第2回経済審議会グローバリゼーション部会議事概要
1.日時:
平成11年3月5日(金)14:00~16:00
2.場所:
中央合同庁舎第4号館共用第2特別会議室(407号室)
3.出席者:
(部会)八城政基部会長、糸瀬茂、國谷史朗、篠原興、下村恭民、髙木剛、田中明彦、浜矩子、松本大、若林之矩の各委員
(事務局)堺屋経済企画庁長官、今井政務次官、中名生総合計画局長、高橋総合計画局審議官、牛嶋総合計画局審議官、梅村企画課長、宮崎経済協力第二課長、大西計画課長、染川計画官、塚原計画官、青木計画官
4.議題:
- (共通課題)「あるべき姿」における我が国の国家像
- 21世紀初頭に想定される世界の状況と我が国の位置付けについて
- グローバル・スタンダードと構造改革の推進について
5.議事内容:
・(共通課題)「あるべき姿」における我が国の国家像
事務局より、資料1「「あるべき姿」における我が国の国家像をどう考えるか」を説明。
・21世紀初頭に想定される世界の状況と我が国の位置付けについて
事務局より、資料2「21世紀初頭に想定される世界の状況と我が国の位置付けについて」を説明。これに対しての委員の意見は次の通り。
〇21世紀初頭の世界を展望するのに、経済、特に金融、生産のウェイトが高すぎる。政策論議をする上では、例えば、環境、貧困、人種間格差のような地球的な課題に対する広い視点を持つべき。
〇市場原理の徹底が進み、国の枠を越えた取引が活発化する中では、地域の求心力が高まるというよりは、いわば遠心力(既存のまとまりを崩す力)が高まる。それが、グローバリゼーションの1つの側面である。
〇日本の位置付けは主要先進国の一員というレベルではなく、世界最大の純債権国として世界秩序を形成する上で軸にならなければならない。既に、世界経済の安定化のためには、日本経済が占める役割が大きい。
〇「市場原理」に(資本の論理)を敢えて付け加えたのは、特に意味があるのか。資本の論理というのは、マルクス経済学の用語のように思われ、しっくりこない。
〇「グローバリゼーション」の定義で「世界の一体性が高まる」としているが、人類と地球の多様性を考えると、グローバリゼーションの進展が一様に進むわけではなくて、地域で進展速度に差がでたり、社会的に困難な過程を伴う国も存在する。したがって、世界の一体性が高まる間のプロセスにおいては、局所的な格差の拡大や戦争というリスクも想定しておく必要がある。
〇アジアは自立的に成長するというスタンスより、そのために果たす日本の役割はかなり大きいと考えるべきである。
〇外国人労働者については、単純労働者の議論に終始するより有能な者をいかに受け入れるかを議論することが重要。可能であれば、有能な外国人の受け入れ状況に関する統計があれば知りたい。
〇「将来の我が国は、「アジア諸国の輸出市場」という現在のアメリカのような立場を目指す」には、相当の国土の広さや人口が要件となり、我が国単独では非常に難しい。それでも目指すならば、日本よりももっと広い枠組みで考えるべき。
〇グローバリゼーションの進展により、取引における国境は低くなるが、逆に、民族主義的な動きは強まる。これからの帰属先についても、家族、地域が重要になると見られており、民族の位置付けをもっと重要視すべき。
〇国際的な短期資本移動の規制に取組み始めている金融界を見ると、今後ともグローバリゼーション、市場至上主義が統一の概念としてあり続けるか疑問。我が国はアジア経済の安定に向け、積極的に関与する方向性を出すべき。
〇グローバリゼーションを考えるには、肯定的に促進する側と否定的に受容する側の両面から見るべき。現在の議論は、前者の側のウェートが大きく、環境や労働移動、人権といった問題が軽視されている。グローバリゼーションの促進と同時に、グローバルレギュレーションについても議論するべき。
〇有能な外国人の受け入れを中心に議論することが重要という意見に賛成。日本がこういう方向性を出すことは、我が国の人材の活性化にも寄与し、非常に重要。ただし、選別的に有能な外国人を受け入れるということ、あるいは、制限を加えないで受け入れるということのいずれにおいてもリスクがあり、十分な議論が求められる。
〇世界経済の展望における予測リスクについては、従来のものに加えて、グローバリゼーションの進展による既存の国の枠組みの低下がもたらす不確実性がある。
〇我が国は、選択的にグローバルな問題解決に向けたリーダーシップをとることになろう。現在も、環境についてはイニシアチブをとっており、もっと位置付けを大きくするべき。
〇我が国とアジアとの密接な関係の維持・発展の方針を示すには、アジア以外の途上国への影響にも考慮すべき。
〇日本以外の先進国は、将来的には更に内向きの政策になることが想定され、例えば、ODA等の援助が更に減少することも考えておくべき。
〇外国人労働者の受け入れについては、低層労働者の受け入れと有能な者の受け入れは違う切り口。後者は、言葉、賃金体系が壁となって、思ったように来てくれない可能性がある。一方、受け入れにより高度な職から我が国のネイティヴがあぶれたり、また、我が国の優秀な人材が流出するリスクもある。
〇グローバル・スタンダードは、決まっていても変化しないものではない。国際的なルールへの影響力やそのルールへの適応力といったダイナミックな能力が必要。そのためには、コミュニケーションが必要であり、語学教育が非常に重要。
〇地域的な枠組みを考えるには、中国をどのように位置付けるのか。今後とも、日米関係が最も重要だが、アジアの安定を考える上では中国の重要性が高まってくる。
・グローバル・スタンダードと構造改革の推進について
事務局より、資料3「グローバル・スタンダードと構造改革の推進について」を説明。これに対しての委員の意見は次の通り。
〇デファクト・スタンダードの概念で混乱を招いているのは、日本語において、グローバル・スタンダーズとザ・グローバル・スタンダードとの使い分けがつかないこと。後者はありえないものである。
〇デファクト・スタンダードを「社会」や「文化」にまで、当てはめるのは不適当。
〇グローバル・スタンダードは二つに分けられる。ひとつは、各国共通の尺度やルールの作成である。もうひとつは、企業経営に係るソフトな部分のこと。具体的には、人事、雇用部門に圧力がかかり、従来の日本的な形とあまりにも違うために、非常な抵抗感がある状況。
私見では、勝ち組の汎用性のあるものについては、積極的に採り入れるべき。政府があらためて方針を出さなくても、企業は生き残りのために採り入れざるを得ない状況にある。日本には不良債権問題のように、その導入を阻害しているものがあり、こうしたものを克服することは喫緊の課題である。
〇雇用関係の法体系は、企業から人を出しづらくなっている。日本の労働市場にとって、出口で出しやすくするのは、いい面もあるのではないか。
〇企業レベルでは、日本に進出する諸外国の会社は法制度上、一度雇うとなかなか首を切りにくく、したがって、雇うのに慎重にならざるを得ない。また、個人レベルでは、あまりにも社会の格差がなさ過ぎて、フロンティア・スピリットを持った有能な外国人がやって来ても面白みがないという問題がある。
〇コーポレート・ガバナンスの面から考えると、超優良企業ほど外国人投資家が多く、投資家の期待に応えるため、必然的にグローバルな制度の導入や収益率確保を重要視せざるを得ない状況にある。
一方、未公開企業、特に、中小企業は、会社を資本、従業員、取引先、社会といったものに、それぞれが判断し位置付ける独自の社風で経営することが可能である。したがって、画一的に企業経営をグローバル・スタンダードに合わせるべきというのは、実態と合わず、不適当である。
〇よく「ガバナンス」は普遍的な規範であるとされている。従来、政経分離を忠実に守り、金融に限定して活動してきたIMFは、97年8月の理事会において、相手国の政治的状況を考慮することは正当であるとする改定業務ガイドラインを採択。今後も発展途上国において、金融危機が発生することが考えられるが、その時に「ガバナンス」が拡大解釈され、社会制度にまで影響を与える懸念がある。
〇比較文化論を議論する必要はなく、「社会の変化」は座りが悪い。重要なのは、グローバリゼーションによって発生する問題に対して、我が国経済のスケール、成熟度からみて合理的な対応の選択を議論すること。
〇雇用システムについては、産業構造の変換に伴って急激に変革を求められている。国際競争力を持つもの、守るべきものは何かを、長期的かつ冷静に判断すべき。アメリカに比べて長い日本、ドイツの勤続年数は、人材の育成に対する貢献が大きいはず。EU内で労働法制について検討中であるが、日本のシステムに近いものが議論されている。例えば、日本の制度に市民権的な規制を加えるというものである。
〇デファクト・スタンダードの獲得については、政府はありとあらゆる支援をすべき。
〇グローバリゼーションが社会に与えるデメリットも考慮すべき。企業経営における従業員の位置付けにおいても、社会的に裏打ちされた仕組みを各国がどう持つかということを含めて議論すべき。その見解に両論があるなら、そのように参考資料も出すべき。取りまとめの際に、参考資料からの引用があるのならば、配慮して欲しい。
6.今後のスケジュール:
次回のグローバリゼーション部会(第3回)は3月15日14:00~16:00に開催する予定。
なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。
(連絡先)
経済企画庁総合計画局国際経済班
Tel 03-3581-0464