第1回経済審議会・計量委員会議事概要

  1. 日時: 平成11年2月17日(水) 10:00~12:00
  2. 場所:合同庁舎4号館 経済企画庁長官官房特別会議室(729号室)
  3. 出席者
    • 橘木委員長、奥村洋彦、国友直人、南部鶴彦、藤原正寛、吉川洋の各委員
    • 中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、荒井計画官、佐久間計画官 他
  4. 議題
    • 計量委員会の今後の進め方について
    • 政策シミュレーション等を通した計量モデルの評価について
  5. 審議内容

    冒頭、中名生総合計画局長から挨拶

    その後、事務局から、資料2「計量委員会の今後の進め方について(案)」、資料3「論点メモ」、資料4「中期多部門モデルを用いた政策シミュレーション」について説明。これらに対する各委員からの主な意見は以下のとおり。

    (1)計量委員会の今後の進め方について

    • 今後10年の見通しということであるが、マクロ経済で10年といえば、長期を意味し、サプライサイドで考えるのが経済学ではスタンダードである。一方では、EUでは、10%に近い失業率が10~15年、国によっては20年近く続くということがあるので、需要も長期的に重要な役割を果たしうると思うが、ケインジアンモデルで10年の見通しを立てるのも必ずしも正解とはいえない。モデル分析自体に価値はあると思うので、モデルをどのように使って、どのような数字をだし、それをどのように解釈するかが議論できればと思う。
    • 1989年のeconomic today という雑誌に、「黄金の90年代は来るか。」という特集があり、そのなかでは、すべてのエコノミストが、日本経済には一点の陰りもなく、回復力が一番強いのは日本であるといっている。(この雑誌に見られるように)現時点で我々の考えている、10年後がどうなるかということを、すなわち、1999年時点でエコノミストの考えを明示的に残しておくこともいいのではないか。
    • 今後10年というと、人口要因が大きく、従来モデルだと、これをとりいれるのは困難である。人口、労働、女性の労働を取り入れたサプライサイドのモデルで潜在成長率に反映させることが必要ではないか。
    • シミュレーションよりも、中立的、基礎的なことを経済企画庁としてはやるべきではないか。具体的には、一つには、財政や社会保障についてである。経済企画庁は、30年~40年程、国富調査をしていない。本来は、国が持つ社会資本がどの程度なのかということが分かっていなければならない。また、もう一つは、中期や長期展望だといろいろ状況が変わる。たとえば、システムもかわるし、必ず変わると考えられるのが、情報化の進展。情報化によっていろいろなモノの価格が下がるであろうし、品質も変わる。こういった場合に物価の測り方もかわる。また、環境問題では、排出権取引などが行われるであろうし、途上国への援助なども起こりうる。こうしたことに対応する作業をやっておくことが重要なのではないかと考えている。
    • 今の経営は、フローだけではできない。バランスシートが重要なのである。そういった点が整備されていないことによる議論の空回りを感じる。

    (2)政策シミュレーション等を通した計量モデルの評価について

    • 消費者心理や消費税の駆け込み需要をモデルに反映するのは困難であり、モデルの限界であるので10年先のことを正確に当てることを考えるのは意味がない。むしろ、ビジョンを考えるほうがよいのではないか。この場合も条件付きでやるべきではないか。また、現在の経済成長を考える場合には、TFP(全要素生産性)が鍵となっている。最近は、日本の労働力人口が減るということで、成長率についてネガディブな議論をする人も多いが、日本の成長記録を見ると、他国も同様であるが、特に日本の場合は、高度成長期頃から、労働力人口の寄与は小さい。TFPのスタンダードな用い方は、TFPを生産関数に取り入れ、TFPが上昇し、供給力が増え、需要を所与とすれば、超過供給になって物価が下落し、それが需要を刺激する可能性がある、とすること。これは、迂遠な、unreliableな議論であると思う。むしろ、TFPについては、技術進歩もあるが、通常は、新しい商品やリソースの部門間シフトによるものと、同時に起こる需要の伸びを、サプライサイドでは、TFPの上昇として把握する。資料によれば、TFPの伸びを決定するに当たって、細かい作業をしたようで、生産性の低い産業がもっとも生産性の高い産業のTFPに近づくと想定しているようだが、それは、非現実的である。規制緩和をすれば、能率の悪いところは、つぶれていくと考える方が現実的であろう。こういった積み上げをするのであれば、マクロで見た場合に日本の10年先をいっているアメリカについて検討してみてはどうか。それを(計量班の)多部門モデルに反映してはどうか。
    • (資料には)全産業で生産性が上昇とあるが、そうではなく、産業の選別が起こるはずである。情報化が進んでも、それに追いつけない産業、企業がでてくるはず。また、情報に関連して、量的ストックが増えると、外部性効果がでてきて、効率があがるとする傾向があるが、そうではなく、むしろ、アメリカのマイクロソフトなどは、外部性を内部化して成功したといえる。また、規制緩和を行えば、すべての産業で活性化して、生産性が向上するというが、規制緩和の中味が重要であろう。
    • この試算は、規制緩和のよい面だけを列挙してあるように思えるがどうか。受け皿がなく、規制緩和だけを行うと、一般の国民にとっては、不安要因となる。
    • 不良債権の60~70兆円の処分は、家計の金融資産によって清算されることになる可能性もある。このような不良債権の処理の仕方によって、不確実性要因も異なってくる。
    • 中期多部門モデルは、量と価格で議論し、それ以外は、外部性やTFPに押しつけているが、それが今の時代にあっているのか疑問。量、価格、品質、という考え方がある。品質さえあがっていれば、GDPは下がってもいいとも考えられる。これからの時代を考える指標が必要なのではないか。
    • 品質を考慮する、ヘドニックプライスアプローチなどあるが、現実に、GDPにどの程度反映できるかは、明らかではない。
    • 潜在成長力については、昭和40年代前半にもよく議論になった。ただし、当時の日本は、young economyであった。今は、old economyになりつつあり、高齢化社会の日本は、今までとは別だと考えなければならない。したがって、この中期多部門モデルには、介護や医療を扱うhealthというブロックが必要なのではないか。
    • 経済のyoung,oldでいうと、アメリカは、old economyからのリバイバルが成功した。現在は、戦後のシステムがoldになってしまった。ギアチェンジ次第によってうまくいけば、潜在成長力も高まるのではないか。また、今後は、ボランティアやNPOなどnon-market economyが増えてくるであろうがどう扱うかを考えなければ行けない。、消費関数や資本係数については、バブル期とバブル崩壊後で異なるが、実物で考え過ぎではないか。また、年金や税負担、財務も考慮すべきではないか。
    • 情報産業、電気通信などがうまくいき、また、所得分配の平等化されすぎを是正して活性化すれば、今後の潜在成長力にも期待出来るかもしれない。
    • 労働市場では、60歳一律定年制であり、企業は60歳定年を変えることには抵抗ししている。一方で、マクロでは、60歳定年では年金制度がもたない。こういったボタンのかけちがえがあると人生設計も難しくなっている。アメリカなどのように年齢による差別を撤廃する制度があれば、成長も期待できるのではないか。また、消費性向についてであるが、消費者は、生活設計が立てられないと消費を控える。公的金融資産統計が整備されていないと感じるが、消費者の動向を今後10年考えるには資産の情報を公開し、消費者が生活設計ができるようにしなければならない。このように成長率を高める手段はあるが、それが、可能であるかはわからない。
    • 設備投資関数について、ここ数年と以前とでは全く異なるので、現在が転換期ではないかといわれる。ここでは、2つの局面が考えられ、一つは、今が異常、もう一つは、今が普通ということである。この考え方の違いにより長期予測は異なる。計量委員会としては、2つありうるシナリオについて議論するのが現実的ではないか。
  6. 今後のスケジュール

    第2回計量委員会は、3月3日10:00~12:00に開催する予定

なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。

(連絡先)

経済企画庁総合計画局計量班

桜井

電話 03-3581-1098