経済審議会・経済社会展望部会 金融ワーキンググループ報告書

平成10年4月20日


目次

  1. 金融ワーキンググループ委員名簿
  2. はじめに
    1. 1.金融を取り巻く環境変化
    2. (グローバルな環境変化-金融サービスの貿易財化)
    3. (グローバリゼーションとアジアの通貨危機)
    4. (グローバリゼーションと金融・資本市場)
    5. (立ち遅れる我が国金融)
    6. (金融の安定化と金融システム改革)
  3. 2.新たな金融システムの構築
    1. (1)金融の担い手
    2. (メガ・コンペティション、メガ・アライアンス)
    3. (ビジネスチャンスの拡大と金融業務の多様な方向)
    4. (金融機関の破綻処理のあり方-システミックリスクの防止)
    5. (機関投資家の動向)
    6. (公的金融の役割)
    7. (2)金融商品
    8. (金融商品の多様化)
    9. (3)市場インフラの整備
    10. (情報開示の必要性)
    11. (市場インフラとしての各制度)
    12. (4)決済システム(ネットワーク化イノベーションの進展)
  4. 3.新たな金融システムの受益者
    1. (1)個人の資産運用
    2. (個人金融資産の位置づけ-プラスのストックの未来への継承)
    3. (金融システム改革と個人金融資産ポートフォリオ)
    4. (個人金融資産ポートフォリオ変化の要因)
    5. (安全資産から収益(リスク性)資産へ)
    6. (資産運用のファンド化)
    7. (可能性広がる個人の海外資産運用)
    8. (変貌する個人金融資産ポートフォリオ)
    9. (新たな商品区分)
    10. (2)資産運用を補完するシステム
    11. (情報の分析・評価)
    12. (格付機関、アナリスト、ファイナンシャル・プランナー、評価機関の役割)
    13. (3)企業の資金調達
    14. (資金調達行動の多様化)
    15. (メインバンクシステムの変質)
  5. 4.我が国金融・資本市場の果たす役割
    1. (活性化する我が国金融・資本市場)
    2. (活性化した市場における金融機関のあり方)
    3. (アジアにおける新たな雁行形態-「透明で公正な金融システム」)
  6. 金融ワーキンググループ報告書 10のポイント
  7. 金融・資本市場の比較図
  8. 別添 参考資料

経済審議会・経済社会展望部会・金融ワーキンググループ委員名簿

(座長) 岩田 一政 東京大学大学院総合文化研究科教授
  糸瀬  茂 宮城大学事業構想学部助教授
  奥村 洋彦 学習院大学経済学部教授
  高橋  亘 日本銀行金融研究所研究第二課長
  吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授

はじめに

経済審議会においては、一昨年の12月、「経済審議会建議 6分野の経済構造改革」をとりまとめ、金融の分野については、我が国金融の立ち遅れを打開すべく、市場メカニズムと自己責任原則に基づく利用者重視のシステム構築に向けて、「ビッグバン」方式により、改革を全面的かつ一挙に実行する必要があることを提唱した。その後、「ビッグバン」方式による金融システム改革は、内閣の掲げる6つの構造改革のひとつとなり、関係審議会等での審議を経て、昨年6月に、フリー、フェア、グローバルの3原則に基づく金融システム改革のプラン(日本版ビッグバ ン)が策定された。金融システム改革は、明示されたタイムスケジュールに基づき2001年までに完了するが、そのフロントランナーとしての改正「外国為替及び外国貿易法」は、既に、本年4月に施行されたところである。この1年余りの間に、金融システム改革に向けて大きく踏み出したことは、我が国金融の歴史の中でも特筆すべきことである。

金融システム改革は、グローバリゼーション、情報・通信技術の革新が進展する中、我が国経済が21世紀の高齢化社会においても活力を保っていくためには、経済の動脈ともいうべき金融システムが、21世紀の我が国経済を支える優れたものであることが不可欠との認識の下、実施されるものである。この金融システム改革が実現しない場合には、我が国の金融は世界の潮流から取り残され、東京市場は単なるローカル市場にとどまり、金融・資本市場の空洞化、さらには産業の空洞化までをも引き起し、日本経済に沈滞をもたらすことになりかねない。

金融システム改革は、市場原理、自己責任原則の貫徹などを通じて広範かつ多岐にわたる競争をもたらし、金融機関にとっては、金融機能や金融商品、さらには経営のあり方などにも大きな変革をもたらすことになる。金融システム改革は、その過程においてこのような軋轢をもたらす面もある。しかし、金融システム改革を通じて実現される「透明で公正な金融システム」の下、利用者の利便性は向上し、 「プラスのストック」が未来に継承されるなど、21世紀の我が国金融・資本市場は活性化したものになり、この金融システムを基盤として、我が国経済の活力が保たれるなど、将来の明るい展望も開けている。

将来に開けている明るい展望も、それを現実のものとするためには、金融システム改革プランに掲げられている内容を実現するだけでなく、制度・機能・意識などの変化に伴う軋轢、困難を克服していくことが必要である。当ワーキング・グループでは、このような点もとりあげつつ、グローバルな環境変化および現状を踏まえ金融システム改革後の金融について将来展望を行ったものである。 

1.金融を取り巻く環境変化

(グローバルな環境変化-金融サービスの貿易財化)

国際的な金融取引については、近年、経済のグローバル化や情報通信革命とも言うべき技術の発達等を背景に、かつて経験したことのない速さで、その取引規模が拡大している。国際的な金融取引、資金の流れの拡大は、企業や投資家等の市場参加者にとっての使い勝手の良し悪し等により、各国市場の取引の流出入の増加をもたらしており、市場のグローバル化が現出する状況となっている。このようなグローバリゼーションの進展は、これまで自国内で提供されていた非貿易財としての金融サービスを、国境を越えて取引される貿易財へと転換せしめたのではないか。

企業はより低コストな資金を、投資家はより有利な運用先を求め、グローバルな視点を踏まえて資金調達・運用の多様化を進めてきており、さらに、金融・資本市場のグローバル化は家計の資産運用ニーズにまでも変化をもたらす。かつては安全性を重視して資産運用を行っていた家計は、資産の蓄積にも伴い次第に収益性をも視野に入れたミドルリスク及びハイリスク金融商品への資産運用を重視する動きも見受けられる。 

(グローバリゼーションとアジアの通貨危機)

このような金融のグローバリゼーションの進展とともに、内外資本のモビリティが活発化し、各国の市場間競争が促進されている。グローバリゼーションの下で、今やマネーが国を選ぶ時代となりつつある。昨夏、タイのバーツから始まり近隣のアジア諸国に波及し、現在でもなお、各国経済に深刻な影響を及ぼしているアジアの通貨危機も、このような流れの中で、起きたものと考えられる。これまでアジア各国は、国内貯蓄不足のため、グローバリゼーションの流れの中で、経済発展の基盤となる投資を外国資本に依存してきた。これらの国では、通貨のドルリンク(バスケット)制やオフショア市場の整備など、外国資本導入のための施策をとってきたものの、国内的には、金融インフラの整備は進まず、その金融システムは脆弱なものであった。このような状況の中で、タイなどではバブル崩壊が金融システムを直撃するなどの要因に加え、これらの各国における統計など情報の信頼性・整備度などの問題もあったことから金融不安が惹起され、資金流出を招くこととなった。当面、アジア各国はIMFや先進諸国の支援の下、国内金融部門の再建を図ることなどにより、成長軌道への復帰を目指しているが、国際的な支援体制の中で、ニューマネーの供給が確保されることが重要である。アジア経済は、我が国経済にとって、貿易・産業などいずれの面においても深い関係にあり、金融面においても邦銀は多額な融資残高を有するなど、その関係は緊密である。このようなアジア経済が動揺することは、我が国経済に対する信任の低下にもつながりかねない状況にあることから、我が国も、国際的な支援体制の中で、積極的な支援を行っていくことが必要である。

(グローバリゼーションと金融・資本市場)

アジア通貨危機が示すように、グローバルな金融・資本市場ではマネーそれ自体が力を持ち、規制等のコントロールが十分には及ばないものであるとの現実を各国政府は改めて認識し、より魅力的で効率的な市場を育成するための措置を講じていくことが必要である。また、投資家は各国の経済政策を含めたファンダメンタルズにより一層着目してきており、各国政府は国際的な協力の下、適切な為替・金融政策、財政規律の確保等の政策運営を図ることが引き続き重要である。

(立ち遅れる我が国金融)

金融のグローバリゼーションが進展し、各国金融・資本市場で激しい競争が展開される中で、我が国市場はこの競争に遅れをとりつつある。また、我が国の金融機関は、質の競争力が問われる国際ホールセール市場、デリバティブ市場等において、欧米金融機関に遅れをとっている。欧米金融機関は、キャッシュマネージメント等プロセスサービスを充実させており、この面でも我が国金融機関は立ち遅れている。

また、我が国金融機関の多くが、バブル崩壊の後遺症としての不良債権問題を 抱えている中で、昨年は複数の金融機関の破綻が相次いで発生したことから、我が国の金融システムに対する内外の信頼が大きく揺らぎかねない状況となった。このため、金融システム安定化のための時限的な緊急措置として、預金等の全額保護の徹底を図る体制を整備するとともに、優先株・劣後債を公的資金で引き受けることにより金融機関の自己資本の充実を図るという金融システム全体の危機管理のための制度が、本年2月、創設されたところである。

(金融の安定化と金融システム改革)

我が国の内外を取り巻く環境に厳しさが増す中で、現時点における危機管理の確保のためにとられたこのような措置は、我が国金融システムに対する内外の信頼感を確保し、我が国経済の安定成長につながるものとして必要な措置であると考えられる。また、現在進められている金融システム改革プラン(日本版ビッグバン)により実現される市場原理の貫徹する金融システムの中では、経営の破綻した金融機関については市場からの円滑な退出を促すことが基本となることから今回の措置は、このような中長期的な視点を踏まえた危機管理となることが望まれる。

2.新たな金融システムの構築

現在、我が国においては、経済・社会システム全般について、市場規律の確立、透明性・効率性の確保、アカウンタビリティなどを基本として、行政改革、経済構造改革など、大胆なシステム改革が進められている。

こうした中で、金融システムについても、我が国経済がさらにグローバル化や高齢化の進展する21世紀の社会においても活力を保っていくためには、改革は不可避であり、より魅力的で効率的な市場の育成を図るべく、フリー、フェア、グローバルの3原則を踏まえた金融システム改革プランに基づき、現在、制度の整備が進められているところである。この金融システム改革を通じて、市場原理に基づく「透明で公正な金融システム」を構築し、この新たなシステムそのものと我が国の豊富な金融資産という「プラスのストック」を未来に継承していくことが重要となる。

(1) 金融の担い手(メガ・コンペティション、メガ・アライアンス)

金融システム改革を通じて、市場原理の働く環境が整備されることにより、仲介者サービスの質の向上及び競争の促進が図られていく。その中で、業態内において既存金融機関の手数料自由化等をめぐる競争が進展することに加え、銀行・証券・保険といった各業態の枠を越えての競争が広く展開される。さらに、より自由化が進展する我が国金融・資本市場に対して、魅力ある豊富な金融資産を目指して、外資系金融機関の進出が活発化するほか商社や流通業等他業種の金融業への新規参入の増加が予想される。このように、金融システム改革の進展につれて、業態・業種(金融・非金融)・国境を超えたメガ・コンペティション(大競争)の状況が現出することが予想される。また、それは金融業内だけでなく、流通業など非金融業からの進出など、金融という枠を越えた再編の流れをもたらしいわゆるメガ・アライアンス(大提携・合併)の状況が現出することも予想される。

(ビジネスチャンスの拡大と金融業務の多様な方向)

このような自由な競争環境は、金融の担い手にとって新たなビジネスチャンスの拡大を意味することである。近年、外貨預金や外資系金融機関の利用者が増大しているが、これは、これまでの我が国における同質的、画一的な金融商品・サービスに対する利用者の不満の表れと捉えるべきではないか。従前の我が国の金融商品・サービスについては、安全性を重視したことから、革新的な要素が薄かったが、今後の競争においては、従前、軽視されがちであった利用者の利便性、満足度を向上させるため、マーケティングの強化により顧客ニーズを把握し、金融の担い手自身が、自らの技術革新力を基礎とした創意工夫によって、いかに質の高い金融商品・サービスを提供するかが担い手の優劣を決定づけると考えられる。

このような状況下で、ホールセール市場のみならずリテール市場においてもボーダーレス化が進み、金融業務の高度化・アンバンドリングが進んでいくことが予想される。そして、金融の担い手はリストラクチャリング、リスク管理体制の強化を図りつつ、質の高い金融商品・サービスを提供するため、自らが優位性を持つ分野等に特化していく動き、言い換えれば、国際金融の分野なども含め自らにとって低収益の分野からは撤退して特定の業務・商品・地域に重点化し、営業基盤を強化していくこととなると考えられる。それぞれの金融の担い手は、ホールセールからリテールまで総合的な金融業務を取扱うユニバーサルバンクを目指すもの、ホールセール分野に特化しインベストメントバンクを目指すもの、地域での競争力を高めスーパーリージョナルバンクを目指すもの、地場の中堅・中小企業などを顧客基盤にする地域密着型のコミュニティバンクを目指すもの、リテール分野に特化しディスカウント・ブローカーを目指すもの、富裕層へのアプローチに特化するプライベートバンクを目指すもの等、多様な方向を目指すこととなる。また、一般個人の少額な貯蓄を集めて運用する新たな担い手、中堅・中小企業や新興企業などの技術性・成長性に着目し、技術力を収益の源泉として、それを評価・審査するノウハウ・専門性を有する新たな担い手なども現れてくると考えられる。なお、質の高い金融商品・サービスの提供として、利用者の利便性ということを考えると、ワンストップショッピング、インストアブランチという流れも出てくると考えられる。

(金融機関の破綻処理のあり方-システミックリスクの防止)

このような金融システム改革後における競争の活性化は、金融の担い手間において、優勝劣敗の状況を生み出す。今後、利用者の新たなニーズに応えることができず、その結果、経営が立ちいかなくなる金融機関が発生する頻度が高まる可能性もある。

金融は経済の血液である資金を円滑に供給するシステムであり、その特殊性 (公共的役割)から、これまで、事前的な規制により金融機関の経営悪化を回避し、預金者等が動揺することを防ぐということを基本としてきたと考えられる。しかし、金融機関の破綻そのものを防止することが目標とされるようになると、例えば、退出すべき金融機関であっても存続させることになりかねず、結果的には、非効率で脆弱な金融システムとなってしまう。したがって、市場原理を基本とする改革後の新たな「透明で公正な金融システム」においては、破綻処理のあり方にも市場原理に基づく考え方が求められよう。金融システム改革後の活発な競争が繰り広げられる状況下においては、経営に失敗した金融機関の破綻を防止して救済するのではなく、個々の金融機関の破綻は破綻として、これら個別の金融機関の破綻が金融システム全体に波及したり、経済に悪影響を及ぼすことをいかに防ぐかということを基本とするべきではないか。つまり市場からの退出等が円滑に図られるよう効率的かつ透明性のある破綻処理等が求められる。

そのため、金融機関の経営が悪化した場合、早期にその状況を把握してリスク連鎖を遮断すること、また、市場における金融リスクに関わる情報ギャップを縮減するための適切な措置がなされることが望ましい。したがって、早期是正措置を確実に実行することが重要となるが、そのためには、経営の核心である金融機関自身の内部管理体制の確立を前提とした上で、金融取引の高度化に対応すべく検査・モニター体制を充実し、よりタイムリーな情報の開示を行うことが必要となろう。さらに、より複雑化するデリバティブ等の取引におけるリスク管理の仕組みや即時グロス決済システムなど決済の迅速化を図り、決済リスクを削減することも必要ともなろう。

(機関投資家の動向)

年金基金・生保をはじめとする機関投資家は、証券投資等自らが有する投資に関するノウハウを活かし、一般個人から託された資金を市場において合理的かつより有利に運用することにより、その代償としてフィーを得ている。

我が国の場合、これまで資産運用面での規制等が存在していたため、機関投資家がその機能を十分には発揮していない状況にあったが、ビッグバンにより新たに構築された市場原理に基づく効率的な金融システムの中では、年金基金・生保をはじめとする機関投資家が海外市場も視野に入れ、より高い収益を求めて合理的な投資行動を貫徹していくことが重要な要素になる。

(公的金融の役割)

21世紀に向けて、我が国経済の活力をいかに維持・向上していくかということが重要な課題であるが、金融システム改革により、様々なチャネルを通じて、産業に対する円滑で効率的な資金の流れが実現すると考えられる。留意すべきは、市場原理が貫徹される金融・資本市場においては、合理的な行動の帰結として、リスクに見合ったプライシングが要求されることとなるが、その結果、例えば、我が国経済の基盤を支える中小企業の一部にとって、その資金調達に厳しさが増すといった状況やベンチャービジネスの初期段階において、情報の不完全性やリスクの存在により資金が円滑に供給されないといった状況がもたらされる可能性もある。これは、我が国経済の次代を担う新規産業が育成されないといった事態にもつながりかねない。こうした状況に対しては、情報格差を縮小させるなど、さらに市場整備を図った上で、なお残る市場の失敗の可能性に対応するため、政策的に必要とされる中小企業金融の分野などにおいては、公的金融の役割はより純化した意義において重要であると考えられる。

公的金融については、従前より、肥大化による民業圧迫、見えざる国民負担をもたらすといった財政規律面の問題等が指摘されてきたが、金融システム改革に軌を合わせるように、抜本的改革の方向が提示され、政策的に真に必要とされる分野を対象に、資金調達等を含めた諸面について、市場原理と調和した運営がなされていく方向性が示されている。

この方向性も踏まえ、今後においても、市場メカニズムでは解決できない中小企業金融等の分野について、保証機能の強化等、金融・資本市場の発展と整合的な形で民間金融の質的補完に徹することが、公的金融に望まれると考えられる。なお、公的金融を活用する場合、民業の補完という事業の性格上、事前にそのコストが正確かつ十分に開示され、ベネフィットとの比較など客観的なチェックを踏まえて実行されることが重要である。

(2) 金融商品(金融商品の多様化)

金融システム改革による自由な競争環境の中では、いかに質の高い金融商品・サービスを提供し、利用者の利便性・満足度を向上させることができるかがポイントとなる。したがって、金融システム改革プランにあるような、投資家・資金調達者の選択肢の拡大という観点からの改革が図られると、金融の担い手の新商品開発意欲は高まり、様々なリスク・リターンの組み合わせによる多彩な金融商品・サービスが提供されるようになる。例えば、情報生産・リスク管理能力を活用したデリバティブ取引等、利用者ニーズの多様化・高度化に対応した複雑な金融商品・サービスの提供や、デリバティブを組み込んだ個人向け金融商品の開発などが予想される。

さらに、有力な金融商品のひとつとして、住宅ローンの証券化があげられるがこれに加えて、銀行資産等の原資を証券化した資産担保証券も、米国において、その流通量が公社債流通量に匹敵するほどに拡大している現状から、わが国においても、今後、相当規模に成長することが予想される。

また、個人にとっては、運用が簡便・効率的かつリターンが期待できる金融商品として投資信託の役割が高まる。従前、我が国の投資信託は、パフォーマンスが悪化したことなどにより、利用者の信頼感を低下させていったと指摘されている。しかし、例えば、20歳代、30歳代など比較的若い層では投資信託を保有するウェートが比較的高いという状況にある。今後は、外資系の参入も多く期待され利用者のニーズに合致した商品の開発、販売方法の改善が図られると考えられことから、後で述べる資産運用のファンド化の流れの中で、投資信託が中心になるものと期待される。昨年10月、証券総合口座が導入されたが、今後は、例えば、ラップ口座を組み込んだ証券総合口座や会社型投資信託、不動産投資信託(リート)等の様々な商品が提供されることが予想される。

(3) 市場インフラの整備(情報開示の必要性)

金融システム改革のフロントランナーとしての改正外為法の実施(本年4月)により、我が国金融システムはこれまで以上にグローバルな競争にさらされることに加え、金融システム改革により、市場原理、自己責任原則が貫徹されるようになる。グローバルでフリー、フェアなマーケットにおいては、金融上の様々な要素が市場化され、プライシングされていくほか、多彩な金融商品・サービスが提供されるようになるなどの一方で、市場の参加者に対しては自己責任が求められる。このような市場におけるインフラとして最も重要なのは、商品のリスク・リターンについての十分な情報開示であり、その整備をいかに進めていくかは重要なポイントである。

金融システム改革で金融商品の差別化が進むが、顧客を獲得するに当たっては自らの創意工夫で開発した商品を正確にかつわかりやすく説明し、リスクの程度などについても明確にすべきである(説明責任)という観点から、また、市場原理、自己責任原則が貫徹されるシステムの中で、個人、企業、機関投資家などが資産運用に関して不測の事態を未然に防止し、かつ有効・適切に資産を運用するために総合的な判断を行わなければならない(自己責任)という観点からも、情報開示は非常に重要である。さらに、その開示される情報については、信頼性の高い情報であること、客観的な評価のできる情報であること、タイムリーな情報であることなどは非常に重要な要素であり、自発的な情報開示を促すため、インセンティブを与える仕組みの導入等も考えられる。

(市場インフラとしての各制度)

さらに、市場インフラとしては情報開示に加え、会計制度、法制度などがどのようなものであるかが重要になる。情報の信頼性や客観的な評価という観点からは、商法も含め会計制度は情報の基礎となるものである。例えば、金融商品については時価評価が国際的な潮流となる中で、国際的な整合性や透明性の高い枠組みが求められる。また、複雑・高度化する金融取引をめぐる紛争を処理するにあたっては、透明なルールの確立と迅速な問題解決が重要であろう。そのための司法制度の整備・強化も望まれる。さらに、利用者の視点に立ち、様々なサービスを、機能に基づいて包括的に取り扱い、市場参加者に共通に適用される横断的なルール(金融サービス法)の役割は重要と考えられることから、その早期の創設が望まれる。

なお、金融関連税制については、我が国金融・資本市場の活性化上マイナスとならない、グローバルなものである必要性があり、金融商品の選択に対して中立性の高いものとなることが望まれる。

(4) 決済システム(ネットワーク化とイノベーションの進展)

金融システム改革においては、決済リスクの軽減、電子マネー・電子決済の発展に向けた環境整備等が挙げられている。特に決済リスクの軽減は、システミックリスク防止の観点から重要となってこよう。また、今後、情報処理・通信技術の発達にともない、電子マネーの実用化が進むとともに、非金融部門をもネットワークで結ぶ動きが進展し、産業界においては、資金決済をも含んだEDI(電子データ交換)のネット構築が行われることも予想される。このような電子化については、民間の創意工夫に基づく自由な開発から、利用者がそのニーズに応じて適切な選択を行うことを通じて、その発展を図ることが必要である。また、そのイノベーションを阻害しないような形で、電子決済に関する安全対策や認証制度等の整備が図られるかがポイントとなる。

3.新たな金融システムの受益者(個人・企業)

このようにして構築された「透明で公正な金融システム」は誰のためのものであろうか。前述のように、我が国の金融システムは、グローバルな環境の中で、内外相方の利用者にとって利便性の高いものであることが望まれる。また、従前、生産者、供給者重視と言われていた我が国の経済システムの中で、金融システム改革により期待されることは、構築された新たな「透明で公正な金融システム」を通じて個人がその豊富な金融資産の運用をより有利に行い収益性を高めることや、我が国経済の基礎を支える中小企業や次代を担う成長産業を含めた産業・経済への資金供給が円滑に行われることである。新たな金融システムは、個人・企業が中心に位置し、受益者となるようなものであることが望まれる。

(1) 個人の資産運用(個人金融資産の位置づけ-プラスのストックの未来への継承)

金融システム改革により構築された新たな金融システムを考える上で、最も重要なポイントとなるのは、非金融民間部門の有する金融資産約2000兆円の過半を占める個人金融資産の動向である。我が国の個人金融資産は着実に増加してきており、1996年末には1209兆円と1980年末の約 3.5倍の規模に至っている。また、    住宅ローン等負債を勘案したネットでも 833兆円となっている。この莫大な個人金融資産は、個人の旺盛な貯蓄努力をもとに蓄積されてきたストックであり、今後、進展していく高齢化社会の中にあって豊かな生活、活力ある経済を支えるための重要な資源となりうるものである。この資産の運用の収益性を高め、個人にその恩恵を帰属させること、また、このストックからの資金の流れが、産業・経済全体に対し、なかんずく次代を担う成長産業等に円滑に供給されていくことは「プラスのストック」の未来への継承につながり、21世紀の我が国経済にとっても重要なポイントであると考える。

(金融システム改革と個人金融資産ポートフォリオ)

現在、この個人金融資産の大半は預貯金などの安全資産となっており、その割合は欧米諸国と比較してもかなり高いものとなっている。また、一般の資産運用に関する意識はバブル期の反省により、従来以上に収益性より安全性を重視する傾向にある。当ワーキング・グループでは、今後の人口構造の高齢化や所得水準の向上が個人金融資産ポートフォリオに及ぼす影響を検証したが、これらの要因は、ポートフォリオの保守的傾向を大きく変えるものではないとの結果が出ている。  

しかし、現状や過去の数値をもとにしたこれらの検証等をもって、我が国の個人が本質的にリスクに対して消極的であると言うことはできない。その背景には個人をリスクから生来的に遠ざけていた環境があったのではないかとも考えられる。今後、ビッグバンにより市場原理や自己責任を原則とする金融システムへと制度的改革が行われ、その結果、個人に大きな意識変化が起こることとなれば、個人金融資産のポートフォリオについて、過去の統計的推移の延長線上でその動向を考えることはできない。ビッグバンによりこうした制度・意識・選択の変化がもたらされれば、我が国の個人金融資産ポートフォリオは、相当規模変貌すると考える。

(個人金融資産ポートフォリオ変化の要因)

金融システム改革で、業態・業種・国境を超えた自由な競争が促進される。様々な金融新商品の開発や販売チャネルの多様化が進むことにより、これまで一般個人とは接点のなかった、あるいは新たな金融サービスが様々な形態で現出してくると考えられる。例えば、投資信託が銀行等の窓口で販売されることは、これまで証券会社とは無縁であった顧客層にも投資信託の購入機会を拡げることになる。また、情報通信技術の発達によりインターネット等コンピューターネットワークも金融商品の販売チャネルとして利用されるようになる。個人の金融資産選択においては、店舗網等販売チャネルとの関連性が高いことから、このような販売チャネルの多様化や新たな金融サービスの増加は個人金融資産ポートフォリオに変化をもたらすひとつの要因となろう。

ビッグバンにより、今後は個人であってもその金融資産選択に自己責任が問われるような状況が現出する。このような状況を踏まえると、今後は、資産運用に伴うリスク等から個人を遠ざけるのではなく、個人がリスク等を理解する能力・知識を養うための一般向けの啓蒙活動のほか、学校教育の段階から投資等に関する学習を行っていくことも必要となる。これらに加え、金融商品の内容やリスク・リターン情報を、例えば、比較情報のような形で、わかりやすく提供することなどにより、個人が提供される金融商品の特性を理解し、納得した上で金融資産選択を行うようになることが重要である。このような状況になれば、個人金融資産ポートフォリオはさらに大きく変化することになろう。

(安全資産から収益(リスク性)資産へ)

今後、個人金融資産は、総じて、安全性の高い資産から、より高いリターンが期待できるリスク性の資産へ選好が移っていくことが予想される。金融商品の多様化、金融商品情報の充実などにより、自己の選好に合致する選択肢が拡大し、その中ではより収益の高いものが選好されるであろうことから、預貯金等の安全資産は、ポートフォリオの中でその地位を低下させると予想される。なお、郵便貯金については、「透明で公正な金融システム」の中で、市場原理が徹底されていくということを踏まえたものである必要があり、その社会政策的な役割も、市場原理を阻害しない形で検討されるべきと考えられる。

(資産運用のファンド化)

今後の動きとして、注目されるのは、投資信託等ファンドを通じる運用である自己責任原則の定着が予想されるといえども、個別企業の情報を分析し、自ら直接リスクをとって株式・債券等に投資を行うことは一般的には難しいことから、資産運用を専門とする第三者に運用を託すことで、それら証券を間接的に保有する傾向が強まることが予想される。

また、年金については、現在、個人金融資産に係る企業年金(厚生年金基金、税制適格年金)の積立金約60兆円に加え、公的年金(国民年金、厚生年金)の積立金は約 130兆円にのぼっており、高齢化社会の進展の中で、今後も増加していくことが見込まれている。さらに、公的年金については、将来において、自主運用を行うこととされているが、どのような範囲でどのような運用を行うのかにより、また、企業年金については、企業の抱える年金債務負担の問題やポータビリティという観点から米国の401(K)プランのような確定拠出型の企業年金の必要性が議論されているが、受給者が運用手段を選択できるような仕組みでこれが導入されれば、収益性があり、簡便、効率的な投資信託等ファンドを通じる運用が増大することが見込まれ、資金の流れに大きなインパクトを与えることになろう。このような資産運用のファンド化の流れの中で、これまで我が国ではあまりみられなかった国際分散投資やベンチャー投資等の動きが活発化することが予想される。また、これまで信託や生保が行っていた年金資産運用なども含め、専門的な運用を行う投資信託や投資顧問等の果たす役割が大きく拡がり、加えて年金コンサルティング等を含めた幅広い年金サービスに対する需要が増大することが考えられる。なお、ファンドに関しては、その収益性が魅力である反面、それは預金と異なり価格が変動し、市場リスクに直接さらされること、また、短期的な資金の大幅なシフトを引き起こしやすいことに留意する必要がある。

(可能性広がる個人の海外資産運用)

改正外為法が本年4月から施行され、海外への証券投資や預金口座の開設等が自由に行われるようになったことから、個人の海外への資産運用の選択肢は拡大することとなる。

個人にとっては、外国金融機関へのアクセス、事務手続き等の要因に加えて、為替リスク等の問題もあり、ただちに海外との金融取引が活発化し、外貨建て資産が大幅に増加する可能性は低いと思われる。しかし、将来的には、金融システム改革の実現に伴い、資産運用に関する個人の意識が変化すること、為替リスク等に対応した金融商品・サービスの開発が進展すること等が想定されることから個人の外貨建て資産も増加することが予想される。なお、海外金融機関の預金は預金保険の対象外であることに留意する必要がある。

(変貌する個人金融資産ポートフォリオ)

欧米主要国の個人金融資産ポートフォリオを日本のそれと比較すると、総じて預貯金の割合が低く、有価証券等の割合が高くなっている。また、欧米主要国のここ10年のポートフォリオの変化をみると、米国だけでなく欧州諸国においても預貯金の割合は総じて10%ポイント前後低下している。今後、我が国個人金融資産ポートフォリオが、どのように変化するかは予見し難いが、これら欧米主要国の例は、我が国の変化を予測するうえで参考となる。一つの例として、メーデー(米国金融自由化)後の米国の個人金融資産ポートフォリオの変貌を基に試算を行うこととする。米国の個人金融資産ポートフォリオのシェアは、1975年から95年にかけて、定期性預金が29%から14%、保険・年金が25%から35%、株式が20%から24%、投資信託が1%から7%等、大きな変化がみられる。(郵貯、年金税制など制度に差異があることに留意する必要があるが)この変化率を我が国に当てはめてみると、定期性預金は45%から22%に、保険・年金が25%から38%に株式が7%から9%に、投資信託が3%から15%等に変化することとなる。(米国において過去の20年間に起きた変化が、今後のわが国において起こるとすればグローバリゼーションの進展、情報技術の進歩等、時代環境の大きな相違があることから、かなりのスピードで変化が進むと想定される。)

(新たな金融商品区分)

なお、21世紀の個人金融資産ポートフォリオを展望するにあたっては、金融商品区分について、元本保証されている安全資産か保証されていない危険資産か、ファンドのように詳細な運用を第三者に委託するのか直接投資をするのか等、視点を変えることが必要となろう。また、リスクヘッジとして、デリバティブを組み合わせるものかどうかということも重要な視点となろう。

(2) 資産運用を補完するシステム(情報の分析・評価)

金融システム改革により、多彩な金融商品・サービスが提供されるようになる一方で、市場原理、自己責任原則が貫徹されるシステムの中で、個人、企業、機関投資家などは資産運用に関する総合的判断を行い、その金融資産を有効・適切に運用していかなければならない。資産運用に関する総合的判断を行い、かつ不測の損失を未然に防止するためには、市場インフラとしての情報開示が正確かつ迅速になされることが必要であることは、既に指摘したが、さらにその情報を客観的で分かりやすく分析し提供する格付機関、アナリスト、ファイナンシャル・プランナー、評価機関等が整備されることが望まれる。個人にとっては、特にファイナンシャル・プランナーや評価機関が、企業や機関投資家にとっては、格付機関、アナリストや評価機関が、市場原理、自己責任原則が貫徹されるシステムの中で行われる資産運用を補完する機能を果たすものとして重要になると考えられる。  

(格付機関、アナリスト、ファイナンシャル・プランナー、評価機関の役割)

格付機関については、現状、海外の格付機関の影響力が強い状況にある。今後我が国企業の情報開示が進むことは当然のこととして、加えて、我が国の格付機関の地位が向上することが期待される。格付けの定着のためには、一層の中立性公平性、透明性を確保することにより、内外の投資家の信頼を確立することが必要である。また、我が国においては、アナリスト、ファイナンシャル・プランナーは数字の上では増加しているが、その存在はまだ一般に広く周知されているとは言い難く、米国において彼らが投資、保険、税務等幅広い金融情報サービスや財務コンサルティングを行っている状況に比べ対照的であると考えられる。ビッグバンによる金融仲介業務の差別化、多様化を控えアナリスト、ファイナンシャル・プランナーの存在が認知されるとともに、その機能の一層の充実が求められる。なお、その際には、アナリストの評価に関する情報なども重要になると考えられる。さらに、投資家への情報提供としては、今後、簡便かつ効率的な資産運用手段として投資信託の重要性が増してくると考えられることから、評価機関の役割が重要となってくる。我が国では、投資信託のパフォーマンスの評価は緒についたばかりであるが、ファンドの評価が一般的に広く知らしめられている米国等の状況を踏まえ、我が国においても評価機関の発展が望まれる。

(3) 企業の資金調達(資金調達行動の多様化)

金融システム改革の中で、企業の資金調達行動は多様化していくと考えられる。大企業を中心とする優良企業は、より低コストな資金を求めてグローバルな視点で国内外の金融・資本市場からの資金調達の多様化を一層進めることとなる。その結果、銀行借入を中心とする間接金融に依存する割合はより限定的なものとなり、資本市場からの調達割合は増加し、社債やCPのシェアが上昇することが予想される。また、資本市場が拡充され、すそ野が広がっていけば、優良な中堅中小企業も証券形態での調達割合を高めていくものと考える。

一方で、中小企業の中には、資本市場に対するアクセスが困難で、引き続き資金調達の中心を銀行借入に依存せざるを得ない状況が続くものもあると考えられる。市場原理が貫徹されるマーケットにおける合理的な帰結として、ローングレーディングが行われ、リスクに見合ったプライシングが要求されることから、資金調達に厳しさが増すことも予想されるが、地場の中堅・中小企業などを顧客基盤とする地域密着型のコミュニティバンクや、このような融資マーケットを専門的に扱うノンバンク的な金融機関などこの分野に特化する金融の担い手が現れ、融資形態のチャネルも拡充していくと考えられる。

企業の資金調達がこのように多様化する中で、全体的にみれば、企業の金融負債構造は、フローベースでは金融・経済情勢の影響を受け、その調達割合を変化させつつも、ストックベースではゆるやかに借入金の割合が低下し、社債を中心とした有価証券の割合が上昇していくことになると考えられる。また、企業間信用については、決済期限の短縮化傾向の進展や、企業間でのネッティングの普及による決済額の大幅圧縮によりその比率を低下させていくものと考えられる。

(メインバンクシステムの変質)

また、我が国においては、間接金融優位の下、メインバンク・システムが一定の役割を果たしてきていたが、新たな金融システムの下における資金調達などの構造変化に加え、株式の持合い、収益重視、コーポレートガバナンスなど、より広い範囲で制度・慣行の変化が起こる中、メインバンクの機能は変質していくと考えられる。例えば、大企業にとっては、単一のメインバンクに依存するのではなく、複数の金融機関とコアバンクスとしてつながりを持ち、案件等に応じて柔軟に金融機関を選択していくという方法が一般的になるなど、メインバンクの必要性はより薄れていくと考えられる。しかし、中小企業等にとっては、金融システム改革により、資金調達チャネルは多様化するものの、依然として資金調達の中心を借入に依存せざるをえない状況が続くと考えられることから、メインバンクの機能は必要なものと考えられる。

4.我が国金融・資本市場の果たす役割(活性化する我が国金融・資本市場)

金融のグローバル化が進展し、各国金融・資本市場間で激しい競争が展開される中、我が国金融・資本市場の地位は90年代に入り低下している。しかし、世界のGDPの約15%を有する経済力と、個人金融資産1200兆円を含む、非金融民間部門の2000兆円にものぼる魅力ある豊富な金融資産を背景にした我が国金融・資本市場が、金融システム改革を実現し、利便性が高く、信頼できる「透明で公正な市場システム」となることにより、我が国金融・資本市場の地位は高まるものと考えられる。言語、カルチャーの問題があるにも拘わらず、現に、金融システム改革を見越し、すでに提携等の形で多くの外資系金融機関が進出してきておりさらに今後も金融の各業態が様々な形態で進出してくることが予定・予想されている。金融資産の厚みに加え、外資系の参入は、デリバティブ等その金融技術力や情報技術力の高さなどから、我が国金融・資本市場の担い手の厚みを増すこととなり、我が国金融・資本市場をより一層活性化させることとなろう。

このような金融・資本市場の活性化は経済に多大な影響を及ぼす。市場原理の貫徹による効率的な価格形成により、企業等の業績や将来についての市場参加者の評価が、株価、債券価格、金利等に集約され、それが資金調達や投資判断に影響を与え、効率的な資源配分が実現される。また、市場の活性化に伴い、金融取引に係る内外の質の高い情報が集積されることは、多くの我が国企業の競争力の強化に資する。そして何よりも、我が国の個人や企業がグローバルなレベルのより良質で低コストの金融サービスを享受できることとなる。こうして活性化した我が国金融・資本市場は、我が国経済の成長の基盤となるとともに、ニューヨーク・ロンドンに匹敵する国際金融センターとして世界経済の発展に貢献することが期待されている。

(活性化した市場における金融機関のあり方)

また、このような国境を越えた参入や既に述べたようなメガ・コンペティション、メガ・アライアンスの中で、我が国金融・資本市場において外資系のウエイトが高まることを危惧する向きがあるが、活性化した市場において、より多彩な金融商品・サービスが提供され、金融業の付加価値が高まり、「プラスのストック」の未来への継承が行われ、また、金融業の雇用吸収力も高まることとなれば国民経済的には問題ないと見ることができる(現に、英国においては、ビッグバン後、金融業の付加価値、雇用の経済全体に占める比率は高まっている。)。

金融のグローバル化により、各国の金融・資本市場の一体化が進み、市場原理を基本として、制度的に収斂しており、我が国においても、金融システム改革により、競争を阻害する規制が取り払われ、税制等の改革も進み、プレイングフィールドはほぼ世界の水準に整えられる。

その中で、従前、ややもすれば自らの経営意識が希薄であった我が国の金融機関にとっては、欧米の金融機関と競争する上で、コーポレートガバナンスのあり方も含め、いわゆる米国(アングロサクソン)的な経営の優れた点を取り入れる必要があるのではないか。これまで培ってきた強固な国内顧客基盤を活かし、利用者の利益を優先した金融商品・サービスを提供することに加え、経営の重点化や収益力の強化を徹底する等、自己規律と革新性を持って経営を行っていくべく明確な戦略を確立することが今日の急務である。また、旧来の年功序列的な人事システムを脱し、ジェネラリストというよりもスペシャリストとして組織の構成員それぞれの能力を十分に発揮させるための配置、評価、給与など新たな人事システムが必要となる。これは、金融業及び関係する業態間の雇用の流動性を高めることにつながる可能性もある。

(アジアにおける新たな雁行形態-「透明で公正な金融システム」)

アジア経済における通貨危機の傷は深く、ここ暫くは停滞を余儀なくされる見込みであるが、豊富で勤勉な労働力等、成長へのポテンシャルは大きいものがあるとみられ、再び成長軌道をとりもどすことが期待される。そのために果たすべき我が国の役割は大きい。

我が国において、ビッグバンが実現し、「透明で公正な金融システム」がいち早く形成され、効率的な金融取引が行われることなどにより、我が国の豊富な金融資産がアジア経済に円滑に供給されることが期待される。また、我が国金融・資本市場が、発展するアジアとその活発化した金融取引の中心として存在することを基礎として、ニューヨーク、ロンドンに伍する国際金融センターとなっていくことが望まれる。さらに、ビッグバンにより、我が国において実現された「透明で公正な金融システム」が、これらアジアの国々における金融システムの整備のためのモデルとなることも意義のあることであろう。                              

金融ワーキンググループ報告書  10のポイント

ポイント1 グローバリゼーションの進展は、より魅力的な市場の育成を促す。

経済のグローバリゼーションの進展は、これまで自国内で提供されていた非貿易財としての金融サービスを、国境を越えて取引される貿易財へ転換せしめた。内外資本のモビリティが活発化し、資本が国を選ぶ時代となりつつある。アジア通貨危機が示すように、グローバルな市場ではマネー自体が力を持ち、規制等のコントロールが十分には及ばないとの現実を改めて認識し、より魅力的な市場を育成していくことが重要である。

ポイント2 新たな金融システムとして、市場原理に基づく「透明で公正な金融システム」を構築 ― より魅力的な市場を育成 ― し、この新たなシステムを通じて、豊富な個人の金融資産など「プラスのストック」を未来に継承する。

我が国経済がさらにグローバル化や高齢化の進展する21世紀の社会においても活力を保っていくためには、金融システム改革は不可避である。より魅力的で効率的な市場の育成を図るべく、フリー、フェア、グローバルの3原則を踏まえた金融システム改革を通じて、市場原理に基づく「透明で公正な金融システム」を構築することが必要である。利便性の高い新たな金融システムを通じて、個人がその豊富な金融資産の運用をより有利に行い収益性を高めることや、我が国経済の基礎を支える中小企業や次代を担う成長産業を含めた産業・経済への資金供給が円滑に行われることは、「プラスのストック」を未来へ継承することとなる。

ポイント3 メガ・コンペティション、メガ・アライアンスの中では、いかに質の高い金融商品・サービスを提供するかが金融の担い手の優劣を決定することとなるので、金融の担い手は、低収益の分野からは撤退し、自らが優位性を持つ分野に特化していくなど多様な方向を目指すこととなる。

金融システム改革を通じて、市場原理の働く環境が整備されることにより、金融仲介サービスの質の向上および競争の促進が図られる。その中で、業態(銀行・証券・保険等相互参入)・業種(商社・流通業等他業種からの参入)・国境 (外資系の参入)を越えたメガ・コンペティション(大競争)、メガ・アライアンス(大提携・合併)の状況が現出する。これは新たなビジネスチャンスの拡大であり、この競争の中では、従前、軽視されがちであった利用者の利便性、満足度を向上させる質の高い金融商品・サービスをいかに提供することができるかが、金融の担い手の優劣を決定する。質の高い金融商品・サービスを提供するため、金融の担い手は、リストラクチャリング、リスク管理体制の強化を図りつつ、自らが優位性を持つ分野等に特化していく、言い換えれば、国際金融の分野なども含め自らにとって低収益の分野からは撤退して特定の業務・商品・地域に重点化し、営業基盤を強化していくことが必要である。金融の担い手は、特化・重点化する中で、従前の金融業から変化し、多様な方向を目指すこととなり、また、新たな金融の担い手も出現する。

ポイント4 新たな金融システムにおける金融機関の破綻処理のあり方としては、個別の金融機関の破綻がシステム全体や経済に悪影響を及ぼすことを防ぐというシステミックリスクの防止が基本となる。

金融システム改革による市場原理の下での自由な競争は、利用者のニーズに応えられるか否かにより、金融の担い手間において、優勝劣敗の状況を生み出す。その結果、経営が立ちいかなくなる金融機関が発生する頻度が高まる可能性がある。改革後の市場原理を基本とする「透明で公正な金融システム」の下においては、金融機関の破綻処理についても市場原理に基づく考え方が求められる。経営に失敗した金融機関の破綻を防止して救済するのではなく、個々の金融機関の破綻は破綻として、これら個別の金融機関の破綻が金融システム全体に波及したり、経済に悪影響を及ぼしたりすることのないよう、市場からの退出等を効率的かつ透明性を持って円滑に進めるなどシステミックリスクを防止することが基本となる。

ポイント5 市場の失敗の起こりうる分野において、公的金融の役割は依然重要であるが、民間金融の質的補完に徹することが望まれる。

市場原理が貫徹される金融・資本市場においても、情報の不完全性やリスクの存在などにより資金が円滑に供給されないなど、市場の失敗が起こる可能性がある。このような市場メカニズムでは解決できない分野において、公的金融の役割は依然重要であるが、保証機能の強化等金融・資本市場の発展と整合的な形で民間金融の質的補完に徹することが望まれる。

ポイント6 販売チャネルが多様化し、リスク概念が定着する中で、質の高い多種・多様な金融商品・サービスが提供されることにより、個人の金融資産選択は安全資産から収益(リスク性)資産へと変化し、投資信託など資産運用のファンド化とも相まって、個人金融資産の収益性は高まるとともに、そのポートフォリオも大きく変貌すると考えられる。

金融システム改革による自由な競争環境の中で、質の高い金融商品・サービスを提供し、利用者の利便性、満足度を向上させるため、デリバティブ、各種証券化商品、会社型投資信託、不動産投資信託(リート)など、様々なリスク・リターンの組み合わせによる多種・多様な金融新商品が、開発、提供される。投資信託の銀行等での窓口販売やインターネット等のコンピューターネットワークの利用など販売チャネルが多様化し、個人がリスク等を理解する能力・知識を養うための一般向けの啓蒙活動・学校教育が行われ、加えて、金融商品の内容やリスク・リターンについての比較情報などがわかりやすく提供されるようになる中で、このような多種・多様な金融商品・サービスが提供されることは、個人の金融資産選択を、これまでの預貯金等の安全資産からより高いリターンの期待できる収益(リスク性)資産へと変化させる。また、運用が簡便・効率的かつリターンが期待できる金融商品としての投資信託等ファンドを通じた運用が増大する。このような変化の中で、個人金融資産の収益性が高まるとともに、そのポートフォリオも大きく変貌すると考えられる。

ポイント7 市場参加者に自己責任を求めるために整備すべき市場インフラとして、最も重要なものは、十分な情報開示である。また、その情報を客観的でわかりやすく分析・提供する格付機関、アナリスト、ファイナンシャル・プランナー、評価機関等が資産運用を補完する機能を果たすものとして重要になる。

市場原理、自己責任原則が貫徹されるシステムの中で、個人・企業・機関投資家などが不測の事態を未然に防止し、かつ有効・適切に資産を運用するために総合的な判断を行わなければならない(自己責任)という観点や、金融商品の多様化・差別化が進む中で、顧客を獲得するに当たって、自らの創意工夫で開発した商品を正確にかつわかりやすく説明し、リスクの程度などについても明確にすべきである(説明責任)という観点などから、情報開示は非常に重要である。さらに、その開示される情報については、信頼性の高い情報であること、客観的な評価のできる情報であること、タイムリーな情報であることなどは非常に重要な要素である。さらに、市場インフラとしては、情報開示に加え、会計制度、司法制度、法制度(金融サービス法など)などが重要である。また、開示された情報を客観的でわかりやすく分析・提供する格付機関、アナリスト、ファイナンシャル・プランナー、評価機関等が整備され、市場原理、自己責任原則が貫徹されるシステムの中で行われる資産運用を補完する機能を果たしていくことが望まれる。

ポイント8 金融システム改革により、企業の資金調達チャネルは拡充され、資金調達行動は多様化する。

金融システム改革により、市場原理に基づく「透明で公正な金融システム」が構築され、資金調達チャネルは拡充し、産業・経済への資金供給が円滑に行われる。大企業を中心とする優良企業は、より低コストの資金を求めてグローバルな視点で国内外の金融・資本市場からの資金調達の多様化を一層進め、中でも資本市場からの調達割合を増大させていく。また、資本市場が拡充され、すそ野が広がっていけば、優良な中堅・中小企業も証券形態での調達割合を高めていく。中小企業の中には、資本市場へのアクセスが困難で、引き続き資金調達の中心を銀行借入に依存せざるを得ない状況が続くものがあり、資金調達に厳しさが増すことも予想されるが、この分野に特化する金融の担い手の出現などもあり、中小企業にとっても融資形態のチャネルは拡充していく。

ポイント9 金融システム改革を通じて、我が国金融・資本市場が活性化し、我が国経済の成長の基盤となるとともに、アジアの金融取引の中心として存在することを基礎として、ニューヨーク、ロンドンに伍する国際金融センターとなっていくことが望まれる。

経済力の大きさと豊富な金融資産を背景にした我が国金融・資本市場が、金融システム改革を実現し、利便性が高く、信頼できる「透明で公正な市場システム」となることにより、我が国金融・資本市場の地位は高まる。金融資産の厚みに加え、外資系の参入等により市場の担い手の厚みも増し、我が国金融・資本市場はより一層活性化する。その結果、我が国金融・資本市場が、効率的な資源配分の実現、情報の集積による企業の競争力の強化、個人・企業のグローバルレベルのより良質で低コストの金融サービスの享受ということを通じて、我が国経済の成長の基盤となるとともに、利便性の高さからアジアの金融取引の中心として存在することを基礎として、ニューヨーク、ロンドンに伍する国際金融センターとなっていくことが望まれる。

ポイント10 活性化した我が国金融・資本市場における金融機関には、経営の重点化や収益力の強化を徹底する等、自己規律と革新性を持って経営を行っていくべく明確な戦略を確立することが急務である。

各国の金融・資本市場の一体化が進み、市場原理を基本として、制度的に収斂しているが、我が国も金融システム改革により、プレイングフィールドはほぼ世界の水準になる。その中で、従前、ややもすると自らの経営意識が希薄であった我が国金融機関には、いわゆる米国(アングロサクソン)的な経営の優れた点を取り入れ、利用者の利益を優先した金融商品・サービスを提供することに加え、経営の重点化や収益力の強化を徹底する等、自己規律と革新性を持って経営を行っていくべく明確な戦略を確立することが急務である。