グローバリゼーション部会(第8回)議事録

時:平成11年6月18日

所:官房特別会議室(436号室)

経済企画庁

グローバリゼーション部会(第8回)議事次第

日時 平成11年6月18日(金) 16:30~18:00

場所 官房特別会議室(436号室)

1.開会

2.議題1:グローバリゼーション部会報告(案)について

3.議題2:経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)について

4.堺屋経済企画庁長官 挨拶

5.閉会

(配付資料)

資料1  :「グローバリゼーション部会報告(案)」

資料2  :「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)の序章」

参考資料1:「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)」

参考資料2:「経済審議会地方シンポジウムの結果」

グローバリゼーション部会委員名簿

部会長

八城 政基
シティバンクジャパン会長

部会長代理

田中 明彦
東京大学東洋文化研究所教授

糸瀬 茂
宮城大学事業構想学部助教授

國谷 史朗
弁護士

高阪 章
大阪大学大学院国際公共政策研究科教授

篠原 興
国際通貨研究所専務理事

下村 恭民
政策研究大学院大学教授・埼玉大学教授

高木 剛
ゼンセン同盟会長、連合副会長

中西 輝政
京都大学総合人間学部教授

浜 矩子
株式会社三菱総合研究所経済調査部長

ロバート・アラン・フェルドマン
モルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト

グレン・S・フクシマ
アーサーD・リトル(ジャパン)株式会社取締役社長

松本 大
ゴールドマン・サックス・グループLPリミテッド・パートナー

若林 之矩
労働福祉事業団理事長


〔部会長〕

それでは、時間がまいりましたので、ただいまから、第8回のグローバリゼーション部会を開催させていただきます。

 本日は、ご多用中のところご出席いただきまして、誠にありがとうございます。

 本日の議題に入らせていただきますが、本日は2つ議題がございます。第1は、「グローバリゼーション部会報告(案)」に関しまして議論を行いたいと思います。これは事務局より郵便でご連絡させていただいておりますが、今回がこの報告案につき議論する最後の部会になるかと存じます。

 もう一つの議題は、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)の序章」でございます。Eメールもしくはファクスにて直前に送付させていただきましたが、これは各部会の報告を踏まえて策定される答申の序章になるものでございます。そのドラフト、素案ということでございます。

 議事の前半は、前回までの議論に基づいて修正された主な点を踏まえながら、「グローバリゼーション部会報告(案)」についてご審議いただきます。後半は、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)の序章」についてご審議をお願いいたします。ご議論の時間は、それぞれの説明の後にいただくという形で進めたいと思います。

 それでは、事務局からご説明をお願いいたします。

〔事務局〕

それではまず、本日の配付資料を簡単に説明させていただきます。

 資料1が、「グローバリゼーション部会報告(案)」でございます。資料2が、先ほどもお話がありましたけれども、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)」の序章の部分でございます。これについては後ほど事務方より説明をして、いろいろご意見を伺いたいと考えております。参考資料1は、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針(素案)」の本体でございます。これは今各省と協議中のものでございます。参考資料2は、「経済審議会の地方シンポジウムの結果」を入れております。地方シンポジウムは全国で9か所開きましたけれども、それぞれいろいろな委員の方にご協力いただき、ご出席いただいたところでございます。当部会の委員のC委員にご協力いただきまして、誠にありがとうございました。各地方でいろいろな意見が出て、非常に参考になったと思っております。

 それでは、まず資料1によりまして、「グローバリゼーション部会報告(案)」についてご説明いたします。これはこれまで委員からいただきましたいろいろな意見、それから、各省の意見も踏まえた形での修文ということになっております。若干まだペンディングの部分も残っている場所もございます。

 まず、1ページの「はじめに」のところでございますけれども、これまでいろいろな方から、「はじめに」のところは少し暗いのではないか、グローバリゼーションの明るい面ももう少し書き込んだらどうかというご意見もございまして、グローバリゼーションの明るい面も書いております。

 2ページから、1の「グローバリゼーションの進展と国民経済」のところでございますが、ここは基本的に変更したところはございません。今回、主要な変更点については下線で示しておりますので、それを見ればどこのところが修正されたかということがわかると思います。

 5ページにまいりまして、3の「コア・メンバーとしての役割」の(1)の「21世紀の貿易投資体制構築とWTOの新ラウンド」で若干修文がございますが、これは競争に関するところなどの言いぶりを、最近の議論の流れに沿ったものにしたというところで、文意が変わっているものではございません。

 次に6ページにまいりまして、今の流れの中で、②「競争政策に関するルールの整備」のところで修文がしてございますが、これも基本的には最近におけるWTOの議論を踏まえた書き方にしておりまして、ここの中の文意自体が変わったというものではありません。「国際的枠組みの形成に向けて努める」、そして「透明性、無差別性というWTOの基本原則の競争政策分野における確保」といった言い方をしております。

 それから、以前、「アンチダンピング」といった例示も出していたところの表現でございますが、いろいろ考えまして、「競争を歪める影響を持ついわゆる貿易救済措置」といった表現で、そういうものについても「競争政策の観点から見直しが重要」といった表現にいたしております。

 それから、6ページの下の方に線が引いてありますけれども、これは貿易と環境という観点でパラを1つ加えておりまして、「貿易・投資政策と環境政策は相互に支持的であることが求められる」といったことを入れております。

 7ページにまいりまして、真中辺りに線が引いてありまして、「民間債権者の債権残高維持を求める等民間サイドの関与の強化」ということで、これは国際通貨体制の新しいシステムづくりといったところに関わるところでありますけれども、「これから民間サイドの関与の強化について検討する」という文言だったわけですが、それが中身がどういうことか、例示を挙げた方が適当だということで、そういう例示を挙げております。

 9ページにまいりまして、ここは8ページからの(3)の「地球環境問題への対応」でありますけれども、基本的に中身を変えたというよりも、少し環境の側面でいろいろ記述を充実するべきではないかという意見をいろいろなところからいただきまして、記述を充実するという方向でつけ加えております。今までなかったところが少しふくらんだというところでございまして、文意が変わったというよりも充実したと読んでいただければと思います。具体的な中身の紹介は、さっと読んでいただければわかると思いますので、省略させていただきます。

 10ページにまいりまして、(4)の「新たな国際経済協力の在り方」でございますが、最初の下線部の幾つかは、肉づけしたものでございます。最初のところは、「我が国の経済財政事情は厳しい状況にあるが、開発援助が国際社会全体として減少傾向にある中、我が国への期待は高い」という認識を示したり、「ODAが国際社会経済の発展」のみならず、「ひいては我が国自身の安全と繁栄の確保に重要な意義を有」するのだといった認識を示しております。また、その下の方に、「さらに、その他公的資金(OOF)、民間資金(PF)等についての固有の理念・目的も踏まえて、それらの役割分担と連携についての展望を明らかにしていく」ということで、少し広がりを持った言い方で、全体を一体としてとらえていくというより、もう少し役割分担といった広がりを持った言い方にしております。

 ②の「効果的な分担の考え方」のところも、若干、表現の変化をしております。前回は「分担の基準の明確化」といったことにしておりましたけれども、もう少し広がりを持った表現にして、「分担の考え方」ということで、少し表現ぶりをいわば柔らかくしております。

 11ページにまいりまして、引き続き「国際協力の在り方」のところでございますが、それぞれ若干の修文がございます。あとは、最後の④の「21世紀における国際経済協力の明確化(P)」というところで、(P)というペンディングの印をつけております。これは前回お示しした案文の中では、「最適国際経済協力政策の確立」ということでお示ししておりましたけれども、最適国際経済協力という表現なり、ほかの民間の資金との一体化なりについて、もう少し役割分担や連携の在り方について検討するべきではないのかという意見等もございまして、「最適」という言葉ではなくて、「21世紀における国際経済協力の明確化」ということで、それぞれの分担・連携について検討して、21世紀の協力の展望を明らかにするといった表現で、今調整がなされている状況でございます。

 14ページにまいりまして、これは「対外的な情報発信の在り方」ですが、下の方に少し下線がございます。市場メカニズムでは供給されない諸情報の提供ということで、その中身として、「文化・学術・芸術関係等」を入れたり、情報通信のインフラの整備、あるいは情報通信技術の利用に関する開発も含めた教育といった情報通信関係の記述を、この観点から重要だということで加えております。

 15ページにまいりまして、②の「人のグローバリゼーションに対応した政策」のところでありますけれども、1)のところは、有料紹介事業については先般既に改革が決まりましたので、それを具体的に「的確に実施する」という表現にしております。

 それから、「外国人の居住環境の整備」で、インターナショナル・スクールのことを、以前からも書いておりましたけれども、「なかでも、外国人子女教育の充実は極めて重要である。いわゆるインターナショナル・スクールが」云々ということで、若干表現は変えましたけれども、内容的には同じでございます。

 16ページにまいりまして、(3)「外国人労働への対応」の②に線が引いてあります。最初の「在留資格及び在留資格に関する審査基準によって規定される外国人労働者を受け入れていく」という、少し硬い表現で非常に恐縮なのですが、以前は「受け入れる職業の範囲」といった言い方をしていたのですけれども、現在の仕組みに基づいてより正確に表現すればこのようになるということで、表現の正確さを期したものでございます。それから、そういうものの範囲を見直す。併せて、我が国の実情に応じて入国数の調整をできるような仕組みも検討するという表現をしていたわけでありますが、その中に「我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案しつつ」といった、前に失業情勢だけを入れていたのですが、そのほかのものについても「事情を勘案しつつ」ということで入れております。

 17ページは、特段、本質的なところではございません。

 最後に、リスクのところで、1つは「情報通信技術分野」で、これもグローバリゼーションで情報通信について非常に暗いことばかりが書いてあるというご指摘もございましたので、「グローバルネットワークの拡大・深化」ということで、情報通信技術の進展に応じていろいろいいプラスの影響もあるということをまず言った上で、問題点がありますといった言い方にしております。

 最後に、前回まで書いていなかったのですが、(5)といたしまして「国際犯罪への対応」を入れております。これは警察庁から、マネーロンダリングなども非常に規模が大きくなってきて、こういうことは非常に重要で、抜かせないといった指摘もありまして、私どもの判断でこの問題への対応ということで、薬物・銃器等やマネーロンダリングの話、それに対する対応の面を書き加えております。

 以上が、これまでご覧いただいたものからの主な修正点でございます。

〔部会長〕

ありがとうございました。

 それでは、ただいま説明のありました「グローバリゼーション部会報告(案)」について、ご議論をいただければ幸いと思います。

〔A委員〕

非常にバランスよくまとめていただいたと思いますけれども、まず最初にその点、敬意を表したいと思います。

 全体を見て1つさみしい点があるのですけれども、グローバリゼーションが進んで非常に世の中が競争が厳しくなって、日本も取り残されてしまってはいけないということで、どうやって新しい状況に対応し、日本が活性化していくかということについては、よく書いていただいていると思いますが、いってみれば、受験戦争が非常に厳しくなるので、そこで落ちこぼれないように偏差値を上げていい学校に入りましょうという話で、その部分はよく書いていただいていると思うのです。しかし、受験社会の歪みをどうしたらいいかということについては、ここの課題ではないのかもしれませんけれども、非常にすっぽり抜けているという感じを持ちました。

 つまり日本が活性化して生き残っていくことはこれでよろしいのかもしれませんけれども、そういう歪みについて日本が何をするかということについてほとんど書かれていないわけです。また、前回の議論も、むしろ明るい面をもっと盛り上げて、新しい世紀を迎えるのに目を輝かせて出発しようということだったのかもしれません。そういうことを全体の感じとして持ったということだけ申し上げておきます。

〔B委員〕

多少問題意識として持っていたことだけを少しだけ申し上げておきます。

 グローバリゼーションというものが、あたかも天の声であるというがごとく受けとめて、それに対してどうしようかというのが、この部会の全体の最初からの問題意識だったのかもしれません。例えば金融のところで私はまま申し上げたつもりではありますが、単純にして明快にして疑うことのなきグローバリゼーションというものが、金融の方で今後とも主流であるかどうかということに関しては、私は今も疑問です。通商と直接投資の部分におけるグローバリゼーションというものは、日本もアジアの国々もむしろ受益者であって、これで恩恵を受けてきたということは間違いないと思いますし、今後ともそれは原則として肯定すべきだろうと思います。

 ただ、忘れてならないことは、排他的な仲間だけの関税、通商等に関しての地域的な経済統合の枠組みの中にない国々は、アジアの国々だけです。もっと具体的に言えば、OECD参加は今20何か国かありますが、その中でそういう枠組みの中にないのは多分、韓国と日本だけだろうと思います。ですから、グローバリゼーションということを所与として考える方法は、なじめないところがあります。むしろ我々とアジアの国々にとって都合のいいところはうまく主張していくべきであるし、グローバリゼーションの長所や短所をよく判断し、主体的に取捨選択していくべき。アメリカもそういう姿勢をとっている。また、グローバリゼーションの悪影響に対する対応策もどこか腹に収めておかなければいけないだろう。

〔部会長〕

それでは、事務局の方から、お願いします。

〔事務局〕

B委員のおっしゃることは、ある程度は事務局も頭にはございました。濃淡はかなりあろうかと思いますが。例えば12ページ辺りのアジアの役割の記述は、日本の近隣の利害を世界の中に反映させていこうといった、いわば受身だけでとらえるのではないといった気持ちが若干この中には入っている。ただ、おっしゃられるほどはっきりした書き方にはなっていないのではないかと思います。問題意識として、そういう考えがないかというと、我々もある程度は持ちつつ書いている。

〔部会長〕

今日は最後の部会になりますので、今日の素案だけではなしに、何かほかにこの際、部会の最後に当たって言っておきたいということがございましたら、どうぞおっしゃっていただければと思います。

 では、恐縮ですけれども、C委員から始まってずっと、ご発言のない方に何か言っていただきたいと思います。今日は人数が少ないものですから、大勢の人を代表しておっしゃりたいことはどうぞ。

〔C委員〕

この報告は既にかなり議論を重ねましたので、今まで私が申し上げた点はきちんと書いてありますし、特に問題点は意識しておりません。

〔D委員〕

私も特にここがというものは今ご説明いただいてないのですけれども、もしも踏み込むことができるとすればもっと踏み込むのがいいかと思うのですが、今からそれをやるとすれば、根本的にこの仕組みが変わってしまうかなという点が幾つかあります。その一つは、アジアだけではなくて、国連やWTOについてもう少し積極的に日本が踏み込んでいくといったことを書こうと思うと、これは国防や軍事やリスクといった辺りについて日本がどの程度まで関与できるのか、主体的な役割を持てるのかというかなり政治的な色彩が強いところに踏み込まざるを得ないので、この委員会の領域だけではカバーできない、根本的な問題にある程度言及せざるを得ないのかなという感じがしているのです。

 ですから、そこは今までの委員会の中でも議論がほとんどされてきていませんし、これについて意識的、無意識的に避けてきていると思いますので、その中では、かなり精いっぱいグローバリゼーションについて、何も受身だけではなくて、前向きな表現も出ていると考えております。

 もう一つ、プラス面だけではなくて、マイナス面についての救済措置。そういうものについて各論的に個々の記述があまりないというのは、確かにおっしゃるとおりだとは思うのですが、この委員会の私のニュアンスとしましては、むしろグローバリゼーションを受身ではなくて前向きにとらえていくためには何をすべきかということに主眼が置かれていると認識しておりますので、私は個人的には、その限りにおいて、このペーパーのトーンなり各項目の拾い方については、十分なものではないかと思っております。

〔E委員〕

内容は特にないのですが、最後ということで、これを機会に一言申し上げますと、審議会の進め方なのですけれども、いいですか。

〔部会長〕

どうぞ、何でもおっしゃってください。

〔E委員〕

これだけのものを最終的に書くということになると、それなりの方法しかないのだとは思うのですが、せっかく審議会という形で集まって、いろいろな意見があって集まっているので、例えば幾つかの議題について選択肢があって、実際に審議会の中でその選択肢の中からどれかを選ぶプロセスをやってみたら良いのでは。今の形ですと、基本的には事務局の方から土台ができてきて、第1回目でも申し上げましたけれども、もともとの議題についてもそうだと思うのですが、ある程度でき上がったものに対してコメントを出すという形だと思うのです。もっと根本的に選択肢を持って、それについてどれを選ぼうかというのをこの場で議論して選んでいくとか、そういった形で審議会を作り変えていくようなこともお考えになられると面白いのではないかと私は思っております。

〔F委員〕

私は大変よくおまとめいただいたと思います。特に意見はございません。

〔B委員〕

1つだけ質問です。でき上がったものは、どういう格好でどのようにお使いになりますか。例えばホームページに載せて、誰でもアクセスができるようにしますか。英語にして、全世界で読めるという格好になさるおつもりですか。それによっては、私どもこれにコミットいたしておりますものですから、この関係の議論へのアドボケーターとしてどこまで責任があるかということにも関わるかと思っています。

〔事務局〕

この報告につきまして、グローバリゼーション部会の報告のエッセンスについては、「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」の中にできるだけ盛り込んでいくということが1つでございます。

 それから、この報告自体については、後で部会長の方からお話があると思いますけれども、できれば今月末ぐらいを目処に公表します。それから、当然、同時に経済企画庁のホームページで誰でもアクセスして読めるようにします。それから、英語版が同時に外に出るか、これは少し時間は遅れるかもしれませんけれども、ホームページに載せてアクセスできるようにする。そのように考えております。

〔B委員〕

ありがとうございます。

〔部会長〕

それでは、今回の部会が最後になるのですが、グローバリゼーション部会報告については、皆さんのご議論を承ったところで、今後、多少課題を残しているかとは思いますけれども、大体これでいいだろうということでございますので、部会長にご一任いただければありがたいと思います。公表にいついても、今、事務局の方から説明がありましたが、事務局と相談の上で、今のようなスケジュールで私の方で責任を持って公表させていただきたいと思います。よろしゅうございましょうか。

( 「意義なし」の声あり )

 では、そのようにさせていただきます。

 なお、本日は欠席された委員の方が多数いらっしゃいますので、事務局の方から個別に連絡をとらせていただいて、部会の案文についてご了解を得たいと考えております。

 それでは、次の議題に移りたいと思います。まず事務局からご説明をお願いします。

〔事務局〕

お手元に、「委員限り」という資料2がございます。現在、企画部会を中心にまとめております「あるべき姿と政策方針」の素案でございますが、「委員限り」の参考資料1の方が素案の第1部~第3部までの構成であるわけですが、その序章として、集約で、全体を読みものとしてわかりやすく説明すべきではないかという意見が内部でございまして、「政策方針」の素案として資料2を作っております。これを少しご議論いただければということでございます。

 資料2は全部で12ページぐらいのものでございますが、まず「知化経済の構造と倫理」とございますが、最初にイントロがございまして、上から2行目、3行目辺りに書いてございますように、今、経済は大変状態が悪いわけでございますけれども、立ち直った後に「あるべき姿」とそれに至る政策をはっきり提示しておく。これが今回の「あるべき姿と政策方針」のねらいであるわけです。その中で、今進行中の変化が、新たな発展段階を招くものであって、90年代に入ってから生じた様々な事件も、大きな流れの中で生じているのではないかといったことを平たく説明しているのが最初のイントロの部分でございます。

 それ以下、第1節で「最適工業社会の繁栄と行き詰まり」ということについて少し言及しております。その下にございますが、特に大戦後、いろいろな資源、能力の受け皿の発展に振り向けて、2ページにかけて、ア)、イ)、ウ)、エ)、オ)、カ)とございますが、幾つかのことについておおよそ国民的な合意があったのではなかろうかということで、例えば2ページのイ)の産業経済においてはどうか、ウ)の情報と地域で、東京一極集中で、規格的な統一市場化が進んでいたのではないかといったことなどが書いてございます。

 それで、2ページの中ほどに、こういうことでこの選択自体は誤ってはいないわけで、その結果として、1987年、大変完成度の高い社会を作ることができたということでございます。80年代末になると様々な行き詰まりが見られたということで、バブルの形成及び崩壊といったことなどが書かれております。

 3ページにまいりまして、そこで、90年代の不況が単なる景気循環ではなくて、金融機関や企業の経営悪化などから生じた不況ではなくて、むしろ近代工業社会の規範が、今の文明的な流れにそぐわないという極めて根本的な問題があるのではないかという問題提起をしております。

 それで、先ほどの「あるべき姿」のコンセプトを最初に集約としてきちんと示すことにしようではないか。そして、求められておりますのは、様々な政策や制度の改善の寄せ集めとしての世の中の変化ではなくて、発想と構造の改革を目指した具体的な制度や政策の変革であるといったことが書かれております。

 第2節は「「あるべき姿」の条件」。第3節として「「あるべき姿」の目標」。第4節が「「あるべき姿」の概念」。第5節が、その際の「経済選択の基準としての価値観」と続いております。

 まず、3ページの第2節の「「あのべき姿」の条件」でございますが、ここでは変化軸であります知化、知恵の社会化への対応ということ。これは世界から情報知識が入りやすく、発信しやすい状況を作る。個性と創造性に富んだ組織と人材といったこと。少子高齢化につきましては、絶えざる変革エネルギーを内蔵して、不足する機能と財を補充し得るリソースであろうといったことが書いてあります。4ページにまいりまして、3で「グローバル化対応」が書かれております。ここでも議論いただいたように、国境が意識されることなく移動するということで、「あるべき姿」の経済社会では、モノ、カネ、情報知識が自由に出入りするだけではなく、流動の集散の場となるといったことを書いております。4で「環境制約対応」ということで、この展開は不可避であるといったことが書いてあります。

 4ページの第3節の「「あるべき姿」の目標」でございますが、右に「最大自由と最少不満」と書いてございまして、後でその説明が出てまいります。大きな1は、先ほどの参考資料1の全体の構成とも合っているわけでございますが、「「個」を基盤とした自由と「公」の概念」ということから始まっております。最初のパラグラフは、これまでの考え方で、近代化が普遍的な正しさを持つという観念が社会生活にも拡大していたということでありますが、多様な知恵の社会においてはそうではない。商品サービスから雇用まで、帰属対象までが多様化して、その次が極めて重要だと思うのですが、「各個人がそれぞれの好みによって、人生の目的とその達成手段とを選び得る個人の自由が社会全体として最大にすることが重要である」ということでございます。

 4ページの下から5ページにかけましては、そういう自由ということを強調する一方で、各個人、個が自由を追求できるためには、相互了解としての公の概念が要るではないか。競争する社会、経済の成長と生活の楽しさを追求するためには、その構成員として尊ぶべき正義と価値観が必要であるといったことが書かれております。

 2では「人権と尊厳が守られる経済社会」ということでありますが、これも「考えるにあたって」を4月にまとめますときにも議論いたしておりますが、そういう競争社会において、失敗者や社会的弱者も少なからず存在するということで、その人々の人権が守られる必要がある。「ただし」ということで、守るべきは個人の人権であるということがその下に書かれております。それから、安全ネットの構築には、人権と尊厳は守らなければいけないのですけれども、そのための負担をする側の不満も重要であるということで、先ほどの「最大の自由と最少の不満」という言葉の説明がその下にあるわけでございます。

 3番目といたしまして、人口が減る中でも、1人当たりではもちろん総体としても成長が重要ではないかということで、ア)~カ)まで、規模が縮小することの問題点が書かれております。6ページで、こういう悲惨な状態に陥らないように、多様多元な補充リソースを持つ必要があり、人口減少に歯止めをかけるような気質と体質を備えていなければいけないと結ばれております。

 第4節は「「あるべき姿」の概念(コンセプト)」でございます。ここでは「多様性と創造的変革」という言葉が副題として置いております。これは先ほどの「自立した「個」を基盤とした経済社会」ということで、繰り返している部分もございますが、経済社会のすべての基盤は自立した個人にあるのだということ。上下の差が固定された縦の関係ではなく、平等な横の関係であるということで、日本の場合、下から上へと意思が伝えられる集団主義がとられてきましたが、これからの社会では、トップの意思決定と周囲の実行とが密接に絡み合うということが書かれております。

 6ページの2からは、これもいろいろご議論いただいた複属社会についての総まとめが書かれているわけでございます。7ページにかけまして、これからの時代においては、情報を受けたり発信したりする技能、権利、機器を持って、相互に多様なつながりを持つということ。それから、これまで人類は、血縁、地縁などのいずれかに全人格的に帰属してきて、特に戦後は会社人間化となったという部分もあるわけでございますが、これからは、好みの縁でつながった集団にも帰属意識を持つ複属者となるのではなかろうかということが書かれております。これは「考えるにあたって」でもご議論いただいたところであります。

 3番目に、官の役割がございます。ここでは、上から4行目に「日本では官が路線を定め」とございます。これまでえてして、消費者側が路線を定めたり、民間がスケジュールを作成したりすることも少なかったということですが、これはこれで規格化された社会ですから効率的であった。「しかし」というところがございますが、なかなかそれでは新しい技術や供給が開発されないということで、これからの社会はそれではいけないということが、その下から始まっております。そこで、官の役目ということで、ルールを定める、監視をする、事故を適切に処理をするということが中心ではないかということが書かれて、8ページにつながっております。8ページの上では、これもご議論いただいた消費者主権、あるいは供給者の情報公開の責務といったものが触れられております。

 4番目に、「創造的に変革する企業経営」ということで、企業について書かれておりますが、ここでは8ページの最後のパラグラフで、知恵の値打ちの創造が経済成長と企業収益の主要な源泉となるということで、この生産手段が人間と切り離せないといったことなどを強調しています。

 9ページにまいりまして、5が「多源的補充性のある経済社会」ということでございまして、ここではグローバル化を受けて、強い刺激と必要な機能の補充が欠かせず、外国からの才能や機能の補充も必要となるのではないかということや、高齢者や育児をされている人々が働きやすい条件。これは各論の政策方針などで詳しく言っているところでございますが、そういったものが必要ではないかということや、多様な労働力の確保も欠かせぬ条件であるということなどを強調しています。

 第5節で、「価値観」でございますが、ここでは新しい効率、新しい平等、新しい安全、そして自由の確立ということを言っております。この自由と効率、平等、安全等の議論も「考えるにあたって」で出てきたものでございます。9ページの下にございますように、効率、平等、安全は変わることのない正義であるが、これらの正義に自由が加わり、楽しみの選択と、競争によるイノベーションが強く支持されなければならないということが書かれております。

 10ページにまいりまして、1が効率。これは重要な正義であるということでございますが、これからの日本では、よりこれ以上の社会全体の効率も重みを持つということ。

 2の平等につきましては、これは機会の平等、結果の平等という議論をいたしましたが、これからも重要であり続けるけれども、「機会の平等と事後の調整」の組み合わせとなるといったことで、これまでの事前に結果の平等を図る社会構造は失敗に終わっているということが強調されております。

 3の安全のところは、4つに分けておりますが、平和と治安について、今後、「個」を基礎とした競争社会ということで、多源的な補完ということになりますと、その中での平和と治安の維持をどう考えるかということや、どういう方法であるかということを説明する必要があるだろうし、事故や災害についても、これまで規格基準を中心に依存していたということについての反省。官の基準に頼らない。それぞれに適した手法によって対応するという事柄が重要ではないかという話。財産の保全につきましても、同じようなご議論かと思いますが、官が守るということではなくて、これからは十分な情報の供給と安全ネットなどによって、個人が自らの判断によりリスクを取る、自己責任であるということが重要であるということが書かれております。それから、健康についても、ルールづくりや事故処理という原則により、健康な生活ができるようにすべきだという話や、全地球規模における安全の概念ということなどが書いてあります。

 最後、4番目に、確立すべき「自由」でございますが、ここで書かれておりますのは、今の3つほどで自由が確立されていないではないかということで、例えば幾つかの正義と正義が対立し、相剋が起こりますと政治がこれを解決するということで、国民運動になったり政治運動になったりするわけでありますが、例えば効率と平等であれば、括弧内に書いてあるようなことの間で妥協が行われていたということでございます。

 「ところが」ということで11ページの下から書いてありますが、自由の方はもう少し弱いものとして意識されていて、自由と効率、平等、安全というものが抵触いたしますと、そこは事前に行政の判断で抑えられるといったことはなかったか。これからはそういうことではなくて、自由も並ぶ正義の一つとしてその達成が必要であり、そうでないと、個を基盤とした先ほどの横につながる社会の形成もなかなか目指せないではないかといったことが強調されて、自由の確立が強調されているということでございます。

 これが、先ほどご説明があったと思いますが、参考資料1の全体としての序章として考えているというものでございます。説明を終わります。

〔部会長〕

どうもありがとうございました。

 それでは、皆さんどうぞ自由にご発言願います。

〔C委員〕

この部会の第1回か第2回で、この素案の原案となった箇条書きを確か配っていただいたと思います。そのときに、個人的に非常にわくわくするというか、興奮を覚えて、こういった答申ができるかというので非常に楽しみに待っていたのがあったのです。日頃私が考えいることと非常に整合的なのですが、そこまで申した上で、本当にこれはショックが強いのではないかという気が一つするのです。

 例えば6ページの「自立した「個」を基盤とする経済社会」というところがありまして、中段の、「これからは経済社会のすべての基盤は自立した個人にある」など。これを読んだ人、例えば20代、30代の人は、これを見て私と同じように、ああそうなのだと納得すると思うのです。40代、50代の人はかなり不安感を覚えるのではないかという気が正直言ってするのです。

 何を申し上げたいかというと、セーフティーネットのところなのですが、例えば5ページに、2の「人権と尊厳が守られる経済社会」の中段以下のところに、「生活の保護や失敗者の救済が」云々ということでセーフティーネットのことが論じられているのですが、この辺は序章のところでもう少し強調されるのも一つの手ではないかと思うのです。

 例えば金融ビッグバン一つにしても、日本の場合は金融サービス法の制定が後手に回って、いわゆる情報弱者に対する安全弁がまだできていないわけです。それから、ここで意図されているのは、例えば敗者の復活戦ということもあると思うのですけれども、そういったことについてもう少し序章の段階で触れておかれた方が、読み手にとってもう少し読みやすいのではないかという気がいたします。

〔A委員〕

大変印象的な刺激的な内容で、非常に感銘を受けました。もう少し趣旨といいますか、理念を正確に知りたいという点で、2点申し上げたいと思います。

 1点は、これは今日伺った限りですと、日本の経済社会のあるべき姿ということが書かれていて、その限りでは非常に適切な非常にすばらしい内容が盛り込まれていると思いますけれども、同時に、21世紀の世界で日本がどういうあるべき役割や位置づけを持つべきなのか。そういう点のあるべき姿はどうなのかという点について、もう少し知りたい。あるいは伺いたいという気がいたしますが、とりあえず、日本の変わるべき方向ということについては非常に明快に打ち出されています。それと、世界の中での日本の位置づけが整合性を伴ってどのように考えられているかということをもう少し伺いたいと思います。

 第2点は、ここに書かれている趣旨はよくわかるような気がするのですけれども、具体的にどういうことなのかという点が少しありますので、伺いたいと思います。例えば10ページの「安全」のすぐ上のところですけれども、「競争によって生じる経済的格差を是正し、みんなが生きられる仕組みを形成する」ということが、具体的にこれまでの社会福祉や社会保障等の仕組みをさらに強化するということなのだろうと思いますけれども、それは具体的にどういう形で手段がとられるのかといった辺りを、細かい話は必要ないと思いますけれども、もう少し具体的に伺えればと思います。

 それから、その下の平和と治安のところですが、確かに平和についての保障は非常に重要だと思いますけれども、平和を非常に維持しにくい状況が恐らく予想されると思います。21世紀の初頭。特にこの辺です。これに対して、日本はどういう対応をしつつ安全を図ろうとしているのか。例えば平和を図るために軍事的な負担、軍事的なプレゼンスを高めるのか。あるいはそういうことをしないで、今までどおりでいって、しかし、今までどおりでいくと、あるいは平和についてリスクが出てくるかもしれませんが、それはあえて吸収して我慢していくのか。あるいはほかに方法、対応を考えておられるのか。この辺の平和について、日本はどうやって安全を確保しながら21世紀前半を乗り切っていくのかという点についても伺えればと思うのです。

 最後に、同じ関連で、11ページの頭のところで「多源的な補完」。これは非常に難しい表現なので、もう少し基本的に何かこれに代わるやさしい表現で、私どもにもわかるような表現にしていただけるといいかと思います。ここには外国人のかなり大量の導入ということも含まれているのだろうと思いますから、それを認めた上で、平和と治安を維持する考え方、方法をわかりやすく説明する。どういう具体的な考え方、方法を考えておられるか。大体のイメージを教えていただければと思います。

〔部会長〕

まず最初、事務局の方から何か、今のA委員のご質問に対してコメントがあればどうぞ。

〔事務局〕

序章では変わるべき方向についてもっぱら書いています。参考資料1の第二部の「経済社会のあるべき姿」が5ページ以降にございまして、この中で、10年程度後にどういう世界に住んでいると考えられるのか、また、住んでいるべきなのかということについて、「多様な知恵の社会」や「少子・高齢化」など、それぞれの切り口でできるだけ説明しようとしているということであります。

 もちろん、例えば規格的にこういったことが与えられる夢であるということではありませんで、6ページにありますように、「「夢」に挑戦できる」というのは、それぞれの人が自分の夢を見る、目標を持つということでありますので、そういった書き方になっております。

 それで、世界の中の位置づけというところは、12ページから第4章で書かれておりまして、「世界における位置づけ」として、「主要プレーヤーであり続ける日本」ということで、ここで言っておりますのは、13ページにありますように、ルールづくりにリーダーシップを発揮するということ。それだけではなくて、特に、「日本発の未来文化」として、「敬愛される国」という言葉が第2節の最初のところにご覧いただけると思いますが、ルールづくりにおける先取性を発揮するだけではなくて、敬愛されるために、知識、知恵の発信において世界の中核の一つとなろうといったこと。普遍的な文化を、未来文化を発していこうということが、敬愛される国になるのだといったことでございます。

 こういった位置づけを第二部でできるだけ具体的に申し上げ、第三部の方では、それぞれの政策方針ということでございますので、今の世界との関わりでございますと、29~30ページ以降にかけまして、先ほどの世界のルールづくりへの取組みとして具体的にどういうものがあるか。これは当部会でおまとめいただいておりますもののエッセンスということになりますが、そういったことが書かれているという構成になっております。

 それから、平和と治安でどういう対応かということについては、実は参考資料1で考えますと、12ページから書かれておりますように、「軍事大国とはならない日本が、国際的に安全を確保し得る地位にあるためには、経済社会面で世界の主要プレーヤー」であろう。それは先ほど申し上げたようなことで、我々が敬愛される国であるといったことで、そういう書き方がしてあるということでございます。

 それから、11ページの1行目で、「多源的な補完」という表現が大変わかりにくいではないかということを最後におっしゃっておられまして、全体として多源的という表現は何か所か出てまいりまして、リソースというか、まず補完すべき財があり、そういったものが重要であるということをここで積極的に言うというねらいと、補充することが必要だというねらいと、そのリソースを様々なところから持ってきて、刺激とか、あるいは多様な文化を日本に少しずつ定着させることが重要だという意味で使われていると理解しております。

〔部会長〕

ありがとうございました。

〔B委員〕

会社型と書かれていますけれども、日本が今まで規格製品の大量生産の方法論の中でどんどんやってきて、一人当たり国民所得が1番になって、バブルまで生んで、それが崩壊して全部ダメになりました。重厚長大は全部時代遅れです。それに基づく我々の知識も経験もその集積もすべて改めなければならない。改めた先は、スモール・イズ・ビューティフルという軽めの話です。このように読めなくはない。それで、その先にあるのは自由であります。私はこういう言い方と問いかけに根本的に疑問を持っています。例えば日本は不自由か。こんなに自由な国はないのではないか。

 したがって、例えば現状認識の中の一つの重要なポイントは、日本は今世界で唯一最大の債権国です。この債権国を、世界最強の軍備なしに、他国を強制する力なしに、どう保全していくかといったことが、例えば2010年、2020年をターゲットにしたときには非常に大きなポイントなのだろうと思います。

 その保全していく方法は実はあまり具体的にはないのです。ここに書かれているようなやや形而上的な言葉を使うのだとすれば、我々の社会全体のモラルを高く保つ。あるいは保全のためのコストの負担をする。その覚悟を国民全体が持つ。こういったことだろう。

 また、経済のタームで計った、例えば1人当たり国民所得がアメリカを超えた瞬間を考えます。それ以外に、我々が作り上げてきたところで大切にしなければならない点が幾つかありそうな気がしています。会社型人間の中で、競争と機会の均等が約束されてきて、それが慣行としてでき上がっているということなのだろうと思います。こういうことも実は他国に誇れる社会現象なのだろうと思うし、そういうことを大切にしていくということも必要なのだろうと思います。

 自由は結構です。ただ、それの裏打ちがないと自由が約束できない。自己責任というだけでは足りない負担の覚悟、そういうものを問いかけないといけない。今の日本の社会構成員のあり方から見ますと、これを見たら、何をやってもいい、権利だけを主張する、という人たちを生まないだろうか。

 例えばこの中で、プライバシーという言葉が1か所だけ出てきます。あそこでプライバシーを言うのであれば、プライバシーをある意味では制限しないとそういう社会はできませんということもどこかで書かなければいけないだろう。私は国民総背番号制と、すべての資産に対する実名制の導入というのは、今後、社会の公正を担保していく上でどうしても必要なことだろうと思っています。不動産には、実は実名制が日本はできているはずです。動産の方、すべての金融資産に実名制と言われるものを導入していって、税制からはじまって、ありとあらゆる取扱いが極めて透明な中で平等が担保されることが必要だろう。これはそういう意味からすればプライバシーの大侵害になると思います。だけれども、それがないと、我々の社会をその次の発展への基礎を作っていくために、どこか柱が欠けてしまうのではないかといった気がしています。

 例えばアジアの国々では、インドという国がある。中国という国がある。インドネシアという国がある。こういう巨大な人口を抱える友人が、これからいってみれば日本の戦後のある部分の歴史をもう一遍彼らが歩み始めるときに、我々が過去作ってきた経験と知識と知恵の集積は役に立たないだろうか。

〔D委員〕

私はむしろ明るい感じで読ませていただきました。これは個人的な、何をもって価値観とするかというところにも大きく依存するのかもしれませんけれども。

 少し各論的に、もう少し触れていただきたい、若干修正なり推敲していただきたいというところが幾つかありますので、秩序立っておりませんけれども、申し上げておきます。1つは、官の役割につきまして、基本的な理解は全然異議ないのですけれども、ルールづくりの明確化とルールをできるだけ最小限化する。明確化というのはきちんと書かれているのですが、最小限化するというところをもう少し私などは強調したいという気がしています。

 ただし、それだけ読んでみますと、官というのは存在しなくてもいいのかということになるのですが、私は決してそうは思いません。日本における会社の存在意義というのは、社会的な存在という面は無視できない。しかし、民間の経済活動というのは株主に対する義務がありますので、活動には限界がある。そうしますと、営利法人ではない、非営利的な活動の最たるものが官の役割ですから、これは全部官が主導するという意味ではないのですが、民間ではどうしてもできない資源分配や投資を、ばらまきではなく、集中的に官がやる。どうしても民間では利益追求ということの制約がありますからできない。そこを未来投資的な意味で集中的にピックアップしてやっていただきたい。この点が官については非常に大きな役割であり、今後もそうあるべきだと思います。

 次の問題としまして、こういう官の役割を書くときに、官だけではないのですけれども、あるビジョンを描いたときに、それがそのままのビジョンでずっといくという保証はないのです。この委員会の課題というのは、当面大体10年間ぐらいを視野に入れているわけですが、この10年間の中においても、システムが現在の状況、将来の状況等、その時々の状況に応じて柔軟に対応できる、柔軟にシステムが変わり得る、そういう柔らかい構造をシステム自体の中に組み込んでいただきたい。民にしろ官にしろ、一回できてしまいますとなかなか変わらない。ですから、これは変化に対応してすぐに変わり得るという、そういう発想を入れていただけないかと思っております。

 最後に、日本の当面10年ぐらいを見たところでは日本文化というのはあるわけです。農耕文化と狩猟民族の文化というのは、この10年ぐらいでは消えないと思います。例えば産業セクターから言いますと、地道な重厚長大産業に代表されるメーカー的なところと、自由な金融サービス。これはある意味で二極化しているわけですけれども、日本人の特質、少なくとも10年間ぐらいは失われないであろう特質と、多分競争力のあるところというのは、地道な生産、ものを作るというところにあるし、それで日本は世界で競争力を今後も維持できるのではないかと思います。当面10年間で金融で覇権を取るといったことはできませんし、いまだに世界最大の債権国になっている一番の理由は、メーカーの方々が一生懸命お金を稼いでいるから債権国であるわけです。ですから、そこは強調すべきではないかと思います。

 それに若干絡むのですけれども、この中できらびやかな文化という言葉があるのですけれども、これは非常にいい言葉ではあるのですが、私は日本人というのは、きらびやかな文化の主体になってほしいとは思うのですが、なかなか10年間ぐらいではきらびやかな文化の主人公にはなりにくいと思います。ヨーロッパの社交文化などを連想させるような言葉なのですが、農耕民族であるし、地道な文化という方が適切であると思います。これは日本人としてはなかなか捨てがたいものがありますし、そこでなら主役にはなりますが、10年間できらびやかな文化を目指すことはできても、主役にはなれないだろう。ですから、その辺のバランス論です。これがもう少し欲しいという感じはします。

〔F委員〕

私は2つの点を申し上げさせていただきたいと思います。

 1つは、21世紀は人材の社会だと言われております。したがいまして、人口も減ってまいりますし、みんなが非常にモラル高く働き、生活していく。そして、みんなが達成感を持った生活ができる社会を作る。これが大きなテーマなのだろう。

 そういう意味では、ここに効率ということがございますけれども、ある意味では人間が持っている、高齢者も女性も障害者の方も持っている能力を出し切れる社会。そういうものを目指していくべきではないだろうか。そういうところに根源があっていろいろなものが進められていく。そういったある種の基本的な思想を盛り込んでいただければ大変ありがたいと思うのでございます。

 もう一つは、9ページの5の「多源的補充性のある経済社会」の3つ目のパラグラフで、「経済社会を限られた人口と特定の文化や慣習の中だけに限定して考えるのではなく、秩序ある外国人の流入をも視野に入れた多様多源な補充を想定すべき」という記述がございますが、私は、先ほどのグローバリゼーション部会の内容で結構だと思っているわけでございますが、一国の経済の発展、あるいは人口の問題や労働力の問題。こういったものを他の国の国民、しかも、非常にある意味では何百万人という非常に多量な外国人を受け入れて問題を解決していくということは、これまでの内外の経験からしますと、相当慎重であるべきではないだろうか。

 もちろんこれは国民の選択肢の一つであることは言うまでもないのでございますけれども、しかし、今ここにございますように、経済社会を限られた人口に限定しないで、秩序ある外国人の流入をも視野に入れて補充を想定すべきであるという、ある意味では中に方向性のある文章にするのは、私は適当ではないのではないかと思うのでございます。もとより、こういった問題を長期的視野に立って議論していくということは意味のあることだろうと思うのでございますけれども、ここにございますような形でのかなり方向性の強い表現は、私は適当ではないと思っております。

 若干具体的なことを申し上げますと、少子高齢といったものを外国人の受け入れなり移民などで解決していくということは、正直言って非常に難しいことではないだろうかと思います。

 また、人口減ということで申しますと、相当の人数になるわけでございまして、相当の人数を、しかも、多くの国から受け入れていくということになりますと、これは受入れ国でとてもコントロールできる問題ではないと思っております。現実にこれまでいろいろな経験がそれを語っているわけでございますけれども、まずもってコントロールは不可能だろう。

 また、これまでいろいろ指摘されておりますように、いろいろな問題がございまして、社会的、経済的に極めて影響が大きい問題だと思います。ですから、これは冒頭申しましたように、極めて慎重に対応していくべきである。長期的な視点に立って議論をしていくべきである。そのように考えまして、このような文章もそういった趣旨で書き替えていただければと思うわけでございます。

〔E委員〕

自由とかそういうことが前面に出ていると思うのですが、そういったものと「あるべき姿」という「べき論」とのマッチングが悪いような気がします。グローバリゼーションという流れはいろいろな形で起きてしまっていて、それは止められないものがある。そういうときに、間違った壁を立てない、あるいは洪水を起こすようなときに最低限の枠をつける、そういったことが多分大切なのではないかと思うのです。

 そう考えますと、例えば方向性を何か官の方で立てるというのはいかがなものかという気がいたします。例えば5ページの「成長拡大傾向を維持する経済」とございますけれども、1人当たりのGDPだけではなくて、「総体としての国民経済も成長拡大傾向を維持する」と言い切っているわけですが、オ)やカ)に、若い人の夢を失わせるとか、少数現役世代が負う負担が過大になるとありますけれども、逆に、無理にどうしても総体としての国民経済を拡大するのだみたいなスローガンが出てくる方がかえって負担があるような気が私はいたしますし、こういうのは流れに任せるしかないのではないかという気がします。

 それから、6ページの「自立した「個」を基盤とした経済社会」。企業の中が縦の関係ではなくて横の関係云々という話がありますけれども、こういったことも、そうなのだと思うのですが、無理やり実現させることは恐らく不可能であって、なるようにしかならないのではないかと思うのです。

 そういう中で唯一言えるのが、そういった場合の官の役割として、この序章に書いてあるのは、ルールづくりといったことはありますけれども、素案の本文の方には若干書かれているようですが、まず、民間の方で何かそういう組織が変わっていくためのあるきっかけとして、役所の方の組織が変わっていく、小さくなっていく、あるいは縦の関係がもっと横になっていく、そういったものが恐らく官でできることのうちの一つの大きなことではないか。そういうことが起きますと、当然、ミラーになって、民間の方でもいろいろ変わっていくのではないかという気もしますので、もし民間において起きるべき組織の変更が官の立場として何か考えられるのであるなれば、それを率先して実行されていくのが、私は効率のいいやり方ではないかという気がしております。

〔A委員〕

参考資料1が資料2の素案を政策手段として支えているようにとてもなかなか思えないのですけれども、なかなか難しいのではないか。

 素案の資料2の方には、コンセプトとしてはいいのかもしれませんけれども、非常に実現する上で政策的にデリケートな問題をはらんでいるものはたくさんあると思うのです。3つだけ申し上げますと、11ページの先ほど申し上げました平和ですが、軍事小国でありながら、平和を維持していく。それから、多源的な補完を行いながら、治安を維持する。あるいは最後のパラグラフで、「地球環境の美化と保護とを正義の一部に加えるべきである」。

 ここまで言うのであれば、例えば地球環境美化と保護について、よほど説得力のあるドラスティックな、新しい、非常に野心的な政策手段が展開されていないとここまでは言えないと思うのです。参考資料1の例えば環境について申し上げますと、12ページや28ページに書かれていることは、これ自体はもっともだと思いますけれども、これまでに言われていることとほとんど変わらない。正義の一部に加えるだけ地球環境問題に取り組むのであれば、よほど日本がグランド・デザインを出して、世界に、少なくとも環境ODAや、環境技術の移転について、よほど積極的な役割を果たしますという相当な情熱が具体的な手段として全体に出てこないといけないと思うのです。

 そういう点で、今の3点を含めまして、もっと具体化のための政策手段と構想との連結をご努力いただければという気がいたします。

〔部会長〕

どうもありがとうございました。まだいろいろご意見もあろうかと思いますが、時間の関係もございますので、これで「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」についての議論を終えたいと思います。

 そこで、長官がご出席でございますので、ご挨拶をいただきたいと思います。

〔堺屋経済企画庁長官〕

本日は、どうもお忙しいところをお集まりいただきまして、熱心に議論をいただき、ありがとうございました。1月以来、多くの方々のご意見を伺ってまいりまして、本当にありがとうございます。

 今いろいろとご意見を出していただきまして、それぞれになるほどと思うところもあるのですけれども、まず、経済審議会でございますので、安全保障の問題をどれぐらい入れるべきかというのは大変難しい問題です。日本国のあるべき姿なら、安全保障の問題は非常に重要にしなければいけないと思うのですけれども、経済社会のあるべき姿と限定されておりますので、その点は少しもの足りなく思われるかもしれません。

 それから、プライバシーの問題でございますけれども、プライバシーの問題は、ここで書いておりますのは、消費の秘匿。これはプライバシーの根源でございまして、今、納税、あるいは福祉というのは、お金を得るときの問題なのです。使うときの問題に対してプライバシーは保護されなければいけない。納税というのは、供給者として、要するにお金を稼いだものについて調べる必要があるという意味でございまして、使う方は、だから消費税のような一律税が一番いいのだろうと思うのです。そこはご理解いただきたいと思います。

 一番問題なのは、移民の問題です。これはあと10年慎重に議論して、それからいいかどうかという話なのですが、この問題は大変意見の分かれるところでございます。私たちの行いましたモニター調査などを見ますと、女性の中年の人が多いのですけれども、反対論が8割以上でございます。それでいて、一方では、労働力不足も非常に困る。介護の人も欲しい。いわゆるダーティーワークの賃金が上がるのも困る。清潔も保ちたい。それができれば誰もこんな議論をする必要はないのでございますけれども、ここは大変難しいところです。それで、かつての西ドイツ、今のドイツ、イタリアやパリ、いろいろなところでもこの議論がございますけれども、全く移民がない方がいいという人はほとんどいないのです。今の移民の入れ方は悪かったという人は非常に多いのですが、あれが全部いなかったら、ではどうするのだ。特にドイツのように人口の減るところでは、非常に難しい状態になるのではないかという議論があります。

 それから、これも戦略会議以来ずいぶん議論のあるところですが、技能者や知識のある人に限って外国人を入れろという議論も多いのですが、日本のような均質社会に過ごしますと、会社や大学の上は全部外国人、ダーティーワークは全部日本人。こういう社会は考えにくいのではないかという気もいたします。

 それから、何よりの問題は、入れる側が選べるのかどうか。ご存じのように、大正14年、対日移民法ができたときに日本は仰天いたしまして、世界の歴史に反すると言って大変怒ったのですが、ずっと歴史を見ると出す側が決めていたのです。入れる側が決めるというのは対日移民法以来初めてで、これはある程度の真空、極度の圧力の低い状態を作るのは危険ではないかという感じもするのです。

 だから、視野に入れてというところが非常に議論を甘くしているところなのです。10年先というと視野に入れておかなければダメではないかという感じがしているのですが、これはどんどん詰めていくと難しい問題がたくさん出てまいりまして、入れたらコントールできないと言うし、入れなくても今コントロールできないと言う人もいるし、なかなか難しいところだと思います。

 それから、ルールづくりの明確化ということですが、これも確かに重要なところだろうと思います。

 B委員からご指摘のあったモノづくり。日本が今までやってきたことの中でどういうことが大事だったか。そういう点は多少、修正はする必要があると思いますが、大きな方向としてこんなところでどうだろうかというのでお出ししたわけでございます。従来の白書、あるいは計画に比べると、かなり概念の転換が図られているのではないかという気がするのですが、いかがなものでしょうか。よろしくお願いします。

〔部会長〕

どうもありがとうございました。

 それでは、今回をもちまして、グローバリゼーション部会の審議を終わりたいと思います。多様なご意見を活発に8回にわたってお出しいただきまして、ありがとうございました。

 私は部会長を務めさせていただきましたのですが、皆さんの協力で無事報告書の素案がほぼでき上がったと思うのですが、最後に、部会長の立場を離れまして、今度の今のお話にありました「経済社会のあるべき姿」について、1つだけ長官に私の意見を聞いていただければと思います。高齢化・少子社会で、日本のGDPが落ちるということが一般的に言われていますけれども、産業構造の変革と、高齢者の寄与すべきもの、あるいは女性の寄与する分野というのは非常に大きいと思うのです。ですから、どんどん年を取ったら生産力がなくなるというのではなしに、それこそ知恵を出した付加価値を高めたことができるのではないかということがありますので、その点が少し弱いという感じがいたします。

 それでは、本当にどうも長い間ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。

以上