付注 輸出潜在需要の計算方法

[目次]  [戻る]  [次へ]

ここでは、第2章第3節の「第2-3-9図 農林水産物の輸出実績と2021年の潜在需要」の計算方法について、蜂屋(2012)を参考に記す。

1)日本及びアジア各国・地域の所得分布の推計

まず、沈(2006)93にならい、所得分布は対数正規分布曲線に沿うと仮定する。対数正規分布曲線は下記の式のように表すことができる。

1)日本及びアジア各国・地域の所得分布の推計の式1

上記の式において、標準偏差σと中位所得Mの対数値mが分かれば、所得分布曲線と特定することができる。

この際、対数正規分布曲線に基づいて計算されるジニ係数GはG=2×(標準正規分布のσ/√2までの累積密度)-1と定義されることから、ジニ係数が分かれば、標準偏差σを計算することができる。

また、対数正規分布では、平均所得α、中位所得の対数値m、標準偏差σには

1)日本及びアジア各国・地域の所得分布の推計の式2

の関係があることから、平均所得αと標準偏差σが分かれば、中位所得Mの対数値mが計算でき、下記式から中位所得Mを計算することができる。

m=ln M

所得分布の推計に使った各国のジニ係数と平均所得(購買力平価ベースの一人当たり名目GDP)、および、これらを使って計算した標準偏差と中位所得を付注図表1へまとめている。また、推計された各国の所得分布を付注図表2へまとめている。

付注図表1 所得分布に使用したデータ

付注図表1 所得分布に使用したデータ

付注図表2 2015年と2021年の各国・地域の所得分布の推計結果

付注図表2 2015年と2021年の各国・地域の所得分布の推計結果

2)潜在需要の推計

1)の所得階層別の人口数がもたらす潜在需要の増加を計算する際、各階層がどの程度の日本産食品への購買選好を有しているかを考慮している。まず、香港や中国における日本産食品の購入経験者数割合を各々の所得階層別にみると、所得が高くなるほど経験者割合は高くなる(付注図表3)。こうした傾向は今後高まるかもしれないが、ここではアンケート実施時の値をそのまま用いている。具体的には、

i)所得階層第一分位及び第二分位に相当する者の購入経験者割合は付注図表3のIの値を設定

ii)所得階層第三、四、五分位に相当する者の購入経験者割合はそれぞれ付注図表3のII、III、IVの値を設定

なお、各国の所得階層の閾値は日本の5分位を用いているので共通である。

これに加えて、購入経験者のうち、常連客になる比率も所得が高いほど大きくなると想定し、次のように設定した。

i)第一分位に相当する所得水準の者の常連客比率はゼロ

ii)第二分位以降の常連客比率は線形で上昇

iii)第二分位以降の常連客比率の平均値は日本政策金融公庫のアンケート結果に一致

以上より、第五分位の常連客比率(γ)は、アンケート結果の「今後、日本からの輸入品(日常用)を通常価格より高い値段で購入しても良い」と答えた割合であるA94との関係が

2)潜在需要の推計の式

なお、NIEs(香港、台湾、韓国、シンガポール)とそれ以外(中国、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア)にグループ分けし、前者は香港、後者は中国のアンケート結果から得られた購入経験者の割合を設定した。

上記により、各国・地域の総人口に占める常連客比率を日本の所得分位に対応した階層別に計算し、その後、常連客比率の合計を1として所得分位別の比率を補正する。

次に、2015年の輸出実績額を2015年から2021年の各国の名目GDP成長率見込みで延伸し、常連客構成割合を基に所得分位ごとに輸出額を分割する。

所得分位ごとに分割した輸出額に、所得の上方シフトに伴う各所得分位の人口変化率を掛けた数字を将来の潜在需要とし、その合計を各国・地域の将来の潜在需要とした。

付注図表3 日本の食品の購入経験者の割合

付注図表3 日本の食品の購入経験者の割合

脚注93 沈中元(2006)「所得分布曲線を利用した中国のモータリゼーションの予測」日本エネルギー経済研究所
脚注94 日本政策金融公庫「中国消費者動向調査結果(平成23年9.10月調査)」より、「今後、日本からの輸入品(日常用)を通常価格より高い値段で購入しても良い」と答えた割合。香港54.5%、中国60.4%。
[目次]  [戻る]  [次へ]