はじめに
近年の急速なデジタル化やAI等の技術革新の進展とともに、人々の生活のあらゆる場面で様々な半導体デバイスが用いられるようになり、半導体への需要は世界中で年々拡大している。一方、コロナ禍や紛争を契機とする世界的な半導体供給不足の発生や、経済安全保障に対する意識の高まりを受けて、半導体の安定的な供給への各国のニーズは急速に高まりつつある。
こうした中、我が国においては、2021年11月、台湾の世界的な半導体の製造受託企業(以下「ファウンドリ」という。)であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(以下「TSMC」という。)が、日本のソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下「ソニーSS」という。)等とともに、半導体に対する旺盛な世界的需要に対応することを目的に、先端半導体の製造受託サービスを提供する子会社、Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(以下「JASM」という。)を熊本県菊陽町に設立すると発表した。総投資額は、約86億ドルにも及ぶとされた。その後、第2工場の建設も発表され、投資規模は、総額で200億ドルを超える見込みとなっている。工場建設が進むにつれ、工場周辺は、交通量が大きく増え、時給相場や地価も急上昇するなど、その影響が目立つようになってきている。
また、2023年2月には、次世代半導体の量産を目的として設立されたRapidus株式会社(以下「ラピダス」という。)が、北海道の新千歳空港付近に世界最先端の2nmの半導体工場を設立する計画を発表した。それまで、必ずしも半導体産業が盛んではなかった北海道にもたらされる大型投資に対し、地元経済界からは大きな期待が寄せられており、実際に工場の建設が進むにつれて、その経済効果が徐々に現実化しはじめている。
その他にも、三菱電機が省エネ性能に優れたシリコンカーバイドパワー半導体の新工場棟を熊本県に建設する計画を発表したり、SUMCOが佐賀県の工場で半導体に欠かせない部素材であるシリコンウェーハを増産する計画を発表したりするなど、日本各地で、半導体関連の大型の設備投資計画が進んでいる。
半導体は「産業のコメ」とも呼ばれ、かつては日本企業が世界を席巻し、国内にはシリコンアイランド(九州)、シリコンロード(東北)と呼ばれる半導体の集積地が形成されてきたが、1990年代以降、韓国や台湾の企業が台頭していく中で、各地で生産拠点の閉鎖・縮小の動きがみられた。しかしながら、足下では、世界的な需要の増加に加え、サプライチェーン強靭化等の観点からの政府による支援もあり、日本でも大型投資案件が相次ぐようになった。
こうした現状を踏まえ、本レポートでは、ファウンドリ等の大型の半導体投資案件が地域経済に与える影響についてみていきたい。
具体的に、第1章では、半導体産業の現状及び政策を概観した上で、国内への大型投資の状況について確認する。続いて第2章では、そうした大型投資が地域経済に与える影響について、概念や既存の試算の整理を行った上で、熊本県、北海道を例に、実際の影響を確認する。最後に第3章では、人材育成に関する取組について確認した上で、更なる経済効果の発揮に向けた課題について整理する。