第2回国際マクロ経済問題研究会

議事録

時:平成10年10月26日
所:経済企画庁官房特別会議室
経済企画庁


第二回「国際マクロ経済問題研究会」会合議事次第

平成10年10月26日(月)15:30~17:00
経済企画庁官房特別会議室(729号室)

  1. 開会
  2. 議題1:世界経済の現状-通貨・金融危機とその影響-
  3. 議題2:通貨・金融危機は何故起きるのか
  4. 議題3:過去の危機との比較
  5. 研究会の検討スケジュールについて
  6. 閉会

(資料)

  • 資料1 国際マクロ経済問題研究会検討事項(詳細案)
  • 資料2 世界経済の現状-通貨・金融危機とその影響-
  • 資料3 通貨・金融危機は何故起きるのか
  • 資料4 過去の危機との比較
  • 資料5 検討スケジュールについて

(参考資料)

  • 参考2-1 今次の通貨危機関係の年表
  • 参考2-2 世界経済の動向(各国の成長率、為替レート、経常収支)
  • 参考2-3 各国途上、市場経済移行、アジアNIEs諸国の株価
  • 参考2-4 開発途上、市場経済移行、アジアNIEs諸国・地域の資本フロー
  • 参考2-5 アジア諸国と我が国の関係(貿易、投資、資本移動)
  • 参考2-6 アジア通貨・金融危機が我が国経済に与える影響
  • 参考2-7 アジア諸国のマクロ経済指標
  • 参考2-8 アジア危機発生諸国の見通し改訂
  • 参考2-9 ロシアの金融・資本市場の動向
  • 参考2-10 市場経済移行国のマクロ経済指標
  • 参考3-1 金融政策の評価(1)
  • 参考3-2 金融政策の評価(2)
  • 参考3-3 固定為替レートのリスク
  • 参考3-4 アジア諸国の資本市場
  • 参考3-5 アジア諸国の限界資本・算出比率の推移
  • 参考3-6 アジア諸国の抱える金融問題
  • 参考3-7 アジア諸国の銀行業の姿
  • 参考3-8 アジア諸国の銀行業の健全性
  • 参考3-9 アジア諸国の純資産フロー
  • 参考3-10 年金ファンド、ヘッジ・ファンドと通貨危機
  • 参考3-11 国際貸付と通貨危機
  • 参考4-1 危機の比較-ファンダメンタルズ-
  • 参考4-2 危機の比較-信用供給の変化-
  • 参考4-3 危機の比較-資本構造の違い-

国際マクロ経済問題研究会 委員名簿

  • 座長  近藤 剛   伊藤忠商事(株)常務取締役
  • 小島 明   (株)日本経済新聞社取締役論説主幹
  • 中山 真一  (株)富士通総研経済研究所主席研究員
  • 高阪 章   大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
  • 黒柳 雅明  日本輸出入銀行海外投資研究所主任研究員
  • 岡田  靖  クレディスイス・ファーストボストン証券東京支店経済調査部長
  • 奥田 英信  一橋大学大学院経済学研究科助教授
  • 石本 聡   伊藤忠商事(株)政治経済研究所主任研究員
  • 小川 英治  一橋大学商学部助教授
  • 大坪  滋  名古屋大学大学院国際開発研究科助教授

(敬称略)


〔座長〕ご多用のところお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。ただいまから第2回国際マクロ経済問題研究会を開催させていただきます。

 委員にご就任いただくことになりました方々は、お手元にお配りしております委員名簿のとおりでございます。前回一応ご紹介をそれぞれしていただいたわけでございますが、第1回目にご欠席の委員の方々がいらっしゃいました。それでは、事務局の方からご紹介をお願いしたいと存じます。

〔事務局〕それでは、ご紹介させていただきます。

 小島明委員でございます。

 それからもうお一方、一橋大学の奥田英信先生でございますけれども、きょうは若干遅れてご出席でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 それでは、奥田委員は、おいでになった段階でまた改めてご紹介いただくということにしていただきまして、早速、議事次第に従って進めさせていただきたいと思います。

 今日は大変意欲的な内容で、議題1、2、3とございますが、資料は1、2、3、4とございます。それでは、議題ごとに一つずつ事務局の方からご説明をお願いするということにいたしましょうか。

 それでは、まず議題1を早速お願いいたします。

〔事務局〕ただいま奥田先生がお見えになりました。

 それでは、資料1、資料2に基づきまして、議題1についてご説明させていただきます。お手元の資料をご覧いただきたいと思います。

 資料1でございますが、当研究会の検討事項(詳細案)でございます。前回、事務局の方で出しました検討テーマにつきまして幾つかのご意見をいただきました。ポイントといたしましては、短期の問題と中期の問題に分けて取り扱うべきではないかというお話がございまして、それを受けまして短期と中期を分ける、あるいは市場移行国を別掲にすべき、もう少し大きく扱うべきではないかというご意見、あるいはフローとストックの相互関係、ストックの方が急激に動くとフローの方も動くのではないかといった相互関係についてもう少し突っ込んで考えるべきではないか、といった、大きく分けて3点が大きなところであったかと思いますが、そういった点を踏まえまして直してみました。当然、今後毎回の議論を踏まえまして適宜修正していく性質のものでございますが、前回の議論を踏まえて、今後の研究会全体の仕事の中身を概観するご参考ということで配付いたしております。

 第1といたしまして、世界経済の短期的課題-通貨・金融危機からの早期脱出-。1.1が今日の議題1でございまして、世界経済の現状-通貨・金融危機とその影響-(1)危機の経緯、その中にアジア通貨・金融危機、ロシア等への波及。(2)世界経済の動向、生産・貿易・為替の動き、資産価格・資本フローの動き。それから、各国への影響。1.2といたしまして、通貨・金融危機は何故起きるのか。マクロ経済政策、構造政策、国際資本移動に分けて分析する。1.2のところが今日の議題2でございます。1.3のところが今日の議題3.過去の危機との比較でございまして、同質性と異質性について分析する。1.4通貨・金融危機の短期的対処策、それから1.5日本の役割でございます。

 もう1枚めくっていただきまして、大きな2番目といたしまして、世界経済の中期的課題-安定化と危機管理-。通貨・金融危機の中期的対処策、2.2といたしまして資本移動の問題、2.3といたしまして資本移動の制度設計、2.4といたしまして通貨制度の設計。それから、中期的課題の2番目といたしまして、開発途上国・市場移行国の中期的課題-グローバル市場への参入手順-。4番目といたしまして、先進国の中期的課題-資産市場の安定化と大国の経済運営-。4.1といたしまして「豊か」さが引き起こす危機、4.2といたしまして、経済変動の国際伝播と先進国の責任でございます。

 それでは、議題1の中身に入らせていただきますが、資料2は、世界経済の現状-通貨・金融危機とその影響-ということについて、事務局の方で、とりあえずの世の中での見方というものをまとめてみました。

 第1に、危機の経緯でございます。その中でアジア通貨・金融危機でございます。資料編の後ろに参考資料が幾つかついておりますので、切り離してご覧いただければと思います。

 参考資料2-1でございますが、ちょっと分厚いものになってしまったのですけれども、各国別の今次の通貨危機関係の年表ということで、整理をしてみました。これを踏まえまして今回の経緯を時系列的に追いますと、まずタイのバーツの下落が発端でございます。それからタイの危機が周辺国へ、コンテージョンと申しますか、伝染していったというわけでございます。

 それから、資料2の次のページにまいりまして、波及していった国の中で最も深刻な状況となったのはインドネシアであった。さらに東南アジアの危機が香港に飛び火し、香港から韓国へ飛び火していった。

 資料2の3ページでございますが、ロシア等への波及でございます。若干飛びますが、参考2-9をご覧いただきたいのでございますけれども、ロシアの金融資本市場への圧力は98年の春ごろに高まり、外貨準備は減少し、金利は急激に上昇、そして国債発行による資金調達は、ネットでマイナスに転じたというところを参考2-9でグラフで描いております。ロシアでの状況をまた時系列的に見てまいりますと、本年の春に市場介入で為替安定化を図っていたものが、限界が見えてきた。その5月から6月初頭にかけて自主的な再建を試みるけれども、信頼は戻らなかった。7月半ばには、国際機関による危機回避の追加策が示されたが、信頼は戻らなかった。緊急的な対応がロシア政府から8月17日に表明された。これが、例の対外信用支払いのモラトリアムだとか、資本移動の規制強化等といったものでございました。最後には通貨管理を放棄し、全面的な通貨金融危機が顕在化したわけでございます。ロシアの金融・資本市場の危機は財政・税制問題そのものに原因があるのではないかということでございます。

 資料2の4ページの(2)世界経済の動向でございます。生産・為替・貿易の動き。98年10月1日にIMFの世界経済見通しの改訂されたものが公表されたわけでございますが、世界経済の成長は約1%の鈍化と出ております。参考2-2をご覧いただきますとお分かりになりますように、5月の見通しより世界計で約1%ポイントの成長率低下を見込んでおります。我が国につきましてもマイナス2.5%ポイントの成長率鈍化ということでございまして、これは概ね世界計にあります低下幅の35%程度の寄与度となっているわけでございます。

 参考2-2-2、次のページでございますけれども、過去1年程度で為替レートは大きく変化した。ドルに対する日本円の価値も実質実効為替レートで4~9%ぐらい下落していったというわけでございます。

 参考2-2-3、次のページでございますが、経常収支を見ましても、貿易不均衡は再び拡大しているというわけでございます。

 次に、資産価格・資本フローの動きでございます。参考2-3にございますように、エマージング市場の株価は急激に下落している。途上国平均の株式価格指数は90年に逆戻りしてしまったという状況でございます。

 同時に、参考2-4でございますが、エマージング市場への民間資本フローは減少しているというわけでございます。

 それから、各国への影響にまいります。先進国でございますけれども、日本のケースについて分析してみました。

 参考2-5でございますが、貿易・直接投資・間接投資のいずれにおきましても、我が国のウエイトは非常に大きいということが見られようかと思います。具体的には、参考2-6にございますけれども、アジア危機の影響によりまして、それが我が国の経済に与える影響というものは、0.3~0.7%程度経済成長が低下するというわけでございます。

 それから、アジア経済の状況でございます。参考2-7をご覧いただきたいのでございますが、アジア諸国のマクロ指標をここに書いております。通貨下落に伴う経済混乱等により、総じて厳しい経済状況にあるということが言えようかと思います。状態の深刻なタイ、インドネシアは10%を超える成長率の下落となっております。

 参考2-8をご覧いただきたいのでございますけれども、アジア金融危機発生諸国、ここにありますマレーシア、韓国、タイ、インドネシアでございますけれども、98年の成長率の見通しにつきまして、予測時期を横軸にとりまして図示しております。これは、時間を追うに従って、もちろん98年に入りますと少しずつ実績も入ってくるわけでございますけれども、成長率見通しが悪い方にどんどん改訂されていったということが言えようとか思います。

 7ページ目にまいりまして、市場経済移行国でございます。アジア危機は、市場移行国が国際資本市場への参入を深化し始めたときに発生したということが言えようかと思います。

 それから、参考2-10でございますけれども、市場移行国につきましては、世界経済との結合を深めておりますが、金融部門と実物部門の結合といった部分がいまだ未発達でありますので、一部の国を除きまして通貨・金融危機の被害は相対的に少ない。むしろ、個別に抱える国内問題による経済停滞が深刻ではないかと見られております。

 8ページ目にまいりまして、市場移行国の各国ごとに若干分析を加えております。詳細を読み上げるのは省略します。

 9ページ目にまいりまして、ラテンアメリカのことでございます。ラテンアメリカ諸国は、アジア通貨危機の波及に続きロシア危機の影響を受けているというわけでございます。

 10ページ目にまいりまして、その他の途上国ということで、中東とアフリカ諸国の大半は、アジア危機の影響をほとんど受けていないという状況でございます。

 以上でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 それでは、早速でございますが、本日の論点等につきましてちょっとご議論を賜りたいと思います。とりあえず何か、今までご説明がございました資料1に関連してのご質問あるいはコメントがございましたら、どうぞ委員の方々からお願い致します。

 まず、資料1の検討事項、アジェンダにつきまして、これに沿って一応こういうことで、あとまた最後の方で今後のスケジュールについて事務局の方からお話がございますけれども、とりあえずはこれに沿った形で作業を進めていくということになりますが、いかがでございましょう。前回いただいたご意見は大体網羅していただいているということでございますが。

 A委員、お願いします。

〔A委員〕前回欠席して申し訳ありません。一つこの中で、一番最後に4の2.アジアにおける日本の役割というのが入っていますが、座長も最近、一緒にシンガポールの会議へ、あるいはスイスのダボスの会議へ出たり、いろいろな会議に出ていらっしゃって、恐らくある程度感想を共有しているのではないかと思うんですが、日本の外へ出ますと、日本の問題がアジアにどういうインパクトを与えていたか、現在与えているか、それからこれから与えていくかということで、日本がアジア危機からどういう影響を与えられるかというのは日本はずっといろいろな機関が研究しているのですが、その逆のものを少し押さえておかないと、日本だけの話にあるいはなってしまうのではないかという懸念があるんですが、その辺はいかがなものでしょうか。

 現に、昨年の11月ごろから急速に、日本の経済政策あるいは経済の実態がどうやってネガティブな影響をアジアに与えているかということをいろいろな機関やいろいろな人が言い出している。確か11月の初めでしょうか、フェルドシュタインが少しまとめた議論を始めているし、それが「ウォールストリートジャーナル」に載ったり、「フォリンアファアズ」に載ったり、またいろいろな会議でも議論されていて、日本以外では日本問題という格好で、日本発のデフレインパクトとか、それはマクロ、ミクロ、あるいは貿易の流れで、日本の対アジア輸入がどれだけ減っているかということを議論している。あるいは、日本の金融機関も国内でインターバンクマーケットが収縮する中で、国内の金融デフレがあるのですが、同時にオフショアでもジャパンプレミアムがあって、採算に乗らないでどんどん撤退して、そっちの面からの日本発の信用収縮も議論されていますし、その辺も押さえておかないと、総合的な政策的な議論というのが少し迫力がなくなるのではないかと懸念しているのですが、いかがなものでしょうか。

〔座長〕A委員、どうもありがとうございました。

 まさにそのとおりなんですね。そういうことで、これは後で事務局の方からもお話があると思いますが、日本問題というのをまず押さえようということで、次回ですか、日本経済についてちょっとお話をいただいて、それでその辺のことを押さえておこうということなんです。

 それから、日本発の資本収縮のお話というのは、これはまさにこの添付資料、参考資料の中に確かあったのではないかと思いますが、もうネットでものすごい勢いで収縮しているのが数字の上でもかなりはっきりしています。それで、アジアへ行きますと、我々、いろいろな取引先とか、そこら辺からも言われるのが、日本の銀行がちょっと貸し渋りというか、回収に走っちゃって非常に困っているという話が結構出てきているんです。逆に、アメリカの銀行の方が頼りになるんじゃないかなんていう話まで我々は聞かされまして、おっしゃるとおり、ここら辺もきちっと押さえておかないといかん問題だろうと思うんです。

 私ばかり言っていてもしようがないんですけれども、事務局の方、何かコメントはございますか。あるいは委員の方々からもそれに関連してのご発言があったら、ぜひ賜りたいと思いますが。

 B委員、お願いします。

〔B委員〕今、A委員のおっしゃられたことと関係しているんですけれども、日本の役割ということが書かれていて、今、宮沢構想が出ていて、もうこれは提案の段階ではなくて、もう実施段階、どうやってインプリメンテーションするかという段階になってしまっていて、これからイシューとして取り上げるというには、これからという問題ではなくて、どうやって早くお金を適切なところへ流していくかということだけの問題になってしまっている。あとは恐らく円の国際化の問題ですとか、そういうことなんですけれども、そういうことを除いたときに、今、A委員がおっしゃっていた日本経済そのものの問題は、自分の国の問題をちゃんと片づけるという問題ですから、それは何か世界ということではなくて、まさに自分の問題を片づけなければいけない。そういうふうに消去法で消していくと、私は余りアイデアがなくて、何が残ってくるかなと。この研究会としてそういうものをまとめればいいということでもないような気がしまして、何を言っていくのかなというのが、自分自身でアイデアがないなという感じがいたします。ですから、恐らく皆さんも大体同じような感じを持たれているんじゃないかと思うんですけれども、コメントとしては非常に難しいんじゃないかと思います。

〔座長〕ありがとうございました。

 C委員。

〔C委員〕B委員はうまく整理されたと思うんですけれども、恐らく流動性の供給の問題というのが一つの処方せんの柱として、国内でも、つまり危機に陥った国の中でも、それから国際的にも必要になる。その中で日本の今差し当たり 300億ドルという話が出ているわけですが、そのほかに、これは中期の問題になるから、今はここで指摘するだけにとどめておきたいと思いますが、基本的にはこういう一時は地域的な問題であったものが今はグローバルになりつつあって、ですから地域的な流動性の供給という問題でとどまらないのか、あるいはグローバルな問題と地域的な問題は2本立てでやった方がいいのかというのはわからないんですが、そういう国際的な流動性供給の仕組みをインスティテューションとしてつくっていくのかどうかというようなことでは、まだアジェンダとしては残っているのではないかなという気がします。それは、B委員とA委員のご意見に対するコメントなんですけど。

 もう一つの問題は、どういうふうな表現を使うかはともかくとして、短期の危機からの脱出、あるいは短期の問題ということを論じるためには、IMFの処方せんをどうするかということをどこかで、IMFと直接名指しする必要があるかどうかは別にしまして、やっぱり考える必要があると思います。それは、特に短期の、今ここに紹介していただいた「ワールド・エコミック・アウトルック」などを見ると歴然としているわけですが、半年ごとに下方修正をしていくというプロセスは、ある意味ではラテンアメリカ型、あるいは僕はロシアのケースもラテンアメリカ型とくくってそれほど大きく間違いではないんじゃないかと思うんです。というのは、公共部門が問題だというパターンと、それからアジアのように民間部門が問題で、特に民間の金融仲介システムがいかれてしまったというところが最大の問題で、そこに対する引き締め政策のインパクトをアンダーエスティメートしてしまったというところがIMF型の処方せんの最大の問題ではないかと私は思っています。それはまだ仮説に過ぎませんけれども、もしそうであるとすれば、その問題は、処方せんは将来に向けての処方せんだろうし、それから過去に向けてはやはり診断の誤りということで、どこかで論じる必要があるんじゃないかなと思います。

〔座長〕ありがとうございました。

 D委員。

〔D委員〕今、C委員がおっしゃった2点は私も議論すべきだと思います。

 それで、もう1点、先進国の間で政策協調をして世界経済を安定させるという議論はここにあるのかどうかというところです。これは前回出ていたのかもしれないんですけれども、そういう議論はこの一番最後のアジアにおける日本の役割、あるいは大国の経済運営というところに含めてやはり考えていくべきなのかなと。確かに流動性供給ということで、それは重要で、考えていかなければいけないと私自身も考えているんですけれども、今回円ドルレートが相当振れたということで危機を引き起こしたということもあるかと思いますので、そういう議論も必要かと思います。

〔座長〕いいご指摘をどうもありがとうございました。全くその通りだと思います。

 ほかの委員の方々から。E委員。

〔E委員〕第1章の短期的課題と第2章の中期的課題で、通貨危機と金融危機と、通貨・金融危機と書いてあるわけですが、金融危機の方の対処というのは、資本の増資を考えますと、中期的な解決策があって、それに沿って順番をどうやっていくかということで、短期的にどうするという話にはちょっと難しいような気がするんですが、その点、ちょっと考え方を教えていただければと、むしろ質問なんですが。

〔座長〕順番の話ですよね。まさにメイクセンスなんだけれども、これは事務局の方から何かコメントはございますか。

〔事務局〕例えば、先般発表されました宮沢構想の中には、もちろん中期的な部分もございますけれども、かなり短期的なカンフル的な部分もあったのではないかと認識しております。

〔座長〕この進め方として、中期的なものをにらんで短期的な対策を議論すべきではないかという、基本的な順番の問題なんです。同時並行的に考えてやっていくことなんでしょうけれども、そこら辺は、中期的な問題点は比較的もう皆さんの頭の中にあるという前提で、それを踏まえて短期的なものをとりあえずこなしていこうということでよろしいんですか。

〔事務局〕ええ、座長がおまとめになった通りかと思います。ただ、先生方からご指摘がございましたように、短期、中期と言っても、きっちり論理的に分かれない部分ももちろんございますので、そこら辺は分かれないものをあえて分ける必要もないかと思います。

〔座長〕C委員。

〔C委員〕ちょっと準備不足といいますか、非常に短い時間で詳細案を示されたので、今しみじみと眺めておりまして、どうも私もポジションを間違えているんじゃないかと思います。つまり、私が先ほどコメントした問題は1.4のところで扱おうということなので、むしろ今は1.1に関してブリーフィングいただいたということですから、むしろその経緯に関してこれでよろしいかという議論を要求されているんだということが今やっとわかったんですが。その質問の中では、市場移行国のところで、市場移行国がグローバルマーケットに参入してきたことと、それから通貨危機が起こってくることとが関係ありそうに書いてあるんですが、これは何か一つの判断がございますか。私自身は、例えば中国が直接投資を吸い上げたということがタイを焦らせたというニュアンスならわかるんですが、ロシア等はどうかなという気がしていますが。

〔座長〕これは、C委員が指摘のようなことを念頭に置いてですか。

〔事務局〕例えばロシア等が新規参入して国際資本市場である程度の資金を吸い上げたからアジアの方に資金が回らなくなったというところまでは考えておりませんが、ロシア、東欧の市場移行化に伴って非常に魅力的な投資先ができたということで、投資家サイドに相当、例えば新しいフロンティアが開けたというようなことで、影響を与えたのかなというのは、資料を作っておりまして感じました。ただ、具体的に代替効果が働いて市場移行国の方へお金が流れたので、アジアがというようなものは今のところまだ見つかっておりませんので、何かありましたら次回以降に反映させたいとは思っております。

〔C委員〕議論を続けてよろしいですか。

 この点は、90年代の初めは、むしろ市場移行国がたくさん出てきて、ある意味ではポテンシャルが高いので、それで世界的に貯蓄不足になって、高金利の時代を迎えるのではないかという議論があったと思うんです。ところが、実際には90年代の前半というのは先進国側が全く不況で、それから市場移行国というのはリスクが大きいから、ある意味ではプライスメカニズムの働くような場面で市場移行国の問題が、例えば金利を押し上げるとか、そういう役割をほとんど果たさないでいたと思うんです。結局、メキシコの94年の危機が起こったときも、あれはアメリカの金利が上がり始めたので、アメリカから資金が逃げていったという、アメリカの資金は後で、メキシコの資金が先に出たんですが、いずれにせよそういう先進国のビジネスサイクルが非常に大きな影響を与えていて、エマージングマーケットというのはあくまで中所得国の話であって、市場移行国はエマージングマーケットですら国際資本市場ではフリンジにいる状態ですから、先進国のビジネスサイクルが最後にエマージングマーケットに波及して、振り回されたという状況はあったと思うんです。ですから、その意味では市場移行国自体の登場がエマージングマーケットの資金を干上がらせたとか、あるいはまたそっちに流したとかという問題はなかったんじゃないかなという、これは私の感触ですが。ただ、今申し上げましたように、中国が直接投資をある程度、一時ブラックホールと言われていましたけれども、どんどん吸い上げてしまうので、それでタイなどはかなり焦ったのが、やはり資本自由化のタイらしくないノンコンサーバティブな取り組みにつながったという認識は、ある程度共有されているのではないかと思います。ですから、その意味では中国の存在というのは確かに市場移行国がグローバルアリーナに入り込んできたということと関係があったかなと思いますが、ロシア、東欧となるとまたちょっと別かなという気はします。

 ただ、95年にものすごくタイが借り込んでいまして、韓国も借り込んでいますが、タイが一番借り込んだのが95年なんですけれども、ここは逆テキーラショックかなという、つまり、エマージングマーケットの中でリディストリビューションがあったのではなかろうかという気がします。ただ、今回ロシアのクライシスが起こってからは、リディストリビューションというよりはもう全面的にエマージングマーケットから引き上げ始めているというところが、深刻な問題じゃないかと思います。

〔座長〕ありがとうございました。

 F委員。

〔F委員〕どこを議論しているのか実はちょっとよく分からないので、もしかしたら変なことを言うかもしれないんですけれども、しかもこの前の議論を聞いておりませんので。この議論の中で、もしかしたら先程おっしゃられたかもしれないんですけれども、ユーロというのが来年できますね。アジアというと何となく日本の裏庭のような感じを持ってはいるんですが、あるいはアメリカとか、ヨーロッパも足し合わせると貿易でも3分の1ぐらいあるし、投資でも3分の1ぐらいあるし、しかも90年代に入って積極的に金融で参入してきていますので、しかも現在ユーロ債を出すとかという話がいっぱいあって、ある種10年ぐらい先を考えたときに、ヨーロッパがどういう役割を果たすかというのがベースの議論の一つに入っていないとまずいと思うんです。もちろん、それを取り上げる研究会ではないんでしょうけれども、それを暗黙に見込んで書かないと、アジアを調べて、世界を調べて、日本を調べれば何かできるかというと、違うんじゃないかと思うんです。というのは、ヨーロッパはかなり戦略的に動いているような感じがするので、その辺に少し目配りをした方がいいのかなというのが1つです。

 それからもう1つは、これは誤解があったら済みません。2と3のところで、2では世界経済の中期的課題という話をされて、3で開発途上国の中期的課題というのをされているのですが、そうすると2.3 の資本移動の制度設計というのは、いわゆる世界ルールのような話をされていると考えてよろしいんでしょうか。そうだとすれば、3でも、単なるシークエンスというよりは、これは実は3の.の後に小さい括弧がついていないので、これから詰められると思うんですが、ややシークエンスの話というよりは、もう少し具体的に制度設計の話として少し議論を深めていただけるとおもしろいんじゃないかなと個人的に思っているんですが。

〔座長〕どうもありがとうございました。

 今、F委員が言われた前半の部分は、先ほどのB委員のご発言とも関連する部分だろうと思うんです。それで、一応この中には、明示的には書いていないですけれども、当然G7での協調の話は中に入ってくるのだろうし、それからリージョナルなものとグローバルなものはやはり並行して考えなければいかん問題なんでしょうね。クランチの問題についても、BISあたりのところが言わないといけないんだろうと思いますし。

 それから、その前のC委員のご発言だったですか、具体的にいろいろな問題が今あるわけです。それで、300億ドルの話にしても、その前の、今その300億ドルを使わないまでも、ツー・ステップ・ローンなどというのがあるんですけれども、これは実際は本当に活用されていないわけです。活用されていない理由はどうしてなのか。あるいは、今度300億ドルになるのだったら、もう思い切ってワン・ステップ・ローンを考えてもいいのかとか、具体的なことまでちょっと踏み込んでいく必要も現場レベルではあるような気がするんですね、私などが見ていますと。そういう意味で、いろいろやることが多いなという感じがします。

 いろいろご意見があろうかと思いますが、また時間がありましたらここに戻ってくるということで、今日事務局の方で準備していただいた議題が3までございますので、とりあえず議題2、資料は3ですか、ここら辺についてちょっと事務局の方からご説明をいただきましょう。それで、アジェンダが終わって時間があったらまた戻ってくるということで、足りなければ次回に持ち越しでもいいと思いますので、では議題2、資料3に移ってください。

〔事務局〕それでは、資料3でございます。通貨・金融危機は何故起きるのかというところでございます。

 1番目に、タイのバーツの急落の要因としては次のような点が指摘されているわけでございまして、1つには為替の過大評価、1つには経常収支の赤字、それから短期外貨資金の急速な流入、第4に金融機関の破綻でございます。

 それから、特に波及の大きかったインドネシア、マレーシア、フィリピンについては以下のような点につきマーケットが着目したことが指摘されております。為替の過大評価、輸出主導型の経済構造、短期対外民間債務の積み上がり、第4に採算性への考慮を欠いた過剰投資といった構造問題等でございます。

 1枚おめくりいただきまして、マクロ経済政策の点についてでございますが、具体的に、金融政策の失敗がもたらした歪みといったところかと思います。金融政策の転換が遅れたと。参考資料3-1をちょっとご覧いただきたいのでございますが、マネーサプライの90年代の推移を見ますと、実質GDPを上回るマネーサプライの伸びを記録してきたということでございまして、今回のアジア危機の影響が比較的小さかった台湾、香港、シンガポール、中国においては伸びが小さくなっていることが分かろうかと思います。

 それから、資本流入がマネーサプライの増大をもたらしたという点でございます。参考3-2をご覧いただきたいのですが、通貨当局は、固定レート下での大量の外貨建て資産流入によりマネーサプライの操作を放棄せざるを得なくなる。そういたしますと、同時に金利に対するコントロールを失うことを意味しておりますので、国内経済の運営が、流入する外貨によって決まる状態が出てきてしまったということが言えようかと思います。

 参考資料3-3のところでございますが、固定為替レートが更なる資本の流入を招いたと。事実上の固定レート制を維持したままで、不胎化介入ができなくなって、マネーサプライの増加を抑制いたしますと、金利が上昇しますので、いわゆるキャリー・トレードというものが非常に旨みが出てくるということになりまして、さらに資本の流入を招くというメカニズムが働いたと言えようかと思います。

 3ページ目に参りまして、構造政策と申しますか、金融仲介業の問題点ということでございます。

 アジアの資本市場は余りにも急速に拡大したということでございまして、資料3-4をご覧いただければ一目瞭然かと思います。

 それから、成長には資本が必要であるが、投資効率は低下するという点でございます。参考資料3-5でございますけれども、アジア諸国の限界資本・産出比率の推移を見ますと、次第に高まる傾向が見られる。もともとこれは経済成長に合わせて増大する傾向にございますが、投資単位当たりの成長は鈍化していった。これは、資本蓄積による限界生産性の逓減という必然的なことなのか、それとも非生産的な投資の拡大によるものかが危機からの立ち直りを決めるポイントになろうかと思われます。

 参考資料3-6でございますけれども、危機に関連して指摘される金融仲介業の問題点、構造的な問題といったものは、ここにまとめてありますように、80年代からの課題であったということが言えようかと思います。

 参考資料3-7を見ていただきますと、ただ、そういうことはあるわけですが、具体的に国別に集計した銀行業の姿をデータで見ますと、年率10%を超える信用供給を続けてきているわけでございまして、97年時点での対GDP比率は先進国並みとなっている。それから、経費とマージンの関係は、経費をかければかけるほどマージンは多くなると一般的には言えようかと思いますが、経費とマージンの間の関係を見た場合に、途上国、アジア諸国が特に異なっているというわけではないことが言えようかと思います。

 参考資料3-8をご覧いただきたいのでございますけれども、今回の危機では不良債権の高まりと巨額のロスが予測されている。メキシコ危機の場合、資本ロスは実績でGDPの14.4%だったのでございますけれども、貸出残高のGDP比率がアジア諸国の方が大きいので、今回の危機ではアジア諸国では20~30%の貸出が不良化し、損失額はGDPの20%程度に上るのではないかということが予測されております。

 資料3の方をもう1枚おめくりいただきまして、国際資本移動でございます。

 変化の幅を各国経済の規模に規準化すると申しますか、対GDP比率で見たのが参考3-9でございますが、巨額の資本移動が行われた。対GDP比率で見た数字でございますが、急激な変動は「その他投資」、具体的には国際貸付によるところが大きく、96年から97年度の関係でございますが、特にタイでマイナス20.3%とか、マレーシアではマイナス 5.1%といった大きな数字が出ておりまして、こういったところが不安定な要因となろうかと思います。

 参考3-10を見ていただきたいのでございますが、年金ファンドとかヘッジファンドといったものと危機との関係でございます。参考3-10の上半分が年金ファンドの動きでございますけれども、96年の第4四半期の時点では、既に主要国の年金基金の投資はアジア比率を引き下げていたわけでございまして、これは、銀行貸付の方が97年の第2四半期まで貸出をふやしていたのとは対照的と言えるかと思います。

 それから、ヘッジファンドについては、いろいろな評価がなされているわけですが、このポジションの動きを見て参りますと、これが参考3-10の下半分でございますけれども、97年の初頭にはアジアで相当な規模であったわけですが、いわゆる空買いと申しますか、ロングのポジションの方は危機の数カ月前の時点で大幅に減少していて、同時にこれがラテンアメリカの方でロングのポジションが建てられている。さらに、97年の夏以降、ヘッジファンド全体としてアジア通貨・債券のショートのポジションが拡大していったことは統計的に示されていないので、危機とはもちろん関係があろうかと思いますが、危機を特に増大した、攪乱したというような見方で割り切るのには若干疑問が残るかなといったところが言えるかと思います。

 参考3-11でございますが、最も大きな変化を見せているのは日米の銀行融資でございまして、BISの年次報告から拾ってみますと、97年12月時点で危機の顕在化していたタイでは、貸付が 106億ドルも減少している。レベル、絶対水準では我が国の貸出がマイナス44億ドルと最も変化し、アメリカがマイナス19億ドル減で、これは変化率ではマイナス43%であるということが言えるわけでございます。

 資料3につきましては、以上でございます。

〔座長〕どうもありがとうございました。

 ただいまご説明いただきました論点等につきましてご議論を賜りたいと存じますが。B委員、お願いいたします。

〔B委員〕気がついた点だけなんですけれども、先ほどのところに戻ってしまうんですが、1つはコンテージョンの問題で、コンテージョンについては多分少しずつ分析がされていて、昨年か一昨年にアイケングリーンたちが論文を書いて、それをリバイズしている人たちがいますけれども、計量分析をやると必ずしも有意に出てこない結果があるので、果たして、これはそういうアカデミックな分析をバックグラウンドにしてコンテージョンがあったと言うのかどうか。これはどうでもいいことなんですけれども、あったということは一般に言われていますけれども、果たして本当にあったのかどうかというのは必ずしも論証できないので、ここはどういうスタンスをとられるのかは難しいのではないか。コンテージョンがあったと決めていくのか、それは分析しなければいけない問題だと置くのかという気がいたします。

 それから、これも2のところに戻ってしまうんですが、資産価格のことを触れられていて、アジアの株価が落ちたという話をしていましたけれども、これは私たちも一番間違えた点で、ASEANの株価のピークは、マレーシアは92年、それからタイは93年で、95年、96年にはもう恐らくピークの半分ぐらいの株価平均になっていて、それでバブルはもう終わったんだというふうに私自身はそのときに思っていまして、分からなかったのが土地でして、土地は地価統計がないですから、そこが分からない。だから、それをミスリードしたかもしれない。ここの資産価格のところで株価について非常に指摘されていますけれども、これだけをやると、アジアの場合は少し間違えるかもしれないなという気がいたします。

 それから、資料3の最初のページに、特にインドネシアについていろいろ指摘があるんですけれども、インドネシアの問題は恐らくは非常に大きいのがスハルトの問題で、もうスハルト以降の問題というのは皆さんよくご存じのように、20年ぐらい前からスハルトが5選に出るとき、4選に出るときから、次はどうなるんだ、スハルトがいなくなったらインドネシアは非常に混乱するというのは誰しも分かっていて、それがたまたま去年のASEANサミットの直前にスハルトが倒れて、そこからフリーフォールみたいにルピアがなってきましたので、非常に影響が大きかったんですけれども、インドネシアの問題については少し慎重に扱わないと、タイから発生した通貨危機の影響というのは恐らくルピアが2,500から4,000ぐらいになったところで、4,000から1万になり1万5,000になったというのは、恐らくスハルト政権の次の政権が不確実であったという問題があるのではないか。そこを分けて考えないと、少しミスリードするかなという気がいたします。

 それから、コメントというか、3のところでマクロ経済政策のことを述べられていますけれども、これはもう非常に古典的な問題です。つまり、金融政策の独立性と、資本移動の自由化と、それから為替レートの安定化というのは両立しないわけで、これをどういうミックスでやっていくのかという、恐らく経済学の非常に古典的な課題かなという気がいたします。どっちにしろ、全部同時達成はできないですから、これを一つ一つ分けて、例えば、固定レートがいけなかったんだ、けれどもそれは結局それと同時に金融政策の独立性を維持しようとしたのが間違っていたということになりますので、そのポリシーミックスの問題ではないかなと思います。

 以上です。

〔座長〕ありがとうございました。

 F委員。

〔F委員〕重なるところもありますが、気がついたところだけ申し上げると、2ページ目の構造政策のところで、「アジアの資本市場は余りにも急速に拡大した」と。これは、先程B委員が言われた通りで、地価総額が一つです。それからもう一つ、時価総額で見ても、今回、危機をものすごく受けている国は必ずしも大きくないですね。だから、そういうことを言ってしまうと、むしろマレーシアのように、無理やり政府が後ろからバックアップして時価総額を押し上げているような国が表に出てしまうので、その辺はちょっと注意しなければいけないんじゃないかなと思います。タイなどはむしろ小さい。先ほど言ったように、ピークは90年代の初頭に来ているんです。その後はむしろ南米に資金が流れて、南米の株価が上がって、メキシコ危機の後に、南米の株価は上がるのにアジアが上がらなかったんです。だから、そういうことを考えると、話が大分5年ぐらいずれているかなという気がします。

 2番目は、成長で、投資効率でICORを使われているんです。でも、ICORというのはかなり危ない指標で、成長率をただ逆にかけているだけで、成長率が落ちるとICORが悪く見えるという感じになっちゃうので、確かに5カ年の移動平均をとられているんですけれども、ちょっと難しいところがあるんじゃないかなという気がします。

 3番目の金融仲介の弱さですが、「十数年来の課題であった」というのは確かにそうなんですけれども、逆に言ったら、では何で今こうなったんだという話になるので、そこはむしろ逆にそこを言わないといけないかなという気がします。

 それから、1個飛ばして不良債権の高まりですが、その前ですか、マージンと経費の関係に歪みがないというのですけれども、これは一体何を言っているのかというのがちょっとよく分からないですね。つまり、先進国と同じだったらいいのか悪いのか、リスクが高いところで同じことをやっているのに同じ利幅でいいのかとか、いろいろ議論があるかと思うので、これもまたつつかれると難しい問題じゃないかなという気がいたします。

 以上、気がついたところだけです。

〔座長〕ありがとうございました。

 C委員。

〔C委員〕この辺はうるさい人がたくさんいるので、(笑)この際全部まとめてたたいておいた方がいいんじゃないかと思うんですが。

 まず一つは、為替の過大評価というのは割と簡単に言われているんですが、これは意外と難しい問題じゃないかと思います。というのは、例えば為替が均衡水準から行き過ぎているかどうかというときに実質実効為替レートなどをよく使うわけですが、実質実効為替レートで見ますと、タイのバーツの過大評価というのは、基本的には95年4月から97年6月末の直近までとると、それで大体15%ぐらいの切り上がりになっているわけです。ところが、95年4月というのは実は円高で80円を切ったという異常な時期であって、90年ぐらいからのレベルをずっと見ていると、そのときはバーツが大分安くなっている。中期的な過去のトレンドからはちょっと安くなっていた時期なんです。ですから、過去のトレンドから97年6月ぐらいにかけて一気にワーッと実効レートで高くなっているんですが、それだと10%ぐらいです。それをオーバーバリュエーションだと言うのは、それは確かに過去のトレンドよりは10%アップですが、例えばメキシコのクライシスのときにオーバーバリュエーションが一つの通貨予想を覆した原因だというときには、やっぱり3割ぐらいオーバーバリュエーションが過去のトレンドからあるわけです。ですから、95年4月という非常に異常な時期からぱっと見てオーバーバリュエーションだったから、高過ぎるから安くなるだろうという為替安予想ができたかというと、それほど簡単に言うほど明白ではないんじゃないか。むしろ、オーバーバリュエーションかどうかということよりは、国際競争力が本当に落ちていたかどうか。ここは簡単に、経常収支の赤字がオーバーバリュエーションによるんだみたいなことがどこかに書いてあったと思うんですが、経常収支の赤字、あるいは輸出の伸びが鈍化したのは96年ですね。95年までは、日本が幾ら停滞していようが、結構伸びているわけです。だから、96年に至ってというのは、半導体の不況だとか、いろいろな外生的な原因があって、中国を除けば、東アジアは軒並み輸出が伸び悩んでいるんです。ですから、むしろ輸出先の市場の所得効果の方が大きいんじゃないかというのが僕の意見なんです。ただ、ポイントは、少なくとも数字で見る限り、どこにもそんな大きな過大評価があったという証拠はない。むしろ、大きな過大評価があったとすれば、香港、シンガポール、それからフィリピンも多少あったと思います。例えばインドネシアは、実質実効為替レートを安定的に運営するのにすごく気を使っていたわけですし、ですから、為替レートの運営については、確かにタイはドルペッグで1ドル25バーツというのを15年ぐらい続けてやっていますから、それがこの為替リスクがないみたいなディストーションを生んだというのはその通りだと思うんですが、タイ以外のところは結構、確かにドルの比重は大きいですが、バスケットリンクといいながら、それでもオーバーバリュエーションがそんなにあったとは思えないし、それから為替安定というのを実質実効為替ベースで見ると、そんなに硬直的な運営はしていなかったという印象があります。

 それから、今は資料3の1ページのバーツ急落の要因としてというところを見ながら言っているんですが、経常収支の赤字は95年以降と書いてありますが、これは90年以降です。90年以降をご覧になると、経常収支の赤字をGDP比で見るとかなり高いです。5%以上ぐらいのをほとんど5~6年連続してやっちゃっているわけです。ですから、ここの問題があったので、今バーツの過大評価が例えば95年4月から発生していたとしたら、これは明らかにオーバーバリュエーションと経常収支の赤字はほとんど関係ないということだと思います。

 それから、この時期、やはりブームです。つまり投資ブーム、投資率がものすごい高いです。それから、陰に隠れてわからないのですが、貯蓄率が落ちています。特に家計部門。国民貯蓄率で見ると、公共部門の貯蓄が増えているために、全体としてトレンドで上がっているように見えるんです。ところが、よく見ると、公共部門の貯蓄がかなり上がっていて、特に東南アジアは貯蓄は全然上がっていないです。家計部門までおりていくと、データの信頼性の問題はちょっとありますが、基本的には非常な消費ブームだったと思います。それは、マレーシア、タイ、フィリピンについても言えると思います。例えば、今うちの学生が計算しているんですけれども、貯蓄関数の計測をやると、消費者ローンのGDP比率みたいなものがすごく効くんです。この時期、どこの国も割と熱心に、対外的なだけではなしに国内の金融自由化もやっています。ですから、そういうのは貯蓄の理論のごく教科書的なセオリーのとおりでありまして、いわゆる流動性制約が外れたために消費ブームが起こって貯蓄率が下がっている。ですから、いわゆるISバランス論で経常収支の赤字というのは説明できるんじゃないかと思います。

 それから、資本流入がマネーサプライの増大をもたらしたと次のページに書いてあるんですが、マネーサプライだけ見ていると、タイはそんなにマネーサプライの増加率は高くないはずです。これは非常に問題なんですけれども、タイの場合は、ノンバンクもそうだと思いますけれども、一応M2にはノンバンクは入ってきませんから、バンキングセクターだけ見ると、バンキングセクターのライアビリティーの中で、普通はデポジットだけがマネーサプライに入るわけです。ところが、オフショアなどで借りてきた対外借り入れというのはマネーサプライに入らないんです。その部分が大きい。ですから、クレジットサイドで見ないとわからないと思います。国内信用の伸びを見ると、どこかにも書いてありますけれども、確かに国内信用の伸び率はものすごく高いです。それは、名目のGDPの伸びの倍ぐらい伸びています。ですから、そういうことがクレジットのクオリティーを悪くしているということは多分間違いないと思いますけれども、マネーサプライという通常の、これも、トランスミッションメカニズムの中でマネーサプライを見たらいいのか、クレジットサイドを見たらいいのかという議論はあると思いますけれども、こういうリスクが大きくて金融資本市場がかなりレイショニングがきいているような世界では、クレジットを見るのが正しいと思います。

 それから、トリレンマの話をさっきB委員がおっしゃったんですが、その通りでありまして、どれをとるかという話なんですね。為替安定一本でいくのか、為替安定と一応金融政策の自立性というか、自国のディマンドマネジメントは自分でやりたいというのがギブンだとしますと、資本流入を自由にするのか、為替安定を追求するのかというのは、これはオールターナティブになっていて、両方ともとるわけにはいかないんです。片方をとると、結局タイのケースなどですと、基本的にマネーサプライはコントロールしていたはずです。ですから、結果起こったことというのは、不胎化を猛烈にやるわけです。外貨準備がブワッとふえて、それをいろいろなものでキャンセルアウトするわけです。例えば政府預金を積みますとか、中央銀行が債券を発行するとか、それから中央銀行のキャピタルを公的資金で買い上げるというか、資本キャピタライゼーションをやるとか、そういうもので通貨当局の右側サイドで左側が膨らむのを抑えて、それでベースマネーの供給を抑えるわけです。ベースマネーの供給は本当に低いです。ですから、この段階でほとんど完全な不胎化をやったんだけれども、その結果として起こったのは、金利差がそのまま残って、10%ぐらいの内外金利差が残っていますから、資本がどんどん入ってくるわけです。貸す方も得だし、借りる方も得だから。それはまさにトリレンマの矛盾であって、どっちみちコンシステントでない政策体系をとったということ、これは3番目の固定為替レートが異なる資本の流入を招いたということです。

 ここの問題は固定為替レート、つまりここで言っているのはドルペッグということなんですけれども、固定為替レートというのは実は固定でも何でもないわけです。ドルに固定しているだけであって、ですからドルと一緒にフロートしているというわけです。だから、実は為替安定とドルペッグというのは何の関係もないんです。何の関係もないにもかかわらず、資本取引はほとんどドル建てでやっていますので、その意味ではドル建ての取引に関して為替リスクが全然ないという歪んだ構造があったためにこういうことが起こったということだろうと思います。

 それから、「アジアの資本市場は余りにも急速に拡大した」。これはそのとおりなんですけれども、今非常に問題なのは、銀行もそうだし、それから最終的な借り手である企業部門の不良債権が究極的には一番問題なわけですけれども、企業部門のファイナンスということを考えたときには、資本市場というのは余り重要ではないと思います。アジアの資本市場というのは基本的にはコズメティックであって、極端に言えばカジノであって、もちろん企業ファイナンスの中で占める位置はだんだん増えつつあります。でも、まだほとんど基本的には金融仲介、エクスターナルファンドに関しては金融仲介が主です。ですから、カジノの資本市場でブワッとキャピタライゼーションをやったら大きくなったり小さくなったりするのは、もうこれまでにも何度かあるわけですし、それ自体が急速に拡大したということはそれ程問題ではないと思います。

 3番目に、「金融仲介の脆弱さは、十数年来の課題」。それはそうなんですけれども、例えば途上国全体を見回したときにどれくらい脆弱だったかというと、相対的にアジアは、先進国並みと言っても先進国にもいろいろありますので何とも言えないんですが、割とまともに今までやってきたと思います。もちろん、右肩上がりの成長をしていたためにボロが見えなかったという側面はあると思いますけれども、十数年来の課題であり、もっとインプルーブする余地はたくさんあったと思いますけれども、それでもそれ自体が非常に問題であったわけではなくて、むしろやっぱりジャブジャブと金が流れ込んできちゃって、使いようがなくなってまずってしまったというところが今回の原因なんじゃないかと思います。

 それから、「不良債権の高まりと巨額のロスが予測されている」。これはその通りなんですけれども、これが一体どれぐらい意味のあるステートメントかというのはちょっと疑問があります。といいますのは、基本的に今回の通貨危機というのはデットデフレーションを引き起こしているわけです。デットデフレーションというのはこれはもう完全に自己実現的なプロセスですから、一旦事が起こって、信認がなくなって、だっと資本が逃げ出して為替が切り下がったら、そのデットがどんどん邦貨建てで大きくなっちゃって不良資産化するのは当たり前なので、結果を見てどうこうと言っても余り意味がないんじゃないかと思います。

 それから、まだブレーンストーミングだから、ポイントがあったらどんどん言っておいた方がいいと思いますので。年金ファンドが早目に資金を動かしていたという話なんですが、アジアの場合、この後に銀行融資が大事だと書いてありますけれども、あまりバランスよく並べないで、何が最も重要だったかということをある程度書く方で認識する必要があると思います。アジアの場合は何といってもローンが一番重要な役割、ローンの動きというのが基本的でありまして、機関投資家の動きはマージナルだと思います、証券のフローですから。ですから、ここのところはあんまり同じように、これも悪かった、これも悪かったと言わないで、基本的には短期の融資をさっと引き上げられたのが最大の問題だと思います。特に韓国はそうだと思います。韓国の場合は、別に株のバブルがあったわけでもありませんし、これは耳学問ですけれども、むしろ海外子会社の海外での借り入れというのが通貨当局の目に触れないところで起こったということが非常に大きいと言われています。ですから、そういう意味ではやはりアジア型の場合は融資が問題、ローンが問題、ラテンアメリカは債権が問題という違いをある程度認識しておくことが必要なんじゃないかと思います。

 ちょっと長くなって、申しわけありません。

〔座長〕C委員、どうもありがとうございました。

 C委員の今のコメント、それからF委員のご指摘について、事務局の方からお話を賜りたいところなんですけれども、ちょっと時間の都合がございますので、あと20数分しかなくなっちゃいましたので、とりあえず先に進ませていただくようにして、また次回にでも戻ってくるなり、工夫したいと思います。

 それから、B委員ご指摘の第2点、これは大変重要な点だろうと思うんです。それで、この間たまたまシンガポールでIMFのナイスさんと食事のときに一緒になりましてお話をしたら、やはり同じことを言われているんですよ。要するに、ポリティカルファクターというのがもうインドネシアでは最大の問題で、多少自己弁護的なところもあると思うんです。いずれにしても、しかし相当な部分それは事実だろうと思いますので、ここら辺は非常に重要なご指摘をいただいて、ありがとうございました。

 それでは、議題3、資料4ですか、事務局の方からひとつご説明をお願いします。

〔事務局〕それでは、資料4、過去の危機との比較でございます。

 過去の危機と申しますと、1980年代の中南米、それから94年から95年にかけてのメキシコと、今回のアジアの危機というものを比較してみました。影響国の世界資本市場へのアクセスが麻痺する、次に、似た状況にある国と市場参加者に認知された国への波及、第3に、危機発生国で通貨と銀行部門への厳しい圧力の発生、続いて第4に、先進諸国の銀行・証券部門への影響、という4つの結末をもたらしているわけでございます。

 第1に、同質性のところでございます。交易条件の改善による大量の資本流入の発生があった。

 第2に、借り手が金利と為替変動をヘッジしない。以前は、ヘッジのための金融技術というものが十分に発達していなかった。それに対して最近は発達してきていますが、それにもかかわらず、幾つか原因がございますけれども、当局が為替ペッグの維持といったことについて信頼し得る約束をしていたことがあった等の背景があって、ヘッジをしていなかった。

 次に、予知ができない。予知ができない状況の中で危機に突入していったということが言えるのではないかと思います。

 それから、共通しますのが、周辺諸国への波及効果。メキシコ危機のときにも一国限りと思われていた。ところがそうではなかった。アジアについても波及効果というものがあった。

 それから、制度の不透明性、銀行システムの脆弱性によって更なる悪化があったというわけでございます。これは参考資料4-2をちょっとご覧いただきたいのでございますが、仮にこういう呼び方をしておりますが、70年代の金融抑圧的システムも、90年代の自由化システムも、ともに構造的に脆弱であるというわけでございます。

 それから、負債のリストラが鍵であるという点も共通でございます。

 次のページに参りまして、異質性のところでございます。

 ファンダメンタルズというものが非常に違うのではないか。参考資料4-1でございますけれども、これはIMFの最近の分析を取り出してきたわけでございますけれども、3つの危機を比較してみますと、ベースグループ、これは参考4-1の備考2でございますが、途上国9カ国、アルゼンチンからベネズエラまでの95年の平均値をベースグループとしまして、幾つかのファンダメンタルズを取り出して、こういう放射状の図で図示したわけでございますが、96年のアジア諸国のマクロファンダメンタルズは、ベースグループとほぼ同じだ。インドネシアを除いて、タイ、マレーシア、フィリピンの対外債務のGDP比率は高いものの、対外債務の輸出比率やデット・サービスレシオは同等かもしくはよい方だ。96年のアジア諸国のマクロファンダメンタルズは、94年のメキシコよりもよい。94年のメキシコは、81年の累積債務国よりもよいということで、今回の危機の場合は、放射状の円の中の方に収まっている度合いが大きい。81年の南米の場合は、非常に外に拡散しておりまして、言いかえれば、ファンダメンタルズの状況は非常に悪かったということが言えるのではないかと思います。

 それから、実質為替レートの変化でございますが、アジア地域の実質通貨レートは、95年から高まったというものの、その程度はメキシコ危機や中南米危機に比べると小さなものではないか。

 それから、異なった点の第3でございますが、世界経済の環境が違うのではないか。80年代の先進国経済はスランプに陥っていたわけでございますが、90年代は我が国を除いて比較的好調である。

 参考資料4-3に参りまして、流入資本の質が違うのではないか。80年代は公的な資本フローが中心、90年代は民間資本フローが中心であるということでございます。

 それから、開発戦略が違うのではないか。中南米危機の場合は輸入代替工業化戦略、今回のアジア危機では外向的な輸出主導型戦略を進めていた国がほとんどであるといったことが異質ではないかというわけでございます。

 以上でございます。

〔座長〕ありがとうございました。

 ただいまご説明がありました論点等につきましてご意見を賜りたいと思いますが、いかがでございましょう。

 G委員。

〔G委員〕一つ前の論点とも関係すると思うんですけれども、先程やはりお話の中にあったように、ファンダメンタルズだけで言えば、今回のアジア危機というのは決して悪いところで起こったのではないわけで、ファンダメンタルズの定義の問題が一つあって、フローベースのファンダメンタルズに関して言えば問題はなくて、オフショアマーケット経由の訳の分からないお金がやたらに入ってきて膨大に膨れ上がったというストックベースのファンダメンタルズが実はおかしかったわけでございます。ですから、今までの危機と今回の危機とが違うとしたら、それは経済をフローの実物経済で判断して健全性を考えるのか、それともマネー経済の中で爆発が起こるときにはあっという間に起こるようなタイプの問題として把握するのか。ですから、予見不可能な形で大抵起こってきている。

 これは私自身が仕事でつき合っているということがあるんですけれども、ヘッジファンドというのがやっぱり一つ、主力かどうかは別として、シンボリックに今回の危機の中で機能していると思うんです。ヘッジファンドというのは、何しろ投下資本に対して前年比4割ぐらいのリターンを追求するようなところですから、もともとちょっとした歪みでお金をかき集めてくる、そういう本来の意味でのヘッジファンドもありますけれども、いわゆるマクロエコノミック・グローバル・ヘッジファンドというのは、ものすごい収益機会があるところに登場してくるわけです。ですから、今回のアジア危機の場合も、ヘッジファンドが、旗振り役か、提灯をつけただけかはともかく、登場してくる背景の中には、ストックベースでのものすごい不均衡というものが存在していて、それが一回何かの形でマーケットの参加者のパーセプションが変われば、自己実現的な累積的な過程の中に突っ込んでいって、一回うまく投資のタイミングをつかめばものすごいリターンが期待できると考えるから彼らは出てくるわけで、年に3%とか5%のリターンが見込めるからと彼らは出てくるのではないわけです。予想したシナリオのプロセスがスタートすれば膨大なリターンがあるからこそ出てくる。ですから、そういう意味でも危機の本質はストックにあるのであって、フローにはないんじゃないか。

 そのフローでのファンダメンタルズ、実質為替レートの問題ですとか、あるいはデット・サービスレシオの問題とか、そういうフローのファンダメンタルズの議論と、それからストックの話とはやっぱり分ける必要があって、それを分けないと、今回の危機に関しては、先ほど来のお話のように、ロシアとかはクラシックな危機だと思いますけれども、アジアの危機の話はよくわからないものになる。

 コンテージョンの話というのは、これはまさにこちらの業界内部の事情ですけれども、ニューヨークですとかロンドンですとかで商業銀行と投資銀行とヘッジファンドともう不可分で、人間もお互いに行ったり来たりしているわけです。ビジネスエコノミストは、昔アメリカではメーカーに居ましたけれども、それがそのうち商業銀行に行って、商業銀行から投資銀行に行って、今、投資銀行でエコノミストをやっている我々みたいな者は出来が悪い方でして、本当に出来がいいのは、ノーベル賞をもらった人たちみたいに、大体ヘッジファンドにもう行っているわけです。

 要するに言いたいことは、コミュニティーというのが、例えばニューヨークのヘッジファンドコミュニティーとかいうのがあって、その中の人達が共通ですから、結局アジアでこういうシナリオでスタートし始めると、それが関係なくても途上国にどんどんつながってきている。ですから統計的、あるいは計量経済的に相互に関係なくても、そのコミュニティの中で流動性選好というかリスク回避の程度が高まっていくと、それがあっという間に広がっていく。最後にアメリカ国内ですら今,広がっている。そういうストックとフローの問題、短期と長期の問題を、一応分けて考える必要があるということと、それからもう一つは、私のほうから見て背景にあると考えられるのは、やはりこの間の基本的な問題というのは、アメリカ経済の景気循環の局面の問題があって、それがグローバルな物価安定、あるいはアメリカの交易条件を改善しつつ、アメリカに向かって所得移転が起こっていくようなプロセスの中で起こった現象のように見える。センセーショナル、又は、マスコミ的な発想かもしれませんけれども、ある局面ではルービン長官に代表されるようなドルのトークアップみたいなものっていうのが、ある程度マーケットに受け入れられて、それが実際、失業率でいえば、ネオクラシックな推定でいえば、5%を切るような失業率のもとで、アメリカはなぜ、賃金上昇が起こらない、インフレも起こらないで、景気拡大が、少なくとも1年以上、予想した以上伸びている。こういうものとアジア危機が発生したのが期を一にしているっていうことは、決して、私のほうから見ると偶然ではない。ひどい言い方すると、途上国をグローバルな有効需要のパターンというか、実質所得の分配のパターンをアメリカに有利に持って行かざるを得ないような環境下で、必要とされる調整がある意味じゃ今回の、グローバルな危機というふうに見えてくる。結果的に最後には、グローバルな有効需要の不足を通じてアメリカにも舞い戻ってくるわけですけれども、そのアメリカが、ある種早い段階でグリーンスパン議長が「すでにマーケットは根拠なき熱狂にある」と、もう一年くらい前に言っているわけですが、その段階で、ある程度スローダウンという政策がとれれば、恐らく起こらなかったような、つまり米国サイドで流動性が大幅に必要であるか資本流入が必要であるというような状況を、言い換えれば、経常収支の赤字をどんどん拡大していくような状況をサステインさせるためには、逆に言うと,途上国サイドで大規模な調整と交易条件の悪化と実質所得の減少が必要とされていたような気配がある。そういう意味で、実は今回のこのテーマ全体で言えることなんですけれども、長期の問題は、先ほどからも何度もお話出ているように、もう以前から10年も前からあった話が多くて、それが何も今突然出てきて危機を引き起こす原因では、全然ないんじゃないかと、ある意味では、ストックを中心とした極めて短期の、それもアメリカの今回の景気循環のピーク、近傍局面における非常に特殊なファクターとそれからグローバルなキャピタルマーケットの、今の構造、自由化がある種歪んだ形で進んでいってしまったという、組み合わせの結果起こっているのではないかという感想といいますか、そういう発想で見ているマーケット屋が、我々みたいなのが結構いるということなのです。

〔座長〕ありがとうございました。

 では、F委員。

〔F委員〕今のお話と非常に重なると思いますけれども、あるいは関連すると思いますけれども、ここで危機の比較をされているんですね。全く感想なんですけれども、今回思うのは、ある意味では前回の危機があったから今回の危機がある。それは何かというと、今おっしゃったことと同じなんですけれども、行われているのはコンフィデンスなゲームなわけです。コンフィデンスなゲームのシンボルは何かということなんです。前回の危機があったから、最初のうちはシンボルが財政収支とか貿易収支というところにあったわけです。ですから、それがシンボルだとみんなが思っている間はアジアが順調に発展したわけです。ところが、どこかでシグナルが変わって、シンボルがほかのものに動いた瞬間に今回の危機が一気に出てくる。だから、逆に言うと、前回の危機で一つのシンボルがオーソドックスなシンボルと認められていて、それが今度変わった時点で非常に大きな変化が起こったと言えるんです。だから、もし比較ということでいうと、時間の順番が、先に中南米の危機が起こって、そして今回起こった、その間に世界的に標準化されたようなシンボルができていたというのがすごく重要なポイントだと思うんです。だから、そこを何か書くとちょっと危ないのかもしれませんが、書くと、ポイントじゃないかなと思うんです。

〔座長〕D委員、お願いします。

〔D委員〕波及効果が同じ、同質性だということでここに挙げられているんですけれども、厳密に見て本当に同じかというところを見ていただきたいんです。期間とか、あるいは広がった国とか、その深さ、それが今回、確かにメキシコのときにもコンテージョンがありましたけれども、今回は、例えばロシアとかブラジルまで一緒のコンテージョンと言うかどうかというのは問題ですが、もしこの一連の中で続いているというふうに見れば、これは相当長い期間で世界中に広がっているわけです。さらに、ヘッジファンド自身がロスを出して、そこに貸している銀行の株が半分に落ちていくという状況はメキシコのときと同じかというところで比較していただいて、恐らくメキシコのときにはIMFとかアメリカが救おうという姿勢が相当ありましたけれども、今回はタイのスタートのところで余りそういう姿勢がなかったかもしれないということが問題になっていますので、そういう意味でここを同じだと見るか見ないかで議論が相当違ってくるかなと思います。

〔座長〕ありがとうございました。

 B委員。

〔B委員〕僕は、大局的のことは皆さん話されたので、非常につまらない2点だけなんですけれども、この資料4の2ページに予知ができないとありますけれども、危機はやっぱり予知できないから危機なので、これは恐らくよくないんじゃないかなと私は思います。

 それから、参考4-1のところで、これは3ページ目とも関連するんですけれども、何を言いたいのかよく分からなくて、これはG委員のおっしゃっていたことと同じなんですけれども。つまり、ファンダメンタルズという、例えばこういう指標ではかって、違うところでも危機が起こったので、こういう指標で判断しては危ないですよというメッセージを出したいのかどうかというのがどうもよく分からなくて、最後にレポートをまとめられるときにお考えになればいいことだと思うんですけれども、何かこれがよく分からない。何のためにファンダメンタルズを比較しているのだろう。例えばストックの価格が入っていないとかということがありますし、もう一つは、例えば対外債務残高でも、これは多分世銀の資料からIMFは作っていると思うんですけれども、これは公的債務だけで、例えば韓国のような銀行の子会社あるいは財閥の子会社が海外で借りているのは把握できないですから、それが入っていない。広義の流動性にしても、広義の流動性の定義が国によって違いますので、M2でとるのか、M3でとるのか、それともほかのものが入ったもっと広いものでとるのか、全部違いますので、この意味がよく分からないので、最後に整理されるときに使い方をうまくしていただきたいと思います。

〔座長〕分かりました。

 C委員。

〔C委員〕なるべく短くします。

 今のB委員のポイントは、ファンダメンタルはそんなに悪くなったということをどう使うかということについては、二通りあると思うんです。つまり、役に立たないよという言い方なのか、それともファンダメンタルはそんなに問題なかったのに起こるから、だからそれに対してどうしたらいいのかという二通りの使い方があるんじゃないかと思うんです。

 それと、同質性、異質性というときに、ちょっと議論の整理をする必要があると思います。大量の資本流入の発生ということですが、これは規模を見たときに、やはり90年代の今回のものは、例えばGDP比で見ても、前回に比べてかなり大きいんじゃないかと思います。それから、資本自由化、特に対外資本取引ですが、資本勘定の自由化ということが一つ大きな違いとしてあるんじゃないかなと思います。それから、市場予想の役割が非常に大きいということも、ファンダメンタルをどう扱うかということと絡みますけれども、マーケットセンチメントという訳の分からないものが非常に大きな役割を果たしてしまって、もしそれをコントロールできないとすれば、そういうものを前提にして何かアーキテクチャーをもう一回考え直さないといけないという問題につながっているというところが、前回にはなかった問題じゃないかなと思います。

 それから、2ページ目の「負債のリストラが鍵」というのは、位置づけがよく分からない。これはどちらかというと危機管理の話であって、ここに持ってくるのはちょっとどうかなと思いました。

 それから、異質性のところですけれども、世界経済の環境の違いということがありますけれども、これは基本的にはそんなに変わっていないんじゃないかと思うんです。80年代の前半も、90年代の前半も、アメリカだけ元気で、日本もヨーロッパもイマイチという感じだったと思いますし。ですから、その意味ではそこは異質とは言えないんじゃないかなと思います。

 それから、「流入資本の質の違い」とありますけれども、これは「90年代は民間資本フローが拡大し公的資本フローは減少した」というのはちょっとミスリーディングかなと思います。というのは、80年代のメキシコの債務危機は基本的に民間部門から公共部門への資本の流れ、特に短期のもの、それから今回のアジア危機は民間部門から民間部門への資本の流れというわけでありますから、普通、公的資本フローという呼び方は、公共部門からどこへ流れるか知りませんけれども、つまり供給主体で分けているので、供給主体で民公を分けるのか、それとも受け取り主体で民公を分けるのか、そこら辺はもうちょっと厳密に議論する必要があろうと思いますし、質の違いということであれば、多分民民という組み合わせで起こったということ。ですから、それは後で危機管理だとかリスケだとかをやるときにもそのことが問題になってくるわけで、ここはもう少し注意深く書かれた方がいいかなと思います。

 それから、開発戦略の違いというのは余り関係ないんじゃないかなと思いますが。

〔座長〕E委員、お願いします。

〔E委員〕先ほどのB委員の、どうして経済危機が起こったかという見方とは私はちょっとニュアンスが違うんです。やはり、例えば銀行・金融部門は10年前におかしかった。その銀行部門が10年間に融資残高の比率を倍まで増やしてしまった。その結果、少しでもおかしなことが起これば、借りている方も貸している方も不良債権が増えるということで、脆弱性はどんどん増えてきたんじゃないか。そういうことが積もり積もってストックとして現在の東南アジアの金融危機につながったという気がしております。

 それから、ではその関係でどれくらい外国からの資本の流入が影響を受けたかということで見ますと、タイの場合は、確かにGDP比率で20数%まで上がっているのですが、マレーシアは10%ぐらいと、別に特に外国からの資本流入が影響しているという面はない。

 それからもう一つ、資本の急激な流出というところなんですが、キャピタルフライトがだらだらと続いているなという気がしておりまして、あまり信頼性は置けないのですが、マンスビーでイギリスの研究者がやった数字を見ると、もうずっとキャピタルフライトが続いている。こうなるとやっぱりコンフィデンスが戻らない限り、金は逃げ出て、為替も安定化しないんじゃないか。

 それから、ちょっと資料の面で、タイと韓国でどうして金融危機が起こったかというところで、韓国の場合も97年初め、ジェボルのオキヤとか、これまで韓国政府がすべて面倒を見たところを倒産させるということで、若干政策の変更があって、その政策の変更が完全に徹底されないうちに、実は海外で国内の半分ぐらいもう借りていたという問題が出てきたということがあると思います。

 タイの場合は、為替レート自体、95年のメキシコの後で相当防衛をしたわけです。その後96年からは、今度は自前のバブル崩壊の話で為替レートのプロテクションを始めて、途中からファイナンスカンパニーが債務不履行に陥ってという延々とした流れがあるわけで、やはり何も問題のないところには問題は起こらなかった。そうかと言って、そういうことからアーリーウォーニングができるかというと、今回の経験から言えば、短期債務がどれくらい増えているかというのが一つの指標になるのでしょうけれども、次に起こる危機は多分そこから起こらないだろうという気がしております。

〔座長〕ありがとうございました。

 もう時間でございますので、資料1、2はいいにしても、3、4は次回まで持ち越しましょう。それで、あとH委員、I委員、おっしゃられたいことがあろうかと思いますが、また次回ということでひとつ。その間、委員の方々のご意見を書いたものでお寄せいただいてもいいんじゃないかと思います。次回までにお寄せいただいて、そこら辺をまとめた形で、資料3、4についてはまた次回に時間をとりたいと思います。

 それでは、今日はこれでもう時間ですので終わりにしたいと思いますが、総合計画局長、何かございますか。

 それでは、事務局の方から、次のスケジュールについてちょっとお話をお願いいたします。

〔事務局〕次回第3回でございますが、資料5をちょっとご覧いただきたいのでございますが、資料5にありますように、11月17日16時から17時半、今度は4階 401号室で開催いたします。内容につきましては、この資料5にある通りでございまして、委員の報告の第1回としまして、岡田委員の方から日本経済の見通しをやっていただければと思っております。

 以上でございます。

〔座長〕どうもありがとうございました。

 それでは、以上で第2回の研究会を閉会いたします。

 本日は本当にお忙しいところをありがとうございました。また、活発なご議論を賜りましてありがとうございました。それでは、次回も引き続きよろしくお願いいたします。岡田委員、次回よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

-以上-