第6回経済審議会・国民生活文化部会議事概要

1 日時

平成11年4月22日(木) 10:00~12:00

2 場所

経済企画庁特別会議室 (第四合同庁舎4階436号室)

3 出席者

(部会)

清家篤部会長

井堀利宏、黒木武弘、鈴木勝利、永井多惠子、原早苗、福武總一郎、森綾子、湯浅利夫、の各委員

(事務局)

今井政務次官、中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、梅村企画課長、大西計画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島推進室長

(その他)

廣井良典千葉大学助教授

4 議題

  • 医療と介護の相互関係について

    廣井助教授意見発表

  • 単身赴任について

5 議事内容

 まず、4月13日に公表された「『経済社会のあるべき姿』を考えるにあたって」の概要を事務局より説明した後、「医療と介護の相互関係」について、廣井助教授から以下の意見発表があった。

(廣井助教授意見発表)

  1. (1)1つの視点として、「65歳問題」「75歳問題」「80歳問題」が指摘されている。今までは定年を迎え、所得が無くなるという視点から「65歳問題」が主たる論点であった。介護問題では、後期高齢者が増えていることが問題になる。

     「健康転換」は公衆衛生で指摘されている概念。感染症(結核)時代は公衆衛生による対応であったが、慢性疾患中心の時代になると病院中心の個人に対する対応が必要になり、さらに老人退行性疾患が増えてくると、福祉サービスが重要になる。今後は「疾病」ではなく「障害」に着目した介護が必要。「医療から福祉」、「施設から在宅へ」が基本的な方向になっている。

     諸外国でも介護問題は重要。介護が必要となる高齢者が病院へ流れたケース(日本等)と、生活保護へ流れたケース(ドイツ等)で分類ができる。

  2. (2)リスクへの対応は個人で対応を行うものと公的に対応するものがある。公的に行われるものが社会保障。産業化社会では「核家族」と「企業」が単位であったが、これからの成熟化社会では、個人を単位とする社会になる。個人をベースにした社会保障が必要となると思われる。
  3. (3)高齢者の医療、介護については、私見だが、高齢者を独立させて、介護と医療とを同じ制度に統合したシステムが必要ではないかと考える。
  4. (4)福祉サービスの供給には、これまで、「財政=公、供給=公」の考え方が強かったが、これからは「財政=公、供給=私」が中心になるのではないかと考えている。

     社会保障分野で所得再分配的な要素を残す必要はある。また、上乗せ的に財政を「私」に委ねてよい部分がある。

  5. (5)これからは「コミュニティ/環境を含んだケア」が重要になる。「子供にとっての老人」、「老人にとっての子供」が重要という視点から施設運営を行っている人や研究会もある。これらのことは、介護の予防や新たな消費需要の創出の点からも利点がある。
  6. (6)他の先進諸国においても、社会保障制度の改革が進んでいる。

 以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

  • ○高齢者には1人当たりで若年者の5倍の医療費がかかっている。医療の家計負担が大きい。医療保障を税金で行うことに国民の共感が得られるのか。
  • ○資料の中のクリーム・スキミングの意味を教えて欲しい。
  • ○介護保険では「施設」から「在宅」への流れがある。高齢者の一人世帯が増えている時に「在宅」介護はどこまで成り立つのか。家族があっての在宅ではないのか。
  • ○「75歳問題」の定義がわからない。75歳以上になると、みんな要介護になるわけではないはず。
  • ○財源を税でまかなうとしても、所得の再分配とリスク分散ができれば良いが、はっきり割り切れるものか疑問がある。公的に社会保障の財源をまかなう場合、国がどこまで負担するのかという問題がある。すべての人に同じ一定の需要まで認めるということでよいのか、また、医療技術等が進むほど、人々の需要は無限に拡大していくということもある。
  • ○介護分野における公私の役割分担について、「財政=「公」、供給=「私」」とあるが、「私」にはNPOも入ると考えて良いか。
  • ○介護分野の公私の役割分担では、財政は、「公」プラス「私」の前提が良いと思う(供給は「私」が行う)。「公」と「私」の接続性を強める介護でのバウチャー制度が良い。
  • ○施設介護の中で、民間企業の参入が規制されている。これはなくすべき。
  • ○医療と介護は分けて考えるのではなく、サービスについては一体化して行うべき。福祉労働者について、今後、准看護婦や介護福祉士といったものが重要になってくる。
  • ○高齢者の医療と介護を統合するとの意見に賛成だが、実際は、介護保険制度がスタートする。実際に可能か。
  • ○医療保険に競争原理を導入するとの意見だが、利用者には医療に関する専門的な知識や情報が不十分であり、競争に任せてもうまく行くとは思えない。
  • ○医療保険において保険者の機能強化によって病院を選択するという、保険者の競争原理導入は興味深いアイデアである。保険者の設立形態の違い(組合健保、政管健保、国保)によって違いはあるか。また、供給サイドにも競争原理は必要である。米国では営利法人の医療参入が注目されたが、現在はかんばしくないらしい。各国の営利企業の医療・介護・福祉への参入状況と各国の考え方はどうなっているか。

     以上の意見・質疑に対し、廣井助教授からは以下の回答があった。

  • ○これからの社会保障の選択肢としては、
    • 全分野重点型
    • 医療・福祉重点型
    • 年金重点型(所得保障)
    • 市場型(私的な部分を拡大)
    が考えられる。どれが優れているというものではない。厚い保障で重い負担ということもありうる。これは国民の選択の問題だが、私見としては医療・福祉重点型がいいと考えている。
  • ○クリーム・スキミングとは、牛乳の中からクリームのいいところだけを取るという意味からきている。費用をかけないために、軽い要介護者だけを集めて施設運営を行うという問題が発生するのではないかということ。財政を「公」にすれば、クリーム・スキミングの問題は起こらないのではないか。ただ、チェックは必要である。
  • ○「在宅」の問題は高齢者の一人暮しの問題と一緒に考えていく必要がある。
  • ○「75歳問題」の対象となる対象者は、75歳や80歳で急激に増える。これはかなり可変的。後期高齢者になると、介護状態になる訳ではない。「75歳問題」イコール「介護問題」ではない。
  • ○日本の社会保障制度は、保険料と税金で賄う部分が混在している。区切ったほうがいいのではないかと思っている。リスク分散と所得再分配についてどこまで行うかについては、価値判断が入ってくる性格のものである。
  • ○「供給=私」については民間企業を念頭においていたが、当然NPOも入ってくる。
  • ○「財政も「私」に委ねてよい部分」とは、高級なサービスに対する支払いはプライベートでよいのではないかということ。「財政=公+私」もありうる。一部負担などがそう。
  • ○施設介護にも「財政=公、供給=私」の体制を入れてもよいと思っている。ただし、医療分野では利用者のチェックが困難なので、企業による病院経営には慎重であるべき。福祉分野では、チェックがしやすいので「私」の供給体制は可能なのではないか。
  • ○私見だが、介護保険制度が現在施行が予定されている制度のままだとは思っていない。老人保健制度の見直し等を行えば、老人保健制度と介護保険はいずれ統合されるのではないかと思っている。
  • ○「競争原理」とは保険者の機能を強化させ、保険者が病院選択を行ったりしてはどうかということ。
  • ○財政も「私」であるアメリカにおける営利企業による病院経営と日本での病院経営は違うものである。また、アメリカ以外の国では、営利企業が積極的にやっている事例はあまり聞かない。

 次に、「単身赴任」に関する問題について、事務局から以下のとおり資料の説明があった。

(事務局説明)

  1. (1)配偶者をもつ転勤者のうち4割程度が単身赴任をしており、特に中高生をもつ40歳代や課長級において目立っている。
  2. (2)単身赴任を生み出している要因としては、家族側の要因としては、子女の教育などが挙げられる。また、企業が転勤に関して自由な裁量権をもっていることや、人材活性化・適材適所といった経営上の戦略が考えられる。
  3. (3)単身赴任に対して、別居手当など、大半の企業はなんらかの援助施策を設けている。また、勤務地限定制度を導入している企業もあるが、そういった企業はまだ少なく、今後導入予定の企業も少ない。
  4. (4)諸外国においても単身赴任は現象としてあるが、具体的な資料などは少ない。
  5. (5)家族のあるべき姿という視点からは、可能な限り単身赴任を余儀なくしている障害を除去し、その選択の必要のない社会的環境を整えていくことが重要である。

 以上の資料説明を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

  • ○単身赴任について、業種毎(産業別)の違いはあるのか。
  • ○採用する際に、全国から人を集めていれば、全国展開する場合、単身赴任しなくてすむ。採用の時にどうなっているのか。
  • ○介護の関係で、妻側からの単身赴任(妻の両親の介護をするために妻が子供をつれて別居するような場合)が増えてくると思うが、どう考えるのか。
  • ○悩ましい問題である。一概に転勤を否定できない。
  • ○資料での調査対象は全国展開している会社と思われるが、単身赴任の全体の数字がどれぐらいか気になる。
  • ○地域採用のように拠点毎に採用しているものと別に、キャリア形成・昇進ルートとして単身赴任が採られているケースが多い。
  • ○これから、会社人間から自立した人間への移行が進む中で、経営側が事業運営や事業戦略としての理由だけで従業員を自由に動かすことはできない時代になってくる。このことを経営側は認識すべき。
  • ○単身赴任は、どうしてもせざるを得ないこともあるが、家庭生活の在り方や人間の生き方としては望ましくない。
  • ○ある企業では海外への転勤は家族同伴でないといけないことになっている。これは家族を日本に残すと手当を多く払わなくてはならないので、現地給料で一括してすまそうというコスト要因からである。このような事例はよくないと思うが、単身赴任はコスト高ということを経営者に意識としてもたせるべき。
  • ○今後、自分の生き方は自分で決めるという意識が必要。国際化が進む中で海外にも仕事の場が増えていくという意識を持たないと、国内で移動もせずに「住めば都」という保守的な考え方になってしまう。若い人に広く世界を知ってもらうマインドを推進すべき。

 以上の討議までで定刻となり、閉会。

以上

 なお、本議事概要は速報のため、事後修正の可能性があります。

(本議事概要に関する問い合わせ先)

経済企画庁総合計画局計画課

経済構造調整推進室

小林、徳永(内線:5577)