第4回経済審議会経済主体役割部会議事概要
1.日時
平成9年11月7日(金)10:00~12:00
2.場所
経済企画庁特別会議室(1230号室)(第4合同庁舎12階)
3.出席者
(部 会)水口弘一部会長
荒木襄、浦田秀次郎、河村幹夫、ポール・シェアード、末松謙一、竹内佐和子、 得本輝人、豊島格、那須翔、西村清彦、グレン・S・フクシマ、森地茂、諸井虔、山内弘隆、山口光秀、吉野直行、米倉誠一郎、和田正江 の各委員
(事務局)栗本政務次官、糠谷事務次官、中名生総合計画局長、高橋審議官、大西計画課長、染川計画官、涌野計画官、安井計画官、田坂計画官、赤井計画官、小島計画官、荒井計画官
4.議 題
(1)官民の役割分担
(2)企業部門の課題
5.審議内容
(1)栗本政務次官挨拶
(2)官民の役割分担について
〇事務局より資料2(PFI、行政運営における評価等に関する資料)を説明
〇委員によるPFIについての補足説明
PFIの背景は、サッチャー政権下の経済の市場化の流れである。PFIは、マーケティングテストあるいはバリュー・フォー・マネー(VFM)など、つまり公的サービスも一度マーケティングテストをしてコストの有効性、効率化を図ろうとしたものである。
○主な意見は次のとおり。
・ PFIに根拠法はなく手法全体を漠然とPFIと呼んでいる。日本でPFIをやるときに、法的規制をどうするかという議論になると英国法の考え方とは異なるので注意が必要である。
・ 3つのタイプについては、自立タイプが前回提案されたBOT。サービスの提供タイプは民間からアウトソーシングして政府、地方自治体が購入するもの。ジョイントベンチャータイプは例えばドックランドライトレールは公設民営に近いし、官民が資金を出し合うものとしては日本の第3セクターに近いが、英国では責任分担が明確にされているものである。
・ メリットは、マーケティングテストによって効率的運営ができるということ、もう一つはサービス提供が拡大できることである。
・ 問題点としては、公的サービスとして一括の資金が必要なところを民間が調達して代替するということになり、公の起債が民の起債によって変えられ、公が延べ払いで使用料として払うことになる。これは隠れ借金になるという危険性がある。
また、リスクをどう見積もるかということがある。官民の間でリスクの分担を調整している。クィーンエリザベス二世橋では、並行のトンネルを同じ会社に運営させて、地域独占性を造ることによってリスクを下げている例などがある。リスクの問題は、サービスの安定性、確実性ということをどう見積もるかということにも関連する。
・ 日本への適用については、公共施設を民間的手法で提供するということは、日本にも先行事例がある。例えば道路の公団、公社方式で利用者負担でやるという方式でやっている。これらにどういう関わりを持たせるか。現在のところ日本の制度はマーケットテスティングからは程遠い存在にある。どこまで近づけられるかも視点の一つである。
・ 発電事業の規制緩和で、電気事業者が独立の事業者から電力を購入するIPPがあるが、ここではPFIの問題点で指摘されているような入札の問題、リスクの問題やサービスの安定供給の問題が表面化した事例であるので、勉強してみると良い。
・ もう少し具体的な施策をデザインして実行可能性や効果をつめる必要がある。日本は非常に多様な社会資本整備の仕組みを既に持っているので、欧米や発展途上国での事例のプロトタイプはほとんどある。それぞれが日本の中でどこがまずくてどこが良いか既に各部局で明らかになっている。このことを無視してイギリスのPFIを議論するのは精度が問われる。
・ 官と民の役割も重要だが、官の中、民の中の摩擦をうまく調整できなくて、時間がかかったり、最適行動をとれなかったりしているなど、さまざまな例がある。ケーススタディーでも良いから、どの場所にどのような政策を適用すればうまくいくか。ちゃんと機能するために何をすれば良いかということをつめる必要がある。
・ 英国は政府、国民ともに国力が後退している中でやっている国である。日本は後退ではなく、まだやれるかどうかを考えてやっている。そういう意味でPFIが国民に受け入れられるのか。コストの問題であるが日本では17兆円の地方交付税があって、これをいけないからなくせということができないし、さらに起債制度もある。公設民営は可能だが、その逆は無理だ。また、民間に対して財政投融資を出すことも困難である。
・ 財政制約がある時、それをどう処理するか。その時に官と民とコストを比較するという発想がマーケットテスティングである。ある事業について民ができるかどうかテストしてみるという発想である。
・ 発展途上国におけるBOTは、インフラが従来の政府援助では追いつかないが、民間借入をすると返せない、だから投資なら良い、という発想でできたものである。援助と組合わせたり、政府が買い取りを確約するなどいろいろ考えてやっている。発展途上国もそれなりに苦労していろいろやっているので、良く調べることも必要である。
・ イギリスのDBFO道路でも正式の報告ではないが、15%位削減しているということである。民間がやるからには、コストが安くなるというねらいもないといけない。
・ 民がやるということになると採算が合わないということになり、リスクが大きすぎる。実際にやって見て想定需要に達しなければ政府がリスクを負うというやり方も発展途上国にはある。
・ 日本でもいろいろ試されており、リスクシェアリングについてもかなり進んだものもあるということだが、なぜ英国の事例を学ぶということになるのか。
・上記の答として
多くの事業が民間に開放されていないということや、開放したとしても応札者がいないということがある。
民間に対する補助金を出すことに臆病な制度をとってきたということがあり、どれだけ補助金をもらえば応札できるかというような制度が定着しなかったこともある。
東京の地下鉄に見られる東葉高速のように民間のような別組織にしたときに、運賃格差がついて結果的に最適な利用がされないということが起きている。密度の高いインフラのなかでやるケースと地方でやるケースとでは随分違うと思う。
マーケティングテストが無かったということが大きい。
リスクシェアはいろいろなケースが結果的に出てきているが、それを整理したり、一つの方針としたりすることが無かったことがあげられる。
・ 基本は「官でしかできないものは官でやる。官でも民でもできるものはできるだけ民でもやれるような工夫を考える時代に入った」ということ。
官でやるということは租税負担でやるということで、これを小さくすることが必要。マーケットでできることはなるべくマーケットでやるということにしなければ、21世紀のある時期には国民負担率が50%を超えてしまうおそれが十分ある。
民に行わせる事によって、より効率的で国民経済的にも有利となる。国には民になじみにくい仕事が多いが、地方は権力行政よりは経済行政が多いから、国、地方含めていろんな工夫を考えていけば良い。
・ どこの国でも政府の仕事に対する批判が多いということは、いろいろ試行錯誤をしたが公的仕事も民の理論を使った方が良いということが各国にあったということだ。民ができるのならば民がやる。しかもその時に 100%民がやるということでなく、政府、地方が負担すべきであったのなら、その負担を含めてその事業を民間に行わせることも検討すべきである。そのような検討を行った上で、民間がやった方がより効率的なものができるということであったのなら、それをやるというような入口の選択があってしかるべきだ。
・ 前半のPFIと後半の評価の問題はくっついた問題である。費用対効果やプロジェクトの事後評価については、PFIという形態を採る、採らないに関わらず、日本としてはすぐやるべきものである。PFIがプロジェクトの事後評価や消費者の満足度をチェックする考え方としてどれだけ効果的かということについては、なじむかなじまないかという問題ではなく、基礎知識である。
・ 今まではモラル論で、国はどこまでやってあげられるかということになっていたが、今後は費用対効果をどの程度はっきりするかということである。
・ PFIは収入で評価するということなので、十分でない面もある。環境の問題等収入が低くても住民の満足度が高いものもあり、補助金を入れるという考え方もあるので、一つの評価にすべきではないとも考えられるが、この考え方は基礎知識である。
・ イギリスにおけるPFIは人的側面等で官にコントロールされているなどきちんと機能していないのではないか。
・ 具体的に、価格はどう決まっているのか。また、提供後の競争政策の監視(公正取引委員会のようなもの)などについて伺いたい。
・ 競争施策に関連して公共施設の建設に関わる建設業界の競争体質もコストにひびくが、建設段階の競争の適用も伺いたい。
(3)企業部門の課題について
〇委員による今後のコーポレートガバナンスに関する問題提起
・ 基本認識としては、これまでの日本のコーポレートガバナンス(広範な持合いやメインバンク等の監視・介入機能を特徴とする「内部型システム」)は機能的、合理的であったが、時代に合ったシステムを再構築する必要が出てきており、その際には完全なオープン市場型よりも、市場に立脚した持合いシステムを目指すのが望ましい。
・ 今後の展望としては、持合い制度は日本のコーポレートガバナンスの中枢として残るが、株式の持合い比率は相当下がるだろう。しかし、ビッグバンの進展に伴い、株式配当を期待する純粋投資家の比重が高まるため、競争導入とあいまって従来の内部的システムが活性化されるだろう。また、持株会社制度の導入もコーポレートガバナンスシステムの再構築の起爆剤となりえる。
・ 今後の課題としては、ビッグバンの激変に内部型システムが耐えうるかどうか、内部型システムが信頼度をどう高めるのか、持株会社や金融機関のガバナンスを誰が担うのか、協調的労使関係をどうやって維持するのか、などといった点が挙げられる。
○主な意見は次のとおり。
・ 米国において、経営が悪化した場合の経営者の責任の取り方はどうなのか。また、経営者の労働市場が存在していると言われるが、日本においてこのようなシステムを導入する場合、終身雇用制にどのような影響をもたらすのか。
また、今後の資金調達が間接金融から直接金融にシフトするとすれば、消費者にとってもそれぞれの金融機関のリターンがすぐに分かるようになると思われるので、金融商品面からの金融機関の選別も進むのではないか。
金融機関のガバナンスについては、金融持株会社が担うことになるだろうが、持株会社のガバナンスについては、その会社の純粋投資家が担うのではないだろうか。
・ 経営者の刷新権については、日本においては、経営不振の場合、安定株主やメインバンク等による内部型の乗っ取りメカニズムが働く。このような仕組みは、終身雇用制や内部昇進といった日本の経営者の市場の構造そのものと不可分である。これに対し、米国では市場を通じた乗っ取りが起こって場合によってはクビになるが、経営者の市場が確立しているため、再度市場に出ればよいだけである。さらに、日米の乗っ取りメカニズムの一番の違いは、日本が経営状況の良い時は行われないが、米国は良くても悪くてもそれが行われうる点である。ただし、これにより、日本においては、業績が良い時に蓄積された内部留保が株式市場に還元されなかった。今後はこのような余剰資金を株式市場に還元するメカニズムが望まれる。
間接金融の問題については、今後は監視・介入メカニズムの多様化が進むと考えられ、例えば、格付機関等が発達するだろうが、オープン市場型にはならないだろう。
持株会社については、純粋投資家は直接的に持株会社のガバナンスまで担うことはなく、むしろパフォーマンスの高い企業を求めて投資していく。したがって、市場を通じた競争原理が働き、各持株会社の仕事内容、市場評価が今後より明確になっていくと考えられる。
・ コーポレートガバナンスは、極めて企業の経営戦略的な問題であり、一義的に結論を出すべきものではない。米国・英国でも様々なガバナンス構造をもった会社もあり、むしろ多様な戦略をとれるような仕組みを考えていくべきである。
・ 日本の場合、コーポレートガバナンスの中心にあるのは、企業の管理職集団である。
戦後財閥解体等を経て、持合い株主と企業内組合が管理職集団を中心にして、コーポレートガバナンスを構築したが、三者の共通利益は会社の拡大・発展であった。今日、その三者関係が大きく変化しつつあるなかで、新しいシステムを考えていかなければならない。
ただ、一挙に米国のようになるというのはあり得ないし、日本の状況に適合した新しい経営の体制を少しずつ構築していくことが必要である。日米欧いずれのシステムも完成されたものではないし、また、かくあるべしと他から言われるべきものではないので、企業自身がいろいろと模索していくべきである。
・ 企業の活動目的は、最終的には消費者に利益を提供できるかという点であり、企業がどのくらい消費者のニーズ等をキャッチして、自分の経営をそれらに合わせるということが重要である。コーポレートガバナンスの如何にかかわらず、消費者にしっかりしたものを提供している企業は経営が良く、消費者の考え方を把握していない企業の経営は悪い。
その意味で、日本企業は依然としてサプライサイド指向が強いのではないか。
・ 企業経営者の最大の責任は会社の利益と社会の利益を合致させることであり、これらの利益の相反がおこらぬよう常々考えるべきである。
(速報のため、事後修正の可能性あり。)
連絡先 経済企画庁総合計画局物価班
Tel 3581-1538