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『地域の経済2011 -震災からの復興、地域の再生-』の公表にあたって

この一年間は、我が国にとって大きな試練の一年となりました。

2008年9月のいわゆる“リーマンショック”による景気の急激な悪化から、徐々に立ち直りつつあった我が国経済は、アジアにおける生産調整を受けて輸出が弱含んだこと等を背景に、一時足踏み状態に陥りました。それもようやく克服し、再び持ち直しの動きが見え始めた矢先、3月11日の東日本大震災の発生に見舞われることとなりました。

この震災は、私達から多くの大事な物を奪い、日常生活や経済活動を混乱に陥らせ、各人に人生観や価値観をも問い直させるほどの辛い経験となりました。その突然の衝撃は、今までに経験したことのないものだったと言えます。

それは地域経済にも大きな影響を及ぼしています。そこでみられる特徴は次のようなものです。

一つ目は、各地域の経済が、これまでは時間差を伴いながらも同じような景気変動を示す傾向がありましたが、今回は、地理的位置や産業構成などの違いを背景に、地域毎に異なる動きがみられることです。我が国経済全体をマクロ的視点のみでなく地域毎に観察することが、今まで以上に必要になっています。

二つ目は、震災を受けてのサプライチェーンの寸断による生産の混乱にみられるように、各地域間相互の経済関係が深く結び付いていることが浮き彫りにされたということです。

三つ目は、震災により傷ついた地域経済を再生させ、さらなる発展を期すためにも、各地域の特徴を踏まえた将来の姿をビジョンとして描くことが重要であることが再確認されたことです。

こうしたことを念頭に、今年の「地域の経済」レポートは、3つの章と補論から構成しています。

第1章では、この変動著しかった1年間の地域経済を概観します。震災を始め様々な要因に左右された地域の経済を、詳細に分析して振り返っています。

第2章では、特に東日本大震災の発生とその地域経済への影響について、95年1月の阪神・淡路大震災時との比較を交えながら、分析を行っています。

第3章では、中長期的な観点から、地域経済が持つ特徴、強みと弱み、そしてそれらに基づく地域経済の“実力”を検証します。特に、高齢化が進行し人口減少社会を迎える今日において、人口要因がどのように地域経済に影響を及ぼしているのかを分析しています。

補論では、戦後の人口移動の推移について、特に首都圏への人口流入の動き、あるいは首都圏内での人口の郊外化及び都心回帰の動きについて概観するとともに、近年首都圏内の郊外でみられる“街の高齢化”を取り上げています。

現在は、この未曽有の困難を克服し、東北地域の復興と日本の再生に向けて、官民挙げて前へと歩みを進める時です。そして、各地域が人口減少や高齢化といった現実を前に悲観論に陥ることなく、その個性を活かして中長期的な発展成長に向けた取組を実行していく時です。

本報告が、こうした重要な時期に、議論の材料を提供し、地域経済の発展に向けた取組の一助となれば幸いです。

2011年11月

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)

齋藤 潤

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