第5回経済審議会・国民生活文化部会議事概要

1日時

平成11年4月8日(木)10:00~12:00

2場所

共用特別第二会議室(第四合同庁舎4階407号室)

3出席者

(部会)
清家篤部会長
井堀利宏、大田弘子、黒木武弘、鈴木勝利、永井多惠子、浜田輝男、
原早苗、福武總一郎、森綾子、湯浅利夫、の各委員
(事務局)
中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、大西計画課長、
佐々木計画官、塚原計画官、福島推進室長
(その他)
梅本嗣プランニングディレクター((株)博報堂)

4議題

  • 人々を結びつける新たな機能(家族、企業)について委員意見発表
  • 「会社人間からの脱却と新しい生き方に関する調査」(平成10年度経済企画庁委託調査)について(株)博報堂担当者発表

5議事内容

まず、人々を結びつける新たな機能(家族、企業)について、委員1から以下の意見発表があった。

(委員1意見発表)

(1)企業と個人の関わりは、今後、希薄になり、家族は、情緒的な機能に純化する。

(2)今後、社会保障制度は企業や家族の形態によらない中立的なものとなり、人々を結びつける機能は、より自由な結びつきへとかわっていく。

以上の意見発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○同じメンバーでの長期的関係(ギブ・アンド・テイク)が流動化し新しい関係が求められている。

○家族の機能については、夫婦ともに働くことで生活保障機能は強まる面もある。

○古い意味での地縁は薄まっているが、定年後の生活地域に対する関心の高まりにより、新たな結びつきができるのではないか。

○市場でのサービス提供、市場化が新たな結びつきの背景にある。いままで家族等が担ってきた機能を市場がどれだけ代替できるかを考える必要がある。○パートタイムで働く女性にはいわゆる103万円の壁があり、長期に働いてもらいたい人もギリギリ103万円で止めてしまう。この壁をとりはらってくれれば働く女性はもっと増えるだろう。

○配偶者控除や遺族年金の廃止等については、個人的には賛成だが、女性の中には様々な意見があり、現在の制度を前提として老後の生活設計を考えている人もおり、反対も多いため、慎重であるべき。

○単身赴任をどう考えるべきか。以前の部会で委員から日本独特の制度だという意見があったが、地域や組織によっては家族が一緒に引っ越してこないことに疑問を持っているところもある。

○企業と従業員とのギブ・アンド・テイクが短期で成立されるような雇用形態の導入は、需要が縮小する職種については労働者にとって問題が大きい。今後、専門性の強い職種の需要は拡大するが、単純な労働では供給過剰になると思われる。

○現在の枠組みで雇用形態の多様化が進むと、雇用する側の自由裁量の余地が広がるであろうから、企業のモラルハザードを防止する方法を考える必要がある。

○福利厚生は、終戦後、生活が貧しい時に生活を補完する機能として起こった。そして企業への帰属意識を高めた。生活保障としての福利厚生は今後は徐々に縮小されることとなるであろう。

○福利厚生や従業員同士の結びつき、人々の結びつきといった文化的歴史的なものについて、近代的合理性で割り切れるものではないことに留意する必要がある。

○配偶者控除については、組合としては頭が痛い問題である。これまでの考え方では、賃金水準には生活保障が考慮されており、1人の労働で一家4人を支えることが前提となっている。この考え方のままで夫婦2人で働くと、8人分の賃金水準となってしまう。賃金水準については、能力および業績に応じた賃金か、生活給の賃金にするか、生活給としたら何人分の生活を前提にするのか、考える必要がある。

○女性の社会進出に伴い、育児や家事に対する支援の問題を社会全体としてどう考えるのか。行政として、どのようなことが必要となるのかが重要だと思う。

○子供が独立した老夫婦や配偶者を失った高齢者に対して仕事や生きがいをどう与えるか。行政がどのようなサポートをしていくか。そして、社会全体としてどう考えていくのかが必要。

○長期雇用を前提とした福利厚生制度をどのように構成しなおすのかについて議論が必要。

○年金の2階部分を無くすという議論には、にわかには同調できないものがある。いずれにしろ、年金の原資をきちんと引き継いでいくことが必要。

○個人の面が強調されているが、人間は一人では生きられないので、集団で生活している。委員1の考え方のようになるか疑問である。

○個人は、家庭・地域・職場に属している。小さな政府を模索していくのであっても、現在の生活保障機能は大事なものである。

○保障を個人単位にしていくことなどは、世の中の大きな流れだが、その中で「新たな人々の結びつき」をどう考えていくべきか。

○規制緩和や分権の中で個人主義は進んでいるが、日本においては徹底できず、ゆり戻し現象が起きているのではないか。完全に個人主義を貫けない中でどういう形で受け皿を作っていくかということが重要な問題。

○地域において、住民が楽しむ方法というのは、今までは、ある場所を造って、そこへ行くという形だったが、今後はプロセスを楽しむということが重要であり、国ではなく、地方や企業、地域住民が役割やきずな等、マインドのある個人主義を有していくことが重要。○不特定多数のコミュニティには必ず破壊者がいる。安心してコミュニケーションができないところにコミュニティはできない。現在の地縁社会では本音が言えないという問題があり、コミュニティがコミュニティ足り得ていない。共通言語があり、バラツキがなく、コミュニティブレーカーを排除する仕組みを持ったコミュニティの構築が重要。

○日本は地域が互いに支えあって生きてきた。今後は個人中心になると思われるが、人々を結びつける世界には、癒し、やすらぎ、といったものが必要であり、家族の役割も重要である。

○アメリカ型モーレツ資本主義でいいのか疑問。個人だけが大事だと捉えない方が良い。ある程度は社会的な保障があり、その上でさらに個々人が選択できる社会を目指すべきであろう。また、情緒的結びつきが大事であれば、NPO等による多様なサービスの供給が必要である。

○委員1の発表は、「選択と自己責任」ということであろうが、子供の問題をどう考えるか。子供は選択することができずに、親の都合に振り回されることになる。

以上の意見・質疑に対し、委員1からは以下の回答があった。

○配偶者という立場で課税を控除するというのではなく、補助という形にして増税にならないようにした方がよい。

○従業員同士の結びつきは、福利費を通じてというものではない。

○遺族年金の廃止は、年金制度の2階部分を無くして行けば実現できる。単身赴任に関しては共働きの場合、赴任先でも働ける場を見つけられるようにすべき。

○生活保障は、1つの企業に長くいるとか、1つの家族を続けるという固定的なあり方を前提とすべきものではなく、あくまで個人の選択に対応したものであるべきである。生活保障は、小さくするのではなく、あくまで効率的にすべきということ。

○日本型の社会が常にあたたかくて安心ということはない。例えば終身雇用制度は最初につまずくと冷たいものであるし、ムラ社会にはプライバシーの無さという面がある。ウチとソトの捉え方があまりにもかい離しており、ウチだけが大事というのが今までの状況である。子供の問題については社会的保障をする必要があるし、夫婦別姓も認めるべきである。

また、委員1の意見発表に関連して、以下のような討議があった。

○これまでは、賃金はすなわち生活給という話があったが、生活給がまったく無くなるということは無いのではないか。一家4人を養う生活給か、1人分

の生活給でいいのか、国際競争からいって支障が出てくるのではないか。

○これからの個人の意識は会社から仕事へ帰属意識が移ると考えられるが、そうなると労働組合はどうなるのか。

○賃金水準を国際競争の中でどのように考えるのかについては、以下のとおり。

【1】生活に必要なものとしての内外価格差

生計費の物価が下がれば実質的な賃上げになる。

【2】経営コストとしての内外価格差

経営に必要なガス代、電気代なども経営コストであり、賃金だけが経営コストではない。経営コスト全体から見た内外価格差を考える必要がある。

○今後の組合のあり方は、労働市場の動向によっている。現在は企業別組合が主流であるが、今後は職能別組合もでてくると思う。これからの産業別組合は、現在の企業別組合と新しい職能別組合とが混在する形になると思う。

次に、「会社人間からの脱却と新しい生き方に関する調査」(平成10年度経済企画庁委託調査)について、(株)博報堂担当者から以下の発表があった。 ((株)博報堂担当者発表)

(1)「会社人間」を生み出した社会構造メカニズムとしては、まず、企業,家族双方にメリットのある相互依存構造として、「生活支援機能」としての企業ができてきた。その中で、企業は「疑似家族」、「生活集団」として存続し、右肩上がりの経済構造においては、人々の経済的安定・満足につながる確実性の高い選択肢であったといえる。

(2)80年代になって、収入よりも自由時間を選ぶ人が増加したが、これは新しい世代の社会進出、女性の社会進出と大いに関係する。女性の多くが家庭外に新たなネットワークを築いていった。また、90年代に入ると、帰属意識の希薄な団塊ジュニア世代が社会人となり、興味ややりがいをベースに仕事を選ぶ傾向が強まった。

(3)80年代以降、働く形態は自由な広がりを持つようになる。また、「家族」という枠組みは一層多様化する。さらに、地域の枠を超える新しいコミュニティを「第三の社会・極」として肯定的に捉え、社会活力づくりに活かしていくことが必要な時代となる。

(4)閉鎖型・固定型人間関係の社会は安心を生みやすい反面、外部に対する「信頼関係」を築きにくい。次代の日本社会のあり方としては、依存安心を求める社会から、個と個の、個とコミュニティの「信頼」を築きやすい社会を目指すべき。

(5)活力ある次代への提言として、以下の6つを示す。

【1】「個人」を基本とした制度社会への転換を図る

【2】「意識的な(新しい)コミュニティ」を育てる支援を

【3】NPO参画を視野に入れた次代の社会システム整備を

【4】雇用関係法規における罰則規定の強化を

【5】SOHO型起業を育てる地域的インフラの整備を

【6】ボランティア、選挙(公職)立候補を促す保障型制度を

(6)日本の社会は、このままでは世代間隔離ある社会になる不安を内包しつつある。今の10歳代、20歳代、30歳代の意識や現実を視野に入れる努力をしていくことで、10年後の社会全体での自立して支え合える社会が見えてくるのではないか。

以上の発表を受けて、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

(各委員の主な意見)

○個人単位への転換とは、中立的な制度であるべきということであるが、NPOの積極的育成という提言は、中立的であるべきという考え方から一歩踏み込んでいる。もっぱら構成員の福利の増進を目的とした、特定のスポーツクラブのみに支援することには疑問を感じる。

○会社人間からの脱却という意識はあっても、現実的には労働条件がそうなっておらず、会社からの脱却も地域社会への参画もできない人が多い。

○会社からリタイアした人は、地域活動においてなかなか見かけないが、もっと活動の仕方があるのではないか。

以上の意見・質疑に対し、(株)博報堂担当者からは以下の回答があった。

○特定の市民活動を選択的に支援するということではなく、NPOを育成していくための情報公開などの支援、整備を中央が行っていくべき。また、地方自治体による特色ある地域作りとして、様々なコミュニティの動きを地域行政が支援するべきか、中立的であるべきなのかという二段階のことがあるのではないかと捉えている。

○都市部では、ホワイトカラーとして忙しい30歳、40歳代の人達と50歳、60歳代の人達がうまく積極的に活動しているマンションの管理組合や、学童保育の父親の会など、可処分時間の問題と意識の問題、ニーズの強さの問題、コミュニティの中で共通化できる意識の問題をうまく組み合わせていくという、非常にいい芽がいろいろ出てきているのではないか。それを阻害しないような柔軟性を制度的に補完できれば、もっと効率よくなるのではないか。

○リタイアした人達に対して、地域活動をやりたくてもできないというミスマッチが起こっているが、その受け皿やきっかけは地域の自治体などが考えるべき。また、家族がばらばらにならないためには、チューニングし直した家族関係というものを再度築く努力を意識していくことが必要ではないか。

さらに、(株)博報堂担当者からの発表に関連して、以下のような意見があった。

○Jリーグなどのスポーツを支援する組織活動は、地域の連携を活性化したりスポーツを通じた子供たちへの教育的な役割があれば公的なものと考えられる。

○リタイアした男性が活かされる場は、行政が作るのではなく、まさにNPOが作るべきである。

以上の討議までで定刻となり、閉会。

以上

なお、本議事概要は速報のため、事後修正の可能性があります。

(本議事概要に関する問い合わせ先)
経済企画庁総合計画局計画課
経済構造調整推進室
小林、徳永(内線:5577)