グローバリゼーション・ワーキンググループ報告書

平成10年4月16日


グローバリゼーション・ワーキンググループ委員名簿

   大坪 滋(名古屋大学大学院国際開発研究科助教授)
   木村 福成(慶応義塾大学経済学部助教授)
   後藤 純一(神戸大学経済経営研究所教授)
座長 佐々波楊子(明海大学経済学部教授・展望部会委員)
   田村 次朗(慶応義塾大学法学部教授)
   八代 尚宏(上智大学国際関係研究所教授・展望部会委員)

(委員は50音順、敬称略)


目次

  1. 0.要旨
    1. (1)経済構造改革とグローバリゼーション
      1. 【1】財のグローバリゼーション
      2. 【2】人のグローバリゼーション
      3. 【3】企業のグローバリゼーション
    2. (2)財政・社会保障制度改革とグローバリゼーション
      1. 【1】地域経済とグローバリゼーション
      2. 【2】政府の規模、税制とグローバリゼーション
    3. (3)世界経済への対応
      1. 【1】制度調和の考え方
      2. 【2】地域統合の考え方
    4. (4)世界経済の展望
      1. 【1】2010年の世界経済展望
      2. 【2】2010年の世界貿易展望
      3. 【3】主要地域の課題と展望
  2. 1.はじめに
  3. 2.グローバリゼーションの国民経済への影響
    1. (1)財のグローバリゼーションと雇用者の将来
      1. 【1】アメリカとヨーロッパの経験
      2. 【2】輸入の増加と労働市場の調整 -日本の場合-
      3. 【3】貿易と雇用の実証分析
    2. (2)人と企業のグローバリゼーションと雇用者の将来
      1. 【1】国際労働移動の捉え方
      2. 【2】外国人労働力流入はプラスかマイナスか?
      3. 【3】国際労働移動への政策対応
      4. 【4】多国籍企業と雇用
    3. (3)雇用と産業保護の政策
      1. 【1】戦略的貿易論
      2. 【2】戦略的貿易政策は有効か?
    4. (4)グローバリゼーションと我が国の地域経済
      1. 【1】「一国」経済の概念から「都市・地域」経済の概念へ
      2. 【2】グローバリゼーションと我が国地域経済
  4. 3.グローバリゼーションと制度調和
    1. (1)貿易と競争-貿易・競争政策の調和は可能か
    2. (2)リージョナリズムとグローバリズム-地域経済統合の考え方-
      1. 【1】地域経済統合の進展と類型
      2. 【2】地域経済統合の今後
    3. (3)グローバリゼーションと国内制度-国内制度は自律的であり得るか-
      1. 【1】グローバリゼーションと政府支出
      2. 【2】グローバリゼーションと税制度
  5. 4.2010年の世界経済展望
    1. (1)世界経済展望-生産・貿易の定量的展望-
      1. 【1】世界GDPと産業・貿易の展望
      2. 【2】GATT/WTOとAPECの貿易自由化、NAFTA統合の効果
    2. (2)世界経済展望 -主要地域の論点-
      1. 【1】アメリカ経済について
      2. 【2】欧州経済について
      3. 【3】アジア経済について
  6. 5.グローバリゼーションへの対応と我が国の課題
    1. (1)グローバリゼーションの費用と便益
    2. (2)金融のグローバリゼーション
    3. (3)2010年の課題とグローバリゼーション

図表目次

  1. 図表1 論点整理図
  2. 図表2 輸入浸透度と雇用量・賃金率変化の関係
  3. 図表3 輸入浸透度の上昇に伴う雇用者数(製造業計)の変化(試算)
  4. 図表4 OECD加盟国における外国人、移民及び労働力の人口
  5. 図表5 外国人労働者比率と失業率
  6. 図表6 外国人労働者比率と賃金率
  7. 図表7 外国人労働者比率と社会・福祉サービス支出の名目GDP比率
  8. 図表8 主要国の多国籍企業数と外資系企業数
  9. 図表9 規模の経済性の効果(仮定計算例)
  10. 図表10 戦略的貿易政策による影響(仮定計算例)
  11. 図表11 外資系企業の地域別分布
  12. 図表12 成立年代別の現存している地域経済統合数
  13. 図表13 地域経済統合の分類
  14. 図表14 主要な地域経済統合の形態別の分類
  15. 図表15 グローバル化指数の推移(実質ベース)
  16. 図表16 政府支出とグローバリゼーション
  17. 図表17 個人税依存度とグローバリゼーション
  18. 図表18 1990~2010年の世界経済の成長率展望(試算)
  19. 図表19 各国・地域のGDPシェアの推移と展望(試算)
  20. 図表20 主要国の一人当たり実質GDP成長率(試算)
  21. 図表21 GATT/WTO、APEC、NAFTAによる関税及び関税等価の変化
  22. 図表22 1992~2010年の世界貿易の成長(試算)
  23. 図表23 主要国における比較優位の変化(試算)
  24. 図表24 主要先進国の失業率・賃金格差の推移
  25. 図表25 欧州、日本及びアメリカにおける失業率と実質GDP変化率
  26. 図表26 アジア通貨の推移(対USドル)
  27. 図表27 グローバリゼーションの効果
  28. 補論目次
    1. 補論 1: 2010年世界経済展望の手法について
    2. 補論 2: 生産・貿易構造変化の展望手法について
    3. 補論 3: 比較優位の変化について
  29. 補論図表目次
    1. 補論図表 1 一人当たり国内総生産の国際的収束(キャッチアップ効果)
    2. 補論図表 2 中等教育就学率の高さと一人当たり経済成長率 (人的資本蓄積効果)
    3. 補論図表 3 平均投資率と一人当たり経済成長率(物的資本蓄積効果)
    4. 補論図表 4 人口推計の想定
    5. 補論図表 5 応用一般均衡分析の枠組み概念図
    6. 補論図表 6 分析用に集計した地域と産業・商品分類
    7. 補論図表 7 我が国製造業の商品別輸出及び世界の機械品輸出(試算)
    8. 補論図表 8 我が国の産業別要素集約度

0.要旨

1990年代に入り、情報通信コストの低下と各国間の制度上の差異が縮小することによって「グローバリゼーション」と呼ばれる流れが加速している。ここでのグローバリゼーションは、経済的な側面から「様々な経済主体の効率性の追求が全地球規模で行われるようになること」と定義される。

このような「グローバリゼーション」の進展は、財・サービス貿易や資本移動の拡大、企業の多国籍化に象徴される。すなわち、消費者は、より多くの商品情報と多種類の財を購入する機会を得るようになっており、資本は、収益機会を求めて自由化された資本市場間を移動し、企業は経済合理性に適う立地を目指して行動している。他方、人の国際移動は一部の国際的、専門的な仕事に携わる人々を除き、各国の労働移動制限等や言語、文化、慣習の違いにより小さいが、グローバリゼーションにともなう比較優位構造の変化は各国の産業・雇用構造と同時に発生するため、産業間の労働移動に伴う摩擦的失業が高まる可能性がある。つまり、多くの人々にとって生活の場所はあまり変わらないものの、消費生活、雇用・事業環境はグローバリゼーションの進展によって大きく変わってきている。

さらに、東アジアNIEs諸国が先進国並みに成長してきたこともグローバリゼーションが進展する下での世界経済が新たな局面に入ったことを示している。また、市場経済圏と計画経済圏に分かれていた世界経済が一つになりつつあること、すなわち、ロシア・東欧といった市場経済移行国や中国が市場経済の参加者として加わったことは、国際政治経済関係に大きな影響を与えている。

以上のような認識のもと、グローバリゼーション・ワーキンググループでは、「透明で公正な市場システム」の構築という基本的な視点から、貿易や労働・資本移動が国民経済に及ぼす影響、一国の経済・法制度や諸慣行の調和が持つ影響につき検討した(図表1)。また、2010年の具体的な世界経済を描き、各国・地域経済のイメージを補足する定性的な論点につき議論を行った。

ワーキンググループの結論は以下の4点である。なお、(1)と(2)の論点は、図表27に整理している。

(1)経済構造改革とグローバリゼーション

グローバリゼーションの流れに積極的に対応し、これを経済・社会変革の大きな契機として捉えることが重要である。少子・高齢化にともなう労働力不足時代を乗り越える効率的な産業構造を実現するためには、「財と企業のグローバリゼーション」が大きな役割を果たす。その中でも「企業のグローバリゼーション」は、非貿易財産業の競争促進に寄与する。

【1】財のグローバリゼーション

中長期的な視点からは、輸入の拡大は、国内の技術革新などの要因に比べれば、国内製造業の生産・雇用への影響力は小さい。比較優位に沿った貿易を促進することは、比較劣位産業に従事していた労働力を解放し、今後必要とされる比較優位産業やサービス業への転換を進める推進力となる。例えば対外開放度の高まりによる1%ポイントの輸入浸透度上昇は、約10万人の労働力を生み出すことと同様の効果を持つ(試算図表3)。

【2】人のグローバリゼーション

人は単に経済的な存在ではなく、宗教、文化といった多面的な側面を有する存在であるため、多くの国で人のグローバリゼーションの進展度が低い。また、各国とも専門的もしくは高技能労働者以外の労働流入につき就業制限を行っているため、外国人労働者比率と賃金率や失業率の間に有意の関係は見られないが、社会福祉・サービス支出などを拡大する影響を持っている(図表4、図表5、図表6、図表7)。

【3】企業のグローバリゼーション

我が国企業の国際的展開は、国内雇用者の質的向上とそれに伴う賃金上昇を背景とした比較優位の変化に基づくものであり、評価すべきである。また、我が国への外国企業の参入、特にサービス業を中心とした部門への参入は、単に雇用機会を増やすことのみならず、雇用慣行の新たな進展を促す契機となりうる。多国籍企業が我が国サービス業に参入し活動できるような環境は、「透明な市場、公正なルール」が実現していると呼ぶことができる。

(2)財政・社会保障制度改革とグローバリゼーション

グローバリゼーションのメリットを享受し我が国経済を発展させてゆくためには、高い調整能力を備えた労働市場と効率性を重視したスマートな政府を実現することが必要であり、そのためにも財政・社会保障制度改革を成功させ、一人当たり負担の上昇を抑えなければならない。

【1】地域経済とグローバリゼーション

国境を超えた自由な経済活動は、地域経済を活性化する一つの鍵になりうるが、活性化する地域としない地域の間で所得格差を拡大する可能性を伴う。この場合、国内の地域間所得格差の是正にはより大きな所得移転が必要となる。それ故、社会保障など国民経済全体に必要な公共サービスの提供をより効率的に実現するような改善を進めることで、個人の不公平感を高める負担増を生まずに地域間所得格差是正を行うことが、一層必要となる(図表11)。

【2】政府の規模、税制とグローバリゼーション

グローバリゼーションによって国際的に移動可能性の高い法人所得や資本取引に対する課税が困難になり、個人税依存度は高まる。しかし、一人当たり税負担の上昇には限度があるため「大きな政府」を維持することは困難となり、「小さな政府」への圧力となっている。このためには、効率性を重視した財政・社会保障改革が不可欠となる。つまり、グローバリゼーションの進展は社会保障制度改革や行政のスリム化等によって効率的な政府を実現する原動力になる(図表16、図表17)。


(3)世界経済への対応

グローバリゼーションの進展は、世界経済、日本経済にとって利益をもたらすものであるが、保護貿易主義が台頭すればその基盤は失われる脆弱な側面を持つため、世界的に自由な経済活動が可能になるようなシステムの維持・確立が必要である。

【1】制度調和の考え方

基準・認証等の国際標準化は、規模の経済性を生み出すことで生産・貿易拡大にプラスである。このような制度調和は多数国間協議を中心として引き続き進めるべきであるが、競争政策の実施方法といった仕組みに関わる点は、調和することよりも当該制度が十分機能して結果を出しているか否かがより重要である。

【2】地域統合の考え方

近年増加している地域経済統合は、WTOの最恵国待遇原則と相反するような側面がある場合を含んでいる。しかし、国境障壁の軽減・撤廃だけでなく、規制改革やマクロ政策協調を含む域内自由化の枠組み作りが、域外無差別の条件を備えている限り、WTOの自由化と補完的な役割を果たす。我が国は、周辺諸国の「閉ざされた地域主義」への動きには警鐘をならし、APECのような「開かれた地域主義」に積極的に参加することが望まれる。また、我が国が協調的なマクロ経済政策運営の下でのグローバリゼーションの流れを積極的に加速させ、「開かれた地域主義」参加国の国内経済改革を支援し、成長を促すことは、周辺諸地域が保護主義に傾くことを防止することにもなる(図表12、図表13、図表14)。

(4)世界経済の展望

世界経済は、2010年までの間、約3.0%(年率)での拡大が見込まれる。OECD諸国は約2.5%、APEC地域は約3.1%の成長が期待できる。また、通貨・金融危機によって景気後退が著しいアジア地域については、アジアNIEs諸国が4.8%、ASEAN諸国が6.4%程度の成長を実現すると見込まれる。

貿易は3.5%程度(年率)の拡大が見込まれるが、貿易自由化措置によって0.8%ポイント程度の上乗せが期待される。さらに、直接投資拡大に伴う効果を勘案するとこれ以上の伸び率になるものと思われる。

これらを実現する過程における主要地域の課題としては、アメリカは拡大する国内所得格差への対応、欧州は通貨統合のデメリットを低下させるために各国内の構造改革を進めること、アジアは、マクロ安定化と金融部門の制度改革による通貨・金融危機からの早期脱却が重要である。

【1】2010年の世界経済展望

1990年から2010年までの世界経済は年率3.0%程度で成長することが期待される。OECD加盟国平均は、2.5%、APEC加盟国は3.1%の年平均成長が見込まれる。アジアNIEs諸国(韓国、香港特別行政区、シンガポール、台湾)は4.8%、ASEAN諸国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)は6.4%程度の成長が期待できる(図表18、図表19、図表20)。

【2】2010年の世界貿易展望

2010年までの世界貿易は、経済成長に伴い年平均で約3.5%の拡大が見込まれる。さらに、予定されている貿易自由化措置によって約4.3%まで高まるが、拡大する直接投資に付随した貿易拡大を勘案すると、より高い伸び率を示すと考えられる。

貿易構造としては、2010年のアメリカ経済では、食品加工と化学製品の比較優位が拡大する。我が国では機械製品の比較優位がさらに高まる。途上国に目を向けると、中国の金属業製品、タイでの繊維・アパレル製品が比較優位を高めていることが展望される(図表22、図表23)。

【3】主要地域の課題と展望

アメリカの所得格差が拡がる原因は、他の先進国に比べてフラットな所得税制、コンピュータ化に伴う労働の単純化などが指摘されている。所得階級の下位層の所得が下落する形で拡がる格差は社会厚生を押し下げるので望ましくないが、賃金格差をもって問題であるともいえない。欧州諸国のように賃金の市場調整機能に歪みを与えれば、失業率の上昇という代償を払う必要がある。「アメリカ型」か「欧州型」のどちらがよいかを判断することは難しい。過剰な失業給付などによって働くという動機が制度的に阻害され、高負担を通じて社会の活力が失われるという問題と合せて考える必要がある(図表24)。

欧州最大の課題は通貨統合である。これが成功するためには、弾力的な賃金または移動性の高い労働者による労働市場の存在か、構成国間所得移転制度を有することが必要である。しかし、所得移転制度を欠く現状では、各国の硬直的な労働市場と社会保障制度改革抜きには成功が難しいものとなっている。理念としての経済・通貨統合を梃子として国内改革を実現できるか否かが2010年の欧州経済の鍵である(図表25)。

アジア通貨・金融危機は、「米ドルペッグ制度」によって過大評価されていた各国通貨が実体経済に向かい急激に調整されたものである。このことは通貨安定には正しいマクロ経済運営が必要であることを意味する。また、金融部門が危機の発端となっていることは、途上国の未成熟な金融部門と国際金融市場の関係について慎重な自由化プログラムが必要であることを示唆している。今後は物価上昇を抑制する国内政策と対外債務繰り延べの早期実施を行い、良質な輸出関連企業への資金提供と金融部門のモラル・ハザード防止といった対応が求められる(図表26)。

1.はじめに

1990年代に入り、情報通信コストの低下と各国間の制度上の差異が縮小することによって「グローバリゼーション」と呼ばれる流れが加速している。ここでのグローバリゼーションは、経済的な側面から「様々な経済主体の効率性の追求が全地球規模で行われるようになること」と定義される。

このような「グローバリゼーション」の進展は、財・サービス貿易や資本移動の拡大、企業の多国籍化に象徴される。すなわち、消費者は、より多くの商品情報と多種類の財を購入する機会を得るようになっており、資本は、収益機会を求めて自由化された資本市場間を移動し、企業は経済合理性に適う立地を目指して行動している。他方、人の国際移動は一部の国際的、専門的な仕事に携わる人々を除き、各国の労働移動制限等や言語、文化、慣習の違いにより小さいが、グローバリゼーションにともなう比較優位構造の変化は各国の産業・雇用構造の変化と同時に発生するため、産業間の労働移動に伴う摩擦的失業を高めることになる。つまり、多くの人々にとって生活の場所はあまり変わらないものの、消費生活、雇用・事業環境はグローバリゼーションの進展によって大きく変わってきている。

さらに、東アジアNIEs諸国が先進国並みに成長してきたこともグローバリゼーションが進展する世界経済が新たな局面に入ったことを示している。また、市場経済圏と計画経済圏に分かれていた世界経済が一つになりつつあること、すなわち、ロシア・東欧といった市場経済移行国や中国が市場経済の参加者として加わったことは、国際政治経済関係に大きな影響を与えている。

以上のような認識のもと、グローバリゼーション・ワーキンググループでは、「透明で公正な市場システム」の構築という基本的な視点から、貿易や労働・資本移動が国民経済に及ぼす影響、一国の経済・法制度や諸慣行の調和が持つ影響につき検討した。また、2010年の具体的な世界経済を描き、各国・地域経済のイメージを補足する定性的な論点につき議論を行った。

以下では、「グローバリゼーションの国民経済への影響」、「グローバリゼーション下の制度調和」、「2010年の世界経済と課題」、そして「我が国の課題」の四点につき順次述べていく。なお、全ての論点を整理したものを図表1として最後にまとめてある。

2.グローバリゼーションの国民経済への影響

本章では、グローバリゼーションの進展が国民経済へ及ぼす影響につき四つの視点から検討を行った。第一には貿易と雇用という側面について、第二では国際労働移動及び多国籍企業と雇用という側面に注目した。

次に視点を変えて、グローバリゼーションが進展する下での経済政策に対する含意として第三、第四の論点を検討した。第三は、1980年代から戦略的貿易政策と呼ばれる議論についての検討である。例えば、技術的先端産業への優遇策が一国経済の明暗を分けるのか、国内産業の積極的保護は効果的か、それはマクロ経済的観点からも評価できるのか、といった点である。

第四の論点は地域経済とグローバリゼーションの関係である。グローバリゼーションの進展は国境措置の低下を伴っており、要素移動のコストを引き下げている。このような「自由化」は、経済に内在している「集積」現象を引き出す契機となる。例えば、人為的な国境線によって分断されたヨーロッパの国境周辺地域のような場合、国境を越えて自然な交易を実現することが資源効率を高めることは容易に想像できる。グローバリゼーションの流れは、今までは一国経済の視点で捉えた企業立地などの経済原則をグローバルな視点で捉え直すことを促す。このようなグローバリゼーションの側面が、我が国の地域経済に対してどのような意味をもたらすものであるのか、という点つき検討した。

(1)財のグローバリゼーションと雇用者の将来

財のグローバリゼーションの進展は国民経済、特に雇用への影響を持っているといわれている。我が国より先にグローバリゼーションが進展した欧米の経験を振り返ることは、今後の我が国経済において起こり得る様々な問題に対して適切な処方箋を描く上で重要である。

【1】アメリカとヨーロッパの経験

1980年代以降、アメリカやヨーロッパでは開発途上国からの工業製品輸入が拡大した。これと時を同じくして、アメリカでは労働者間の賃金率格差の拡大、ヨーロッパ域内では失業率の高止まりが顕在化した。この原因は、賃金率の低い開発途上国との貿易拡大が国内生産を代替することを通じて雇用・労働問題を生じさせているのではないかと論争を喚起したという経緯がある。

輸入拡大に伴う製造業を中心とした雇用調整が国内雇用及び賃金に悪影響を与えるという見方は、製造業従業者を背景とする政治力を中心に保護主義的な貿易政策への要求を促してきた。欧米における製造業を中心とした雇用調整がどの程度貿易によって促されたのかに関する過去の研究成果を振り返ると、次のようなメッセージを得ることができる。

第一に、輸入拡大が雇用及び賃金に及ぼす影響は、国内で発生した技術変化によるものに比較して小さい。

第二に、技術変化や経済構造変化は貿易によって間接的に促されたものであるところも大きいので影響は小さくない。

第三に、雇用の安定性について、輸入財との競合程度が高まっており労働需要が不安定化している。

第四に、マクロ経済全体、もしくは相互依存関係の中で考えると、雇用の減少や賃金率格差の拡大は、サービス化の進展等の影響によるものであり、貿易によってもたらされた望ましくないものと判断するのは正しくない。

以上のように、貿易と国内経済に生じる変化の間にある因果律につき、相反する見方が混在している。いずれに起因するにせよ、雇用調整は中長期的な資源の有効利用というマクロ経済的観点から望ましいものである。豊かになることは家計が購入する財の組み合せと産業の比較優位構造を変化させ、労働力の産業間再配分を促す。アメリカやヨーロッパで起こったことは、優位性の高い製造業や輸入により代替できないサービス財産業への労働移動と比較劣位化した製品輸入の増加であり、国民の厚生、効用を高めるための調整である。

【2】輸入の増加と労働市場の調整 -日本の場合-

我が国における貿易と雇用・賃金の関係については、開発途上国(特に東アジア及び東南アジア各国)からの製品輸入が拡大した1990年代に、産業空洞化の議論と並んで問題意識が高まったという経緯がある。

このような関心は複数の研究を生むこととなったが、共通のメッセージは、第一に、輸入拡大が製造業の雇用量に及ぼす負の影響は産業毎に異なるものの限られており、その大きさは国内事情に起因する労働生産性の変化などによるものに比べれば小さい。第二に、輸入拡大が製造業の賃金率に及ぼす影響は負の関係が認められるものの大きくない。すなわち、輸入拡大は雇用調整と同時に発生しているものの、国内の景気循環や家計の需要変化といった複数ある要因の中では相対的に小さな影響力しかない。さらに言うならば、欧米と同様に、国際分業関係の中で、比較劣位化した産業の労働者が比較優位にある産業や国内サービス業に移動するというダイナミズムが輸入を増加させているのである。

【3】貿易と雇用の実証分析

そこで、既存の研究例に従って輸入拡大が雇用量、賃金率、そして労働移動率に与える影響につき再検討してみたところ、次のような諸事実が明らかになった。(なお、輸入浸透度を実質輸入額の実質国内総供給に対する割合と定義し、雇用量を労働者数と労働時間の積によって定義した。また、労働移動率は離職者数と入職者数の和を常用雇用者数で割ったものである。)主な結果は次のとおりである。

第一に、輸入浸透度の上昇は電気機械製造業や限られた時期の一部の産業で雇用量を減少させているが、雇用量の変化のほとんどは輸入浸透度の変化に関係しない要因によるものである。第二に、輸入浸透度の上昇は限られた時期の一部の産業において賃金上昇率を低下させているが、賃金率の変化のほとんどは輸入浸透度の変化に関係しない要因によるものである。第三に、雇用量変化と賃金率変化のそれぞれに対する輸入浸透度変化の影響をみると、雇用量の変化は賃金の変化に比べて産業毎に異なる傾向が見られる。また、電気機械製造業では雇用量が減少する中で賃金率が高まる動きが見られる。

つまり、雇用量の変化も賃金率の変化も景気循環や需要変化といった国内要因によって発生しており、輸入からの影響は二次的なものにすぎない。また、輸入財と国産財が同じ品質を持っているわけではなく、概ね国内製造業の方が上位の財を造っていることが知られている。例えば、電気機械製造業の場合、図表2のとおり輸入拡大によって雇用量は負の影響を受けるものの賃金率は上昇する傾向を見せている。これは、水平貿易の進展による製品の多様化や高品質、少量生産という流れと整合的なものとなっている。

また、貿易による生産構造変化とそれに派生する雇用構造変化は労働移動の必要性を高め、摩擦的失業を増加させる可能性がある。しかし、製品輸入の拡大が製造業の雇用に与える影響は、図表3のように賃金への影響を考慮しない場合で1%ポイントの輸入浸透度上昇に対して10万人程度の変化である。我が国経済の成熟化、サービス化の進展等を勘案すれば、貿易、特に途上国や市場経済移行国との貿易拡大に起因する国内雇用への悪影響はマクロ経済的には大きなものではなく、貿易拡大の利益が費用を上回るものと思われる。

国産製品が輸入製品によって代替されるということは、何らかの不当な販売ではない限り、各国がそれぞれの国内で相対的に得意な財生産を行うことによって経済厚生を最大化する「比較優位」という経済が本来持っているダイナミズムに沿った望ましい動きである。国内の他産業に比べて相対的に不利化した財を造る生産者は、雇用を削減し生産を縮小するか、輸入製品と価格競争できる水準まで賃金水準を落とすか、生産性の上昇を実現するかの選択肢しかない。生産者もしくは雇用者という立場からは厳しいが、消費者という立場からは財価格の低下、すなわち効率性改善のメリットを享受する機会である。

同時に、経済発展と共に家計の必要とする財の組み合わせは変化する。所得水準が低い場合には飲食費という必需品への支出割合が高く、所得水準の高まりとともに、次第にサービス財への支出が増えるということはよく知られたエンゲル法則である。このことは、我が国の家計が貿易可能な財に比べて貿易不可能なサービス財へ需要をシフトさせてきていることとも整合的である。需要サイドの変化に符合する形で供給サイドが変化することは自然の成り行きであり、「経済のサービス化」と「産業空洞化」を混同してはならない。

(2)人と企業のグローバリゼーションと雇用者の将来

次に人と企業のグローバリゼーションが及ぼす影響について検討する。前節では財貿易の影響につき検討したが、グローバリゼーションの進展には、労働、資本、技術といった生産要素の国際移動という側面もある。これら生産要素の移動が国内雇用に及ぼす影響につき検討した。以下では国際労働移動について検討を行った後、多国籍企業に関する検討を行う。

【1】国際労働移動の捉え方

労働の国際移動が発生する最大の理由は賃金率格差である。貿易障壁等の歪みがない場合において、賃金率の格差を解消することにより世界全体の厚生を高めることができる。労働移動を考える場合、これは総労働供給の変化として捉えることができる。労働力流入は、短期的に数量効果により実質賃金率を引き下げる効果をもつが、長期的には需要拡大による所得効果で実質賃金率を上昇させる。また貿易面では、増加した労働を集約的に用いる産業が比較優位を持つことが予想される。

さらに、国際労働移動と財貿易は代替的(すなわち、輸入することは外国の労働力を受け入れて生産することと同じ)であるが、これは貿易可能な財に限ったことであり、生産と消費が同時に発生するような非貿易財たるサービスについては貿易によって代替できない。そこで、国際労働移動の評価には、同一国内の産業間移動と国際的同一産業内移動の何れが容易であるのかという点が重要である。

また、労働者は生産要素の供給者というだけではなく、同時に消費者である。国際労働移動によって労働者が流入することは、国内の消費において需要の多様化といった効果を持っている。逆に、日本人の海外流出についても同様のことが考えられる。なお、国内で供給される財・サービスが規制等のため価格競争力を失うことにより海外に流出する観光需要などは、望ましくない空洞化であると考えられる。

以上の議論における労働者は労働力の提供者という経済的な存在であるが、彼らは同時に社会的な存在である。宗教、習慣、生活態度の違い等という社会的な側面を有している「人のグローバリゼーション」の影響については、多面的な評価が必要であると考えられる。

【2】外国人労働力流入はプラスかマイナスか?

実際にどの程度の外国人労働者が異国で働いているのかという点は、アメリカやカナダという国の成り立ちが移民国であった例を除き、ある程度の人口規模の国になると外国人のシェアは低い。図表4では、日本がポルトガルやスペインと同程度の外国人シェアを示している。

我が国の場合、永住者と長期滞在者を除く正規の就労資格を持つ外国人労働者の数は、90年代の前半中概ね9万人前後で推移しているが、我が国の労働力人口が約6,500万人、雇用者ベースで5,200万人という規模から考えると極めて小さい。なお、不法滞在者は法務省推計で30万人弱にのぼる。

主要先進国のデータから外国人労働者比率と失業率、賃金変化の関係を分析した図表5と図表6によると、外国人労働者比率の水準と失業率水準に有意の相関がみられず、また、賃金率変化に対しても同様である。これは、各国政府が秩序ある流入を促していることが大きな要因であると考えられる。

ただし、外国人労働者比率の高まりはGDPに占める政府規模の大きさを上昇させる。図表7からは、外国人労働者比率の1%ポイント上昇は4年後の社会福祉・サービス支出の名目GDP比率を約1%ポイント引き上げる効果を持っていると示唆される。このことは、宗教、生活習慣等が異なる人々が共生するためには、社会的に必要な調整コストが多くなることを示唆している。

【3】国際労働移動への政策対応

国際労働移動に対する各国の政策は、失業率水準や賃金率変化から判断する国内労働市場との兼ね合いを就労の許可基準としており、外国人流入によって国内雇用者が代替されることを懸念していることが分かる。また、社会保障は属地主義により加入を義務付けているが、不法就労者についてはこの限りではない。

我が国の雇用政策における外国人労働者問題の考え方は、経済活性化や国際化という観点から専門的、技術的分野の労働者については受け入れるものの、いわゆる単純労働者の受入れには慎重である。単純労働者を受け入れることは、現在の産業構造を維持することにつながるため、積極的な産業構造の転換と市場機能の活用を目指しより一層の高付加価値化した経済へ改革するとの観点からは望ましくないものと考えられる。

従って、我が国の今後の姿勢としては、社会的コストの増加を伴うような「人のグローバリゼーション」ではなく、これと同等の効果をもつ「財のグローバリゼーション」と「企業のグローバリゼーション」を優先させるほうが望ましい。

【4】多国籍企業と雇用

グローバリゼーションの進展は企業行動の変化に最も現れている。それは企業立地の多様化である。このような立地の多様化は、企業の工程分業をより最適な投入要素の組み合わせで実現できる場所を目指しているものと考えられる。一般的に、企業の多国籍化は直接投資を伴っているが、これは単なる資本移動ではなく生産に係る技術、経営資源、市場調査能力といったものの移動として捉えることがふさわしい。

企業の多国籍化は図表8のように先進国企業を中心に進展している。企業の進出動機は様々であるが、進出先の雇用拡大に寄与することから受入れ国が積極的な誘致をおこなうところも多い。逆に、我が国企業の多国籍化、すなわち海外進出に伴う国内雇用への影響は、「産業空洞化」と呼ばれるマイナスのイメージが大きい。確かに、産業連関表を用いた分析からは4年間で国内雇用へのプラスの効果が消失し、その後は雇用が減少することが示唆されているが、逆に当初は不採算事業部門の海外移転等により雇用減少につながるが2年後には内外に展開した企業グループ全体の効率改善から事業拡張効果が生れ、プラスに転じるとの分析結果もあるため、一概に判断できない。

海外の企業が我が国に進出することに伴う国内雇用への影響は、生産拡大につながることから雇用拡大には当然寄与する。また、我が国経済の構造変化を促す促進剤としての役割が期待できる。すなわち、少子・高齢化に伴う人口構成の変化や、情報化の進展に伴う企業組織のフラット化といった動きに対応する「転職が容易な流動性の高い外部労働市場」、「年齢に中立的な賃金体系」という一部の産業・職種において不可欠な制度定着への効果が期待できる。

まとめると、在留資格を持った正規の労働者流入が国内雇用及び賃金に及ぼす影響は大きくないという結果が得られるが、これは、各国政府が国内の雇用情勢を勘案しつつ、就労許可を与えているという流入制限によるものとも解される。外国人労働者比率の高まりが、社会・福祉サービス支出などを引き上げるという実証分析は、漸進的に「人のグローバリゼーション」を進めることによって雇用や賃金という面での悪影響を少なくできるが、いずれにせよ一般的な社会的コストが高まるという影響をもたらすことを示唆している。また、外国人労働者比率が高まることが我が国の雇用に悪影響を及ぼすか否かは、社会的摩擦等を考慮した制度化された流入量をどうするかという点だけでなく、不法就労者の累積を避けることができるか否かにもかかっている。

我が国企業の対外直接投資が雇用に及ぼす影響は、企業の経営資源上の優位性や雇用者の質的向上とそれに伴う賃金上昇を背景とした比較優位構造の変化に基づく雇用調整であり、積極的に評価すべきである。また、我が国への外国企業の参入、特にサービス業を中心とした非貿易財部門への多国籍企業の参入が、我が国の雇用慣行や労働市場に与える効果は、単に雇用機会を増やすことのみならず、雇用慣行の新たな進展を促す契機となることから積極的に評価すべきである。

(3)雇用と産業保護の政策

ここでは前2節とは視点を変えて、グローバリゼーションが進展する中で政策的に意図した産業育成及び保護が可能かどうかという点につき検討した。特に市場機構に規模の経済性が有る場合には、過去の幼稚産業保護論と同様に、政府による生産コスト負担や市場確保が産業育成に有益であると議論されることが多かった。そこからは、積極的かつ戦略的な市場介入(貿易政策、産業政策)によって雇用の増大を図り、国力の増強に努めるべきであるとの政策が導出されている。

【1】戦略的貿易論

戦略的貿易論が生まれてきた背景には、積極的な貿易政策によって産業育成と雇用創出を実現し、国力の増強を図りたいとする重商主義的な価値観があることは言うまでもない。特に、先端分野と呼ばれる業種や大量生産による利益が見込まれる業種に関連する市場を海外の競争相手から保護することで需要を確保し、もって積極的に育成することで国内雇用問題に対処するとの趣旨から実際の適用が主張された。

より具体的には、貿易政策によって国内企業に対して競争的な外国企業を国内市場から排除することにより同国内企業が規模の経済を享受したり、所定の外国市場を割譲させることで同様の効果を期待するものである。また、産業政策の場合は、生産補助金、技術開発支援金によって企業のコストを社会的に負担することで財の生産を促し、国内企業全体に対してプラスの外部効果を期待することを意図するものである。

【2】戦略的貿易政策は有効か?

しかし、戦略的貿易論は、前提として考えている諸条件(後発企業が不利になる、当該産業が国民経済に及ぼす影響が大きい、規模の経済が大きいなど)が必ずしも現実的ではなく、反競争的な影響から生産性上昇にマイナスであることも指摘されている。例えば、戦略的貿易政策が前提としている市場状態、すなわち産業レベルでの規模の経済性が存在することは、それが存在しない場合に比較して基本的に世界の生産量を増加させることは確かであるが、全ての地域で生産量の増加や所得の増加が起こる保証はない。図表9の仮定計算でも、規模の経済性の存在は、一国全体の生産や家計所得を増加させる場合もあれば減少させる場合もある。

政策当局が他国の規模の経済性を阻止し自国のそれを活かそうと考える戦略的貿易政策の効果を描いた図表10の数値例からは、第一に貿易政策のマクロ経済に及ぼす影響は大きくないこと、第二に特定産業の振興は他産業の犠牲の上に成り立っていること、第三に報復措置を想定すると戦略的貿易政策は採用しがたいものであること、を指摘することができる。

(4)グローバリゼーションと我が国の地域経済

グローバリゼーションの進展は国境措置の低下を伴っており、要素移動のコストを引き下げている。「自由化」は、経済に内在する「集積」現象が国境を越えて引き出す契機となる。例えば人為的な国境線によって分断されたヨーロッパの国境周辺地域のような場合、国境を越え自然な交易を実現することが資源効率を高めることは容易に想像できる。

グローバリゼーションの流れは、国境障壁を低くし相互に制度等の調和を図ることを伴っているため、一国経済の視点で捉えた企業立地などの経済原則をグローバルな視点で捉え直すものと解釈できる。本節では、このようなグローバリゼーションの側面が、我が国の地域経済に対してどのような意味をもたらすものであるのか、という点に注目した。

【1】「一国」経済の概念から「都市・地域」経済の概念へ

現実の世界では、特定の地域に特定の産業が集積していることを観察することができる。例えば、製鉄業が鉄鉱石や石炭の産地周辺、またはこれらの輸送に便利な臨海地区に集積することや、人口集中地区にサービス業が集積することなどである。これには自然の恵みによるものだけでなく、大学の傍に研究者が集まり、技術関連の企業が集まってくるシリコンバレーのようなケースもある。このように産業・企業の立地が特定地域に偏る理由、言いかえれば、「集積」を生み出す力は何であろうか。

多くの事例を検討した結果、この「集積」が発生し拡大していくメカニズムには、【1】企業なり産業の相互連関による外部経済がそこに立地する企業、産業の費用を逓減させるという形の規模の経済を生み出すことと関係していること、【2】適当な水準の輸送費が存在することにより、立地の場所によって費用に違いが生まれること、が不可欠の要素であることを指摘することができる。すなわち、単独で立地・操業するよりは、関連企業と空間的に近いところにいることで規模の経済性を実現できることと離れると輸送費がかかることがポイントになる。

人口過疎の地域は需要が小さいので産業立地が集積することはなく、産業立地の無いところに人の集中は起きにくい。また、人口が少ないところに消費を中心とした産業立地は進みにくいという循環が生じている。我が国の例では「東京一極集中」と「過疎化」が、規模の経済性という経済現象の一形態であり、多少の違いがあるものの世界各地で生じている。

グローバリゼーションの進展は生産要素の移動が拡大することを意味している。このことは、要素移動を伴った「集積現象」が一国内のみならず、国境を越えて生じる可能性があることを示唆している。貿易にかかる輸送コストと生産要素が移動して立地するコストのバランスによって、どの程度の貿易が行われどの程度の要素移動が生じるかが決まるため、国民経済全体ではなく特定の都市・地域という単位が重要な概念となる。

【2】グローバリゼーションと我が国地域経済

「都市・地域という単位が重要」との認識からは、「環日本海経済圏構想」や「黄海経済圏構想」等国境を越えた経済の結びつきの深化を意図した構想が注目される。企業や労働者がこれらの地域に移動しているか否かが重要となるため、図表11により外資系企業(資本)の地域別分布をみると、製造業では南東北や関東内陸において外資系製造業企業が他地域に比べ多く立地していることが分かる。また、南九州や北海道でも全国平均に比べて多くの外資系の製造業企業が事業展開していることが読み取れる。しかし、サービス業を含む全業種で観察すると外資系企業の立地には東京への一極集中傾向が見られる。

グローバリゼーションは、かつて国内で見られた「集積」の動きをグローバルな形で再現する可能性を秘めている。国境によって制約されている様々な障害が無くなれば、企業や人は動き出し、地域経済を活性化する一つの鍵になる。

このことは、地域経済を活性化しようとする地域振興政策や所得再分配政策にも大きな意味を持っている。すなわち、人と企業のグローバリゼーションは、国内での生産要素移動が東京一極集中と過疎化問題を起こしたように、ある地域経済の活性化につながると同時に地域間の所得格差を生み出す可能性を抱えている。現在のところ、我が国やアメリカをはじめとする多くの先進国では、地方政府の歳出面に対する補助政策や、ナショナルミニマムを中央政府によって供給するといった地域間所得格差を是正するメカニズムを持っている。このような制度的枠組みによって国民経済の地域間所得格差は拡大せずにすむ一方、負担の地域間不公平と不効率が発生しかねない。グローバリゼーションの進展する世界では、企業と人がさらに移動するため国内の地域間所得格差を是正するにはより大きな所得移転が必要になり、負担の不公平感が高まることも考えられる。

従って、グローバリゼーションが進展した下では、国民経済全体として必要な公共サービスの提供をより効率的に実現するように改革を進めることで、個人の不公平感を高めるような負担増を生まずに地域間所得格差是正を行うことの必要性が一段と高まるのである。

3.グローバリゼーションと制度調和

前章においては、グローバリゼーションが国民経済に及ぼす影響につき四つの視点から検討を行ったが、本章では、グローバリゼーションが各国の制度に対して与える影響等につき検討する。まずは、制度調和の例として競争政策につき検討し、その後、地域経済統合に関する検討を行った。最後には、国内の諸制度とグローバリゼーションの進展の関係について検討を行った。

(1)貿易と競争-貿易・競争政策の調和は可能か

「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」やそれを母体とした世界貿易機関(WTO)、そして経済開発協力機構(OECD)における議論を振り返ると、通商上の関心が関税や数量制限といった国境措置から各国の制度や慣行の相違へ比重を移すにつれ、貿易政策とその他の政策との関連が強く認識されるようになってきたことが分かる。基準・認証等の国際標準化や相互承認は、規模の経済性を生み出すことで生産と貿易の拡大を促すため望ましいが、その他の制度については様々な議論がある。例えば、貿易と労働基準の関係、貿易と環境の関係、貿易と競争政策の関係などである。

貿易と競争については、政府の非関税障壁と企業間にある閉鎖的な商慣行といった広義の非関税障壁を改善しなければ共通の土俵の上に登ることが出来ず、関税自由化の効果が削がれるのではないかという考え方が背後にある。しかし、現実の各国の行動には途上国からの低価格の輸入を回避し産業を保護したいという意図、商習慣などの違いが貿易障壁となっているとの認識、そして自国企業の行動様式を外延的に拡張したいとの思惑が混在している。これらの課題は各国の国内制度や主権に深く関連するものであるため、その取扱には多くの困難が伴っている。

国境措置である貿易政策については、市場歪曲的であることから廃止することが望ましいと考えられつつあるが、国内政策である競争政策については、【1】理想的、かつ国際的に一元化された制度への収斂が望ましい、【2】各国が制度上の相違を残しつつ最小限の調整を行うのが望ましい、【3】競争制度の調和は全く必要ない、と見方が分かれている。

このような競争政策の調和は、望ましい競争状態を実現できるかどうかが問題であり、それを実現する方法が特定の競争上違反と思われる行為を原則違法とするのか、それとも弊害規制的な形で捉えるのかは二次的な事柄であると考えられる。また、各国が行政措置によって望ましい競争状態を実現するか、刑事的な措置まで含めて行うのかについても同様である。従って、形式上の制度調和にとらわれることなく実効上の措置がどのように機能しているのかという点に重点をおいて考える必要がある。

市場参入が自由化されていることについて国際的に相互監視をすることは意義あるものと判断できる。しかし、事後的に観察される輸入浸透度などの市場状態が自由な競争の結果である限り、恣意的な輸入拡大や輸出自主規制等の貿易措置によって不均衡を是正しようとすることは、資源配分を歪めるので望ましくない。

(2)リージョナリズムとグローバリズム-地域経済統合の考え方-

EU(欧州連合)、NAFTA(北米自由貿易地域)といった地域経済統合については、世界全体での経済活動の一体化、制度の調整・調和に向かう途中段階としての積極的な評価がある一方、本格的な地域経済ブロックの形成の前触れではないかという否定的な見方もある。我が国は、一貫してGATT/WTOを中心とする多数国間交渉を中心とした調整・調和を優先することを表明しており、二国間における問題処理に対しては例外的なものであるとの立場をとっている。また、地域経済統合については法的拘束力を持たない政策フォーラムのようなAPEC(アジア太平洋経済協力)は参加するもののブロック化の可能性があるものには参加していない。

しかし、現実には利害の似通った地域同士が段階的に統合することで最終的な世界経済の安定と調和が図れるのであれば、評価できるものではないかとの見方もある。そこで、このような地域主義的考え方が、「反WTOなのか、それとも段階的進歩として評価できるのか」という点につき検討を行った。

【1】地域経済統合の進展と類型

1990年代に入り地域経済統合の創設が盛んになり、図表12のとおり現存する地域経済統合のうち90年以後の創設数は全地域経済統合の約6割を占めている。GATT/WTO体制の下、多くの地域経済統合が設立若しくは計画されている背景には、

1.貿易や投資を通じた特定の地域に属する国々の相互依存が急速に深まっていること、

2.第2次世界大戦後の多角的な自由貿易の推進に中心的な役割を果たしてきた米国が地域主義への傾斜を強め、また、ECが周辺諸国に外延的に拡大しEUへと統合の度合いを深めるなど先進国の動きが活発化したこと、

3.途上国や市場経済移行国において貿易・投資の自由化、市場経済化を目指す動きが本格化し、地域経済統合に参加することで対外的に支援と理解を求めること

4.経済統合をしている国・地域からのアンチ・ダンピング措置などを避けること、

などである。

これを図表13に示した分類に従って主な地域経済統合を振り分けると図表14のようになる。最近の地域経済統合の形態を見ると、先進国間の統合と途上国間の統合、多数の国が参加している統合と少数の国で構成されている統合、自由貿易協定締結による制度的枠組みが整っている統合と緩やかな統合など多種多様である。経済構造の類似した先進国間の統合については、世界的規模で成長を促すとの指摘がある一方、開発途上国を含めた統合については、域内に存在する先進国からの貿易措置を避けるということのみならず、対外的な貿易・投資の自由化とそれに沿った国内経済改革を進める誘因になることが指摘される。

【2】地域経済統合の今後

このような地域経済統合については、それ自体が完結する地域ブロックであると判断されることが多かった。しかし、WTOの加盟国が増加することは加盟国相互の利害を調整した上での新規ルールを設定することが難しくなってゆくことを意味している。地域経済統合には、一見WTOルールと相反するような側面がある場合が含まれるが、国境障壁の軽減・撤廃だけでなく、国内経済規制の改革やマクロ経済政策の協調を含む域内自由化の枠組み作りは、域外を差別化しないといった条件を備えている限り、WTOの自由化と補完的な役割を果たすと考えられる。

我が国は、開かれた貿易・投資の下で多くのメリットを享受することから、周辺諸国の「閉ざされた地域主義」への動きには警鐘を鳴らし、APECのような「開かれた地域主義」に積極的に参加することが望まれる。また、我が国が「開かれた地域主義」の中で積極的に協調的なマクロ経済政策運営の下でグローバリゼーションの流れを加速させ、参加国の国内経済改革を支援し、成長を促すことは、周辺諸地域が保護主義に傾くことを防止することになる。

(3)グローバリゼーションと国内制度-国内制度は自律的であり得るか-

次に、グローバリゼーションの進展は、今まで自律的であると思われてきた国内制度・政策に対しても影響を与えている。ここでは、グローバリゼーションの進展と政府支出や税制度の関係について検討した。

【1】グローバリゼーションと政府支出

グローバリゼーションの進展は、輸入の拡大によって失業を生み出し国内経済の不安定性を高める方向に働き、その結果として社会政策的な経費の増大をもたらしているのではないか、と言われることがある。

グローバリゼーションの進展を輸出入額と対外所得収支の絶対額によって代理したもので捉え図表15に示した。我が国とアメリカの水準が欧州各国に比較して低いことは両国の経済規模が大きく、自律的な国内経済を有していることによる。ただし時系列に観察すると、多少の変動をしながらも対外依存度を高めていることが分かる。

この数値をグローバル化指数とし、社会政策的な経費とどのような関係にあるのかにつき検討を行った。社会政策的な経費の特定化としては、一人当たり一般政府支出額を用い、グローバリゼーションとの関係を統計的に検討した。その結果、図表16のとおり両者には負の相関があり、グローバリゼーションの進展が高まることと一人当り一般政府支出の低下が同時に生じている。

ただし、このことはグローバリゼーションを進めれば「小さな政府」が実現することを意味しているわけではない。「小さな政府」への圧力と「グローバリゼーションの進展」を実現する力には共通するものがあるのではないかということである。

【2】グローバリゼーションと税制度

先の結論では、「小さな政府」と「グローバリゼーションの進展」が同一の方向性を持っているとしていたが、次に政府の行動を歳入面から観察する。一般にグローバリゼーションの進展は、担税基盤を国際移動性の低い労働を源泉とするものにシフトさせる傾向を持っているのではないかと指摘される。そこで、一人当たりの税収総額・個人税額、及び個人税依存度とグローバリゼーションの関係を統計的に検討してみると、グローバル化と一人当たりの税収総額・個人税額との関係は強くないが、図表17のとおり個人税依存度に対しては正の相関が有り、グローバリゼーションの進展に伴い移動可能性の高い法人から移動可能性の低い個人への担税基盤シフトが生じていることを示唆している。

このことは、先の政府支出に関する事実と重ねると、貿易・投資の自由化や情報通信及び輸送コストの低下に伴う経済のグローバリゼーションの進展が、担税基盤を脆弱なものにするため結果として大きな政府を維持出来なくしているという面が浮かんでくる。また、資本取引や法人所得に対する課税制度は、企業部門の多国籍化に伴い各国にとって自律的なものではなくなり、経済的な結合度の高い相手国との制度調和が求められることになる。

すなわち、グローバリゼーションの進展は、一人当たり負担額を高めないような効率的な政府の必要性を高める。そして、個人税依存度が高まった下でも一人当たりの負担が上昇せずに済むためには、社会保障制度改革や行政のスリム化等によって、効率的な政府を実現する必要がある。

4.2010年の世界経済展望

前章までに、グローバリゼーションの進展が、国民経済、国際的な枠組み、国内制度に対して与える影響について検討した。ここでは、2010年の世界経済を展望し、世界の主要地域ではどのような事柄が論点となるのか、という点につき検討する。

(1)世界経済展望-生産・貿易の定量的展望-
【1】世界GDPと産業・貿易の展望

長期の経済成長展望では、需給ギャップを生み出す景気循環や金融面での変化については無視することとし、長期の平均投資率、人口成長率などに幾つかの仮定を置く。経済成長率は四半期や一年程度の期間では大きく変動するが、20年間という長期を観察した場合には、生産要素の伸びと技術変化によって説明できる。

(一人当たり国内総生産の伸び率が、豊かな国との格差縮小、教育水準、人口増加、投資率等によって説明されるものと考えて、世界100カ国のデータを用いて2010年時点の展望を行った。この際には、90年前後のアジアNIEs諸国、ASEAN諸国の高度成長という経済の発展段階や、累積債務や金融危機が成長に及ぼす影響についても考慮した。推計の考え方及び結果は補論1を参照のこと。)

この結果、2010年に向けた世界経済の成長率は年平均3.0%程度が見込まれることになる。アジアについては、「東アジアの奇跡」の今後や「通貨・金融危機」の中期的影響などを考慮すると、アジアNIEs諸国の平均成長率は4.8%となり、ASEAN諸国の平均成長率は6.4%と見込まれる。その他の地域では、中国が8.5%、アメリカ、EUはともに2.5%程度の成長を実現するものと見込まれる。また、新興地域として期待されるインドは5.1%、ベトナムは5.5%、チリは6.9%となっている(図表18)。

なお、ここでの経済成長率は一国の経済が潜在的に実現できる成長率に近いものであり、短期的な景気循環が生じることとは矛盾しない。一国の経済成長は、その国の労働力や資本ストックの量的増加と質的向上によって実現するものと考えている。

次に、このような経済成長に整合的な貿易構造がどのような姿になるのかという点につき展望した(展望の考え方及び手法については補論2を参照のこと)。1992年から2010年時点の貿易を展望すると、世界全体の伸び率は3.5%、APEC地域では3.9%程度が期待できる(図表22)。

【2】GATT/WTOとAPECの貿易自由化、NAFTA統合の効果

先の貿易の展望には、GATT/WTO及びAPEC貿易自由化(関税引き下げ)とNAFTA地域経済統合の効果を折り込んでいない。ここでは、それぞれの効果につき考慮した。

  ア ウルグァイ・ラウンド措置について

織り込む自由化の第一は、U.R.の成果である。同合意の定量的な効果については既に多くの研究がなされている。WTO事務局(旧GATT事務局)の推計では世界全体の実質所得増加として最低400億USドル(1992年価格)から最大で2,140億USドル(同価格)が期待できるとしている。その他の研究者推計でも最低で480億USドル、最高で2,350億USドル程度が期待できるとしている。

イ NAFTAの域内自由化

NAFTAは1992年に合意が成立し、94年から発効した。これはアメリカ、カナダ、メキシコの三か国が2008年まで15年をかけて域内の関税及び非関税障壁を撤廃することを主眼としたものである。域内関税率だけを引き下げることは、相対的に域外地域を差別的に扱うことであり、貿易転換効果が発生することによって域外地域が不利化することが知られている。また、域外の生産者は輸出が不利化するのを避けるためにNAFTA参加国のいずれかの地域に直接進出する誘因を持つことになる。

  ウ マニラ行動計画の含意

APECにおいては、ボゴール宣言(1994)、大阪宣言(1995)、マニラ行動計画(1996)と貿易自由化に関する自主的な行動宣言が出されてきた。またコンピュータ電子関連機器についてはWTO閣僚会議のシンガポール宣言(1996)をAPECが主導的にとりまとめる等、域外諸国へも自由化の誘因を与える役割を担うようになってきた。

APECでの貿易自由化についてはAPEC経済委員会により効果の試算がなされており、域内GDPを1.3%(95年米ドル価格で約2087億ドル)の押し上げ効果があるとしている。また、域内国全てにおいて利益を与えることが示され、域内貿易量は4%拡大することが期待できるとされている。

以上の効果が2010年までに出尽くすと仮定して先の世界経済成長の下での世界貿易を展望すると、年平均4.3%、APECについては4.9%程度の伸びが期待できる(図表22)。ただし、本試算には直接投資などによって発生する貿易の拡大効果を捉えていないため、時系列によって展望する場合に比べて小さくなっている。

関税・非関税障壁の撤廃は貿易財の内外価格差を縮小することを実現し、世界全体の効率性を改善する効果を持っている。貿易自由化にともなう効率改善は、世界全体で約3,058億ドルの利益をもたらすと期待される。

また、経済成長や自由化措置は各国の比較優位構造を変化させることを通じて産業構造変化を促すものと考えられる。例えば、アメリカでは、相対価格の変化から食品加工及び化学製品への特化が見られる一方、機械製品が劣位化の方向に移動する。中国の場合は、APECでの自由化を実施するだけであるが、182億ドル程度の効率改善の利益を得ることが見込まれる。その他製造業製品がかつてほどの優位性を失う一方、金属加工業などがプロダクト・サイクルに沿う形で優位性を持ち出すことが示唆される。タイの場合は多国間繊維協定(MFA)の廃止に伴って繊維・アパレル業の比較優位指数が上昇し、食品加工業がかつての優位性を次第に失っていくことが示唆される。

(2)世界経済展望 -主要地域の論点-

2010年の展望には、定量的な見通しだけでなく、数字を取り巻く経済社会の制度的な問題や政治的な側面にも留意する必要がある。ここでは、主要地域が抱える問題点を概観し、2010年への含意を検討する。

【1】アメリカ経済について

アメリカ経済は、7年の長期に渡る景気拡大が継続中であるが、拡大する所得格差、高齢化に向けての医療・社会保障制度といった問題点を抱えている。

所得格差が拡がる原因としては、他の先進国に比べてフラットな所得税制のため所得変化の大きい上位層と変化の小さい下位層の格差が縮まらない、コンピュータ化に伴う労働の単純化が下位層の賃金を押し下げる、など指摘されているが、応能主義的な報酬が実現していることの結果であると考えられてきた。しかし、所得階級の上位と下位の伸び率が共にプラスの場合に拡がる格差と下位層の所得が下落する形で拡がる格差では意味が異なる。

この点は、図表24に示した失業率と賃金格差の推移を見るとアメリカの賃金格差が際立って拡大していることで確認できる。しかし、このことのみをもってアメリカ経済が問題であるとは言えない。同図に示したアメリカの失業率は賃金格差とは裏腹に傾向的低下を見せており、欧州各国とは相反している。このことは、アメリカのように賃金を伸縮的にすると、失業率は低下するが賃金格差の拡大が起りうることを意味し、欧州諸国のように賃金の市場調整機能に歪みを与えれば失業率の上昇という代償を払う必要があることを意味している。

「アメリカ型」か「欧州型」のどちらがよいかを判断することは難しい。ここで指摘できることは、過剰な失業給付などによって働くという動機が制度的に阻害されることは、これらの人々の労働力が社会的に浪費されているのみならず、高負担を通じて社会の活力を阻害する結果を生んでいるということである。

【2】欧州経済について

EUの場合には、高水準の失業率、社会保障(財政)改革、そして高齢化という問題を抱えている。政治主導で進めている欧州統合は、経済的統合段階から社会統合へと政治的な緊張度の高い制度調和が求められる局面を迎えるため、各国国内の利害の対立が先鋭化する可能性がある。現在では、EU統合という理念を掲げることで内政における利害調整をまとめているが、理念と利害の相互関係を考えると、EU統合、特に通貨統合の経済厚生に与える影響につき客観的な理解と判断が必要となる。

EUでは、主権を異にする国の間で共通の通貨を流通させようとする欧州経済通貨統合を1999年1月1日よりスタートすることにしている。単一通貨圏のプラスとマイナスを比較秤量してその是非を議論する「最適通貨圏の理論」から考察した欧州通貨統合は、対外開放的な国々によって構成されるため、域内交易に固定相場制を採用して為替リスクを除去できるというメリットを持つ一方、金融政策や為替レート調整による経済的ショック吸収という手段を失うことから、所得移転制度や労働市場における調整によって代替する必要がある。しかし、構成国間所得移転制度は未整備であり、図表25のとおり賃金による市場調整機能が不十分な現状では、特定の国に失業などの経済的ショックが大きく残ってしまうことが考えられる。

従って現在のままでは、デメリットがメリットを上回り望ましくない通貨統合となる恐れが強いと考えられる。通貨統合の政治的、理念的な努力は、現実の利害状況によって行き詰まることも十分にあり得ると思われるが、統合の理念によって長期的にも必要な社会保障制度改革を進め、もって労働市場改革を進めることに成功すれば、生産性改善や規模の経済性による果実を享受することも可能である。

【3】アジア経済について

図表26に示したようなアジア地域(ASEAN及びNIEs)に発生した急激な通貨下落は、基本的にマクロ経済における不均衡の調整であり解決可能な問題である。全てに共通しているメッセージは、「実体経済から乖離した為替レートは維持できない」ということである。一般的に基軸通貨にペッグする管理フロート為替制度は、各国の生産性上昇が基軸国と等しい場合には維持されるが、生産性格差が累積するにつれ、対外バランスの不均衡を拡大する。また、不均衡の調整が漸進的にではなく突然発生するのは、実体経済と金融経済の市場参加者が必ずしも同じように経済環境を観察しているわけではないことや市場経済自体に介入や調整抜きでは不均衡を調整する力が不足していることがあげられる。

今回の急激な通貨下落のきっかけは各国によって異なる。特に下落の激しいタイ、韓国、インドネシアの三国の場合には、実現した所得に対して過剰な投資に起因する企業部門の収益悪化と債権の不良化、家計・個人部門の過剰な消費が根底にある。同時に、過剰投資が発生した金融部門の脆弱さとマクロ経済へのフィードバックが発生するまで放置されていた金融制度の脆弱さにも留意する必要がある。経済の発展段階に対して尚早な金融自由化が進展する一方、各国の寡占的金融部門が温存されていたことがこのような事態の根底にあることにも留意すべきである。

台湾及びシンガポールの場合には、通貨下落国との貿易連関を通じたマイナスの影響が予測されたものであり、内生的なものではないと考えられる。また、香港特別行政区や香港ドルの影響を強く受ける中国広東省では期待形成に伴う資産価格の不安定な動きが見られるため、注意する必要がある。しかし人民元が完全に自由化されていない点や通貨危機がパニックモードに陥らないためには人民元の維持が重要であるとの危機管理認識が主要国当局及び国際金融関係者にあることは、しばらくは急激な人民元の切り下げや香港ドル下落が無いことを示唆している。なお、アメリカを除く主要先進国の景気低迷に伴う金利低下と緊縮的な財政運営が悪影響を及ぼした結果ではないかとの見方もある。このような先進国側の経済運営が、東アジアの交易条件を改善することで経常収支赤字を拡大し、同時に金利差を狙った資本流入を促した原因の一つであることも多少の関係があると思われる。

今後の展望としては、各国とも輸入物価の高騰により家計部門には大きな打撃が予測されると同時に輸入依存度の高い資本財や中間財価格の上昇から一部の製造業にも悪影響が及ぶため、価格競争力の回復により輸出比率の高い産業を中心に再び成長経路への回帰を果たすことは多少遅れる可能性もある。そのためにも、賃金・物価上昇の抑制を中心とした国内政策と対外債務返済に関する中期的な繰り延べ(リスケジューリング)の早期実施が必要である。

また、対外借入が過剰投資へと向かったことから金融仲介機能の改善が不可欠である。その際、健全な輸出業者でさえ銀行の貸出態度の慎重さから資金調達に瀕している状況を勘案すれば、早急な公的資金の投入により金融仲介機能の回復を図り、健全な事業法人への資金供給を行うことが求められる。先進国側の姿勢としては、アジア諸国からの輸入拡大に対して生じる可能性のある保護貿易圧力に屈せず、積極的に内需を拡大することが重要である。

これらを施した場合には、実質GDP成長率は数年で回復するものと思われる。但し、これらの国々が回帰する成長経路は必ずしも以前のものではなく、それぞれの国が過去数年間に「強すぎた通貨」によって享受した「交易条件の改善分」を相殺するだけ下方に屈折することは否めない。

その他のアジア経済も含めて考えると、2010年への中期的な課題としては「市場機能の活性化・範囲拡大」という点が共通に見られる。例えば、韓国は国内市場の透明性を増し、市場経済機能の回復を図ることが必要であり、中国は国有企業群改革を如何に進めるかが中期的な潜在成長を決める大きな要因となる。同様に、インドにおいても対外的に開かれた市場経済を育成することで国内資源の有効活用と対外資源の効果的流入を促し、NIEs、ASEANに続く世界の成長センターとなる可能性を引き出すことが重要である。

5.グローバリゼーションへの対応と我が国の課題
(1)グローバリゼーションの費用と便益

グローバリゼーションと称される諸般の現象が我が国にもたらすマクロ経済的な便益は大きいが、構造変化に伴う調整費用もある程度は生じる。そして、この費用・便益を比較した場合には便益の方が大きく、調整コストを少なくするために現状維持的な保護政策を採ってしまうと得べかりし利益を失ってしまうことになる。

これまでグローバリゼーションと呼ばれる諸般の現象は、通信・輸送技術の進歩、情報発信の増大によって強化され、政策的な自由化措置によりさらに加速させられてきた。そして我々は自由貿易の恵みを享受し、鎖国状態では考えられないような消費水準を実現してきている。

すなわち、我が国の貿易構造の変遷を概観すると、それは貿易理論が教えるとおりの姿を示してきた。我が国の主要な輸出品の構成は、資本蓄積の進展と期を一にして軽工業品から重工業品へ、技術集約度の低いものから高いものへと変化している。財のグローバリゼーションは、比較劣位化した財に関して優位を持つ国からの輸入を誘発することを促し、効率的な産業構成を実現してきた。劣位化した産業では生産縮小や雇用調整が発生するものの新規事業や高付加価値財への転換、若しくは諸外国への生産拠点の立地(直接投資)によって対応してきている。このようなミクロ的に発生する調整もマクロ全体若しくは消費者の立場からは、経済全体が発展した結果生じたものと受け止めるべき事柄である。何故ならば、比較優位のダイナミズムは外国がどう変化したかではなく、主に国内での経済発展-産業間生産性変化格差-の結果生じるものだからである。

(2)金融のグローバリゼーション

90年代以降のグローバリゼーションの進展は、先のような財を巡るものに加えて資本移動が大きくなった点が特徴として挙げられる。資本移動には、大きく分けて直接投資と間接投資がある。直接投資は、企業が生産拠点を外国に設置するために行うものであり、我が国の繊維、自動車、電気機械業などの多くの企業がアジア、北米、欧州に生産拠点を有し、多国籍化した背後にあるものである。しかし、直接投資が拡大したとはいうものの国内投資との比較では極めて小さなものであることも事実である。他方の間接投資は、主に金融部門が収益率格差などを裁定するために行うポートフォリオ投資などが該当する。規模としてはこちらの方が圧倒的に大きい。

このような資本の国際的移動については、前者が資本豊富国から経済成長著しい資本不足国への最適な資源の再配分として評価される一方で、後者の一部は短期的なその性格から受入国にとって急激な資本流出入を生じさせ、現下のアジア通貨・金融危機等の為替レート若しくは国内物価を過度に変動させるために経済に悪影響を与えているとの見方もある。

後者の資本移動が、短期的な収益率によって決定されることは資金の性質上やむを得ないことであり、これをもって過度に制限的な措置を採ることは、そうでない中長期的資金の国際的移動にも負の影響をもたらす可能性があり望ましいとは言えない。

通貨危機が生じる原因の多くは、実体経済の生産性から乖離した需要を生み出すような財政・金融政策の過ちや通貨制度に起因することが多い。また、金融部門を過度に保護することは、モラル・ハザードが生じることやリスクに対する選好度を高める方向に作用し、安定的な資金の仲介機能を麻痺させることが考えられる。特に、このような金融システムの下で資金余剰状態が発生することはリスク回避的な行動の必要性を低下させることでバブル発生の原因となっている。

(3)2010年の課題とグローバリゼーション

2010年にある程度確実に見通すことが可能なものは、「少子・高齢化に伴う労働供給の減少」である。これは定年制、年功序列型賃金体系、医療・年金等社会保障制度、ピラミッド型企業組織等の前提を根底から覆すものである。「人のグローバリゼーション」によって労働流入が起こればこの問題を一時的に先のばしすることができる。しかし、高齢化は単に我が国だけで進展するものではなく、先進諸国はもとより中国やアジア諸国においても進展することが指摘されていること、また「人のグローバリゼーション」は、社会的調整コストがかかる点からも望ましくない。

そこで、「財のグローバリゼーション」をより積極的に活用することが求められる。例えば、1%ポイントの輸入浸透度の変化で約10万人の雇用変化に見合うという試算からは、製品輸入を拡大することで、我が国の労働力を節約し、他の部門へその労働力をシフトすることができると考えられる。「高齢化」に伴う労働供給減少、需要変化とそれに対応する産業構造調整に「財のグローバリゼーション」は大きな鍵を握っている。

また、グローバリゼーションの進展に伴う比較優位の変化の中で産業を高度化して行くには、生産性上昇の低いサービス業の活性化が不可欠である。我が国経済のサービス化の進展は主要OECD諸国の中で所得水準からみても遅れている。サービス化の進展が遅れている背景には相対的に強過ぎる製造業だけでなく、規制による参入障壁等「営業の自由」への障害が考えられる。これはサービス業の高コストの原因となり、製造業との生産性格差を通じて「内外価格差問題」を引き起こしてきた。産業間の生産性格差は財価格の格差となり、我が国消費者が名目所得に対して豊かさを実感できない背景となっている。

サービス業に対する多国籍企業の参入などに代表される「企業のグローバリゼーション」は、我が国サービス業の活性化を促す大きな契機となる。多国籍企業が活動できるような参入障壁のない、競争的な事業環境を整えることが求められているのである。

このような「財のグローバリゼーション」と「企業のグローバリゼーション」は、共に産業構造の変化を伴っており、その円滑な実現には労働市場の調整能力が鍵となる。少子・高齢化の下で、衰退産業からの労働退出と新興産業への労働流入をスムーズにするためには、主に新卒者市場で行われていた雇用調整を既就業者市場で行うように転換する必要がある。このような雇用流動化が進まない場合には、グローバリゼーションと産業構造変化の調整コストが大きくなってしまう。

加えて、効率的な行政サービスを提供する小さな政府への改革もグローバリゼーションと関係が深い。企業のグローバリゼーションの進む下では、政府規模を小さくしなければ個人の税負担を高めることになってしまう。このため、活力ある国民経済を維持するためには、政府支出面を効率性の観点から見直すことが必要になり、現在の我が国における財政・社会保障改革を後押しする(図表27)。

グローバリゼーションは事物の自然な成り行きであるので、摩擦を少なくしつつその果実を享受することが重要となってくる。同時に、多国籍化していく経済主体の合理性の追求を促すだけでは、国民経済の維持発展を十分に実現できない点に留意し、透明で公正な財・サービス・金融市場、流動性の高い労働市場の確立、効率的な行政サービスを実現することが重要である。

図表1 論点整理図

図表1  論点整理図

図表2 輸入浸透度と雇用量・賃金率変化の関係

図表2  輸入浸透度と雇用量・賃金率変化の関係

(備考)

1.経済企画庁「国民経済計算年報」、日本銀行「物価指数年報」、労働省「毎月勤労統計調査」、同「職業安定業務統計」により経済企画庁総合計画局において推計。

2.輸入浸透度=輸入額÷(輸入額+国内供給額)

3.雇用量=常用雇用者数×総労働時間数

4.平均賃金率=現金給与総額÷総労働時間数

5.常用雇用者数、総労働時間数及び現金給与総額は事業所規模30人以上のデータ。

6.輸入浸透度、雇用量及び平均賃金率は1981~95年における各年の対前年変化率。

7.推計式は次のとおり。なお、n=0~3、αは定数項、β1~β4はパラメータ。

 (1) 輸入浸透度と雇用量の関係

 n期後の雇用量変化率=α1+β1×(当期(0期)の輸入浸透度変化率)+β2×(n期後の有効求人変化率)

 (2) 輸入浸透度と平均賃金率の関係

 n期後の平均賃金変化率=α2+β3×(当期(0期)の輸入浸透度変化率)+β4×(n期後の有効求人変化率)

8.対象業種は、製造業計、食料品、繊維、パルプ・紙、化学、石油・石炭、窯業・土石、電気機械、輸送機械の9業種。

図表3 輸入浸透度の上昇に伴う雇用者数(製造業計)の変化(試算)

 

輸入浸透度

(1995年=8.8%)

輸入浸透度変化幅

(%ポイント)

雇用者数変化率

(%)

雇用者の減少数

(人)

ケース1

9.8

1

-1.3

-99,656

ケース2

13.8

5

-6.3

-498,279

ケース3

18.8

10

-13.9

-996,558

ケース4

23.8

15

-19.0

-1,494,837

(備考)

1.経済企画庁「国民経済計算年報」、日本銀行「物価指数年報」、労働省「毎月勤労統計調査」により経済企画庁総合計画局において試算

2.輸入浸透度=輸入額÷(輸入額+国内供給額)

3.推計式は次のとおり。なお、αは定数項、β1~β3はパラメータ
  雇用者数変化率=α+β1×(輸入浸透度変化幅)+β2×(実質GDP変化率)+β3×(労働時間変化率)

4.推計結果は次のとおり。なお、( )内はt値

被説明変数

説明変数

修正済R2

観測数
[自由度]

定数項

輸入浸透度変化幅 実質GDP変化率 労働時間変化率
雇用者数変化率

-1.6005

(-3.0109)

-1.2651

(-2.0979)

0.7096

(6.2358)

-0.5279

(-3.2650)

0.6700

15

[12]

5.試算に当たっては、実質GDP変化率及び労働時間変化率を一定と仮定し、1995年の製造業計の輸入浸透度(8.8%)がそれぞれ1, 5, 10, 15%ポイント上昇した場合における、1995年の雇用者数(7,877,230人)からの減少幅を求めた。

図表4 OECD加盟国における外国人、移民及び労働力の人口

 

外国人の人口と労働力

外国人人口 a

外国人労働力 b

(千人)

総人口に占める
シェア(%)

(千人)

総人口に占める
シェア(%)

1983

1995 c

1983

1995

1993

1995 d

1993

1995

オーストリア

297

724

3.9

9.0

305

323

9.6

10.2

ベルギー

891

910

9.0

9.0

340

335

8.3

8.1

デンマーク

104

223

2.0

4.2

54

80

1.9

2.8

フィンランド

16

69

0.3

1.3

..

..

..

..

フランス

3,714

3,597

6.8

6.3

1,544

1,573

6.2

6.2

ドイツ

4,535

7,174

7.4

8.8

3,432

2.569

8.8

7.4

アイルランド

83

96

2.4

2.7

40

42

3.0

3.0

イタリア

381

991

0.7

1.7

..

436

..

1.9

日本

817

1,362

0.7

1.1

..

600e

..

0.9

ルクセンブルグ

96

138

26.3

33.4

65

112f

38.6

56.2

オランダ

552

728

3.8

5.0

278

221

3.9

4.0

ノルウェー

95

161

2.3

3.7

48g

52g

4.5

4.5

ポルトガル

..

168

..

1.7

..

84

..

1.7

スペイン

210

500

0.5

1.2

82

139

0.5

0.6

スウェーデン

397

532

4.8

5.2

221

220

5.1

5.1

スイス

926

1,331

14.4

18.9

726h

729h

21.7

19.4

イギリス

1,601

2,060

2.8

3.4

1,026

1,032

3.6

3.6

 

外国生まれの人口と労働力 i

外国人人口 a

外国人労働力 b

(千人)

総人口に占める

シェア(%)

(千人)

総労働力人口に占めるシェア(%)

1981

1991

1981

1991

1991

1991

オーストラリア

3,004

3,753

20.6

22.3

2,139

24.0

カナダ

3,843

4,343

16.1

15.6

2,681

18.5

アメリカ

14,080

19,767

4.7

7.9

11,636

9.3

(備考)

1..OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1994”, ”Trends in International Migration Annual Report 1996”により経済企画庁総合計画局において作成。

2.表中のaからiまでは次のとおり。

a 人口登録に基づく。ただし、フランスは国勢調査に、アイルランドとイギリスは労働力調査に、日本とスイスは外国人登録に、イタリア、ポルトガルとスペインは滞在許可に基づく。

b ルクセンブルグ、オランダ及びノルウェーを除き、データには失業者を含む。

c フランスは1990年データ。

d ベルギー、デンマーク及びイギリスは1994年データ。

e 推計値で永住労働者は含まない。

f 越境労働者を含む。

g 自営業者を除く。

h 1年間の滞在許可又は定住許可を与えられた有益な活動に従事する外国人数。出稼ぎ労働者及び越境労働者は除く。

i オーストラリアの1995年の労働者力(労働力調査による)を除いて、国勢調査のデータ(アメリカは1990年)に基づく。

図表5 外国人労働者比率と失業率

図表5  外国人労働者比率と失業率(備考)

1.OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1996”、同 “Lobour Force Statistics 1974-1995”、IMF “International Financial Statistics Yearbook 1997”、経済企画庁「国民経済計算年報」により経済企画庁総合計画局において推計。

2.外国人労働者数は原則として失業者を含む。なお、各国の外国人労働者数のデータ範囲については、OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1996”を参照。

3.失業率=(失業者数÷労働力人口(一般労働者のみ))×100

4.外国人労働者比率=(外国人労働者数(ストック)÷労働力人口(一般労働者のみ))×100

5.実質GDP対前年変化率は、各国毎に失業率との相関が強い0~2期(年)前のデータを用いた。

6.カントリーダミーは、日本以外の推計対象国について設定。

7.推計期間は原則として1985~94年。

8.推計結果は次のとおり。

推計結果

図表6 外国人労働者比率と賃金率

図表6  外国人労働者比率と賃金率

(備考)

1.OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1996”、同 “Lobour Force Statistics 1974-1995”、同”Main Economic Indicators”、IMF “International Financial Statistics Yearbook 1997”、経済企画庁「国民経済計算年報」により経済企画庁総合計画局において推計。

2.外国人労働者数は原則として失業者を含む。なお、各国の外国人労働者数のデータ範囲については、OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1996”を参照。

3.賃金指数は原則として製造業に係るものであり、各国の消費者物価指数により実質化したものを使用。

4.外国人労働者比率=(外国人労働者数(ストック)÷労働力人口(一般労働者のみ))×100に係るものである。

5.実質GDP対前年変化率は、各国毎に賃金指数対前年変化率との相関が強い0~2期(年)前のデータを用いた。

6.カントリーダミーは、日本以外の推計対象国について設定。

7.推計期間は原則として1986~94年。

8.推計結果は次のとおり。

推計結果

図表7 外国人労働者比率と社会・福祉サービス支出の名目GDP比率

図表7  外国人労働者比率と社会・福祉サービス支出の名目GDP比率(備考)

1.OECD "Annual National Accounts"、同"Trends in International Migration Annual Report 1996"、同 "Labour Force Statistics 1974-1995"により経済企画庁総合計画局において推計。

2.外国人労働者数は原則として失業者を含む。なお、各国の外国人労働者数のデータ範囲については、OECD ”Trends in International Migration Annual Report 1996”を参照。

3.外国人労働者比率=外国人労働者数(ストック)/労働力人口(一般労働者のみ)*100

4.カントリーダミーは、日本以外の推計対象国について設定。

5.推計期間は原則として1985~94年。

6.推計結果は次のとおり。

推計結果 

図表8 主要国の多国籍企業数と外資系企業数

 

多国籍企業数【1】

外資系企業数【2】

【2】/【1】

データ年

日本

3,967

3,405

0.86

1995

カナダ

1,691

4,583

2.71

1995

フランス

2,126

8,682

4.08

1995

ドイツ

7,292

11,581

1.59

1994

イギリス

1,467

3,894

2.65

1992

アメリカ

3,470

18,608

5.36

1994

中国

379

45,000

118.73

1993

韓国

4,806

3,878

0.81

1996

シンガポール

19,160

1994

先進国合計

36,380

93,628

2.57

 

(備考)

1.United Nations “World Investment Report 1997”より作成。

2.多国籍企業の定義は二国以上において事業活動を営む法人である。データ収集の範囲は各国統計によるが、日本の場合は、1995年の「海外事業活動動向調査」から非金融法人、1992年の調査から金融法人のデータを集計した。また、外資系企業数に関しては、「外資系企業動向調査」から作成している。なお、【1】は左欄を母国とする多国籍企業数、【2】は外国を母国とし、左欄の国に進出している企業数。

図表9 規模の経済性の効果(仮定計算例)

図表9  規模の経済性の効果(仮定計算例)(補足説明)

規模の経済性は、それが存在しないケースに比べて最大で10%以上の実質GDP拡大の効果をもっている。規模の経済性が経済成長にとっていかに重要であるかの例である。しかし、ある産業に全ての国が規模の経済性をもっていることは必ずしも全ての国のGDPを拡大するわけではないことも示されている。

(備考)

1.経済企画庁総合計画局において推計。本試算は経済構造の特性を知るためのものであり、具体的な政策評価や予測ではない。

2.数値は%表示で標準ケースからの乖離幅である。つまり、標準ケースが10%のとき比較ケースが20%であれば、10%と示している。

3.効果の計算は、企業部門、家計部門、簡略化した政府部門からなる応用一般均衡モデルを用いた。これらの各部門は、予算制約の下で利潤の最大化、効用の最大化を試みるように設計。データセットは、世界貿易分析計画(GTAP)作成のVersion3.0を利用。

4.計算に際しては、まず、1995年~2005年の労働力人口及び人口変化率を各国毎に与え、企業及び家計、政府が最適な行動をとると仮定。「標準」ケースでは、全ての産業が「規模に関して収穫一定」と仮定し、「全製造業」ケースでは製造業全てに「規模に関して収穫逓増」と仮定。また。「輸送機械業」ケースは、当該産業のみに「規模に関して収穫逓増」条件を仮定。「標準」ケースとそれ以外のケースの差が、規模の効果、すなわち産業集積の効果であり、上記の図では一国毎のマクロ経済変数への影響を示している。

5.「規模に関して収穫逓増」の程度については先行研究における推計値を引用。

図表10 戦略的貿易政策による影響(仮定計算例)

(世界における影響)

 

実質GDP

家計所得

NAFTA単独

三地域実施

NAFTA単独

三地域実施

オセアニア

-0.004

-0.017

-0.006

-0.064

日本

-0.025

-0.067

-0.082

-0.149

ASEAN4

0.011

-0.029

0.017

-0.072

中国

-0.004

-0.008

-0.005

-0.039

韓国・台湾

-0.014

-0.078

-0.021

-0.148

シンガポール・香港

-0.002

-0.036

0.002

-0.128

NAFTA

-0.005

-0.028

0.076

-0.139

ラテン・アメリカ

-0.01

-0.036

-0.002

-0.091

欧州連合

-0.005

0.042

-0.01

0.229

その他世界

0

-0.058

0.008

-0.122

世界全体

-0.007

-0.016

 

 

(NAFTA域内における影響)

 

生産数量

輸出

輸入

NAFTA単独

三地域

NAFTA単独

三地域

NAFTA単独

三地域

第1次産業

-0.076

0.016

-0.215

0.062

0.054

-0.048

軽工業群

-0.043

0.006

-0.256

0.134

0.104

-0.065

重工業群

-0.025

-0.011

-0.198

0.149

0.083

-0.122

輸送機械業

0.511

-0.573

-2.171

-5.449

-3.568

-3.568

一般機械産業

-0.127

0.012

-0.312

0.163

0.084

-0.086

サービス業群

-0.008

-0.012

-0.21

0.147

0.109

-0.219

(備考)

1.経済企画庁総合計画局による計算結果。本計算は、時間概念を考慮せずに経済構造の特性を知るために試算したものであり、具体的な目標年等を想定していない。その意味で、過去の政策評価や予測ではない。

2.表中の数値は全て%表示。

3.ここでは「輸送機械業」に規模の経済性があるものと仮定。

4.NAFTA単独欄の数値は、NAFTA地域が域外からの実質輸入量を固定する政策をとった場合と何もしない場合の乖離幅。

5.三地域欄の数値は、NAFTA, 日本, 欧州連合の先進三地域が実質輸入量を固定する政策をとった場合と何もしない場合の乖離幅。

6.分析の手法は先の図表9と同様。

図表11 外資系企業の地域別分布

図表11  外資系企業の地域別分布

(備考)

1.総務庁統計局「平成8年事業所統計調査」、通産省「平成7年工業統計表」「平成7年工場立地動向調査」、東洋経済新報社/ダンアンドブラッドストリートジャパン「外資系企業総覧97」により作成。

2.特化係数=外資系企業数の同全国計に対する地域シェア/全事業所数の同全国計に対する地域シェア

3.全事業所は外資系企業を含んでいる。

4.地域区分は以下のとおり。

北海道……北海道 近畿内陸…滋賀、京都、奈良

北東北……青森、岩手、秋田 近畿臨海…大阪、兵庫、和歌山

南東北……宮城、山形、福島、新潟 山陰………鳥取、島根

関東内陸…茨城、栃木、群馬、山梨、長野 山陽………岡山、広島、山口

関東臨海…埼玉、千葉、東京、神奈川 四国………香川、徳島、高知、愛媛

北陸………富山、石川、福井 北九州……福岡、佐賀、長崎、大分

東海………静岡、愛知、岐阜、三重 南九州……熊本、宮崎、鹿児島、沖縄

図表12 成立年代別の現存している地域経済統合数

 

1969年以前

70~79年

80~89年

90年以後

年代計

欧州

1

2

0

36

39

北米・中南米

2

1

15

22

40

アジア・オセアニア

0

0

1

2

3

中東

0

0

3

1

4

アフリカ

2

2

0

4

8

その他(複数地域)

1

1

1

4

7

各種調査合計

6

6

20

69

101

(備考)

日本貿易振興会(ジェトロ)「1996年 ジェトロ白書・貿易編」により作成。

図表13 地域経済統合の分類

 

自由貿易地域

Free Trade Area

関税同盟

Customs Union

共同市場

Common Market

経済同盟

Economic Union

完全な統合

Political Union

域内の関税及び数量制限の撤廃

域外に対する共通関税

×

生産要素移動の自由

×

×

経済政策のハーモナイゼーション

×

×

×

超国家機関による政策の完全な一元化

×

×

×

×

(備考)

1.Balassa, Bella "The Theory of Economic Integration"より作成。

2.分類の概念については次のとおり。

自由貿易地域……域内の貿易障壁を撤廃するが、域外国に対する関税は域内各国がそれぞれ独自に設定する。もっとも関税の低い域内国を通じて輸入し、他の域内国に輸出される(貿易偏向効果)と、関税の自主決定権が侵害されるため、原産地規則によって、貿易品目が域内産か域外産かを判定する必要が生じる。

関税同盟…………域内における貿易障壁が撤廃されるとともに、域外国に対しては共通関税を設定する。

共同市場…………域内において、貿易障壁の撤廃だけでなく、労働や資本といった生産要素の移動も自由化され、基準・認証制度などの調和が図られる。

経済同盟…………共同市場の条件に加え、各国の経済政策、社会政策、法制度の調和が図られる。

完全な結合………財政・金融政策の統一及び各国の主権が共同体に完全に委譲される。

図表14 主要な地域経済統合の形態別の分類

統合形態

地域

共同市場

関税同盟

自由貿易地域

地域協力

ヨーロッパ

EU (23.3%)

 

CEFTA (N/A)

EFTA (0.02%)

BSEC (N/A)

アメリカ

 

ANCOM (0.08%)

CACM (0.03%)

CARICOM (0.01%)

MERCOSUR(0.25%)

LAFTA (0.01%)

NAFTA (8.00%)

 

アジア

 

 

 

APEC (28.99%)

ASEAN (1.13%)

ECO (0.03%)

SAARC (0.03%)

(備考)

1.佐々波楊子「GATTからWTOへ -新たな枠組みとその課題-」より作成。

2.括弧内の数字は、1993年世界輸出が37,080億ドルにおける輸出シェア。

3.各地域統合参加国を以下のとおりとした。

地域経済統合

参加国

EU
(European Union)
ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、イギリス、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、オーストリア、フィンランド、スウェーデン
CEFTA
(Central European Free Trade Agreement)
チェッコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア
EFTA
(European Free Trade Association)
ノルウェー、スイス、アイルランド、リヒテンシュタイン
BSEC
(Black See Economic Cooperation Project)
アルバニア、アルメニア、アゼルバイジャン、ブルガリア、モルドバ、ルーマニア、ロシア連邦
ANCOM
(Andean Common Market)
ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ
CACM
(Central American Common Market)
エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ
CARICOM
(Caribbean Community and Common Market)
バルバドス、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、ドミニカ、グレナダ、セントルシア、セントビンセント、バハマ、バルブダ
MERCOSUR
(Mercado Comun del Sur)
アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ
LAFTA
(Latin American Free Trade Association)
メキシコ、アルゼンチン、ボリビィア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ
NAFTA
(North American Free Trade Agreement)
カナダ、アメリカ合衆国、メキシコ
AFTA
(ASEAN Free Trade Agreement)
ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ
APEC
(Forum for Asia-Pacific Economic Cooperation)
オーストラリア、ブルネイ、カナダ、中国、香港、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、韓国、シンガポール、台湾、タイ、アメリカ合衆国
ASEAN
(Association of South East Asian Nations)
AFTAと同じ。
ECO
(Economic Cooperation Organization)
イラン、パキスタン、トルコ、アフガニスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン
SAARC
(South Asian Association for Regional Cooperation)
バングラデシュ、ブータン、インド、モルドバ、ネパール、パキスタン、セイロン

図表15 グローバル化指数の推移(実質ベース)

 

(備考)

1.OECD "National Accounts "より作成。

2.グローバル化指数(実質ベース)は以下により算出。

(グローバル化指数)=(輸出+輸入+要素所得受取+要素所得支払)/GDP

3.輸出、輸入、GDPについては実質系列、要素所得受取・支払については、各国のGDPデフレータにより実質化した数値により算出。

図表16 政府支出とグローバリゼーション

 

(備考)

1.OECD "National Accounts " , IMF "International Financial Statistics"より経済企画庁総合計画局において推計。

2.一人当たりの政府支出(除国債利払費)の単位は、USドル(実質90年基準)ベースの値を90年で基準化した値。

3.一般政府支出は、USドル(実質90年基準)ベースの値を90年で基準化した値。

4.対象国はデータの収集可能な以下の11か国とした。

オーストリア、ドイツ(90年以前は西ドイツ)、カナダ、フィンランド、フランス、ベルギー、日本、アメリカ、イギリス、オランダ、スウェーデン

5.対象期間は、1986年から95年まで(オーストリア、アメリカ、イギリスは94年まで)。

6.推計式は次のとおり。

(人口一人当たりの政府支出額(除国債利払費))=α+β×(ボラティリティ指数)+γ×(グローバル化指数)+δ×(ボラティリティ指数×グローバル化指数)+ε×(タイムトレンド)+ζ×(カントリーダミー)

なお、ボラティリティ指数={(輸出デフレータ変化+輸入デフレータ変化)÷(GDPデフレータ変化)}÷2

7.推計結果(カントリーダミーの結果は省略)は以下のとおり。なお、( )内はt値。

被説明変数

説明変数

補正済R2

観測数
[自由度]

ボラティリティ指数 グローバル化指数 ボラティリティ指数×グローバル化指数 タイムトレンド 定数項
人口一人当たりの政府支出額(除国債利払費)

0.0168

(1.5730)

-1.5579

(-4.5952)

-0.0002

(-1.5984)

13.9245

(14.3625)

172.8155

(6.6772)

0.7887

129

[114]

10%で有意

0.5%で有意

10%で有意

0.5%で有意

0.5%で有意

図表17 個人税依存度とグローバリゼーション

 

(備考)

1.OECD "National Accounts" ,IMF "International Financial Statistics" ,日本銀行「国際比較統計」より経済企画庁総合計画局において推計。

2.グラフの個人税依存度は、総税収額に占める個人税の割合で、1990年を基準に指数化したもの。

3.対象国は、アメリカ、日本、イギリス、ドイツ(旧西独ベース)、フランス、イタリア、カナダの7か国

4.対象期間は、83~94年(アメリカ、ドイツは93年まで)。

5.グローバル化指数は、90年を基準に指数化したものを2期先行させている。

6.回帰式は次のとおり。

(個人税依存度) =α+β×(グローバル化指数)+γ×(カントリーダミー)

7.推計結果(カントリーダミーの結果は省略)は次のとおり。なお、( )内はt値。

被説明変数

説明変数

補正済R2

観測数
[自由度]

グローバル化指数

定数項

個人税依存度

0.0903

(4.6356)

93.0973

(54.8320)

0.3488

68

[60]

0.5%で有意

0.5%で有意

図表18 1990~2010年の世界経済の成長率展望(試算)

 

(備考)

1.推計、予測に利用した資料及び詳細な点については、補論 1を参照。

2.87年基準でドル換算した成長率。

a:90-96年の実績値。

b:97-2010年の予測値。

c:実績値(90-95年)以外は、旧西ドイツベースである。

d:ロシアのデータ。

e: World Bank "World Development Indicators 1997"による実績値。

3.推計に当たり、一部の国に発生した累積債務、金融危機を考慮した。具体的には、平均成長率が

・韓国及びタイについては、金融危機の影響により約0.9%低下。

・インド及びブラジルについては、累積債務の影響により約0.6%低下。

・インドネシア及びメキシコについては、累積債務・金融危機の両方の影響により約1.4%低下。

図表19 各国・地域のGDPシェアの推移と展望(試算)

 

(備考) 図表18の数値を集計加工。

図表20 主要国の一人当たり実質GDP成長率(試算)

 

(備考)

1.図表18の数値を加工。

2.1990-2010年の平均成長率。

図表21 GATT/WTO、APEC、NAFTAによる関税及び関税等価の変化

輸出入国・地域 輸入 輸出
オセアニア

3.97

-0.29

日本

4.74

-3.14

インドネシア

1.82

-2.13

マレーシア

6.11

-5.81

フィリピン

14.32

-3.26

タイ

9.30

-1.84

中国

6.33

-2.50

韓国

9.85

-1.55

シンガポール

2.69

-1.37

香港

0.00

-3.35

台湾

2.66

-1.72

インド

11.20

-4.10

アメリカ

5.88

0.03

カナダ

2.59

0.13

メキシコ

6.32

-0.43

ラテン・アメリカ

2.32

-1.26

欧州連合

2.01

0.47

アフリカ

0.12

-1.20

旧東欧・ソ連

0.00

0.00

その他世界

3.47

-3.10

(備考)

1.数値は、関税及び関税等価(数量制限等を関税化して表現したもの)が変化する幅を表している(%ポイント)。

2.a: GATT/WTOについては、Will Martin and L. Alan Winters (1995) “Assessing the Uruguay Round and the Developing Economies” The World Bank Discussion Paper No. 307、Joseph. Francois et. al., A user’s Guide to Uruguay Round Assessments、などによる評価を引用。

b: APECについては、APEC Economic Committee(1997) The Impact of Trade Liberalization In APEC としてバンクーバ閣僚会議に報告された分析を用いた。

c: NAFTAについては、域内国間貿易にかかる関税及び関税等価の全廃を想定。

なお、基本データは、GTAP version 3.0による。

3.輸入面の数値は1.の定義による輸入関税及び関税等価の引き下げ幅。

4.輸出面の数値は輸出自主規制、MFA(多国間繊維協定)、輸出補助金の廃止による関税等価の変化幅。なお、マイナスは、輸出自主規制やMFA廃止による輸出国の製品にかかる関税等価の引き下げ幅を意味し、プラスは、輸出補助金撤廃である。

5.平均税率は、14商品及び20の国・地域間の1992年の貿易ウエイトで計算した。

図表22 1992~2010年の世界貿易の成長(試算)

地域名

輸出

自由化

輸入

自由化

商品名

貿易量

自由化

オセアニア

3.5

0.5

3.6

0.5

農林水産業

2.9

1.4

日本

2.4

1.4

3.1

1.8

鉱業

3.5

0.5

インドネシア

5.2

0.9

5.4

0.8

食品加工業(タバコ含む)

2.5

1.7

マレーシア

7.2

1.4

7.6

1.2

繊維・アパレル業

3.4

4.2

フィリピン

5.3

2.8

4.6

2.3

化学業

3.5

1.4

タイ

6.6

1.2

5.8

0.9

金属業

3.9

1.1

中国

7.3

1.0

6.7

0.8

輸送機械業

3.3

1.0

韓国

4.7

1.1

4.5

1.0

一般・工作機械業

3.8

1.9

シンガポール

5.8

0.3

5.6

0.3

その他製造業

3.4

0.8

香港

5.0

0.3

4.0

0.2

     

台湾

4.3

0.4

4.6

0.4

     

インド

4.9

1.7

4.6

1.4

     

アメリカ

3.0

1.1

3.0

1.0

     

カナダ

3.2

0.3

3.2

0.3

     

メキシコ

2.5

1.2

2.2

1.2

     

ラテン・アメリカ

3.4

0.5

3.2

0.4

     

欧州連合

2.6

0.6

2.8

0.7

     

アフリカ

3.8

0.1

3.3

0.1

     

旧東欧・ソ連

2.5

1.0

2.4

0.9

     

その他世界

4.9

0.6

4.0

0.4

     

世界計

3.5

0.8

         

APEC

3.9

1.0

         

(備考)

1.経済企画庁総合計画局による試算。

2.数値は、1992年から2010年の年平均変化率(%)。

3.自由化効果はウルグァイ・ラウンド合意、マニラ行動計画、NAFTA自由化の三つの効果である。自由化欄は、純効果になっているため、輸出入変化に加えたものが自由化後の値となる。

4.本試算では、財・サービス貿易自由化にかかるFacilitation効果、直接投資に付随する貿易促進効果などが折り込まれていない。従って、試算の値は予測の下限値とみなせる。

5.輸出入価格を掛け合わせた貿易バランスは1992年の時点から不変と仮定。

図表23 主要国における比較優位の変化(試算)

日本

 

(備考)

1.経済企画庁総合計画局による試算。

2.顕示比較優位係数は、総輸出に占める当該品目の比率に対するある国の輸出に占める同一財の比率である。すなわち、1を超えれば世界平均より多く当該品目を輸出しており、1以下であれば少ないことになる。

アメリカ

 

(備考) 同上

中国

 

(備考) 同上

タイ

 

(備考) 同上

図表24 主要先進国の失業率・賃金格差の推移

 

(備考) OECD “Economic Indicators”より作成。

 

(備考)

1.経済企画庁「平成8年度 年次世界経済報告」より作成。

2.賃金が上位10%のところにある労働者の賃金が、下位10%のところにある者の何倍であるかを示している。

3.ここでの賃金とは、時間当たりの賃金・給与所得を労働時間で乗じたもの。

図表25 欧州、日本及びアメリカにおける失業率と実質GDP変化率

 

(備考)

1.IMF “International Financial Statistics Yearbook 1997”、経済企画庁「国民経済計算年報」、OECD “Labor Force Statistics 1976-1996”、同 “Main Economic Indicators”より推計。

2.グラフのX軸は、実質GDP変化率、Y軸は失業率。

3.データの期間は、1983年から95年。

4.今期の失業率がn期前の実質GDP対前年変化率と最も強い相関があるものをラグnとしている。

図表26 アジア通貨の推移(対USドル)

 

(備考)

  1. IMF及び各国・地域統計による。ただし、1998年1月以降はData Streamによる。
  2. 1997年1月における月中平均レートを100としたときの97年1月~98年2月の月中平均レートの推移。

図表27 グローバリゼーションの効果

 

補論 1: 2010年世界経済展望の手法について

基本的考え方

次の四つの効果によって一人当たり実質国内総生産成長率を推計する

1.一人当たり国内総生産は、時間と共に収斂している(キャッチ・アップ効果: 補論図表1)

2.中等教育水準は、一人当たり経済成長率を高める(人的資本蓄積効果:補論図表2)

3.投資率の高さは、一人当たり経済成長率を高める(物的資本蓄積効果: 補論図表3)

4.人口増加率の高さは、一人当たり経済成長率を低下させる(人口効果)

物的資本蓄積効果については経済発展の段階を考慮した

1.安定成長にある低所得(アフリカ諸国など)及び高所得(OECD)段階

2.アジアNIESのような高成長を実現する中所得、もしくは離陸段階

3.ASEAN諸国のような高成長を実現する低所得からの離陸前期段階

累積債務危機や金融危機の影響を考慮した

1.対外債務の水準は、一人当たり成長率を低下させる(累積債務効果)

2.金融危機の発生は、一人当たり経済成長率を低下させる(金融危機効果)

データの出所

1.World Bank(1997) World Development Indicators

2.World Bank(1995) World Tables

3.World Bank(1994) World Population Projections 1994-95

4.Council for Economic Planning and Development(1997) Taiwan Statistical Year Book 1997

5.IMF(1996) Bank Soundness and Macroeconomic Policy

6.CEA, U.S.(1998) The Annual Report of the Council of Economic Advisers

7.U.N.(1996) World Population Prospects The 1996 Revision

8.経済企画庁(1997)「国民経済計算」

推計手順

1.各国の1970~1990年の一人当たり年平均GDP成長率を計算

2.1970年時点における米国と各国の一人当たりGDP格差(1987年価格表示を87年為替レートでドル換算)を計算

3.1970年時点の中等教育就学率、1970~90年の平均投資率と人口変化率を計算

4.1.の平均成長率を2、3の要因によって回帰。なお、投資率は平均投資率の他に、高成長を実現する成長段階にあったNIEs諸国、ASEAN諸国に対して投資効率上昇ダミーを設定した。また、1978~90年のデットサービスレシオ(債務の元利払い/財・サービス輸出)が平均で25%を超える国(アルジェリア、ボリビア、ブラジル、ブルンジ、コロンビア、コンゴ、コスタリカ、コートジボアール、エクアドル、ホンジュラス、ハンガリー、インドネシア、ジャマイカ、ケニア、マダガスカル、マラウィ、モロッコ、パプアニューギニア、ペルー、ベネズエラ及びザンビアの21か国)には累積債務ダミーを、1985年までに金融危機が生じていた国(中央アフリカ、クウェート、セネガル、南アフリカ、スペイン及びタイの6か国)には金融危機ダミーを、いずれにも該当する国(アルゼンチン、チリ、ガーナ、メキシコ、フィリピン、トルコ及びウルグアイの7か国)には累積債務・金融危機ダミーを設定した。

推計結果

推計結果は次の通りである。

(1) 推計式 (αは定数項、β1~β4及びγ1~γ5はパラメータ)

1970-90年の年平均1人当たり実質GDP成長率

=α

+β1×70年のアメリカとの1人当たり相対GDP

+β2×70年の中等教育就学率

+β3×70-90年の期間平均投資率

+β4×70-90年の年平均人口増加率

+γ1×NIEsダミー(70-90年の期間平均投資率)

+γ2×ASEAN・中国ダミー(70-90年の期間平均投資率)

+γ3×累積債務ダミー(1)

+γ4×金融危機ダミー(1)

+γ5×累積債務・金融危機ダミー(1)

(2) 推計結果

 

値 (t値)

α

0.7158

(0.9846)

β1

-0.0203

(-4.1210)

β2

0.0260

(3.0287)

β3

0.0557

(3.0245)

β4

-0.3177

(-1.8800)

γ1

0.1277

(6.0592)

γ2

0.1047

(4.9971)

γ3

-0.6058

(-2.0101)

γ4

-0.9119

(-1.7384)

γ5

-1.3854

(-3.0130)

自由度修正済決定係数 (R2) 0.6629

観測数 100

予測手法

1.1990~2010年の人口予測は、地域・国別に高位推計、中位推計、低位推計を想定(補論図表4)

2.1990年時点の中等教育就学率とアメリカ経済との格差を計算

3.1990~2010年の平均投資率は、1970~1995年の平均値と同一であると想定

4.NIEs諸国は安定成長期に入るため、OECD諸国と同様の投資効率と想定

5.ASEAN諸国(フィリピンは除く)と中国は引き続き高めの投資効率を実現すると想定

6.インド、チリ、ベトナムの3カ国がASEAN諸国並みの投資効率を実現すると想定

7.1990~1995年のデットサービスレシオが25%を超える国(アルジェリア、ボリビア、ブラジル、ブルンジ、コロンビア、コートジボアール、エクアドル、ガーナ、ホンジュラス、ハンガリー、インド、ケニア、モロッコ、モザンビーク、ニカラグア、パキスタン、パプアニューギニア、シエラレオネ、トルコ、ウガンダ、ウルグァイ及びジンバブエの22か国)に累積債務効果を想定

8.1990年以降に金融危機が発生している国(ブルガリア、中央アフリカ、フィンランド、韓国、ナイジェリア、南アフリカ、タイ及びベネズエラの8か国)に金融危機効果を想定

9.1990~1995年のデットサービスレシオが25%を超え、かつ、1990年以降に金融危機が発生している国(アルゼンチン、インドネシア及びメキシコの3か国)に累積債務効果及び金融危機効果を想定

10.以上で計算した実績値及び想定した数値を先の推計式に代入し、1990~2010年の平均GDP成長率を計算

11.1990-95年は実績値を用い、96年以降が予測値になるとして、調整済予測値を計算

補論図表 1 一人当たり国内総生産の国際的収束(キャッチアップ効果)

主要国・地域の一人当たりGDPは収斂する性質を持っている

 

補論図表 2 中等教育就学率の高さと一人当たり経済成長率 (人的資本蓄積効果)

就学率の高い国・地域ほど成長率は高い

 

 

補論図表 3 平均投資率と一人当たり経済成長率(物的資本蓄積効果)

投資率の高い国・地域ほど成長率が高い

 

補論図表 4 人口推計の想定

推計

国・地域

高位推計

アジア(日本・中国・台湾を除く。)、南米、アフリカ

中位推計

中国、台湾、北米、大洋州、旧ソ連

低位推計

日本、ヨーロッパ、

補論 2: 生産・貿易構造変化の展望手法について

基本的考え方

次の特徴をもった経済モデルによって事前・事後の生産・貿易構造を描く。

1.経済は、企業、家計、政府部門及び外国部門によって構成(補論図表5)。

2.世界経済は、20地域の14産業部門によって構成(補論図表6)。

3.企業部門(14産業)は、労働市場で労働を需要、国内外合わせて20地域から中間投入財を需要し、財を供給。中間投入構造は産業連関表に従う。労働と資本は代替的であり、賃金が相対的に上昇すると資本をより投入するようになる。農業部門には土地も生産要素として使用。

4.家計及び政府部門は、内外20地域から14種類の財を需要する。14種類の財別需要量は、財の相対価格と所得変化によって決まる。家計と政府部門の貯蓄は合成されて一国の貯蓄となり、企業部門の投資によって吸収される。

5.貯蓄投資差額は、輸出入差額に一致。輸出は外国の輸入として決定。

6.単純化の為に、政府部門は独立した会計バランスをもたない。三面等価は常に成立

7.全ての財市場と労働市場、そして資本(貯蓄・投資)市場は、財価格や賃金率が伸縮的に動くことで需給調整を行う。

8.輸入と国内財は代替的であり、相対価格変化に応じて両数量が変化する。

9.名目為替レートは存在せず、交易条件は、対世界供給価格(輸出価格)と対世界需要価格(輸入価格)の比率で決定。

データの出所

1.Global Trade Analysis Project, Version 3.0 Data

2.補論1の予測結果

予測手順

1.1992~2010年の世界各地域の累積GDP成長率を資本ストック増加、労働人口増加、生産性変化に分解。

2.先の経済モデルの中で、これらの要素成長が発生したとしてシミュレーションを行う。

3.各地域の財価格や賃金率、資本収益率は、輸入と国内生産額が中間需要、家計と政府の最終需要額に一致するように変動し、全ての市場を均衡させる。

4.最終的に均衡した状態が、2010年の姿であるとの仮定して検討する。

補論図表 5 応用一般均衡分析の枠組み概念図

 

補論図表 6 分析用に集計した地域と産業・商品分類

地域・国

地域・国名

略号

具体的地域・国名

オセアニア

(ANZ)

Australia, New Zealand
日本

(JPN)

Japan
インドネシア

(IDN)

Indonesia
マレーシア

(MYS)

Malaysia
フィリピン

(PHL)

The Philippines
タイ

(THA)

Thailand
中国

(CHN)

China
韓国

(KOR)

Republic of Korea
シンガポール

(SGP)

Singapore
香港

(HKG)

Hong Kong
台湾

(TWN)

Chinese Taipei
インド

(IND)

India
アメリカ

(USA)

United States of America
カナダ

(CAN)

Canada
メキシコ

(MEX)

Mexico
ラテン・アメリカ

(LTN)

Central America & Caribbean, Argentina, Chile, Brazil, Rest of South America
欧州連合

(WEU)

European Union 12, Austria-Finland & Sweden, European Free Trade Area
アフリカ

(AFR)

Middle East & North Africa, sub Saharan Africa,
旧東欧・ソ連

(FSU)

Central European Associates, Former Soviet Union,
その他世界

(ROW)

Rest of South Asia, Rest of World

財・産業

財・産業名

(略号)

具体的財・産業名

農林水産業

(AGR)

Paddy rice, wheat, grains, non grain crops, wool, other livestock, forestry, fishery
鉱業

(MNG)

Coal, oil, gas, other minerals
食品加工業(タバコ含む)

(PFD)

Processed rice, meat products, milk products, other food products, beverages & tobacco
繊維・アパレル業

(TXL)

Textiles & wearing apparels
化学業

(CHM)

Petroleum & coal products, chemicals rubbers & plastics, nonmetallic mineral products
金属業

(MTL)

Primary ferrous metals, non ferrous metals, fabricated metal products
輸送機械業

(TRN)

Transport equipment
一般・工作機械業

(OME)

Machinery & other equipment
その他製造業

(OMF)

Leather etc., lumber & wood, pulp paper etc., other manufacturing
電力・ガス・水道業

(EGW)

Electricity-gas & water supply
建設業

(CNS)

Construction
運輸・流通業

(T_T)

Trade & transport
民間サービス業

(OSP)

Other services (private), ownership of dwellings
公共サービス業

(OSG)

Other services (government)

(備考) GTAP database, Version 3.0より作成

補論 3: 比較優位の変化について

我が国の機械業は、基準年(1992年)時点で1.54の比較優位水準を示している。2010年には1.46に低下し、自由化措置によって1.67に上昇することが示唆される。これはどのようなメカニズムによるかを検討する。便宜上、自由化なしの2010年をケース1、自由化ありの2010年をケース2とする。

(なお、ここでの比較優位は顕示比較優位係数(以下RCAと略)の定義に基づいて議論を進める。RCAとは、世界総輸出に占めるある財の比率によって特定国の総輸出に占めるある財の比率を基準化したものである。例えば、我が国のある財aの総輸出に占める比率が20%であり、世界全体の輸出に占めるa財の比率が10%である場合には、係数が2(=20/10)となる。なお、今回の計算では、農業産品や原燃料(石油や鉄鉱石)を除く製造業製品について検討した。この理由は、貿易量の少ない品目等が多いことや貿易制限措置が多いことなどによってRCAの値が歪んでしまうためである。)

RCAの変化は、国内他産業の輸出がどの程度伸びるのかに依存しているため、製造業全体の変化との相対概念である。補論図表7から動きをみると、機械製品の輸出額は基準年(1992年)に製造業製品輸出額の74.08%を占めていた。労働力、資本ストック、生産性が変化した後のケース1では、52.02%の累積増加率を示すものの、製造業製品全体が56.31%の伸びを示したため、シェアは72.05%に低下する。世界輸出額全体に占める機械製品の比率が49.35%あることから、比較優位産業と分類されるものの、係数は低下する。

ケース2では、我が国の機械製品輸出額の累積変化率が140.32%と急拡大を示す。他方、製造業製品合計額は1992年から117.27%の累積増加となるため、シェアは81.94%へと上昇する。世界輸出額に占める機械製品のシェアは49.07%であり、我が国は世界平均を大きく上回る。

1国の輸出変化は世界各国の輸入変化の加重平均である。各国の輸入変化は、次のように表現される。今、A~Z国で世界が構成されるとAからB国への輸出は、B国側から次の式で表される。

A国からの輸入量変化 = B国の総輸入数量変化-価格弾力性×(A国からの輸入価格変化-B国の平均輸入価格変化)

すなわち、B国経済の拡大によって輸入需要が拡大した場合、第一の項によって各国への輸入需要が増加する。しかし、価格変化が異なっていることから均等には増加せず、加重平均より価格低下した国からは多く、逆の国からは少なく輸入する。仮に、総輸入量が100%増加し、価格弾力性が5である場合、B国の平均輸入価格が10%下落する中で、A国からの輸入価格が20%下落したとすると、100-5×(-20+10)=150となり、150%の数量増加になる。

A国からの輸入価格変化は、関税引下げ効果と輸入(CIF)価格変化の合成である。CIF価格変化は、輸出(FOB)価格変化と保険料や輸送費変化の合成であり、FOB価格の変化は輸出関税変化とA国国内出荷価格変化の合成である。A国国内出荷価格は、税の変化がない場合に生産コスト変化と一致し、これは中間投入財価格、賃金率、資本のレンタル価格によって決まってくる。すなわち、貿易変化は輸入国の需要変化、輸出競争国との相対価格変化として観察されるが、輸出価格を決めているのは各国の賃金率に代表される生産要素価格である。ケース1では国内の生産コストの上昇(賃金上昇)によって比較優位が低下しているが、ケース2では各国の関税引下げにより輸出が伸びた、と解釈できる。比較優位係数(RCA)は、「産業毎に生産コスト構成が異なることで、輸出品全体のコスト変化と乖離する」ことで変化し、生産コストの変化は主に資本労働比率の違いや関税の違いによる(補論図表8)。

補論図表 7 我が国製造業の商品別輸出及び世界の機械品輸出(試算)

 

1992年

ケース1(2010年)

ケース2(2010年)

商品名

金額

シェア

金額

シェア

伸び率

金額

シェア

伸び率

食品加工

1465

0.43%

2598

0.49%

77.30%

2587

0.35%

76.57%

繊維・アパレル

8979

2.65%

11697

2.21%

30.28%

9043

1.23%

0.72%

化学

29645

8.76%

51603

9.75%

74.07%

56579

7.69%

90.85%

金属

22563

6.67%

39899

7.54%

76.83%

24600

3.35%

9.03%

機械

250725

74.08%

381144

72.05%

52.02%

602535

81.94%

140.32%

その他製造

25072

7.41%

42075

7.95%

67.81%

40002

5.44%

59.55%

製造業品合計

338449

100.00%

529016

100.00%

56.31%

735346

100.00%

117.27%

機械品世界計

1091759

48.23%

2090644

49.35%

91.49%

2414750

49.07%

121.18%

世界輸出計

2263515

100.00%

4236436

100.00%

87.16%

4921444

100.00%

117.42%

(備考)

1.データはGTAP version 3.0による。ケース1、2は経済企画庁総合計画局による推計値。

2.金額は100万USドル(1992年価格表示)である。

3.ケース1は自由化措置のない場合であり、ケース2は自由化措置を含めた場合である。

4.ケース1、2の伸び率は1992年からの数値である。

5.機械品世界計のシェアは、世界輸出計に占める機械品の比率である。

補論図表 8 我が国の産業別要素集約度

 

AGR

MNG

PFD

TXL

CHM

MTL

TRN

OME

OMF

EGW

CNS

T_T

OSP

OSG

土地

24.7

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

労働

51.6

50.3

56.6

75.0

48.3

54.6

60.6

57.1

65.9

31.3

70.9

74.8

38.0

89.9

資本

23.7

49.7

43.4

25.0

51.7

45.4

39.4

42.9

34.1

68.7

29.1

25.2

62.0

10.1

 

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

(備考)

1.データはGTAP version 3.0による。

2.産業名は、補論図表6を参照のこと。

3.基準年(1992年)の数値であるが、均衡データ作成のため他の統計資料と完全に一致するわけではない。

4.数値はシェア(%)である。