産業構造ワーキンググループ報告書
平成10年4月17日
目次
- I.基本的課題
- 1.経済環境の変化への対応の必要性
- 2.『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築
---国際分業、国内市場における歪みの是正-- - 3.政府の役割
- (1)規制の撤廃・緩和と市場競争ルールの整備・徹底
- (2)競争政策の強化
- (3)「柔軟・創造・挑戦型産業構造」の構築に資する社会資本の整備
- (4)人材の育成、研究開発の促進と経済主体の能力発揮のための仕組み・制度づくり
- (5)環境問題への対応
- (6)セイフティ・ネットの整備等
- II.産業構造の展望と課題への対応
- 1.生産性の向上、高コスト構造の是正と国際分業、国内市場における歪みの是正
- 2.「仲介機能」の強化
- (1)人材仲介機能
- (2)技術仲介機能
- (3)資金仲介機能
- (4)物流・流通機能
- (5)企業活動のコーディネート機能
- (6)企業と個人の間の情報仲介機能
- 3.我が国産業の発展基盤の継承・強化
- (1)研究開発の促進
- (2)ものづくり基盤技術の継承・強化
- (3)中小企業間での弾力的な分業関係の形成
- 4.新規事業展開促進のための環境整備
- (1)現状の評価
- (2)課題への対応
- 5.高度情報化が産業構造に及ぼす影響についての展望と課題
- (1)企業活動の生産性に及ぼす影響
- (2)「仲介機能」に及ぼす影響
- (3)企業間関係に及ぼす影響
- (4)新規事業展開に及ぼす影響
- (5)政策的課題
- 【参考1】構造改革に伴う生産性の向上、高コスト構造の是正についての試算
- 【参考2】ベンチャー企業等への資金供給額についての仮定計算
- 【参考3】2010年の産業別GDPの試算(構造改革による影響)
- 【産業構造をめぐる5つの提言】
産業構造ワーキンググループ委員名簿
(座長) | 鶴田 俊正 | 専修大学経済学部教授 |
千本 倖生 | 慶応義塾大学大学院教授 | |
濱田 康行 | 北海道大学経済学部教授 | |
ロバート・アラン・ フェルドマン |
モルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト | |
藤井 シュン | 日本興業銀行産業調査部長 | |
宮川 努 | 日本開発銀行名古屋支店企画調査課長 |
産業構造ワーキンググループ報告書
I.基本的課題
1.経済環境の変化への対応の必要性
我が国経済は、経済環境を取り巻く大きな潮流の変化に直面している。我が国の産業構造に影響を及ぼすものとしては、【1】少子・高齢化の進展とそれに伴う生産年齢人口の減少による労働供給制約の可能性、【2】グローバリゼーションの進展、【3】技術革新・情報化の進展等が挙げられる。我が国の経済は、これらに迅速に対応していく必要に迫られている。
すなわち、少子・高齢化の進展は、シルバービジネス市場の拡大といった需要効果が考えられるものの、長期的には生産年齢人口が減少するため、女性や高齢者の活用がなされなければ労働供給制約が経済成長の制約条件ともなる。加えて、財政・社会保障制度の改革が着実に推進されなければ、国民負担率の上昇による企業の海外流出が懸念され、ひいては経済成長にさらに悪影響を与えるおそれがある。
グローバリゼーションの進展下における先進国やアジア諸国との間の競争が激化する中で、現在の我が国経済における競争制限的な政府規制・慣行等に起因する高コスト構造が是正されなければ、我が国産業構造の歪みが温存され、国内的にも国際的にも効率的な資源配分への支障が強まるおそれがある。
近年の情報技術、バイオテクノロジー、新素材等にみられる技術革新の進展は、新製品の開発等を通じた市場拡大をもたらすとともに、特に、情報化については、企業内のみならず経済全体における効率化を促進することが期待されるが、今後、こうした波に乗り遅れることがあれば、経済成長と雇用の確保に悪影響を及ぼすおそれもある。
こうした構造的問題に対処し、我が国経済が環境の変化への対応力を向上させつつ21世紀にさらなる発展を遂げるためには、国際分業、国内市場における歪みを是正しつつ産業全体の生産性を向上させることが重要である。こうした観点から、規制緩和をはじめとする経済構造改革や金融システム改革を通じた競争の促進と市場競争ルールの整備・徹底、財政構造改革、社会保障構造改革による国民負担の軽減、経済活動に歪みをもたらさず、かつ国際的にみてもバランスのとれた税制の構築等現在進められている諸改革の一層強力な推進が求められる。
また、全世界的に取り組むべき課題として、地球環境問題が挙げられる。昨年12月に開催されたCOP3において、温室効果ガスの削減(CO2換算で90年比日本6%、アメリカ7%、EU8%削減)が採択されたが、このことは全人類の長期的、持続的成長を実現する上で重要な第一歩である。この問題への取組は、経済成長や産業構造の面で大きな影響をもたらす可能性がある。具体的には、【1】環境装置、環境サービス等の関連産業、【2】製造段階でのCO2多排出型産業(一次金属、化学、パルプ・紙、窯業・土石など)、【3】製造段階では相対的にCO2低排出ながら当該産業の製品が使用される段階で多くのCO2を排出する産業(自動車や家電など)、【4】サービス供給段階でCO2を多く排出する産業(運輸)、【5】エネルギー供給産業(石油・石炭、電気・ガス)などの将来の発展や技術革新の面で少なからず影響をもたらすことが予想される。地球環境問題は、経済成長や産業の発展にとっての「制約」になる可能性があるものの、反面、それへの取組が21世紀の我が国経済の新たな繁栄の糧ともなり得るとの視点に立って、積極的かつ適切に対応していく必要がある。
2.『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築
----国際分業、国内市場における歪みの是正----
こうした認識の下、我が国産業が予期し得ないものも含めた経済環境の変化への対応力を向上させ、我が国が将来にわたり活力ある経済と豊かな国民生活を実現していくためには、
【1】資金、技術、人材、情報・ノウハウ等の生産要素の柔軟な移動ないしはそれらの企業内・企業間における柔軟な組み合せ
【2】各経済主体による前例や慣行にとらわれず、模倣や横並びではない、独自の発想・技術・ノウハウなどに基づく創造的な活動
【3】各経済主体の積極的なリスクテイキングによる現在の閉塞的・硬直的な経済構造への挑戦(内なる挑戦)
が活発に行われるような産業構造、すなわち『柔軟・創造・挑戦型産業構造』を構築し、国際分業、国内市場における歪みを是正することが重要である。
『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築に当たっては、「透明で公正な市場システムの確立」、とりわけ、
【1】抜本的な規制緩和等により、被規制産業(特に非貿易財産業)の競争の促進、生産性の向上を促すこと等により、我が国経済の高コスト構造の原因を除去するとともに、資源配分上の歪みを是正する、
【2】規制緩和等を通じた市場メカニズムの十全な発揮を促すことにより、生産要素の自由な移動を可能とする。すなわち、新規企業、既存企業を問わず、あるいは企業の国籍の内外を問わず、その自由な活動を可能とし、かつ、非効率な企業が極力迅速に社会的コストを小さくして市場から退出できるようにすることにより、価格変化のシグナルに対してより敏速に対応できるダイナミックな企業行動と産業構造の形成を促進する、
【3】創造性とチャレンジ精神を有する人材の育成と、公正なルールに基づく市場を通じた適正なリターンというインセンティブが付与されるような仕組み・制度づくりを行う
ことが必要である。この場合、規制緩和等が我が国への対内直接投資を促進するとともに、対内直接投資がまた『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築を促すことが期待される。また、市場競争の結果として生じる敗者への対応として、再挑戦が容易となるような仕組みづくりが求められるが、そのためには一度敗者となった者にとっても、経営資源の調達が容易であること、あるいは再就職が容易であることが重要であり、生産要素が柔軟に移動し得ることが基本となる。
将来においても経済成長を牽引する産業が現れてくるであろうが、もはや政府が先験的に保護・育成すべき産業を決定する時代ではなくなって久しい。将来における産業ごとのシェアなどの展望は、想定可能な経済環境の下で結果として現れる姿を展望するものであり、政策目標としての意義は有していない。行政はいわゆる「護送船団行政」の下での業界保護的な政策からの脱却が、また企業部門においては各企業横並び的、もたれあい的、硬直的な「仕切られた競争」から脱却し、市場メカニズムの下でのグローバルな競争に伍していくための企業システムの再構築、自社の強み(コア・コンピタンス)の再認識と経営資源の集中、技術面・インフラ面・企業経営面で進展するネットワーク化への対応等が求められている。
3.政府の役割
「柔軟・創造・挑戦型産業構造」の構築に向けて、産業政策とその関連分野において政府が果たすべき役割は次のように整理できる。この場合、政府の役割は全体としてはこれまでよりも縮小し、真に必要な分野に限定することが必要である。例えば、これまで政府部門が提供してきたサービス、建設・運営してきたプロジェクトであっても、これを民間部門に委ね、政府はサービスの購入媒体になるといった形で、民間の資金やノウハウを活用することも進めていくべきである。政府の市場への関与が正当化される場合であっても、情勢の変化に伴ってそれが本来の目的に反して弊害をもたらすことのないよう、常にその必要性を見直し、また、初期の目的が達成された段階で廃止されるよう時限的な措置とすることも必要である。政府による市場への関与として、例えば福祉政策、社会政策的観点から補助等を行う場合であっても、供給サイドへの補助よりは需要サイドへの補助の方が市場メカニズムの発揮の上では望ましい場合もあり、このようなことも含めて政府の関与のあり方を見直すべきである。
(1)規制の撤廃・緩和と市場競争ルールの整備・徹底
従来の需給調整、参入規制、価格規制など、法令に基づくものか行政指導によるものかを問わず、競争抑制型行政の撤廃を行うことにより市場メカニズム発揮の阻害要因を除去するとともに、市場における公平・公正な競争と安全・安心の確保のための透明な市場競争ルール、市場監視機能の整備・徹底を行うことが必要である。この場合、市場において生じる紛争への対応、ルール遵守と市場監視の徹底等の面でソフトなインフラとしての司法の果たす役割が極めて重要であり、法曹人口の大幅増員等による処理の迅速化も含めた司法制度の整備・強化が求められる。
(2)競争政策の強化
競争抑制型行政の撤廃とあわせて独占禁止法の厳正な運用をはじめとする競争政策の強化が重要であり、いわゆる「民民規制」への厳正な対応も求められる。この場合、独占禁止法の適用除外の見直し・廃止や行政指導の法令上の位置づけの明確化・過剰関与の廃止等も必要である。
(3)「柔軟・創造・挑戦型産業構造」の構築に資する社会資本の整備
将来の発展基盤の構築、すなわち「プラスのストックの未来への継承」として、「柔軟・創造・挑戦型産業構造」の構築に資する社会資本の整備が重要であり、公共投資のコスト縮減・効率化・透明化を推進しつつ、着実に進めていく必要がある。特に重点を置くべきは、生産要素の自由な移動と組み合わせに資する分野、経済主体の創造的活動に資する分野であり、人流・物流分野、情報通信分野、研究開発分野、都市基盤分野、高齢化対応分野が挙げられる。この場合、関係省庁が複数にまたがる場合も考えられるが、総合的な政策判断が円滑に行われる必要がある。また、民間事業者による社会資本整備についての新しい手法(PFI、BOT等)の導入も重要である。
(4)人材の育成、研究開発の促進と経済主体の能力発揮のための仕組み・制度づくり
初等中等教育から高等教育までの学校教育段階、職業能力開発の双方において、創造性に溢れリスクに果敢に挑戦していくような人材、企業経営等の面で専門性を有する人材、我が国がこれまでに培ってきた経済の発展基盤を継承する人材等を長期的視点に立って育成することが重要である。この場合、学校教育においては政府の役割が相対的に重要であり、職業能力開発においては、個人の自己責任・自己選択を原則としつつ、政府による情報提供や能力開発機会の提供等が重要である。特に、長期的にみた今後の我が国の生産年齢人口の減少を考えれば、職業能力の開発においては、高齢者も含めた積極的な対応が必要である。
また、我が国経済の発展のみならず世界における知的財産形成に貢献するための研究開発を、産学官の連携の強化などを通じ促進する必要がある。
加えて、採用・処遇における多様な能力評価の普及・定着の推進、技術者に対する資格認定制度の整備など、各経済主体がその有する能力を存分に発揮できるための市場を通じたインセンティブ付与の仕組み・制度づくりが重要である。
(5)環境問題への対応
地球温暖化問題をはじめとする環境問題については、政府として環境規制や経済的措置により積極的に取り組んでいく必要がある。環境問題への対応と市場における競争を調和させることは必ずしも容易ではないため、環境保全の見地から、政府として合理的かつ必要最小限にとどまる範囲で市場に関与していくことが必要である。
(6)セイフティ・ネットの整備等
構造改革の途上においては、失業を余儀なくされた労働者への対応が構造改革を円滑に進める上でも重要であり、職業能力開発の推進や労働力需給調整機能の強化等による雇用問題への適切な対応が求められる。また、「透明で公正な市場システム」の下でも市場競争に参加できない真の弱者が存在することも事実であり、こうした人々に対する社会保障の役割が重要である。なお、セイフティ・ネットに関しては、モラルハザードや経済活動へのディスインセンティブをもたらさないような制度設計を行う必要がある。
II.産業構造の展望と課題への対応
1.生産性の向上、高コスト構造の是正と国際分業、国内市場における歪みの是正
これまでの我が国経済の発展の姿を国際分業下の産業構造の面から把握するため、国際競争に直面している製造業を現状での比較優位産業と比較劣位産業に分け、さらに非貿易財産業や被規制産業が多い非製造業を加えてあわせて三グループとして捉えたときに、主として非製造業部門における政府規制の存在からくる低生産性に起因する高コスト構造というハンディキャップを背負いつつも、比較優位にある製造業に牽引される形での発展という経路を辿ってきたものと考えられる。
しかしながら80年代半ば以降、こうした成長経路に限界がみられるようになってきている。すなわち、
【1】 グローバル競争の下で、従来より存在した非製造業における低生産性を主因とする高コスト構造が、経済・産業の各面において桎梏となる面が強まってきており、国内面のみならず国際分業の面でも資源配分上の歪みをもたらしていること、
が現状での最大の問題であり、このことが原因となって、
【2】 円レートが長期的には貿易財産業における購買力平価を概ね反映する形で成立する中で、現状での比較優位産業が従来のような形で価格面での競争力を維持し続けることが困難になってきていること、
【3】 アジア経済の発展や米国経済の競争力の向上等により、技術・性能・品質といった非価格面でも、現状での比較優位産業の競争力に変化が生じてきたこと、
といった事態が顕在化している。加えて、
【4】 我が国における競争制限的政府規制や諸慣行の存在、さらには経済社会システムそのものに起因する柔軟性の欠如が、新規事業展開の面での遅れをもたらしており、市場原理に基づく国際分業の下での将来の比較優位産業がダイナミックに展開し得る国内的条件が整っていないことなどの問題も生じている。
欧米先進諸国のみならずアジア諸国との競争が今後ますます激化すると予想される中、上記の課題への対応策として、国内産業保護策を今後とも採るべきでないことは言うまでもなく、産業構造や雇用情勢の「激変緩和」を理由とする一時的な規制や保護策も必要な構造改革をいたずらに遅らせる効果を持つにすぎない。必要なのは、生産性の向上、高コスト構造の是正と、そのことを通じた国際分業、国内市場における歪みの是正である。
求められる対応としては、【1】規制の撤廃・緩和の徹底等による産業全体の生産性向上を図りつつ特に低位にある非製造業の生産性向上を通じた高コスト構造の是正を最優先とすべきである。現在進められている構造改革はこれに資するものである(【参考1】)。特に、高コスト構造の是正に際して重点を置くべきは、産業活動のインフラ的分野である物流・運輸、エネルギー、情報通信、金融等における規制の撤廃・緩和である。例えば、物流・運輸分野では需給調整規制等の参入規制、価格規制等の廃止、エネルギー分野では電気事業の一層の自由化、負荷率の改善、情報通信分野では参入規制、価格規制の廃止や自由かつ公正な相互接続の確保とその厳正中立な監視、金融分野では日本版ビッグバンの推進等が重要である。
その上でさらに今後重点的に対応すべき課題としては、【2】研究開発の促進と我が国の研究開発拠点としての役割の維持・向上、【3】機械産業等の分野における我が国のこれまでの蓄積であり、将来の経済の発展基盤でもある「ものづくり基盤技術」の継承と強化、【4】企業間関係の面で従来一部にみられた「系列的取引関係」から中小企業間の弾力的な分業関係への再編、【5】新規事業のダイナミックな展開のための環境整備等が挙げられる。また、これら課題への対応に加えて、CO2排出削減対策をはじめとする地球環境問題への対応が必要である。もとより、CO2排出削減に向けては、産業面での対応は勿論のこと、社会システム等の面でも省エネルギーに資する形へ変えていく必要がある。産業面での対応としては、技術開発・普及が重要であるが、こうした対応を行ってもなお、CO2多排出型産業を中心に生産活動が低下する可能性も否定できない。こうした調整のコストを最小化するために生産要素の移動を円滑化することが重要である。
こうした対応の下で歪みのない市場において我が国産業の将来の発展が期待されるが、今後の構造改革途上においては、短期的には雇用面での痛みを伴うことが避けられない。しかし、上記施策を中心とする対応により、長期的にはこの痛みを吸収することが可能である。特に研究開発型ベンチャーや第三次産業での新規事業分野において雇用の拡大が期待される。
なお、現実の為替レートは短期的には我が国のファンダメンタルズから乖離した円高や円安に振れることがあるが、行き過ぎた円高は産業の価格競争力を過度に衰えさせるおそれもあり、また、行き過ぎた円安は必要な構造改革を遅らせて現状に安住する姿勢を生み出す可能性もある。このため、為替レートが長期間ファンダメンタルズから乖離しないような政策努力が重要である。また、金融システム改革の推進、とりわけ短期金融市場の改革による我が国金融資本市場の使い勝手の向上も求められ、その結果として円の国際化、円建て取引の拡大、為替リスクのヘッジ手段の活用等による為替の短期的変動への対応が実現することが望ましい。
【参考1】構造改革に伴う生産性の向上、高コスト構造の是正についての試算
ここでは、(1)構造改革が行われない傾向延長的なケース(無対応ケース)、(2)経済構造改革、金融システム改革の効果を織り込んだケース(構造改革ケースA)について、一定の前提の下に産業毎の全要素生産性(TFP)等の試算を行うことにより、第三次産業における規制緩和を中心とする構造改革が各産業の生産性にどう影響し、高コスト構造の是正にどの程度貢献するかをみる。
【1】 まず、第三次産業における規制緩和等が競争の促進を通じて当該産業のTFP上昇率の改善(構造改革ケースAと無対応ケースにおけるTFP上昇率の差)をもたらす。次表にあるとおりかなりの大きさの改善をもたらすと見込まれる。
【2】 第三次産業におけるこうした生産性の改善は、その提供するサービス価格の低下を促し、当該サービスを投入する他産業の中間投入構成の変化をもたらすことにより、当該他産業のTFP上昇率を改善させる。
【3】 こうしたメカニズムの結果生じる製造業のTFP上昇率の改善幅の試算結果をみると、現状で比較劣位にある製造業の方が現状で比較優位にある製造業よりも改善幅が大きくなっている。(これを逆にみれば、政府規制を主因とする現状での第三次産業の低生産性から生じる高コストが、我が国の貿易財産業における比較優位構造を歪曲している可能性を示唆している。)
【4】 これらの結果、構造改革による産業全体のTFP改善幅は、年平均0.4%ポイントと試算される。
【5】 以上をまとめると、規制緩和等の構造改革は、我が国産業全体の生産性向上を促しつつ、産業間の生産性格差の改善をもたらすことがわかる。
【6】 なお、構造改革が経済の高コスト構造の是正に寄与する度合いとして、産業全体の国内需要デフレーターの改善幅を試算すると、結果は0.9%ポイントの改善となる。
2.「仲介機能」の強化
現在の日本の産業構造の最大の問題は、政府規制に起因する非製造業の生産性の低さであり、このことが経済の高コスト構造や資源配分上の歪みを生み出している点は既に指摘した通りである。特に、第三次産業の中で、金融、流通・物流、通信、対事業所サービス等は、企業と企業、企業と個人の間で、人材、物資、資金、技術、経営ノウハウ、情報等の生産要素(経営資源)を仲介する「機能」を有し、本来、その機能の十全な発揮を通じて経済全体の効率的な資源配分に貢献すべき役割を有している。しかしながら、現状では政府規制に基づくその低生産性ゆえにその本来の役割が十分に発揮されていない。ここでの用語として「機能」とは、市場における制度・仕組み・慣行やその下での営利企業・非営利団体等の活動を総称する概念として用いるものであり、いわゆる「業」や「活動主体」のみを意味するものではなく、市場の働きをより有効にするものである。今後はこの意味での「機能」に着目した対応がより重要となってくるものと考えられる。
「透明で公正な市場システム」の下、「柔軟・創造・挑戦型産業構造」を構築することは、ヒト、モノ、カネ、情報等の生産要素が柔軟に移動し、それらの効率的な組み合わせの下で創造的かつ挑戦的な活動が行われ、最適な資源配分が実現されることを意味する。すなわち、「柔軟・創造・挑戦型産業構造」の構築のためには、上記の意味での「仲介機能」がその本来の役割を発揮することの重要性が今後より一層増すと考えられ、この機能を戦略的に捉える視点に立つことが重要である。「仲介機能」の強化を通じて、我が国産業の発展基盤の継承・強化や新規事業展開の促進といった課題への対応が図られるなどその「仲介」対象となる分野の活性化と拡大につながるとともに、この機能を担う産業自体がさらに発展するという好循環が期待される。
このため、まず、「仲介機能」を担う産業における規制の撤廃・緩和の徹底をはじめとする経済構造改革や金融システム改革を通じて、その本来機能の発揮の阻害要因を除去することが重要である。加えて、現在生まれつつある新たな「仲介機能」の発展のための環境整備を進めることも求められる。
「仲介機能」のうち、人材仲介、技術仲介、資金仲介、物流・流通、企業活動のコーディネート、情報仲介の各機能の展望と課題については以下のとおりである。
(1)人材仲介機能
人材仲介機能は重要な生産要素である労働力の移動の円滑化を通じて労働市場における市場メカニズムの発揮を促すものであり、これまで民間の職業紹介事業や労働者派遣事業の発展という形で市場における人材仲介機能の強化が実現されてきた。また、リストラの対象となる中高年者に対して転職や再就職を支援するためのコンサルティング・サービスを行うビジネスも現れてきている。
今後目指すべき「柔軟・創造・挑戦型産業構造」において生産性の低い分野から高い分野への移動をより円滑化すべき人材としては、
【1】 創造的研究開発活動を担う人材、
【2】 「ものづくり基盤技術」の面で熟練技術・技能を有する人材(後述3.(2)参照)、
【3】 ベンチャー企業や後継者難の状況にある中小企業の経営を担う人材(【事例1】)、
【4】 ベンチャー企業等を経営面、技術面、財務面、マーケティング面等からサポートする人材(【事例2】)
等が挙げられる。
人材仲介機能の強化に向けての政策対応としては、職業紹介事業等において未だ存在している参入規制、取扱職業等の範囲に係る規制(例えば「ものづくり基盤技術」を担う「技能工」は現状では有料職業紹介事業における取扱職業の範囲から除外されている。)を速やかに撤廃するとともに、企業年金等の制度における労働移動の円滑化の阻害要因の除去が必要である。
(2)技術仲介機能
我が国産業の生産性の向上のためには、研究開発の促進に加えてそれによって生み出される技術の市場における流通を促進することが重要である。これによって技術が最も効率的に生産活動に活用されることとなる。
今後重要となる技術仲介機能としては、例えば、
【1】 他の企業との提携を望む技術開発型ベンチャー企業の技術を客観的に評価した上で提携を仲介する機能(【事例3】)、
【2】 大学における研究成果の企業化可能性等の評価や特許権等の取得支援を行うとともに、特許権等の企業への移転等の仲介を行う機能(技術移転機関、TLO:Technology Licensing Organization の機能)、
【3】 休眠特許等の流通の仲介を行う機能
等が挙げられる。
技術仲介機能の強化のためには、適切な知的財産権の保護の強化、休眠特許等の知的財産権のデータベースの構築、産学官連携の推進、技術評価を行う人材の育成・活用等が重要である。
(3)資金仲介機能
金融機関は資金供給者と資金調達者を単に仲介するのみならず、各経済主体のリスクテイク(挑戦)行動の要としての重要な役割を担っており、この過程で資金仲介機能と情報仲介機能を果している。
今後特に重要なのは、ベンチャー企業等に対するリスクマネー供給機能であり、企業の育成機能である。
現在進められている金融システム改革によりこれら機能の強化がなされることが期待される。
(4)物流・流通機能
物流・流通機能は単に物資の仲介を行うのみならず、需要者側のニーズを迅速、的確に供給者側に仲介するという意味で情報の仲介機能をも担っている。最近では、複合一貫輸送のようなサービスが生み出されているほか、物流システム全体について改善提案し、物流全般を包括受注する「サードパーティロジスティクス(3PL)」(【事例4】)といった革新的なビジネスも現れてきている。
物流・流通は従来より我が国経済の高コスト構造の重要な要因として広く認識されてきており、その効率化が経済全体の効率化を左右するものである。
このため、物流・流通分野において未だ残存する参入規制、価格規制等の競争抑制的規制を早急に撤廃する必要がある。
(5)企業活動のコーディネート機能
一般に企業活動とは様々な生産要素を市場で調達し、これを経営資源として企業内で組み合わせ、コーディネートし、さらには新たな経営資源を自ら生み出しつつ、種々の生産活動を行うものである。この場合、経済環境の変化や制約条件への対応、コスト削減の必要性、新規事業分野への進出等の課題に対応するために、企業活動や経営資源のコーディネート自体を当該企業外の専門機関が一部担う傾向が近年強まってきている。
例えば、
【1】 合併・買収する側にとって経営資源を迅速に調達するためのM&A仲介機能(【事例1】)
【2】 新規に創業したベンチャー企業が取引先・提携先を見出すことには困難が伴うことが多いが、こうしたベンチャー企業のニーズに対応するためのベンチャービジネス仲介機能(【事例2】、【事例5】)
【3】 ベンチャー企業の経営資源の不足を補うためのインキュベート機能(【事例6】)
【4】 企業が省エネ問題に対応しつつ、コスト削減を行うに際してのカウンセリング・サービスを提供する機能(ESCO:Energy Service Company の機能)(【事例7】)
【5】 建設工事において、発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の利益を確保する立場から、設計の検討、工程管理、品質管理、費用管理などを行い、性能確保とコスト低減を図るコンストラクション・マネジメント(CM)機能(【事例8】)
などが今後重要性を増すと考えられる。
これらの機能の発展のためには、ノウハウの蓄積と情報提供、人材の育成・活用等が重要であるが、特に【4】や【5】については、政府自らが経済活動の主体として取り組むべき省エネやコスト削減等の課題に対応するための機能でもあり、政府が市場におけるユーザーとしてこれらの民間機能を積極的に活用することが望ましく、その結果としてこれら機能の発展・強化が実現されることにもなろう。
(6)企業と個人の間の情報仲介機能
従来は、利用者にとっての安全・安心の担保等の理由により、事業者に対する事前の参入規制、価格規制、商品・サービス内容に対する規制等が行われてきた。利用者はこれらの規制によって「保護」されてきたために、情報開示の重要性が認識されることが少なく、また、自らの判断で多様な選択肢の中から供給者や商品・サービスを選択する余地も少なかったと考えられる。
今後は、規制緩和に伴い、利用者の自己責任が原則となるが、一方で一般に企業(生産者)と利用者(消費者、投資家等)の間には「情報の非対称性」が存在するとともに、十分な情報開示がなされたとしても、利用者が提供される情報の全てを理解することは難しい。このため、これらの情報を利用者に対して理解しやすい形に加工・翻訳し、利用者が選択を行う際の判断材料を提供する情報仲介機能の重要性が増してこよう。
企業と個人の間の情報仲介機能のうち今後重要となるものとしては、例えば、
【1】 資産運用に際して、金融商品・サービスや金融機関等の経営に関する情報を客観的で判り易く分析し提供するファイナンシャル・プランナー、評価機関、格付機関、アナリストや投資顧問業
【2】 少子・高齢化が進展する中、医療・福祉分野において公的負担を抑制しつつ効率的で質が確保されたサービスが提供されることが極めて重要であり、そのためには規制の撤廃・緩和により、民間企業等が参入する際の障害を除去する必要があるが、この場合における民間企業等が提供する医療サービス、有料老人ホーム、介護関連サービス、リバースモーゲージなどのサービスの質、経営の効率性・安定性等の格付を行う機能
【3】 商品の安全性や性能について比較テストを行い、その比較情報を提供する商品テスト機能(【事例9】)
などが挙げられる。
情報仲介機能の強化のための環境整備としては、情報開示の徹底と情報仲介機関への信頼性の向上が鍵となる。情報開示に関して当面は、企業が開示すべき情報の定義、範囲について、政府がルールを定めることや政府自身が保有する情報を公開することが重要である。また、医療分野等において存在している広告規制の撤廃・緩和をさらに進めることが、医療機関等に情報開示のインセンティブを与える上で重要である。情報仲介機関の信頼性向上のためには、社会的・制度的にこれらの機能を位置づけていくことも重要であるが、それがこの分野への新たな参入規制となるような仕組み・運用は厳に慎むべきである。むしろ、情報仲介機関同士が市場競争を通じて、利用者の信頼性を勝ち得ていくことを基本とすべきである。
3.我が国産業の発展基盤の継承・強化
産業全体の生産性向上のためには、第三次産業における規制の撤廃・緩和等に加えて、今後の我が国産業が発展するための基盤としての研究開発の促進、ものづくり基盤技術の継承・強化、中小企業間での弾力的な分業関係の形成、といった課題に対応する必要がある。
(1)研究開発の促進
産業技術の面での政府の主要な役割としては、まず、研究開発を進める際の産学官の連携の推進、市場における技術の流通等の面での阻害要因の除去等の研究開発が円滑に進むような環境の整備、人材育成である。また、限られた政策資源を重点的・効率的に使用するため諸外国との比較における現状での評価や将来の展望を持ちつつ、産業の広範な分野での生産性の向上、地球環境対策、新製品・新サービスの開発等に役立つ公共財たる成果創出を目指す分野やグローバルな知的財産形成に資する分野などリスク・資金が大である等の理由で民間の自主的な活動だけでは十分な進展が期待できない研究開発を自ら実施、あるいは民間による実施を促進することが挙げられる。
こうした観点から今後進めるべき施策としては、科学技術基本計画を踏まえ、研究開発機関間等の情報ネットワークなどインフラの整備、適切な知的財産権の保護の強化、創造的な技術を生み出し得る人材の育成などが重要である。また、製品開発と基礎研究の関係を見た場合、大学における基礎研究から企業における製品開発につなげるという流れのみならず、製品開発中に生じた問題を常に基礎研究にフィードバックする、すなわち、新しい製品開発が契機となって、新しい基礎研究が生まれるとの考え方が重要である。このため、技術移転機関を通じた研究成果の流通・活用促進、大学等の研究者と民間企業との人的交流の促進、研究開発施設・設備の共同利用の促進などにより、産学官の連携を進めることが重要である。
(2)ものづくり基盤技術の継承・強化
「ものづくり基盤技術」(鋳造、鍛造、プレス、金型等、各種素材を成形・加工・処理する加工技術・技能であり、特定の産業や製品のための加工技術・技能ではなく、製造業の広範な分野で用いられる共通基盤的加工技術・技能を指す。)については、これまでの我が国製造業の発展の源泉であり、今後とも「プラスのストックとして未来へ継承」すべき重要な要素であるが、現状では次のような課題に直面しており、早急な対応が必要となっている。
【1】 技術者・技能者の高齢化と若者の確保の困難性
今後5~10年で、熟練技術者・技能者の大量退職が見込まれる中で、若者の製造業離れと定着率の低さによる人材不足が懸念される。
【2】 技術・技能の継承の困難性
年齢構成の歪みからくる技術・技能の継承の困難さに加えて、産業・企業のニーズと教育訓練機関の整備・カリキュラムとの乖離やこれまでの雇用慣行等に起因する熟練技術者・技能者側の若手への教育訓練のインセンティブの欠如が指摘されている。
【3】 技術者・技能者の評価・処遇
これまでの商慣行、雇用慣行等から、企業の技術力に対する評価や技術者・技能者の労働条件の面における処遇が適切になされていない。
これらの課題に対処するためには、以下のような対応が必要である。
【1】 人材確保と技術・技能の継承・教育
企業自らの対応として、就労環境の整備、技術・技能の客観化・データベース化・ソフトウェア化、企業内・業界内での教育訓練、雇用慣行等の改善による技術者・技能者への適切な処遇等がまず重要である。政策的には、初等・中等教育におけるものづくりに対する正しい理解の促進、企業における技術・技能の継承・教育への支援、インターンシップの導入・推進、公的教育訓練機関の整備等が重要である。
【2】 技術・技能の評価・処遇の面における市場メカニズムの発揮
広範な分野で用いられる共通基盤的加工技術・技能としてのものづくり基盤技術を有する技術者・技能者が不足している状況にあるにもかかわらず、これら技術・技能を有する企業や個人が適切に評価・処遇されていない状況は、この分野における企業間の取引市場や労働市場において生産性の低い部分から高い部分への生産要素の移動が円滑に行われていないことを意味している。このため、政策的には、市場メカニズムの発揮を阻害している要因の除去に重点を置くべきであり、技術・技能の評価の仕組みの整備(資格制度の整備・普及や優れた技術・技能を有する企業・人材の情報提供など)、職業紹介事業等の自由化、前述の仲介機能の強化等が重要である。
(3)中小企業間での弾力的な分業関係の形成
これまで我が国の家電産業、自動車産業等の機械産業などの一部においてみられた最終製品メーカー(大企業)と部品メーカー(中小企業等)との「系列的取引関係」は、一方では閉鎖的取引慣行といった指摘もあるものの、少品種大量生産の下での分業のメリットと安定的・長期的取引を通じて、これらの産業の発展に寄与してきた面が多いと考えられる。
しかしながら既に指摘したような近年におけるグローバル競争の下での我が国貿易財産業の価格競争力、非価格競争力の双方における条件の変化や製品の短サイクル化など需要動向の変化への迅速な対応の必要性などにより、こうした「系列的取引関係」には変化が生じている。すなわち、最終製品メーカーの側での一方における海外現地生産と海外調達の増加、他方における内製化の動きであり、部品メーカーの側での自らの得意分野(コア・コンピタンス)の確立・再認識とそれを積極的に活用しようとする動きである。
このような動きは、従来の「系列的取引関係」が、今後21世紀には、特に中小企業間での弾力的な分業関係へと変貌することを促していると捉えることができよう。すなわち、自らの経営資源に限りのある中小企業においてはそれを得意分野に集中的に投入するとともに、個々の業務を行うに当たり足らざる部分については外部(他の中小企業)のそれを活用する。そしてこうした企業同士の組み合わせがその時々の業務(発注者のニーズ充足、新製品の企画・開発、試作品製作、マーケティング等)に応じて随時に組み換えられ、全体として多数の中小企業が緩やかな連携関係を構築する、というものである。このような企業間連携の姿は、個別企業における得意分野への一層の特化を通じた全体としての生産性向上と経済環境の変化や需要動向の変化への全体としての弾力的かつ敏速な対応可能性という点で21世紀の我が国経済の新たな発展の源泉となり得るものと考えられる。
このような企業間連携を構築する際には、既存の企業集積の存在が重要となる。一定の地理的範囲内における多数かつ多様な企業の集積は、弾力的な分業関係の構築にとって有利に作用する。この貴重な集積を将来に継承し、強化していくためには、現在その中での活動の制約となっている工業(場)等制限法等の規制の撤廃・緩和が必要である。また、現状では企業集積の発達が十分でない地域においては、情報通信の面における技術革新の成果を活用して地理的ハンディキャップを克服するという方向が考えられる。
また、企業集積内で企業同士を円滑に組み合わせるコーディネート機能あるいは仲介機能を果たす企業の存在も重要である。企業間連携の中で自ら特定の業務を担いつつ、併せてコーディネート機能をも担う企業もあれば、コーディネート機能に特化する企業も現れてくると考えられる。
4.新規事業展開促進のための環境整備
今後の構造改革に伴う短期的な雇用面での痛みに対処するために、また、より長期的には本格的な高齢社会における経済活力を維持し、将来の経済環境の変化に経済全体として生産性の向上を図りつつ柔軟に対応していくためには、新規企業、既存企業を問わず新規事業のダイナミックな展開を促進することが重要である。また、このことは、地域経済の活性化にも一定の貢献をするものと期待される。
このため、規制緩和をはじめとした構造改革を積極的に推進することにより新規創業・新分野進出の際の障害を取り除くとともに、ベンチャー企業等がリスクへ果敢に挑戦していくための環境整備を図ることが必要である。この場合、市場競争の結果として生じる敗者には、再挑戦を容易にすることがあわせて求められる。
(1)現状の評価
新規事業展開の促進に向けてこれまで国レベルにとどまらず、地方自治体レベルにおいても、資金・人材・技術・経営の各面から施策が実施されており、また、今通常国会に提出されている技術移転法案、投資事業有限責任組合法案や研究交流促進法の改正法案も含めて、今後実施が予定されている施策もある。加えて既存のベンチャーキャピタルをはじめ銀行、協同組織金融機関、保険会社、総合商社等の民間機関による取組も活発化している。これらの動きは、これまでの資金提供一辺倒から最近では人材・技術・経営まで含めた総合化の方向へ向かいつつある。
既存施策は、その多くが実施されてから日が浅く、また、一般的にこれらの施策は懐妊期間が長いことから、現段階で断定的に評価をすることは時期尚早であるものの、敢えて評価を試みれば、
【1】 創業初期段階における資金供給の充実
【2】 投資家からみた資金回収のための選択肢の多様化
【3】 産学官連携の一層の推進
【4】 新規事業展開をサポートする人材の活用・育成
【5】 ベンチャー企業等の有する技術の評価のあり方
等の面において以下の(2)に述べる課題が指摘できる。
既存施策は、創業支援策と既存企業による新分野展開への支援策があまり区別されずに行われている。現状では、このことが効果を示している面もあるが、今後は施策の利用状況や地域の首・闔臂陲鳳・検⇔昌楮・鬚茲蠍﨓・・冒箸濆腓錣擦同人僂垢襪海箸睇・廚任△襦・・鹿霈w)
(2)課題への対応
【1】 創業初期段階における資金供給の充実
これまで我が国のベンチャーキャピタルはある程度成長した未公開優良企業の発掘とその株式公開支援を通じたキャピタルゲインの獲得に業務の中心を置いていたが、今後は創業初期段階の企業への資金供給と企業育成に比重を移す必要がある。最近は、創業初期段階への投資が若干増加する兆しがあるものの、依然この比率は低く、初期段階への投資を活発にするための税制上の措置を含めた環境整備が必要である。
現在我が国には1200兆円に達する個人金融資産やあわせて190兆円にものぼる公的年金、企業年金資金が存在し、今後も増加することが見込まれることから、これらの豊富な資金の一部が投資信託等のファンドを通じて創業段階のベンチャー企業等に供給されるだけでも相当の効果があるものと考えられる(【参考2】)。このため、金融システム改革の推進による投資家、資金調達者の選択肢の拡大が期待される。また、今国会に提出されている投資事業有限責任組合法案は、ベンチャー企業への資金供給の円滑化を企図したものであり、早期の施行が望まれる。
【参考2】ベンチャー企業等への資金供給額についての仮定計算
金融システム改革による未登録・未上場株式への投資に係る規制緩和や投資事業組合制度の整備等が実施されることにより、ベンチャー企業等へのリスクマネーの供給増加が見込まれる。仮に、国内金融資産残高に対するベンチャーキャピタルの投資残高の割合が我が国においても米国並みに高まるとして計算すると、この金額は1兆4,000億円程度となる。
96年3月末の我が国のベンチャーキャピタル投資残高
約8,300億円(国内金融資産残高に対する割合、約0.021%)
↓
国内金融資産残高に対する割合が米国並み(約0.058%)に高まるとすると
約2兆2,500億円
増加額約1兆4,200億円
【2】 投資家からみた資金回収のための選択肢の多様化
投資家からベンチャー企業等への資金供給(ベンチャー企業等からみれば資金調達)をより円滑化するためには、投資資金を回収し、キャピタルゲインを獲得するための手段の選択肢が多様化することが重要である。しかしながら現状では店頭市場については、設立から株式の新規公開まで長期間(平均30年近く)を要することや市場そのものの低迷といった構造的要因による問題を抱えており、資金回収手段としての魅力に欠けている面がある。また、未公開株式市場も未発達であり、M&Aも不活発であるなど、株式公開以外の手段の利用もあまり進んでいない。この結果、投資家からみて当初期待していたようなリターンが得られない場合が少なからずある。
このため、店頭市場のさらなる改革、未公開株式市場の整備、M&Aの活発化のための環境整備等を推進する必要がある。
特にM&Aについては、投資回収の手段であるとともに、新規分野に進出しようとする企業にとっての経営資源調達手段でもある。我が国は比較的M&Aの件数が少ないと言われているが、その理由の一つとしてM&Aに対する企業家の心理的抵抗感が存在し、そのメリットが十分には知られていないということが考えられる。このためM&Aのメリットについて積極的にPRしていくことが重要である。加えて、M&Aを活発にするためには、許認可事業における合併・営業譲渡時の許認可継承に際しての手続的規制や独占禁止法上の企業結合法制の手続きなどについても、企業の負担軽減に加えて、国際的整合性の確保等の観点からも見直す必要がある。さらに、労働者の側における経営者が替わることに対する抵抗感やM&Aによるリストラへの不安感等に配慮して、企業家においてもM&Aを躊躇する場合もみられることから、こうした抵抗感や不安感を払拭するとともに、労働力の円滑な移動の促進等の環境整備も重要である。
【3】 産学官連携の一層の推進
産学官連携はベンチャー企業も含め広く中小・中堅企業の飛躍の契機を与えるものであり、その推進は重要である。
こうした観点から大学等に存在する技術を企業において十分に活用するとともに、大学等においても企業の有する経営資源の活用と成果のフィードバックを進めていくため、共同研究や受託研究の一層の推進とともに、現在取組が始められているインターンシップの導入・推進、ベンチャービジネス・ラボラトリー(国立の大学院における創造的な研究開発及び人材育成を目的としたプログラム)の整備、連携大学院(国や企業の研究機関と大学が連携して教育研究を行う大学院)の展開、技術移転機関を通じた研究成果の流通・活用促進、国の研究者のベンチャー企業等への経営参加促進、研究施設の有効活用等産学官連携に係る施策を推進していくことが重要である。
【4】 新規事業展開をサポートする人材の活用・育成
新規事業の展開を図るためには、企業家を経営面、技術面、財務面、マーケティング面等からサポートできる人材の活用・育成が重要である。
人材育成においては、大学等高等教育機関の役割が重要であり、現在では起業家育成コースを設置する大学(学内での教育on campus education)も増えつつある。また、例えば衛星やCATV等を活用した社会人をも対象とする講座の開講(学外での教育off campus education”)が極めて有効である。
産学官連携による新規事業展開の際にも大学等の技術とそれを必要とする企業を仲介する人材が重要であり、ある程度技術に関する知識を有し、かつ、マーケティング能力を有する人材が積極的に大学等の技術を企業にセールスしていくことが大学等の技術の事業化を促進していくと考えられる。また各大学等にそのような人材が存在しネットワークが形成されることが肝要である。このような人材を今後育成していくことが重要であるが、現にあるセールスや技術に明るい人材の流動化を進めることも求められる。
また、現にある人材を有効活用するとすれば次のことが考えられる。例えば、業務上の能力や経験からこの役割の有力な担い手と考えられるのは、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等であり、これらの資格を有する者の積極的な参画が期待される。現状では、これらの者が事務所を法人化することが制限されていること、営利目的の業務を営んだり営利企業の役員、使用人になることに一部制限があること、広告についても規制されていることなどから、総合的にベンチャー企業等をサポートする体制をとることに制約が生じており、早急にこれらの規制を撤廃する必要がある。また、ベンチャーキャピタルからベンチャー企業にとって必要な人材を派遣、仲介することが考えられ、これを容易にするために労働者派遣事業等の自由化が求められる。さらに、今後成功するベンチャー企業が増えれば成功した企業家が経営指導等を行うということも考えられる。加えて、ストックオプション制度は有力な手段であり、一層の普及が重要である。
【5】 ベンチャー企業等の有する技術の評価のあり方
ベンチャー企業等への投資やそれらとの取引を促進するためには、そのベンチャー企業の持つ技術力を適正に評価することが重要であるが、現在の金融機関だけでは、新しい技術を評価することが難しい面もあるため、それを担う人材が必要となる。
現在そうした人材は、業務上新しい技術を自社のビジネスチャンス拡大の材料として捉えている総合商社等に多いと考えられ、その活用が期待される。また、技術を理解し評価できるのは当該技術を有している企業自身であるという考えに立てば、企業内ベンチャーや持株会社の解禁に伴う分社型ベンチャーの増加により、技術を評価する人間の層も厚くなり、評価できる技術の対象も広がるということも考えられる。
この場合、上記の支援等を国・地方それぞれにおいて、民間機関や大学・公的研究機関と連携をとりつつ、資金以外の面も含め、また、外部の人材を活用しつつ、総合的に進めていくことが重要である。留意すべきは、民間の活動を中心に据えることであり、政策的支援を行う場合は、必要に応じ施策目標を設定し、それが達成された段階で当該施策の廃止を予定しておくことも、今後考慮すべきである。
特に、政策的には、人材の育成と活用が、上記のいずれにおいても概ね共通している課題であり、必要とされる人材は、起業家精神旺盛な人材、彼らを実務面からサポートする人材、取引の各々の局面において仲介役を果たす人材である。現在進められている教育改革において、このような社会的要請への対応として、長期的な視点に立って、初等中等教育から高等教育の段階にいたる人材育成への取組が必要である。また、職業能力開発における取り組みも求められる。なお、施策の速やかな推進の観点から言えば、現にある人材が規制緩和等を通じて円滑に供給されることが重要である。
5.高度情報化が産業構造に及ぼす影響についての展望と課題
情報技術の分野における技術革新の進展は極めて速く、今後十数年間に一層の進展が見込まれる高度情報化が2010年の産業構造に及ぼす影響を展望することは不確実性が高い作業であるが、敢えてここでは、現時点で利用可能な技術あるいは予測し得る技術の動向を基に、それが今後の産業構造にいかなる影響を及ぼすかをみることにする。なお、今後の技術革新の動向にもよるが、情報技術とりわけ情報ネットワークの導入の形態・程度・スピード等は業種によって(例えば、物流・流通業、加工組立型製造業、素材型製造業の違いように消費者により近い部門か否かによって)異なるものと考えられることから、それによる影響の内容や程度、影響の現れる時期等も業種毎に異なる可能性がある。
(1)企業活動の生産性に及ぼす影響
情報技術の活用は以下のような側面において企業活動の生産性向上に好影響を与えている。この結果として、企業組織のフラット化、ネットワーク化が促進される。
【1】 LAN等の企業内情報ネットワークの活用による、企業内における意思決定・事務処理の迅速化、非定型業務の効率化等
【2】 CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)の導入等を通じた企業内・企業間での情報の共有化・情報伝達の迅速化による、設計・開発・製造部門における生産コストの削減、在庫率の改善、製品開発期間の短縮、製品・サービスの品質の向上等
【3】 インターネットの活用による、企業と消費者との間の電子商取引(EC)の実現や顧客対応の迅速化・柔軟化等
(2)「仲介機能」に及ぼす影響
今後の高度情報化は、個々の企業における生産性の向上に貢献するにとどまらず、仲介機能へのインパクトを通じて経済全体の効率的な資源配分に資する。
【1】 生産者と消費者の直接取引の増加により流通業者の介在が不要となる可能性や、企業グループ内等でネットワークの高度利用を通じて相殺決済(ネッティング)が容易になることから既存金融機関の有する決済業務の存在意義が低下する可能性があるが、経済におけるこれらの機能の重要性が失われるわけではない。こうした動きは、いわば流通機能や資金仲介機能の一部が利用者によって「内製化」されるものと捉えることができる。既存の流通企業や金融機関は、当該産業内での競争のみならず、これら「内製化」の動きとの競争に直面することとなり、その結果、経済全体としてのこれらの機能の強化、効率化が促される。
【2】 人材仲介、技術仲介、企業活動のコーディネートなどの機能においては、個々の需要者と供給者の豊富なデータを保有し、それらの中から最も適した者同士を迅速にマッチングすることが重要である。この場合、インターネット等の情報ネットワークの活用によってその機能のより効率的な発揮が可能となる。現在生まれつつあるこの分野の仲介機能においてもインターネットを活用している例があるが、今後とも様々な形で情報技術を活用する例が現れることが期待される。
【3】 情報ネットワーク上での生産者と消費者の直接取引が増加する一方で、生産者と消費者との間の情報仲介サービスが情報ネットワーク上で発展する可能性も高い。消費者は多様な選択肢の中から自らに最も適したものを効率的に選ぶことが可能となり、生産者間では競争がより一層促進される。
(3)企業間関係に及ぼす影響
企業間でのEDI(電子データ交換)やCALS等の活用は、企業間関係にも大きな影響を与え、経済全体としての生産性の向上を促すことが期待される。
【1】上記(1)や(2)の結果として、各企業内では自らの有する経営資源の見直しが行われ、自社の強み(コア・コンピタンス)の確立・再認識がなされる。足らざる部分についてはアウトソーシングを行い、コア・コンピタンスへ経営資源の集中が促進される。こうした動きが強まる中で、企業間の戦略的な連携関係が形成されることとなる。
【2】上記の関係が特定企業間のクローズドな情報ネットワークを介して形成される場合にはそれに基づく企業間連携の姿も比較的クローズドな色彩が強いものとなろう。一方、インターネット等のオープンな情報ネットワークを介する場合には企業間連携もオープンかつ弾力的なものとなる。クローズド型とオープン型はそれぞれのメリットを有することから、実際の情報ネットワークは、クローズド型、オープン型の双方の普及が進むとみられ、企業間連携も各々の企業の経営戦略や導入のためのコスト等に応じてクローズドなもの、オープンかつ弾力的なものの双方が重層的に形成される方向に進むとみられる。ただし、オープン型の情報ネットワークの普及のためには、セキュリティ技術の確立が鍵となろう。
このような形での重層的な企業間連携の形成は、経営資源の物理的移動を伴わない柔軟な組み合わせを可能とするものであり、資源配分の効率化を促進するものである。
(4)新規事業展開に及ぼす影響
高度情報化の進展は、ベンチャー企業の創出や既存企業の新分野進出を促進する。
【1】 情報通信関連産業の飛躍的拡大が予想される。この分野は、a)情報通信関連機器製造業、b)通信、放送、インターネット・プロバイダーなど、情報を媒介する産業(ディストリビューション産業)、c)流通する情報を製作する産業(コンテンツ産業)、d)情報ネットワーク上の情報を検索するディレクトリ・サービス、情報ネットワーク上で財・サービスの需要者と供給者をマッチングさせるサービスなどの種々の関連サービス産業、e)通信と放送、コンピューターと家電など関連分野を融合させた産業、などに分けて捉えることも可能であるが、これらのそれぞれにおいて様々なニュービジネスの成長が期待される。また、医療や教育などの他産業においても情報技術の活用による関連ニュービジネスの成長が期待される。先述のように情報技術においては新しい技術が次々と生み出されており、そうした新技術を活用した分野では既存企業が多くないことから新規事業が成立しやすく、かつこの分野においては比較的少人数でも企業化が可能な場合が多いこと等から、ベンチャー企業等の活躍の機会が多いと考えられる。
【2】 高度情報化は新規事業展開を容易にする。すなわち、上記(2)のように仲介機能が発展することにより、起業家にとって経営資源(生産要素)の調達、利用が安価かつ容易となる。また、上記(3)の意味でのオープンかつ弾力的な企業間連携が普及することにより、ベンチャー企業等の企業間取引への参入が容易になることも考えられる。
(5)政策的課題
以上のように、高度情報化の進展は産業構造の様々な側面において生産性の向上と資源配分の効率化を促すが、その効果をより一層発揮させるためには以下のような課題に政策的に対応していく必要がある。
【1】 情報技術の分野における研究開発の促進
【2】 規制の撤廃・緩和等による通信コストの削減
【3】 情報通信関連のインフラ整備の促進
【4】 ネットワーク外部性をより発揮させるための標準化の推進
【5】 電子化されたデータ等の法的有効性の確保、電子認証制度の整備等の制度的基盤整備
【6】 情報ネットワーク上で流通するコンテンツについての知的財産権としての適切な保護の強化
【7】 流通する情報の機密保護対策を含む情報ネットワークのセキュリティ対策、
【8】 プライバシー保護対策など
【参考3】2010年の産業別GDPの試算(構造改革による影響)
我が国の2010年における産業別GDPについて、(1)構造改革が行われない傾向延長的なケース(無対応ケース)、(2)経済構造改革、金融システム改革、財政構造改革、社会保障構造改革の効果などを織り込んだケース(構造改革ケースB)について一定の前提の下に試算を行った。なお、本試算は、産業別GDPの趨勢的な姿とそれが構造改革によってどのような影響を受けるかを捉えるためのものであり、地球環境制約については一切考慮していない。その意味では、2010年の産業別GDPのありうべき姿、望ましい姿を展望するものではなく、また、地球環境制約を考慮した国際分業の姿を展望するものでもないことに留意する必要がある。
(産業別GDP構成比の趨勢的な変化の動向)
2010年における産業別のGDPの構成比を1995年時点と比較すると、名目で見ても実質で見ても今後の経済のサービス化の進展を背景として、製造業は減少し、第三次産業が増加する。
(構造改革による2010年の産業別GDP構成比の変動)
次に、2010年における実質ベースの無対応ケースと構造改革ケースBを比較することにより、構造改革が各産業の成長に与える影響をみる。
政府サービスを除く第三次産業については、規制緩和等による新製品・新商品の提供、価格の低下等を反映して、概ねその構成比を高めている。製造業の中では、機械産業等の構成比が高まっているが、これは情報通信分野における規制緩和等の効果による設備投資の増加を反映したものとみられる。
建設業と政府サービスについては、財政・社会保障改革の影響により、その構成比を低下させている。
(仲介機能を有する産業の動向)
仲介機能を有する産業(ここではデータの制約上その範囲を幅広くとり、卸・小売業、金融・保険業、運輸・通信業、不動産業、その他サービス業の一部とした。)については、我が国のGDPの約4割を占めているが、構造改革による構成比の上昇が見込まれる。
(注) 試算の方法
1 試算の前提
TFP、GDPシェアの試算の前提としては、構造改革(経済構造改革、金融システム改革、財政構造改革、社会保障構造改革)を設定。具体的には以下のような前提をもとに試算したものである。
a 経済構造改革:情報通信、運輸、流通、エネルギー、土地・住宅、医療・福祉、雇用・労働の7分野を対象とし、規制緩和による競争促進等によりもたらされる生産性の上昇、新規需要の増加、設備投資の増加等を設定。
b 金融システム改革:規制緩和による競争促進によりもたらされる生産性上昇、金融資産サービスへの需要増、外為法改正による金融サービスの輸入増、国際金融市場化による金融サービスの輸出増等を設定。
c 財政構造改革:機械的に公共投資を95年度から2007年度で600兆円、政府最終消費支出を98年度以降実質値横ばい、特別減税2兆円、法人税は税率を98年度以降3%削減と設定。
d 社会保障改革:機械的に社会保障給付費を98年度以降は年率2%の伸びと設定。
2 試算ケース(足元を1995年とした2010年の姿)
(1) 無対応ケース:95年以前の成長経路の傾向を延長し、上記a~dの効果を織り込んでいないケース。
(2) 構造改革ケースA:上記a,bの構造改革の効果を織り込んだケース。
(3) 構造改革ケースB:上記a~dの構造改革の効果を織り込み、かつNPO活動の活発化を見込んだケース。
産業構造をめぐる5つの提言
「透明で公正な市場システムの確立」「環境と調和した社会」「プラスのストックの未来への継承」という視点に立って、21世紀の我が国の産業構造の展望と課題を整理し、以下の5点について提言する。
提言1[『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築
----国際分業、国内市場における歪みの是正----]
21世紀初頭には、様々な経済環境の変化に対して柔軟かつ積極的に対応可能な産業構造、すなわち、生産要素の柔軟な移動、各経済主体の創造的な活動と積極的なリスクテイキング、さらには市場における敗者の円滑な退出と再挑戦が活発に行われる『柔軟・創造・挑戦型産業構造』の構築を目指すべきである。
・柔軟………資金、技術、人材、情報・ノウハウ等の生産要素の柔軟な移動ないしはそれらの企業内・企業間の柔軟な組み合わせ
・創造………各経済主体による前例や慣行にとらわれず、模倣や横並びでない、独自の発想・技術・ノウハウなどに基づく創造的な活動
・挑戦………各経済主体の積極的なリスクテイキングによる現在の閉塞的・硬直的な経済構造への挑戦(内なる挑戦)
提言2[『仲介機能』の強化]
ヒト、モノ、カネ、情報等の生産要素が柔軟に移動し、それらの効率的な組み合わせの下で創造的かつ挑戦的な活動が行われ、国際的にも国内的にも最適な資源配分が実現されるためには、「仲介機能」がその本来の役割を発揮することが重要であり、この機能を戦略的に捉えるべきである。
・仲介機能は、本来、経済全体の効率的な資源配分に貢献すべき役割を有している。しかしながら、現状では政府規制に基づくその低生産性ゆえにその本来の役割が十分に発揮されていない。
・仲介機能の強化により経済全体の生産性向上、高コスト構造の是正と、国際分業、国内市場における歪みが是正されるとともに、仲介機能を担う産業自体がさらに発展するという好循環が期待される。
・仲介機能の強化のためには、規制の撤廃・緩和の徹底等を進めるべきである。
・重要な仲介機能の例としては、以下のものが挙げられる。
【1】 人材仲介機能、【2】 技術仲介機能、【3】 資金仲介機能、【4】 物流・流通機能、【5】 企業活動のコーディネート機能(企業活動や経営資源のコーディネートを支援)、【6】 企業と個人の間の情報仲介機能(「情報の非対称性」の是正)
提言3[我が国産業の発展基盤の継承・強化]
21世紀におけるグローバル競争の中で、我が国産業の発展基盤を継承・強化していくためには、各産業の生産性の向上を図ることに加えて、研究開発の促進、ものづくり基盤技術の継承・強化が重要である。また、現在生じつつある「中小企業間での弾力的な分業関係」といった形での企業間連携の形成を促進するための環境整備が重要である。
・研究開発の促進のためには、企業における製品開発と大学での研究との間のフィードバックが重要であり、この観点から産学官連携の推進等が重要である。
・ものづくり基盤技術の継承・強化のためには、【1】 人材確保と技術・技能の教育、【2】 技術・技能の評価・処遇の面における市場メカニズムの発揮が重要である。
・中小企業間での弾力的な分業関係の形成促進のためには、企業集積内での企業活動を制約している要因の除去と企業間連携を円滑化させる「コーディネート機能」の存在が重要である。
提言4[新規事業展開促進の環境整備]
規制緩和をはじめとした構造改革を積極的に推進することにより、新規創業・新分野進出の際の障害を取り除くとともに、ベンチャー企業等がリスクに果敢に挑戦していくための環境整備を図ることが必要である。
・創業段階における資金供給
金融システム改革により、豊富な個人金融資産や年金資金の一部がベンチャー企業等へのリスクマネーとして供給されるだけでも相当の効果が期待される。
・投資家からみた資金回収段階での多様な選択肢の整備
M&A等株式公開以外の資金回収手段を整備する必要がある。
・産学官連携の推進
技術移転機関を通じた研究成果の流通・活用促進等が重要である。
・新規事業展開をサポートする人材の活用・育成
弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等の活用が重要であり、彼らが総合的にベンチャー企業等をサポートする体制をとる際の制約の除去が必要である。
・ベンチャー企業等の有する技術の評価
総合商社や企業内ベンチャー、分社型ベンチャーの役割が期待できる。
・これらの支援策を講ずるに当たっては、民間の活動を中心に据えつつ、施策を総合的に進めていくべきである。
提言5[長期的視点に立った人材の育成]
初等中等教育から高等教育までの学校教育段階、職業能力開発の双方において創造性に溢れリスクに果敢に挑戦していくような人材、企業経営等の面で専門性を有する人材、我が国がこれまでに培ってきた発展基盤を継承する人材等を長期的視点に立って育成することが重要である。
・【1】 創造的研究開発活動を担う人材、【2】 「ものづくり基盤技術」の面で熟練技術・技能を有する人材、【3】 ベンチャー企業等の経営を担う人材、【4】 ベンチャー企業等をサポートする人材等の育成に加えて、我が国経済全体として人材を最も有効に活用するためにこれらの人材の移動の円滑化を進めることが重要である。
・人材育成に関し、学校教育においては政府の役割が相対的に重要であり、職業能力開発においては、個人の自己責任・自己選択を原則としつつ、政府による情報提供や能力開発機会の提供等が重要である。
・人材移動の円滑化のため、その阻害要因の除去が重要である。
【事例1】「企業名匿名方式による非公開企業のM&A市場」
○ベンチャー企業や後継者難の状況にある中小企業の経営を担う人材を仲介する機能合併・買収する側にとって経営資源を迅速に調達するためのM&A仲介機能の例
1.概要
・大阪商工会議所は、後継者不足、経済環境の変化等にともなう既存事業の見直し等中堅・中小企業を取り巻く問題の有力な解決策として、銀行、証券会社、M&A専門会社等のM&A取扱業者の参加を得て、平成9年4月より「企業匿名方式による非公開企業のM&A市場」を創設した。
・同市場の運営管理、PR活動、利用者へのアドバイス、M&A取扱業者の紹介等は大阪商工会議所が行っている。
2.利用の流れ
・大阪商工会議所が、会社の売り手・買い手から窓口相談を受けた後、M&A取扱業者を紹介する。
・M&A取扱業者による審査後、匿名でM&A市場に公開し、マッチングする。
(M&A取扱業者が自らの手持ち案件をM&A市場に公開する場合もある。)
・相手側企業が見つかれば、M&A取扱業者を仲介に、条件調整、法律上の手続きを行う。
3.特色
・M&Aを依頼・相談できる、全国初の公的な窓口
・M&A市場に公開される段階では企業名は匿名で取り扱われ、秘密厳守であること
・全国初の1M&A取扱業者の枠を超えたM&A市場であること
4.現状(平成10年2月28日現在累積数)
・相談件数→190件
・「売り」申込数→32件
・「買い」申込数→52件
・買い手探しの段階にあるもの→14件
・成約→0件
(資料出所)
平成9年10月15日付日本工業新聞、平成9年10月30日大阪商工会議所が経団連会館で行った「M&Aセミナー」の配布資料、平成9年11月26日時点大阪商工会議所のホームページ(http://www.osaka-cci.or.jp)及び大阪商工会議所へのヒアリングから経済企画庁総合計画局が作成
【事例2】産業基盤整備基金の情報提供業務
○ベンチャー企業等を技術面等からサポートする人材を仲介する機能、ベンチャービジネス仲介機能の例
産業基盤整備基金が行っている新規事業法に基づく業務の一つにインターネットを利用した情報提供業務がある。その中に以下のような人材情報、資金情報、新事業の連携先等の情報の検索を目的にしたものがある。
1.人材情報提供
(1)「人材情報提供サービス」
・新事業進出・推進のために人材が必要な場合、インターネットを通じて同基金へ事業内容、募集内容、連絡先等を登録する。
・登録された情報を一般の個人が自由に検索する。
・検索結果から、応募希望の人が直接登録者と連絡をとる。
(2)「テクノロジーマップ」
同基金は、日本国内の国公立大学・私立大学の研究者、国公立研究機関の研究者、民間企業等の技術専門家等を対象に、専門内容、連絡先等をデータベース化している。技術アドバイザーを探している、技術の新規性を評価して欲しい等の企業等は、このデータベースにより人材を検索することができる。
2.「資金情報提供サービス」
・新事業進出・推進のために資金が必要な場合、インターネットを通じて同基金へ事業内容、資金使途、連絡先等を登録する。
・登録された情報をベンチャーキャピタル、金融機関等が検索する。
・検索結果からベンチャーキャピタル、金融機関等が直接登録者と連絡をとる。
3.新事業の連携先等の情報提供:「新規事業支援情報サービス」
・新事業進出・推進のために連携先等を求めている場合はパートナー募集情報を、新事業への進出や参画を希望している場合は関心事業分野情報を、新事業の企画・アイディアを提供してもよいという場合は事業シーズ情報をインターネットを通じて同基金へ事業内容、連絡先等とともに登録する。
・登録された情報を一般の企業等が検索する。
・検索結果から連携等を希望する企業等が直接登録者と連絡をとる。
(資料出所)
平成10年3月時点の産業基盤整備基金のホームページ(http://www.isif.go.jp)より経済企画庁総合計画局が作成
【事例3】技術開発型ベンチャー企業と他の企業を仲介する関西の企業
○他の企業との連携を望む技術開発型ベンチャー企業の技術を客観的に評価した上で提携を仲介する機能の例
1.特色
・技術開発型ベンチャー企業(VB)の技術力を独自の手法で客観的に評価してから、大企業に紹介する。
・大企業にとっては提携の判断が、VBにとっては事業拡大がそれぞれ容易になる利点がある。
2.仲介の方法
・ベンチャーキャピタルやベンチャー支援団体等を通じ、大企業との連携を望むVBを集める。
・部内の研究員や部外の研究者に依頼し、VBの技術力を客観的に評価する。評価に当たっては、技術の独自性、競争力、市場性の三つの基準を設けて実施する。
・評価の後、有望な技術を持つVBを選別して名簿と報告書を作成し、大企業に提供する。
・大企業は参加費を支払って情報提供を受ける。
・その他、大企業とVBが直接話し合う交流会も開催する。
(資料出所)
平成10年1月7日付日本経済新聞より経済企画庁総合計画局が作成
【事例5】「新産業創出システム(IIS;The Industry Innovation System)」
○ベンチャービジネス仲介機能の例
1.概要
・新産業創出システム(IIS)は、ベンチャー企業とベンチャー企業のアイデアを事業化する企業を仲介するものとして、(社)関西経済連合会の呼びかけにより創設され平成9年10月より事業を開始している。
・同システムの運営管理、PR活動、利用者へのアドバイス等は、平成9年9月に設立された非営利の任意団体「アイ・アイ・エス・ジャパン」(IIS Japan)により行われている。
2.利用の流れ
・「ニーズ公開企業」(新事業へのニーズがありベンチャー企業のアイデアを事業化する企業)が匿名で、ニーズ情報をインターネット上に公開する。
・「シーズ応募者」(ベンチャー企業)は公開中のニーズ情報から自らの独創的なアイデア・技術を活かせるものを検索し、該当するものに対しシーズ提案を応募する。
・シーズ提案は「アイ・アイ・エス・ジャパン」を通じて、「ニーズ公開企業」に匿名で開示する。
・「ニーズ公開企業」が、匿名で開示されたシーズ提案を評価し、事業化の価値があると判断したシーズ提案の「シーズ応募者」に、「アイ・アイ・エス・ジャパン」を通じて交渉の希望を伝える。
・「シーズ応募者」が交渉を希望した場合、両者間で企業名が公開され直接秘密保持・共同の新事業内容について交渉、契約を締結する。
(「シーズ応募者」が「ニーズ情報」を指定せずに匿名のシーズ提案を登録し、これを「ニーズ公開企業」が検索し、「アイ・アイ・エス・ジャパン」を通じて接触するという方法もある。)
3.特色
・インターネット上での新事業ニーズの公開とそれに対するシーズ提案の募集及びシーズ提案の応募
・秘密保持契約の締結等双方の権利保護を利用規則として義務づけていること
・円滑な事業化をサポートするため、各種手続きの解説、支援制度・組織の紹介等を行っていること
4.現状(平成9年12月15日時点)
・「新産業創出システム」のホームページで参照できるニーズ情報数は21件
(資料出所)
平成9年12月3日付日本工業新聞及び平成9年12月15日時点の新産業創出システムのホームページ(http://www.iis.or.jp)より経済企画庁総合計画局が作成
【事例6】インキュベータ事業を行う関西の企業
○ベンチャー企業の経営資源の不足を補うためのインキュベート機能の例
1.A社の概要
【1】 B社の100%出資により1987年に設立されたA社が運営する都市型のサイエンスパーク
【2】 A社は自社ビルのスペースを企業向けに賃貸する。
【3】 1997年12月現在、入居企業数117社
・入居企業の業種 マルチメディア 関連産業を含む情報系40%、化学10%、営業サービス10%、公的機関10%、コンサルティング10%、機械製造5%
2.A社の特徴
ゲーム会社などのマルチメディア関係企業が多いという地域特性を踏まえ、他にあまり例のないマルチメディア関連産業の集積
3.事例A社におけるインキュベータ事業
(1)(財)C研究所(A社施設群の中の公的機関)
・1990年に米国のインキュベータを参考に開始
・(財)C研究所が15室の賃貸スペースを提供
賃貸期間は3年間(入居延長も可)
ソフトウェア開発など情報系関連7割、従業員5~6人の小規模企業が多い
入居にあたっては審査委員会が、企業の事業内容、市場性などを審査
・A社内のレンタルラボや工業試験場等において高価な試験設備等を低料金で利用可
・(財)C研究所では、ベンチャー企業家とそれを事業化できる企業を仲介する組織である「知的連合推進機構(ICC)」(産学官共同の組織)を発足させ、インターネット上でニーズとシーズの情報を集め、ベンチャー企業と事業化側の仲介を行っている。
(ICCは単なる仲介のみならず、開発テーマ案の審査や開発プロジェクトチームの支援等も行っている。)
(2)A社内には中小企業を支援する各種機関があり、財C研究所以外にも工業試験場による技術支援、公的機関である中小企業総合センターによる融資斡旋等、敷地内でベンチャー活動がほとんど行える環境を整えている。
(資料出所)
平成9年12月国民金融公庫「調査月報」、平成9年7月郵政省郵政研究所「インターネットによる地域産業の活性化に関する調査研究報告書」より経済企画庁総合計画局が作成
【事例7】ESCO(Energy Service Company)
○企業活動や経営資源のコーディネート自体を当該企業外の専門機関が一部担う例
1.ESCO(Energy Service Company)の概要
第2次石油危機後米国で出現したビジネスで、ビルへの省エネ設備投資についてのカウンセリング・サービスを提供する。ESCOからカウンセリングを受けた顧客に対し、銀行が必要額の融資を行い、顧客において例えば10数年後までにその投資を回収する。そしてエネルギー制約により生み出された利益を3者が分収するというもの。
2.ESCOの特徴
【1】 統合的・包括的なエネルギーサービスの提供
省エネ計画の策定から設備の設置、操業後のメンテナンスに至る業務を包括的に請け負う。
【2】 パフォーマンス契約
成功報酬制なので、実現しない場合のリスクはESCOが負担する。
【3】 資金調達
省エネ対策後に想定されるエネルギー節減分を担保として、設備改修費、維持管理等の省エネのために必要な資金を調達する。資金調達については、【1】顧客が直接的債務者となる場合と【2】ESCOが直接的な債務者となる場合があるが、現在では【1】の方が一般的になっている。
3.欧米における事例
【1】米国
・現在40~50のESCOが存在し、投資額は1994年で4億5千万ドル。
・投資対象部門公共施設58%、商業施設32%、産業用9%
【2】英国
・20の業者が活動し、3~5億ドル程度の売り上げ。
・主要な投資対象産業部門
【3】スペイン
・IDEA(政府のエネルギー効率機関)と5つのESCOが存在
・1988~92年に1億6500万ドルのプロジェクトに関与。
(資料出所)
平成9年12月15日経済審議会経済社会展望部会地球環境ワーキンググループ資料より経済企画庁総合計画局が作成
【事例8】CM(Construction Management)
○企業活動や経営資源のコーディネート自体を当該企業外の専門機関が一部担う例
1.CM(Construction Management)の概要
民間あるいは公共の建設工事において、発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の利益を確保する立場から事業全体にわたって、品質確保、工程管理、費用管理を行う機能。今の日本と同じく一括請負式が主流だった米国で30年前に登場。CMを専門に行う個人・集団をコンストラクション・マネジャー(CMR)という。
2.CM(Construction Management)の特徴
【1】 手数料ビジネスであること
・工事全体を、鉄骨の組み上げやコンクリートの流し込み、内装、設備の取り付けなど、作業内容別に分割し、発注者が直接、それぞれ実際に工事を手掛ける専門工事会社や設備メーカーと契約。
・一般に工事費の3~8%程度の手数料でCMRが発注者の委託を受け、従来ゼネコンが担ってきた建設管理業務を代行。
【2】 建設コストの透明性確保
CMRが発注者の立場から工事価格の安い専門工事会社等を仲介、施工中のコストを細かくチェックすることにより建設コスト削減が徹底する。また、工事と直接関係のない間接部門経費の大きいゼネコンを介在させないことで、工事費を10~20%削減できるとの指摘もある。
【3】 工期の短縮
プロジェクトの基本設計、予備設計の段階からCMRが発注者及び設計者とチームを組み、そのリーダーとして事業を進めるため、設計完了部分から順次、入札・発注・施工に着手でき、工期が短縮する。
(資料出所)
建設省大臣官房技術調査室監修「公共工事の品質に関する委員会報告書」、建設省建設経済局建設業課監修「新公共入札・契約制度実務ハンドブック改訂版)」、日経ビジネス誌(1998年1月19日号)より経済企画庁総合計画局が作成
【事例9】欧州の商品テスト機関
○商品の安全性や性能について比較テストを行い、その比較情報を提供する商品テスト機能の例
1.イギリス
・多くのTesting Houseやコンサルタント会社が商品テストを実施
・安全規制・規格への適合性の確認や製品安全のための事前検査等を行うことを主たる業務とする機関が多く、これらは成長産業として成り立っている。
○BSI(British Standard Institution)
・政府機関ではなく、Royal Charterによって設立され、政府との覚書を結んでいる。
財源的には会員によって賄われている民間企業である。
・安全規制・規格への適合性の確認や製品安全のための事前検査等が主たる業務であるが、商品テストも実施している。
○Testing House(民営企業)
産業界、消費者のいずれからも依頼を受け、有料で商品テストを行っている。
・ASDA(プラグ関係)
・BEAB(British Electrical Approval Board)
○消費者団体(CA:Consumers Association)
・純粋の民間機関で、商業ベースで運営し、政府からの援助はない。
・会員からの依頼に応じて事前の商品テスト、事故後の原因究明テストを実施している。
・会員に対する商品テスト雑誌(Which)を発行し、商品テストの結果を公表。
2.フランス
○検査所
・政府による認可機関で補助金も支給されるが、民営企業。
・政府・製造業者等が主な利用者で消費者の利用はない。
○消費者団体
・通常は会員制で、会員には無料または低料金で商品テストを行う。
・UFC(Union Federale des Consommateurs)という消費者団体は、Que Choisir(「何を選ぶべきか」)を発行し、製品の比較テスト結果を公表。
(資料出所)
平成8年9月経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編「製品事故に係る原因究明機関の在り方に関する緊急調査報告書」より経済企画庁総合計画局が作成