第1回 経済審議会・国民生活文化部会議事概要

  1. 日時 平成11年2月10日(水) 10:30~12:30
  2. 場所 共用特別第二会議室(407号室) (第4合同庁舎4F)
  3. 出席者
    • (部会)
      清家篤部会長
      大田弘子、黒木武弘、鈴木勝利、ピーター・タスカ、永井多惠子、浜田輝男、福武總一郎、森綾子、湯浅利夫、の各委員
    • (事務局)
      堺屋大臣、塩谷事務次官、林官房長、梅村企画課長、中名生総合計画局長、高橋審議官、牛嶋審議官、大西計画課長、佐々木計画官、塚原計画官、福島推進室長
  4. 議題
    • あるべき姿、基本理念について
    • 部会の検討内容について
  5. 議事内容
    •  事務局より資料3「「新たなる時代の姿と政策方針」の諮問文」、資料4「経済審議会の今後の運営について」、資料5「「新たなる時代の姿と政策方針」の策定手法の多様化について」、資料6-1「「あるべき姿」における我が国の国家像についての議論」について説明の後、討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

      (各委員の主な意見)

      • ○「あるべき姿」とは、日本が魅力のある国になるためにはどうすべきかということだと考える。
      • ○是非論ではなく、起こりつつある変化を前向きに捉え、そのなかでよい仕組みをさぐっていくべき。従来は、株式持ち合いや借地借家法など、関係を固定化することでリスクに対応してきたが、この前提は崩れてきている。これからは流動性の確保と選択肢の多様化がキーワードとなる。人も資金も動きやすい仕組みに変えていくことが重要。
      • ○表層的な議論でなく、内部に対立軸があることを意識して議論を行うべき。例えば今までの「安全ネット(セーフティネット)」とは、地域や産業分野において政治的に弱者集団を作り出してそれを守ることであったが、これからは個人を対象として仕組みを考えるべき。このことは既得権と対立するものとなりうる。
      • ○変革の際に問題となりうるのは、いつもきちんとしていないといけないという「チャントリズム」ともいうべき日本人の国民性にあり、これをどう考えるか。
      • ○「自由と社会的秩序のトレードオフ」については、社会保障の分野においては必ずしもトレードオフになるとは思わない。対立の調和を考える際には「社会の安定」がキーワードになるのではないか。
      • ○「日本固有のよさ」については「魏志倭人伝」のときから記述されている。このうち失われたもの、残っているもの両方あるが、日本人の気づかない点を取り上げていると思われる外国人の文献等を勉強してみたい。
      • ○「個人の帰属先」については、これまでは経済的な保障がポイントであったが、国民がこれを重視しなくなれば「好み」で帰属先を決めるようになるかもしれない。
      • ○21世紀へ向かっての大きな転換期に将来を描くことは有益であり大変なテーマであると認識。大きなシステム転換を念頭に議論を行っていくべき。
      • ○議論の前提として、経済・社会の変化で「避けられない条件は何か」を整理し、その上で議論を進めていくことが必要。例えば、グローバル化を前向きに捉えること、大量生産・消費を見直すことは、前提となる認識としてよいのではないか。他方、成長率や失業率については前提となる条件を決めるべきだと思うが、どのような前提を置くか。一定の数値を前提とするのか。特に、失業率については一定の目標を置いて議論するのか。また、雇用が守れない中、福祉を追求するのかという問題もある。
      • ○「あるべき姿」は誰にも分からない。来るべき将来も分からない。先のことを決めるのは無理がある。これを守ってこれを捨てる、と決めることはできない。教育や就職などの面での選択肢を拡げ、結果を待つしかない。自由と社会的秩序のトレードオフというのも長期的に存在するかどうかは疑問。
      • ○明治維新や戦後の諸改革に次ぐ第三の改革というのであれば、もっと危機感があってもよい。明治維新や戦後の諸改革がなかったとしたら今日の日本の地位はなかっただろう。この8年間の日本の成長率0.5%は、サッチャー時代のイギリスの2%よりも悪い。構造改革の実行は死活問題。個人的には、精神的な豊かさ以前に物質的な豊かさが維持できるのか、生活水準はこれから大きく下がるのではないかという危機感を持っている。
      • ○都市集中が一層進む21世紀には、国民の精神の拠り所として「地域社会」が重要になる。「地域社会」への参画を円滑にするためには、職業生活からの引退後に参画するよりも、在職中から参画していくことが必要。その一例として、実業界や地域社会の人の参加を得て、学校長をサポートする機関である「学校評議会」は有益。
      • ○ボランティアや非営利組織に担われている「インフォーマルな取引」を公的にサポートすることが大切。これにより「アメリカ的なモーレツな資本主義」でなく「幅をもった経済」を作っていくこともできよう。
      • ○人間としてもっとゆっくり生活できるよう世の中のシステム自体を変えていかねばならない。そのためには、都市と農村の交流がポイント。また、それを測るための指標として、グロス・ナショナル・アメニティ(GNA)のような新しいモノサシが必要。
      • ○地域の人々が、地域のおかれている条件をもとに、政策提案を言い出せるような環境づくりが重要。
      • ○明治維新以来の大転換期といわれているが、明治にできた西欧キャッチアップ型社会システムそのものを変えるというところまで議論するのか。
      • ○国家は民を信じるのかということが突きつけられていると思う。東京に富と情報と権力とが集中してそれを再配分すること、高い所得税率や相続税率はその象徴。国が民を信じれば、規制緩和に結びつく。ただし事後的な監査やチェックは必要。
      • ○サステイナブル社会の構築が必要。サステイナブル社会とは、従来のモノを製造し破壊する社会とは異なり、モノを大切にする社会であり、また個人の知恵の積み重ねを重視する社会である。個人の知恵を重視することにより新しいネットワーク、コミュニティが形成されてくる。労働に対する対価も、時間に対する報酬という意味から、報酬プラス生きがいプラス手応えといったものに変わってくる。
      • ○一方で自由主義、資本主義の横暴さも拡大されてこよう。そこから社会をどうプロテクトするか。自然をとりこみ共生するという日本的な文明に国民が自信を持つ必要がある。
      • ○人口減少をタブー視すべきでない。もっと議論されてよい。それよりも日本は資源のない国であるから、通商国家として生きることになる。世界をまたに掛けて活躍する人が多く出てくる国にならなければならない。それには今の英語教育を変えることはもとより、教育サービスの参入主体を民にも解放するといった教育システムそのものを変えていくことが必要。
      • ○国が方向を示して再分配する方式だったが、これからは地域が主体。かつての高度成長時代には手応えを感じながら苦しい仕事をしていた。これからの公共投資を含めた地域づくりに地域の人々が参加し手応えを感じられるように図ることが必要。
      • ○「あるべき姿」について、どうあるべきかを決めてしまってよいものか。
      • ○個人の帰属先についても、家族や地域やNPO等、多様な選択肢があってしかるべきではないか。
      • ○ボランティアでは行き先のなかった退職者・高齢者が、NPO・市民活動・市民事業では活躍できる場がある。米国のように退職者が活躍できる場としてのNPOをたくさん作っていくことが必要。
      • ○今まで市民が全てを行政に任せてきたが、それでよかったのかという反省がある。「市民が自分たちでできることをし、地域を作っていく」という意識を国民が持つことができれば、10年後、地域は町(行政)からも人(市民)からも発信していくという形で変わっていくのではないか。
      • ○西欧に追いつけ追い越せという目標を掲げてきて、それを達成して経済大国となり物質的な豊かさをもてるようになった国民が、精神的にも満足できるような国家目標をいかにつくっていくかということがポイントとなる。
      • ○日本人は、互いが比較的同質であるという意識を持っている。今後「自由」を求めたとき、それによって生まれる格差をいかに是正していくかということを、日本の同質意識との兼ね合いの中で考えていくことが必要。
      • ○個人の帰属先として、「遊び」や「趣味」など軟らかな関係も求めていくようになるのではないか。
    •  各委員からの意見がひと通り出たところで、事務局より資料6-2「「国民生活文化部会」固有の検討テーマ」について説明の後、検討の進め方も含めて討議。各委員からの主な意見は以下のとおり。

      (各委員の主な意見)

      • ○日本のよい資源を活かすためにも改革が必要なのに先送りされている。部会テーマ案として挙げられているものは高齢者に偏っており、これまでの議論の延長で終わってしまう心配がある。コーポレートガバナンス、受益と負担、地方と中央との関係など大きなテーマを扱うことについても念頭に置いてほしい。本日出されたテーマでも「経済的格差を容認するか」「民間に委ねるか」「地方と東京の間に本当に格差があるのか」など多くの問題が出た。この部会でも「アメリカ型社会が本当によいのか」など、最初の1~2回は世の中で対立的に捉えられている大きなテーマについて部会内部で議論すべきではないか。
      • ○「今何が問題か」から始めると、個人的には様々な制度疲労や経済の行き詰まりがあり、それに興味がある。
      • ○人間らしさを回復するために、食と農をベースにいのちというものを考えてみてはどうか。
      • ○どこに帰属先を求めるのかについては、「3つのチエン(血縁、地縁、知縁)」をどう組み合わせるかがポイント。知縁が一つのキーワードだと思っている。
      • ○自助努力や国民の選択による福祉が必要。介護保険はバウチャーや利用券を導入して自助努力や選択を促す制度にしてほしい。
      • ○対立軸を比較するような議論の資料は事務局で用意してもらってもよいのではないか。

       以上の討議を踏まえ、今後の部会の進め方について以下のとおり了承された。

      (今後の部会の進め方)

      • 検討テーマに書かれている言葉そのものや形式にこだわらず、自由に議論を進めていく。
      • どのような論点が重要かということについて、ある程度の枠組を決めた上で、システムの変革について具体的な意見を持っている識者にプレゼンテーションをしてもらい、それを軸に議論していけるよう、検討。
      • あるべき姿に関する意見も含め、部会の論点等に関するアイデアを各委員から2月末までに提出してもらう。

      最後に、堺屋大臣より挨拶があった。

      (堺屋大臣挨拶)

       この経済審議会は総理大臣の諮問機関であり、日本の経済計画を従来作成してきた。その中で、従来は経済計画というかたちで所得倍増以来、5ヵ年計画というようなかっちりしたものを作ってきたが、もはや計画経済の時代ではないので、今回は「あるべき姿」、「それに至る道程、政策」ということで、10年程度というかなり長期にわたる日本の姿を、皆様方に描いていただきたいということになった。

       その中で5つの部会を作ったわけだが、特にこの国民生活文化部会においては、これからの国民生活、これは、少子・高齢化の問題もあれば家族や教育の問題、あるいは地域社会の問題もあるが、そういった広い観点から言及していただきたい、御意見を伺いたいということにした。従来の経済計画とはひと味もふた味も違うところだが、やはり、年金の問題、あるいは人口構造の問題を含めて、日本の将来を考える中では大変重要な分野が、この生活と社会がどう変わっていくか、文化がどのように変わっていくかという点であると思う。ついては、この部会において、日本人の考え方が少子・高齢化の中でどのように変わっていくものだろうか、そして、どのような夢と安心が両立する社会が、どのように作られるか、作りうるのか、こういうことを考えていただきたいと思っている。

       また、それによって、大変重要な問題として、この生活文化が変化する中で、外国人の移民を含めて労働力をどのように確保していくか、あるいは、女性、高齢者の立場をどのように考えていくか、非常に幅広い問題がある。単なる数値だけではなく、心理的な影響も非常に将来の日本には重要な要素になってくるのではないかと考えている。

       特に、この委員会は多様な先生方にお願いしており、自由な意見を出していただきたいと思っている。これまでの政府の主として事務局の資料を説明するようなものと違って、皆様方のほうから自由に発言していただくと同時に、それぞれの専門的な分野、あるいは、従来の経験を踏まえて、積極的に文書、数値、あるいは御意見を出していただければ幸いであると思っている。

以上

 なお、本議事概要は、速報のため、事後修正がありえます。

(本議事概要に関する問い合わせ先)

経済企画庁総合計画局計画課

経済構造調整推進室

押田、徳永(内線:5577)

TEL:03-3581-0261(代表)