第3回世界における知的活動拠点研究会議事概要

1.日時:

平成12年3月15日(水) 10:00~12:00

2.場所:

共用第二特別会議室(407号室)

3.出席者

伊藤元重座長、伊藤穣一、植田憲一、加藤秀樹、川島一彦、北原保之、椎野孝雄、杉山知之、林紘一郎、グレン・S・フクシマの各委員
牛嶋総合計画局長、永谷審議官、塚田審議官、藤塚計画課長、林部計画官他

4.議題

「世界の知的活動拠点」となるための環境整備について~その2
プレゼンテーター:植田委員、杉山委員

5.議事内容

  事務局から、「世界の知的活動拠点」となるための環境整備についての論点等を説明後、両委員から意見発表を行い、これらに基づき討議を行った。

  1. 植田委員より、「世界規模の多様な知の交流」及び「魅力的な研究開発環境の創出」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
    • 国際的な学会の仕組みを作るコアに日本人が参画するケースが、欧米に比して少ない。
    • 国際的な学会で議論の主流となる地位を占めるためには、日本人研究者の研究論文の質が重要。アメリカは必要な実験等を十分に行い、内容が十分に詰められているのに対し、日本は人材や研究費の制約のために、必要な実験がなされずにできた論文が多い。
    • 国際会議の主催に当っても、必要予算が付くかどうかは前もって分からず、非常にやりづらい。この仕組みを変えていく必要がある。
    • 先頭に立てば、当たり前の事をしてもオリジナルな研究になる。日本はかつてバブルの時代に、世界の最先端に立ち、議論をリードしたが、それを維持できずに今に至っている。
    • 国際的な学会における地位を高めるには、研究の質を高めるだけでなく、社会的なものをも含めた様々な見識が要求される。この点も、欧米の研究者に比して、日本人研究者に不足している。
    • 日本の経済プレゼンス等に鑑みると、日本発の情報を世界で活かしてもらう努力と機会が少ない。例えば、バレーボールの「リベロ」のポジションを日本主導で設定したような努力が各方面で必要。
    • 大学教員が得る本業以外の報酬や民間企業と共同研究を実施する際の研究費の取扱いについてどう考えるか。
    • 世界最先端の科学技術の研究をするためには、科学技術研究費ではとても賄えない。最先端の技術が必要な先端研究は、大学の学識と企業の先端技術を両立させる共同研究で行うしかない。
    • 研究者は、研究成果を社会にフィードバックするという公の意識が必要。そのためには、お金の問題とは別に、ヒューマン・ネットワークが広がっていることが必要。理想は、その研究者を評価して自然発生的にできたネットワークに公的サポートをすることであるが、実現は難しい。
    • 大学教員の本業以外の活動に対しては、「優れた研究成果と優秀な後継者育成をしっかり行っていれば容認する」と考えることが適当。
    • 研究成果の評価のされ方が、今の日本では適切であるとは言えない。例えば、アメリカの主要なジャーナルに論文が掲載されるよりも、日本の新聞に記事が掲載される方が反響が大きいという現象がある。
    • 大学の研究者の評価方法にも、民間企業で実践されている「360度評価法(上司からの評価だけでなく、同僚や部下、企業の採用担当等からの評価も加味)」と「アウトプット評価法(論文のジャーナル掲載数、被引用数、有能な学生の輩出数等のアウトプットを評価)」の組み合わせを導入すべき。
    • 知的活動拠点をうまく機能させるためには、「的確な評価の仕組み」と「評価を公表する場」を整備することが重要。S&Pのような格付け機関を参考に、日本が世界の研究者を格付けして公表することも考えられる。
    • インターネット社会でのフリーソフト開発においては、既にピアレビュー(相互評価)を経たアウトプットを重視する仕組みが自然発生している。
    • インターネットにおいて「評価」の新しい試み(サイトの参照数、評価者への投票による再評価)がたくさん発生している。
    • オープン・ネットワークであるインターネット社会と必ずしも多数決では決めることのできない学術界とでは少し性質が異なるが、評価をする側と評価をされる側が同じ土俵に立ち、双方向の評価が行われることは学術界でも必要。
    • 日本人のブランド志向(著名人への過度な評価)は日本社会の根の深い問題。
    • 日本への留学生を増やすためには、(1)日本の教育内容(コンテンツ)を他国でも受け入れられる普遍的なものとする、(2)日本社会の留学生の受け入れ体制を整える、(3)保証人制度等の弊害を是正し、日本国内での就職機会を拡大する、という3つがある。
    • 留学生に対するアンケート調査は定期的に実施しているのだろうか。
    • 留学生に関しては、定期的に調査を行っているはずであるが、むしろ、その結果をフィードバックさせることが重要である。留学生の住居は大きな問題であり、公的な施設の整備だけでなく、大学教育や研究に理解のある民間人への支援が必要。
  2. 杉山委員より、「創造性を有する人的資源の育成」について意見発表があり、それに関する討議の概要は以下のとおり。
    • 日本文化は金で評価できないが、日本の円を担保する資産として重要である。このような金銭的価値を測れないもの(文化)と経済のつながりについて議論する必要がある。インターネット上でも、金で価値を測れないパブリックな財に大きな価値がある。
    • 報酬を得る目的で行うスキルの修得と純粋な学問の追求は、区別する必要がある。後者の役割を民間で担うことは可能なのか。
    • 卒業することが目的ではない学習にこそ、本来の意義がある。大学に、卒業単位の取得とは無関係の情報教育等の講座を作り、その講座を民間が担うことも考えられる。
    • アメリカで進んでいるビジネスモデル特許による囲い込みは、日本にとって非常に危険であり、パブリックなものをパブリックに開放するためのルール作りを急ぐべき。
    • 学生が、自由に選択できる多様なカリキュラムの整備が必要。教官側でも、学部教育に対する負担は大きい。この問題解決のため、公教育に民間企業が果たすことができる余地があるのではないか。
    • インターネット等の活用による、教官が介在しないカリキュラムは、大学教育の場で活用できる領域がある。場合によっては、それを卒業単位として認めることも考えられる。
    • 教官が介在しないカリキュラムの修得は、学生のモチベーションを維持させることが難しい。教官が、学生のカリキュラム選択等に対するアドバイザーとなり、学生の学習意欲の減退防止や学習プラン設計への援助が必要。
    • 大学側でも民間企業との教育面における競争を意識することが必要。
    • 学生の知識レベルやモチベーションの度合いに限らず、そもそも大学生の年代に自己責任を求めるのは無理。特に高い学問レベルの前提となる基礎理論修得は、現在の教育においては軽視されがちであるが、学生の自己責任に委ねず、教官による指導が必要。教育とはそもそも手間のかかるものであり、高等教育においても教官は労を惜しまずに、学生のカリキュラム指導等の学習支援をする必要がある。
    • 学生のモチベーションを高揚させるための教育においては、単なる「知識羅列型」ではなく、知識を結びつけた「ストーリー型」とする必要がある。
    • 現在、日本では、学問や研究に対するモチベーションを高める方策として、金銭的なものに片寄りすぎており、これは長期的には持続可能ではない。

6.今後のスケジュール:

 次回の世界における知的活動拠点研究会(第4回)は4月14日(金)13:00~15:00に開催する予定。
 なお、本議事概要は、速報のため、事後修正の可能性があります。

(連絡先)経済企画庁 総合計画局 国際経済班
Tel  03-3581-0464