速な収集・分析による、経営管理部門の効率化と、ホワイト・カラー層を中心とした間接部門の効率化が実現されるとともに、研究開発部門においても、情報通信ネットワークを使って、より効率的な研究分担や共同開発が促進されるであろう。
 また、情報通信ネットワークを利用したサテライトオフィス、テレコミューティングにより、勤務地や勤務形態の柔軟な選択が可能になるであろう。



図表1 情報通信関連分野の範囲

SNA24部門 SNA89部門 範 囲 具体例
9.一次金属 37. 非鉄金属 光ファイバー
11. 一般機械 39. 一般機械 コピー機等の事務用機械
12. 電気機械 41. 民生用電機 テレビ・ビデオ等
42. その他電機 コンピュータ等の情報機器、PHS 等の通信機器
15. その他製造 26. 印刷・出版 電子出版、電子新聞等
16. 建 設 業 49. 土 木 業 電気通信施設建設
21. 運輸・通信 67. 電信・電話 移動体通信等の高度通信
22. サービス業 73. 広告業 電子媒体を使った広告
74. 業務用賃貸 電子計算機関連賃貸業
75. 事業所サービス 情報サービス、ニュース供給等
77. 放送業 衛星放送、CATV等

(注)「範囲」の欄は、93年時点で左側の部門(89 部門) の産出額のうち情報通信関連分野が「◎:ほとんどを占める、○:かなりを占める、△:やや含まれる、▲:わずかに含まれる」ことを表す。



図表2 情報通信関連分野の国内生産額の推移(1990年価格: 兆円)

  1993年 2010年
情報通信関連分野 約56 約155
輸送機械産業 約46


図表3 情報通信関連分野の就業者数の増加(万人)

  1993年→2010年
情報通信関連分野 153

1993年の輸送機械製造業の就業者数:119万人

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