経済審議会経済主体役割部会報告書
平成10年6月
目次
- はじめに
- 第1章 現在の経済社会の問題点
- 1.既存の経済システムの特質
- 2.潮流変化に対する適合性の欠如
- 第2章 システム再構築の方向性と経済主体
- 1.システム再構築の方向
- 2.経済主体の役割はどう変わるか
- 第3章 システムを再構築するために何をなすべきか(提案)
- 1.透明で公正な市場に向けた共通インフラの整備
- (1)規制緩和等による民間中心システムの構築
- (2)市場機能発揮のための情報開示、説明責任及び評価システム
- 2.柔軟で活力ある企業システムの構築
- (1)コーポレートガバナンスの再構築
- (2)新しい企業を起こしやすいシステムの構築
- 3.個人の自立を支える環境整備
- (1)能力発揮のための環境整備
- (2)自立した個人による投資・消費活動を支える環境整備
- 4.負担と受益の明確化による多様なニーズに応える効率的な行政の確立
- (1)公共サービスへの民間活力の導入
- (2)地方分権型行政システムにおける公共サービスの新たな構築
- 5.NPOの健全な発展に向けた環境整備
- (1)「特定非営利活動促進法」の制定
- (2)今後の環境整備
- おわりに
はじめに
日本経済は、大きな潮流変化の中で、これまでは有効に機能してきた各システムが十分に機能しなくなってきており、それがこのところの低迷状態の一因となっている。従来の制度の中に合理性を失っているものがあることに加え、現在進められている改革の重要性は認識されているものの、変革に伴うリスクや低成長による限られたパイの奪い合いが予感され、高度成長期の経験との違和感も相まって国民の間に閉塞感や漠然とした不安感をもたらしている。
こうしたことの背景には、既得権益や協調性のメリットへの過剰な固執、変革に伴うリスクの回避、システム自体の硬直性等のために、改革に向かおうとするダイナミズムに欠けていることがあげられる。その他に、市場の中に過剰な規制が残存していること、政府と民間のガバナンスが非効率であることといった要因も考えられる。
このような要因を取り除き、日本経済を全体としてうまく機能するように、変化する潮流に合ったシステムに再構築していく必要がある。そこで、現行のシステムの問題点を明らかにした上で、改革の過程や改革後の各経済主体のあり方に関して、一つの羅針盤となることを願って、この提案を行うこととする。
第1章 現在の経済社会の問題点
1.既存の経済システムの特質
我が国の既存の経済システムは、各経済主体間の長期的かつ安定的な相互依存関係を基盤とした協調型のシステムである。それは、系列、株式持合い、メインバンクシステム等に代表される企業間関係、年功賃金、長期雇用制度等を特徴とする労使関係、行政指導を含む規制体系、といった相互に密接に関連している諸要素から構成されており、全体として整合的で強固なシステムである。
このような経済システムは、それを構成する種々の要素の相互補完関係によって、戦後のキャッチアップと国際競争力の維持という明確な目標の下では、長期的視点からの投資や技術の蓄積を可能とするなど、経済的な効率性や合理性を有していた。
2.潮流変化に対する適合性の欠如
我が国の経済が現在直面している大きな潮流の変化は、 1経済活動のグローバル化を通じた、世界規模での空間的ないし時間的な一体化、 2情報通信技術の発達を通じた意思決定や行動のスピード化への要請、 3キャッチアップ過程を終了した後での経済社会の成熟化、 4少子・高齢化の進展による人口構成の変化等である。こうした潮流変化に伴い、個々の経済主体の状況あるいはシステム全体の状況の中に、不透明性や非効率性、ガバナンスの非効率化、柔軟性の欠如といった弊害が顕在化してきており、我が国経済システムの中に従来みられていた合理性は失われつつある。
(1)企業(非効率なガバナンス、創造的な視点の不足)
従来のような集団的な意思決定を重視する方式は、企業をとりまく市場環境がグローバル化やスピード化の流れを強めていくようになった現在においては、閉鎖的で意思決定や行動が遅いというデメリットが大きくなり、世界規模の競争に対応できなくなっている。
また、従来は効率性を有していた同質な仲間内の論理を重視する方式を維持し続けることは、様々で異質な経済社会のシステムが相互に影響しあって構築している世界的な市場における共通の規範や評価に対する認識を根付かせず、それが結果としてガバナンスの非効率化にもつながっている。
特に、バブルの発生から崩壊に至る過程は、マクロ経済政策が有効に機能しなかったことが基本的な要因であったが、一方において、【1】資本コスト意識の欠如等により過剰な投資に走った企業、【2】厳格な審査と監理を怠ることによりそれらの企業に過剰な資金を供給し続けた金融機関、【3】従来の保護的規制行政スタンスをとり続けた金融機関監督当局の各々について有効なガバナンスが働かなかったことにより、コーポレートガバナンスの空白状態が生じたことにも起因すると考えられる。
さらに、企業内労働市場の有効性を前提とする従来の年功賃金制度のような同質的かつ単線的な評価のシステムは、機会の平等よりも結果の平等を重視することにより、創造的・革新的アイデアを持つ者が活躍することを困難にするなど、成長の起爆剤ともなるべき主体的な行動を抑制してきた面が強いといえる。
(2)個人(自己責任意識の不足)
各経済主体間の長期的かつ安定的な相互依存関係のデメリットは、個人については行政や企業への過度の依存、その裏返しとして不都合な結果が生じた際の結果の不平等に対する責任の転嫁といった形でみられる。裁量的な行政関与の下では、個人のとる行政依存のスタンスによっては、公的規制の存続が助長されたり、あるいは規制緩和の効果が薄められるような結果がもたらされる。
企業との関係においても同様であり、情報開示が徹底されていない状況下で、自己の判断を伴わない財・サービスの選択を行った上で、その結果に対する責任を他者に転嫁するという傾向がみられてきた。いずれにせよ、個人の間に自己責任意識が欠如している、あるいはその能力が十分備わっていないことが指摘される。
(3)政府(非効率性と不透明性)
裁量的な行政関与は、全体としての均一的な発展を遂げるという目的のためには、効率性、合理性を有していた。しかし同時に、行政の責任領域の肥大化と横並び、行政と業界団体との曖昧な役割分担といった弊害をもたらした。
このような行政関与のあり方は、グローバルな競争を基本とする経済社会においては、逆に生産性の低い産業や企業を温存するという非効率性を生んだり、外部からみたルールの不透明性という問題を発生させ、他の経済主体が活動を行う際に不確実性を増大させている。
また、従来の中央政府主導型行政システムは、地域間格差を縮小するという全国一律的なニーズの実現には、効率性・合理性を有していた。しかし、こうしたシステムは、中央政府からプロジェクトを引き出してくるという形が中心となり、中央政府の縦割り的な行政とも絡んで、プロジェクトの採算性、受益と負担の関係の評価などの甘さにつながっている。
経済の成熟化が進み、国民の行政に対するニーズが多様化する一方で、累積する政府の財政赤字が問題となっている現状にあっては、従来のシステムを引き継いだままでは、各経済主体のリスク管理等自己責任を担保する市場環境の整備や少子・高齢化社会への対応等に十分に取り組むことができなくなってきている。
第2章 システム再構築の方向性と経済主体
1.システム再構築の方向
今日の我が国経済の成果は一朝一夕にもたらされたものではなく、多くの先人達の努力と創意等に基づくものである。それだけに、従来のシステムの中にも国際的に十分通用しうるものがあり、それらによって培われた有形無形の資産の中には国際社会をリードするに足る財産が存在している。
今後求められるべきことは、市場機能重視を基本として、これまで日本的システムの中で蓄積されてきた有形無形の資産を最大限活用しつつ、国際的にも受け入れられるような効果的なシステムを再構築することである。
再構築されるシステムにおいては、市場が的確に機能し、かつ活性化することが大前提である。そのためには、明瞭で客観的なルールと市場原理に基づき、グローバルな思考や自己責任の意識や能力に加え、多様な価値観を持って行動する経済主体の存在が不可欠であり、そうした主体が自らの能力を十分発揮できるようなシステムの構築が求められている。
ただし、市場機能が必ずしも万能ではないことにも鑑み、市場から取り残される真の弱者に対して配慮を行うことも重要である。
システム再構築の方向性としては具体的には次のようなものが考えられる。
・民間部門が中心のシステムであること
・常に活性化のメカニズムが働いていること
・市場においては透明で公正なルールが確保されていること
・ルールの確保にはグローバルスタンダードが重視されていること
・価値観の多様化に対応した多様な選択肢が存在していること
・個人の意欲と能力が最大限発揮される場が提供されていること
・公的部門の運営について受益と負担が明確であり効率的であること
このような再構築に向けて、変革への努力を続けることにより、我が国の経済社会が拠って立つところのシステムは、世界の中で切磋琢磨し合う多様なシステムの一つとして十分共存し、時には世界をリードし得るものとなっていくのではないか。
2.経済主体の役割はどう変わるか
我が国経済のシステムを全体としてうまく機能するように再構築していくためには、従来とは異なった行動規範を導入することが必要であるが、その際には様々な軋轢やコストが生じる。最も重要なことは、経済主体を構成する個々人の意識改革である。自己責任意識の確立、結果平等から機会平等への意識変革、透明で公正なルールの重視への意識変革を行っていく必要がある。
このような意識変革を進めていく中で、各経済主体は以下のような形で役割を果たしていくことを求められているのではないだろうか。
企業は、規制緩和等により自由な活動の場が広がる中で、経済活動を中心となって推進する役割を担っていく。リスクとリターンを自己管理しつつ、人々の多様な価値観に合わせ、資源を効率的に組み合わせて活用し、市場への機敏な参入・退出も含め、柔軟に行動していく。同時に、効率性や違法行為防止の観点から国の内外を含め外部からのチェックにも配慮したコーポレートガバナンスを確立することを求められる。また、情報開示と説明責任の徹底により、外部に対して公明正大に活動するといった社会的存在(公器)としての最低限の義務が求められる。
個人は、自己実現に向け意欲を持って能力発揮を果たし、リスクとリターンを自己管理しつつ、自己責任を基本とした行動をとる。すなわち、意欲的に職業選択や職業能力の向上に努め、職業生活の各方面にわたって自由に活動していくことが求められる。また、職業生活以外でも、市民参画等への役割が期待される。消費者、投資家の立場としては、より多くの商品・サービスの選択肢を持つ機会を得ることとなろうが、同時に自らが行った選択についての自己責任を求められる。もちろん、教育システム、教育制度を含めた、個人が自立していくための基礎的インフラの再構築は忘れてはならない。
政府は、民間部門がその活力を最大限に発揮できるよう、経済の体質を改善・強化し、競争を促進し、弱者の保護にも配慮しつつ自己責任の原則を貫徹する条件を整えるなど、発展のための基盤を整備していく。このため、官民の役割分担を徹底し、民間や地方に委ねられるものは可能な限りこれに委ね、行政組織について極力スリムにすると共に、行政事務の効率化と重点化を図っていく。また、民間活動を補完する役割に徹するのが基本であり、市場の失敗を理由として過度に政府介入を正当化しないように配慮することが求められる。
行政サービスの提供は、基本的に地方公共団体等住民に極力身近な主体の手に委ね、できる限り受益と負担の関係を強調することによって、政府自身の費用を削減することに努め、効率的な行政を行う。国の事務・事業は、全国的に統一されていることが望ましい基本ルールの制定、真に全国的規模・視点で行われることが必要な施策・事業に純化していく。一方で、市場の透明性や公正性、安全や安心の確保の観点から、ルールの整備、市場監視機能の強化など、市場を補完し市場機能の発揮を円滑にするための環境整備や必要最小限のセーフティネット等真に必要なサービスの提供を行う。
NPOは、市民の自主的な参加活動を基本とする新しい主体として近年急速に発展してきている。既存の各経済主体が現在果たしきれなくなってきている問題もNPOという新しい主体の役割を加えることによって解決策を見出すことも可能であり、その意味で各経済主体の機能を強化する役割を担っていくことが期待される。
企業との関係では、企業活動の基盤となる地域社会の振興、情報産業などにおけるビジネスインフラの整備、企業活動の監視や消費者の評価や判断などを企業にフィードバックする機能が期待される。また、個人との関係では、退職後やアフターファイブの生活における能力発揮の場、女性や高齢者、障害者などに対する働く場の提供を含む雇用機会の提供、NPOの活動を通じたリーダーシップやマネジメント能力の育成といった能力開発の場として期待できる。さらに、政府との関係では、政府が汲み取りきれない国民の声を代弁し政府に提言できるシンクタンク機能、政府や企業が効率的に供給できない福祉などの公共サービスの提供、さらに国際関係における協力関係(NGO活動)が期待される。
第3章 システムを再構築するために何をなすべきか(提案)
1.透明で公正な市場に向けた共通インフラの整備
再構築されるシステムにおいては、市場の透明性と公正性が確保されなければならない。そのためには、まず現在市場機能の発揮を阻害している要因を除去し、その上で市場機能を十分に発揮させるための仕組みをシステムの中に組み込んでいくことが必要である。以下では、まず第一に、市場機能の阻害要因の除去の具体策として過剰な規制の緩和・撤廃について、第二に、市場機能が発揮される仕組みとして情報開示と説明責任の徹底や評価システム・機関の整備について提案する。
(1)規制緩和等による民間中心システムの構築
(提案の考え方)
公的規制の緩和・撤廃は、ここ数年の間大きな進展を見せているものの、未だ途上にあり、民間中心の経済社会を構築するためには、さらに実効をあげるための推進が必要。また、公的規制の緩和・撤廃だけでなく、いわゆる民民規制の見直し・解消も不可欠。これと併せて業界団体の機能の見直しも必要。
(主要な提案)
○公的規制の緩和・撤廃の推進のために
・事前・事後の十分なチェック等による規制緩和の実効性の確保
・規制の費用対効果の明確化
・地方公共団体における規制緩和・撤廃の積極的な推進
・一般国民及び事業者による規制についての積極的な点検、意見発信
〇民民規制の解消のために
・独占禁止法の運用強化、見直し
・必要な行政指導の明確化や自主規制団体のガバナンスの改善
・国内版OTOの設置等による民民規制に係る情報収集・処理体制の強化
・民民規制として作用することのないよう、業界団体の機能の見直し
【1】 規制緩和・撤廃への一層の取り組み
臨時行政調査会(第2次臨調)による許認可等の整理合理化の推進に始まり、臨時行政改革推進審議会、行政改革委員会へとつながる一連の規制緩和・撤廃の流れは、ここ数年の間で大きな進展をみせてきている。
特に、経済審議会が平成8年12月に内閣総理大臣に建議した、6つの分野(高度情報通信、物流、金融、土地・住宅、雇用・労働及び医療・福祉)における規制緩和・撤廃を始めとする抜本的な経済構造改革推進策についての提言、「6分野の経済構造改革」は、その後の規制緩和・撤廃を始めとする経済構造改革の推進に大きく貢献し、現在までにその提言の多くについて具体的な進捗がみられている。
しかしながら、規制の緩和・撤廃は未だその途上にある。規制の緩和・撤廃が遅れることは民間企業の活力を削ぎ、高コスト構造を通じて、我が国経済の競争力を低下させかねない。特に、経済のグローバル化を背景に企業が国を選ぶ時代にあっては、我が国産業を空洞化し、国内の雇用機会を失わせるおそれがある。
こうした観点に立って、昨年11月の「21世紀を切りひらく緊急経済対策」、本年4月の「総合経済対策」等において、大胆な規制緩和措置が講じられてきた。今後はこうした規制の緩和・撤廃を一層推し進めることにより、企業や個人の活力、適応力を最大限に引き出して、民間需要中心の自律的な安定成長軌道に乗せていくことが不可欠である。そのためには、政府、企業、個人等の各経済主体が、規制緩和・撤廃の推進に対して、より積極的かつ主体的に取り組む姿勢を保つことが必要である。具体的には、以下のような取り組みが求められる。
1)政府においては、まず何よりもビジネスチャンスの拡大や雇用の創出、消費者利便の向上等を実現するために、現存する諸規制を不断に総点検し見直していくことが不可欠である。その際には、規制制度自体は変わったものの、一般国民や事業者からみてその実体や実効性は変わらないといったことの生じないよう、事前、事後の十分なチェックが求められる。このため、規制の緩和・撤廃を行う際には、その目的や効果、具体的なスケジュールについて、また仮に規制を存続ないし新設する際においても、その費用対効果について、国民各層に分かりやすく説明し、理解を得ていくことが重要である。さらに、許認可等の行政処分及び行政指導の透明性、明確性を確保するため、行政手続法を遵守するとともに、各々の規制について行政の権限がどの範囲にまで及びうるのかを明確にしていくことも必要となってくる。また、規制の緩和・撤廃が目的通りに実行されているかどうかのチェックも必要である。すなわち、実効が上がらないとすれば、どこに問題があるのか、どう改善、工夫すればよいのか、積極的に取り組み、解決していくことが求められる。
2)規制緩和・撤廃の推進は、国のみならず地方公共団体においても、積極的に進められるべきである。不断の点検や見直し、説明責任の徹底、行政指導の透明性の確保等は、国、地方を問わず共通の課題である。
3)一般国民及び事業者においては、現在の規制体系のどこに問題があるのかといった点、ならびに規制の存続や新設の必要性(あるいは費用対効果の妥当性)のいかん等について、積極的に点検し、必要に応じ意見発信を行っていくことが期待される。
【2】 市場機能の阻害要因としての民民規制の解消
公的部門の規制緩和が進んだ後においても、いわゆる民民規制(国の法令に基づく規制以外の、業界団体等による、あるいは民間事業者間における事業活動に対する規制であって、直接国民生活に、あるいは事業活動に与える影響を通じて間接的に国民生活に影響し、不利益を与えるもの)が存続することにより、高コスト構造が残存するなど経済の活性化や豊かな国民生活の実現が阻害される恐れがある。今後、世界規模での大競争時代に適応し得るシステムを構築していくために、公的部門の規制緩和と併せて民民規制の見直し・解消を着実に推進していくことが不可欠である。
民民規制は、競争制限的行為等を通じて行われるものであることから、基本的には、独占禁止法等によって対処されるべきであり、その運用強化、見直しを図る必要がある。このためには、競争当局の人員・予算を増加することや独占禁止法の適用除外を必要最小限とすることなどのほか、私人が差し止め訴訟を起こすことができる制度の創設を検討することが望まれる。
民民規制が存在する背景には、行政指導等公的部門の何らかの関与、エッセンシャル・ファシリティの独占等が存在する分野において公正な競争を確保するための公的なルールがないこと、談合体質の存在、情報開示制度の未整備等があり、こうした視点を踏まえて、以下のような取り組みも早急に必要である。
1)競争制限的に作用する恐れのある行政指導の中で、真に必要なものは法律に明文化し、そうでないものは、行政の関与を排除した上で、その旨周知・徹底する。
2)法律に基づく自主規制団体について、関係行政機関は、当該自主規制の必要性及び同団体に任せることの適否を検討し、必要でありかつ任せることが適切な場合には当該団体のガバナンスの改善に努める。
3)政府部内に国内版OTOを設置し、幅広く国民各層からの情報等を収集し、公的部門が関与している民民規制については、行政指導の撤廃等関係行政機関に適切な対応を求める。また、国民生活センター等に民民規制に関する相談窓口等を設け、その情報を国内版OTOに提供する。
4)エッセンシャル・ファシリティの独占等、優越的な立場にある特定の企業等が存在する分野において、公正な競争が確保されるような公的なルール作りを早急に検討する。
5)民民規制解消に向けた国民意識の高揚を図るため、第三者監視機関を設け、民民規制について継続的に調査、検討を重ね、検討結果等を広く国民に公表する。
6)「消費者契約法(仮称)」の早期制定等、適正な取引ルールの確立に向けた消費者政策を強力に推進すると共に、学校教育等の場での消費者契約法や独占禁止法等市民社会のルールに関する教育の充実が求められる。
また、平成9年3月末現在、15,437団体に上る業界団体については、最近十余年の間の独占禁止法違反行為の約三分の一が業界団体によるものであるなど、民民規制の主たる実施者となっている面がみられることから、民民規制の解消を図る上で、その機能の見直しや意識改革が必要となっている。
今後の業界団体の機能については、統計資料作成、情報収集・伝達、行政庁への要望等の従来の業務のほか、地球環境問題等のグローバルな課題やグローバルスタンダード競争における我が国の主導権の確保への取り組み等、個別事業者では対応が困難な課題等への対応が考えられる。その際、こうした機能が民民規制として作用することのないよう、競争制限的な手段によらないこととするほか、以下のような取り組みが必要である。
1)情報開示と説明責任の徹底や、これを担保するため、業界団体に外部監査人等の形で学識経験者等外部の人材の参画を求めること等を検討する。
2)新規参入者に対し、「来るものは拒まない」、「拒否する場合は説明責任を負う」等のルール化を検討する等オープンなメンバーシップを確立する。
3)自主規制団体の社会公共性を確保するため、理事会構成員として一般消費者、学識経験者等を適切に参画させる等ガバナンスの改善について検討する。
4)自己責任原則の下で、自らの責任の所在を曖昧にせず、本来行政がすべきことは行政に返す等官民の役割分担を明確にする。
(2)市場機能発揮のための情報開示、説明責任及び評価システム
(提案の考え方)
市場機能が発揮される仕組みとして情報開示と説明責任の徹底、評価システム・機関の整備が不可欠。
(主要な提案)
○情報開示と説明責任の徹底のために
・情報の保有者による情報の属性も含めた開示内容の充実
・情報公開法の早期成立
・利用者にとって分かりやすい開示内容の確保
・タイムリーな情報開示
○評価システムの構築のために
・より広範な分野で独立的組織による、政府の監査・評価システムの充実
・アナリストやフィナンシャルプランナー等の監査・評価専門家の育成
市場には本来不確実性が内在している。市場機能をより重視するようになれば、市場の不確実性に基づくリスクが高まることが予想され、こうしたリスクについては、各経済主体が自己責任によって管理していくことが求められる。各経済主体が自己責任原則の下に、適切にリスクを管理するためには、必要な情報を容易に入手することが可能でなくてはならない。その意味で、情報開示と説明責任の徹底は、新しいシステムがうまく機能するために不可欠な条件であり、さらにそれらの機能を的確に評価するシステムが整備されることも必要である。このため、コスト、必要性、実効性等に配慮しつつ、各々の機能を強化するルール、システムとして、次のようなものが考慮されるべきである。
1)情報の保有者が自ら保有する情報について属性を含めて極力開示していくような仕組みを構築する。
2)情報の非保有者に情報の開示を請求する権利を付与する。
3)利用者にとって分かりやすい情報開示がタイムリーになされるような仕組みを構築する。
4)評価機関の間の健全な競争を促進する仕組みを構築する。
具体的には、以下のような視点に立って、情報開示と説明責任の徹底を図っていくことが重要である。まず第一に、開示内容の充実であるが、基本的には各経済主体が自ら積極的に情報を開示することが求められる。現在、政府は白書・統計等を発行することにより、こうした情報開示に対応しており、また投資家に対する情報提供の場として、企業のIR活動(インベスター・リレーションズ活動;投資家・アナリスト向けの広報活動)も積極化してきている。今後、こうした活動を一層促進していくことはもちろんであるが、その際、単に情報を開示するだけでなく、情報が開示されていることを周知させるために、情報の保有者が自ら保有する情報について属性を含めて開示していくような仕組みを整備していくことが望まれている。また、情報開示に関するコストが高いことが、積極的に情報を開示しようとする意欲を阻害していることに鑑み、情報の電子化等により情報開示のコストを引き下げていくような環境整備が必要である。
さらに、積極的に開示されない情報についても情報開示を可能とすることが求められる。行政情報については、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律案」が今国会に提出されたところである。また、企業については、例えば財務情報は、商法、証券取引法により開示義務が課せられているのが現状である。加えて、国民生活審議会消費者政策部会では、契約の重要事項については消費者に対する情報提供義務を事業者に課すことについて議論が進められている。今後は、情報開示による情報の非保有者の利益を明確にしつつ、開示内容や仕組みの見直しを絶えず検討していくべきである。
第二に、開示内容については利用者にとっての分かりやすさを確保すべきである。例えば変額保険については、そのリスクの説明が不十分だった例があり現在に至るまで訴訟が続く一因となっている。今後、より高度化・専門化した金融商品等の登場が予想されるが、こうした商品についても、一般の利用者がそのリスクを十分理解できるような説明が行われなければならない。また、その際、併せてタイムリーな情報開示を行うことにも留意すべきである。
第三に、評価システムについては、多角的かつ中立的な視点に立って、各経済主体やその活動を客観的に監査・評価するような仕組みが必要である。その際、信頼性や利便性を高めるように工夫することが優先される。
現在、政府の監査・評価については、予算執行に関しては会計検査、行政事務の内容に関しては行政監察の制度が整備されている。また、政府の供給する財・サービスの行政関与の必要性や民営化の可能性に関しては、一部の省庁が、昨年行政改革委員会の最終報告書で提言されたシステムを使ってチェックを行っているところである。今後は、より広範な分野で独立的な組織による評価システムを充実させていくことが重要である。
また、一般的に各経済主体の活動の評価については、現在財務の健全性等の観点から格付け機関が評価を行っている。さらに、評価機関や金融機関に勤務し金融商品等の評価を行うアナリストやフィナンシャルプランナーといった専門家が重要性を増している。今後は、こうした評価機関が互いに競争を行うとともに、評価に関する専門能力を有する人材の育成・確保が図られることにより、情報提供の信頼性や利便性を高めるようなシステムの整備がなされるべきである。
以上述べてきたことに加えて、規制緩和・撤廃の推進やルールの整備が実効を上げて、市場機能が十分に発揮されるようにするためには、司法インフラの充実強化が不可欠である。具体的には、経済実務に通暁した者を含めた法曹関係者の充実、司法手続に係る時間的・金銭的コストの低減、国民の司法システムへのアクセスの改善等、司法制度改革への取り組みが必要である。
2.柔軟で活力ある企業システムの構築
グローバル化、情報化等、我が国経済を取り巻く環境が急激に変化する中、各企業はそうした変化に柔軟に対応し、経営を効率化していくことが必要である。また、経済全体を活性化するためには、企業の新陳代謝を促し、創造的かつ革新的な技術やビジネスを創出していくことができるようなシステムが不可欠である。以下では、前者について、コーポレートガバナンスの再構築という観点から、また後者について、新しい企業を起こしやすいシステムの構築という観点から、それぞれ提案を行う。
(1)コーポレートガバナンスの再構築
(提案の考え方)
バブルの発生から崩壊に至る過程の一因は、企業内部、企業に融資を行うメインバンク等の金融機関、金融機関を監督する金融監督当局の各々について有効なガバナンスが機能しなかったことである。こうした観点に立ち、コーポレートガバナンスを再構築するためには、企業内部組織のあり方の見直し、金融機関、金融監督当局を含めた企業外部からの監視機能の強化が不可欠。
(主要な提案)
○企業内部組織のあり方
・企業内部における法令遵守体制の整備
・株主の取締役会に対する監視機能強化等の企業統治機構の改革
○外部からの監視機能強化のために
・会計制度改革等による情報開示の徹底、IR活動をはじめとする説明責任の遂行
・「継続企業の前提」に関する監査報告の活用等国際会計基準を踏まえた会計監査機能の強化
・投資信託の活性化や確定拠出型年金の導入等を通じた一般投資家による監視機能の強化
○金融機関に対する検査・監督体制の整備のために
・金融機関の検査・監督に対する外部監査人の活用、英国にみられるような金融機関の自主規制機関による検査・監督の実施の検討
我が国の従来のコーポレートガバナンスについては、株式持合い構造とそれに支えられたメインバンクシステム、ならびに長期雇用、内部昇進等に代表される雇用システムの存在の二つの要素が重要である。
これらの要素により特徴付けられたコーポレートガバナンスの下では、必然的に経営者が大きな裁量権を握ることになった。そして、企業経営者に対する外部からの監視については、メインバンクや安定株主といった一部のステークホルダーに情報等の資源を集約することによって効率化と安定化が図られ、結果として一般株主をはじめその他のステークホルダーの利益も向上するような仕組みになっていたといえる。
売上高やシェアの増大等、中長期的に目標が比較的明確であった戦後のキャッチアップ過程においては、企業にとっての最大のリスク要因は資金が安定的に供給されるか否かという点であった。そして、資本市場が未成熟であり、間接金融が中心であったことを併せて考慮すると、従来のコーポレートガバナンスは合理性や効率性を有していたといえる。
しかしながら、このようなシステムは、経営が不透明で恣意的になりがちであること、また経営の硬直化をもたらし、事業再編など環境変化に応じた迅速な対応が困難であること等の欠点を有していた。
【1】 バブル経済期に顕在化した問題点
経済が成熟段階に達した1980年代後半以降、とりわけ、バブルの発生から崩壊に至る過程は、マクロ経済政策が有効に機能しなかったことが基本的な要因であったが、同時に従来型のコーポレートガバナンスは徐々にその弱点を顕在化させるようになってきた。
まず、企業における内部チェック機能の脆弱性と経営規律の緩みが見られた。我が国の企業においては、株式持合いにより経営が安定していたことに加え、長期雇用や内部昇進等に代表される雇用システムを背景として、経営者に権限が集中しがちであった。そして、経営者をチェックすべき取締役や監査役も実質的には経営者によって選ばれる場合が多く、十分な監視ができなかったと指摘されている。また、経営者の多くが、高度経済成長期が終焉してからも、依然として収益率よりもむしろマーケットシェアの拡大を重視し、資本コスト意識が不足していたという点も指摘されている。このような状況が、バブル期における、過剰なエクイティファイナンス、非効率的な投資行動、さらには不法行為を招く一因ともなったと考えられる。
次に、メインバンクの監視機能が低下したことがあげられる。80年代以降の金融自由化の流れを受けて、企業の資金調達は間接金融から直接金融へとシフトし、メインバンクの企業に対する交渉力は低下した。そして、行き場を失ったメインバンクの資金は、不動産関連融資等につぎ込まれるなど、メインバンクが、融資主体として本来有すべき厳格な審査と監理のスタンスを失っていたと考えられる。また、メインバンク自身についても、エクイティファイナンスへの過剰な対応や非効率的な投資を行う中で、内部におけるチェック機能を失っていた。これらにより、企業のコーポレートガバナンスにおいて一種の空白状態が生じ、全体として非効率かつ過剰な投資をチェックする仕組みが失われていたと考えられる。
第三の点として、メインバンクに対する監督の問題があげられる。従来のコーポレートガバナンスにおいては、メインバンクが企業の経営を監視する役割を担っていたが、メインバンク自身のコーポレートガバナンスを正常なものに保つことについては、金融当局も大きな役割を担っていた。キャッチアップ過程においては、産業育成等のための円滑な資金供給の観点から金融業は諸規制によって手厚く保護され、実際にそうした保護的行政はうまく機能していた。しかしながら、金融自由化の流れの中にあって、もはや、競争制限的な規制や行政指導によって金融機関の経営の健全性を維持するという従来の手法は有効でなくなったと考えられる。すなわち、金融当局の従来の手法による金融機関に対する検査・監督機能が有効に働かず、その結果、バブル経済期における金融機関の過剰融資、経営規律の緩みを防ぐことができなかったといえるのではなかろうか。
【2】 コーポレートガバナンス再構築の方向性
以上のような問題点を踏まえたとき、今後のコーポレートガバナンスの再構築の方向としては、どのようなことがいえるのであろうか。以下では、企業内部組織のあり方と企業外部からの監視機能の強化の二点に分けて、提案を行う。
ア 企業組織の見直し
まず、企業における統治機構や内部チェック体制のあり方としてはどのようなものがあるのか、また企業がその経営資源を効率的に活用し、経営環境の変化に応じて組織形態を柔軟に選択できるようにするためには、どのような方策が必要であるのかについては、以下のような点が考えられる。ただし、もちろん、これらの点はいずれも最終的には個々の企業の選択の問題に帰着することである。また、単に組織や制度を手直しするだけではなく、組織を司るべき人材をどのように選んでいくかという本質的な問題についても今後検討されてしかるべきであると考える。
a)企業内部における法令遵守体制の整備
長期雇用、内部昇進等に代表される雇用システムは、企業内特殊熟練技術の蓄積効果、従業員に対する監督費用の低減等の利点があったが、このようなシステムは、反面、緊張関係を失ったとき、経営者に対する従業員からのチェック機能を低下させるとともに、従業員自身の遵法意識を薄れさせるという欠点もあった。今後、経営規律を高めていくためには、企業内部においてコンプライアンス(法令遵守)体制を整備し、法令遵守に対する高い倫理観を企業組織の中に浸透させることが重要である。この点に関しては、例えば、企業の内部に内部管理責任者あるいは法令遵守担当者の制度を設けることは有効な手段の一つであると考えられる。
b)現行の企業統治機構の改革
現在の商法(会社法)の下では、株式会社においては、株主総会が直接的に取締役会をコントロールする形態となっている。しかしながら、企業規模や活動範囲が拡大し、また、株主構成も多様化・分散化している現状では、特に大規模会社において、株主総会は形骸化し、そのチェック機能は必ずしも有効に働いているとはいえない。そこで、規模の大きい株式会社について、経営に対するチェック機能が有効に働くような組織の選択肢を広げる方向で、商法に特例を設ける等の制度設計を行うことを検討すべきである。例えば、株主総会で選任される監査役会が経営の妥当性についても一定の範囲で取締役会を監視する役割を担うこととする制度、取締役会のなかに監視委員会と執行役員会を明確に分離して設置し前者が後者を監視するという制度、あるいはその二者の中から選択することができるような制度などが検討に値すると考えられる。
取締役会については、【1】多数の取締役によって構成され、的確かつ迅速な経営意思決定を行っていく上で適切な規模でない、【2】取締役が業務執行役員を兼任している場合がほとんどであり、経営に対する有効なチェック機能を有していない、といった批判がある。この問題に関しては、上述したように、監視機構と業務執行機構の区分を明確にしていくことが有効であると考えられる。なお、経営の透明性を確保するという視点から、社外取締役を導入していくことは有効な手段である。その場合には、社外取締役として活用が可能な人材が不足しているという指摘を踏まえ、企業経営経験者の輩出と登用が容易となるような環境を整えることが必要である。
さらに、監査役機能を強化していくことも重要である。平成5年に社外監査役制度が導入されたが、実際には社外監査役の多くが当該企業及び系列企業出身者で占められており、また、情報収集やスタッフ等の面において十分な手当てがなされていないといった問題が指摘されている。したがって、社外監査役の独立性を高め、かつその機能を強化するため、資格要件の見直し等について検討する必要がある。また、社外監査役の人材を確保するためにも、企業経営経験者の登用が容易となるような環境を整えることが必要である。
c)企業経営における柔軟性と効率性の向上
バブル期において、多くの企業が過剰なキャッシュフローを内部に滞留させ、財テクや非効率な投資に回してしまったという反省に立てば、企業が内部資金を円滑に株式市場に還流できるようなメカニズムを確立する必要がある。短期流動資産は可能な限り圧縮し、バランスシートをスリム化していくことが経営規律を高め、市場から評価される結果にもつながる。このための手段としては、自社株買いの活用やM&Aの活性化が有効である。
また、企業が経営環境の変化に応じて適切かつ効率的な経営を行っていくためには、事業再編が円滑に行えるような環境が望ましく、具体的には、純粋持株会社制度の活用が有効である。同制度のメリットとしては、子会社毎の経営責任の明確化、事業レベルでの経営意思決定の迅速化に加え、事業の再編成に当たって、企業グループ内での配置転換(場合によってはグループ間の斡旋)により、雇用を確保しつつ、組織の再編成を円滑に行うことが期待できるという点がある。また、同制度の活用により、企業経営経験者の輩出と登用が容易になり、社外取締役や社外監査役の人材の供給を円滑化させることも可能となる。
さらに、労働市場の流動化が進む中で、企業外部から適材適所に人材を確保していくためには、企業の魅力を高め、アッピールしていくことが一層重要になる。こうした努力が、企業経営の効率性を向上させることにつながっていくものと考える。
イ 外部からの監視機能の強化
金融ビッグバンが進み、競争原理が着実に導入されるようになれば、我が国のコーポレートガバナンスには大きな影響が生じるものと考えられる。すなわち、直接金融へのシフトを一層加速させるとともに、金融機関の運用面での変化をももたらすことになり、従来のコーポレートガバナンスにおいて中核をなしてきた株式持合い構造とその中心に位置してきたメインバンクのプレゼンスを大きく変化させる可能性を孕んでいる。また、金融機関に対する検査・監督のあり方についても大きな影響が出てくるものと考えられる。
今後は、基本的には、メインバンク等を中心としたいわば内部型(インサイダー型)のコーポレートガバナンスから、よりオープンな市場を重視したタイプのコーポレートガバナンスへと変容していくものと考えられる。そのような動きを補完するものとして、以下のような施策が必要である。
a)情報開示と説明責任の徹底
従来のコーポレートガバナンスはメインバンクや安定株主といった一部のステークホルダーに情報等の資源を集約するシステムであり、不透明な仕組みになりがちであった。そのため、一般投資家などその他のステークホルダーがコーポレートガバナンスに参画することは困難であった。特に、バブル崩壊以降、我が国企業の経営の不透明さが、国内外において批判され、そのことが企業活動の障害ともなっていると考えられる。
そこで会計制度の改革等により、情報開示を徹底する必要がある。具体的には、国際基準に則った時価情報の充実、商法と証券取引法の開示内容の調整などを図っていく。これにより、多様なステークホルダーのコーポレートガバナンスへの参画が可能となるとともに、企業内部者にとっての効率化や適正化へのインセンティブを高めることを通じて、経営規律や倫理観を高めることになる。また、各企業においては、例えば投資家に対するIR活動(インベスター・リレーションズ活動;投資家・アナリスト向けの広報活動)など、自らがどのような考えの下で経営を行っていくのかを各ステークホルダーに十分に説明していくことも重要であり、今後積極的な推進が期待される。
b)会計監査機能の強化
会計監査人(監査法人、公認会計士)は、企業が発表する財務諸表の適正性につき注意深く監査する責務を負っているが、バブル崩壊以降の局面における金融機関の破綻や企業倒産等の事例からみると、会計士監査が必ずしも有効に行われず、投資家や債権者等を保護するという観点に欠けていたのではないかという指摘がある。今後、金融ビッグバンが進展し、市場原理が浸透していく中にあって、企業の徹底した情報開示等を担保し、投資家等による自己責任に基づいた意思決定を可能とするために、会計士監査の機能を強化していくべきである。具体的には、「継続企業の前提」に関する監査報告(被監査企業の存続に重要な疑義が生じた場合は監査報告書にその旨を記載)の活用等、国際的基準を踏まえ、監査報告内容の充実を図り、企業と会計監査人との間の牽制関係を確保していくことが必要である。
c)一般投資家による監視機能の強化
メインバンクの監視能力の低下や株式持合いの解消が進み、コーポレートガバナンスが「空白化」していく中で、必然的に一般投資家のプレゼンスが高まっていくものと考えられる。その際には、機関投資家が、個人投資家を集約していくような形で、強力な監視機能を発揮していく形態がより望ましい。そのためには、今後個人金融資産の運用手段としてのニーズが高まることが予想されている投資信託や年金基金等の機能を活用していくことが有効である。
投資信託については、従前、パフォーマンスが悪化したことなどにより、投資家の信頼感を低下させていったと指摘されている。今後は、外資系の参入も多く期待される中で、投資家のニーズに合致した商品の開発、販売方法の改善が図られるものと考えられる。さらに、株主の資格によって投資家の利益保護を図ろうとする会社型の投資信託の活用や、商品性の明確化などディスクロージャーの徹底を図ることにより、投資信託の活性化を図ることが必要である。その結果、運用の巧拙が投資信託会社の選別につながることから収益中心の投資が増え、投資信託会社による投資先企業へのガバナンスが向上することが期待できる。
また、年金基金については、確定拠出型年金制度を導入することにより、結果として株式を保有している企業の経営効率を株主としてチェックすることになり、株式の保有動機も従来の取引関係にも配慮したものから、純粋に株式の投資利回りに重点を置いたものになると思われる。このことにより、従来よりも機関投資家によるガバナンス機能の向上が期待される。
d)金融機関に対する検査・監督体制の整備
企業活動においては、いかにして安定的に資金を調達するかが重要な要素であることから、今後とも金融機関はコーポレートガバナンスにおいて重要な役割を担っていくと考えられる。したがって、その機能を高めるためにも効率的かつ安定的な金融システムの構築が不可欠である。今後金融ビッグバンの進展により金融業務の多様化・複雑化が予想されることをも踏まえると、金融機関の検査・監督のあり方について、市場規律や民間機関等を活用したより効率的なものとする必要がある。そのため、銀行について株主帳簿閲覧権の否認を緩和することにより、市場や投資家によるチェック機能を活用していくことが重要である。なお、預金者等の個人情報流出の防止、信用秩序維持、ひいては銀行の公共性といった観点に留意すべきである。また、金融機関に対する検査・監督においては、公認会計士や監査法人といった外部監査人を活用するとともに、例えば英国の例に倣い、金融業界の内部に規制・検査・監督を行う自主規制機関を設け、受益者負担により官民一体となった効率的な検査・監督を実施していく仕組みについても検討すべきである。なお、その場合においても、自主規制の範囲・内容等を法律に位置付け、明確化すると共に、自主規制機関のガバナンスに十分留意し、同機関の社会公共性を確保することが重要である。
(2)新しい企業を起こしやすいシステムの構築
(提案の考え方)
経済活性化のためには、市場ニーズを的確にとらえ果敢にリスクに挑戦する新規創業と、既存企業の再構築という相互作用を働かせることが不可欠。そのためには、「起業」→「展開」→「退出」→「懐妊」→再「起業」というメカニズムを活性化させることが鍵。また、果敢にリスクに挑戦する起業家精神を持つ人材の輩出と起業に向けてのインセンティブを高める環境の整備も重要。
(主要な提案)
○新規創業を促進するために
[新規企業の株式公開促進]
・新規株式公開の申請書類作成に係る企業側の負担軽減
・公開企業の情報開示の徹底
・マーケットメイクの充実
[新規企業への支援機能の充実]
・ベンチャーキャピタルの投資発掘能力の充実
・エンジェル税制の利用促進
・専門家による新規創業の総合的支援
・ベンチャー企業自身の積極的情報提供
[分社化等の新規創業方策の充実]
・株式交換制度の導入等を通じた持株会社の設立円滑化
・持株会社の活用を促進するため、連結ベースの情報開示の充実、連結納税制度の導入の検討
○既存企業の事業転換の手法を充実するために
・M&Aの成功例のPR、M&Aアドバイザーの育成、匿名方式による未公開企業の売買市場整備等を通じたM&A市場の活性化
・会社更生における事業管財人の選定の公募化、申請後の一定の経過観察期間の確保など、再起しやすい倒産法制の再構築
○起業家精神を高めるために
・NPOを仲介とした中等教育段階でのビジネス教育の試み、ベンチャー企業等の場を活用したインターンシップの活用
企業は、人的資本、物的資本、技術等の有形・無形の経営資源が有機的に結びつき付加価値を生み出すものである。市場ニーズの変化に従いその結びつきが変化して最適な資源配分がなされることが必要であり、それが経済の活性化につながる。そのためには、市場ニーズを的確にとらえ果敢にリスクに挑戦する新規創業と、既存企業の再構築が相互促進作用を働かせ、経済全体として「起業」→「展開」→「退出」→「懐妊」→再「起業」といったメカニズムが活性化することが鍵となる。
新規創業促進の観点からは、エンジェルに代表される資金提供主体の充実や労働力等の経営資源確保の円滑化が重要であり、これまでに様々な施策、提言が行われてきている。これらに加え、今後必要とされるのは、部分的な手直しではなく経済全体の体系的・システム的な改革、特に、「リスクへの挑戦」と「リスクシェアリング」の仕組みを全体に組み込むような制度の構築である。そうした観点から、果敢にリスクに挑戦する起業家精神を持つ人材の輩出とそうした行動のインセンティブを高める環境を整備することが重要である。
【1】 成功報酬の確保によるインセンティブの付与
起業家にとって創業者利益を回収する最も代表的な手段は新規株式公開(IPO)である。株式公開はその他、【1】企業にとって資金調達力の増大と多様化(資金調達面でのリスク分散)、【2】知名度と信用力の向上などといったメリットをもたらす。
これまで、ベンチャー企業育成の観点から95年7月に店頭特則市場の開設等株式公開を促進する環境整備が行われてきた。しかし、このような市場の整備にもかかわらず、【1】ハイテク関連の新しい事業分野に勇敢に挑戦していくベンチャー企業の間には、店頭市場で株式公開をしようという意欲もみられるが、例えば登録申請の際に必要な書類の作成が負担となっている、【2】株式を公開する企業の側に、株主を重視し経営内容を積極的に公開し、新たな投資家を市場に呼び込み資金調達を行おうとする姿勢が乏しい、【3】ベンチャー企業等を中心とした公開銘柄株式の流動性を高めるために、売買に自己勘定を使って応じる値付け業務(マーケットメイク)が機能しておらず、投資家にとって魅力ある市場となっていない、等のため、新規企業の株式公開は伸び悩んでいる。
今後は、以下のような新規株式公開の促進策が考えられる。
1)企業側の負担軽減のため、登録申請の際の必要書類の中で主幹事証券間で共有できるものは共有するなど簡素化を図り、極力新規公開がしやすい市場となるような環境整備を進める。
2)株式を公開する企業について、情報開示の徹底を啓蒙し、投資家からみて透明で公正な市場となるようにすると共に、主幹事証券等においても市場を機能させていくという視点に立って、企業の成長のために的確な助言や支援を行っていく体制を義務付ける。
3)投資家に対し、店頭公開市場がハイリスク・ハイリターンではあるが、魅力がありかつ身近な投資先であるという意識を定着させるため、将来的には各個人が自己責任原則に基づいて株式投資を行えるようになることが望ましいが、当面証券業界や機関投資家がそのような意識定着の役割を担うようにする。
4)魅力があり流動性の高い市場を目指し、新規公開株式の値付けが的確に行われるように、マーケットメーカーとなるべき専門の証券業者が十分に存立しうるような環境整備に努める。
リスクに果敢に挑戦する起業行動へのインセンティブ付与の方法としては、その他、M&Aの活性化、当初期間の法人税免除あるいはある程度の利益は無税化することなどが考えられる。後者の場合、税負担の不公平性という問題が生じるであろうが、それは、経済活性化のための社会的コストとして位置付けるべきである。
【2】 創業支援機能の充実
新規創業時の資金調達については、従来自己資金や知人等の資金、民間金融機関からの借入が中心を占めてきたとみられるが、担保能力が十分でないことなどから、資金調達手段としては限界があったといえる。これに対し、米国においては、創業間もない企業の資金調達等に関しても、ベンチャーキャピタルやエンジェルが積極的な役割を果たしている。
我が国のベンチャーキャピタルの現状をみると、株式未公開の段階における企業の資金調達を支えることが期待されているものの、未だ十分には成熟していない。ベンチャーキャピタルの中には、横並びで保守的な融資態度や、企業がある程度成長し安定した段階での関与を行う傾向が強いことが指摘されている。
また、エンジェルについては、我が国においては仲々出現しにくいとされていたが、近年エンジェル税制の創設を通じた個人投資家による資金供給の促進などが図られており、今後こうした制度の利用が進むことが期待される。
さらに、新規企業が多数輩出していくためには資金面のみでなく仕入・生産・販売・人事・資金調達などの情報・アドバイスを提供するといったシステム的な支援が必要である。これまで、我が国の起業家は外部からの経営支援を好まない傾向が強く、特に技術を重視するあまり、仕入・生産・販売・人事などの経営情報の適切な管理を軽視するきらいがあった。また、そのようなビジネス支援サービスも比較的高額であった。
今後、創業支援機能の充実を図るため、以下のような点が重要である。
1)資金の供給源がより多様化し、かつ創業間もない企業への資金供給がさら に促進されることが望ましい。
i)ベンチャーキャピタルにおいては、人材の養成や投資能力の充実に努めるとともに、例えばある分野や業種に特化し他社との差別化を図るなどの努力をし、専門的な技術評価能力を蓄積した上で、新規企業への資金供給の面ではその中心的な担い手であるという認識を持ち、より企業側のニーズに合致した、かつ初期段階の投資に注力していく姿勢が求められる。
ii)既に創設されているエンジェル税制について、積極的な利用が図られるようその促進に努める。
2)起業を支援する意欲のある職業会計人や弁護士等の専門家がベンチャー支援機能を高め組織化し、起業家やベンチャー企業の輩出を総合的に支援する。
3)資金供給やその他創業支援を受けるベンチャー企業は、自らの魅力のPR 、正確で詳細な事業ビジョンや財務状況等についての情報提供などを積極的に行うように意識改革を行う。
【3】 柔軟な組織再編による市場開拓の推進
新規企業のみでなく既存企業も市場の動きに機敏に対応するため将来への革新的な事業の芽を作ることが必要である。その場合、人材、技術、資金、経営ノウハウ等を持つ大企業の良さと、スピード、機動性に優れるベンチャー企業の良さを併せ持つ企業内ベンチャーが有用である。また、総合商社等が、その豊富な蓄積を活用して、新規創業支援等に取り組んできていることも評価される。こうした企業内ベンチャー等は発展的に分社化等の形で進められることもある。平成9年12月の改正独禁法により、事業支配力が過度に集中することとなる場合を除いて、持株会社が認められるようになった。今後、企業内ベンチャーの分社化等を進める際に、経営の転換をより容易に行い、新規ビジネスに伴うリスクの低減を図るには、こうした法改正も踏まえた持株会社制度を活用することが考えられる。
ア 持株会社設立の容易化
持株会社設立の方法の主なものとしては、 1既存会社が事業部を子会社化し自らが持株会社になる方法、 2持株会社を新会社として設立して既存会社に株式公開買い付けをかける方法等がある。前者の場合には、登録免許税や現物出資に伴って必要とされる商法上の調査等の負担が必要になるが、その軽減について検討することが必要である。後者については、公開買い付けのために多額の費用が必要となるほか、対価として新会社の株式を用いるとしても、成功するかどうかは株主の意思次第で少数株主が残る可能性がある。こうした問題を解決するために、当事会社の株主総会決議に基づき、持株会社となるべき会社の新株と既存会社の株主が有する株式の全部の交換を行うことを可能とする株式交換制度を整備することが有効である。
イ 持株会社の魅力を向上させる環境整備
持株会社という形態自体を企業の利害関係者にとってより魅力あるものとするには、以下のような環境の整備を行う必要がある。
1)投資家が的確な投資判断をできるよう、持株会社自身だけでなく子会社も含めたグループの全体像がわかるような連結ベースのディスクロージャーを充実させる。このことは持株会社株主のガバナンスの強化にもつながる。
2)税制面では、我が国企業の活性化を図る観点から企業分割を促進するため、あるいは企業形態に対する税制の中立性を維持するため、連結納税制度の積極的な導入について、企業経営の実態や、商法等の関連諸制度のあり方、さらには租税回避や税収減の問題といった諸点を踏まえつつ、検討を進める。
3)持株会社導入によって持株会社と子会社従業員との間の労使関係上の問題が増加する可能性もある。持株会社制度の下でも、労使の合意による自主的かつ建設的な話し合いが、円滑な労使関係を維持していく上で有効であると考える。また、政府においても、労使協議の実が高まるよう適切な対応を図る。
【4】 事業の転換方法の充実に向けたシステムの整備
ア M&A市場の活性化
M&Aは、より俊敏さが求められるようになる経営環境の中では、新分野転換・進出の際の販路開拓や資金調達の問題解消、事業参入期間の短縮、取引関係等無形資産の一括獲得等のメリットがあり、【1】投資家による創業利益の回収方法として、【2】既存起業のリストラや新分野への進出方法として、【3】倒産や後継者不在の際に会社財産を活用する方法として、有効な手法である。
しかしながら、我が国では、【1】経営者の自社に対する愛着、自社売却は経営の失敗という連想、買収後のレイオフに対する不安、といった要因から売却へのインセンティブが低い、【2】情報の流通が不十分であるため買収企業と売渡企業との受給のマッチングが円滑になされていない、【3】純粋持株会社は、事業毎の収益性や経営状態が明確になりM&Aに活用可能だが、現行法制では例えば欧米に比べ合併形式が限定される、【4】メインバンクを中心とした株式持合い、長期雇用を背景にした内部昇進による経営陣の形成など、経営への外部圧力を嫌う企業体質がある、などのため欧米に比べM&Aの実績が少ない。
M&Aの活性化については、金融市場や労働市場さらには会社法制なども含め幅広い分野が関係している。これまで、金融ビッグバンによる金融市場の整備や労働移動の円滑化、合併手続の簡素化(報告総会の廃止、簡易合併制度の導入等)などが行われてきている。今後も、国際的な制度整合の必要性も踏まえ、現在進められている金融・労働市場の整備等の環境整備を着実に進めるとともに、さらに以下のような施策が必要である。
1)M&Aに対する理解を増進させ、M&Aの成功例をPRするなど経営戦略として自社売却というオプションが有効であることを広く啓蒙する。
2)買収企業と売渡企業との受給のマッチングを円滑に進めるため、国際的な制度整合にも配慮した会計制度など企業の情報開示の充実、M&Aの売り情報・買い情報の流通促進、M&Aアドバイザーの育成、匿名方式による売買市場の創出等の方策を進める。
3)合併方法の多様化として、例えば米国では可能な三角合併(X社と持株会社A社傘下のa社とが合併する場合、従前のX社の株主に対してA社の株式を割り当てる)を我が国においても認めるなど、M&Aを実施する上での自由度を確保する制度を整備するほか、持株会社制度の下でのM&Aに際して株主の権利が適切に保護されるように配慮することが重要である。
イ 再起しやすい制度の構築(倒産制度の再構築)
倒産を企業システム再編の一形態と考え、事業継続期間に蓄積された、人材・知識・技術・人脈等の有形・無形の経営財産を有効に活用しつつ、資源の最適な再分配を進めることが望ましい。そのためには、企業財産を完全に分解し消滅させてしまう清算ではなく、存続することが望ましいと考えられる経営資源については事業継続を前提にしうるような再建型の手続を充実させる必要がある。
しかし、現行の再建型倒産手続には、例えば、【1】会社更生手続は、経営陣の刷新等が前提条件となっていること、厳格で複雑な手続で膨大な時間が要することなどの要因によって、再建のための有力なスポンサーが見つけられず清算に移行する場合もある、【2】和議手続は、和議条件の履行保証がない、【3】手続申請時に清算か再建かの選択を行わねばならず、申請後の状況変化に応じ、変更することが難しい、といった問題点が指摘されている。
近年の社会経済構造の変化に対応し、1978年のアメリカ、94年のドイツなど各国で倒産法制が見直されている。我が国でも、法制審議会における検討を踏まえ、法務省が97年12月に倒産法制改正の検討項目を公表するなどの動きがみられる。いずれにせよ、意思決定と行動のスピード化に対応しつつ、経営資源の有効活用を図っていくために、以下のような施策が必要である。
1)法務省の検討項目で提示されている【1】中小企業等にも利用しやすい新再建型手続導入、【2】会社更生法の手続簡素化、【3】個人債務者の一部債務免除を含んだ再建手続導入等を中心とした制度の再構築をできるだけ早期に実現する。
2)特に、新再建型手続の導入に当たっては、法人、個人を問わず、また規模の大小を問わずあらゆる種類の事業者に適用されるような手続とする。ただし、本来整理されるべき事業が再建に向かうことのないような担保措置は必要である。
3)会社更生手続の中で、最も時間と労力のかかる企業財産の評価方法について、その多様化を検討する。また、事業管財人の選定を公募制にするなど、事業継続に不可欠なスポンサー確保が容易となるような工夫を検討する。
4)債権者、特に小規模の一般債権者の権利が不当に侵害されないようなセーフティネットを構築する。例えば、債権者等への十分な情報提供と異議申し立て機会の保証、少額債権者、下請け中小企業の債権等についての優遇規定等を整備する。
5)申請時における手続の選択を一定の経過観察期間の間保留することを認める、再建型の手続を一本化する、さらに倒産法制を全て一本化するなど、倒産法制の抜本的な整理統合について検討を進める。
【5】 「起業家精神」を高める社会風土の醸成と整備
起業・退出・再起業のメカニズムを活性化させるには、その主役となり、自ら新規事業・新規産業を創出しようとする「起業家精神」を有する人材が次々に輩出することが最も重要である。
我が国においては、【1】従来の初等・中等教育は、形式的平等主義、知識詰め込み型の色彩が強く、高等教育ではビジネス・起業に関する専門的でより実践的な教育が十分とはいえない、【2】就労に関する大企業志向、雇用情報の需給のマッチング不足等のため、中小・ベンチャー企業を中心に、必要な人材の確保が容易ではない、【3】「失敗」に対しては負の評価しか下さない傾向が強く再挑戦が難しいという社会的風潮がある、といった問題点が指摘されている。
人材の育成や労働移動の円滑化、多様な価値観を正当に評価する社会風土の醸成等も含め、起業による失敗を恐れない試行錯誤の繰り返しを促すような総合的な環境整備を行う必要がある。具体的な環境整備としては以下のようなものが考えられる。
ア 人材育成と人材確保
初等・中等教育においては、個人の能力・適性に応じ独創性・挑戦心・自己責任意識等を育てる教育を重視する必要があり、例えば、NPOを仲介とした実務専門家等の指導による模擬的な企業活動の体験などのビジネス教育(例として、米国におけるジュニア・アチーブメント・プログラム)、講師としての企業経営者等の招聘などを図る。また、高等教育においては、起業やビジネスに関する専門的教育を充実させるため、学部を超えた交流の促進、諸外国の講師や起業家等の招聘、ベンチャー企業等の場を積極的に活用したインターンシップ等を促進する。
ビジネス界においては、例えば、中小・ベンチャー企業等が優秀な人材を確保できるように、既存企業(特に大企業)からの人材流入等を促進するため、既に進められつつある有料職業紹介業の一層の自由化など、必要な人材の能力評価やそれに関する情報の流通促進等の仲介機能を整備するほか、企業年金のポータビリティの確保等を進め、労働移動の円滑化、適材適所の促進を図る。また、長期雇用等の日本的雇用慣行を考慮すれば、企業内起業家の輩出支援、第一線を退いた起業家や中高年者に創業意欲を喚起するベンチャー支援等を図ることも重要である。
イ 起業家の輩出を促進するような社会風土の醸成
職場、学校、地域社会等においては、様々な価値観や行動様式、例えば新規のアイデアや、「失敗」を通じて会得した教訓を活かし再度挑戦していくという精神を尊重し正当に評価するような社会的風土を醸成する。特に、退出した後も再度の起業に向けたシーズの開発・発掘のチャンスを積極的に与えるような「避難所(シェルター)的機能」が地域に根付くことが望まれる。例えば、アメリカのシリコンバレーにおけるような、多業種のベンチャーや大企業、大学・研究所、NPO、ベンチャー・キャピタル、弁護士、会計士などが共存し、相互の日常的な接触と恒常的な情報共有が行われるネットワーク型の「試行錯誤の場」をコミュニティレベルで形成し、そうした集積を守ることが、地域市民、特に成功者の義務だとするボランタリー精神を醸成することが望まれる。
3.個人の自立を支える環境整備
個人においては、各々の価値基準に従って主体的に選択することにより、自己実現を図ることが可能なシステムの構築が望まれるが、同時にこのシステムの下ではリスク管理等の自己責任が求められる。
就業について、各人の意欲と能力が十分に発揮され、自己実現が図られるためには、企業の経営状態や今後の事業展開等に関する情報をも踏まえ、職業やキャリアを主体的に選択していくことが求められる。このことは、個々人が常に職業能力の向上に努めることによって可能となるものであり、そのための環境整備が必要である。
また、投資・消費活動においても、多様化した各々の価値観を実現するために、多様な商品・サービスの中から、必要な情報の収集等を通じて、主体的に選択していく必要性が高まる。このため、企業等の供給サイドには、個人にとって最適な選択が可能となるよう、供給する商品・サービスの選択肢の拡大、多様化を図ることが望まれる。また、企業等は、個人が商品・サービスを選択するに当たり、当該商品・サービスの内容等についての情報や選択により起こり得る結果等を事前に十分認識できる情報提供システムを整備するとともに、行政は、個人の選択の結果、不都合や不利益が生じた場合の事後的な救済制度、紛争処理制度の整備等を行う必要がある。以下では、これらのための具体策を提案する。
(1)能力発揮のための環境整備
(提案の考え方)
個人が自己責任と自己選択を原則として、自己の意欲と能力を十分に発揮することのできるような職業選択や職業能力開発を行うためには、安心して働ける労働市場の環境整備や個々の労働者としての交渉力を強化する施策が不可欠。
(主要な提案)
○安心して働くことができる労働市場の環境整備
・新たに生まれる労働市場のルール整備
・ルール遵守のための市場監視機能の強化
○能力発揮の促進及び能力発揮機会の確保
・有料職業紹介事業等の規制緩和の一層の推進
・企業年金のポータビリティの確保
○能力発揮の阻害要因となっている社会システムの見直し
・所得税制上の配偶者控除、公的年金の第3号被保険者制度等のあり方の検討
○個別的交渉について労働者を支援するシステムの整備
・個別的交渉に際して専門家等のサービスを容易に受けられるシステムの構築
・個別的な苦情・紛争の処理システムの整備
今後、企業活動や労働をめぐる外的環境の大きな変化が見込まれる中、労働者各人の持つ意欲と能力を十分に発揮することのできる社会を実現する必要がある。一方で、労働者には、職業選択や職業能力開発など職業生活の各方面にわたって、自己責任と自己選択を原則として行動していく姿勢が強く求められることになる。
労働者が自由な活動を活発に行っていくためには、自己責任の前提となる自由な自己選択が実現される必要があり、このため、人々が安心して働くことのできる労働市場の環境整備や個々の労働者の交渉力への支援に資する以下の施策が進められるべきである。
第一に、働き方が多様化する中で、人々が安心して働くことができる労働市場の環境を整備することが必要である。労働者派遣事業の対象業務を拡大する一方で、これが適切に実施されるよう派遣労働者の保護の強化を図るなど新たに生まれる市場のルールを整備するとともに、ルールが遵守されるよう市場監視機能の強化を図る必要がある。
第二に、労働者が職業能力開発によって高めた能力を最大限に発揮するためには、能力を発揮できる機会を得ることが肝要である。企業にとって自社従業員が能力発揮できる機会を継続的・安定的に確保していくことは、激化する市場競争に打ち勝っていくためには今後とも重要である。しかし、労働者にとって、自らの職業能力が企業内で十分に発揮できる機会を得られないのであるならば、自己の能力発揮の場を他に探し求めることが一層重要となる。こうした観点からは、労働者の自発的な転職を円滑にするための転職市場の整備が必要である。具体的には、有料職業紹介事業などの規制緩和を進めるとともに、転職に際してのポータビリティの確保が困難となっている企業年金制度など、転職者にとって不利益となっている制度について検討し、適切に見直していくことが求められる。
第三に、労働者の能力発揮の阻害要因となっている社会システムの見直しが必要である。所得税制上の配偶者控除・配偶者特別控除制度、企業における配偶者手当ての支給基準、公的年金の第3号被保険者制度、医療保険制度における被扶養者の取扱いが要因となって、多くの有配偶パートタイム労働者等が就業調整ないしは収入調整を行っているとみられる。こうした制度等の存在は、全体として有配偶パートタイム労働者等について労働供給抑制的であるのみならず、勤労意欲や職業能力向上意欲に対してもディスインセンティブを及ぼしていると考えられ、そのあり方に関し、検討することが求められる。
第四に、個別的交渉について労働者を支援するシステムを整備する必要がある。年俸制など実績主義的な人事管理制度の広まりや、就業形態の多様化の進展など、人事管理の個別化の進展は、労働契約における個別的な契約の役割を高めることになる。こうした中で、個々の労働者が使用者との交渉を対等に進め、市場取引を円滑に行う上で、公平で透明な査定・評価制度を整備するとともに、個別的交渉において専門家等のサービスをたやすく受けられるシステムが求められる。さらに、今後労働契約における個別的な契約の役割の高まりを背景として、契約の交渉、解釈、履行の過程において生じる苦情・紛争が増大すると予想される。現在のシステムでは、これらの苦情や紛争への対応が十分なものとなっていないと考えられるため、個別的な苦情・紛争を簡易・迅速に処理することが可能なシステムを企業の内外に整備していく必要がある。
(2)自立した個人による投資・消費活動を支える環境整備
(提案の考え方)
個人が、市場において積極的なプレイヤーとしての役割を果たすためには、その多様なニーズに対応し得る多様な商品・サービスの選択肢を確保していくことが不可欠。特に、我が国の豊かな個人金融資産を有利に運用する機会の拡大が必要。また、個人が的確な判断に基づき投資判断や商品選択を行うことができるようにするためには、企業等と消費者等の間にある情報格差を解消することが不可欠。
(主要な提案)
○資産運用機会の拡大のために
・確定拠出型年金の導入による企業年金資金の運用活性化
・会社型投信等による投資信託の運用活性化
○情報格差解消のために
・情報公開法や消費者契約法の早期制定等による、行政や企業等の有する情報が適時適切に入手できるシステムの構築
・商品・サービスについて個人が容易に理解し判断できるような中立的な第三者機関等による比較情報の提供、職能集団等の比較広告規制の緩和
・消費者の判断を助ける情報としてのマーク表示の基準・認証のあり方の見直しを通じた信頼性の向上
・投資情報に係るアナリスト、評価機関等の育成と責任の範囲、問い方等の検討
個人が、市場において積極的なプレイヤーとしての役割を果たすためには、その投資活動・消費活動における多様なニーズに対応し得る多様な商品・サービスの選択肢を確保していくことが望まれる。このためには、企業等による多様な商品・サービスの供給が不可欠であるが、これを阻害する要因があれば早急に除去し、市場原理に基づく活力ある事業活動を通じて、多様な選択肢が確保されるようにしていくことが必要である。
【1】 資金運用機会の拡大ー確定拠出型年金の導入を中心に
我が国の個人金融資産をみると、1996年末で1209兆円と1980年末の約3.5倍の規模に至っているが、その構成は預貯金が大宗を占めており、金融システム改革を推進することにより、個人の金融市場における利便性を向上させ、その金融資産に関し、より有利な運用機会の拡大を図ることが望まれている。
急速な高齢化の進展等により公的年金だけでは老後保障に十分ではなくなる可能性があるため、それを補完する企業年金への期待が高まってくる中で、我が国の代表的な企業年金である厚生年金基金、税制適格年金の資産は、年々増加し、98年3月末の推計では約70兆円に達している。
しかし、この30年間順調に発展してきた企業年金もバブル崩壊後の運用環境の低迷を背景として積立不足が生じ、財政の健全性に問題が生じている年金基金も出てくるなど、従業員の老後保障の観点から約束された年金受給権の確保が重要な問題となっている。また、企業経営の観点からも、年金財政の健全性、透明性を図ることが長期的な企業の競争力に影響を与えるようになっている。さらに、これまでの企業年金制度は長期雇用を前提として設計されているため、勤続期間の短い労働者のニーズに応えるような給付は困難な面があり、短期勤続者に不利な現行の企業年金制度が、自発的な転職の阻害要因となっているという指摘もある。
こうしたことから、現在の確定給付型年金に加えて、選択肢の一つとして確定拠出型年金の導入が必要であると考えられる。確定拠出型年金は、拠出した掛金と運用収益の合計額に基づいて給付を行う仕組みであり、運用リスクは加入員が負い、給付額はあらかじめ確定していないものの、ポータビリティが確保され、個人の年金原資が常に明確であり、運用に関与できるというメリットがある。
米国で採用されている401(K)プランと言われる確定拠出型年金プランは、各従業員ごとの口座において、企業が用意した運用プラン(株式型、債券型)などの中から従業員の選択により資産運用が行われる。また、運用益については給付時まで課税が繰り延べられる税制上の優遇措置が講じられている。近年、米国では、資金の運用手段としては、安全性の高い資産から株式等の収益性の高い資産へとシフトしてきており、現在では総資産の半分近くが株式投信で運用されている。
我が国においても、金融ビッグバンの進展により様々な金融商品が登場し、その運用競争が活発になることが予想されるが、その中で個人金融資産の多くを占める預貯金から投信などのリスクマネーに資産がシフトすることが見込まれている。確定拠出型年金の導入により、年金の運用においてもこの傾向が強まることが考えられる。さらに、株主の資格によって投資家の利益保護を図ろうとする会社型の投資信託等により、投資信託の活性化を図ることが必要である。このような自己責任による資金が資本市場に流れ込めば、その運用規律が厳しくなることによって資本市場のガバナビリティが高まることになる。結果として、年金基金などの機関投資家にはコーポレートガバナンスの担い手としての役割も期待されるのである。
確定拠出型年金の導入に当たっては、従業員に対する支払保証や情報開示等の面についても、現行の企業年金制度を含めて明確にすべきとの指摘や、加入者の年金資産の個人別管理の在り方、加入者に対する資産運用の選択肢の提供方法、投資教育など検討すべき点はある。一部ではすでに確定拠出型年金の導入について具体的に検討が進んでいるが、こうした問題点についても、今後十分検討を進め、確定給付型年金に加えて確定拠出型年金の導入を図るべきである。企業年金に関しては、多様な選択肢の中で、従業員の受給の保全にも配意しつつ、老後の生活に対する個人の自助努力を奨励することが重要である。
【2】 情報格差解消のための体制整備
今後、より多様な商品・サービスが供給されるようになると、個人は、各々の価値基準に応じて多様な選択肢の中から選択する自由が拡大する一方、失敗する可能性も増大するものであることを十分認識する必要がある。
しかしながら、企業等の供給サイドと消費者等の需要サイドとの間には、前者に情報が圧倒的に多いという情報の非対称性が存在する。両者が対等の取引を行い、個人が的確な判断に基づきリスクテイクできるようにするためには、その情報格差を解消するための体制整備が不可欠となる。すなわち、個人が、投資活動、消費活動を行う際に、多様な商品・サービスの中から、必要な情報を正確かつ分かり易い形で入手し、自己の判断により、各々のニーズにあったものを公正な形で選択・取得・利用できるよう、環境整備を図る必要がある。
具体的には、行政や企業等の各経済主体が有する情報について、個人が必要とする場合、その情報が適時適切に入手できるような、あるいは、個人が請求しなくても本来伝えられるべき情報については、その情報の提供・説明が徹底して行われるようなシステムが構築されるべきである。このため、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律案」の早期の成立と着実な施行が望まれるとともに、現在準備が進められている消費者契約法(仮称)の早期制定により、行政や企業等の供給サイドに、個人が必要とする情報等を積極的かつ適正に提供するインセンティブを与える環境を整備していくことが必要である。
これらの情報については、専門的知識がなくとも、個人が容易に理解し、判断できるような形で提供されることが重要である。そのため、例えば、企業等に対して中立的な第三者機関等による様々な企業等の商品やサービスについての比較テストの結果や、どの商品・サービスにどのような苦情が寄せられているかといった比較情報の提供が有効である。我が国では、国民生活センター等により、毎月、いくつかの商品テスト等が行われ、その情報が雑誌やインターネットを通じて提供されているものの必ずしも十分とはいえず、今後は、可能な限り多くの商品やサービスについて、個人が、最新情報をいつでも手軽に入手できるシステムの確立が必要である。また、これと併せて、企業、職能集団等の商品・サービスに係る比較広告規制の緩和を図り、個人の適切な判断に資することも検討に値する。
マーク表示も個人とくに消費者の判断を助ける情報の一つと考えられる。しかしながら、一部には、その表示内容・方法に不備な面も見られるため、消費者の視点から見直し、改善する必要がある。また、マーク表示の内容と商品の実際の品質・性能等が一致しない等信頼性に関する問題も見られることから、その基準・認証のあり方も見直していくべきである。
金融商品・サービスについては、アナリスト、フィナンシャル・プランナー等による投資情報を客観的で分かりやすく個人に提供する機能も重要性が増すものと考えられる。また、今後は、個人にとって簡便かつ効率的な資産運用手段として投資信託の重要性が増すと考えられることから、その評価機関の発展が望まれる。さらに、情報を仲介するという意味からはマスコミの果たす役割にも期待されるところが大きい。ただし、こうした情報仲介機能の活発化の中で、個人との間でのトラブル増加の懸念もあることから、情報を供給・仲介する主体(アナリスト、評価機関、マスコミ等)の責任の範囲や、それを踏まえた責任の問い方等についても検討する必要がある。
今後、こうした情報開示の徹底や情報供給体制の整備・充実等により、様々な情報が消費者等の需要サイドに提供されることとなるが、個人においても、 こうした比較情報やマーク表示等は、あくまでも自らが判断し選択するための多くの参考指標のうちの一つとして捉えるべきであり、これらを踏まえて主体的に比較・検討する姿勢が必要となる。こうしたことから、行政には、個人がリスクテイクしていく必要があること等について啓蒙活動を図っていくほか、種々の状況に対応し得るよう、消費者教育、独占禁止法教育、情報対応能力・技術等について学習、訓練できるような機会や場を整備していくことが望まれている。
4.負担と受益の明確化による多様なニーズに応える効率的な行政の確立
「行政改革会議最終報告」(1997年12月)では、総合性、機動性、効率性、透明性、国際性等の各側面において様々な機能不全を生じている行政システムを改革し、21世紀の日本にふさわしい行政組織を構築するには、まず、国家行政の機能とその責任領域を徹底的に見直すことが前提となり、「官から民へ」、「国から地方へ」という原則がその基本とならねばならないとしている。また、官民の役割分担については、行政改革委員会の「行政関与の在り方に関する基準」(1996年12月)を基本とし、民間でできるものは民間に委ねる、市場原理と自己責任原則に則り、民間活動の補完に徹する、との基本的な考え方をとるべきであるとしている。
また、地方における行政のあり方についても、「官から民へ」の基本原則の下、民間活動の補完に徹しつつ、スリム化・重点化を図っていくことが重要である。
政府の役割、行政のあり方としては、以上の考え方によるのが基本であるべきと考える。このような考え方について、公共投資に関しては既に一定の成果がみられつつあるが、それ以外の公共サービスを含め今後更に検討を進めるべきである。その際には、公共サービスの提供について、国民の間に負担と受益の関係の明確化が図られ、より効率的な公共サービスが提供されるようになることが同時に必要であると考える。
それでは、実際、「官から民へ」、「国から地方へ」の基本原則に則り、公共サービスの提供をどのように具体化していくべきであろうか。以下では、その方策の一つとして、具体的な提案を行う。
(1)公共サービスへの民間活力の導入
(提案の考え方)
「官から民へ」、「国から地方へ」の基本原則に則り、より効率的な公共サービスの提供を具体化。
(主要な提案)
○PFIの考え方の導入
社会資本整備の分野について、BOT方式、公共施設と民間施設の一体的整備、民間企業による社会資本の建設等を一層推進するため、英国で公共サービスの分野に幅広く導入されてきたPFIの導入が有効。
国会に提出されたPFI法案に基づき、官民の役割とリスク分担の明確化、事業や事業主体の選定に当たっての客観的評価や公的支援措置のあり方等に関し、英国等における優れた点を取り入れながら、効率的・弾力的な公共サービスが提供されるよう法律の考え方を具体化していくことを期待。
○第三セクター方式の見直し
第三セクターにおける官民の役割やリスク分担を明確化し、双方の特性が生かせる協力関係の構築が必要。また、経営の見通しの立たない第三セクターは、すみやかに破産手続も含めた抜本的対策を検討すべき。さらに第三セクターの新設に当たっては、経営破綻時の処理も含めた官民の役割やリスク分担、経営評価の手順、地方公共団体による支援と関与の基本方針等をあらかじめ明確化しておくことが必要。
○公的金融の見直し
より市場規律と財政規律が機能するシステムへと改革するため、コスト分析手法の導入、 債務保証等手法の多様化、市場原理と調和する資金調達が重要。
【1】 PFIの考え方の導入
PFI(=Private Finance Initiative)とは、広く、これまで公的部門が提供してきたサービスやプロジェクトの建設や運営を民間主体に委ね、政府はサービスの購入主体になるという民間資金構想をいう。英国においては、社会資本整備をはじめ、公共サービスの分野に、幅広くPFIの考え方が導入されているが、PFIが実績を上げた背景としては主に以下の点が挙げられている。
1)租税という対価に対して最も価値のあるサービスを提供するというVFM(=Value for Money)という基本的考え方が徹底されていること
2)民間に移転するリスクと収益機会を明らかにし、その結果について行政は一切責任を取らないという徹底した官民役割分担が確立していること
3)英国には行政からも議会からも独立した会計検査機関が設置されており、通常の使途監査に加えて税金の使われ方の効果評価(VFM監査)を行い、問題がある場合には改善を勧告し、議会が公表するというチェック機能が存在していること
4)公共部門であっても事業実施にかかるコストを明らかにし、効率性において民間の競争にさらされているという競争環境にあること
これらの諸点は我が国において「官から民へ」という原則を基本としていくに当たり、参考になるものと考えられる。
社会資本整備の分野についてみると、我が国においては、既に民間活力を活用した各種の整備手法が導入されてきているが、今後、これらの整備手法に加え、
・民間企業が社会資本を建設し、一定期間所有及び運営(コストは料金徴収により回収)をした後に、施設を公共主体に譲渡する方式(BOT方式)
・公共施設と民間施設を一体的に整備する方式(単独で実施する場合より効率性が向上)
・公共主体に代わって民間企業が社会資本を建設し、コストは公共主体からの収入により回収する方式
等を一層推進する必要がある。
これらの方式におけるファイナンスの手法としては、プロジェクト・ファイナンス(プロジェクトの収益を返済財源とし、またその資産を担保として行われる借入、債券・株式の発行等によるファイナンス)が考えられる。また、地域住民の日常生活に密接に関連した施設や設備の整備に当たっては、コミュニティ・ボンド(地域の住民や企業を主たる引受け者とした債券)を活用することにより、地域のニーズにあった施設・設備の整備が進むとともに、民間企業のビジネス機会の拡大にも資すると考えられる。
今般、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案」が国会に提出されたところである。
今後は、この法律を受け政府内の推進体制を整備していくとともに、基本方針や実施方針において、官民の役割とリスク分担の明確化、事業や事業主体の選定に当たっての客観的評価や公的支援措置のあり方等に関し、英国等における優れた点を取り入れながら、より効率的な公共サービスが提供されるよう、また、施設の特性や地域のニーズに対して柔軟かつ弾力的に対応できるよう法律の考え方の適確な具体化を行っていくことが期待される。
【2】 第三セクター方式見直しの視点
今後の社会資本整備における民間活力導入に当たっては、運営の非効率が指摘されている第三セクターの問題点を踏まえ、官民の役割やリスク分担を明確化し、双方の特性が生かせる協力関係を構築していくことが望まれる。
現在、地方自治法の規定に基づき、地方公共団体が4分の1以上を出資する法人については監査委員による監査等が行われているが、第三セクター運営の健全性を確保していくためには、第三セクター自身が住民に対し積極的に経営情報を開示し、運営に関する説明責任(アカウンタビリティ)を果たしていくことが重要である。
既存の第三セクターのうち経営の見通しの立たないものについては、公的資金の投入等により対策の先送りをするのではなく、すみやかに、破産手続も含めた法的処理を始めとした抜本的な対策を検討すべきである。経営を継続するものについても、公共の利益と民間の営利性との調整を図る経営形態としての第三セクターがふさわしいのかを再検討する必要がある。
さらに、今後の第三セクターの設立に際しては、経営破綻時の処理も含めた官民の役割やリスク分担、経営評価の手順、地方公共団体による支援と関与の基本方針等をあらかじめ明確化しておくことが必要である。
【3】 公的金融の在り方
公的金融については、近年、資金の受動性から生じる規模の拡大、そこから生じる民業の圧迫、また、見えざる将来の財政負担をもたらすといった問題等が指摘されてきている。公的金融は、欧米主要国でも幅広い分野で活用されており、民間経済の「市場の失敗」の補完に関し、有償資金を活用する金融的手法により財政政策を実現する手段として、その基本的役割や必要性は今後とも存在すると考えられる。しかし、経済社会が成熟化し、民間部門の対応力も向上している中、今後進展する「官から民へ」の原則の下、行政のスリム化、重点化を図る行政改革や市場原理の貫徹するシステムの構築を目指す金融システム改革等を踏まえ、公的金融のあり方については、民業の補完に徹底し、そのスリム化、重点化を図るべく、制度の大幅な見直しを図る必要がある。
また、公的金融をより市場規律と財政規律が機能するシステムへと改革するため、その効率化に向けて、政策・事業について客観的な判断・評価を可能とするコスト分析手法の導入、民間のイニシアティブを補完するような債務保証や住宅債権の流動化といった手法の多様化、市場原理と調和する資金調達等が検討されることが望まれる。
なお、郵貯については、今後、金融システム改革が進む中、市場原理が徹底されていくことを踏まえたものである必要があり、その全国的に最低限必要な金融サービスの提供という社会政策的な役割も市場原理を阻害しない形で検討されるべきであると考える。
(2)地方分権型行政システムにおける公共サービスの新たな構築
(提案の考え方)
地方分権型行政システムの構築にあたっては、地方公共団体が自主性・自立性をもって、地域の首・闔臂陲鳳茲辰森埓・鮓﨓・・帽圓辰討い・箸箸發法・楼茲旅埓・蓮・楼莉嗣韻・・・燭舛之萃蠅掘△修寮嫻い蘯・・燭舛・蕕Δ箸い・嗣閏・・・靄棔・・鹿霈w) こうした基本を生かしていくために、政策に対する評価機能の充実強化と不断の見直し、住民参画の促進、社会資本整備における国と地方との役割分担と連携による総合的推進が不可欠。
(主要な提案)
○政策評価の充実のために
・政策評価のルール化
・民間有識者を加えた第三者的評価の導入による政策評価の客観性と透明性の確保
・既存事業の再評価システムを、現在実施中の国の直轄・補助事業から、地方単独事業、非公共事業へ拡大。その際、再評価の結果、中止・休止する事業の残債務処理に関するルールの明確化
・評価手法、事前事後における評価の結果等各種情報の開示
○住民参画の促進のために
・事業構想段階で、住民の関心を喚起する、分かりやすく簡潔な広報
・住民との意見交換会における事業のメリット・デメリット、複数選択肢の提示
○社会資本整備における国と地方との役割分担と連携のために
・新設・既存双方の施設について複数の市町村が共同して効率的に利用するシステムの構築及びそのインセンティブを与える仕組みの形成。
・限られた財源の下で住民意思を最大限体現化した地域づくりマスタープランの構築。その際には、国と地方、官と民の役割分担の明確化と連携、評価機能の充実による施策の優先度の決定、地域連携の推進等が必要。また施策の策定・実施・評価に至る一連の過程への住民参画の促進が不可欠。
国民の多様化した価値観に対して、国が全国画一の統一性と公平性の価値基準を押し付け、地方がそれに従うということはもはや時代錯誤になってきており、中央集権型の行政システムからの転換が求められている。
今後は、地域のことはできる限り住民に身近な地方公共団体が自主性・自立性をもって、地域の首・闔臂陲鳳茲辰森埓・鮓﨓・・帽圓辰討い・蔽賃亮・・砲箸箸發法・楼茲旅埓・蓮・楼莉嗣韻・・・燭舛之萃蠅掘兵・雰萃蝓法△修寮嫻い蘯・・燭舛・蕕Α兵・弊嫻ぁ砲箸い・嗣閏・・箸魎霑辰箸垢訝亙・・・森埓・轡好謄爐鮃獣曚靴討い・海箸・斗廚任△襦・・鹿霈w) 地方公共団体の自立という団体自治の観点からは、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえつつ、国と地方公共団体の財政関係についても基本的な見直しを行う必要がある。そのためには、地域住民が自ら負担し、地方公共団体が自ら財源を確保し自己の責任において地域行政を主体的に運営するという財政的自立を確立するとともに、住民の受益と負担の対応関係をより明確化するという観点が肝要であると考える。
このような財政的自立により、地方公共団体は、限られた財源の下でより効率的かつ効果的な政策運営が求められることになる。このため、政策に対する評価機能を充実強化し不断の見直しを行うとともに、その過程で情報を開示し、住民に対する説明責任を果たしていくことが重要となる。
【1】 政策に対する評価機能の充実強化と不断の見直し
従来、我が国の行政では、国においても地方においても、政策の効果やその後の社会経済情勢の変化に基づき政策を積極的に見直すといった評価機能は軽視されがちであった。しかし、近年、政策の効率的かつ効果的な実施が強く求められる中で、政策の実施段階で常にその目的・効果を点検し、不断の見直しや改善を加えていくことが要請されている。このための具体的手段として、政策立案の事前事後に、厳正かつ客観的な評価を行う仕組みを充実強化することが重要である。
同時に、このような評価機能は、当該政策についての住民に対する説明責任を遂行する上で不可欠な要素である。評価の過程で各種情報を開示し、行政の公正・透明化を図ることが必要である。
地方公共団体において、政策評価に基づき不断の見直しが行われるためには、効果が薄くなった政策について継続が適当と認められない場合は休止又は中止とすることの基準の明確化・ルール化が極めて重要である。
現在、いくつかの地方公共団体において、数千にわたる多種多様な事務事業に係る統一的な評価システムの導入が試行されているところである。また、公共事業については、新規採択時の費用対効果分析や、その後の状況変化を踏まえた再評価システムの導入に向け検討が行われている。
一般的な政策評価のルールとしては、次の図のように整理しうる。
図 一般的な政策評価のルール
Ⅰ 地域の状態や公共サービスの現状に対する評価と住民ニーズの把握・評価
i 地域の現状や公共サービスの現状に対する評価
現状水準の指標化(公共サービス成果指標、住民満足度指標等)と目標水準に対するギャップ(他地域比較を含む)の把握
・各種統計調査による地域の経済社会の現状分析・評価
・アンケート調査や住民意識調査等による公共サービスの現状評価
ii 公共サービスの新規立案や改善に対する住民ニーズの把握・評価
・情報公開(上記iによる現状評価結果の住民開示及び、これを踏まえた事業構想案や今後の政策決定の進め方等)
・アンケート調査等による意見募集
・住民の提案と選択が可能なシステム整備(意見交換会等における具体的な務事業立案に向けた住民ニーズの把握と問題点の検討)
Ⅱ 新規事務事業の立案過程における評価
i 事業目的の明確化及び成果指標の設定
・目的の明確化(施策意図、総合計画等における行政目的との整合性)
・目的達成度を計測するための客観的な成果指標の設定
ii 費用対効果分析
Ⅲ 事務事業開始後の環境変化を踏まえた評価
i 環境変化の有無についての定期的な点検
・事業を取り巻く社会的状況や住民要望の変化の有無の把握
ii (iを踏まえた)事業評価
・目的の妥当性の評価
・所期の成果達成の可否、更なる成果向上の余地の検討
iii 開始後の環境変化が認められる事業の再評価
Ⅳ 改革案の作成
i 施策の改革の方向性及び具体的改善策の提示
ii 施策を休止、中止する場合にはその影響と対処策を整理
政策評価のルール化を図っていく上では、今後、以下のような取り組みが重要になると思われる。
・民間有識者等を加えた第三者的評価の導入による評価の客観性・透明性の確保
・再評価システムについて、国の直轄・補助事業以外の地方単独事業、さらには公共事業以外についても導入すべきである。また、地方公共団体においては、再評価の結果休止又は中止とする事業について、残る債務をだれ(国、地方公共団体等)がどれだけ負担するかが重要な問題であり、国においても、残債務の処理に関するルールを明確化していく必要がある。
・国においても、評価手法の開発や評価の実施に関して地方公共団体に対する情報提供等を行い、国と地方との取り組みの連携を図っていくことが重要である。また、それぞれの地域が置かれた状況やそれに対応して採られた政策効果を、外部から客観的に評価し情報提供することも必要である。その一つとして、各地域における社会資本整備の現状と、それによる各地域の生活環境の利便の度合いや経済活動の現状等とを客観的に評価し地域指標として公表することも有用である。
【2】 住民参画の促進
新たな地方分権型行政システム構築のためには、地方公共団体においては、今まで以上に、その政策形成過程等へ住民やその地域で活動する人々の広範な参画を促し、行政と住民との連携・協力に努め、住民の期待と批判に鋭敏かつ誠実に応答していくことが重要になる。このため、政策形成過程での住民意思の把握・反映に努めるとともに、住民ニーズに即し、情報内容の充実、提供方法の多様化等を図るものとする。
なかでも、地域づくりへの住民の参画意識の高まりにこたえ、地域づくりにおける住民参画と合意形成のシステムを整えることが重要であり、特に、地域づくりに係る土地利用や基盤整備については、計画段階から住民意見を広く求める体制を整備する必要がある。
住民参画は、政策を正当化する根拠としての形式的・手続的手法にとどまることなく、政策形成過程において多様な住民の意思を反映し、住民ニーズを政策に反映させる手段としてより実効的に機能していくことが重要である。このため、その運用において行政側も、住民の関心や参加意欲を喚起し、建設的な意見交換が行われるような環境整備に取り組むべきである。
具体的には、例えば以下のような試みが考えられる。
・事業構想段階での広報に当たり、情報提供の仕方についても、単に構想全体を公告するだけでなく、併せてそのポイントを分かりやすく簡潔に示すことで、広く住民の関心や参加意欲を喚起する。
・住民を交えた意見交換会のテーマ設定に当たっては、事業を行う場合と行わない場合のメリット・デメリットの比較や、複数の選択肢の比較を議論の材料として提示し、事業の当否について具体的かつ建設的な議論が行われるよう努める。
また、近年、ボランティア活動や市民活動の高まりとともに、個人の自発的参加による民間の非営利組織(NPO)が多数誕生している。NPOは、行政が汲み取りきれない住民の声を代弁し行政に対し積極的に提言するというアドボカシー(提言型市民活動)のシンクタンクとしての機能をも果たしている。例えば、都市再開発に当たり、計画段階から住民の意向を汲み上げ、実施計画の作成に参画するといった活動もみられるところである。
住民自治を強化する観点から、地方公共団体においても、このような新しい機能を持ったNPOを独立した主体として認め、行政との対等なパートナーシップを形成していくことが望まれる。のみならず、例えば、環境保全等に当たり必要な住民のコンセンサスを得る上で、専門的知識を有するNPOと協力して進めていくことは、行政にとっても効率的な事業の実施につながるものである。
【3】 社会資本整備における国と地方との役割分担と連携による総合的推進
地域の自立を促進し、活力ある地域社会を形成するため、異なる資質を有するなどの市町村等地域が、地域の選択に基づき、資源、魅力を広域的に共有し、相互の機能分担と連携を、都道府県境を越えるなど広域にわたり進めていくことが必要である。
これまでの社会資本整備をみると、近接する市町村が類似の施設を建設し、その結果、適正規模を下回ることとなり、施設の遊休化や運営費の赤字累積といった非効率を招いている例が多々みられる。
このような問題点を解消するためには、新設する場合はもとより既存施設についても、複数の市町村が共同して効率的に利用するシステムを構築するなど、広域的な観点に立った適切な対応を講じていくことが必要である。
そのような取組みの基礎として、連携意識の醸成を進めるとともに、広域連合や一部事務組合等既存の広域行政制度の活用等により地域間の連携主体の円滑な形成を図ることが重要である。また、地域の取組みが行政の効率化をもたらすものである場合には、国もそれにインセンティブを与えるといった支援の仕組みが必要である。
また、地方公共団体における総合的かつ計画的な行政の運営を図るため、現在、地方自治法に基づく市町村の基本構想や、都道府県の総合計画が策定されており、地域づくりの基盤となる社会資本整備もこれらの計画を踏まえて推進されているところである。
一方、少子・高齢化や情報化の進展、環境問題の顕在化といった経済社会の変化に伴う個人のライフスタイルや産業構造の変化は、それぞれの地域の経済社会においても、新たな公共サービスへのニーズ(在宅介護や地域医療ネットワーク等)を発生させるとともに、新たな産業創造の可能性(情報通信産業や情報通信手段を活用した在宅勤務、遠隔地勤務の発生等)も含んでいる。それゆえ、社会資本整備のあり方も、ナショナルミニマムを確保する観点からの社会資本整備に加えて、これらの新しいニーズに対応した整備が重要になってくる。また、限られた財源の下での地域の社会資本整備に当たっては、可能な財源の下でのプロジェクトの優先順位を明確化するとともに、経済社会情勢に応じて不断に見直していくことが不可欠である。
しかし、既存の地方公共団体における基本構想等では、これらが必ずしも十分に行われてきたとは言い難く、今後このような視点での取組みが必要となってくる。
地方公共団体が主体となって、これからの総合的な地域づくりを推進する上では、地域の経済社会の変化に伴う新たなニーズを見極めつつ未来を展望し、限られた資金の中で住民の意思を最大限に体現化した地域づくりのマスタープランの構築が求められる。その上で、これを踏まえて地域の生活環境や産業基盤を計画的・総合的に整備していくという視点が不可欠であると考える。
このようなマスタープランの立案に当たっては、団体自治確立の観点から、国と地方・官と民の役割分担と連携、評価機能の充実による施策の優先度の決定、地域連携の推進等を明確にしていくことが必要であると考える。さらに、住民自治の観点から、施策の策定・実施・評価に至る一連の過程への住民参画を明確化するとともに、マスタープランの策定自体においても実効性ある住民参画の構築が重要であると考える。
5.NPOの健全な発展に向けた環境整備
(提案の考え方)
企業、個人、政府といった枠の中では解決しきれない問題についても、NPOという新しい主体の役割を加えることによって解決策を見出すことも可能。NPOを企業部門や政府部門から独立した第三のセクターとして認知し、支援して、経済社会システムの中に組み込んでいくことが重要。
(主要な提案)
○NPOの活動を支援する「特定非営利活動促進法」の実効性の確保のために
・法の円滑な施行に向けての関係者への十分な周知や、条例の制定に向けた万全の準備
○NPOのさらなる活動活性化のために
・NPO自身による活動内容の情報公開の推進により、NPOの活動が評価・選択されていくシステムの形成
・NPOの財政基盤強化のための税制上の措置の検討
・政府、企業、大学とNPOとの間の人材交流、雇用環境の整備による人材の確保、NPO教育の充実等による人材の育成
・NPOの事業体としてのマネジメント、提言可能なシンクタンク機能、これらを強化するネットワークの一体的推進とそれに対する政府の支援
(1)「特定非営利活動促進法」の制定
我が国において、NPOの名の下に、市民活動団体、ボランティア団体、NGO等の活動が注目され始めたのは1980年代に入ってからである。その後、95年1月の阪神・淡路大震災を契機にNPOの活動が国民の強い脚光を浴び、急速な進展をみせることとなった。こうした状況を背景として、本年3月、福祉、環境、災害救援、国際協力など一定の非営利活動を行う団体に対して簡易、迅速な手続きにより法人格を付与し、その円滑な活動を促進するために、「特定非営利活動促進法」が制定されたところである。
この法律では、団体に対する政府の監督を必要最小限度に止め、その活動の是非は団体情報の開示による国民の判断に委ねることとしている。今後、団体側には情報公開に耐え得る管理運営の体制を作り、国民に対して活動の透明性を担保した上で社会に役立つ活動の実績を上げていくことが求められる。一方、都道府県をはじめとする所轄庁には、法の円滑な施行に向けて、関係者への十分な周知や、条例の制定など万全の準備を行うことが求められる。
(2)今後の環境整備
NPOは、これからの経済社会における新しい主体として、活動目的に応じて、その特徴を活かし、様々な機能を発揮することができる。今後再構築されるシステムの中で、企業、個人、政府といった枠の中では解決しきれない問題についても、NPOという新しい主体の役割を加えることによって解決策を見出すことも可能である。こうしたことからは、NPOを企業部門や政府部門から独立した第三のセクターとして認知し、支援して、経済社会システムの中に組み込んでいくことが何より重要であると考える。そのためには、以下のような環境整備をすすめていくことが重要である。
【1】 活動評価のためのシステムと情報公開
国民の支持するNPOには寄付やボランティアや公的資金が集まり、評価されないNPOは消えていくという選択が自ずとなされるシステムが形成されていくことが期待される。そのためには、NPOが国民からみて「顔の見える」存在となることが必要であり、NPOはその活動内容などの情報公開を推進すべきである。
情報公開により、NPO相互が競争する環境が整えられ、NPOが自らの活動には自らが責任を負うという仕組みになることにより、資金や人材の投入を通じて国民の価値観の多様性をNPOセクターに反映させることにもなる。さらに、NPOに不適切な行動があった場合に、政府の規制の強化に訴えることなく、NPOや国民自身の手により問題の解決を図ることが可能になると考えられる。
【2】 財政基盤の強化
NPOの財政基盤を強化する一つの手段として、寄付金の控除など税制上の措置を検討すべきである。
我が国ではNPOの資金源の大半は会費・事業収入と公的資金から構成されており、民間寄付金は諸外国が1割を占めるのに対し、わずか1%に過ぎない。独立したセクターとしてNPOを支援していくには民間による活動支援を促進していくことが必要である。
NPOに対する寄付金の控除による方法は、国民各自が評価するNPOを選択して財源を振り分けサービスを提供させることができるというメリットがある。国民のニーズに最も良く対応して社会の希少資源を配分するにはどれが最適かという観点から、NPOに対する税制の検討が必要である。
NPOに広く税制上の優遇が認められるためには、NPO自体が切磋琢磨し、活動の有益性や透明性を高め、国民の信頼を確立していくことが期待される。
【3】 人材の交流・確保・育成
現在は企業や政府に人材が集中しNPOには不足しているが、この原因の一つに我が国の雇用システムにおける多様性や柔軟性の乏しさがある。政府、企業、大学がNPOに人材を出す場合には元のポストに復帰できるようにするなど、NPOと各セクターの間を自由に往復できるようにすることがNPOに人材を供給する最も有効な方法である。例えば、公務員の場合には、任期終了後は元のポストに復帰できる制度的保障や、企業がNPOに人材を出す場合には、交流自体を企業内ボランティア活動として位置付けることなどが検討されてもよい。
また、NPOがよい人材を引き付けるためには、職員の処遇の向上など、ボランティアなども含めNPOで働く者のための雇用環境を整備し、人材募集、情報の提供など、活動の機会を提供していくことも重要である。
加えて、NPOのマネジメント能力を有する実務家を育成していくために、大学等がNPO教育を充実していくことが期待される。また、各国のNPO組織との交流を促進したり、NPOの世界的な連合組織の場で実務家どうしが交流を深めることによって情報を交換したり、活動をレベルアップしていくことも重要である。
【4】 組織・機能の強化
我が国のNPOは欧米と比べ財政、組織やマネジメント、専門性を備えた人材の育成、情報、シンクタンク機能、活動評価など多くの面で活動基盤が弱体である。
NPOを発展させていくためには、事業体としてのマネジメントができる体制であること、提言活動に向けて研究、調査等を行えるシンクタンク機能を有すること、さらにそれらの組織・機能全体を強化していくためにネットワークを拡大していくことを、一体として推進していくことが必要である。
NPOサポートセンターは、マネジメントの支援、人材育成やネットワークの形成をはじめとするNPOの基盤作りを行っており、政府がこのようなサポートセンターに対する行政情報の提供やNPOの人材育成事業等への支援を拡充していくことは重要である。
おわりに
今後目指していくことは、従来の我が国のシステムの中で良いものを残しながら、見直すべきところは見直した上で、グローバル化に対応して、諸外国のシステムに良いところがあれば、それを学習し取り入れつつ、新しいシステムを構築していくことである。中長期的には、我が国一国内においても多様なシステムや価値観が共存し、また世界大の市場の中でも多様なシステムが併存しかつ切磋琢磨し合うこととなるだろう。そのような中で、我が国としてモデルを呈示しつつ、世界をリードしていく分野も出てくるのではないか。重要なことは、果敢な変革にこそ、将来的な可能性は十分にあるという認識を共有することである。本報告書は一つの提案に過ぎないが、そのようなシステムの再構築を目指していく中で、経済の好循環メカニズムが蘇生することを通じて、我が国の経済は再び活性化していくと信ずるものである。