NPO(民間非営利組織)ワーキング・グループ報告書

平成10年5月13日


目次

はじめに

 (報告書のねらい)

 (NPOの範囲)

1 我が国のNPO

 (1) 発展の経緯と背景

 (2) 経済活動に占める比重と特徴 

2 NPOの特徴的な機能

 (1) 個人の自発的社会参加

 (2) ネットワークによる活性機能

 (3) 公共性と多様な価値観(プルラリズム)

 (4) 需要者と供給者の二重の役割

3 新しい経済社会システムの構築とNPOに期待される役割

 (1) 政府とNPO

  【1】 政府機能の問題点

   (国民のニーズの汲み上げ機能と政府の専門的知識の低下)

   (地方政府の行政のあり方)

  【2】 政府との連携

   (対等なパートナーシップの形成)

   (シンクタンク機能、監視機能)

   (公共サービスの提供)

   (NGO)

 (2) 企業とNPO

   (地域社会の振興)

   (ビジネスインフラの整備)

   (企業活動のモニター)

 (3) 個人のライフスタイルとNPO

   (自ら楽しむ、生きがいとしての場)

   (就労、社会参加など能力発揮の場)

   (能力開発の場)

 (4) 労働組合、共済組織及び地縁組織とNPO

  【1】 労働組合

   (労働組合の性格)

   (労働組合の社会貢献活動)

   (労働組合とNPO)

  【2】 共済組織

   (共済組織の性格)

   (消費生活協同組合の活動)

   (消費生活協同組合とNPO)

  【3】 地縁組織

   (地縁組織の性格)

   (地縁組織とNPO)

4 NPOの健全な発展のための課題と環境整備のあり方

 (1) NPOの問題点

   (NPO活動の現実の問題点)

   (国民やNPOの姿勢のあり方の弱点)

 (2) 課題と環境整備のあり方

  【1】 NPO運営上の課題

   (現行制度の問題点)

   (特定非営利活動促進法)

   (活動評価のためのシステムと情報公開)

   (財政基盤の強化)

  【2】 人材の交流・確保・育成 

   (人材の交流)

   (NPOの雇用市場の整備)

   (人材の育成)

  【3】 事業体、シンクタンク機能、ネットワークの三位一体の推進 

   (体制整備の一体的推進)

   (組織・マネジメントの強化)

   (シンクタンク機能の強化)

まとめ

NPOの健全な発展のための環境整備に関する提言


経済審議会経済主体役割部会
NPO(民間非営利組織)ワーキング・グループ委員名簿

  氏名 現職
座長 本間 正明 大阪大学経済学部長
経済審議会経済主体役割部会委員
  大谷 強 関西学院大学経済学部教授
  金川 幸司 (財)21世紀ひようご創造協会
地域政策研究所主任研究員
  出口 正之 総合研究大学院大学教育研究交流センター教授
  星野 昌子 日本国際ボランティアセンター特別顧問
経済審議会経済主体役割部会委員
  松岡 紀雄 神奈川大学経営学部教授
  山岸 秀雄 (株)第一総合研究所代表取締役

はじめに

(報告書のねらい)

NPOは nonprofit organization の略称であり、文字通りには民間非営利組織を意味し、組織形態、活動内容等の異なる様々な組織体が包含される。我が国における民間非営利組織としては、民法の公益法人などはかなり古い歴史を有するが、NPOの名の下に市民活動団体、ボランティア団体、NGO(non-governmental organization=非政府組織)等の活動が注目され始めたのは1980年代になってからである。その後、NPOは経済活動の新しい主体として量的にも質的にも比重を増してきている。これは、戦後の我が国の経済発展を支えてきた経済社会システムが成熟化し、同時に経済社会システム上様々な問題が生じ始めたのと軌を同じくしている。

現在我々は、我が国の経済社会システムのあり方を見直し、これからの21世紀にふさわしいシステムに変革することを求められている。NPOはその変革の担い手として重要な役割を果たし得るものではないかとの期待も強い。今年3月19日には特定非営利活動促進法が成立した。この法律は、NPOに法人格を与えるという内容とともに、各NPO団体の協力を得て議員立法というかたちで成立した、という点も特徴である。NPOはまさに新しい発展の段階を迎えたといえよう。

本報告は、経済社会における新しい主体であるNPOについて、これからの経済社会システムにおける役割及び他の経済主体、すなわち政府、企業、個人との関係を検討することによって、新しい経済社会システムのあり方を探ろうとするものである。

(NPOの範囲)

NPOの捉え方としては、公益を目的とする事業を行う組織という観点から公益法人として捉える見方や、様々なボランティア活動や個人の自発的な社会貢献活動の受け皿となっている市民活動団体として捉える見方がある。本報告では政府、企業に対峙する(第三)セクターとして経済社会システムにおける役割を明らかにするのが目的であるので、ジョンズ・ホプキンス大学非営利セクター国際比較プロジェクト第1段階(1990年)における定義を用いて、正式に組織されていること(ある程度組織的な実在を有していること)、民間であること(組織的に政府から離れていること)、利益配分をしないこと(利益を組織関係者に配分しないこと)、自己統治(自己管理する力があること)、自発的であること(寄付やボランティアなど活動にある程度の自発的参加があること)、非宗教的であること、非政治的であることを備えた組織体と広く捉えることとする(なお、現在進行中の同プロジェクトの第2段階ではこの定義とともに、共済組織や政治団体、宗教団体も含めた広い定義を併用している)。

我が国では、この定義に該当する組織としては、民法上の公益法人、学校法人、社会福祉法人のように既に法人格が制度化されているものから、法人格はないが様々な分野で活躍する市民活動団体やボランティア団体、国際舞台で活躍しているNGOまで、広い範囲の組織体が挙げられる。しかし、通常民間非営利組織といった場合に含まれることのある消費生活協同組合のような共済組織や伝統的に存在する町内会などの地縁組織はこの定義では含まれない。

1.我が国のNPO

NPOの名前の下に、我が国ではこれまでどのような活動が、どのような経緯や背景で行われてきたのか、そして現在のおおよその姿はどのようなものか、まずみてみることとしたい。

(1) 発展の経緯と背景

20世紀後半に始まる欧米諸国を中心とした民間非営利(第三)セクターの発展は、福祉国家の行き詰まりや社会主義が頓挫したことに端を発する国家の役割の世界的な見直しの動きと軌を一にするものであり、政府部門や企業部門と対比して、  Associational Revolution とも呼びうるほどの大きな経済的・社会的影響を持ったうねりを起こしつつある。

我が国では、1960年代になると、経済成長に伴って都市の開発や公害の発生が急速に進み、これに対して自然や歴史環境の保護、公害防止、開発反対などの住民運動が活発化した。これらの住民運動には政府や企業の責任を追及するなど政治的傾向のあるものが多かった。ところが、1980年代に入ると、これまでの運動とは性格を全く異にする、福祉、まちづくり、教育、環境等、より身近な課題から出発して地域住民が自発的に暮らしの仕組みを変革していくような活動が広がってきた。同じ時期、多くの日本企業が米国に進出して現地のNPOとの関係作りを学び、その経験を日本に持ち帰り、企業フィランソロピーを活発にした。また、95年1月の阪神・淡路大震災を契機に、政府にだけ任せておいたのでは社会の諸機能は維持できないことが改めて認識され、従来のボランティア活動の参加者の範囲をはるかに凌ぐ割合の国民がボランティア活動に集まり、あるいは義援金を寄せ、NPOの活動が脚光を浴びることになり、急速に発展することとなった。

このように、NPOが発展してきた背景には、高齢化への対応をはじめ様々の課題を抱える中で、行政の肥大化、非効率、国民のニーズに対する感応度の悪さといった政府の機能や活動に対する批判、経済活力の低下、企業の国際競争力の低下、外部不経済をもたらすような企業行動に対する批判、地域コミュニティの衰退といった、現在我が国が経済構造改革、社会保障制度改革、行政改革等として取り組んでいる課題と共通の経済社会状況の変化がある。

(2) 経済活動に占める比重と特徴

NPO活動が経済活動に占める比率を示す数値としては、従事している人数及び運営費の額が把握されている。ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、1990年現在、ボランティアを含めないNPOの雇用者数は、世界7か国(英米独仏日伊ハンガリー)の合計では全雇用者数の4.5%(1,180万人)であり、運営費の支出額は、GDPの4.6%(6,000億米ドル)に相当する。日本の場合、総雇用者数の約2.5%(140万人)を占め、運営費の支出額はGDPの3.2%(950億米ドル)に相当する。日本のNPOの雇用者数や経常支出金額は、ともに米国(各々710万人、3,400億米ドル)に次ぐ規模であるが、総雇用者数に占める比率や経常支出のGDP比は7か国の平均よりも低く、7か国の中では下位に属する。我が国では民間非営利セクターは発展の緒についたばかりであるが、各国経済の中では無視しえない存在となっている。

7か国全体で収入源をみると、会費・事業収入が47%、公的資金が43%と両者でそのほとんどを占め、民間寄付の割合は10%と低い。中でも、我が国では会費・事業収入が60%と高く、公的資金が38%であるが、民間寄付は1%と際立って低く、民間による公益活動支援の水準の低さがうかがわれる。

また、7か国全体の事業支出額は教育・調査研究が24%、保健・医療が22%、社会サービスが20%、文化・レクレーションが17%を占めており、この4分野が大きい。一方、日本では、教育・調査研究が40%、保健・医療が28%であり、他国と比較して比率が高く、逆に、社会サービスは14%で比率が低い。これは憲法上公の支配に属さない慈善、博愛等の事業に対しては公金の支出が禁止され、また、福祉は国家の責務とされていることが影響しているものと考えられる。

さらに、我が国のNPOの中には、様々な分野で政府部門の事務を代行している行政補完型法人が存在し、公益法人調査(1989年)に基づく推計によれば、その数は公益法人全体のおおよそ4分の1を占めると考えられている。これも他国にはみられない我が国の特徴である。

2.NPOの特徴的な機能

これまでのNPOの活動及びこれからの活動のあり方を考える場合、NPOの持つ機能の特徴はどこにあるのか、また、どのような点を今後とも維持していくべきか、という視点が重要である。その意味で、NPOの特徴的な機能は何かを、これまでの活動例を踏まえながら、以下取り上げてみる。

(1) 個人の自発的社会参加

生活水準の上昇や欧米文化の影響を受けて、国民の価値観はより個人の自由や選択の多様性を求めるようになった。こうした個人の意識の変化を背景に、自らが社会を構築していこうという姿勢が芽生え、政府に期待していただけでは十分に対応できない社会の問題を自分のこととして受け止め、解決のために自発的に活動していく人々が徐々に出現し始めた。これが80年代からボランティア活動や市民活動が盛んになり、個人の自発的参加から始まる新しいNPOが多数誕生したことの理由である。例えば、97年1月、日本海でタンカーが座礁し、越前海岸が流れ着いた原油で汚染された時に、政府の汚染除去活動に加え、多くの市民が自然環境を守るため自発的に駆けつけ、多大の貢献をした。

新しいNPOはこうした個々人の自発的社会参加が結びつくことによって生まれたものであり、個人の自発的な意思と行動を社会変革につなげていくための媒介装置であるといえよう。従来の代表的NPOである公益法人は、単に公益に関連する活動の遂行者として捉えられ、ややもすれば政府の方針を実現することを目的にしてきた経緯がある。この点、新しいNPOは、同じ民間非営利組織であっても組織を担っている個人の参加の自発性の程度において大きな違いがある。

(2) ネットワークによる活性機能

コミュニティやネットワークの中に個人が自発的に参加し、情報を提供し合う中から生まれる関係は、時に相互の信頼感を作り出し、社会的協力関係を生み出す。NPOはそうした個人の自発的な動きによって作られる幾層もの関係からなるネットワークと考えることができる。

社会的協力関係を生み出すネットワークは個人の行動を社会全体に結び付け、人と情報と資金等の結合をスムースにし、社会の経済的パフォーマンスに大きな影響を与えるものへと発展する。例えば、米国のシリコンバレーでは地場企業が地域ネットワークにより結びついた産業システムがある。最初は個人の活動から始まったネットワークが地場企業のネットワークへと発展した。このネットワークのおかげで企業どうしが集団で技術や市場を学習したり、調整を進めたりするようになった。労働市場もオープンなので実験的な試みや起業家の活動が促される。社外の供給業者や顧客ともコミュニケーションがスムースにすすみ、これが同地域の目覚しい経済発展をもたらした。新しいNPOは組織や経済社会システムを活性化する新しい社会的装置であるといえる。

(3) 公共性と多様な価値観(プルラリズム)

個人の自発的な参加によって作られるネットワークは、同時に、個人が「私」を活かすことによって「公」を育てる場である。個人相互の社会的協力関係はその網の目によって多くの異なる価値観(プルラリズム)を持った国民を広く包含し、多様な公共性を生み出す。例えば、芸術・文化は個人の関心の違いに応じて取り上げる対象が異なる。政府が一元的な選択に基づいて美術館を建設し運営しても、国民全体が満足する展示会を催すことは難しい。そこで、国民が好みを同じくする者どうしでグループ(NPO)をつくり、美術品を展示し、時には自らが美術館を設立し運営するようになれば、国民のより多くが満足できるだけの多様な展覧会を開催することができる。1つの価値観を求めない、すなわち、多様性を有している点が、国民全体の公平性を考慮して1つの方向性を追い求めていく従来型のNPOである公益法人にしばしばみられる考え方と大きく相違している。

また、自発的ネットワークは即応性、先駆性、個別性があり、国民の価値観の多様化や経済社会の急激な変化に上手く対応できる可能性を持つ。阪神・淡路大震災の際、政府や地方公共団体が迅速な初動を行えず、あるいは、被災者の様々なニーズに的確に対応できなかったのに対し、地元や全国から駆けつけたボランティア団体が被災直後から思い思いに行政の手の回らない活動を成し遂げていったことは記憶に新しい。

(4) 需要者と供給者の二重の役割

NPOの機能が果たす役割には2つの面がある。1つは、国民の需要の代弁者としての側面である。現在の市場システムや政治システムでは汲み上げきれない社会的弱者のニーズを感知し、それを代理人となって供給者である政治機構や市場機構に知らしめ、結び付けていく役割である。アフリカの国内紛争から生じる難民への支援活動を行っているNGOが一つの例になる。

もう1つは公共財の代替的な供給者としての側面である。例えば、大分県の湯布院では映画館がなかったが、町の映画ファンが仲間を募り、ユニークな映画祭を催した。それが全国から映画ファンを集めるまでに発展し、まちづくりにも一役買った。また、帰国子女の幼児教育を英語と日本語で一緒に行いたいと思った母親が、そのような幼稚園がないから、いっそ自分たちで作ってしまうなどの動きもこれに該当する。

さらに、NPOの大きな特徴は、NPOの参加者がサービスの供給者にも需要者にもなり得るということである。このためにNPOは、活動内容においても活動する人の規模においても、自律的に発展できる可能性を有しているのである。例えば、福祉など行政や民間企業によるサービスでは通常、サービスを提供する人と利用する人が分かれているが、NPOによるサービスの場合では、NPOのサービスを利用した人がその良さを認識し、次は自分が提供側に成長するなど、提供する立場とされる立場の入れ替わりが起こる。母子家庭で物心両面にわたる支援を受けた人が、今度は老人や障害者の支援に参加するなどがその例である。NPOは二重の役割を持っているからこそ、国民のニーズに的確に対応できるだけの感応度を持つことができる。

3. 新しい経済社会システムの構築とNPOに期待される役割

NPOは活動目的に応じてその特徴を活かし、様々な機能を発揮することができる。政府との関係においても、あるいは企業、個人との関係においても、様々な可能性を秘めているように思われる。そこには今、我が国経済社会が抱えている様々な課題に対して、これまでの既存の経済社会、すなわち政府、企業、個人といった枠の中では解決しきれないものも、NPOという新しい主体の役割を加えることによって解決策を見い出すことも可能なのではないだろうか。そのような問題意識に立って、現在我が国経済社会が抱える課題に対してNPOはどのように応えることができるのか、それぞれの経済主体との係わりを以下具体的にみていくこととしたい。

(1) 政府とNPO

【1】 政府機能の問題点

(国民のニーズの汲み上げ機能と政府の専門的知識の低下)

外部経済・不経済という市場の失敗を克服するため、公共財の供給主体として政府が登場した。政府の有する公平性、一元的価値基準、最大公約数の政策、政策の一貫性といった特性は均一の公益事業を広く国民に均霑することによって大いにその効果を発揮してきた。

しかし、国民生活が豊かになり国民の公共部門へのニーズが多様化してくると、こうした特性がむしろ呪縛となり、意見調整のための意思決定・執行の遅れや独善性といった非効率を生み、また、多様な国民ニーズをカバーしにくくした。しかも、経済活動の高度化・専門化によって、分野によっては政府のエクスパティーズ(専門的知識)が低下してきていることや、情報公開によって、行政の有していた情報の優位性が低下したことによって政府の民間部門に対する優越性が低下してきた。例えば、化学物質や放射能による環境への悪影響については、しばしばNPOがいち早く評価を行っていることがある。また、経済社会が激変し、新たな試みが求められる時代にあって、政府はこれまで主として、事例の蓄積や組織的な意見積上げ方式によって仕事を進めてきており、先駆的な活動や危機的状況における臨機応変の対応に向いた体制とは必ずしも言い難い。このため、その対応の仕方やスピードといった面で問題が生じてきている。これが行財政改革が求められている背景の一つになっている。

(地方政府の行政のあり方)

我が国は戦後、権限や財源を国に集中し、中央政府主導で全国一律の行政を推進することによって経済発展と国民の高い生活水準を達成してきた。一方で、この構造は、地域の経済力が向上してくると、地域の特徴を生かした多様な発展や住民の多様なニーズに対応しきれないのではないか、という問題が指摘されるようになっている。そこで、国と地方公共団体との関係を従来の上下関係から対等な関係に転換し、地域の問題は地方公共団体が今まで以上に住民の参画を促し、それぞれの個性や主体性を発揮して解決できるよう、国から地方への権限委譲、地方公共団体の税財源の充実や行政体制の整備など地方分権を推進することが政策課題になっている。こうした中で、地方公共団体はこれまで以上に政策決定過程への住民の広範な参加を促し、行政と住民の連携に努め、住民の期待と批判に応えるための手段を拡大し多様化させることを検討していくことが求められている。

 【2】 政府との連携

(対等なパートナーシップの形成)

これまでの政府と民間との連携をみると、その中心の一つに公益法人活動がある。両者の関係においては、政府は、公益法人を政府を補完するものと考え、行政活動の一環として取り込み、政府の方針に沿って指導する傾向にあった。公益法人は各々の活動目的に沿って一定の役割を果たしてきたが、政府が主導し、民間がそれを推し進めていくという行動のやり方は、一定の限界がみられるようになってきたように思われる。政府主導でつくられた団体の中には行き詰まっているものがある一方、草の根的に出てきた団体が今も変わらず活躍していることは、この辺りの状況を示唆しているのではないだろうか。政府としては、民間との連携にあたっては、今後は新しい機能を持ったNPOを独立した主体として認め、意見の違いを前提にした対等なパートナーシップを築く方式が、新たな経済社会システムを作り上げていく手がかりになると考えられる。例えば、まちづくりや環境保全については、最終的には住民のコンセンサスを得ないと実施できないことが多い。実際、NPOの方が実態について詳細な情報を持っていることもあり、こうした場合には、NPOが行政と協力して進めていくことが効率的な事業の実施を可能にし得る。このように、政府が国民の自主性を認め、連係を保っていくことが安定的な民主主義社会をつくることにつながっていくように思われる。

(シンクタンク機能、監視機能)

政府との関係におけるNPOの主な役割には、政府が汲み取りきれない国民の声を代弁し、政府に対して意見を言い、あるいは働きかけるというアドボカシー(提言型市民活動)としてのシンクタンク機能や、政府への苦情を処理したりその適正な運営を監視する役割がある。

現在の日本では、民間のシンクタンクからの政策的提言が少ないため、政策の選択の幅が狭い。政府の政策がうまく行かず社会全体が行き詰まってしまうことを防ぐためにも、政策立案能力の多様化が必要である。米国などの例をみると、政策の多様性を形成するため政府に提言するNPOの役割は重要である。また、官民の不正な行動が国民の政府に対する信頼を揺がせているが、それを改めるための基準を作ったり、監視していくことも期待される。NPOがシンクタンクとしての力を十分につけると、政府の内部組織重視型のガバナンスを外部型のガバナンスに変換することができるようにもなると思われる。

地方自治は単に、中央政府と地方公共団体の権限委譲や地方公共団体の財政基盤や行政制度の整備によって実現するものではない。地方自治を生きたものにするためには住民と地方公共団体の間に密接なコミュニケーションが成立していなくてはならない。NPOは公共サービスを提供したり、地方公共団体に意見を述べたり、それを監視することを通じて住民と地方公共団体とのコミュニケーションをすすめ、住民の自治を育てることを可能にする。また、様々な立場の住民の意見を反映しながら地方公共団体と協働する仲介役としての役割を果たし得る。例えば、食糧費等の行政支出に対する監視活動が最近の事例として挙げられる。また、都市再開発にあたって、計画の段階から住民の意向を汲み上げ、かつ実施計画の作成に参画したり、住民の総意を自らとりまとめていく、という活動が注目されている。

(公共サービスの提供)

NPOには、政府や企業が効率的に供給できない福祉など公共サービスを提供するという役割がある。教育、福祉、医療、先端研究などの分野ではサービスを提供する側がそれを受ける側よりも、何が必要かについて判断力があるため、市場メカニズムでは、サービス供給者が需要者に不利益を与える可能性がある。また、福祉サービスなどは、本当に必要な弱者に、市場における対価(代金)を支払えないという理由で行き渡らないおそれもある。そこでこのような市場の失敗を克服するため政府が公共財の供給主体として登場した。しかし、政府の役割を拡大することは一方で行政の非効率をもたらしかねない。また、政府は多様なニーズに対応したり、先駆的な試みをするには向いていない場合も多い。このような時、個人の自発的なネットワークであるNPOが供給者となれば、需要者との間に信頼性をベースにした協力関係が成り立つので需要者に不利益な行動をとる可能性が少なく、多様化した国民のニーズに効率的に対応することができよう。

また、NPOは寄付やボランティアによる国民の自発的な公共サービスの供給を行っており、より少ない社会的コストでサービスを供給することができる。例えば、地方自治経営学会の1997年の調査によれば、福祉サービスのコストは、民間企業は行政の2分の1であるが、NPOならば4分の1から5分の1程度で可能であると試算されている。

公共サービスの提供には、多種多様な形態があって、利用者がそれぞれのニーズに応じて選択できることが望ましい。その場合、提供の主体となる政府、企業、NPOの間にイコール・フッティングを図る必要がある。例えば、介護や福祉等の公共サービスは、地域によっては政府、企業、NPOが競合して供給している場合がある。ホームヘルプサービスをみると、政府によるサービスは質と量の両面において限りがあるため、急速に企業やNPOによるサービスが成長している。企業やNPOによるサービスの供給が発展し、システムが効率化するためには、補助金等の支出について政府、企業、NPOの間の競争条件に極端な不公平が起こり、強制的にサービス市場から退去を余儀なくされることのないようイコール・フッティングを保つとともに、利用者の必要なサービス提供で抜け落ちる部分が出ないよう、基礎的部分は政府がカバーするなど、政府の役割を明確化することが必要である。国民のニーズが多様化した社会では政府、企業、NPOの各セクターがバランス良く、イコール・フッティングで競争する仕組みが社会に安定的基盤を与える。また、税金による公共サービスの供給とバランスをとっていくことによって行政の簡素・合理化に資し、行政改革につながる。

なお、介護サービス等で問題が発生した場合、政府も事後的に厳しい対応をすべきであるが、第一次的には、利用者が政府に頼らず、自己責任において対応することが求められる。この面でも、どのサービスがよいのかについて評価基準を作ったり、トラブルが生じた場合の仲介役などに関しては、NPOの役割が期待される。

(NGO)

我が国ではインドシナ難民問題を契機に1980年頃からNGOが紹介されるようになった。NGOとは、国連と政府以外の民間団体との協力関係を定めた国連憲章第71条の中で使われた用語であるが、より一般的には、開発問題、人権問題、環境問題、平和問題などの地球規模の諸問題の解決に非政府かつ非営利の立場から取り組む組織の総称である。

しかし、国際舞台で活動している団体だけが海外との関係を持っているわけではない。現在では日本全体がグローバル化された動きの中にはめ込まれているため、パソコンなどを使って、例えば阪神・淡路大震災の際に地元の防災活動などを行ったようなコミュニティをベースにした小さな団体でも、海外と情報のやりとりが行われている。国際的関係の有無の観点から特に、NPOの中からNGOを区別する意味は薄れている。

NGOは、世界各地の弱い立場に置かれている人々に資金や物資を供与したり、技術者を派遣して技術指導したり、或いは、国連や政府機関が主催する地球規模の問題に関する国際会議に参画している。しかし、経済協力は、現在では、相手国の人に力をつけることが目的となり、活動の主体が現地の住民やNGOに移ってきた結果、NGOの活動も自国内における政府や企業に対するアドボカシー活動や国民に対する地球市民教育に重心が移ってきている。また、国内での災害救援活動や、90年代になって急増した外国人労働者の就労や医療といった問題など、国内での活動も増加している。

グローバル化は国際社会における国家の役割を相対化しており、それと反比例して、国家とは別の行動規範によって活動するNGOの活躍の場が拡大している。例えば、経済協力においてしばしば直面する環境と開発の視点の対立は政治問題化しやすく、また、最近の国際紛争は一国の中のグループ同士の対立である場合が多く、そこでは国益と直接無関係なNGOの方が活動しやすい。人権問題、環境問題など地球規模の問題では、地球市民の連帯の視点からNGOが国際会議など政策の合意形成の過程にも参画し、政府間の意思決定に影響を与えている。最近では97年の地球温暖化会議に内外から多数のNGOが駆けつけ、条約案作成作業が各国の利害の対立から難航する中で、NGOの側面からの建設的な貢献によって条約案採択に至ったことは記憶に新しい。また、自治体レベルでは、地域の文化交流、留学生の受け入れなど、地方分権の時代の国際交流でもNGOが活躍すると思われる。

政府と国際協力を行っているNGOとの対話は最近は非常に盛んになっている。国際協力の方針について有識者、政府の関係者、NGOのメンバー間で話し合っており、質的に西欧社会に近づいてきている。むしろ、政府側の方が国際的な変化の方向を取り入れるのが早く、NGOの方が感度が悪いという問題がある。

一方、海外では、まだ一般的には、ODAを実施する政府とNGOの間に官尊民卑的な上下関係がみられる場合がある。NGOの活動は一部の住民を対象とした、いわば点であり、現地の政府との連携があって初めて面に発展する。一方、政府ベースの国際協力は地域全体を対象とした面で進められ、それが現地で根を張っていくためにはNGOとの協力が求められる。政府とNGOが対等なパートナーシップに基づく協力関係を発展させ、それによって両者を活かしていくことが大切である。

(2) 企業とNPO

(地域社会の振興)

企業活動の発展を助けることを目的としたNPOはビジネスインフラを提供し、企業活動を効率化することができる。

米国では、生徒の学力水準の低下、中高生の麻薬乱用、教師や生徒に対する暴力、町の治安悪化などの深刻な社会問題を抱えている。このままでは、地域にある会社に必要な能力を具備した若者を得ることが困難になるだけでなく、従業員も子供の教育環境を心配して町を出ていく可能性もあり、会社は成り立たなくなる。また、麻薬常習者の作業能力の低下は生産性の低下となり、利益の低下につながる。グローバル化や技術の高度化によって競争が激しくなっている現在、これは一層深刻な問題となっている。

そこで米国の企業経営者は地域社会の問題に関心を持ち、麻薬乱用や犯罪の防止、疾病の予防、教育機会の提供など、健全な地域の育成のために援助を行うことが企業の生産性を改善し、企業を存続させるために不可欠になっていると理解している。従って、企業は相当な寄付をしたり社員をNPOに派遣するなど、地域社会の一員としてNPOと関係を持っている。また、それを仲介する支援組織もある。

一般に、企業の立地する地域社会が良くなれば企業には優秀な人材が集まり、企業は発展する。地域に良い教育があれば優れた若者を採用できるし、居住条件や文化水準が高いなど家族が喜んでくれるところであれば優れた幹部が来てくれる。企業が地域社会に貢献することは、長い目でみれば企業の利益にもつながると考えられる。

日本の場合でも、社会貢献部、文化事業部といったフィランソロピー専門部署を設置し、あるいは、企業財団を設立し、自ら社会貢献活動を行ったり、従業員の行うボランティア活動を支援する企業が、特に1990年代以降目を引くようになってきた。例えば、従業員がNPOに寄付をした場合にそれに上乗せした寄付を企業側が行うマッチング・ギフトであるとか、ボランティア休暇の付与などが行われ始めている。また、経済団体連合会の1%クラブ(1990年設立)、企業メセナ協会(同)、企業市民活動推進センター(91年設立)など、企業とNPOを結び付けるような組織が次々と誕生している。しかし、社会の一員として地域の問題への関心はまだ十分とは言い難く、企業の発展のためにも個人のボランティア活動を支援したり、社会貢献をさらに高めていくことが期待される。

(ビジネスインフラの整備)

米国のシリコンバレーは1980年代半ばからその成長が停滞した。これには、成長を支えていた半導体産業の公害、住民との紛争等の地域問題の発生等も影響しているといわれている。そのため、これらの社会問題を解決するために行政、労働組合、経営団体、教職員団体といった団体が地域のために結集してジョイントベンチャー:シリコンバレー・ネットワーク(JVSVN)というNPOを設立した。90年代のシリコンバレーの急成長の要因はNPOと企業との関係やそれを企業経営に取り入れたビジネス・スタイルであるとされている。

情報産業のような各企業が共通の技術を使うプラットフォーム型ビジネスでは、プラットフォームに採用される技術を開発する上でNPOの役割が重要になっている。すなわち、各企業の活動がプラットフォームを前提にしており、それを開発するには膨大な資金が必要になる。しかし、例えばインターネットのWWW画面を閲覧するためのソフトウェアのように、優れたプラットフォームがより多くの企業に利用されることによってその技術が国際標準となり、それを組み込んだ製品を販売する企業の収益性が向上し、産業の発展に貢献するので、無料で公開することが重要となる。こうした社会的共通資本部分を開発するのはNPOに向いている。マルチメディア時代は企業がプラットフォームにしたい技術についてNPOを作って提供することが国際競争上の優位を形成しており、米国では、核分裂のようにNPOが増えている。

最近のマーケティングでも、企業の商業的宣伝よりも顧客間の情報のやりとりが消費に影響を与える。顧客をどう組織するかや組織化されているものにどうアクセスするかが重要であり、ユーザーとのコミュニケーションの面でNPOの活躍がみられる。また、例えば、味、デザインといった感性に訴えるビジネスに関係している企業にとっては、国民の感性を高める文化事業などの社会貢献活動が企業の発展にもつながる。

大量生産や大型設備が求められる時代は、企業にとって企業形態による活動だけで十分であったが、知識集約型産業の時代には、情報を集めることが重要であり、NPOの形態が有効である。日本では、まだNPOを活用した業界活動には馴染みが少ないが、今後はNPOと企業の提携が企業経営の中に位置付けられることともなろう。

(企業活動のモニター)

最近、企業の反社会的行動やそれに起因する企業活動の不振が相次いで表面化しているが、その原因の一つに、公共性を無視して経済性のみを重視して企業経営を行ってきたことが挙げられる。これは翻って、当事者のみならず消費者等企業を巡る関係者が十分な監視能力を持っていなかったことを明らかにした。消費者や国民の力の及ばない点を補うため、労働組合のみならず消費者組織などのNPOのチェック機能が期待される。NPOが活躍することが長い意味で経済の効率性を高める。

例えば、米国ではインターネットを通じて政府の膨大な量の情報が公開されており、行政の公開した情報に基づき、環境団体が企業の排水による水質汚染等の環境汚染を克明に監視している。小さな政府を目指している米国では規制緩和を推進しており、また、政府も監視を十分に行えない。NPOが行政情報に基づいて、直接企業に意見を言うことは、外部不経済をもらたすような企業行動を監視する面でも効果があり、効率的でもある。

また、企業の情報を消費者に的確に提供する一方で、消費者の評価や判断等を企業にフィードバックするシステムも今後は重要となると考えられる。その場合にNPO等の果たす役割は大きい。例えば消費生活協同組合の組合員は、民間営利企業が収集不可能な地域の生活に密着した対面の生活情報を有しており、これを組合員間でやりとりしている。こうした地域情報機能を地域社会の場でつなぎ、企業にフィードバックするシステムができれば非常に有用である。地域情報ネットワークは米国でかなり進んでおり、我が国の参考になるものと考えられる。

(3) 個人のライフスタイルとNPO

(自ら楽しむ、生きがいとしての場)

NPOの活動はどちらかといえば他者のために行う自己犠牲と考えられがちであるが、自ら楽しみながら、あるいは生きがいとして進んで行い、その結果として公共財を提供していると考えることもできる。また、NPOの活動はライフステージ毎の能力発揮や社会参加の場の選択肢の一つにもなり、個人のライフスタイルの多様化に応える。今後のNPOの活動は「身を捧げる」というだけではなく「参加する」という認識を持つことが大切である。

例えば米国では、会社だけではストレスがたまるので、ボランティア活動に参加することによって人生を楽しくしているという人も多い。日本では会社における地位だけで他人から尊敬されたり、夫の会社の地位によって家族の地位が決まったり、何歳になっても企業活動に関わるのが偉いという考えがあるが、米国では仕事の他に地域に対して何を行っているかが重要であり、たとえ60歳で退職しても、NPOで活動をしていると評価される。また、会社では上司であってもアフターファイブの地域活動では部下の下で活動することに違和感を持たない人が多い。会社とアフターファイブの生活のバランスをとる「二所懸命」のライフスタイルが人生を楽しくし、社会に活気を与えることができる。

(就労、社会参加など能力発揮の場)

女性や高齢者、障害者など、これまで労働市場から排除されがちであった人たちが、企業社会に入るだけでなく、新しい働き方を目指してNPOをつくり運営していくことが今後一層重要になると考えられる。例えば、女性の介護ボランティア活動から始まったワーカーズ・コレクティブ、障害者の作業所、高齢者の介護支援組織など新しい社会組織が作られつつあり、これらが女性や高齢者や障害者の新たなライフスタイルを可能にしている。

21世紀には産業構造が大きく変わり雇用不安を予想する見方もある中で、高齢化社会において、NPOは有給の雇用機会を提供することが期待されている。ボランティアを安上がりな賃金労働者とみて、その増加がパート労働者の労働条件を悪化させ、労働市場を混乱させるとか、同業種の企業の収益に打撃を与えるとの指摘がある。しかし、福祉分野のように労働力が不足していたり、市町村の介護福祉の現場のようにコストと質の面からボランティアの役割が無視できないところもある。また、公的介護サービスの対象外となっているメンタルケアなどのサービスでもNPOなら供給可能となる場合もある。

サービスの供給主体として、NPOの雇用吸収力は過小評価すべきではない。ジョンズ・ホプキンス大学の調査によれば、3か国(米仏独)についてみると、非営利セクターの雇用者数は、1990年には全雇用者数の6%近くを占めているが、1980年から90年の10年間に新規雇用者の12.6%を生み出しており、他の経済部門よりも雇用者数の伸びが大きいことがわかる。我が国においても今後は雇用の増加に寄与すると考えられる。

(能力開発の場)

個人の能力開発は学校や会社だけでは十分ではない。NPOは活動を通じてリーダーシップやマネジメントといった能力を身につけるトレーニングの場にもなり得る。また、NPOの活動において、個人が様々な課題を自らの問題と捉えてその解決に参加していく精神は、民主主義の精神を支える土台であり、NPOはそれを育てる教育機能も有している。

(4) 労働組合、共済組織及び地縁組織とNPO

 【1】 労働組合

(労働組合の性格)

労働組合は、ジョンズ・ホプキンス大学の国際比較プロジェクトの定義(第1段階)ではNPOの1つに分類されているが、一方でメンバー間の共同利益を図るという性格も有しており、他のNPOとは異なる一面を有している。労働組合の存在根拠は、他のNPO同様、市民社会の原理である結社の自由に求めることができる。労働組合は労働者の雇用保障、次いで暮らしの保障を目的とする利益団体であるが、勤労者全体の暮らしを守るという公共的機能を果たさないとその目的を達成できないという意味において、公共性を有する組織体であるといえる。

しかし、労働組合は従来から社会的活動を行ってきたものの、戦後の推移の中で企業内的な性格が強まり、大企業を中心に企業内福利や退職金制度を充実することに力を注いだ。一方、公共性の構築という視野が弱かったという経緯もあり、社会保障や地域の公共部門への働きかけは十分には行われなかったきらいがある。

しかし、阪神・淡路大震災を契機に、労働組合の活動にあまり熱心ではないのにボランティア活動に積極的に参加している若者が注目され始めた。今の若者は組合員としての意識より市民としての意識が強くなってきている。戦後の食べるのがやっとであった時代に比べ、今の組合員のニーズや生きがいは職場の中だけでは完結せず、地域や社会にも広がってきている。一方、そうした多様なニーズを持った市民化した組合員が自主的に参加したくなるような労働組合は少なかった。これを機に労働組合の活動の視点も見直され、企業利益の延長線上にあるような利益要求という視点から、生活者の論理、あるいはキャリア形成等労働者の主体的人生選択を支援するという視点に変わってきた。また、ボランティア活動も労働組合の本来の活動と認識され始めている。

(労働組合の社会貢献活動)

労働組合は元来、使用者に対抗するために組織の一体性を確保しなくてはならず、組合員は「動員」をかけられて動くので、他のNPOの活動とは個人の自発性という点で大きな違いがある。労働組合がNPOと連携することは必ずしも容易ではない。しかし、労働組合の中からボランティアの受入体制を整えたり、地域がうまくいかなくなると企業も産業もうまくいかなくなるとの考えの下に労働組合自身がNPOを作っているところもある。例えば、多くの労働組合が公的福祉制度の対象にはならないデイケア等の分野においてサービスを行っている福祉関係のNPOと関係を持っており、また、環境関係のNGOと連携しているところもある。こうした活動が定着するかは、組合員の利益を図るという目的の中で、労働組合が持っている公共的機能をどこまで伸ばすことができるかにかかっている。

(労働組合とNPO)

市民活動が活発でなかった時代には、市民運動が担うべき社会的課題に労働組合が取り組んできた。しかし、ボランティア活動や市民活動等NPOの活動が盛んになり、労働組合はその特性を生かしたNPOとの新たな連携の枠組みが求められている。現在はまだ我が国ではNPOの活動が広く普及するまでには至っていない過渡期にあるから、労働組合がボランティア活動を行い、あるいは支援していく余地がある。今後は、市民社会システムと企業の労使関係を如何に接合していくかが課題となっている。

その際、労働組合がその資金力や情報力をどのように使っていくのかが重要である。ヨコに繋いで地域別、タテに繋いで産業別に繋がることができ、情報の共有が広がればかなり強力な情報伝達装置になり得る。この意味で、他のNPO相互を結び付けるNPOの交流の場としての役割も期待される。

 【2】 共済組織

(共済組織の性格)

共済組織は出資者の相互利益を目的として設立される組織である。法人格が制度化されているものとして消費生活協同組合、農業協同組合、中小企業協同組合などがあり、その外最近では、法人格がないワーカーズ・コレクティブ、高齢者協同組合という形態などが誕生している。消費生活協同組合は組合員である経済的弱者が協同することにより組合員の経済的合理性を高めることを目的とし、購買事業、医療・保健・福祉事業、宅地・住宅事業、共済事業などを行っている。

(消費生活協同組合の活動)

消費生活協同組合は1970年代頃から、「団塊の世代」の主婦を中心に、地域でつながりをつくり、子育ての悩みを一緒に分かち合い、また、食品添加物等から生活を守り、安全で安心な生活をしたいという要請の中から、今日の基礎がつくられた。意欲的なエネルギーに満ちてはいるが力を発揮する場がなく、生活の中で様々な思いが達成されていない専業主婦が、地域にいたまま組合員仲間で協同することによってその活動が伸びてきた。

ところが、消費社会が高度化する80年代以降、コンビニエンス・ストアの出現や女性の社会進出などライフスタイルの大きな変化が起こった。女性も職場に出る人が多くなり、さらには、かつては消費生活協同組合が担っていた機能をそれ以上に魅力的に担う新しい関係、すなわち、人と人との交流から生まれる知縁的ネットワーク活動が登場し、組合員ではあるが参加はあまりしないという人々が増加してきた。

(消費生活協同組合とNPO)

こうした状況から、同じ活動を他で行っている地域のNPOや市民活動と共同して地域で活動を行うことが始まった。扱うテーマも食品だけでなく、環境、福祉、まちづくり、仕事おこしなど多岐にわたっている。例えば、福祉の分野等で、活動実績のある他団体を手伝ったり、基金を設けて市民活動に助成したり、企業の社会貢献活動のように財団法人を設立しているところもある。また、大手の消費生活協同組合では80年代に摩擦のあった地域商業者と共同店舗をつくるなど、地域商業者との共同事業を推進しており、これが市場の活性化につながっている。

また、地域の組合員情報の宝庫である消費生活協同組合としては、それを十分に活かせるような地域情報機能システムを、それを専門的に行っているNPOと連携して作り上げ、地域社会における自己の位置を決定していくことが重要である。

今後、消費生活協同組合がコミュニティとNPOの間の境界線上にある組織であるという性格から、いかにしてNPOのような機能を有する組織に脱皮が図られ地域社会の中に真に根付いた組織になるかは、21世紀の消費生活協同組合にとって大きな課題になると思われる。

 【3】 地縁組織

(地縁組織の性格)

我が国の地縁型住民組織は、自治会、町内会というかたちで、自治行政事務、公共的行事、防災・防犯、文化行事、地域の施設管理などに関する行政の末端の組織として発展してきた。

しかし、経済成長に伴う都市化や情報化の流れの中で生活の必要を満たすためにはより広い地域共同体の必要性が高まり、人々は自治会や町内会といった地縁型で強制加入の地縁組織から離れて、生活がより個人化し、知縁型で参加の自由なネットワーク型のNPOや専門的な行政へ依存するようになってきた。例えば地方公共団体の環境モニターや美術館の文化ボランティアが有志の民間団体に委嘱されたりするようになってきている。こうしたことから、地縁組織の住民生活に欠かせない組織としての機能や行政の末端組織としての機能は低下してきている。

(地縁組織とNPO)

行政改革の流れの中で、高齢者問題、子育て、環境・リサイクル、まちづくり、青少年問題、防犯・防災などは政府にすべてを期待することは不可能であり、さらに、グローバル化や規制緩和が進められていく中で、住民の安定した生活基盤を確保するためにも、住民が政府と一体となって対応していくことが不可欠である。こうした中、地域の特徴を踏まえてこれらの問題に取り組める組織はコミュニティであり、個人の地域における生活を守る拠り所として、特に都市部では何らかの形で住民を結び付けていくコミュニティが求められている。

コミュニティの形成は、地縁組織によるのか、それとも知縁型で参加自由のNPOによるかと択一的に考えるのではなく、両者がそれぞれの持ち味を生かして協調していくことが望ましい。例えば、ごみ処理や町の景観の保全など住環境の管理に関する問題では住民が全員参加する地縁組織の役割が大きく、福祉、文化活動などコミュニティを横断する地域内の課題についてはNPOが一定の役割を担い、国際交流や地球環境のような地域を越えた問題についてはNPOの役割が中心になる。地縁組織を足場にして特定の問題について有志の住民がNPOを作ると、既存の地縁組織を変革し、地域の課題の解決に重要な役割を担うことができるようになる。

また、大都市では近年、住民組織は地域団体を足場にした有志の住民の集まりとしての性格が強くなり、NPO化しつつあるものがある。また、下町のような助け合いのネットワークが乏しい団地の自治会の高齢者が、地域の地域福祉サービスを提供するNPOの支援を受けながら活動グループを結成するなど、NPOと密接な関係を築いている地縁組織の動きがあり、両者がネットワークを構築していくことが課題になっている。一方、町村部を中心とする地域では地縁組織が未だ地域づくりの担い手と考えられており、NPOが地方でも根付くためには、地域ごとの手法を認識しながら地縁組織とNPOを関連づけ、地域に密着したNPOの活性化が求められる。

4.NPOの健全な発展のための課題と環境整備のあり方

阪神・淡路大震災を契機に、国民のボランティア活動や企業の社会貢献活動などNPOを支える取組みが活発化しているだけでなく、地方公共団体レベルではNPOサポートセンターの設置が始められ、また、今年3月19日には特定非営利活動促進法が成立し、NPOに一定の要件の下で法人格が与えられるようになる。このように、NPOの発展に向けて様々な動きがみられるようになってきた。今後の経済社会システムにおいて、NPOがその役割を果たしていく上で、どのような課題があり、それにNPO及び政府をはじめとする各経済主体がどのように対応していくべきか、以下みていくこととしたい。

(1) NPOの問題点

(NPO活動の現実の問題点)

NPOは多元的な個人のイニシアティブから出発する非営利の組織という点で優れた特性を有するが、一方、その特性に由来する現実的な問題も発生している。

事業活動から生じる利益を利害関係者に分配することが禁止されているという制約を持つということは、利潤動機のような費用最小化のインセンティヴが乏しくなるため、非効率な運営に陥る可能性がある。また、最近の公益法人の不正事件にみられるように、NPOを称して利益追求に走ったり、非分配制約があっても、内部関係者が高賃金やフリンジ・ベネフィットによる実質的な利潤分配を受けるなどのモラルハザードもあり、改めて公益法人の運営管理のあり方や情報の閉鎖性が指摘されている。

また、NPOの活動が成熟化している米国では、NPOが提供するサービスの質の評価が十分行われていないとか、NPOはミクロレベルでは様々な活動を行っているが、その活動が国全体からみて問題の解決になっていないのではないかという、NPOの有効性について問題提起がなされている。

我が国では、これまで行政が主として行ってきた事業を公益法人にも移しているが、実際上はその管理・監督を通じて、かえって行政関与の拡大を招いているという問題も指摘されている。

(国民やNPOの姿勢のあり方の弱点)

我が国におけるNPO活動は、阪神・淡路大震災を契機に大きく変わってきたとはいえ、これまでの活動が国民の間にすんなりと受け入れられてきたとは言い難い。政府の対応にも問題点があることは否定できないが、NPOの側にも問題はある。かつての市民運動といわれたものに顕著であったように、政府に要求はするが費用の負担はしたくないといった態度や、問題が起こると政府の政策を一方的に非難し、責任を追及するのみで解決の糸口をなかなか見い出し難いといった、社会や政府に対する甘えの姿勢である。こうした、ややもすると一方的な姿勢は、政府との対等なパートナーシップの形成を阻害し、また、市民の幅広い参加にもマイナスとなりかねないものである。

また、本来プルラリズムがあるはずのNPO相互間にはしばしば近親憎悪があり排他的な面もみられた。例えば、あるNPOに寄付をすると他のNPOからも寄付を要求されたり、一方のNPOに寄付すると他方では出入り禁止にされたりすることがあったといわれる。NPOをめぐる人材や資金のマーケットが現在は狭く、その狭い枠の中で奪い合いをしているからである。また、既存組織は、新しい団体ができると自分たちが批判されたと考えたり、自分たちの分野に割り込まれたと考え、新しい団体と連携したがらないこともある。例えば、発展途上国にあるNPOは、支援組織である日本のNGOと連携したいと考えているが、日本のNGO組織は関東・関西に分かれており、日本全体につながるネットワークになっていないためコンタクトがうまくとれていない。NPOの姿勢がNPO相互のネットワークの広がりを阻んでいる。

新たな潮流の中でNPOを発展させていくためには、組織を強化していくための様々な支援策を講じていくだけでなく、国民やNPOの持つこうした弱点を掃去できるような制度の仕組みを考えていくことも必要である。

(2) 課題と環境整備のあり方

【1】 NPO運営上の課題

(現行制度の問題点)

民間非営利団体の活動に法人格を与える制度としては主に、民法に依拠する公益法人制度や各種の特別法に基づく法人制度がある。これらの法制は各々の団体活動を発展させる基盤を築いてきたが、一方で様々な問題点を持っている。例えば、法人格を取得するには主務官庁の許可が必要になるが、その取得には相当の時間と煩雑な手続きを要し、また認可基準も明確ではなく取得は容易ではない。この結果、最前線で活動している団体の多くは法人格を得られないため、不動産登記のような資産・債権債務の帰属、銀行口座の開設のような契約行為など様々な面で法律上の活動が制約され、さらに、国際的活動においても不利な扱いを受け、また、社会的信用を得ることができないでいる。

しかも、一旦認可されると従来、公益法人は行政の一部を担うかのように考えられがちであり、監督を通じて政府が指導する傾向にあった。特に最近では、度重なる公益法人の不祥事もあって、法人の設立や株式の保有、理事会の構成等事業実施について、様々な指導監督基準が示され、規制が強化されてきている。これらは、民法上の法人格を取得して自主的な活動を行っている団体に対しても適用され、その活動を拘束するものとなっている。

(特定非営利活動促進法)

このような問題状況を改善するため、平成10年3月19日、福祉、環境、災害救援、国際協力など一定の非営利活動を行う団体に対して簡易、迅速な手続きにより法人格を付与する「特定非営利活動促進法」が制定されたところである。この法律では団体に対する政府の監督を必要最小限度に止め、その活動の是非は団体情報の開示による国民の判断に委ねることとしている。

例えば、法律は法人格を得た団体に対して事業報告書、役員名簿、会計書類などを毎年作成し、公開することを求めている。法人側にも情報公開に耐え得る管理運営の体制を作り、国民に対して活動の透明性を担保した上で社会に役立つ活動の実績を上げていくことが求められる。

今後、都道府県をはじめとする所轄庁は、法の円滑な施行に向けて、関係者への十分な周知や、条例の制定など万全の準備を行うことが求められる。

(活動評価のためのシステムと情報公開)

団体活動のガバナンスは公益法人制度では入口の公的規制によっているが、これからは、NPOに対する行政の関与は必要最小限度にとどめ、出口における国民によるパフォーマンスの評価に任せられるのが望ましい。

NPOは一般的には国民から肯定的な印象を持たれていても、具体的なレベルになると成果を上げているのか疑問に思われたり、不正を働いているのではないかといった厳しい見方がされていることも事実である。NPOの健全な発展のためにはNPOが国民からみて「顔の見える」存在となることが必要であり、その活動内容などの情報を公開することは重要である。その場合、NPOのアカウンタビリティーを果たすためには単に情報を公表するだけでなく国民の評価を可能にするような提示の方法に工夫が求められる。

情報公開により、NPO相互が競争する環境が整えられ、NPOが自らの活動には自らが責任を負うという仕組みになることにより、NPOが抱える様々な運営上の弱点が解消されるだけでなく、NPOのマーケットが拡大し、資金や人材の投入を通じて国民の価値観のプルラリズムをNPOセクターに反映させることにもなる。さらに、NPOに不適切な行動があった場合に、政府の規制の強化に訴えることなく、NPOや国民自身の手により問題の解決を図ることが可能になると考えられる。

このように、国民の支持するNPOには寄付やボランティアや公的資金が集まり、逆に、評価されないNPOは消えていくという選択が自ずとなされるシステムが形成されていくことが期待される。

(財政基盤の強化)

NPOの活動に関わる資産・事業収入の課税上の取り扱いや個人や法人がNPOに対して行う寄付金の控除制度など税制上の優遇措置はNPOが独自の財源基盤を強化するためには重要な政策である。現在では、法人税課税について、公益法人及び人格なき社団等には一定の収益事業から生じた所得に対して課税され、それ以外の所得については非課税であり、また、寄付控除については、公益法人の一部である特定公益増進法人等に対するものに認められている。

我が国ではNPOの資金源の大半は会費・事業収入と公的資金から構成されており、民間寄付金は諸外国が1割を占めるのに対し、わずか1%に過ぎない(図表(4)。独立したセクターとしてNPOを育てていくには民間による活動支援を促進していくことが必要である。

NPOに対する寄付金の控除による方法は税金を納めて公共サービスを一括して政府に任せるのではなく、国民各自が評価するNPOを選択して財源を振り分けサービスを提供させることができるというメリットがある。NPOは個人が共感する活動に寄付したり、ボランティアとして参加したりすることによって発展するという意味において国民の「こころの投票」による公共財の供給であるといえる。国民のニーズに最も良く対応して社会の稀少資源を配分するにはどれが最適かという観点からNPOに対する税制を検討する必要がある。

公益法人等にとどまらず、NPOに広く税制上の優遇を認めることは、現実のNPOの活動が国民から有益であると評価されることがなければ、国民の理解を得ることのできない問題である。NPO自体が切磋琢磨し、活動の有益性や透明性を高め、国民の信頼を確立していくことが期待される。

米国では、議会や政府がNPOとの今日の関係を築くに至るまでには長い時間を要した。我が国においても、十分時間をかけて一歩一歩上述したようなシステムに近づくよう改革を進めていくことが肝要である。

 【2】 人材の交流・確保・育成

(人材の交流)

NPOが経済社会の一セクターに成長するためには人材の確保も重要である。従来は企業や政府が人材を取り込み、NPOには人材が不足していた。今後は、企業や政府や大学とNPO間の人材交流の仕組みを構築する必要がある。

元来、我が国の雇用システムは一企業での終身雇用により雇用を保障する非流動性に特徴があり、それがやり直しのきかない社会を作り、多様な人材を作ることを妨げ、社会の活力を殺いできた。これがNPOへの人材供給を妨げている原因の一つにもなっている。個人のライフスタイルに合わせて自由に能力発揮の場を選択して企業、政府、大学、NPOの間を移動できるようにすることが社会の活性化にもなり、NPOに人材を供給する最も有効な方法である。そのためには各セクターがセクター間を移動する際の退出コストを低くしていくことが必要である。理想的には、NPOと他の分野の人材の交流が頻繁に行われている米国のように、例えば公務員の場合は任期終了後は元の行政ポストに復帰できる制度的保障があるなど、各セクター間を往復できる仕組みが望まれる。日本ではいったん企業や行政を出ると元の組織に戻りにくい。企業がNPOに人材を出す時は交流自体を企業内ボランティア活動として位置付けることが検討されてよい。

(NPOの雇用市場の整備)

NPOが良い人材を引き付けるためには職員の処遇の向上、特に、職業的展望を持てるようにNPOで働く者のための雇用市場を整備していくことが必要である。例えば、日本のNGOで4~5年現場経験を積んだ後海外で開発等専門分野を勉強した人材や、海外で医師資格を取得し現場も歩いているようなレベルの高い人こそもう一度NGOに入れば大きな力になると思われるが、NGOの財政は厳しく、彼らに見合った処遇ができなかったり、NGOの雇用市場の未熟性がネックになってキャリアを活かせないでいる。

また、自分に向いた活動を見つけるのは現実には容易ではなく、NPOを巡る人材、活動のマーケットを整備し、ボランティアなども含め、活動の機会を提供していくことも重要である。マーケットが充実してくれば優秀な人材も集まり、NPOの分野で専ら活動する人も出てくる。米国では、専門誌に人材募集欄が掲載されており、資金調達者や資金運用者等NPOの人材についての雇用市場が成立している。

(人材の育成)

NPOのセクターが拡大するにつれ、NPOのマネジメント能力を有する実務家を養成することが必要になってくる。米国では、短期の実務家養成講座ばかりか、既に80近い大学院でそのための修士課程が存在し、NPO、行政、企業等で実務経験を持った社会人を中心に履修している。そして卒業後、そこでの人材が各分野に再就職することによって、NPOと他分野の人材の交流がなされるだけでなく、学生時代に築いた人間関係をベースにしてNPOと政府、企業等とのパートナーシップの確立にも貢献している。我が国の大学教育では、ようやくNPOの教育に目が向けられ始め、100以上の大学でNPO関連講座が開設されている。内容面でまだ十分なものにはなっていないが、急速に研究が発展しつつあり、今後の充実が期待される。

また、各国のNPOとの交流を促進したり、NPOの世界的な連合組織の場で実務家同士が交流を深めることによって情報を交換したり、活動をレベルアップしていくことも重要である。例えば、NPOの国際的な学会であるISTR(International Society of  Third Sector)では学問的な交流に加え、NPOの実務家レベルの交流も進められている。また、NPOの国際的連合体であるCIVICUSはNPOに関する研究プロジェクトを実施しており、各国から集まったNPOの実務家が情報や経験を交換することにより情報公開の方法、財源確保のノウハウなどを学ぶ場として管理運営能力の向上に貢献している。

 【3】 事業体、シンクタンク機能、ネットワークの三位一体の推進

(体制整備の一体的推進)

NPOを発展させていくためには、事業体としてのマネジメントができる体制であること、提言活動に向けて研究、調査等を行えるシンクタンク機能を有すること、さらにそれらの組織・機能全体を強化していくためにネットワークを拡大していくことを、一体として推進していくことが必要である。

(組織・マネジメントの強化)

我が国のNPOは欧米と比べ財政、組織やマネジメント、専門性を備えた人材の育成、情報、シンクタンク機能、活動評価など多くの面で活動基盤が弱体である。米国等では、MSO(マネジメント・サポート・オーガナイゼイション)というNPOの活動を支援する仲介団体(NPO)が多数存在しており、活動基盤の強化に貢献している。我が国でも近年、東京、大阪、神奈川、仙台、広島、名古屋など各地方において官民のNPOサポートセンターが相次いで開設されている。そのうち民間のものは現在15を数えるまでになっており、NPO活動を支援するための全国のNPOサポートセンター相互のネットワークが広がっている。センターでは、人材に関する情報や地域のNPOの実践例を蓄積しており、地域の問題を人のネットワークとリンクして事業化していく企画力を高めたり、会計事務、補助金申請などマネジメントの支援、NPO相互や企業、行政、大学とのコーディネイトやネットワーク作り、これらの技術を習得するための各種実務者研修プログラム、相談事業などを実施している。

政府は、NPOを今後の新しい経済社会における自立したパートナーとして捉えていくことが大切であり、そのためにも、その活動基盤に対する支援が期待される。特に地方公

共団体は、地方自治を発展させる観点からも積極的にその活動を支援していくことが求められる。支援の方法としては、例えば、サポートセンターの設置、NPOが政策形成に関われるような行政情報の開示や、集会場や会議室等公共施設の貸出しなどがある。また、

センターの実施している情報のデータベース作りや各種の人材育成事業を支援するなどN

POの基盤作りを行っている民間のNPOサポートセンターへの支援を拡充していくこと

も考えられる。

(シンクタンク機能の強化)

シンクタンク機能については、今までの結果をみると力不足ということもあるが、言い放しで終わっているきらいがある。単なる提言から施策についての外部評価のようなもう一歩踏み込んだものが必要となっている。

また、行動実施型NPOは提言の力は弱いが、代替案を実施できる手段をもっていることから、政府も提言に耳を傾けてきた。逆に、提言だけの団体は、優れた調査研究をまとめて非常によい提言をしていても、注文をつけているだけだと受けとられ易い。米国では、シンクタンクの研究員が議会の公聴会などで証言するなど、提言を政府が公式なものとして受けとる仕組みがある。NPOの提言が政府に対して影響力を及ぼし得るようになるためには、その組織自体が何らかの行動をしないまでも、データの提示など実施に関わる部分を示すことによって影響力を発揮することも考えられる。例えば、環境に関する調査結果、政策シミュレーションなどを発表することが考えられる。その場合、どのような情報やメッセージが求められていて、誰にそれを届けるのが効果的であるのかを明らかにして、実際にシンクタンク機能を実施力に結び付ける企画力やマネジメント能力を強化していくことが重要である。そのためには、NPOが相互に連携し合うことが重要であり、この意味においてもネットワークの強化が必要である。

まとめ

我が国経済社会は、大きな潮流変化の中で、新しい時代に合った新しいシステムへの変革を強く求められている。

これまでのシステムでは、政府、企業、個人という3つの経済主体の各々の活動、あるいは相互連携といったかたちで捉えられてきており、それで大きな不都合はなかった。しかし、特に1980年代以降急速に起こってきた個人の自発的参加から生まれたNPO活動をみるとき、以上みてきたように、その機能と果たし得る役割には目を見張るものがある。NPOは、政府、企業、個人といった経済主体が今後果たすべき機能をさらに強化する役割を果たす可能性を有しており、変革の大きな主体としての役割を担っているといえる。

NPOを政府部門や企業部門から独立した第三のセクターとして認知し、育て、NPOという社会的装置を経済社会システムの中に的確に組み込むことは、現在の政府や企業が主導するシステムを21世紀に対応できるシステムに変革し、活力あるものとしていくことにもつながっていくものである。NPOの発展のために、政府、企業、そして各々の個人が各々の努力と支援を行っていくべき時と考える。


NPOの健全な発展のための環境整備に関する提言

NPOが健全な発展をして、今後の経済社会システムの中で、政府、企業、個人といった経済主体が今後果たすべき機能をさらに強化するという役割を果たしていくための環境整備について提言を行う。

提言1 活動評価のためのシステムと情報公開

国民の支持するNPOには寄付やボランティアが集まり、評価されないNPOは消えていくという選択がなされるシステムが形成されていくためには、NPOが国民からみて「顔の見える」存在となることが必要であり、NPOは情報公開を推進すべきである。

・NPOの健全な発展のためにはNPOが国民からみて「顔の見える」存在となることが必要であり、その活動内容などの情報を公開することは重要である。

・情報公開により、NPO相互が競争する環境が整えられ、NPOが自らの活動には自らが責任を負うという仕組みになることにより、資金や人材の投入を通じて国民の価値観のプルラリズムをNPOセクターに反映させることにもなる。さらに、NPOに不適切な行動があった場合に、政府の規制の強化に訴えることなく、NPOや国民自身の手により問題の解決を図ることが可能になると考えられる。

・このように、国民の支持するNPOには寄付やボランティアや公的資金が集まり、逆に、評価されないNPOは消えていくという選択が自ずとなされるシステムが形成されていくことが期待される。

提言2 NPOの財政基盤強化

NPOの財政基盤を強化するため、寄付金の控除など税制上の措置を検討すべきである。

・我が国ではNPOの資金源の大半は会費・事業収入と公的資金から構成されており、民間寄付金は諸外国が1割を占めるのに対し、わずか1%に過ぎない。独立したセクターとしてNPOを育てていくには民間による活動支援を促進していくことが必要である。

・NPOに対する寄付金の控除による方法は、国民各自が評価するNPOを選択して財源を振り分けサービスを提供させることができるというメリットがある。国民のニーズに最も良く対応して社会の希少資源を配分するにはどれが最適かという観点から、NPOに対する税制の検討が必要である。

・NPOに広く税制上の優遇が認められるためには、NPO自体が切磋琢磨し、活動の有益性や透明性を高め、国民の信頼を確立していくことが期待される。

提言3 政府、企業、大学、NPOによる人材の交流、雇用市場の整備、人材の育成

政府、企業、大学はNPOとの間の往復可能な人材移動システムを構築するため、NPOに人材を出す場合は元のポストに復帰できるようにすることなどを検討すべきである。NPOはよい人材を引き付けるために、NPOで働く者のための雇用市場を整備すべきである。

大学等はNPOの運営のための実務家を育成していくべきである。

・政府、企業、大学は、個人のライフスタイルに合わせてNPOとの間を自由に往復できるようにするため、移動する際の退出コストを低くすることが必要である。例えば、公務員の場合には、任期終了後は元のポストに復帰できる制度的保障や、企業がNPOに人材を出す場合には、交流自体を企業内ボランティア活動として位置付けることなどが検討されてもよい。

・NPOがよい人材を引き付けるためには、職員の処遇の向上、特に職業的展望が抱けるようNPOで働く者のための雇用市場を整備することが必要である。また、NPOを巡る人材、活動のマーケットを整備し、ボランティアなども含め、活動の機会を提供していくことも重要である。

・NPOのマネジメント能力を有する実務家を育成していくために、大学等がNPO教育を充実していくことが期待される。また、各国のNPOとの交流を促進したり、NPOの世界的な連合組織の場で実務家同志が交流を深めることによって情報を交換したり、活動をレベルアップしていくことも重要である。

提言4 事業体、シンクタンク機能、ネットワークの一体的推進のための政府の支援

NPOの発展のためには、事業体としてのマネジメント、提言可能なシンクタンク機能、これらを強化するネットワークの拡充を一体として推進していくことが重要である。政府としても、行政情報の提供やNPOの人材育成事業等への支援を拡充すべきである。

・我が国のNPOは欧米と比べ財政、組織やマネジメント、専門性を備えた人材の育成、情報、シンクタンク機能、活動評価など多くの面で活動基盤が弱体である。

・NPOを発展させていくためには、事業体としてのマネジメントができる体制であること、提言活動に向けて研究、調査等を行えるシンクタンク機能を有すること、さらにそれらの組織・機能全体を強化していくためにネットワークを拡大していくことを、一体として推進していくことが必要である。

・民間のNPOサポートセンターは、マネジメントの支援、人材育成やネットワークの形成をはじめとするNPOの基盤作りを行っており、政府がこのようなサポートセンターに対する行政情報の提供やNPOの人材育成事業等への支援を拡充していくことが求められる。