第3回経済審議会グローバリゼーション部会議事概要
1.日時:
平成11年3月15日(月) 14:00~16:00
2.場所:
中央合同庁舎第4号館共用第1特別会議室(404号室)
3.出席者:
(部会)八城政基部会長、糸瀬茂、國谷史朗、高阪章、下村恭民、高木剛、浜矩子、ロバート・アラン・フェルドマン、松本大、若林之矩の各委員
(各省)外務省近藤経済局審議官、大蔵省井戸国際局審議官、通商産業省通商政策局鹿島国際経済部長
(事務局)中名生総合計画局長、川本調整局審議官、高橋総合計画局審議官、牛嶋総合計画局審議官、梅村企画課長、大西計画課長、染川計画官、塚原計画官、青木計画官
4.議題:
・(外務省ヒアリング)21世紀における我が国の基本的な対外経済政策について
・(大蔵省ヒアリング)21世紀の国際通貨金融体制と我が国の役割について
・(通商産業省ヒアリング)21世紀の国際貿易投資体制と我が国の役割について
5.議事内容:
外務省近藤経済局審議官より資料1「21世紀における我が国の基本的な対外経済政策について」、大蔵省井戸国際局審議官より資料2「21世紀の国際通貨金融体制」、通商産業省通商政策局鹿島国際経済部長より資料3「WTO時期交渉の展望」を基に説明。
これに対しての質疑応答は次の通り。
〇民主主義と市場経済が必ずしもうまく対にならない場面が出てくると思う。グローバリゼーションの進展という流れの中で問題となってくることもあるのではないかと思うが、どのように認識しているか。
〇Nation Stateの役割が後退していくというのがグローバリゼーションのひとつのポイントであるとするならば、それを21世紀の国際通貨金融体制のあり方を考えるという中でどのように組み込んでいくか、またそういう状況の中で21世紀の国際通貨金融体制のあり方という発想をどのように調整していくのか。
〇ペグシステムについて、ある特定の通貨またはいくつかの通貨にペグしていくということを議論する場合、ペグされる方の通貨の対応力が大きな問題となってくる。突出して強い一つの国の通貨にペグするということがない、つまり単一の軸が欠けた状況でこそ、こういう議論が出てくるわけであるが、どう考えるか。
〇円の国際化にメリットがある反面、自国通貨のグローバルな供給責任、あるいはグローバルな観点からの自国通貨の信用度に対する責任も生じてくる。何のための円の国際化なのか、どのような発想から円の国際化を考えようとしているのか。
〇Nation Stateの役割が後退していくという流れと、国対国との交渉の場であるWTOとの関係をどのように位置付けていくのか。
〇国家主権の縮小という側面もあるが、国際協力という文脈の中では国家の役割が大きくなるとも言える。国家主権の「変質」という言葉は、非常に正確な表現である。
〇円が国際通貨化することのメリット、デメリットをどのように評価しているか。
〇比較優位は生み出すものとなってきている。どういう比較優位を生み出していくかということが、技術政策のポイントになりうると思うが、どう考えるか。
〇民主主義と市場経済とはセットでは対処できない面もあるという点についてはご指摘の通りだが、そもそも民主主義も市場経済もシステムとしては完全なものではない。したがって、それぞれの欠陥がぶつかり合うことはあるかもしれないが、本来的に民主主義と市場経済は相容れないものだと考えるべきではない。例えば市場の失敗があった場合、あるいは競争による敗者が出た場合に放っておくことは非民主的であり、そこで国家の役割が出てくる。さらに国だけでは対処できない問題についてcivil societyの出番がある。国家とcivil societyの役割が連携を強めることによって、市場経済システムが民主主義に反する部分を補っていく、調和を作っていくのではないか。
〇国際的ルールづくり、スタンダードづくりという面で国の役割は重要になってきている。国は自ら経済の主体とならず、各国協力してルールをつくり、監視するという役割が増えている。
〇金融、通貨の分野では、ブレトンウッズ体制の見直しも議論されているが、グローバルなスタンダードが既に一つ存在して、それに合わせていくという意識では捉えていない。他方、国際的な市場でのプレーヤーが増えてきていることも見ると、何らかの形で、プレーヤーが納得、安心できる基準はつくっていかなければならない。そういう観点でグローバリゼーションも必要と考える。
〇ペグ制度については、為替は常に他の通貨との比較であるから何らかのベンチマークが必要。そのベンチマークをどのように決めていったらいいかという議論だと思う。
〇円の国際化については、日本の責務として進めていかなければならないと考えている。その背景としては、【1】国際的な側面(アジアに占める日本のプレゼンスの大きさを考えると、円が選択肢となるように使い勝手を良くする必要がある)、【2】国内的な側面(例えば、日本の投資家が円建てであれば安心して投資できるなど、日本側のメリット)がある。
〇うまく市場が機能しないときに介入するとか、国内の規制についても国際的な一定のルールに基づいて実施しなければならなくなってくるという意味で国家の有り様が変わってくる。また、地方政府の担うべき役割も増えるだろう。
〇技術政策に関して、先端的なかつ基礎的な技術分野には国及び産業界全体として取り組んでいかなければならない。基礎的な分野について技術開発をしていくことで、産業活動がより高次のレベルに上がっていく、そして途上国に既存の産業を譲っていくという段階的な発展のためにも必要。
〇セイフティネットのための負担は、誰がどのように負うのかの今後の見極めについて伺いたい。新興市場国の危機はhuman crisisになり、セイフティネットの負担は、先進国の政府が負わなければならないと思うが、その意欲、能力がある国が限られていて今後、さらに減退していくのではないかと懸念するが、いかがか。
〇円とドルの関係を考える際に、日米間の貿易の不均衡を為替相場を動かすことによって解決すると言う手法がとられてきており、それが国際的にも国内的にも様々な歪みやひずみをもたらしたという議論があるが、今後は為替相場という手法を導入しないで解決するという原則で臨むのか否か。またそれに対しアメリカがどのように反応すると思われるか。
〇セイフティネットの構築には、資金のみならず知恵、経験といったものも十分機能する。技術協力的なものも役割を発揮しうる分野である。現在あるリソース(先進国、国際機関)の割り振りの中で、セイフティネットにより多く割り当てることによって対応できるのではないか。グローバリゼーションのプラス面を最大にするためにはセイフティネットが必要で、グローバリゼーションに対する受容力を高めるためにセイフティネットにより重点を置くという認識は世界的に広がっている。
〇東アジアの危機をみると、【1】構造改革で失業者等が増えるだろう、【2】金融セクター改革に大量の財政資金がかかり社会保障予算がしわ寄せを受ける恐れがある、という問題があるが、現在世界銀行、アジア開発銀行等の国際機関が様々な形で支援を行っており我が国としても協力している。
〇為替相場については、貿易のインバランスだけではなく、資本取引の影響も大きいので、為替相場による貿易不均衡の調整についてコメントするのは難しい。
〇金融資産として円の使い勝手をよくするとか、日本から投資する際に決済手段として円が使えた方がいいというのは、ツールとして円を考えているのだと思うが、それらを達成させる手段は他にもいろいろ考えられる。グローバルスタンダードの最たるものは英語という言葉のツールであり、それは皆が使うから便利になっている。円を皆に使ってもらうようになるのは大変であって、コストもかなり高いのではないか。
〇コストと言ったときに政策的な意味なのか、市場の参加者のコストなのかという問題もあるが、それほど大きくはないのではないか。
〇アジア各国がペグ制度から離れて、フロートしている状況で、将来的に何らかのシステムを持ちたい、バスケットの導入を考えたいという国があった場合に円も一つの選択肢として出しておくということが日本の責務ではないかと考えている。
〇MAIについてOECDでの議論をみていると、あまりにも投資側のメリットのための視線ばかりではないかという気がするが、いかがか。
〇IMFについて、institutionalなルール、formalityをめぐる様々な意見をどのように考えているか。例えば、マニラフレームワークやAMFについては補足的なfacilitiesという位置付けしか得られていないが、IMFの機能の改革、強化についてどのように考えているか。
〇グローバリゼーションの進展によって一部の途上国で児童労働者が増えているという問題が生じている。貿易と労働についてどう考えるか。
〇先般のウルグァイラウンドの包括交渉における教訓、反省点は何か。それを活かした次期交渉のスタンスはどういうものか、国内の利害関係を活かしていくメカニズムを如何に構築していくのか伺いたい。
〇例えば、政府が民間銀行の債権を保証するから、海外の金融機関がどんどん貸し付けるというような「市場を規制しようとするからマネーが暴走する」という議論があるが、それについてはどうか。
〇円の国際化について、アメリカの経験に照らしてみると、日本の財政赤字が大きくなっている頃からやらざるを得ないのではないか。日本はまだ大きな輸出超過ではあるが、どこからかお金をとってこなければならなくなる可能性もあるかもしれない。なぜ円の国際化をするかというと、アメリカの時と同様、財政再建をしなければならないからである。
〇為替安定について。為替が安定するためには生産要素が動かなければならない。アメリカの経済史を見ても日本の経済史を見ても、通貨が安定し始めると労働の動きが始まっている。実体経済と為替政策の総合判断も必要ではないか。
〇MAI交渉は、95年のスタート以来3年を経過。しかし、98年10月、フランスが交渉から脱退。その主な理由は、【1】投資家の権利保護に片寄りすぎていること、【2】受入国側の主権を侵害(投資家が国を訴えることが可能)、【3】文化の保護のため、文化は投資自由化の対象から外すべし、【4】労働環境基準に関するNGOからの突き上げ。ヨーロッパはフランスに同調し、公式の交渉は現在停止。アメリカは依然、OECDにおいてハイスタンダードなルールの作成を希望。これに対し、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアは、OECDでは分析的作業に止め、WTOに交渉の場を移す考え。現在、99年5月のOECD閣僚理事会の報告に向けて対応を検討中。
〇IMFの機構改革については、現在、次のような議論が行われている。財政・金融のマクロ経済政策に加え、【1】国際的な資本移動への対応、【2】為替政策、【3】実体経済把握の強化をプログラムの中に入れる。そのために、世界銀行やOECDと緊密に協力する。また、IMFの暫定委員会と世界銀行の開発委員会の役割を強化する。
手続き面でも、【1】従来、事務局で作成していた各国に対するプログラムについても、事前に各国の代表が参加する理事会において議論、【2】事務局ペーパーを公表、【3】理事会においても各国の政府当局者を招いて議論、【4】事後評価組織を作る、という提言を我が国から行っている。
今後、暫定委員会・開発委員会、さらにケルンサミットに向けて議論が行われることになろう。
〇例えば、危機支援プロセスの中でも、アジア各国に対しては、海外の金融機関はリスクに応じた金利で貸し出しているのに、国際機関の支援により返済されるのは、モラルハザードにつながるではないか、という議論もあった。こうした観点から、現在議論されている危機回避策にも、例えばprudential controlのような市場調和的な流入規制がある。これは、市場においての規制という新しい考え方と思う。
〇労働基準については、労働関係の国際機関であるILOでまず議論をし、WTOに対するその優位を認めるべき。児童労働があったからといって、直ちに貿易制限をするのは少し乱暴。アメリカもWTOとILOの関係をより密接にするということも考えられるのではないかという立場であると思うが、途上国は「なぜサービスの典型である労働力の移動を先進国は認めないのか」と反対の立場であり、その辺りのバランスをいかにとるかという問題もある。
〇ウルグァイ・ラウンドの反省点は、準備不足。次回の交渉に向けて準備を徹底する必要。また農業については、農業の持つ環境の保護、地域社会の形成といった性格を念頭に、対応を農水省にて検討。ヨーロッパ等の農産品輸入国の中には意見を同じくする部分もあり、国際的な議論への展開を期待。
次回の交渉方式として、パッケージ方式を採用。セクター方式の場合、個別に一方的に責められ、全体では、余計に時間を要することが考えられる。今後の基本的な姿勢としては、【1】各関係省庁の連携を密にする、【2】関係業界をはじめ、民間の関係各方面、NGO、有識者等と広く意見交換を行う、というもの。
6.今後のスケジュール:
次回のグローバリゼーション部会(第4回)は4月9日14:00~16:00に開催する予定。
なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。
(連絡先)
経済企画庁総合計画局国際経済班
Tel 03-3581-0464