第4回世界における知的活動拠点研究会議事概要
1.日時:
平成12年4月14日(金) 13:00~15:00
2.場所:
経済企画庁官房特別会議室(729号室)
3.出席者
伊藤元重座長、伊藤穣一、植田憲一、加藤秀樹、川島一彦、北原保之、椎野孝雄、グレン・S・フクシマ、松岡正剛の各委員
牛嶋総合計画局長、永谷審議官、塚田審議官、藤塚計画課長、林部計画官他
4.議題
「世界の知的活動拠点」となるための環境整備について~その3
プレゼンテーター:椎野委員、伊藤穣一委員、松岡委員
5.議事内容
事務局から、「世界の知的活動拠点」となるための環境整備についての論点等を説明後、各委員から意見発表を行い、これらに基づき討議を行った。
- 椎野委員、伊藤穣一委員より、「ネットワーク型社会におけるビジネス戦略の構築」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
- 日本でファミコンやプレステ等のゲーム機に比べパソコンのゲームが流行らない理由は何なのか。ネットワークインという考え方が、日本人には定着しにくいことが原因ではなく、単にコンソール型のゲームマシンが先行したことが理由なのか。
- 日本は単純にパソコンの普及がアメリカより遅れたことが原因で、ソフトウェア会社も、安くて台数の出たファミコンやプレステの方に向けて生産をしたことが原因ではないか。
- 日本に特徴的な地域型のコミュニティは、今回の有珠山の爆発や阪神大震災の例をみても分かるように、解体しているようですぐ再生しており、強さを持っている。このような日本人が本当に電子ネットワーク上で趣味等だけで人間関係を構築できるのか。
- インターネット上では、チャットや同窓会サイト、県人会サイトなどが最近出来つつあり、日本もネットワーク上でコミュニティを作ることがより普及してくると考えられる。より多くの人がネットワークに参加するためには、インターネット上での評価が重要であり、このためには「言わない方がよい」という日本人の文化の変革も必要。
- 日本のゲームは、知的活動拠点における学習教育やエンターテイメントのツールと成り得るのか。
- 作ったものが何でもコンテンツになるのではない。いいものを作って初めてコンテンツといえるので、コンテンツや知恵の厳密な定義が必要。知的で面白くて、人類の役に立つものが、本当にゲームの中から生まれるのか、ゲームの本質は何かということが重要。
- プレステとゲームボーイは海外で売れているが、どこでどういう人が買っているのか。そこにヒントがあるのではないか。
- 販売数は日本、アメリカ、ヨーロッパともに同じ位売れている。日本は30歳代位の人も幅広く買っているが、アメリカ、ヨーロッパでは20歳代以下の人が買っている。特にアメリカは、20歳代まではゲームで30歳代からはパソコンというシフトがはっきりしている。
- 現在のインターネットに欠けているのは、ユーザーインターフェイス。インターフェースの良さやキャラクターデザイン、ユーザープロファイルの効果的な引出し等の心理学的なノウハウは、コンソール型のゲーム開発を通じてアメリカよりも日本の方が蓄積しており、現在ゲーム業界はコンソール型でなくネットワークにシフトしている。
- アメリカの映画を見ていると、アメリカの情報や考え方がよくわかってくるが、日本のアニメやゲームを見ていても日本の情報や考え方は伝わってこない。ソニーや任天堂も名前は知られているが、単にそれは道具として使っているだけで、日本に対する共感は得られてない。どうすれば日本に対する心理的共感が沸くようになるか考えるべき。
- 江戸時代後半、浮世絵が爆発的に普及したにもかかわらず、日本人はそれを文化的な資産や価値と見ることはできなかった。むしろ、それを文化的な資産として位置付けたのは欧米人だった。
- このままだとファミコンやプレステも知的な財産になりきれないままに終わってしまうだろう。消費財として経済を活性化することに関しては否定しないが、日本が知的活動拠点となるための手段としてゲームだけを入れて果たしてうまく行くか。
- 海外でうまくいっている自動車やコピー機等の日本製品には、日本の色がない。自動車は性能がいいから使われているだけで、そこから日本のイメージは浮かび上がって来ない。
- 例えば研究論文では、建築設計手法や材料の使い方等の説明の後に「~in JAPAN」と書くことで日本を伝えようとするが、その際にはどうしても日本人異質論がある。こうしたバリアを取り除かないと、世界的になっても評価はされない。
- これまで日本は価値をモノで計ってきており、現在もその傾向が強い。アメリカは、例えば映画を通じて如何に自国の文化や宗教や考え方などを他国に発信するかという視点があった。
- 「知的である」ことには、文化的であるということと、グローバルであるという2つの要素がある。自動車、ゲーム、アニメ等はグローバルであるという点で成功したが、次は日本というアイデンティティや文化を如何に世界に売り込むかが課題である。グローバルな商品から、日本というものを感じさせる文化の領域に及ぶには、まだ発展過程があるので、慌ててはいけない。ゲームも、今の段階から分化して、教育に役立つものなどが出てくると思う。
- オンラインサービスの要素は、インフォメーション、コミュニケーション、トランザクションの3つであるが、知的活動拠点の形成にはコミュニケーションが必要であり、インターネットはその重要なツールとなる。
- 日本がモノ、製造、流通を重視し、知識やソフトを軽視する傾向がある点については同感である。日本でサービスという言葉が「タダ」という意味に捉えられているのは象徴的。
- 日本から世界に発信する情報を目的等により整理する必要がある。情報の質を評価する基準として考えられるのが、内容、ロジック、技術的に正確か(説得力のある英語)という3つである。
- 世界が日本に対して期待していることと、日本において価値のあるものとが矛盾している。すなわち、日本で評価される情報は単一的なものであるのに対し、むしろ世界は日本国内における多様な意見・考え方を求めている。
- 知的活動拠点は、インテリジェンスの研究や蓄積が必要。インフォメーションを知的な活動としてインテリジェンスへ転換し、蓄積していく構造を持たなければいけない。欧米は、外交や政治等のインフォメーションをインテリジェンスに転換して蓄積する構造を持っている。日本にはそれがなく、多様なものを一途なものにできず、一様なものとして外に出している。
- 今のゲームの中に、浮世絵が持っていただけの中身(表現方法の斬新さや、その裏にある考え方など)があったとすれば、これだけ動きの早い時代であれば、既にある程度それが日本の文化や考え方が反映されたものとして評価されていてもいいのではないか。
- 結局、何台売れたかということしか評価されず、同じレベルのモノが次々と出ているという段階から進んでいかないのではないか。
- ゲームに関する心理学研究によると、コンピューター特有の構造の中で、子供達は物理的な空間では得られない経験や回想、ロジックなどを覚えていくという結果が得られている。あえて教育のために作ってはいないが、よくできたロールプレイングゲームが子供達の考え方の発展に貢献しているということであり、これを如何に教育に活用していくかという研究も始まっている。
- 松岡委員より、「知恵の創造と情報発信を促す経済社会に向けての基本的方向性」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
- インターネットのポータルサイトにただ情報を集めるだけでは何の魅力もないことは、タイム・ワーナーの失敗例からも明らかである。何故AOLがアメリカで独り勝ちしたかというと、インターネットを目的化せず、あくまでも何かをするための道具として考えたからである。教育やビジネスのための道具として如何にインターネットを活用するかが重要であるにもかかわらず、インターネットが自己目的化されている。
6.今後のスケジュール:
次回の世界における知的活動拠点研究会(第5回)は5月17日(水)10:00~12:00に開催する予定。
なお、本議事概要は、速報のため事務局の責任において作成したものであり、事後修正の可能性があります。
(連絡先)経済企画庁 総合計画局 国際経済班
Tel 03-3581-0464