経済審議会・経済社会展望部会 土地・住宅ワーキンググループ報告書 平成10年6月5日

平成10年6月5日


目次

  1. 土地・住宅ワーキンググループ委員名簿
  2. はじめに
  3. 1.土地市場の将来展望
  4.  (1) 土地需給をめぐる構造的変化
  5.  (2) 金融ビックバンとオフィス市場
  6.  (3) 今後の不動産事業
  7.  (4) 不良債権担保土地等の有効活用
  8. 2.住宅需要の将来展望
  9.  (1) 世帯動向と住宅需要
  10.  (2) ライフスタイル・価値観の多様化と住宅需要
  11.  (3) 地方都市の課題
  12. 3.ストック時代に対応した住宅市場の形成
  13.  (1) 住宅情報の展望
  14.  (2) 既存住宅市場の活性化
  15.  (3) 分譲マンションの建替え
  16.  (4) リバース・モーゲージ
  17.  (5) 賃貸住宅市場の課題
  18.  (6) 新たな住宅供給スタイルの展望
  19.  (7) 労働市場の流動化と住宅問題
  20. 4.住宅金融の将来展望
  21.  (1) 住宅金融市場の活性化
  22.  (2) 住宅金融における公的な役割
  23. 土地・住宅をめぐる10の提言

経済社会展望部会土地・住宅ワーキンググループ委員名簿

(座長) 村本  孜 成城大学経済学部教授
  大久保 恭子 (株)リクルート住宅情報事業部長
  高野  義樹 高千穂商科大学客員教授
  中井  検裕 東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授
  長谷川 徳之輔 明海大学不動産学部教授

はじめに

バブル経済の崩壊以降続く地価の下落は、不良債権問題とも絡んで、わが国経済社会に大きな影響を与えているが、いずれにしても、従来の土地本位的な経済システムの構造改革は不可逆的に進めていかざるを得ない。また、いわゆる「金融ビックバン」は、公的金融を主体としてきたわが国の住宅金融のあり方を含め、不動産市場全般にも新たな展望を求めることになるだろう。

さらに、近い将来には人口・世帯数の減少する時代が到来し、新規住宅需要の漸減が見込まれるなか、わが国の住宅市場は、建替え、住替え、増改築・リフォーム等を中心とするストックの時代に突入するとともに、ライフスタイルや価値観の変化に伴い、住宅に対する需要は多様化していくことが予想される。

もとより、これら「土地・住宅ビックバン」ともいうべき大きな構造変化に対しては、市場メカニズムを活用し、可能な限り民間活力を導入していくことを基本にアプローチしていかなければならない。

こうした認識のもと、土地・住宅ワーキンググループにおいては、「透明で公正な市場システムの確立」「プラスのストックの未来への継承」「環境と調和した社会」を基本的視点としながら、今後のわが国の土地・住宅に関する状況を展望するとともに、21世紀へ向けて、公的な関与のあり方を含めた具体的な提言をとりまとめた。


1.土地市場の将来展望

(1) 土地需給をめぐる構造的変化

(経済の成熟化と地価の二極化)

バブル経済の崩壊以降、大都市地域を中心とする土地市場においてはパラダイム転換ともいえる構造的変化が進展している。中長期的・マクロ的にみれば、人口・世帯数の減少や社会移動の変化、経済の成熟化等により従来のような土地需要は見込めず、他方で、市街化区域内農地の宅地化、産業構造転換に伴う工業用地・臨海部用地の宅地化、不良資産の流動化、定期借地権の普及等により供給圧力が高まることから、ゆとりのある需給関係が形成されていくものと考えられる。

最近の地価動向をみると、商業地については、全般的には依然として下落傾向が続いている。しかし、最近の旧国鉄本社(丸の内)や東京駅八重洲口(北側)等の競争入札で見られるように、立地条件が良好である程度まとまった土地であれば公示地価を上回る価格で取引される例も出てきており、都心部の一等地を中心に一部で下げ止まりの傾向がみられる。一方で、立地条件の悪い物件には相変わらず買い手が付かないなど、いわゆる地価動向の「二極化」の傾向が明確になってきている。こうした動きは、土地がその収益性で評価されることを前提とすれば当然の結果であり、市場メカニズムが正常に働き始めていると評価すべきである。

また、住宅地については、継続する低金利や物件価格の低下等に伴う旺盛な住宅需要を反映して、立地によっては一時下げ止まりの傾向も見られたが、その後、消費税引上げ前の駆込み需要の反動等による住宅需要の減少もあって微妙な状況にある。なお、平成6年以降、住宅立地のいわゆる「都心回帰」の傾向が続いている。

(収益還元価格への収斂)

最近の地価は、既にバブル前の水準まで落ち込んでいるとも言われるが、そもそもバブル前の水準が収益価格では説明できないとの指摘もある。土地の収益性自体は、時々の経済社会情勢等により変化するものであり、また、短期的な地価動向は一概には予測し難いものの、土地需給の構造的変化とともに、いわゆる「土地神話」は崩壊し、中長期的にみれば、今後の地価形成は、従来のキャピタルゲイン期待から土地の利用価値(収益性)に基づくものに収斂していくだろう。

なお、不良債権の担保となっている土地は、例えば新宿富久町や神田周辺のような住商混在地域におけるバブル期のオフィス開発が頓挫した、いわゆる「地上げ放棄地」も少なくないものと思われるが、当該用地に対するオフィス需要が今後とも期待できないとすれば、集合住宅等他の用途に応じた地価形成にならざるを得ないだろう。ただし、虫喰いや不整形の形態のままでは利用価値が低い土地について、当該地区の敷地が整序・集約されることで収益性が向上することは十分に期待される。

(2) 金融ビッグバンとオフィス市場

ニューヨークやロンドンなど世界の金融センターと呼ばれる地域においても、例えばロンドンのシティは高々300ヘクタール余の面積に主要な金融機関が集中しており、インテリジェントビルのような収益性の高いオフィスに対する需要は限られている。1986年の英国における「金融ビッグバン」においても、当初こそ、米国、日本等の外資系金融機関が大挙してロンドンに進出したが、1990年代には英国の地場証券が外資系金融機関の傘下に入るというM&Aが行われただけで、オフィス需要の拡大は空振りに終わった。旧港湾地域に大規模な業務地区を新設するドッグランド開発計画等においても、最近の好景気で市況が急速に回復しつつあるとはいうものの、未だにオフィスの高い空室率に苦戦している。同様に、我が国の金融ビックバン後においても、退出を余儀なくされた金融機関の職員やオフィス等を外資系金融機関を含めた他の金融機関が買収するケースが多いものと想定され、新たなオフィス需要はそれほど顕在化しないだろう。

金融ビッグバンが不動産市場に与える影響としては、こうしたオフィス需要の変化よりも、むしろオフィス市場そのものが国際化に晒されるという視点がより重要である。今後、地価水準がグローバル化するとともに、オフィスの賃料水準や商慣行等について、国際的に通用するものが要求されるようになるだろう。

具体的には、わが国では一般的といわれる2~3年の短期契約、6ヶ月の事前通告をすれば違約金なしで期限前の解約ができること、権利金の要求などの各種の慣行の存在等が指摘されるだろう。特に、外資系企業などは、アジアの拠点を構築する上で、東京をはじめとする日本の都市はもちろんのこと、香港、上海、シンガポールなどの海外の諸都市を比較検討するわけであり、日本においても不動産価格の透明性が強く要求されるようになるだろう。その際、居住空間やアメニティーの豊かさをはじめ、都市の居住環境に対する評価も重要な視点となることを十分に認識しておく必要がある。

(3) 今後の不動産事業

これからの不動産事業は、キャピタルゲインに依存することなく、不動産から得られる収益を基本とすべきであり、それに伴い、従来の間接金融を中心としたコーポレートファイナンスに加えて、事業内容の評価に基づくプロジェクトファイナンスの重要性が高まってくるだろう。

一方、「金融ビックバン」は、国民の金融資産の選択にも重要な影響をもたらすだろう。すなわち、現在1200兆円ともいわれるわが国の個人金融資産は、米国等に比較して預貯金の比重が極めて大きくなっているが、今後は第一次ベビーブーム世代を中心に、多少リスクは高くともより高いリターンの商品への需要が強まることも考えられる。株式投資の拡大により、証券に対する抵抗感が薄らげば、米国の不動産投資信託(REIT)のような不動産を証券化した商品の市場も開発されてくるだろう。英国において、ビックバン後に、英国電電、ロールスロイス、水道公社等の国営企業の民営化をきっかけとして、新たに多くの国民が初めて株式を保有することになり、これがひいては現在の英国の株式市場や、プロジェクトファイナンス手法の活況につながった点を想起すべきである。

我が国においても既に、不動産の証券化等不動産投資市場の環境整備に着手したところであるが、今後ともさらに一層、欧米のように個人投資家も参加しやすい商品の自由化を進め、市場の拡大を図っていくことが必要である。

さらに、既にその傾向が見られるように、不動産事業が大規模化、高度(複雑)化していくにつれて、事業の効率化・円滑化とリスクの分散を図っていくため、企画、開発、管理、保有等の各分野ごとに業務の専門分化(アンバンドリング)が進展していくものと考えられる。不動産投資に関するアドバイス等に特化した不動産投資顧問業といった「フィービジネス」も注目されている。

(4) 不良債権担保土地等の有効活用

(不良債権問題の根底)

現在、不良債権問題は、不動産市場のみならず日本経済全体に大きな影を落としている。昨年末に大手金融機関が相次いで倒産し、金融不安が広がったことを契機として、公的資金による預金保険機構の財政基盤の強化、金融機関の優先株・劣後債の公的資金による引受け等を内容とするいわゆる「金融安定化二法」が成立したところである。これらの対策は、金融機関の破綻処理に伴う預金者保護や、金融機関の自己資本充実による貸し渋りの解消を目的としているが、不良債権問題の解決のためには、さらに進んで、担保となっている資産の流動化・有効活用のための方策も併せて重要となってくる。

金融機関等が抱える不良債権の多くは、その担保として不動産(土地・建物)と結びつき、虫喰いや不整形の土地形態、多重抵当の設定、不当な第三者の介在等の理由により未稼働状態となっている。金融機関等による情報開示が不十分なため、その実態は明らかでないが、銀行の自己査定の集計では不良債権の可能性がある資産は約76兆円に上り、また、バブル期に急増した不動産・建設業等の金融機関・ノンバンク等からの借入額をみても、こうした不良債権担保土地等は相当規模存在しているものと考えられる。

現在、真に求められていることは、こうした不良債権担保土地等に絡みつく法的な障害を取り除き、その有効活用のために売却等の処分を図ることで、不良債権の処理を実質的に完了させることであり、不良債権の「帳簿上の償却」を行うだけでは本質的な問題解決には結びつかない。

(市場における障害の除去)

もとより、不良債権担保土地等の処理・有効活用は、市場メカニズムの下、地権者等のイニシアティブにより、虫喰いや不整形の土地を整序・集約し、民間による再開発を行っていくことが本筋である。その際、市場における障害要因を取り除いていく必要がある。例えば、権利関係が錯綜し、裁判所の競売手続きの遅延等が障害となることも考えられることから、その簡素化・迅速化を図るとともに、必要に応じて、多重抵当等を一括して処理できる行政的な手続きについても検討すべきである。また、業務用地としての利用など高い収益性が見込める場合には、民間を主体としつつ、併せて民間都市開発推進機構による土地取得・事業参加を積極的に進め、民間事業者を支援していくことが望まれる。さらに、民間事業者が円滑な資金調達を確保するとともに、その金利負担の軽減等を図るためには、不動産の証券化や不動産特定共同事業を積極的に活用していくことが必要である。なお、今年度から、地価税の適用停止や土地譲渡益課税の軽減等がなされることとなったが、これらの措置も民間による再開発のコスト面でのインセンティブになるだろう。

本年4月に決定された総合経済対策において、土地債権の流動化と土地の有効利用について上記の観点から積極的な施策が講じられつつあることは、高く評価されよう。

(公共による「市場の失敗」の補完)

しかしながら、バブル経済の崩壊以降これまでの市場の対応や現下の経済情勢を踏まえると、民間活力に期待した市場メカニズムだけでこの問題を全て解決することは難しいだろう。特に、「地上げ放棄地」のような虫喰いや不整形の土地形態となっている地区について、その敷地の整序・集約のための多大なコスト負担と事業リスクを民間だけで抱えることは相当困難であると考えられる。

また、今後の「環境と調和した社会」を展望すれば、郊外部への大規模なインフラ投資を新たに行うのではなく、既存のストックを活用していくことが一層重視されるだろう。不良債権担保土地等は、バブル経済の「負の遺産」と受け取られているが、この際発想を転換し、その有効活用を進めることは、街並みにふさわしい賑わいを取り戻し、長年にわたって蓄積されてきた街路、公園、上下水道等の都市インフラを有効活用する意味で「プラスのストックの未来への継承」としての公共的側面を持っていると考えるべきである。

したがって、不良債権担保土地等の処理・有効活用については、可能な限り市場メカニズムによる解決を図ることを前提としつつも、公共がある程度の時間がかかっても、「都市の再構築」を図っていく一環として「市場の失敗」を補完していくことが求められ、その抜本的な処理のための公的な支援が必要である。なお、その前提として、不良債権の実態(資産額だけでなく、担保土地等の地理的状況・権利関係等を含む)が詳細にわたって情報公開されることが求められる。

1 権利関係等の処理

不良債権担保土地等の有効活用を図っていくためには、まず、権利関係をはじめとした法的な処理を完了させなければならない。それらについては、現在、住宅金融債権管理機構、整理回収銀行等により積極的に進められ、債権回収のノウハウも蓄積されてきている。また、民間の債権回収業(サービサー)の育成についても検討されており、今後、敷地の整序・集約を進めていく前提として、これらの機関との密接な連携を図っていくことが重要である。

また、不良債権担保土地等に係る抵当権の行使が容易になされるよう、競売手続きの簡素化・迅速化を進めるとともに、必要に応じて、行政的な処理手続きについても検討すべきである。

2 敷地の整序・集約

敷地の整序・集約に係るコスト負担や事業リスクを民間だけで抱えることが困難な場合においては、公的セクターが当該用地を買取り(売却側に発生する譲渡損失については繰越控除を認める)、不良債権担保土地等以外の用地に係る権利関係の処理を含め、敷地整序型土地区画整理事業等を活用しながら、敷地の整序・集約を図ることが必要である。その際、民間事業者の有する事業ノウハウの積極的な活用にも配慮する。

なお、不良債権担保土地等を公的資金で買取り、既に都市インフラが整備されている良好な立地条件の土地資産を有効に活用することは、国民経済的にみて大きなプラスとなるものと考えられる。現下の経済情勢に照らせば、こうした買取りを通じて資金の流れが円滑化することは、「経済の危機管理」の観点からも重要である。ただし、買取りにあたっては、「都市の再構築」の観点から、その必要性に応じた優先順位をつけるとともに、競争入札等による「透明で公正な買取り価格」についても十分に配慮することが必要である。

こうした都心の「地上げ放棄地」においては、従前からの居住者を含めて複雑な権利関係・利害関係が存在しており、敷地の整序・集約にあたっては、その前提として、土地の有効利用の促進に資する土地利用の転換等を進めるための計画の策定を積極的に推進するとともに、事業制度の柔軟な運用や専門家の介在等円滑な合意形成を図るための配慮が必要である。

また、古くから住み慣れた高齢者等が継続居住を希望する場合も少なくない。こうした場合には、公的な買取りによる地区の再開発が、ある程度の時間のかかる息の長い事業であることにかんがみ、例えば、当該高齢者が希望する場合には、リバース・モーゲージを設定して、高齢者の生活の安定に資するとともに、相続が発生した時点で不動産による代物弁済を受ける方法(この場合、公共側が清算金を支払うこととなる)も考えられる。

3 土地の有効活用

整序・集約された敷地については、地域全体の土地利用計画に従い、公園、緑地等のオープンスペースなど社会効果的な有効活用を図るとともに、市場メカニズムを最大限活用しながら、経済効率的な有効活用を図るべきものについては、積極的に民間活力を導入することが必要である。その際、前述したように、民間事業者が円滑な資金調達を確保するとともに、その金利負担の軽減等を図るために、不動産の証券化や不動産特定共同事業を積極的に活用していくことが必要である。また、必要に応じて、公的セクターが用地を所有したまま定期借地権を設定し、民間事業者の土地保有コストを軽減することも考えられる。さらに、都心居住のための集合住宅の建設等にあたっては、公的主体による都市インフラの整備と一体となった住宅市街地整備を図っていくとともに、容積率の特例制度や都心共同住宅供給事業等の補助制度等様々なインセンティブ制度を総合的に活用していくことも重要である。

2.住宅需要の将来展望

(1) 世帯動向と住宅需要

当面、世帯増加率の鈍化にもかかわらず、高齢世帯、単独世帯を中心に世帯数は増加し続ける。また、2010年頃には第二次ベビーブーム世代が30代後半の持家取得層に達するとともに、建替需要の増加が見込まれること等から、2010年頃までの新設住宅需要は年間120~140万戸程度で推移していくとの見方が多い。

ただし、近い将来には人口・世帯数の減少する時代が到来し、いずれにしても新規住宅需要の漸減が見込まれるなか、今後の住宅需要を展望するにあたっては、住宅建設戸数の増減を論ずるよりも、個々の住宅の質的向上に伴う住宅投資の動向やアフォーダビリティの状況に注目することが重要である。

(2) ライフスタイル・価値観の多様化と住宅需要

これからは夫婦間でもライフスタイルが異なる時代であり、居住スタイルについても多様で自由な選択ができる環境が求められている。今後、従来の古い人間関係、道徳観、価値観が変化していくにつれて、多様な住宅需要が生まれてくるだろう。

(第二次ベビーブーム世代と住宅相続)

第二次ベビーブーム世代については、第一次ベビーブーム世代と同様に持家指向中心の需要層になるとの見方がある一方で、高い持家率や少子化の進展のもと、親からの相続を見込んで住宅取得を手控える層が相当の規模発生することから、第一次ベビーブーム世代ほどの需要インパクトはないとの見方もある。また、住宅を資産として子供に残すという従来の発想だけでなく、リバース・モーゲージ等により、住宅ストックの資産価値をフローの収入に換えて老後を豊かに暮らす「遺さず、頼らず」という生き方が増加する可能性もある。さらに、相続の過程で建替えや増改築の需要が増加する可能性など、今後の住宅需要を考える場合、住宅相続の動向が大きく影響するものと考えられる。

(働く女性のライフスタイル)

働く女性のライフスタイルが次世代の住宅をリードしていくだろう。住宅購入のきっかけ作りや物件情報の収集は妻が行うなど、住宅選びは女性主導のケースが多い。また、自己実現のために働く女性は、自分の時間、趣味の時間を重視する。単に広さや価格だけでなく、立地、周辺の環境とともに、個性的インテリア、家事を効率化するための設備、さらには個人オフィスとしての機能まで、新しい住空間への欲求が高まるだろう。

(アクティブシニアとセカンドハウス)

今後とも子育て層(ファミリー世帯)が住宅購入層の大宗であることに変わりはないが、40代くらいまでの共働き層(DINKS)や独身層とともに、高齢化の進展に伴い、50代以降の熟年層(特に退職年齢に近づく活動的な団塊世代・アクティブシニア)の住宅取得行動に注目する必要がある。

最近のリゾート物件の販売状況をみると、セカンドハウスの購入は高額所得者による例外的なものではなく、普通のサラリーマンが自己実現の手段として購入している。アクティブシニア世代をはじめ、ゆとりある豊かな生活に対する潜在的な需要は大きいことから、総合経済対策による優良田園住宅の建設の促進もあり、今後、セカンドハウスに対する需要が顕在化してくるものと考えられる。

(環境を買う時代の到来)

今後は「住宅を買う」という考え方から「環境を買う」という考え方に変わっていくだろう。これまでの住宅はユニバーサルなものが求められていたが、街並みや景観、利便性、安全性(防災・交通・治安)、教育、福祉サービスなど、ライフステージやライフスタイル・価値観の多様化に対応して、住環境に対する評価基準も多様になってきている。こうした住環境、特に景観や防災性については、必ずしも市場メカニズムが十分に機能しない分野であることから、住民に対して適切な情報を提供し、望ましい「まちづくり」のための合意形成を支援する主体として、NPOを含めた専門家の役割が重要になってくるだろう。また、地球環境問題への関心の高まり等から、良質な住宅ストックとしての高耐久住宅や省エネ対応住宅等に対する需要が増加してきており、「環境と調和した社会」における住宅需要として注目していく必要がある。

(3) 地方都市の課題

地方都市の中心市街地においては、商業施設・公共施設等の郊外移転が進むなか、人口の空洞化や高齢化が進展しており、商店街をはじめ地域の賑わいや活力の低下、既存インフラの遊休化、福祉コスト等行政負担の増大、さらには都市拡散に伴う環境面への影響など深刻な問題を抱えている。都市の規模等に応じて状況は異なるが、これらの背景として、モータリゼーションの進展、中心市街地の立地コストの増大、大店法の規制緩和に伴う大型店の進出等の外的要因に加えて、「値段が高い」「品揃えが悪い」「愛想がない」という既存商店街自身の抱える問題も指摘されている。

今後の地方都市においては、「環境と調和した社会」を展望したコンパクトな都市生活のあり方を模索していく必要がある。都市インフラの既存ストックを有効活用しながら都市環境の質的充実を図り、環境負荷を抑えた都市構造への転換を進めていくためには、都心居住の推進をはじめ、単なる商店街振興ではない「都市の再構築」という観点からの中心市街地の活性化に取り組み、地域活力を生むプラスの循環を創り上げることが求められている。この場合、中心市街地の再整備は、郊外部開発の調整と組み合わせて初めてその効果を発揮すること、さらに地方都市においても都心に賑わいを取り戻すためには、都心での住宅供給を行うことが不可欠の要素であることを認識すべきである。また、今後の高齢化社会を踏まえると、従来のような若年層の引寄せや大都市への流出をくい止めるといった発想だけでなく、高齢者とりわけアクティブシニアにとって住み易いまちづくりを展開し、都市の発展を目指していく視点も重要になってくるだろう。

いずれにしても将来の都市像は、それぞれの都市の住民や自治体のイニシアティブにより、地方分権と自己責任の原則の下に描かれるべきである。その際、国や都道府県の役割として、そのアプローチ(計画)や事業効果の評価に応じた包括的な補助、人材の育成・専門家の斡旋、都市間の調整等の支援を行うことによって都市間の競争を促すことが重要である。

3.ストック時代に対応した住宅市場の形成

将来の住宅市場を展望し、良質なストックを適切に維持・管理して「プラスのストックの未来への継承」を図るために、新たな住宅供給・流通のあり方について検討を行う必要がある。

(1) 住宅情報の展望

近年の情報化の進展はめざましく、とりわけインターネットの普及は、今後、住宅市場にも大きな影響を及ぼしていくだろう。不正な情報からの利用者の保護やプライバシーの確保について配慮が必要であるが、不動産業者を介さずに、売り手(貸し手)や買い手(借り手)が直接リアルタイムで住宅情報(売買・賃貸物件)を検索できる時代が、早々に到来することも予想される。また、その普及にあたっては、提供される情報の「網羅性・一覧性」「即時性」「比較可能性」「信頼性」等が重要な視点になるだろう。

今後、不動産業者が市場における競争力を確保していくためには、インターネット等を活用して一次情報の収集コストを削減するとともに、顧客に提供する付加価値(物件の詳細検討、契約業務、融資の斡旋等)の充実に努めていくことが重要になってくる。また、買い手側に立って不動産取引を行ういわゆる「バイヤーズエージェント」のような業態にも関心が寄せられている。

(2) 既存住宅市場の活性化

(住宅の質に関する「情報の非対称性」の解消)

住宅市場を活性化させるためには、買換えや住替えといった住宅の循環が必要であり、住宅の流通をどう活性化させていくかが重要となる。日本の既存住宅流通量は新築住宅戸数の3割程度であるが、米国では約3倍、英国では6~7倍の高い水準である。これは、わが国における良質な住宅ストックの蓄積が十分ではないことや、上物と併せて土地の価値を評価する国(英米)と、上物よりも土地の資産価値を重視する国(日本)の不動産の評価方法の違いも大きく影響しているものと思われる。既存住宅を築年数だけで評価している融資制度・税制の見直しも含め、「良質な住宅」の新しい概念(そもそも「中古住宅」という呼称自体がおかしい!)を確立していかなければ住宅市場は活性化しない。

安全性や耐久性などの住宅の質については、消費者と供給者との間にいわゆる「情報の非対称性」が存在している。住宅市場における多様な選択肢の中で消費者が安心して的確な判断が行える「透明で公正な市場システム」を確立するためには、民間を活用した建築確認・検査の実施など建築基準法の執行体制の整備を図り、供給される住宅の最低限の性能を確保するとともに、既存住宅を含めた住宅性能の客観的な評価・表示制度や、保険制度等による性能保証体制等の整備を図っていくことが必要である。

(個人の抱える含み損の課題)

88年~92年頃のバブル期に供給された住宅は、比較的良質なものが多いにもかかわらず、住宅の買換えを計画する人が売却損を抱え、ローン残債を抱えてしまう場合も多いため、市場における流通量は少ない状況にある。今年度から、所得税における売却損の繰越控除が認められることとなったが、残債継承ローン(個人の返済能力を評価したり、生命保険をリンクさせる等により、買換え時におけるローン残債を無担保で融資する商品)の普及等も含め、含み損を抱えた個人資産としての住宅の流動化策について検討する必要がある。

(3) 分譲マンションの建替え

分譲マンションは、特に都市部における居住形態として大きなウェートを占めているが、今後、老朽化が進み、建替えやリフォームが必要となるマンションがかなりの勢いで増加することが予想されている。一方、定住意識や年齢、経済力等が異なる居住者の間で建替えに向けた共通の理解を得るには様々な困難が伴い、また、区分所有法に基づく5分の4以上の同意を得た場合でも、賃借人等の権利調整や買取請求への対応等解決すべき課題は多い。また、今後敷地に十分な余裕がないなど、等価交換方式等を活用できない場合が多くなり、費用負担を含め合意形成がさらに困難になることが見込まれる。

引き続き、分譲マンションの適切な維持・管理体制の普及に努めていくとともに、今後、大量に見込まれる建替需要が社会問題になり得ることを踏まえ、法制度の整備や建替計画の策定、専門家の派遣、合意形成、資金調達等に係る支援をはじめ、早急にその対策を検討しておくことが必要である。その際、居住者による自主的な建替えを基本にしつつ、例えばリバース・モーゲージ等を活用した民間事業者や公的セクターによる共同事業手法についても検討が必要である。

(4) リバース・モーゲージ

高齢化が急速に進展していく中、高齢者のライフスタイルや価値観も多様になってきている。自分が取得した持家を資産として子供に残すという従来の発想だけでなく、「老後を自立して豊かに暮らす」ことを望む、いわば「遺さず、頼らず」という生き方が増加する可能性がある。高齢者は、土地・住宅などの不動産(ストック)は所有しているが、年金などの生活資金(フロー)が十分でない場合も多いことから、こうした「遺さず、頼らず」という生き方を支える制度として、住宅等を担保に生活費や介護費用を賄うリバース・モーゲージ制度が注目されている。

我が国では一部の自治体や信託銀行等で事例がみられるが、利用者が少ないこと、長期生存や金利変動、不動産価格の変動による担保切れリスクへの対応が不十分なこと、長期的な事業制度であり安定的な資金調達が難しいこと等から、未だ普及は進んでいない。年金制度にリバース・モーゲージを組み込む手法や米国のHUD-HECMのような制度(カウンセリング、公的な信用保証、債権買取等が連携した仕組み)など、公的支援のあり方を含め、その普及方策を検討し、多様なライフスタイルや価値観に対応した資産運用の選択肢の拡大を図ることが必要である。

(5) 賃貸住宅市場の課題

賃貸住宅市場においては、良質なファミリー向け住宅の供給は少なく、家賃の支払いとローン返済との比較意識もあって、依然として持家指向は高い。しかし、従来のようなキャピタルゲインが期待できないこと、長期のローンを組むことへの不安感が増していること、消費を優先する考え方が広がっていること等を背景に、賃貸住宅への志向も高まってきており、今後、都心居住等を中心に賃貸住宅に対する需要が増加していくことも予想される。賃貸住宅をライフスタイルの中の確立した選択肢にすることは、今後の重要な課題である。

供給側からみた場合、公的供給には限界があり、民間においても、土地保有コストの上昇等により、必ずしも安価なファミリー向け賃貸住宅を供給するインセンティブが働いていない。また、農地所有者等地権者自身による民間の賃貸住宅供給は、個人の節税対策等市場メカニズムとは無縁のところでなされている場合も多く、賃貸住宅経営が合理的な需給関係に基づくビジネスとして確立していない等の問題がある。

また、土地や建物の賃貸借に伴うトラブルに対する感情的な不安は、供給側、需要側ともに賃貸住宅を選択する障害となっている。このため、賃貸管理業務についてのルールの一層の整備を進めるとともに、貸主と借主の間に入ってコンサルタント的な役割を担う「賃貸管理業」の育成を図ることにより、賃貸借契約に合理的な関係を築いていくことが重要である。

なお、いわゆる「定期借家権」の導入は、借家市場における歪みの是正による供給意欲の向上を通じて、良質な賃貸住宅の供給に寄与することが期待される。

(6) 新たな住宅供給スタイルの展望

都心居住の推進を含めて「都市の再構築」を図っていくために、容積率の特例制度や都心共同住宅供給事業等の補助制度等様々なインセンティブ制度が用意されている。定期借地権付住宅は、着実に普及してきており、住宅供給の一つの方式として確立してきたが、こうした各種制度を併せて活用することにより、さらに2~3割程度も安価なファミリー向け賃貸住宅の供給が可能であり、今後とも一層の普及・活用を図っていく必要がある。また、定期借地権を設定した土地の相続税評価額を下げたり、定期借地権の満期終了後の土地・建物の扱いをより周知させるなど、地主側にもメリットのある制度に改善することが必要である。

さらに、スケルトン方式、コーポラティブ方式、つくば方式等新しい住宅供給のあり方が提案されてきており、こうした方式についても積極的に活用していくことが必要である。

(7) 労働市場の流動化と住宅問題

企業内の福利厚生の中で、社宅の提供、家賃補助、住宅購入のための社内融資等住宅に関する助成は大きな割合を占めている。優秀な人材の確保や配置転換への対応等を背景として行われてきた、こうした企業による住宅助成は、雇用者の居住水準の確保に一定の役割を果たしてきた。しかしながら、近年、一部の企業においては、終身雇用制の見直しや賃金の実績主義化が進展しつつある状況の中、こうした福利厚生費を削減したり、あるいは廃止していく動きも見られる。また、企業の住宅助成における税制面での中立性の問題も指摘されている。

我が国における住宅ストックの5%を占める社宅(給与住宅)については、右肩上がりの地価動向を前提にキャピタルゲインを期待し、企業が「含み資産」として抱えていた面も否定できない。今後は、こうした社宅についても市場メカニズムが働くようになり、社有社宅の処分・用途転換や借上げ社宅方式への移行等が進んでいくだろう。また、住宅市場全体からみれば、こうした社宅ストックを一般の住宅市場へ円滑に供給していくための工夫が必要になるだろう。

労働市場の流動化あるいは賃金の実績主義化が進展すると、個人の収入の変動幅が大きくなることも考えられる。米国等の状況をみると、これにより住宅融資の枠組み全体が大きく変化することはないと思われるが、今後、貸出側においては、リスク分散や返済能力の審査ノウハウ等が一層重要になってくる。また、英国におけるエンドーメント・モーゲージ(生命保険担保)のような制度についても検討していく必要があるだろう。

労働市場の流動化が進展していく過程で、過渡的には、世帯主の失職に伴う住宅問題(社宅からの退去、住宅ローンの残債などが挙げられるが、現在一部の金融機関から返済保険付きローン等の新商品が供給されるなど、新たな対応がみられる。)の発生が増加することも考えられる。こうした状況に対応するためにも、定期借地権付住宅やファミリー向け賃貸住宅の供給を促進し、住宅市場においてアフォーダブルな住宅を確保できるようにしていくことが重要である。

4.住宅金融の将来展望

(1) 住宅金融市場の活性化

財政投融資制度の改革に伴う公的住宅金融における資金調達の見直しや、高齢化の進展等に伴う貯蓄率の低下が指摘されるなか、将来にわたって住宅金融に供給される資金を適切に確保するためには、「透明で公正な市場システム」を念頭におきつつ、欧米における制度も参考にしながら、いわば「住宅金融ビックバン」ともいうべき住宅金融市場の再構築を進め、その活性化を図ることが必要である。

住宅金融市場を活性化するためには、リスクの分散が重要な鍵となる。住宅融資に伴う債務者の信用リスクについては、保険・保証制度で対応すべきであるが、我が国の民間ベースの保険・保証制度は必ずしも有効には機能しておらず、米国のFHA保険のような公的制度も参考にそのあり方を検討することが必要である。また、住宅融資債権の二次市場が整備されている米国においては、政府機関である政府抵当金庫(GNMA)が、元利金の支払い保証をすることによって低コストの債券発行を可能としたり、政府の監督下にある民間法人の連邦抵当金庫(FNMA)や連邦住宅貸付抵当公社(FHLMC)が、民間の住宅融資債権の購入やモーゲジ担保証券の発行等を通じて市場の需給安定を図っていることも参考となる。また、流動性リスクや繰上償還リスクについては、特別目的会社(SPC)方式や信託等による債権の証券化で対応していくことが有効だろう。さらに、金利リスクについては、債権の証券化のほか、変動金利や期間選択型固定金利による対応が考えられる。

我が国の個人金融資産は1200兆円とも言われているが、金融ビッグバンが本格化すれば、これらの資金は預貯金よりも有利な投資先を求めて流動化することも考えられる。米国の例を見ても、上記のようなリスク分散が図られることを前提にすれば、証券化等により、個人向け住宅融資債権はミドルリスク・ミドルリターンの魅力的な投資対象になり得るだろう。なお、こうした住宅融資債権の流通市場を確立していくためには、その前提として、投資家に対するリスク情報の公開や信用ある格付け評価主体の存在等が重要となってくる。

 (2) 住宅金融における公的な役割

住宅金融公庫は1950年の創設以降、ともすれば産業融資の後回しにされがちな住宅融資の分野において、持家を渇望する国民に長期・低利の安定的な資金を供給し続けてきた。バブル経済の崩壊後、住宅建設は景気回復の切り札とされ、特に1996年度は消費税引上げ前の駆込み需要もあり住宅建設が大幅に増加したが、この間、住宅金融公庫をはじめとした公的金融機関の融資額は、景気対策の一環として増加を続け、現在では全住宅貸付けの5割弱を占めるまでになっている。

住宅融資に占める公的割合が高いことから、しばしば米国との比較において民間融資を圧迫している等の問題提起がなされるが、住宅融資債権の二次市場が発達している米国においても、FNMA、FHLMC等の政府系機関による債権の購入・保有が急増し、相当比率の公的な債権プールが存在している。そもそも住宅金融市場における公的関与のシステムが異なっているのであり、我が国のこれまでの住宅金融体系は一概に否定されるべきものではない。

本格的な財政投融資の見直しは、その資金供給源のほとんどをこれに依存してきた住宅金融公庫の業務のあり方を大きく変えていく可能性がある。財投債や財投機関債の発行が本格化すれば、これらの債権は発行主体の信用力によって発行利率が市場で決定されるため、従来にも増して金利変動が住宅金融市場に大きな影響を与えるとともに、安定的な資金調達を図ることも難しくなるだろう。

民間金融機関は、一部投資銀行系を除けばリテール指向が強く、長期顧客取引の手段として、また、安定した優良債権として、今後、個人向け住宅融資を増加させる方向に向かうものと考えられる。しかし、現在の民間金融機関の住宅融資金利は、かなり低めに設定されているものもあり、収益性を考えれば現状のレートがこのまま続くとは考えにくい。また、民間の住宅融資商品は、金利変動リスクを回避するため、変動金利やスワップ範囲内での期間選択型固定金利とせざるを得ないが、そのリスク回避にも限界がある。今後、市場メカニズムが貫徹されてくると、信用力に応じた選別融資が行われる可能性もあり、さらに、景気動向等による資金供給のばらつきを背景とした住宅金融におけるクレジット・クランチ(貸し渋り)の発生も懸念される。

したがって、今後の住宅金融市場において、公的な直接融資の割合は縮小に向かっていくとしても、資金供給の安定性を確保するためには、公的な保険・保証制度によるリスクの分散や住宅債権の証券化のサポート(信用付与、二次市場の創出等)による原資調達の円滑化を図るなど、民間による住宅融資を補完していく公的な機能が必要となってくるだろう。また、融資対象を中堅所得者のうちでも比較的所得の低い層に重点化したり、高耐久、高齢者対応、省エネ対応等の良質な住宅を誘導するなど、政策意図を明確にした上で、引き続き、公的な長期・低利の直接融資も必要とされるだろう。


土地・住宅をめぐる10の提言

「透明で公正な市場システムの確立」「プラスのストックの未来への継承」並びに「環境と調和した社会」という視点に立って、わが国の土地・住宅をめぐる環境整備を図るため、市場メカニズムを活用し、可能な限り民間活力を導入していくことを基本的アプローチとして、ここに「10の提言」(二重枠は最重要のもの)を行う。

提言1[キャピタルゲインからインカムゲインへ]

中長期的にみれば、地価は利用価値(収益性)に基づくものに収斂していくことを十分に認識すべきである。

  • 人口・世帯数の減少、経済の成熟化等により従来のような土地需要は見込めず、他方で、市街化区域内農地、臨海部用地等の宅地化、不良資産の流動化等により供給圧力が高まることから、需給関係は弱含みで推移する。

提言2[金融ビックバンと不動産市場]

国際化に対応して、オフィス市場における賃料水準や商慣行等を抜本的に見直すべきである。また、不動産の証券化等不動産投資市場の環境整備を図るべきである。

  • 我が国では一般的といわれる2~3年の短期契約、6ヶ月の事前通告での期限前解約、権利金等の各種慣行等はグローバルな視点から見直す必要がある。
  • 今後は、事業内容の評価に基づくプロジェクトファイナンスの重要性が高まる一方、不動産事業の専門分化(アンバンドリング)が進展し、不動産投資に関するアドバイス等に特化した不動産投資顧問業も注目されよう。

提言3[不良債権担保土地等の有効活用]

『経済の危機管理』や『都市の再構築』の観点から、不良債権担保土地等について公的な支援による抜本的な処理を行うことが必要である。

  • 不良債権担保土地等の処理は、市場メカニズムの下で当事者が行うのが本筋である。しかし、特に虫喰いや不整形の敷地の整序・集約については、その多大なコスト負担と事業リスクを民間だけで抱えることは相当困難である。
  • そこで、競売手続きの簡素化・迅速化等の方策を講じても市場メカニズムによる解決が不可能な場合には、公的セクターが当該用地を買取り、敷地の整序・集約を図る。
  • 当該敷地に都心居住用の集合住宅等を建設するに当たっては、定期借地権制度、補助制度等の支援措置を講じつつ、積極的に民間活力の活用を図る。

提言4[リバース・モーゲージの普及等]

国民のライフスタイル・価値観の多様化に伴い、今後は、一層柔軟な住宅供給が求められる。例えば、「遺さず、頼らず」という老後を豊かに暮らす生き方を支える制度として、リバース・モーゲージの普及方策を検討する必要がある。

  • 親からの住宅相続が期待できる第二次ベビーブーム世代、セカンドハウスへの需要も高いアクティブシニア世代など、今後は住宅需要が多様化していく。
  • 不動産は所有しているものの生活資金が十分でない高齢者も多く、住宅等を担保に生活費や介護費用を賄うリバース・モーゲージ制度が注目されている。
  • 自己実現のために働く女性により、周辺環境、インテリア、家事の効率化、個人オフィスとしての機能など、新しい住空間への欲求が高まる。

提言5[既存住宅市場の活性化]

住宅性能の客観的な評価・表示制度や、保険制度等による性能保証体制等の整備を図り、既存住宅市場を活性化することが必要である。

  • 多様な選択肢の中で消費者が安心して的確な判断が行える「透明で公正な市場システム」を確立するため、特に既存住宅について消費者と供給者との間にある住宅の性能・品質に関する「情報の非対称性」を解消する必要がある。

提言6[分譲マンションの建替え]

分譲マンションの建替えのための法制度の整備や、合意形成、資金調達への支援等の対策を検討すべきである。

  • 今後、分譲マンションの建替えが大量に発生することが予想されるが、年齢、経済力等が異なる居住者の間で建替えの合意を得ることは難しい上に、賃借人等の権利調整や買取請求への対応等解決すべき課題は多い。
  • 居住者による自主建替えを基本にしつつ、例えばリバース・モーゲージ等を活用した民間事業者等による共同事業手法についても検討が必要である。

提言7[賃貸管理業の育成]

賃貸管理業務についてのルールの一層の整備を図るとともに、貸主と借主の間に入ってコンサルタント的な役割を担う「賃貸管理業」の育成を図る必要がある。

  • 今後、都心居住等を中心に賃貸住宅に対する需要の増加が予想され、賃貸借に伴う感情的トラブルも含めて調整できるような専門家が必要となる。

提言8[定期借家権制度の導入]

良質の賃貸住宅の供給を促進する観点から、早期に「定期借家権」の導入を図ることが必要である。

  • いわゆる「定期借家権」の導入は、借家市場における歪みの是正による供給意欲の向上を通じて、良質な賃貸住宅の供給に寄与することが期待される。

提言9[定期借地権制度の活用]

安価なファミリー向け賃貸住宅を供給するため、定期借地権制度とともに、容積率の特例制度や補助制度等を併せて活用する必要がある 

  • 定期借地権制度、容積率の特例制度や都心共同住宅供給事業等の補助制度等様々なインセンティブ制度を併せて活用することにより、さらに3割程度も安価なファミリー向け賃貸住宅の供給が可能である。

提言10[住宅金融市場の活性化]

保険・保証制度や住宅融資債権の二次市場の整備等により、住宅融資に伴うリスクの分散を図り、住宅金融市場を活性化すべきである。その際、市場を補完していく公的な機能が必要である。

  • 金融ビッグバンが本格化すれば、我が国の1200兆円とも言われている個人金融資産が流動化することも考えられ、証券化等により、個人向け住宅融資債権はミドルリスク・ミドルリターンの魅力的な投資対象にもなり得る。
  • 民間金融機関は、今後、個人向け住宅融資を増加させると考えられるが、現状のレートがこのまま続くとは考えにくく、信用力に応じた選別融資が行われる可能性や、景気動向等による資金供給のばらつきも予想される。
  • 資金供給の安定性を確保するためには、公的な保険・保証制度によるリスク分散や住宅債権証券化のサポート(信用付与、二次市場創出)が必要である。