経済審議会会長談話

平成11年7月5日

経済審議会

 内外の歴史的な大転換期において、我が国の制度や慣習の中には、今日の経済社会にそぐわなくなったものが増えております。それらを見直し、構造改革を抜本的に前進させることにより、経済社会システムを時代に適合したものに変革していくことが重要な課題になっております。

 この変革は、これまでのシステムの延長線上で漸進的に制度を調整していくという対応では限界があり、人々の行動様式から発想に至るまで、まったく異なる枠組みへの転換を伴わざるを得ないものであります。

 こうした改革を行うには、いずれの方向へ進むかについて、国民の選択が必要であり、その大きな方向性について解答を出すことが求められていると言えましょう。 

 このため、本答申では、まず、経済社会の「あるべき姿」として、今後21世紀へ向けて我々が選択すべき方向性と、その結果として実現されるであろう経済社会の姿を描きました。 

 その第一は、多様な知恵の社会です。知識や知恵を新たに創造したり、使いこなしたりすることによって生み出される価値がより重要になっていくでしょう。日本はこれまで近代工業社会を形成・発展させてきましたが、21世紀においても豊かな国造りのためには、製造業が知恵と技術を活かして、この国の経済基盤をしっかりと支えることが必要であります。

 その中で、「個」の自由と自己責任が基本的な行動原理となり、人々は相互に自由を尊重しながら、自らの価値観に従い、より自由に人生の選択を行います。また、独創性、多様性が尊重され、人々はそれぞれの個性をより強く発揮するようになります。個々人の「夢」に挑戦できる環境が整備され、人々は自己実現に向けて活発に行動するようになるでしょう。 

 第二は、少子・高齢社会、人口減少社会への備えです。今後とも経済の活力を維持していくためには、生産性の向上が極めて重要であり、それによって人口減少によるマイナスの影響を補い、総体としての経済成長を維持することが重要であります。また、年齢にとらわれない社会になるとともに、安心でき効率的な社会保障制度が構築されているでしょう。無論、少子化への対応として、個人の選択による結婚や出産を妨げないような環境の整備も進めていく必要があります。

 第三は、環境との調和です。これまでの大量生産、大量廃棄型経済社会システムは限界に達し、21世紀には、循環型経済社会の形成と地球環境問題への対応が進み、持続可能な経済社会システムが確立されるでしょう。

 これらの課題は21世紀において、世界の多くの国々で取組まなければならない課題であり、これらの面で日本の経済社会が世界のモデルとなることが望まれます。それを通じて、日本は世界の主要プレーヤーであり続けることができるでしょう。

 また、政府については、市場ルールの整備、危機管理、安全ネットの整備、外部(不)経済への対応、景気変動への対応等に純化した新しい役割が必要になります。同時に「公」のことは「官」に任せればよいとの風潮が薄れ、個々人が社会全体に貢献しようという新しい「公」の概念が確立しているでしょう。

 本答申では、こうした経済社会のあるべき姿を実現するための政策方針を重要施策にしぼって取りまとめました。その際、本政策方針の中では大きな方向性を提示するにとどまっているものについては、政府内で早急に具体化の検討に着手し、その結果を分かり易いプログラムとして示すことを盛り込んでいることが、特徴の一つです。

 本答申の策定過程においては、幅広く国民や海外からの声を吸収するため、有識者やシンクタンク等からの意見を収集したり、調査審議の中間段階で「『経済社会のあるべき姿』を考えるにあたって」を公表し、インターネットやモニター等を通じて意見募集を行いました。また、国際会議の場等を活用して海外との意見交換にも努めた他、本年5月下旬からは経済審議会の地方シンポジウムを開催するなど、内外からの意見を幅広く吸収しました。これらにより、国民各界各層及び海外からの多様な意見が反映された答申が作成されたと考えております。

 今後、政府に対しましては、本答申の内容が国民に対して十分に理解されるよう内容の周知に努力するとともに、全力を挙げて本政策方針の推進を図っていくことを求めます。

 また、国民に対しましては、本答申の内容を十分ご理解いただいたうえで、「経済社会のあるべき姿」に向けて、自信を持って進んでいかれることを期待いたします。