経済審議会政策推進部会政策小委員会(第4回)

日時: 平成 12年 4月 28日
場所: 経済企画庁官房会議室(708・709)
経済企画庁


経済審議会政策推進部会政策小委員会(第4回)議事次第

平成12年4月28日(金)14:00~16:00
経済企画庁官房会議室(708・709号室)

  1. 開会
  2. 人的資源の活用方策について
  3. 閉会

(配布資料)

  • 資料1.経済審議会政策推進部会政策小委員会委員名簿
  • 資料2.少子高齢化社会・人口減少社会における人的資源の活用方策に係る論点メモ
  • 資料3.IT革命の推進に係る論点メモ
  • 資料4.「少子高齢・人口減少社会における人的資源の活用方策について」(参考資料)

(出席者)

 (委員)

 水口 弘一委員長、木村 陽子委員、清家 篤委員

 (経済企画庁)

 中名生事務次官、牛嶋総合計画局長、永谷総合計画局審議官、塚田総合計画局審議官、
藤塚計画課長、山崎計画官 他

 (有識者)

 奥西法政大学経営学部教授

 永瀬御茶の水女子大学生活科学部助教授


経済審議会政策推進部会政策小委員会委員名簿

         植田 和弘  京都大学大学院経済学研究科教授
木村 陽子  奈良女子大学生活環境学部教授
委員長代理  香西 泰   (社)日本経済研究センター会長
清家 篤    慶應義塾大学商学部教授
委 員 長   水口 弘一  (株)野村総合研究所顧問
村井 純    慶應義塾大学環境情報学部

(50音順、敬称略)


〔 委員長 〕 定刻になりましたので、ただいまから第4回政策小委員会を開催させていただきます。

 本日は、皆様にはお忙しいところをご出席いただきましてありがとうございます。

 今日は、人的資源の活用方策についてご議論いただきますが、前回同様、委員以外の有識者の方にもご参加いただいておりますので、まず、事務局から紹介をしていただきたいと思います。

〔 事務局 〕 法政大学経営学部教授の奥西様でございます。

 御茶の水女子大学生活科学部助教授の永瀬様でございます。少々遅れられておりますが、間もなくお見えになると思います。

〔 委員長 〕 どうもありがとうございました。

 それでは、本日のテーマであります人的資源の活用方策に関して、「少子高齢化社会・人口減少社会における人的資源の活用」と「IT革命推進のための人的資源の活用」という2つの視点からご審議いただきたいと思います。

 事務局から説明をお願いいたします。

〔 事務局 〕 お配りさせていただいております資料をもとにご説明したいと思います。

 まず、資料2の少子高齢・人口減少社会における人的資源の活用方策の論点メモをご覧ください。

 最初に1.基本的認識として、今さら言うまでもなく2015年には総人口の4人に1人が65歳以上の高齢者ということで、少子高齢化に伴いまして、労働力人口も2005年頃をピークに減少していくことが見込まれているわけでございます。

 そこで、まず(1)現役労働者はもちろん、働く意欲と能力のある高齢者や女性を積極的に活用していき、さまざまな形で社会を支えていくシステムに変えていく必要がある。

 もう1点、(2)として高齢者、女性の積極的な活用によって少子高齢化のもたらす経済への負担の軽減に資することが重要ではないかという点を考えております。

 次に2.今後の方向性につきましては3点ほど示しておりますが、(1)働く意欲と能力のある高齢者や女性を活用して、年齢、性別にとらわれず、個人の能力を十分発揮することができるシステムを確立する。

 そして(2)今後の経済構造の変化によって、従来の長期雇用システムの維持が困難になることが見込まれるので、1つの企業による長期の雇用保障ではなく労働移動を前提とした社会全体として雇用を保障するという雇用システムへ移行することが必要であり、そういう意味で能力を生かした円滑な労働力の移動が図れるシステムを確立する。

 さらに(3)新しい知恵の創造による経済と文化の活性化が行われる多様な知恵の社会にふさわしい創造性と多様性を持った人材が育ち、活躍できるためのシステムを確立するということを考えております。

 最後に3.今後の人的資源活用方策としては、まず(1)高齢者の活用ということで、年齢にかかわりなく能力を生かすことができる仕組みを構築していくことが必要となっておりますが、1998年4月に60歳以上定年制が義務化されましたが、現在のところ、希望者全員について65歳までの継続雇用を実施している企業は大体2割程度にとどまっているのが現状でございます。

 また、年金の支給開始年齢も引上げること等を考えますと、定年延長も含めて何らかの形で継続雇用を図るとともに、高齢者の再就職が円滑に促進されるように努めていく必要があるのではないか。

 そして、高齢期になりますと就業意識や体力も多様化し、個人差が大きくなりますので、そういう意味でも多様な働き方を希望する労働者が増加していくことから、フルタイム、パートタイム、任意就労といったさまざまな雇用・就業機会を提供していくことが必要ではないか。

 さらに、今度のミレニアム・プロジェクトでも話題になっておりますが、高齢者の作業適正に関する調査を実施し、将来の勤務・作業形態、高齢者対応機器等のあるべき姿を解明することとしていってはどうかという点を考えております。

 これらにも具体論を言い出すといろいろあるかと思いますが、昨年の「あるべき姿」におきましては、「年齢にとらわれない社会」というところで長期的な雇用環境の見直しの話とか、あるいは定年になって高齢者の賃金が半分ぐらいに下がってしまう理由の1つとして、OJTで長期的に能力を育成するのはいいのですけれども、企業特殊的な能力の育成に傾きがちで、労働市場で通用するような能力の育成が必ずしも十分ではないのではないかということで、エンプロイアビリティーの向上といったような点も指摘したところでございますが、このような具体論について後ほどご議論いただければと考えております。

 (2)男女共同参画の推進ということですが、これも少子高齢社会のもとにおいては、男女とも仕事と家庭を両立させて、生涯を通じて充実した職業生活を送ることができるような環境を整備していくことが必要となってまいります。このため、例えば育児・介護休業が取りやすくて、職場に復帰しやすい環境の整備、職場の雰囲気の改革を図ることが重要ではないか。また、育児・介護休業を取得せずに働き続けようとする労働者や育児・介護復帰後の働き方といたしまして、育児・介護に配慮した勤務時間の短縮等多様な選択肢を認めていき、男女ともに仕事と家庭の両立が図れるよう支援していくことが必要ではないか。また、一度離職した場合におきましても、能力を生かして円滑に再就職できるような各種の情報提供を行なっていくことが必要ではないかという点がございます。

 次に、企業の人事管理の能力主義への変更とともに、性別にとらわれない人材活用といったことも重要になってまいりますので、男女雇用機会均等法の趣旨・目的の積極的な周知、あるいは紛争処理等についても迅速な解決を図る必要があるのではないか。また、女性の活用の現状を客観的に把握して、男女の活用状況にアンバランスがある場合には、いわゆるポジティブアクションを一層促進していくことが重要ではないかという点もございます。

 これ以外にも、多様な保育サービスとかいろいろ論点はあろうかと思いますけれども、後ほどご議論いただければと考えております。

 (3)自発的な能力開発支援については高齢者や女性の活用のための前提となる話の1つでございますが、自発的な能力開発ということで従来は長期雇用を前提といたしましてOJTを中心とした能力開発といったものが中心だったわけですが、これからは1つの企業で、例えば65歳なりそれ以上まで保障するといったようなことは困難になっていくと見込まれますので、そういう意味では企業外でも通用する能力を開発することが重要となるのではないか。そういうことで教育訓練給付制度の拡充等、個人が自発的に能力開発を行なう際の支援を行なうことが重要ではないかという点がございます。

 これ以降は職業訓練も含めて教育面の話でございますが、(4)高度な職業能力開発の場としての教育機関の活用ということで、今後、新たな知的価値の創造による企業の競争力の強化が求められるとともに、能力主義が進展していく社会において、職業能力開発、エンプロイアビリティーの向上といいますか、それを強化するという観点から、大学院等の教育機関を高度な職業能力開発の場として位置づけまして、専門大学院、夜間・通信制大学院の設置の促進など高度な専門職業人の育成や、生涯にわたって高度な知識や技術を習得できるシステムの構築が必要ではないか。例えば一橋大学におきます専門大学院とか、あるいは法政大学におきましてもIT関連の1年間の大学院コースといったような動きも見られるわけでございますが、このようなものをどんどん促進していくべきではないかという点でございます。

 (5)多様な知恵を有する人材の育成につきましては、要は、豊かな創造性と多様性を持って自己に責任を持てる人材を育成することが重要で、そのためには、特色ある教育、またそれを選択できるような機会の確保といったものが重要となってくると思われます。そこで、学校における独自のカリキュラムの設定であるとか、社会人の活用の促進などの特色のある教育を推進するとともに、中高一貫教育校の設置の促進など多様な学校の設置を通じて選択機会の拡大を図っていくことが重要ではないか。そういうことによって個性を伸ばして多様な選択ができる教育システムを構築していくことが必要である。またグローバル化、ネットワーク化が進展するとともに、経済構造の変化が激しい今の時代にありましては、自ら時代に対応した能力を身につけることができる人材の育成が求められておりますので、生涯を通じて自らが自由に学習できる環境の整備を進めていく必要があるのではないかと考えております。

 最後に(6)知の交流による新しい知恵の創造ということで、新たな価値の創造の時代においては、世界のトップレベルの外国人研究者、あるいは優れた若手研究者の受入れを推進して、我が国の研究水準を高めていくことが重要ではないか。そういったことから外国人研究者の雇用の推進、招へいの拡充、あるいは受入れ環境の整備を図るなど、魅力ある研究体制・環境を築いていくことが重要ではないか。

 また、留学生の受入れにつきましても、いろいろな価値観を持った、あるいはいろいろな思想を持った人たちの交流といったものが国際的な視野、あるいは多様な価値観を持つ人材の育成に資するということで、現在、留学生10万人計画といったものを目指しておりますが、その半分程度にとどまっているのが現状でございます。つまり、魅力ある教育プログラムの開発とか、あるいは留学生宿舎の整備等の受入れ体制の一層の充実を図っていく必要があるのではないかという点でございます。

 次に、IT革命を踏まえた人的資源の活用ということでは、資料3のIT革命の戦略的推進に係る論点メモの2ページの3.(3)2)IT革命時代に対応した人的資源活用システムとありますが、ここでは基本的な方向性のみを示す予定でおりまして、具体的なことについては4.(2)の5)IT革命時代の変革とスピードに対応できる経済社会システムの構築の方に示す予定になっております。

 この中の②で労働市場の機能強化と労働者の能力開発の重要性を指摘することを考えておりまして、IT革命によって、例えばデータの収集・伝達のような事務労働、あるいは単純管理労働といったようなものが少なくなって、よりアイディアの創造に関わる専門的知識労働に対する需要が高まることが見込まれております。そういう業務内容のシフトは、企業が労働者に対して求める能力と実際の労働者の能力とのミスマッチを生じさせることとなることから、ミスマッチ解消のための労働市場の機能強化、あるいは労働者の能力開発支援を推進していく必要があるのではないか。

 例えば、アメリカ商務省発表の「デジタル・エコノミー2」によりますと、全産業の平均賃金が大体3万ドルに対してIT産業では5万3,000ドルということが書いてありまして、そういう意味でIT革命によって創出される雇用は非常に質のいい雇用だという表現がされておりますが、その一方で、それに対応するための能力の開発とか、あるいは労働市場のマッチングといったものが必要ではないかということでございます。

 また、これからIT革命に対応していくためには、情報通信技術を持つ人材をいかに増やし育成するかといったことが課題となっておりまして、それがうまくいかない場合には、いわゆるデジタルデバイドといった面も出てくるということになろうかと思います。そういうことで、グローバル社会、IT時代にふさわしい人材の育成が重要になってくるわけで、初等中等教育段階からのグローバルリテラシーとしての情報活用能力や外国語能力、特に英語の習得が重要になってくると見込まれますので、これを積極的に充実する必要があるのではないかということもございます。

 その具体論といたしましては、4点ありますが、まず(ア)労働市場の需給調整機能の強化ということで、労働市場のミスマッチ解消がIT革命をマクロ経済の成長につなげていく観点から非常に重要になってきているわけでございます。そういった観点から労働者派遣事業、あるいは有料・無料の職業紹介事業については、労働市場のミスマッチを解消する役割を担うことが期待されているところでございまして、新制度の施行状況等を勘案しつつ労働者派遣事業の派遣期間等の在り方について必要な検討を行なうべきではないか。また、無料職業紹介事業の許可制度の在り方についても、改正法施行後の活用状況を勘案しつつ検討を行なってはどうかという点がございます。そして、インターネット等を利用した情報提供、職業紹介はミスマッチの解消に大きな役割を果たしていくことが期待されますので、そういうインターネット等を通じた情報提供が必要ではないかという点もございます。インターネットを用いたマッチングにつきましては、例えばアメリカにおいてはモンスター・ドット・コムとか、あるいはキャリアパスといったようなもので、インターネットで職業紹介事業を行なっています。全世界を対象としたインターネットによる職業紹介なども行なわれているようでございます。

 次に(イ)労働条件、勤務形態の多様化、弾力化でございますが、IT革命の進展によって業務の効率化が進みますと、例えば在宅勤務なども可能になってきますので、通勤が困難である等の理由から就業していなかった女性ですとか、高齢者、障害者が、その能力を生かして就業することが可能になってきている。このような観点から裁量労働制を活用してIT産業を担う創造性豊かな人材が主体的に働きやすくするための条件整備を行なうなど、労働条件とか勤務形態を多様化、弾力化するための環境を整備することが必要ではないかと思われます。

 そして(ウ)企業外部での職業能力開発システムの充実ということで、IT革命によって労働者に必要とされる技能が非常に早く変化するとともに、高度化していくといったようなことが見込まれますので、労働者自身の自発的な職業能力開発が求められているところでございます。こういった観点から引き続き教育訓練給付制度の拡充を図るとともに、平成14年4月の開校を目指しているようですが放送大学における大学院の設置、あるいは修士課程の1年制コース及び長期在学コースの大学院の設置等による自発的な能力開発を行なう環境を整備していく必要があるのではないか。また、ビジネス・キャリア制度の充実等のホワイトカラーの労働移動の円滑化に資するための施策についても引き続き講じていく必要があるのではないかといったような点でございます。

 最後に(エ)有能な外国人労働者の活用ということについては、IT技術者につきましては世界的に不足する傾向にありまして、先進各国が人材の確保に動きだしているところでございます。例えばアメリカにおきましても、これはIT関連を念頭に置いているようでございますが、1998年の議会の決定によりまして高熟練労働者のビザを年間6万5,000人から2001年度までの時限でございますけれども10万人以上に拡大したといったような動きもあるところでございます。こういうIT革命の進展のスピードやグローバルベースでの競争による経済の活性化のためにもIT技術者の積極的な受入れを行なってはどうか。それとともに、少子高齢人口減少社会の方の話ともダブりますが、留学生対策につきましても重要ではないか。こういった点が問題意識でございます。

 以上で説明を終わります。

〔 委員長 〕 ありがとうございました。

 それでは、委員の皆様、奥西様、永瀬様、ただいま説明のありました人的資源の活用方策につきましてご意見、あるいはご質問等をお願いしたいと思います。

〔 委員等 〕 ここで申し上げたいのは、1つは高齢者の雇用対策をどういうふうにすべきかということと、もう1つはもう少し大きな前提として構造改革を進めるために流動化が必要だという、その議論についてでございます。

 まず、流動化ですが、私も構造改革を進めるためにはある程度は必要だと思っているのですが、ただ現状を見ますと必ずしもそれほど今後流動化が活発になるとはちょっと見込めないという要因も一方ではあると思うのです。したがって、結論的に言うとそれを支援する政策、必ずしも個人が移らなくても例えば企業側がもっと大胆な構造改革を進められるような施策のサポートが必要ではないかというようなことです。

 その辺のことをさらに敷衍しますと、まず流動化の現状がどうなっているかということですが、統計データとしては主なものが2つあります。1つは労働省が事業所を対象に行なっております「雇用動向調査」で、これは入職率、離職率というとらえ方をしているのですが、高度成長期には大体年間30%ぐらいだったのが、オイルショック以降大体15%前後で推移しております。つまり、その統計で見ますと流動化の程度はかなり落ちてきていて、それが続いているという状況です。もっともここ数年、多少、経営都合解雇という非自発的離職率が高まっているという格好になっております。

 もう1つの調査は総務庁でやっております「就業構造基本調査」と呼ばれるもので、これは世帯を対象にして個人ごとに去年と比べて仕事を替わったかどうかということを調べている調査ですが、それによると必ずしも下がっていない。 

 そこから私がどういうことを考えるかというと、流動化はある程度進んでいるけれども、若い層あるいは女子の場合にはもう少し広い年齢層ですが、非正社員化とかなり係わっている。若年層の場合には、あいまいな言葉ですが「就業意識の変化」と呼ばれるものも係わっている。その層の流動化がどの程度構造改革に積極的に効いているのか、今後、きちんと調べる必要はあると思いますが、やや疑問があると思っていますし、中高年の離転職については率からいうと少ないのですが、その少ない中で比較的非自発的なものが多くて、そういう人たちは失業者になる確率も高いということで、本来、自発的、積極的に有能な人が動いてくれる方がいいのでしょうが、どうも現状はそうなっていないという問題点があろうかと思います。

 そういうことからしますと、どこの国でも若い人ほどよく動くという傾向は変わらないと思っていますが、それを前提にしますと高度成長期のような非常に大きな移動はなかなか期待できないでしょうから、大きな移動は見込めないことをある程度前提にして構造改革を進めていかなければならないのではないか。そのときには、有能な中高年労働者がどんどん替わるようになるというのは理想論なのですが、なかなか難しい面もあると思うので、そのためには企業の側が積極的に変わるといいましょうか、最近、企業分割に関連した法律の整備等が進められているということで、そういうことは非常に重要な意義のあることだと考えています。

 もう1つのトピックスとして、高齢者雇用の問題についてちょっとお話ししたいと思います。ご承知のように現在の政策スタンスというのは、できれば定年を65歳にもっていきたい、あるいは希望者全員に対して継続雇用したい、ところが現状はそうなっていないという認識からスタートしていると思うのですが、私自身は、65歳定年とか希望者全員の継続雇用というのはあまり賛成できないと考えています。というのは、このぐらいの年齢層になりますと、労働力のばらつきがかなり拡大していまして、特に企業の方にお話をお聞きしますと、企業の方は65歳定年というのは基本的には65歳まで継続雇用しなければならないという認識だと思うので、その場合には不適用の方をどうしたらいいのかという問題が起こる。アメリカと違って解雇というのもそう容易にはできない現状の中でそれは非常に負担になるということをかなりよく耳にするわけです。希望者全員ということも同じような問題があるわけです。ですから、特に企業サイドにしてみれば、非常に無理があるのではないかということが、必ずしも賛成できない第1の理由です。

 第2の理由は、現在、60歳定年がほとんど全部の企業にあって、そこでどういう問題が起きているかというと、その後、継続雇用をするにしてもかなり大幅に賃金がダウンします。2,3割から半分ぐらいダウンする。そういうある特定の年齢で非常に大きく賃金がダウンするというやり方は、必ずしも継続雇用という観点からはプラスになっていないという問題があります。

 それから、そのことと対になった問題ですが、特に大企業の労働者の場合には、60歳の定年時の賃金と、再雇用された場合あるいは外部の別の企業に勤めた場合の賃金は一般に非常に大きくダウンするわけです。そのことがおそらく1つの大きな理由となって、60歳の男子の失業率は非常に高いわけです。長年お勤めになって、1年近く失業保険をもらってゆっくり休んで、それからまた働くというのも「べつにいいじゃないか」という議論もあるかとは思いますけれども、例えば中小企業労働者と比較すると、公平性の点でやや問題がありはしないかという点も私は気になっております。

 それから、65歳定年にしろ、希望者全員の継続雇用にしろ発想の基本にあるのは一企業での継続雇用が望ましいということだと思うのですが、私自身は一企業の継続雇用というよりはむしろ仕事とかキャリアが、企業が替わっても継続するかどうかという視点の方が重要ではないかと考えています。そういう理由から65歳定年とか希望者全員の継続雇用というのは無理がある政策ではないかと考えています。

 そのことをもう少し敷衍いたしますと、従来のロジックは中高年の方は外部市場も整備されていないしひとたび出たら失業してしまうため、とにかく企業で抱えてくださいという発想があったと思うのですが、ところが企業で抱えるということが非常に難しくなってきているのが実際だと思うのです。したがって、発想をむしろ逆転させて、企業でずっと60とか70まで抱えることは正直言って難しいですよということをある程度鮮明に打ち出して、そのためにむしろ早いうちから、例えば50代から、もっと言えば40代のあたりからより適した選択肢が選べるような方策を用意し、政策的にはそういう動きを支援するということがいいのではないかと思っています。そのためにどういうことがあるかということを次に簡単にお話しします。

 一言で言いますと、私の考え方はより多様な選択肢をより早期にということに尽きます。つまり、65歳定年とか希望者全員の継続雇用というよりは、むしろより多様な選択肢をより早期にということです。具体的にはどういうことかというと1つは賃金の問題です。定年制がそもそもある理由は年齢によって上がる賃金というのがあるわけですが、今でも既に改革の動きはありますが、今後さらに変えていく必要があると思っていますし、企業内でずっと抱えるというのではなくて、準内部市場といいますか子会社を作ったり関連企業に、独立開業への支援等も含めた外部市場の活用といったものを支援していく必要があるのではないかと考えます。

 IT分野という話も出ましたが、おそらくそういう分野では40代、50代の方を活用する余地というのは非常に大きいだろうと考えています。何も若い人だけができる仕事ではない。例えば企業での情報システムをどう設計するかというと、その企業の仕組みをよく知っている必要があるわけで、それは若い人にはちょっと無理だろうということも考えられますので、そういう分野に有能な中高年の人をどんどん配置していくということも非常に可能性があるのではないかと思っています。

 ネット求人とかそういう職業紹介の話も出ましたが、私自身は基本的にはそういうのは賛成なのですが、ただ、自分の身の回りとかを見ていますと、そういうネットで動くというよりは従来型のインフォーマルなネットといいますか前の上司とか仕事でずっと付き合いがあったとか、そういう人が力を見込んで動くというようなことがあるようなので、人が動くといった場合にもネットがおそらく万能ではないと思うのですが、1つの手段としてあるというのは賛成であります。

 そして、賃金がガクンと落ちるというのは一見単純に考えると雇用にはプラスに思えるわけですが、実際はどうもそうなっていない。これをどう解釈するかというのはもう少しきちんと考える必要があると思いますが、1つの解釈はおそらく賃金をガクンと下げなければ再雇用できない企業というのは、多分、それ以外のいろいろな仕組み、仕事内容から、他の人事労務管理制度なりのやり方がどうも高齢者雇用に向いていないのではないか。あるいは、もちろん労働者の側でそんなに賃金が下がるのだったら再雇用はけっこうですということがあるのかもしれませんが、そういうようなことが出ています。よって、現在の60歳定年でその後賃金をガクッと落としていい人をセレクトして再雇用しますよという制度もあまりうまくいっているとは言えない面もあるということです。

 つまり、現状の60歳定年プラス再雇用というやり方も問題がありますし、それを65歳定年なり希望者全員とするのもかなり無理があるし、また、それを仮に強制的にやってもいい結果が出るとは言えないのではないか。むしろ、そういう一企業での継続雇用という観点を強調するよりは、もう少し早い時期から適したところに行けるような道を用意していくような環境整備が必要ではないかということが、私が一番申し上げたい点です。長くなりましたが以上です。

〔 委員長 〕 ありがとうございました。

 それでは、次の方、お願いいたします。

〔 委員等 〕 いろいろ考えてみたのですけれども、やはり「有子共働きモデル」を基本に据えるということなのではないかと思います。1番目には、結婚後の就業継続は増えているが、出産後の就業継続は一向に増えていない。つまり、結婚年齢を上げて晩婚化が進み、結婚して子どもを生んで仕事をやめるというパターンか、あるいはやめないまま結婚しないまま、生涯一人で生きていくという強い意思があるわけでもないままに30代を過ぎていくという、二極化が進展しているのではないかということです。

 2番目に、育児の母親負担が増え、専業主婦女性による核家族・密室育児が広がった。同居親の減少、別居親、夫が主な協力者となった。つまり、自分以外では、同居でいてくれた親族ではなくなって遅く帰ってくる夫か、あるいは遠くから通ってくれる母のケアが中心になったということですから、母親への育児負担の集中が起こっているわけです。全体としては少しは施設保育ですとか、あるいは育児休業をとる人が増えてはいるけれども、本当に少数であるということです。

 3番目に、育児休業法は施行されたがその利用は出産者の1割にも満たないということです。これはインタビュー調査等をしてみたことがあるのですが、結局、育児休業をして働き続けるのが憧れにはなっていないということです。あまりに大変で、夫にも文句を言っても頼れない。保育園に入れたいと思っても簡単には入れないし、例えば無認可しかなくて見に行ってみたらちょっとと感じた。そして、優等生であればあるほど同僚の目が気になる。同僚の負担が増えるのが気になるということで、魅力的な選択肢になっていないということです。

 4番目に、離職した人がどういうふうに推移するかを調べてみますと、高学歴の女性ほど一度退職すると仕事には戻らないで専業主婦を続けております。そういう意味でもったいないという面があるのではないかと思います。

 5番目に、この10年で、実現はしていないのですが、独身女性の中で「仕事と育児の両立を理想とする」人はやや増えた。25%が29%という程度ですけれどもやや増えた。一番多いのは「育児後再就職するのが理想」というのが4割弱です。専業主婦というのはかなり減っている。「仕事と育児の両立を理想とする」独身女性の7割が「実現しないだろう」と考えているというのがある集計からも出てきます。

 6番目に、仕事か、育児かという代替性は近年強まっていて、しかも大都市ほど強い。その結果、現在の仕事がよいほど晩婚化、あるいは出産タイミングをずらすということで生み遅れが生じている。これはサバイバル分析等をして出てきたのですが、人口規模で見て田舎の方ですと正社員比率が2割と高くて、家事専業が65%ですが、200万以上の大都市になりますと正社員継続は8.3%と低く、家事専業が8割というふうになっております。20万以上の都市になりますと大体8割以上が家事専業になっている。そして、田舎で就業継続が多いというのは、かつては自営業や家族従業が多かったのですが、今は、田舎の方が正社員を続けやすいということになっております。つまり、田舎で育った人たちが大学や短大に入るために都会に出てくるわけですが、仕事を探して住み着く、その場で非常に代替性が高い現状があるということを示しております。

 7番目に保育対策ですが、これは厚生省の方はかなり頑張っていらっしゃると思いますけれども、実質的には変わっておりません。低年齢児保育が足りません。どうしてそういうことになるかというと自治体負担が多く、国負担の上に自治体負担を乗せていますので、そう簡単に増やせないということだろうと思います。認可保育園のコストが高すぎて、無認可への補助が低すぎる。補助がないところもたくさんあります。そして現場での変化は非常に遅い。例えば、一番若い人が集まる関東周辺の地域ですとゼロ歳児の待機率が定員に対して約3割、1歳児で定員に対して1割の待機があります。近畿の周辺もほぼ同じでやや高めの数字になっております。

 8番目に第3号被保険者である女性割合は、労働力率が高まったにもかかわらず中年層でこの10年に増加。補助的労働者としての既婚女性が増加した。

 最後に、若年女性の就職難というのは非常に大きい問題であります。つまり、出生動向調査の戦後生まれの女性を見て非常に驚いたのですが、戦後生まれの方、団塊の世代から今日に至るまで基本的に女性の暮らしがあまり変わっていないのです。結婚時期をずらすということはあっても、あるいは結婚後の就業が若干増えるということがあっても、基本的には仕事をやめ、家庭にはいり、そして社会生活基本調査等を見ますと、ほとんど家事を女性がやっているという状況です。それがいやであるということで少子化が進んでいるのではないだろうか。

 対策としては、暮らし方全般が変化しないと、どこか1つを変えてもおそらく無理だろう。ですから、「片働き専業主婦モデル」から「有子共働きモデル」へというふうに考える。例えば年金制度を含めた社会保障制度上のモデル世帯というものをこういうものに変えて、メディアで情報発信する。特に、既に選択を行なった世代に対しては、そのケアが必要だと思いますけれども、まだ選択をしていない若い層に対して、このモデルが最も有利であるような形にするべきであろう。具体的には、未婚者が増える一方で、より少ない割合の片働き専業主婦が2人を育てるという日本の将来と、有子共働きモデルが実現した場合の日本の将来を比較してみてどうかというのを見てみるといいのではないか。

 そして、絶対に税や社会保険料構造、社会保障制度、また保育園・幼稚園、学童保育といった施設に対する行政、また企業の雇用慣行を含めて(退職金や社宅等に対する税制、転勤、残業に関するルールなど)、こういうものをすべて含めて有子共働きモデルという方に転換する。これは官庁間、経営者団体、労働組合、保育園・幼稚園等の関連も含めて全体で大きく調整していかないと、どこか一部分を触ってもうまくいくことではないだろう。現状でも確かに有子共働きなのですけれども、これはパート有子共働きであって、税制上や社会保険上等は基本的に片働き扱いであり、スタンスが全く異なるので、これを有子共働き可能とするような形に変更していく必要があるのではないか。

 そのための環境整備についてですが、基本的に、幼い子どもに対しては親が時間を持てるということはとても重要なことだと思うのです。しかし、今のように子どもが生まれたのを機会に、本当に母子密着で、ずっと母親が子どもをフォローするという状況がベターなのかというと、それはベターではないだろう。そしてまた、そういうコストの高い育て方というのは少子化の一因にもなるでしょう。そういう意味で、まずフルタイムで働くことを選択した、そういう希望のある母親に対してはより保育園の入園を容易にすること。今の無認可ですとかなり低いわけですけれども、保育の水準を一定以上にすることが子どものために重要ではないか。

 一方、パートタイムで託児をして働くという在り方、今の日本の文化等を考えると、その程度で働きたいという人も多いだろう。現状ではそうしようと思ってもベビーシッター等が主になって費用がかかり過ぎてできないわけです。こういうこの程度のケア施設というようなものがあってもいいのではないか。

 それから、何歳児がいいのかわかりませんが、現在の3歳ではなくてもう少し低い年齢層からの託児を整備する一方で、それに整合的な働き方を考える。ここはフルタイムの女性ではないので、やはりフルタイムの場合には子どものためにケアがより必要だと思うのですけれども、4,5時間ですともう少しその辺の助成は少なくてもいいのではないか。

 さらに、社会保険料を払う代わりにボランティアで代替する制度はどうだろか。例えば学生とか第3号被保険者ですけれども、お金を払う代わりにボランティアに行くということはできるのではないかなという気がするのですが、その辺はどうだろうか。

 そして、現代のパート労働のイメージと異なるより質の高い短時間労働という働き方の可能性や若年層に関しては、意識の変化というふうによく言われるのですが、要するに終身雇用ではなくなっているのに仕事が選べないという、どの会社に入るのか今のところよくわからない、入れないし、入ったとしてもどこに行くかわからないような状況があるのではないか。そのために、特に女性などは自ら派遣を選ぶような人もいるわけですが、もっと選べるような形での労働市場になったらいいのではないかということです。以上、これで終わります。

〔 委員長 〕 ありがとうございました。

 さらに、ご意見等をお願いいたします。

〔 委員等 〕 それでは、事務局のご説明と、ご意見にちょっと質問したいと思います。

 今後の方向性はここに示されているとおりだと思いますが、その際に、やはり今後の方向性というところと今後の人的資源活用方策というものの対応をはっきりつけた方がいいかなという気はいたします。つまり、性とか年齢にとらわれず能力が発揮できるための環境整備としてどういうことが対応して、あるいは一社雇用保証体制が崩壊して労働市場を通じて雇用を保証するという仕組みを考える上でどういう方策が必要かという、対応をある程度つけられた方がいいかなと思いました。

 例えば、労働市場の機能を整備するということは、1つは、労働市場における情報機能をどのように整備していくかということと、もう1つは一社雇用保証ではなくて労働市場を通じた雇用保証体制になってくることがありますが、要するに個人が自分自身で能力開発をしていくという必要が出てきますので、能力開発システムを、特に市場オリエンテッドな能力開発システムをどのように作っていくか。これは要するに雇用が流動化していくというときには、企業があまり労働者を訓練する動機を持ちにくくなるということですから、そのところを記述した方がいいと思います。

 ですから、1つは情報の問題で、もう1つは能力開発の問題。そして、もう1つは労働市場を通じた雇用保証という場合には、どうしても一定期間ジョブサーチの失業というようなものが出てくるというふうに考えた方がいいので、やはりセーフティーネットをどういうふうに整備するのか。セーフティーネットの話も記述された方がいいと思います。

 もう1つは、労働市場を機能させるためのルール。それは、どんなに賃金で妥協しても、あるいは能力を再開発しても、「あなたは当社の応募規定の年齢を超えているから雇えません」と言われれば、もうそこで流動性は絶たれてしまうわけですから、既に立法措置が講じられている労働市場における性差別についてのように、年齢差別の禁止等についてのルールづくりといったような点についてももう少し明示的に示されてもいいのではないかと思います。

 あと、個別のことで気がついたことですが、特に3.今後の人的資源活用方策のところですが、人的資源活用方策という言葉が、もう少し別の言い方があったら考えた方がいいと思います。能力を発揮したい人たちが能力を十分に生かせるという意味だと思うのですが、「活用」と言うと、ちょっと動員計画みたいな感じも出てきてしまいますので、そこはちょっと抵抗があるかもしれないと思います。そういう面では(1)の高齢者の活用というのも、高齢者の立場からみると、自分たちは能力は発揮したいけれども、活用されるために行くのではないということがあるかもしれませんので、ちょっと気になりました。

 (2)男女共同参画の推進に関しては要するに女性が働きやすい、あるいは育児設備を整えるとかいうようなことは非常に重要なのですが、「男女共同参画」という観点から言えば、女性が仕事と家庭を両立しにくくさせている男性の働き方といいますか、これは仕事の仕方全般の問題だと思うのです。例えば若いお父さんが半分育児を負担するのだったら、2日に1回は5時に退社、退庁できるシステムがなければそれは無理なわけで、そこのところを強調した方がいいのではないかと思います。つまり、女性の話だけではないのですという意味です。

 (3)ですが、「自発的な能力開発」というのはまさにおっしゃるとおりですが、これが必要になるのは企業が従業員を教育投資する動機が、労働市場の流動化に伴って薄れてくることの対応として個人就業の能力開発が必要になってくるため、それを政策的に支援する必要があるということです。

 (4)高度な職業能力開発の場としての教育機関の活用ですが、高度な職業能力開発の場を充実する必要があるということは、まさにそのとおりだと思いますが、これは教育機関に限定する必要があるのでしょうか。べつに大学とか大学院ではなくても能力開発のビジネスがもっと出てきてもいいわけですし、そういう面では大学や大学院も例えば民間の営利の能力開発ビジネスと競争する。そういう意味でむしろ大切なのは大学とか大学院等に対する一層の規制の緩和等であり、さらに一般的に考えれば職業能力開発の場というのはべつに大学とか大学院だけではないので、もう少し幅広くお考えになった方がいいという気がします。

 60歳定年で、その後いきなり賃金をダウンさせるとかいうような形では高齢者の雇用は伸びていかないだろうと思います。もう一つ、高齢者の雇用促進というのは必ずしも一社で雇用を促進するということではないというのは、そもそも一社雇用保証システム自体が崩れているということを考えれば、まさにおっしゃるおりだと思いますが、逆に、先ほど言われたように、もう30代、40代ぐらいから能力ベースの賃金体系にしていろいろな選択肢を持つという形になれば、結果として一社で長く勤めるという可能性はいままでよりも高くなるのではないかと思うのです。

 ですから、私のイメージとしては、例えば年齢差別禁止法みたいなものを作って、定年を廃止するというのは、べつに1つの会社が生涯雇用を保証するというのではなくて、年齢だけを理由にやめてくださいということをなくすということで、逆に言えば年齢以外の理由でやむを得ずレイオフするとか解雇するというのは、年齢にかかわりなくもっと若い層から必要になってくるということではないかと思います。

 先ほど強調されたように、確かに企業が65歳まで定年を延長するというのは、今の非常に強い解雇規制の下では企業としてなかなか難しいというのはそのとおりだと思いますが、もともと年齢差別禁止法のようなものを作って定年をなくすとか、あるいは65歳までの、少なくとも年金支給開始年齢までの年齢を理由にした解雇を禁止するということは、一方では年齢以外の雇用調整手段をもっと企業に柔軟に認めさせていくということとペアになっているのではないかなと思いますので、そういう面から言うと、社会のルールとしては例えば年金の支給開始年齢が65歳になったときに、少なくとも65歳以前で年齢を理由に会社が一方的に人を解雇してもいいというのは、社会全体のシステムとしては整合性を欠くのではないか。もちろん自分でやめたい人は早く引退してもいい。あるいは年齢以外の理由であれば30代であろうが40代だろうが正当な理由があれば、もう少しきちんと企業が雇用調整できるようにしておくということが重要ですが、一方で、年齢を理由にする解雇、あるいは雇用契約の終了というものについては、少なくとも年金の支給開始年齢が上がる以上は社会的ルールとして併せて整備していかないとまずいのではないか。

〔 委員等 〕 65歳定年というのが非常に抵抗感があると申し上げましたのは、おそらく多くの人は、企業の人も労働省をはじめとする政策当局の人も、いままでの60歳定年の世界をある程度前提にして、それを65歳に延ばすという発想ではなく、65歳にするのだけれども実際はそれまでの処遇の仕方、雇用管理の仕方が非常に大きく違うのですということであれば、多分、私の考えとほとんど違わないと思うのです。

 どういう前提かと言うと、例えば定年を55歳から60歳にするときいろいろ調整した企業もありますが、大きく一たん下げた企業も、その後モラルダウンとかの問題があってかなり調整しているようですから、多分今は60歳まで大きく下がるということは賃金についてはないと思います。

 それから、定年前の退職、早期退職が大企業を中心にかなりのウエイトである、おそらく2,3割程度以上あると思いますが、ただ、退職金は定年までのものが前提になるといった仕組みがあったりということで、それから、そういう希望退職とか出向のようなもの、出向の場合は応じない人はあまりいないと思いますけれども、一応企業も労働者の側も60歳というのが1つのベースになっている。それを65歳にされるのはかなわないということがあるので、そのときには、65歳になったときには、要はそれまでは年齢を理由にした解雇はできないという意味に限定するのであって、処遇だとか、もっと言えば解雇も含めて、ある程度従来以上に柔軟に対応できるということとセットになっているのであれば反対する理由は何もないです。

〔 委員等 〕 2.の今後の方向性ですが、これはある意味ではこれからの目標と言ったらいいのでしょうか、そういった目標を示しているのであれば、3.人的資源活用方策というところに男女共同参画社会とか出てくるのは少し違和感を感じます。男女共同参画社会自体も大きな流れの中では、もう手段ではなくて、むしろ2番目の方向性の中に含まれてしまうか、1.の基本的認識の中で男女共同参画社会という大きな枠組みがあるということを述べるようなことではないかと思います。

 方策としては幾つかに分けられる方がいいのではないかと思います。まず、人的資源の能力を高めるための方策、教育や職業訓練等いろいろありますが、そういったものと、社会保障システムや税制等の制度的なものと、年齢差別のような大きな人権に関わるようなもの。あと1つは、オランダのパートタイマーに対する新しい法律のように、管理職にもなれる道が多様な働き方とともに並行してあるということも、こういうところでは方策としては重要ではないかと思います。

 そして、特に職業訓練のところは、大学とか高等教育のところにウエイトを置きすぎていて、本当に短いショートタームの期間であっても、そしてまた教育程度というものではなくて、その仕事に必要な技能だけを習得できるような場というものが、民間であっても公的であってもいいのですがもっとできることが必要ではないか。

 2番目の男女共同参画の推進というところは、ここで、もし男女共同参画社会がもたらされた場合に、勤務時間の短縮とかいろいろあるわけですが、そういった人材のことについて必要なところを骨格として挙げていけばいいのではないかと思います。

 先ほどの年齢差別のところと整合性をどうするかということで考えていることは、労働者の個々の状況をどの程度加味するか。例えば年齢とか性別にとらわれない社会を作ろうということを目指したときに、どの程度高齢者とか子育て中の人の個人的な環境を加味して、高齢者とか子育て中の女性があまり遠くに働きに行きたくないというのであれば、職住近接のような、例えばまちづくりから考えていく必要があるかもしれないというところがあります。

 先ほどおっしゃったように、共働きの子育て中の男女を1つの基本のモデルにして組み立てていくということをするというのも1つの解決法なのかなと、お話を伺いながら思ったわけです。

 あと1つ申し上げたいのは、周囲を見ておりますと、教育訓練給付制度が果たしてどれほど必要なのかという疑問を持っていまして、むしろこういうものがなくても、充実を図るということよりは自分の持っている能力を絶えず高めようとするインセンティブをもたらす社会の仕組みに変えるということの方がいいのではないかと思います。

〔 委員等 〕 私が申し上げたいことの1つは、長期雇用システムがなくなった、つまり流動化というのは一般的には社員全体がもう、俺たちは定年までいないのかというような動きになってきて、企業の中核が非常に動揺する危険性があるのです。これは、質の問題で長期雇用システムは崩壊だという意味なのか、あるいは量的にもそうなるよということになるのか、その辺をいつも疑問に思っております。また、従来のオン・ザ・ジョブ・トレーニングの方が従業員にとってはるかにプラスだったのではないか。例えば留学したいと言えば、試験を受けて、行って帰ってきて、それで「もう、この会社、嫌だ」と言えば、何のペナルティーもなしによそに行けるというシステムの方がはるかによかったのではないか。これからは自分でスキルを磨いてこいよというのは働く人にとっては非常に厳しい感じがするので、今働いている人たちが本当にそういう厳しさをわかっているかどうかという問題も、物事の言い方として考える必要があるのではないかという感じがしています。

 さらに、「片働き専業主婦モデル」から「有子共働きモデル」へというお話は、先ほど指摘があった男性の働き方に関しての議論がないではないかということに関連すると思うのですが、英国では首相のトニー・ブレアも育児休暇を取るらしいですが、やっとそういう動きが出てきているという状況であるということです。

 あと1つ、男性の帰宅時間を早め、少なくとも夫婦で子育てができる環境の整備とかということが非常に重要ではないかという問題が出ておりますので、もちろん、現在は育児を母親1人がやっているというのが多く、日本の社会は社会的コストがかかっていないという問題があるようですから、やはりこれは男性の立場をどうするかということを真剣に書くべきかなという感じがいたしました。

〔 委員等 〕 世の中で何が起きているかというのを知るときにいろいろなやり方があると思いますが、私は、どちらかと言うと比較的全国規模の大規模な統計データでどうなっているかということを重んじたいのですけれども、それからいくと、新聞等で言われているほどには流動化というのは起きてないというのが基本認識です。

 例えば賃金構造基本統計調査で勤続年数の推移を見ますと、年齢別にみてむしろ勤続が長くなっているという傾向が出ています。

 非常に大きく変わっているのは、いわゆる非正社員と呼ばれる人たちなのです。その人たちのウエイトが非常に増えています。一番大きいのはパートタイマーなのですが、これは例えば労働力調査で週35時間未満の雇用者を見ますと、その割合はもう一貫して、特にここ20年ぐらい急速に増えていますし、就業構造基本調査でも、前回の92年の調査と一番直近の97年の調査、その5年間の変化を見ますと特に男女とも若い層では正社員が全体数として減って非正社員やアルバイト等が増えている。その辺が統計データでは明瞭に確認される点です。

 ですから、流動化というのを、正社員ではなくて非正社員になるという動きも流動化と言えば、その部分は当たっていると思いますが、従来型のコアに想定されていたような大企業の男の正社員というところで見ると、身の回りを見るとそういう事例も従来よりはあるようには思いますが、統計データではそう大きく増えているという感じはしないというのが率直なところです。

 ただ、意識面ではかなり変わってきているのかなという気がしますし、これは中高年も若い層もともにそうですが、例えば、従来、銀行に努めるというと、たいがいは一生の仕事として行っていたと思うのですが、入る前から「どうせ、数年間勉強するつもりで行くのだ」と言っている学生もいるようですし、意識の面では相当変わっているのかなという気はします。

 それから、自己責任の自覚がどうなっているのかという点ですが、これはかなり難しい問題だと思います。私は従来型のシステムというのは、かなりうまくやってきた面が多いと思うのです。それが早晩本当に立ち行かなくなっているかということについては、どちらかと言えば慎重な見方をしたいと思っています。市場の変化が非常に激しくて、人材の活用の仕方も非常に短期的なやり方をしなければならないというのは、私はややミスリーディングだと思っています。つまり、長期雇用の中でも変化に十分対応し得る人材は育てられるのではないかとも思いますので、もちろん、両者のミックスということになると思いますが、市場が変わっているからとにかく外から人を採らないということもあるにしても、従来からその企業で長期に能力形成をしてきた人がそういう変化に対応し得る余地というのは、少なくともこれまではあったと思っているわけで、それが今回のIT革命に関して特にそうでなくなったかと言えるかどうかは私自身は留保をつけたいと思っています。

〔 委員等 〕 特に就業構造基本調査とか雇用動向調査を見る限り、必ずしも雇用が流動化していないというのは同じ見解です。ただ、若いところの転職志向が高くなっていることは間違いわけで、これは今言われたように、私どもの大学の学生の動向等を見てもかなり顕著に言える。これは逆に言えば日本の状況がかなりグローバルスタンダードに近くなってきたということで、アメリカ等においても従来から離・転職のかなりの部分は、就職から10年ぐらいに多く発生して、10年ぐらいたつとそれがだんだん収束していく。日本の場合には、最初からあまり高くなかったというところがあったわけで、それが比較的国際基準に近くなってきたということだろうと思います。

 ただ、失業統計で見ますと、いわゆる「自発的な失業」というのが失業統計にあるわけですが、これは従来、ご承知かと思いますが、一般的には不況期には自発的失業というのは減って、つまり、不況のときには自発的に失業しても他にいい仕事がありませんから、自発的失業率が減って、その代わり不況期には非自発的失業が高まるわけですが、自発的な失業が減る分だけトータルな失業率が低く抑えられる傾向にあったわけですが、最近の高い失業率の1つの背景は、不況期にもかかわらず自発的失業が減らない。場合によっては増え続けているということがあるわけです。その辺の統計を見ると流動化傾向が若干出てきているかなと思います。

 もう1つは、これもリストラというと、すぐ大企業のホワイトカラーの話みたいなのが出てくるのですが、これも労働力調査等を見れば明らかなように、非自発的失業が発生している、しかもそれが増えているのは500人未満規模のところで多く発生しているわけで、大企業ではそんなに多くは発生していないわけですから、これも従来とあまり変わりません。ただ、大企業のところで若干変わってきたかなというのは採用の方法です。これは去年とか今年の採用計画、あるいは採用実態をみますと、採用者総数に占める中途採用者の比率が急速に高まっています。大企業の中でも100人採用するときに50人ぐらい、フィフティー・フィフティーぐらいで中途採用者の比率を増やしているところがありますので、これは量的には顕著に現れていないかもしれませんが、大企業のビヘイビアの質的変化という形では出てくるのではないかと思います。

 能力開発については、いままでの方が楽だったわけです。逆に言えばああいうビジネススクールに行ってMBAを取るなんていうのはどこでも役に立つような能力ですから、そんなところに行かせるのに会社が丸ごとお金を払うということ自体が理論的にはおかしいわけです。しかし、流動性が非常に低くて、一般的な能力を身につけてもよそにそれが売れないという前提の下では企業は安心してそれができたわけですが、それはやはり若干変わってくるのではないかと思います。

 ピーター・カペリというウォートン大学の教授が最近「ニューディール・アットワーク」という本を書きまして、その中で、アメリカでも日本と同じような状況があって、80年代まではホワイトカラーは終身雇用的であったわけだが、80年代に急速にホワイトカラーの流動化を進めた。その結果、今、何が起きているかというと、昔のよきシステムに企業が戻したくても、一度パンドラの箱を開けてしまうと、もう従業員はよそにいい機会があると逃げてしまう。だから、もう雇用の安定とか、MBAを取らせてやるとかいうようなことで止めておくことができなくなった。そういうのを彼は「マーケットドリブンの変化が起きている」というふうに言っているわけです。一企業がどんなに従来のシステムを保ちたくても、一度市場化が進んでしまうともう止めようがない。

 そういうような状況がこれから日本で起きてくるかどうかということですが、可能性としては否定できないと思います。そういう面でこれまでのトレンドのままに雇用の非流動的状態がこれからも続くかどうかというのは若干留保が必要だと思いますし、あるいは企業がすべてのコストを負担して、その収益も企業が回収するような形の能力開発システムというのは、企業の合理性からいってもだんだんもたなくなってくるのではないか。あるいは、もしかしたら、国民の税金の下に官庁の若手を海外に留学させて、どこかにすぐ取られてしまうというのは許さないというようなことになってくるかもしれない。行きたい人は自分で休職してお金を払って行ってくださいというようなことになるかもしれない。

 ただ、一方で、マーケットバリューをつけるということが重要になればなるほど、いい人材を集めるための労働条件として能力開発をします。だから、役所とか企業もいい人材を集めるために賃金を高くするということもあるけれども、会社とか役所のコストでMBAを取らせてあげますというのも労働条件ですから、一概にそれが全部なくなるというわけでもないだろうと思います。

 もう1つ、先ほど男性の話をしたというのはどうしてかというと、先日、たまたま参加しているある懇談会で、某新聞の若手の女性記者の方がおもしろいことをおっしゃっていた。某新聞の社長さんが質問をしたら、それに対して同じ会社の若手の社員が答えて言ったという話なのですが、質問は、「日本ではシングルマザーが少ないために出生率の低下が起きている。だから、アメリカとか北欧のようにシングルマザーがもっと認められるような雰囲気になったら、日本での出生率が回復するのではないか。そういうことをここでも議論した方がいいのではないか」ということをおっしゃった。それに対し、某新聞のその30代の女性記者の方が、「日本では仮に戸籍上結婚していても、みんなシングルマザーです。つまりお母さんだけが子育てに参加していて、フアザーはべつにいてもいなくても、戸籍上いようがいまいが関係ない。日本では全員シングルマザーになっていて、シングルマザーだから出生率が低くなっているのがむしろ問題なのではないですか」とおっしゃっていました。なるほど、それはやはりお父さんの参加が必要ではないかと思いました。

 ただ、企業の合理性に任せておいたのでは社会にとって大切なことが進まないとしたら、企業がそういう行動をとるような何らかのインセンティブシステムを作る。要するに一日おきに5時に帰さない会社からは育児税を取るとか、そういうような仕組みがもしかしたら必要なのかもしれないと思います。

 先ほどの「有子共働きモデル」が「片働き専業主婦モデル」の次にくるモデル、あるいはそれに替わるモデルというお話につきましては非常におもしろいと思うのですが、「有子共働きモデル」というのも、やはり社会のシステムが人々の行動から中立的でないわけです。つまり、もし、年金制度だとかあるいは社会のシステムを個人の行動から中立的にするのであれば、専業主婦世帯を優遇するのをやめる代わりに「有子共働きモデル」を優遇するのではなくて、独身だろうが結婚していようが、あるいは子どもがいようがいまいが、例えば社会保障上の扱いだとか税法上の扱いに差別がないようにする。つまり、個人モデルにするというのがもう一つの考え方ではないか。もちろん、少子化対策ということを考えれば、「有子共働きモデル」というのもいいと思いますが、とりあえずやるべきなのはどちらかと言うと専業主婦優遇モデルみたいなものを少なくとも中立的にするというところの話で、そこから有子共働きを優遇するモデルにした方がいいかどうかというのはまた別の議論なのではないかというふうにちょっと思いました。

〔 委員等 〕 私も2点ほど申し上げます。

 第1点は、先ほど労働移動がどの程度起こっているか、もし、起こっていないとしたら、ここであげることはかなり衝撃的なのではないかとおっしゃいましたが、仮に労働移動が頻繁に起こっていなくても、これからの方向としては個人的には労働移動が起こると思っています。仮に起こらなくても、上に掲げた年齢、性別にかかわらず個人の能力が発揮される社会となるためには、今のような長期勤続で男性で正規雇用の方が賃金においても、企業福祉においても、企業年金においても優遇されるシステムというのは、これから能力を発揮してもらおうと思っている、どちらかというといままでそれ以外だった人々をはじき出すことになるのではないかと思っていますので、仮に中途でそういう中に入ってきた人でも差別されずに能力を発揮できる社会、もし、労働力の流動化というのが言葉がきつすぎるのであれば、中途で入ってきた人もそれにかかわらず能力を発揮できる仕組みを作るというのがいいのかなと思いました。

 2番目は、先ほどのお話の中では共働きで子育て中の夫婦を優遇するまではおっしゃっておらず、モデルとするというだけで終わっているのではないでしょうか。

〔 委員等 〕 どうして有子共働きモデルというふうに申し上げたかというと、必ず最初に専業主婦世帯の話が中心に出てくると思うのです。特に経済学とか一般的に扱うのはすごくフォーマルな部分なので、実際のお金の取引があるような部分、でも、人間が生産している部分はお金の取引がある部分とない部分があると思います。

 例えば子どもを生むとか、育てるとか、あるいは高齢者の世話をするとか、介護保険とか、そういうものを通じてやったら非常にお金がかかることを、お金の取引なしにやっている部分が非常に大きいわけです。それを全然考慮せずに、お金がある部分のみでの均等とか、お金がある部分での平等というのを考えると、お金がない部分のところが奨励されなかったり、難しくなったりする部分が非常に大きいと思うのです。

 例えばフォーマルな労働に対しては保険料が掛けられたり、あるいは見返りがきたりしますけれども、インフォーマルな労働に対しては保険料もかからないし、見返りもこないという状況があると思うのです。それを考えてみると、時間提供というのも1つの方法なのではないかというのが先ほど言った1つのことなのですが、それをもう少し展開するにはいろいろな問題があるだろうということは思います。

 もう1つは、実生活を考えてみると、既に何時間労働するとか、転勤がきたら受けると賃金が高くなるけれども、それを断ると賃金が落ちるとか、残業がきたらやらなければいけないとか、そういうのが実際問題としてあるわけで、男女雇用機会均等法が通ってから、そういうふうに男性並みに平等に働くということの平等は進みましたけれども、インフォーマルな部分でされてきたことが非常にしにくくなっているということだろうと思うのです。その結果、一部の男性並みにやる人と、非正規の部分に入っていく人、あるいは最近特に女性の大卒者や高卒者はもっとですけれども、最初から仕事がない人がいるわけです。そういう状況が起こっている。

 つまり、明示的にいままでインフォーマルに、お金も取らずにやられていた部分を考えてみないと、人間の暮らしというのがあると思いますので、例えばこんなような形、こんなような暮らしというようなものがないと、今の総合職男女の子育てというのがとても雇用水準が低いのではないか。あるいはそれが非常に好きな一部の人、あるいは非常に仕事のやりがいがある一部の人しか選択できないようなものになっているのではないか。そういうことで少し論理的というだけではなくて、現実の姿として、こんなようなのだったら可能だろうなというのを考えると、今後、高齢化が進み、子どもも生まれなくなっている中での10年後、15年後となりますと、どうしてもそうせざるを得ない状況が出てくると思うのですが、それをもう少しまえもってこういう形というのを考えてみるといいかなという、そういうような気持ちなのですけれども。

〔 委員等 〕 先ほどの関連で言い忘れたことなのですが、実は私自身は解釈に苦しんでいるのですが、もう1つ一貫して増えている指標があるのです。雇用者の中での転職希望率。労働力調査とか、あるいは就業構造基本調査でとれるのですが、例えば労働力調査で見た場合、これが一貫して右上がりに増えているのです。一昔前は転職希望者というのは不完全就業の代理指標に使われていた。つまり、今の仕事に満足していないと不満で、ところが替わりたいけれども替われないというので転職希望だろうと。これがずっと一貫して増えているというのをどう解釈したらいいのかということをちょっと悩んでおります。

〔 委員長 〕 現状はどう解釈なさいますか。

〔 委員等 〕 それが特定の年齢層とかに集中しているのならまだ解釈しやすいのですが、どうもそうではないようなのです。あまり細かい区分ではそのデータは拾えないのですが、どうなのでしょう、多分、世の中の水準が上がって、自分が希望する水準もそれとともに上がっているということなのかなという、あいまいなことしか思いつかないのですが、そういうことも流動化論の背景にあるのかなという気もいたします。

〔 委員長 〕 これだけは言っておきたいということがありましたら、どうぞ。

〔 委員等 〕 保育と介護の問題で、介護の充実というのは社会保障の分野でもわりあい同意を得やすいのです。なぜかと言うと、どこまで介護期間がかかるかわからないというリスクが非常に大きいという点があって、これは何らかの形でかなり公的な関与が必要だというのがあるのですが、保育というのは、保育の公的関与に関して介護よりは少し距離を置くときの1つの論拠としては、子どもというのは1年たてばここまで、2年たてばここまでというふうに、介護よりも、見通しがきくではないかという話があります。

 働くことと子育ての両立というのは大事で言い尽くせないものなのですが、保育に関する公的関与の在り方についてはどのように考えておられますか。

〔 委員等 〕 保育につきましては、実は何年か前に厚生省が契約方式を入れるということをやっていまして、それにもかかわらず現場では反対が強かった。その理由が判ったのですが、保母さんの勤続年数が延びると子どもの1人当たりのコストが上がるわけです。そして、昔、余裕があった自治体ほどすごく手厚くしていますので保母さんもやめないし、子ども1人当たりの運営実費も上がってしまっているわけです。そういうところでは入った人はいいのですが、入れない人がたくさんいる。しかも、それがどちらかと言うと大都市なわけです。そういう実態があるということを知りました。

 そして、その上で、今度は無認可とか、幾つかのところに出かけて行ってどういう状態かを見てみました。そうしましたら、やはり最低このぐらいは必要だろうという水準があるだろうと思うのです。親が払える分ですから無認可ですと大体せいぜい6万円ぐらいなのです。6万円の水準というのはもう少し保障すべき水準なのではないかというのを、都市部だったら施設の家賃だけで月20万円はかかりますから、実際に保育の現場を見て思いました。

 なお、例として、アメリカでは全く自由で、フランス等ではかなりお金が入っているわけです。子どもの発達にどういう影響を与えたかというので、アメリカの論文関連を読みますと、「関係ない」というのと「母親の就業は関係ないけれども、子どもに費やしている時間が少ないと、達成学歴や成人後の所得額に関係がある」というものと、「男子と女子で異なる」というものと、いろいろあるわけですけれども、「負」というのがアメリカの場合にもあるにもかかわらず、フランスでは「学歴の高い女性の場合は入れても入れなくても同じだけれども、学歴の低い女性の場合は集団保育に入れた方が子どもにとって良い影響がある」というのが一般的に受け入れられているフランスでのことだというふうに聞きまして、どうしてだろうと思ってみると、フランスは一応公的にされている、かなりお金が入っている。アメリカの方は入っていませんので、非常に優秀でリッチなお母さんは、日本以上にいろいろいいケアがあるという話は聞きますけれども、食べるために働いている人は、そこでは子どもがどういうことをやっているか見えませんので、そこはかなり削れる部分なのです。それが委託方式なのか、直営がいのかという風に思っているわけではございませんし、バウチャーという方法もあるとは思いますが、その具体的な方法がどうかは別として一定水準の財政支援は、特に現在、本当に生まれないで困っている都会部においてはする必要があるのではないだろうかと今のところは思っております。

〔 委員長 〕 ちょうど時間になりましたが、ご意見が出ました「少子高齢・人口減少社会における人的資源の活用方策」という表現の問題については、もう少し先生方にも考えていただいて、例えば英語にして出す場合にどういう言葉でやるかということも含めて考えていきたいと考えております。

 今日は、いろいろ多方面から積極的なご意見をいただきましてありがとうございました。今日いただきましたご意見を参考にして最終的な取りまとめに可能な限り反映していきたいと思います。

 それでは、本日の審議はここまでといたしたいと思います。

 今日は、委員の皆様、法政大学の奥西先生、御茶の水女子大学の永瀬先生、お忙しいところを貴重なご意見をいただきまして本当にありがとうございました。

 それでは、これで閉会といたします。どうもありがとうございました。


以上