経済審議会構造改革推進部会報告書

経済審議会構造改革推進部会報告書

平成11年7月

(はじめに)

  グローバリゼーションの進展、経済社会の成熟化に伴う多様な知恵の時代への移行、少子・高齢・人口減少時代の到来、地球規模での環境制約の強まり等、国内外の歴史的潮流が大転換する中で、我が国の経済社会システムが新しい状況に適合しなくなってきている。

 我が国の経済社会システムを抜本的に変革する必要があるとの認識は、バブル崩壊以降長期にわたり経済停滞が続く中で次第に強まり、1990年代半ば頃から構造改革のための政策努力が本格化するようになった。1995年12月に策定された現行経済計画は「構造改革のための経済社会計画」という副題が示すように、構造改革、中でも高コスト構造是正のための構造改革を最重点課題として取り上げている。

 以上のような我が国の構造改革への取り組みは一定の成果を上げては来たものの、欧米の状況に比べれば未だに不十分であり、我が国の経済社会システムを21世紀初頭の新しい時代に適合したものに変えていくためにはなすべき課題が多く残されている。

 本部会ではこうした認識に立って、21世紀初頭における我が国経済社会のあり方に関する次の三つの視点から、残された本格的な構造改革の課題を取りまとめ、これまでの構造改革への取り組みが必ずしも十分な成果をあげてこなかったことへの反省を踏まえた上で、政策提言を行うこととした:

1) グローバリゼーションに対応した経済社会

2) 企業や個人の創造性と自由度の高い経済社会

3) 環境と調和した循環型経済社会

 なお、環境と調和した経済社会の構築の視点からは、温暖化等の地球環境問題への対応や環境保全上健全な水循環の確保、土壌環境地盤環境の保全から廃棄物処理の問題まで様々な問題が存在する。このうち、例えば地球温暖化問題への対応については国際的な枠組みを踏まえて政府をはじめ関係各層において取組みが進められていることから、本部会では今後本格的な対応が必要とされている廃棄物・リサイクル問題に焦点をあて、循環型経済社会の実現に向けた構造改革の提言を行う。

 経済社会システムの状況不適合を21世紀に持ち越さないという観点からも、本報告において提言されている改革については、一刻も早い対応が求められる。今後なお検討を要するものについても早急に結論を得て実施に移す必要がある。

第1章 総論: これからの構造改革のあり方とその基本理念

  我が国がなお多くの構造改革の課題を抱えていることについては、ここで改めて繰り返す必要はないと思われるが、本報告の各論に入る前に、21世紀初頭の時代状況に耐えうる新しい経済社会システムの構築という観点に立って、これからの構造改革のあり方について述べるとともに、多くの構造改革の課題を三つの視点から取りまとめた趣旨及びその背景にある基本理念を明らかにし、本報告での提言について理解を深める一助としたい。

 また、構造改革の雇用に与えるマイナスの影響を懸念する声もあることから、これに関する本部会の見解をこの総論の中で併せて明らかにしておきたい。

(1) 21世紀にふさわしい経済社会システムの構築と構造改革のあり方

 国内外の歴史的潮流が大転換する中で、我が国の経済社会システムが新しい状況に適合しなくなっており、それを示す現象が経済社会の様々な面で現れている。その最たるものが、バブル崩壊後の長期にわたる経済停滞であり、また、日々の生活の中で強く実感されるようになった深刻化する廃棄物処理、処分場問題である。これらの問題は、我が国に深く根づいてきた行動規範とそれに基づいて築き上げられてきた制度・システムに起因するものであり、単に個別分野での対処療法的な改革のみで解決できるものではない。

 21世紀において長期にわたり我が国が経済的繁栄を続け、また、環境と調和した持続可能な経済社会を作り上げていくためには、大胆な発想の転換とそれと整合的な各分野での制度・システムの転換、すなわち構造改革を行い、21世紀初頭の時代状況にふさわしい新しい経済社会システムを構築していくことが必要である。

(2) 本報告で取り上げた構造改革~その趣旨と背景にある基本理念~

1) 経済停滞からの脱却と長期にわたる経済ダイナミズムの確保
―基本理念としての「経済的自由の徹底」―

 経済の停滞が長引く中で、現象として現れていることは深刻な需要不足とそれに伴う大幅な供給過剰である。しかしそれは、景気循環の過程で現れる従来型の需要不足だけではなく、むしろ供給側のダイナミズムの欠如が生み出した構造的な需要不足と供給過剰である。アメリカ等で見られる動きとは逆に、供給側に技術革新や新しいビジネスチャンスを積極的に生かすようなダイナミックな動きが欠けており、潜在的なニーズを掘り起こし、人々の需要を喚起するような新しく魅力的な商品・サービスの提供が十分になされなかった。つまり、供給側の需要創出に向けた革新が不十分であり、結果として旧来型の商品・サービスは著しい供給過剰となった。

 こうしたダイナミズムの欠如は、我が国の制度・システムが、これまでの構造改革の努力にもかかわらず依然としてキャッチアップ=高度成長期の残滓を引きずり、新しい時代の流れに十分対応したものになり得ていないところに原因がある。グローバリゼーションが進み、企業が国を選ぶ時代にあっては、「民」の自由な活動領域を広げるため規制の撤廃・緩和をより徹底する必要があるほか、透明性や情勢変化への適合性といった点で我が国の規制システムの改革は欧米諸国と比べ立ち遅れている。また、企業経営に関する制度・慣行の国際整合化は依然として不十分である。企業活動を支える知的インフラの整備も諸外国に比べ大きく遅れをとっている。第2章ではこうした認識と視点に立った構造改革を提言した。

 多様な知恵の時代が本格化する中で、リスクへの積極的なチャレンジや創造力の発揮が求められているにもかかわらず、金融システムをはじめそれをサポートする体制は十分整えられているとはいえない。結果として、創業・起業のマインドが育たず、我が国の開業率は低迷を続けている。第3章ではこうした認識と視点からの構造改革を提言した。

 以上のような状況から、かつて世界一とされていた我が国経済の国際競争力に関する海外での評価は、この数年急速に低下している。

 もちろん本部会は我が国経済の将来についていささかも悲観するものではない。本論第2章及び第3章の提言が実施されることで我が国経済のダイナミズムが必ずよみがえるものと考えている。

(基本理念としての「経済的自由の徹底」)

 そこでの提言の根底を流れている考え方は「経済的自由の徹底」ということである。設けられるルールは自由な経済活動を保障するためのものであり、自由は自己責任によって裏打ちされる。従って、結果の平等より機会の平等が重視される。人々のチャレンジ精神は旺盛となり、個性、創造性が解放される。リスクへの挑戦にはそれに見合う成功報酬が許容され、失敗に対しては、再挑戦の道が開かれている。

 キャッチアップ=高度成長時代においては、集団としての生産性の高さが我が国の競争力の大きな源であった。その時代が過ぎ去った今日においても、そのことが我が国の競争力の有力な武器であることは間違いないが、それだけでは、世界に伍していけないこともまた明らかである。経済的な自由の徹底を通じて、個性、創造性を解放し、それぞれの個人、企業が、多様な知恵の時代を自らの力で切り開いていくことが求められる。

2) 環境と調和した持続可能な経済社会システムの構築
 ―「経済的自由」の前提となる新たな制度・ルールの創設―

 経済社会システムが状況への不適合を起こしていることを示すもう一つの現象は、廃棄物処理、処分場問題の深刻化である。本論第4章においてこの点に関する提言を行った。

 地球温暖化の問題は人々に地球の環境容量の限界を強く意識させるものであるが、廃棄物処理、処分場問題は国内的な環境容量の限界を現実の問題として提起している。現行の動脈経済中心、大量廃棄型の経済社会システムは物質循環的に行き詰まりを見せており、このシステムを21世紀初頭においてそのままの形で持ち越すことは出来ない。動脈経済と静脈経済のバランスがとれた循環型経済社会の構築が差し迫った課題となっている。

 こうした循環型経済社会の実現のためには、地球温暖化問題への対応、健全な水循環の確保等が必要であるが、その中でも主要な対策のひとつとして、廃棄物・リサイクルに係る社会制度の創設が挙げられる。

 これを実現していくためには、「廃棄物の適正処理」という考え方から「可能なものはリサイクルする」というこの問題への行政の基本スタンスの転換のほか、消費者や生産者等の各経済主体の主体的な取組により廃棄物の発生抑制と効率的な処理・リサイクルが可能となるような、環境コストを内部化した新しい制度、ルールの確立が必要である。

 ある意味では、従来課されていなかったコストが課され、制約のなかった活動に新たなルールが設けられることから、自由が制限されることになり、上述の「経済的自由の徹底」と矛盾するとの印象がもたれるかもしれない。しかし、環境コストを内部化した新しい制度やルールにより、地球環境問題から身近なゴミ問題までを含めて環境と経済社会活動との調和を図ることは、これからの長い時間の流れの中で人類が存続と繁栄を続けていくために、「経済的自由」の大前提として実現されなければならない最重要課題である。廃棄物処理、処分場問題の深刻化を契機として従来の発想を転換し、持続可能な循環型経済社会の構築に向けて、世界の最先端をいく構造改革を進めることが求められる。

(3) 構造改革と雇用

 構造改革は、産業、経済、社会の構造変化だけではなく、就業構造にも雇用慣行の点でも大きな変化を与えると見られることから、構造改革に伴う雇用へのマイナスの影響を懸念する声が上がっている。こうした状況に鑑み、構造改革への提言を行うに当たって、構造改革と雇用の関係について本部会の見解を明らかにしておく必要があると考える。

 構造改革は様々な活動分野で参入障壁を低くし、供給者(企業)の参入退出の活発化を通じた流動化を促し、競争を活発化させるとともに、個人、企業のより自由、かつ独創的な活動を可能にする。このことは雇用に対してプラスとマイナスの両面の影響を有するが、構造改革は経済の構造を状況変化により適合したものとすることから、最終的な雇用への影響は必ずプラスになるものと考えられる。以下のようなプラス面、マイナス面の影響の内容を勘案すれば、どちらかといえば、短期的にはマイナス面の影響が出やすく、より長期的にはプラス面の影響が大きく出てくることになろう。

プラスの影響 :

①既存の企業による創意工夫の努力がよりよく発揮され、生産コストの引下げとともに、人々のニーズに対応した新たな財・サービスの供給が活発化する(生産増に伴う雇用増)。

②各個人の挑戦的精神を刺激し、様々な事業機会を捉えて起業活動が活発となり、新しく開業する企業の数が大幅に増加する(新規企業による新たな雇用の創出)。

③内外から新たな起業家精神と新規技術を持つ者が現れ、この国を舞台に新たな雇用機会が創造される。

マイナスの影響:

①競争がより厳しくなることにより、企業は生き残りのために雇用を減らして生産性を上げ、効率を高めなければならなくなるため、雇用減が生じる。

②十分効率を高められなかった企業は淘汰され、それに伴い失業が発生する。

③組織内部においても、新技術、新方式の取り入れなど常により高い生産性を求められるため、適材適所の配置が進められ、本人の意志とは関係なく職場の転換が余儀なくされるケースが発生する。

 構造改革の雇用に与えるマイナスの影響を懸念する声があるが、上述したように、構造改革は雇用に対して長期的にはプラスの影響をもたらすものであり、短期的なマイナスの影響のみを懸念して構造改革を先延ばしすることは、長期的には一層の雇用情勢の悪化をもたらすことになろう。

 バブルの崩壊以降長期化した経済停滞からの早期回復を図り、日本経済をできるだけ速やかに新たな成長軌道に復帰させていくためにも、構造改革の短期的な雇用へのマイナスの影響については適切なセーフティネットと労働市場の機能強化等により対応しつつ、必要な構造改革を迅速に実施することが求められる。

第2章「グローバリゼーションに対応した経済社会」を実現させるための構造改革

 グローバリゼーションの進展に伴い、先進国を中心に世界市場はますます統合され、その下で多様な文化・歴史等を背景に持つ経済主体が経済活動を展開するようになる。統合された世界市場においては国際競争が激しさを増しており、その中で、企業は世界を視野に入れ最適な事業活動を展開する必要性に迫られている。

 その結果として、人件費や地価をはじめ、人材の確保、法制や税制等の有利不利その他の様々な基準から事業立地拠点が選択される「企業が国を選ぶ」時代を迎えている。

 これに対し個人の場合は、居住地の移動により国を選ぶことは相対的に少ないと考えられるものの、グローバルネットワークの形成や国際的な事業再編の進展に伴い、国内と変わらない容易さで海外から財・サービスを購入したり、海外での資産運用機会にアクセスするのはごく当然となりつつある。さらに、国内外での多様な就業機会を得られるようになる。

 このような変化は、第一に、世界中から最も質が高く安価な財・サービスが提供され、多様な文化と生活が得られることになり、より豊かな国民生活を送ることが可能となること、第二に、外国企業とのパートナーシップ等を通じ、新たな技術やノウハウが形成されることにより、活発な経済活動が行われ、巨大な世界市場の下でこれまでにない速さと規模で企業活動を発展させ得ること、第三に、海外から優れた技術や人材、情報が流入し、優れた財・サービスの提供を行う企業が創設されることにより、多くの人々がより個性に適した職場を選ぶことができる機会が増えること、など大きなメリットをもたらすものと期待される。

 グローバリゼーションがもたらすメリットを享受し、日本の経済的豊かさと世界市場における地位を維持していくためには、以下の点をそなえていることが必要である。

  • ○日本の諸制度・慣行は、これまでのように経済社会が同じ社会的背景を持つ人々からなることを前提としたものに比べ、さらに高いレベルでの透明性・説明責任を満たすものとする。
  • ○「企業が国を選ぶ」時代を迎えたとの認識を明確にし、日本における事業環境を国際的にみても魅力あるものとする。
  • ○国際ルールの確立と改善に日本が積極的に寄与する。また、日本の伝統と現在の良い点を活かす視点からも、様々な文化・社会的背景を持つ国々が参加できる多元主義的なアプローチを追及する。

 これまでにも、国内の制度・慣行を国際整合化するものに改めていくという観点から、金融ビッグバン等の改革、会計制度の国際基準化などが進められてきた。

 日本の経済システムを相互補完的に形づくってきた雇用慣行や株式の持ち合いにおいても変化が進んでいる。これまでコーポレートガバナンスにおいて中心的役割を担ってきたとされるメインバンク制も大きく変容してきている。しかしながら、日本の制度・慣行をグローバリゼーションに対応したものとするための取組は未だ緒に付いたばかりというべきである。

 このため、第一に、日本の市場システムを世界の最先端を行く透明性と公正さを有するものとするため、規制の撤廃・緩和をはじめとしたより良い規制体系の構築を進めることが必要である。第二に、「企業が国を選ぶ」時代という認識に立ち、日本の諸制度・慣行を改革し、国際的にみて魅力的な事業環境を構築することが必要である。第三に、国際ルールを作るための多角的な枠組の形成に積極的に関わり、自ら企画提案する能力と優れた交渉力を持つことが必要である。

 以上のグローバリゼーションへの対応を進めるに当たっては、その影響はメリットばかりではないことを正しく認識することが必要である。構造改革を進めると、産業・企業間の労働移動に伴い生じうる失業の発生にとどまらず、これまで社会的安定性の基礎をなしてきた長期雇用の慣行やそれを前提に企業を通じて提供されてきた労働者福祉等を見直す企業も見られるところである。これらに代わる安全ネットとして、労働市場の機能強化や新しい職や起業に再チャレンジできる仕組み等を構築する必要がある。

(1) 規制改革の推進

① 基本的な考え方

 民間主体の自由で創造的な経済活動を妨げることなく、市場原理を最大限活用するような制度・慣行が、世界のすう勢となっている。特に、英国・米国等のいくつかの分野では、個別企業の経営安定を通じて、安定供給、安全、雇用安定などの社会的要請を満たすという旧来の規制体系から、透明性の高いルールとその厳正な執行、競争政策、破綻企業の事業の迅速な移転という新しい規制体系へと転換された。この大胆な発想転換の下に規制の撤廃・緩和が徹底的に進められた結果、経済社会の変化にすばやく反応する規制となった。

 日本においても、「規制緩和推進3か年計画」をはじめ、これまで規制の撤廃・緩和に関する取組を進めてきており、その経済効果が相当程度現れている。

 一方、従来の規制の撤廃・緩和に対する取組が米国をはじめとする外圧により進められてきたという側面が強かったために、上述したような規制に関する発想の転換が主体的に行われてこなかったとの指摘もある。個別の既得権益を擁護する要求に対し全体の利益を優先させるという点では、行政ばかりでなく、政治の機能も必ずしも十分とはいえなかった。このため、日本では、規制の撤廃・緩和が最重要施策の一つとして進められているにもかかわらず、依然として次のような課題に取り組む必要がある。

  • ○規制により保護されてきた業界やその雇用への急激な影響を緩和するための措置が必要であるとの理由で、実質的な措置がとられない、あるいは繰り延べられる。
  • ○安全の確保等社会的要請に応えるために維持されている社会的規制の中には、実態的には参入を制限したり、価格競争を阻害しているものがある。
  • ○許認可の廃止等が行われた場合においても、補助金の割当や公共施設の管理等を通じた公共関与が続いているものがある。
  • ○参入や価格形成に関する公的規制が廃止されたにもかかわらず、公的規制と同様の競争制限的効果をもつ民民規制が存在する。

 規制の撤廃・緩和で成果を上げた国々はさらに歩みを進め、市場メカニズムを阻害する規制を取り除くだけではなく、存続が必要と認められる規制についても、その質を高めるという規制改革に取り組んでいる。

 日本においても、早急に規制に関する発想の転換を行った上で、規制の撤廃・緩和を徹底するとともに、個人や企業が自己責任原則に基づいて行動できるような公正なルールを整備するなど、より良い規制体系の構築に向けた取組を進めていく必要がある。

② 政策方針

 上記の問題点を解消し、今後10年程度の間に順次着実に規制改革を推進していくために、規制に関する発想を大きく転換するとともに、ア)原則、イ)推進手法、ウ)推進体制を確立する。

ア)原則

 行政全般において求められる1)透明性、2)説明責任、3)経済社会情勢の変化への適合性の三つの視点を規制改革においてもさらに重視する。この視点を踏まえた検討を進めることにより、これまで日本において各種の規制の撤廃・緩和への取組が必ずしも期待されていた効果を発揮していない原因を精査することができるようになるとともに、規制を経済主体の多様化等を背景に生ずる経済社会の変化に柔軟に対応できるものとすることが可能となる。

イ)推進手法

1)我が国経済社会をグローバリゼーションに対応したものとする上で物流と情報通信の分野が特に重要であることを踏まえ、現行の総合物流施策大綱や高度情報通信社会の推進に向けた基本方針等に沿った施策を着実に実施するとともに、21世紀初頭において世界の最先端を行く効率的で魅力的な事業環境を整備するための包括的な改革(別紙参照)の方策について早急に検討を行い、明確なスケジュールの下に施策を実施する。また、21世紀初頭の時代状況の中で、経済社会のニーズがより効率的に満たされるような条件を整備するとの観点から、市場メカニズムの一層の活用が望まれる土地流通、教育、福祉等の分野においても、思いきった規制改革を実行する必要がある。

2)公共関与の強さの程度を個別的及び総合的に示す数量的指標の枠組を構築する。それに基づいて産業分野毎に参入規制、価格規制に加え、安全など社会的規制における公的部門の関与のあり方、官民の役割分担状況などについて、主要先進国との国際比較を行う。こうした指標や各国固有の事情を踏まえつつ、日本の市場システムを世界の最先端を行く透明性と公正さを有するものにするとの観点から、規制改革を重点的に進めるべき分野を抽出する。

3)規制に関する政策評価を実施するに当たっては、規制改革の視点を明確に位置付け、常により良い規制体系の構築に向けた見直しを実施する。政策評価は、規制の目的を明確にした上で消費者主権の確保や新規参入の自由度等の視点も踏まえた複数の政策手法間の比較を盛り込む。その際、各種分野における「費用対効果分析」や「規制インパクト分析」等の手法の確立及び共通化を推進する。

ウ)推進体制

1)政治主導の規制改革

 当面は、規制改革委員会の審議等を経て、内閣総理大臣のリーダーシップによって各省庁が必要な措置を講ずることにより規制改革を推進する。

 2001年の中央省庁再編後は、格段に強化される内閣総理大臣のリーダーシップの下に、政府は早急な対応が必要とされる重要分野について包括的な規制改革を実施する。その際、内閣府は経済運営の視点から内閣及び内閣総理大臣を助ける役割を担う。現行の規制改革委員会は、内閣府、総務省及びその他の省の連携を促進しつつ、個別分野における規制改革の実施状況の監視等を行うことにより規制改革を推進することが期待される。

2)政策評価体制と規制改革

 新たな中央省庁等体制において総務省に設置される政策評価・独立行政法人評価委員会(仮称)並びに総務省及び各省に設置される政策評価の担当部署は、規制改革の視点も踏まえて政策評価を推進する。具体的には、安全の確保等規制の政策目的を明確にした上で、政策目的を最も効率的かつ効果的に達成することのできる規制のあり方について検討する。

3)事後チェック型行政体制

 事前規制型の行政から事後チェック型の行政へ転換するに当たっては、許認可等の直接規制に係る体制のスリム化を進めるとともに、明確なルール作りとそのルールが守られているか否かの監視を重視した体制に移行する。さらに、国民の生命、身体、財産の保護等に支障が生じないことを前提として、基準認証等について自己確認、自主保安、第三者認証等民間部門への移行を促進する。

4)ルールの確立とルールの実効性確保に当たっての司法の役割

 事後チェック型の行政に転換していくことに伴い、消費者・事業者双方の自己責任に基づいた経済活動を促すための公正で明確なルールを確立する。

 このようなルールの実効性を確保するためにも、司法の果たすべき役割の変化を踏まえ、司法において適切な措置が取られるよう積極的な検討・見直しが進められることを期待する。

エ)規制改革の趣旨を徹底するための取組み

1)地方公共団体における規制への対応

 地方公共団体においても、上記で述べた国の取組を踏まえつつ、積極的に規制改革を推進する。国としては、地方公共団体における独自の規制について、地方自治、地方分権の観点を尊重しつつ、必要に応じ検討、見直しを要請する。

2)民民規制への対応

 民民規制については、苦情・要望への対応において市場開放問題苦情処理体制(OTO)もできる限り活用するとともに、公正取引委員会において独占禁止法の厳正な適用を行うほか、私人による差止訴訟制度を含む民事的救済制度の整備を図る。また、関係省庁においては、競争制限的に作用する恐れのある行政指導について、真に必要なものを可能な限り法律に明確に位置付けるとともに、民民規制に行政が何ら関与していない場合は、その旨を周知するなど責任の所在の明確化に努める。

 なお、既に行われている情報通信分野の相互接続ルール策定の例にみられるように、規制改革が行われた個別業種において公正な競争を確保するために必要がある場合には、競争上必要不可欠な設備等(エッセンシャル・ファシリティ)の利用方法や費用負担等に関するルールを策定する。

 また、競争制限的行為がある場合には、公正取引委員会は独占禁止法に基づきこれを速やかに排除する。

(2)魅力的な事業環境の構築

① 基本的な考え方

 グローバリゼーションという新しい状況への産業界の対応として、欧米では、事業の適応力を高めるためにM&A等による事業の売却・買収が頻繁に行われている。このような国際的な事業再編の時代を迎えているにもかかわらず、日本では以下のような遅れがみられる。


  • ○世界の金融市場、資本市場の統合化が進むとともに、企業の多国籍展開の下での国際的事業再編が活発に行われる。こうした状況に不適合を起こしていたり、あるいは今後適切な対応が求められる日本の制度は、企業法制、競争政策、など数多い。
  • ○工業所有権の保護を強化する点で、米国等に及ばないことが日本企業の国際技術戦略を限定し、その競争力を弱めている。また、著作権に関する仲介業務が事実上独占状態にあることで、技術革新に伴う新たな媒体や利用形態に対応できていないという指摘がある。
  • ○M&Aなどにより事業再編を進める際には、弁護士、会計士、コンサルタント、金融アドバイザー等の経験を積み高い評価を受けている人材が不可欠である。国際的に認められているこれら知的サービスの高い価値が日本では十分に受け入れられておらず、必要な人材が不足しているという指摘がある。
  • ○言語や商業習慣の違いに加え、情報化の遅れが日本企業における国際的な情報共有を阻害している。

 以上のようなグローバリゼーションに対応していない制度や市場環境は、規制の撤廃・緩和の不徹底による非効率とともに、日本における事業展開のコストを高める要因となっている。その結果、日本企業の国際競争力を削ぐとともに、外国企業の対日進出を阻害し、日本経済の停滞の一因となっている。

 国内企業の事業再編や多様な外国企業の対日進出を促進するには、諸制度をグローバリゼーションに対応させるための規制改革の取組に加え、高度な資本取引や国際的な情報共有に必要な専門性の高い人材が豊富に利用可能であること等の国際的にみても魅力的な事業環境の構築が必要である。

 さらに、グローバリゼーションの流れに適切に対応していくための司法制度のあり方についても検討する必要がある。

②政策方針
ア)制度基盤の整備

 国内企業の事業再編や外国企業の対日進出を促進するためには、以下の分野について構造改革を重点的に進める。政府による環境整備がM&A市場の拡大やノウハウの蓄積、企業経営の革新につながるには相当程度の期間を要すると見込まれるので、一刻も早い対応が望まれる。既に実施に向けた検討が相当程度進められている制度改革については早急に実施するほか、今後検討を進めるものについても、できる限り早期に結論を得て実施に移す。

1)早急な実施が求められる制度改革

○企業法制

 事業再編の円滑化を進めるという観点から、会社分割法制の整備、倒産関連法制の抜本的な改正を行う。また、必要な税制についても検討する。

○知的所有権

 知的所有権に係る権利保護を強化するとともに、権利者及び利用者がともに活用しやすい制度とする。このため、特許権、著作権等の知的所有権に係る制度の改善を図るとともに、著作権に関する仲介業務への競争導入等の検討や特許権の権利取得の早期化等を進める。

2)改革に必要な制度見直し等

○競争政策

 国際的な企業買収や多国籍企業の活動範囲の拡大に対応するため、各国競争当局間の協力を推進する。

○司法制度

 事後チェック型行政への転換に伴う司法の果たすべき役割を見直す観点から、法曹人口増員について検討を進めるとともに、司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について司法制度改革審議会において調査審議を行う。

イ)ビジネス人材の充実

1)事業再編に必要な専門家の充実

 公認会計士についてはWTO協議の進捗状況を踏まえ、国際認証制度のための枠組みについて検討していくことが必要である。なお、先般の外国法事務弁護士に関する外弁法の改正措置は、国際的な事業再編に必要な外国法務サービスの充実に資するものと期待される。このような専門家の受入体制の整備を通じて、事業再編に関するノウハウが我が国に蓄積されることが期待されるが、中長期的には国内企業間のM&A市場の拡大に応じたビジネス人材の充実方策について検討することも必要である。

2)国際的な情報共有を可能とする人材の育成

 言語や商業習慣の違いを克服し、国際的な情報共有を可能とする人材を育成するに当たっては、国際関連学部の創設等これまでの大学等における取組が必ずしも期待されたほどの成果を上げていないとの指摘もあることにかんがみ、外国人教員の積極的な採用、国際的な人的ネットワークの形成、留学生の受入増大など学習環境を真に国際的なものとするための各大学の取組を促進することが必要である。

(3) 国際的なルールや基準・規格の形成活動への積極的な参画

①基本的な考え方

 グローバリゼーションと制度やルール、基準・規格との関わりをみると、一方では国際金融や情報通信の分野にみられるように、もっとも使いやすいものが他を圧倒していくというものがあるが、他方では、社会制度の違い、言語や文化の多様性を受け入れることで国際的な調和が図られているものがある。

 国際的なルールや基準・規格を形成するための多角的取組が進められつつあるが、そこでの活動をリードしているのは主として欧州と米国であり、これまでの日本の役割はこれらの国と比べ大きくない。このことが、以下のような国際的なルールや基準・規格への日本の対応の遅れを生み、後追いであることによる社会的コストを発生させている面もある。

○日本の政府、産業界は、これまで国際的なルールや基準・規格の形成の場において日本の技術力や経済規模にふさわしい積極的な役割を果たさず、受け身の対応をとる例が多くみられ、日本がリードした分野は限られたものとなっている。

○政府、産業界ともに、国際的フォーラムで積極的な役割を果たすことのできる人材は不足している。

○日本は、厳しい基準の適用を逃れる特例を要求したり、先進国と途上国を仲介するという立場を取りがちで、議論をリードする姿勢に乏しい。

 世界におけるルールや基準・規格の形成にリーダーシップを発揮するという観点からは、国内の制度や基準の検討に当たって現時点での国際的な水準に適合させるだけでなく、今後必要となるルールや基準・規格を自ら企画し、国際的に提案する能力を高める必要がある。

② 政策方針
ア)戦略的対応

 国際的なルールや基準・規格の形成への積極的な参画を国の重要施策として位置づけ、人事システム面での見直しなどを通じて、担当者がある程度長期継続的に交渉に当たることを可能とすることなどにより関連情報収集と分析力並びに交渉力の強化に努めるとともに、企業、業界団体、学界など民間におけるこうした国際的活動への支援を強化する。また、APEC等の日本が活動しやすい場を活用した取組を進めるとともに、それをWTOやISO、ITU等の多国間でのルール形成の枠組に主張し、世界に拡大する。

イ)重点分野

1)アジアにおける制度調和の推進

 2010年頃における日本の経済規模は、依然としてNIES、ASEANに中国とインドを加えたものに匹敵すると予想され、アジア地域での中核的な役割を担う必要がある。このような中で、日本は将来における市場統合の可能性を念頭に置いてアジア域内において積極的に制度調和を進め、それを国際ルールの枠組に反映させることにより、日本や他のアジア諸国にとって受け入れやすいものとする。このためには、日本がアジア諸国に対して参入しやすい輸出市場と使いやすい金融市場を提供することが重要である。

2)国際規格・基準

 環境や情報通信に関連する分野、あるいは高齢者や障害者に配慮したユニバーサルデザインなど、今後日本にとって社会的重要性が高く、かつ、技術力や市場規模からみて比較的リーダーシップを発揮しやすいと考えられる分野について、重点的に取組む。

ウ)民間活動に対する奨励

 産業分野における公共財的役割を果たすルールや基準づくりに貢献することがグローバル市場における企業イメージの向上、製品の質に対する信頼につながる点についての広報に努め、こうした活動に参画する専門家に対する企業内、業界内での評価を高めるよう働きかける。

第3章 「企業や個人の創造性と自由度の高い経済社会」を実現させるための構造改革

 これからの多様な知恵の時代において、我が国経済の活力、競争力を維持していく観点からは、企業や個人が創造的で、自由度が高く多様な選択の機会が存在していることが必要である。このためには、企業の面からは、独創的な新技術、新システム等を背景に、活発な創業・起業が興り、多様な新商品・新サービスが供給されるような改革が重要である。また、個人の面からは、特定の組織に縛られず、組織からの自由度を高めるための改革とともに、多様な人生の選択のための環境整備が必要である。

(1) 企業の面からの改革

 「企業や個人の創造性と自由度の高い経済社会」の実現のためには、21世紀初頭において、国内外の「知」を活用・創造することにより、真に活力と国際競争力のある高い付加価値を生む企業を再生・創出していく必要がある。このためには、前述した規制改革等を踏まえ、既存企業が自己改革を通じて積極的に産業構造転換を進めていくことに加え、新規の企業が新しい事業展開を積極的に行っていけるような、1)創業・起業の促進、2)新技術・新業態の開発・普及とビジネス仲介機能の強化、という観点からの企業面の改革が重要である。

1)創業・起業の促進
①基本的な考え方

 創業・起業は、産業における新しい事業展開や雇用機会の創出という観点から非常に重要である。例えば、アメリカにおいては旺盛な起業家精神が広く根づいており、非常に高い開業率が維持されている。我が国においても、創業・起業を活発化するという観点から、これまでも各種の施策が講じられてきているが、アメリカにおいてみられるようなハイテクから地域住民向けサービス、さらにはNPOが担っている非営利的な分野に至る、起業家精神旺盛な社会的風土が依然として育っておらず、

  • ○開業率が低下傾向にあるうえ、近年廃業率が開業率を上回っていることに見られるように創業・起業に関する構造的問題が存在している、
  • ○創業時の障害として資金調達、販路確保等の問題を指摘する声が依然として多い、
  • 等、創業・起業が盛んに行われる環境の形成が進んでいるとはいえない状況にある。
  •  この背景には、次のような状況の改善が必ずしも進んでおらず、創業・起業の促進の障害となっているためでもある。
  • ○リスクを勘案した上での失敗時の損失が成功時のリターンより大きいと評価されるような制度・仕組みが依然として残されており、自らリスクテイクしないことが合理的な選択となっている。
  • ○創業時の資金供給が十分ではないこと、創業・起業をしたとしても万が一失敗した場合には敗者復活が困難であることから、そもそも創業・起業を選択肢として考えることを抑制している。
  • ○起業家精神に溢れる人材が不足していることに加え、規制等により市場での公正な競争が妨げられている。
  •  以上のような反省を踏まえ、創業・起業に積極的に取り組むことを促す環境を整備していくことが重要であり、そのため、
  • ○起業家やその支援者にとっての動機付け
  • ○起業家の資金調達環境とセーフティネットの整備
  • ○起業家精神の涵養と規制改革の推進

という視点からの施策を今後重点的に進めていくことが必要である。

 また、政府の施策ではないが、我が国大企業はこれまでコンセプトの創造を含め、すべての活動を内製化しがちな体質であったが、今後はアウトソーシングの一層の活用等を通じて創業間もない企業との共同(コラボレーション)を積極的に進める必要がある。

②政策方針

ア)起業家やその支援者にとっての動機付け

 創業・起業をしても元がとれない、生活が不安定になる等から大組織に帰属したほうが合理的であるという意識を変える、あるいは起業家を支援しようとするインセンティブを高めるためには、リスクに見合った高いリターンが可能となる環境を実現することが必要である。また、創業・起業が新たな事業展開や雇用の創出という観点から重要なことであるという社会的評価を行うことも必要である。さらに、一旦は企業に就職しても、その後自らのアイデアを実現すべく創業・起業をするという選択をしやすくする環境や、起業したが事業に失敗した場合その後の再就職をしやすくする環境を整備する必要がある。

<具体的施策>

 起業家やその支援者の動機付けとなる施策として、マーケットメイク制度の効率的運用等リターンの実現の場としての店頭市場の活性化に向けた改革を実施する。また、制度の拡充等を通じたストックオプション制度の利用促進、未公開株式市場及びM&A市場の活性化等を図る。さらに、新規産業の育成のために必要な支援措置について検討し結論を得る。創業・起業に対する評価としては、表彰制度等を通じて、起業成功者の社会的評価を高めるような環境整備を進める。さらに、確定拠出型年金の導入を含め転職が不利にならないように制度の見直しを進め、転職と勤続の間での制度の中立化を図ることが必要である。

イ)起業家の資金調達環境とセーフティネットの整備

 既述の通り、未だ創業時の一番の障害は資金調達の問題であることから、直接金融、間接金融ともに起業家の資金調達を容易にする方向での更なる改革が必要である。その際、起業家の抱えるリスクを市場を通じて幅広い投資家が直接負担する直接金融からの資金調達が重要である。

 また、事業に失敗した場合、現行の再建型の倒産処理手続(和議、会社更生、会社整理)は使いづらいという指摘があり、起業家に対するセーフティネットという意味で再建型の倒産処理手続の改善が必要である。なお、金融機関等が貸付を行う際、経営者等の個人に債務保証能力のいかんを問わず企業債務の連帯保証を要請することが広く行われている。この場合、企業が事業に失敗すると、連帯保証人である個人は、その保証債務の完済まで債権者から債務履行を求められることになる。これは、資産が少ない、あるいは企業と個人が実質的に未分離であるような企業に対して、金融機関等が貸付を行う際の対応の一つであるものの、創業・起業に対して消極的にさせるばかりでなく、一度失敗すると個人の再挑戦をも困難にするという側面がある。

<具体的施策>

 起業家の資金調達環境の整備として、公開前の第三者割当増資規制を見直し、画一的な価格算定方式の廃止とそれに伴う情報開示の徹底等を通じ店頭市場の活性化を図る。また、リスクマネーの円滑な供給にはベンチャーキャピタル等の事業評価能力の向上が重要であり、そのための専門的な技術評価能力の向上や人材の養成に努めることが望まれる。その際、ベンチャーキャピタル等の事業評価能力を補完・強化するため、例えば、一部の地域で行われている専門的な知識を有する大学教官等の情報を一元化し検索できるようなシステムの全国的な展開を図ることも考えられる。

 また、セーフティネットの整備としては、事業に失敗した企業や企業経営者等の個人が容易に再建に向かうことができる倒産処理手続を速やかに整備するとともに、事業失敗の原因を客観的に評価して再挑戦の機会をアドバイスし、再スタートを支援する人材を育成する。

ウ)起業家精神の涵養と規制改革の推進

 創業・起業予備軍の層を厚くする観点からは、個性や能力を尊重した教育への転換等の教育改革を踏まえ、各教育段階において起業家精神醸成に向けた教育が実施されることが必要である。また、起業家が十分に活躍しうる場を整備するという観点からも、規制改革に引き続き取り組んでいく必要がある。

<具体的施策>

 起業家精神の涵養という面からは、起業家精神にあふれる人材の育成・輩出を図るための教材の開発・普及、産業界と学校との人的交流の一層の促進、大学等の先導的な起業家教育講座等に関する実証研究の実施、ベンチャー企業等へのインターンシップ(学生・生徒の就業体験制度)の一層の促進等を図る。また、民民規制への対処も含めた競争政策の積極的な展開等規制改革を推進する。

2)新技術・新業態の開発・普及とビジネス仲介機能の強化
①基本的な考え方

 創業・起業の促進に加え、既存企業の活性化のためにもこれまで培った生産技術や技能を活かしつつ、製造業における活発な研究開発を通じて新技術の開発が促進されることが重要である。また、米国の経験によればインターネットを利用した新技術により多くの企業が輩出されており、情報通信基盤の整備とともに情報通信分野での研究開発が特に重要である。さらに、物的豊かさが相当程度充足されている中では、人々が求めているものに関する情報をいかに収集し商品に反映させるかがより重要になり、マーケティング、デザイン等の分野の役割が一層重要となっている。このため、今後こうした分野においても研究開発が促進されることが重要である。

 同時に、研究成果の普及や利用可能な技術、経営手法を含む多様な知識・知恵を入手しやすくするために、ビジネス仲介機能が強化されることが重要である。

②政策方針

<具体的施策>

 科学技術基本計画等に沿って新事業の創出に資する創造的な研究開発を促進するとともに、新事業の創出につながる新技術を公募し採択されたものに関して、その開発から事業化までを一貫して支援する中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)について、拡充強化を図り積極的に推進する。

 新技術の普及については、技術移転機関(TLO)の一層の整備促進のほか、リエゾン機能を有する組織の充実を図るとともに、国立大学教官による技術移転機関(TLO)の役員の兼業を認める。さらに、民間企業の役員兼業については早急に結論を得る。また、現在多数存在すると言われている未利用特許の流通を促進していくため、弁理士、技術士、企業を退職した技術者等の組織化を進め特許流通に関するアドバイザーを充実する。情報通信分野においては、基礎的・先端的技術開発を推進するとともに、開発された技術の成果を市場で活かす観点からの実証実験を展開する。

 企業活動の情報の仲介機能の支援については、企業経営の経験者、実務経験のある者等企業の退職者をアドバイザーとして登録し、起業家のニーズに応じて派遣する事業等を積極的に拡充するとともに、地方自治体等が異業種交流会、各種セミナー等を通じて企業間あるいは起業家間の協力関係形成への支援を行う。また、企業と消費者の仲介機能を有する企業内の消費者問題の専門家を積極的に活用する。なお、新しい産業の実態等を的確に把握できるよう日本標準産業分類の見直し等を行う。

(2) 個人の面からの改革

①基本的な考え方

 個人が自己の意欲と能力を十分に発揮することが求められる中、個人が働く場としての組織からの自由度を高めるためには、意欲のある者が自由に自己の能力を高められる環境が整っていること、能力発揮の場として多様な選択肢が存在することが必要である。そのためには、個人の市場価値を高めるための主体的な能力開発、労働者の転職を阻害しない環境整備、勤務形態の多様化、可処分時間の増加などが重要となる。

 そこで、以下においては、上記のうち個人の市場価値を高めるための主体的な能力開発のあり方を中心に、可処分時間の増加など関連する施策について重点的に扱う。なお、その他の課題については、国民生活文化部会において検討が行われた。

②政策方針

 個人が能力開発を行う場としては様々なものが挙げられるが、特に大学等の高等教育機関に対しては、社会人を含む多様な世代を対象に、高度の専門的知識・能力を身につけさせるための学習機会を提供することが期待される。また、社会人が主体的な能力開発を行う上での障害として、費用面や時間面での問題が指摘されている。

 これらを踏まえ、能力開発に必要な環境を整備するため、以下の点について提言を行う。

  • ○能力開発を行う場の提供
  • ○能力開発に必要な費用の支援
  • ○能力開発に必要な時間等への支援
ア)能力開発を行う場の提供

 能力開発を行う場としては、大学等の高等教育機関や各種能力開発施設があり、特に、大学等においては社会人の積極的な受け入れを図るべく様々な取り組みがなされているところであるが、今後とも大学等がリカレント型の能力開発の場を提供するため、社会人の多様なニーズに応え得るよう改革を進めていく必要がある。

<具体的施策>

 大学等の高等教育機関においては、社会人特別選抜、科目等履修生制度、夜間大学院等の拡充をさらに進め、社会人が大学等で学ぶ機会を拡大するとともに、大学等で学ぶことを希望する社会人が教育研究内容や入学者選抜等に関する情報を容易に得られるよう、情報提供を拡大する。

 また、社会人の多様な学習のニーズに大学側が迅速に応え得るよう、国立大学の人事、会計、財務、組織編制等に係る弾力化や私立大学の校地面積基準の弾力的な運用などについて検討を行い、大学等の自主的な取り組みを促進する。

 特に、大学院については、全体としては未だ従来の研究者養成のための教育から変わっていないとの指摘がある。大学院が社会の多様なニーズに対応し、社会人の能力開発の場として高度の専門的な能力を有する人材を育成していくため、高度専門職業人養成に特化した大学院の設置を促進する。このため、このような大学院の修士課程におけるカリキュラム、教員の資格、修了要件等について、一般の修士課程と区別して扱うことが必要である。また、現在、修士課程の修業年限は標準2年とされているが、職業を有する社会人のニーズに応えるため、修士課程1年制コースや2年を超える長期在学コースを制度化する。

イ)能力開発に必要な費用の支援

 個人の主体的な能力開発の取組を促進するため、能力開発に必要な費用の支援を行うことが重要である。

<具体的施策>

 労働者の雇用の安定及び就職の促進に資する職業能力の開発に必要な費用の支援としては、労働者が自ら教育訓練を受けた場合に負担した費用の一定割合を支給する「教育訓練給付制度」が実施されており、これを一層活用するとともに、教育訓練給付の対象範囲を拡大すること等により労働者個人に対する支援を充実させる。

 また、奨学金は大学等で学ぶ社会人も利用可能であることから、その制度の周知や充実を図ることは、社会人が大学等で学ぶ機会の増大にも資することが期待される。

ウ)能力開発に必要な時間等への支援

 能力開発に対するその他の支援としては、能力開発を行う際の時間面での問題に対処するため、多様な休暇制度の導入や労働時間の弾力化に向けての企業の取り組みを支援するほか、労働者が主体的に能力開発を行う意欲を向上させるため、能力開発により得た成果を一定の基準により評価することも必要である。また、多様な人材を採用することは企業の側にとっても成長の原動力となり得ることから、企業の側が人文系の大学院教育を受けた者を含め多様な知識・能力を身につけた人材を積極的に評価することも重要である。

<具体的施策>

 能力開発を行う際の時間の問題については、企業の側が休暇制度を設けて能力開発を行う個人を支援している例や、フレックスタイム制、裁量労働制やテレワークを導入することにより、創造性の高い仕事や付加価値を高めるための仕事を促進するとともに時間を確保している例が存在する。政府の側もこのような企業の取組を支援するため、労働者の自主的な職業能力開発の推進に向けて環境整備を行う事業主等に対して助成する制度等を設けているところであり、これらの制度を一層活用し、能力開発に必要な時間の確保のための支援を行う。

 また、能力開発の成果を客観的に評価することは、主体的な能力開発の意欲向上に資すると考えられ、能力を適正に評価するシステムの整備が必要である。なお、ホワイトカラーについては近年その数が急速に増大する傾向を受けて、ホワイトカラーの段階的かつ体系的な専門的知識・能力の習得を支援する「職業能力習得制度(ビジネス・キャリア制度)」が実施されている。この制度は労働者の主体的な能力開発の成果に対する客観的な評価にも資するものであることから、その周知を図るとともに一層の活用を促進する。

第4章 「環境と調和した循環型経済社会」を実現させるための構造改革

(1)基本的な考え方

 今日、我が国においては、大量廃棄型の生産活動、ライフスタイル等を前提とした経済社会システムの下、年間4億5千万に上る大量の廃棄物の排出による廃棄物最終処分場の逼迫とその処理に伴う自然環境、人体への悪影響の懸念、不法投棄の後処理や廃棄物処理施設の設置に係る社会的コストの増大等、様々な問題が顕在化しつつある。

 他方、リサイクル(リユースを含む。以下同じ。)の現状をみると、制度、産業構造、技術といったリサイクルに係る基盤が十分に整備されていない現行経済社会システムの下では、廃棄物の発生抑制や発生した廃棄物をリサイクルすることが高コストをもたらす構造になっていることから、リサイクルは総じて伸び悩んでおり、産業、経済等の各システムは物質循環的に行き詰まりを見せている。

 このため、近年、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)や特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)等の整備が進められているが、廃棄物の発生抑制とリサイクルに向けた取組みは緒についたばかりである。今後は、社会を構成する全ての経済主体について、健全な物質循環と経済社会の持続的発展性の確保に係る責任を明確化するとともに、廃棄物の発生抑制と効率的なリサイクルの促進を経済社会システムに内在化することにより、従来の「大量廃棄型経済社会」を永続的な「環境と調和した循環型経済社会」へと構造改革し、美しい環境と貴重な資源を次世代に引き継ぐとともに、持続的な経済成長を実現する。

(2)政策方針

 このような考え方に基づき、21世紀初頭に循環型経済社会を実現することを目指して、以下のような構造改革を推進する。

①システム基盤の構造改革

 廃棄物の発生抑制と効率的なリサイクルの促進が内在化された循環型経済社会を実現するためには、行政の基本スタンスを廃棄物の適正処理に重点を置いたものから、廃棄物の発生抑制とリサイクルを促進するものへと一層変革し、生産者、消費者、行政等の各経済主体が、従来の枠組みを超えて自らの責任を自覚し、その責任を効率的に果たすインセンティブが働くシステム基盤を確立する必要がある。

ア)リサイクル原則の確立

 廃棄物の発生抑制とリサイクルを促進する国民共通の行動基盤を形成するためには、まず、リサイクル可能なものはリサイクルするという基本的ルールの確立が必要である。

<具体的施策>

 このため、廃棄物の発生抑制を進めるとともに、発生抑制に最大限努力した後に止むを得ず排出された廃棄物については、エネルギー利用等リサイクルに伴う新たな環境負荷の発生等に留意しつつリサイクル可能な品目を可能な限りリサイクルするという基本原則を徹底し、法制度等の整備、充実を図る。具体的なリサイクルシステムの構築については、個別品目・業種ごとの特性や取引実態等を踏まえて定める。

 また、事業者、消費者等の廃棄物の排出者に対し、排出者の役割として、廃棄物の発生抑制とその責任ある処理・リサイクルを促す。一方、廃棄物となる製品を製造する者に対しても、製造者の役割として、処理・リサイクルに適した製品の開発・生産を促す。併せて、廃棄物に起因する環境負荷の低減に大きな役割を果たせる者として効率的な廃棄物処理とリサイクルに対する貢献を求める。これをベースに、排出者、製造者、廃棄物処理事業者、リサイクル事業者、行政等各主体の適正かつ効率的、効果的な役割分担を明確にし、今後、それぞれの責任のあり方について幅広く検討を行う。これに関連して、現行の一般廃棄物と産業廃棄物の区分及びそれらの処理責任のあり方についても見直しを検討する。

 さらに、円滑で適正な廃棄物処理・リサイクルを促進するため、現行の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づく廃棄物の定義について、市況や廃棄物の占有者の主観ができるだけ介在しない等客観化・明確化の観点から検討を行うとともに、不法投棄の現状を踏まえ、規制の充実を検討する。

 なお、グローバル化の進んだ現代経済社会において、リサイクルを促進し、併せて我が国産業の国際競争力を確保するためには、リサイクルに係る国内諸制度と整合的な国際的枠組みを構築する必要がある。このため、我が国は、国際間の相互理解と協力の下に、廃棄物処理やリサイクルに係る各国制度の整合化、リサイクル財等に係る国際的基準・規格の充実等に積極的に参画する。

 加えて、こうしたリサイクルに係る法制度等の実効性を裏付けるのが国民全般の理解にあることは言うまでもない。このため、学校教育やNPO等の参画を得た社会教育等を通じて行政機関を含む国民各層のリサイクルに対する理解を深め、環境コストの内部化に伴い発生する新たな負担の受容を含めた各経済主体の意識改革を図る。

イ)廃棄物処理・リサイクル体制の見直し

 廃棄物処理・リサイクル体制を、廃棄物の発生をできるだけ抑制し、効率的な処理・リサイクルを可能とするよう見直す必要がある。

 その際、リサイクルに対するインセンティブを高めるという観点から、必要に応じて経済的手法の活用を検討すべきである。同手法は、生産者や消費者に対し新たなコスト負担を求めるものであることから、その導入に当たっては、環境コストを含めた経済社会全体としての費用、政策効果等について十分な検討を行うことが必要である。

<具体的施策>

 環境コストを価格へ適切に反映させるために、一般廃棄物処理に従量料金制を本格的に導入し、それにより排出者に廃棄物の発生抑制を促す他、デポジット制等の各種経済的手法の活用を検討する。

 また、効率的な廃棄物処理とリサイクルを進める観点から、分別、回収、コスト負担の各方式の統一化を含めた広域処理を促進するとともに、前述の一般廃棄物と産業廃棄物の区分等の見直しの検討も踏まえて、施設許可・事業許可の統一化を含む統合処理を推進する。

 さらに、外国資本も含めてPFI方式等により既存廃棄物処理施設の更新や、複合的廃棄物処理施設、リサイクル施設の建設を促進する。

ウ)リサイクル財の需給安定方策の実施

 効率的、持続的なリサイクルを実施していくためには、静脈産業を発展させ、低コスト・高品質・低環境負荷のリサイクル財の供給を進めることにより、リサイクル財とバージン財の間の価格、品質のギャップを縮小するとともに、リサイクル財に対する需要を適切に拡大・確保することにより、需給安定を図ることが重要である。

<具体的施策>

 我が国内外における廃棄物の発生抑制やリサイクルに対する関心の高まりを背景に、今後は、企業においても、リサイクル等に係る環境投資と企業収益をトレードオフとして捉えるのではなく、リサイクルへの積極的な取組みを競争力として経営に取り込んでいくことが有効となる。このため、需要者が、廃棄物の発生抑制とリサイクルに配慮した商品、サービス、それらを供給する企業等について、適正に評価することができるよう、リサイクル製品等に対する環境ラベル制度を充実する。また、企業等が製品等の組成、生産工程等の他、リサイクル関連情報を積極的に公開していくことが望まれる。この観点から、リサイクル等環境対策にかける費用と効果を定量的に明らかにした環境会計や環境に係る経営方針等を示す環境報告書の公表を推奨する等、市場を通じたリサイクルの評価の仕組みを整備する。これに関連し、企業等のリサイクルへの取組み等を評価・格付けする第三者機関の誕生等が期待される。

 さらに、廃棄物の有効活用、リサイクル財の利用促進の観点から、行政等は廃棄物処理・リサイクル技術に関するデータを整理・公表するとともに、廃棄物の発生とニーズ、リサイクル財の販売状況等に関するデータベース等情報交換システムを整備する。

 加えて、当面のリサイクル財への需要を確保していくため、行政においては、引き続きグリーン購入に積極的に取り組むとともに、公共事業においてはリサイクル財の供給体制の整備状況を見定めつつ、その一定比率以上の使用義務付けを検討する。

②産業構造・技術基盤の構造改革

 循環型経済社会を実現するためには、システム基盤の構造改革と併せて、リサイクルコストを大幅に低減し、高品質なリサイクル財を低環境負荷の下に安定的に供給することを可能とする動脈・静脈一体型の産業構造・技術基盤を確立することが不可欠である。

ア)産業構造の抜本的転換

 従来の動脈重視型産業構造を、廃棄物の発生抑制とリサイクルの促進が生産から販売までの各段階に内在化された動脈・静脈一体型(インバース・マニュファクチャリング型)産業構造に抜本的に転換する必要がある。

<具体的施策>

 このため、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を確立し、資源の採取から製造、輸送、使用・消費、廃棄、リサイクル等製品ライフサイクル全体を通じた環境負荷の評価・把握を推進する。これに基づき製品ライフサイクル全体を考慮した最適化設計、開発を進める。

 併せて、動脈部門の生産工程を極力廃棄物の発生を抑制するよう見直すとともに、廃棄物処理・リサイクルといった静脈部門を育成・強化するための集中的投資を促進する。

 また、ゼロ・エミッションを目指して、産業等の集積とそのための基盤整備等を進め、一企業や一産業等で努力してもなお発生する廃棄物のリサイクルを促進する。その際、土壌の汚染防止と管理についてのルール化を検討しつつ、工場跡地等の有効活用を促す。

 さらに、廃棄物やリサイクル財に係る物流についても、効率化等の観点から、海運を含む既存の動脈物流網の活用に加え、廃棄物、リサイクル財の集積・中継地、中間処理地の適正立地等静脈物流拠点及びこれに必要な道路・港湾等社会資本を整備する。

イ)廃棄物処理・リサイクル産業の効率化

 廃棄物処理・リサイクル産業の効率化を実現するために、廃棄物処理・リサイクル事業者の新たな事業展開を促進する必要がある。

<具体的施策>

 このため、一層の規制緩和等により、外資を含めて、効率的な新技術を有し意欲ある者の新規参入や、広域的・複合的事業展開を促進する。また、廃棄物処理事業者とリサイクル事業者の連携の強化等、効率的な事業実施のための環境整備について検討する。

ウ)リサイクル対応型技術の開発

 低コスト・高品質のリサイクル財を低環境負荷の下に生産するためには、革新的なリサイクル技術の開発を促す必要がある。

<具体的施策>

 このため、分別・分解が容易で、安全な廃棄物処理やリサイクルを可能とするリサイクル対応型の原材料、製品等の設計・生産技術の開発を促進する。これと併せて、適切なメンテナンス、機能アップ、自己修復等を通じて製品の長寿命化を実現する技術、適時適切なメンテナンスを支えるために製品・部品の寿命や状態を管理する技術、これらを組み合わせて製品ライフサイクル全体の環境負荷を低減させるシステム化技術等の開発及び積極的な導入を図る。なお、こうした技術開発と併せて、リサイクルを支えるための部品等の長期安定的供給体制の整備が必要なことは言うまでもない。

 また、革新的な廃棄物処理・リサイクル技術や、地場産業の廃棄物を有効活用する地域密着型技術等を有するリサイクルベンチャーを支援する。

 このため、こうした技術の開発、導入を行う企業等に対する支援を行う他、業界横断的な研究開発体制、一つの製品について素材生産から再生処理までのライフサイクルを通じた垂直的な研究開発体制等の構築を進めるとともに、大学等との人材、技術の交流等により、産学官連携研究体制を整備する。

 さらに、効率的な技術開発を進める観点から、動脈部門の製造事業者から静脈部門の廃棄物処理・リサイクル事業者に対して製品の素材、組成、設計等の技術情報の提供の促進を図るとともに、廃棄物処理・リサイクル事業者からは素材生産・製品製造事業者に対して、廃棄物処理・リサイクルに係る情報をフィードバックする等動脈部門と静脈部門で技術情報を共有できる仕組みを構築する。


(別紙)

包括的な改革に関する基本的考え方とその方向性について

1 物流分野

(基本的な考え方)

 物流分野における構造改革については、平成8年12月に運輸省において需給調整規制を原則として廃止するという方針が示され、さらに、政府において総合物流施策大綱(平成9年4月4日閣議決定)に基づき、概ね2001年(平成13年)を目途に、社会資本整備や規制緩和等の施策が着実に進められている。

 21世紀においてグローバリゼーションが一層進行し、企業が国を選ぶという傾向がますます強まる中で、我が国が世界の主要国の一員として経済的な豊かさを確保していくためには、広範な経済活動を支える物流に関し世界的な水準の効率性を確保することが一層重要となる。

 このため、現行の総合物流施策大綱に沿った施策を着実に実施するとともに、21世紀初頭において世界で一番進んだ国々や地域にひけをとらない効率的で魅力的な事業環境を整備するための包括的な改革方策について検討を行う。現行の総合物流施策大綱の目標年次である2001年を目途に結論を得ることとし、明確なスケジュールの下に施策を実施する。

(検討の方向)

 国際的な視野で効率的なモノの移動を指向する国際総合物流が主流となっており、物流再編成(ロジスティクスシステムの構築、サードパーティロジスティクスの出現)や多様な輸送モードの有機的連結といった要請に積極的に対応できるよう、国際物流の結節点の重点的整備や物流サービスのさらなる多様化・高度化を推進する必要がある。

 このため、以下の諸点について検討を行う。

①社会資本整備・運営のあり方

 国際的な規模と機能を有した競争力の高い国際空港・港湾及び高規格幹線道路並びにこれらを結ぶアクセス道路等の整備を重点的に進めるとともに、民間の資金、ノウハウ等の活用を含めた物流基盤施設等物流に関する社会資本の効率的な整備・運営のあり方について検討する。

②需給調整規制廃止後の総合的対応

 今後とも、需給調整の原則廃止という方針に沿った施策の実施を進めるとともに、競争的環境下において、民間主体の自主的な取組によるモード間・物流企業間の連携と総合的な物流業の展開を促進するため、各輸送モードを横断した総合的な対応について検討する。

③物流サービスの高度化

 物流分野における情報通信技術の成果の活用を推進するため、システム開発、標準化の推進等必要な環境整備のあり方について検討する。

2 情報通信分野

(基本的な考え方)

 情報通信分野における構造改革については、NTTの再編成、接続政策の推進、規制緩和の推進等公正な競争を確保するための取組がなされてきた。また、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針(平成10年11月9日高度情報通信社会推進本部決定)」が策定されるなど、情報通信分野の技術革新の成果を経済社会の各方面で享受するための方針も示されている。

 今後、日本がグローバリゼーションの一層の進展、多様な知恵の時代への移行といった内外の歴史的大転換に直面する中で、情報通信分野の重要性はさらに高まるものと考えられる。

 このため、情報通信分野における研究開発の推進、情報通信インフラの整備や放送のデジタル化を進めつつ、21世紀初頭までに最先端のデジタルネットワーク社会を実現するために必要な所要の制度環境の整備等の方策について検討を行う。現在検討下にある施策の実施が概ね達成されると考えられる2001年を目途に結論を得ることとし、明確なスケジュールの下に施策を実施する。

(検討の方向)

 最先端のデジタルネットワーク社会を実現するために必要な技術の研究開発を推進する。供給面では、情報通信分野において低廉で多様なサービスが提供されるよう、競争環境の整備をさらに徹底するとともに、放送分野において個人が自己の好みに応じて見たい番組を多種多様な選択肢の中から選ぶことができる環境整備を推進する必要がある。利用面では、経済社会の各面における情報通信技術の積極的活用を図り、国民の利便性を高めるため、これらを円滑に推進していくための制度環境の整備が必要である。

 このため、以下の諸点について検討を行う。

①研究開発の推進

 産学官連携による研究開発体制を強化し、情報通信分野の基盤を支えるソフトウェアやデバイス、コンテンツ制作等の分野における技術開発を積極的に推進する。また、広く一般が利用できるオープンなネットワークテストベッドの構築を含む研究開発支援環境の整備等により、次世代インターネットをはじめとする超高速ネットワーク技術や高度アプリケーション等の研究開発を推進する。

②情報通信インフラの整備

 次世代インターネット、光ファイバ網、グローバルな移動通信等の各種ネットワークをシームレスに接続するとともに、放送のデジタル化を図り、トータルデジタルネットワークを構築する。

③事業環境の整備のあり方

 情報通信分野におけるグローバル化、ボーダレス化が進展する中で、国内外の枠を越えた事業者間の競争が激しさを増しており、このような状況の下で、我が国の事業者がグローバル市場において、積極的な国際展開を図るための環境整備のあり方について検討する。

④公正な競争条件の整備

 高度情報化にとって最も大きな影響を与えると考えられる地域通信分野、データ通信分野における公正な競争を確保するため、施策の着実な実施に努めるとともに、接続制度全体の見直し等の検討を行う。さらに、競争の結果生じる課題への対応について、必要に応じてユニバーサルサービスの確保の新たなあり方も含めて検討する。

⑤デジタル時代への円滑な移行

 放送のデジタル化を円滑に推進するため、ア)明確かつ包括的なデジタル化推進プログラム、イ)放送のデジタル化の意義及び国民生活・経済・社会への影響等を国民に対して明確に示すプログラムの策定について検討する。

⑥ソフト市場発展のための環境整備

 情報通信技術の発展によって、ハードウェア、OS等の広範なデファクトにつながる分野から、情報通信ネットワークを介して人々に利用され、消費されるアプリケーションやコンテンツに市場の焦点が移っている。

 国民が豊かで文化的な生活を送るためにも、多種多様なアプリケーションやコンテンツが制作され、各種メディアへの流通や多様な形態での利用が行われるような厚みのあるソフト市場の発展を促進するための諸方策について検討する。

⑦利用面の環境整備

 情報通信技術が電子商取引など様々なかたちで、経済社会の各方面において活用され得るよう、現行の制度的枠組を早急に見直し、電子署名・認証、違法・有害コンテンツ対策、セキュリティ・犯罪対策、消費者保護、プライバシー保護等に関し、安心して情報通信技術が利用できる環境を整備するとともに、その共通基盤となる技術等の整備に努める。特に、政府は情報通信技術の最大のユーザーであるとの認識の下、届出、申請、証明その他様々な政府の手続において電子的手段が利用可能となるよう各種分野において検討を進める。

⑧人材面の強化、情報通信教育の充実

 技術革新の速度、デファクトの転換等いずれの面でみても、情報通信分野の発展の速度は他分野に例をみず、その意味で供給、利用の両面で社会の個々人が高い情報リテラシーを有していることが革新的な技術の開発や技術の高度利用に極めて大きな意味をもつ。このため、学校における教育の情報化のあり方について、十分な検討を行った上で、速やかに実践に移す。また、社会人や高齢者、女性等にも情報通信技術は新たな活動の場を与えるものであり、テレワークの推進、医療・福祉分野等の公共分野の情報化、人材育成等を積極的に行う。