第2回人口減少下の経済に関する研究会
議事録
平成12年2月10日(木)
経済企画庁総合計画局 732会議室
経済企画庁
第2回人口減少下の経済に関する研究会議事次第
平成12年2月10日(木)15:30~17:30
経済企画庁総合計画局 732会議室
- 開会
- 検討事項等について
(人口減少下で想定される経済、女性の就業について) - 自由討論
- 今後のスケジュールについて
- 閉会
(資料)
- 資料1 第2回「人口減少下の経済に関する研究会」における論点等
- 資料2-1 「世代重複モデル」によるシミュレーション
- 資料2-2 分析に用いた「世代重複モデル」の概要
- 資料3 女性の就業等に関する資料
- 資料4 今後のスケジュールについて(案)
- 参考資料1 前回研究会(平成11年12月22日)における論点メモ
- 参考資料2 前回研究会(平成11年12月22日)議事録
「人口減少下の経済に関する研究会」委員名簿
- 井堀 利宏 東京大学大学院経済学研究科教授
- 岩田 一政 東京大学大学院総合文化研究科教授
- 小川 直宏 日本大学人口研究所教授
- 小塩 隆士 東京学芸大学教育学部助教授
- 橘木 俊詔 京都大学経済研究所教授
- 外谷 英樹 名古屋市立大学経済学部助教授
- 長岡 貞男 一橋大学イノベーション研究センター教授
- 永瀬 伸子 お茶の水女子大学生活科学部助教授
- 伴 金美 大阪大学大学院経済学研究科教授
(五十音順 敬称略)
〔 座長 〕 ただいまから第2回の人口減少下の経済に関する研究会を開催させていただきます。
本日は、委員の皆様方には、ご多用中のところをお集まりくださいまして、まことにありがとうございます。
本日の検討事項は2つございます。1つ目は、「人口減少下で想定される経済」について、2つ目は「女性の就業」についてでございます。
その前に、小川委員は今回初めて出席されましたのでご紹介させていただきたいと思います。人口問題では日本を代表する学者の一人でございます。どうぞ、ご挨拶。
〔 小川委員 〕よろしくお願いします。
〔 座長 〕 それでは、1つ目の検討事項であります「人口減少下で想定される経済」について、事務局から説明をお願いします。
〔 事務局 〕最初に資料の確認をお願いします。資料1が第2回「人口減少下の経済に関する研究会」における論点。資料2-1が「世代重複モデル」によるシミュレーション。資料2-2が分析に用いた「世代重複モデル」の概要。資料3が女性の就業等に関する資料。資料4が今後のスケジュールについて。他は前回の議事録等、参考資料でございます。
( 論点の説明 )
それでは、最初に資料1で簡単に今日ご議論いただく論点をご説明いたします。
2つございまして、1が人口減少下におけるマクロ経済、それから2が女性の就業環境の整備とその経済効果ということでございます。
最初の1は、「世代重複モデル」という、これは人口のコーホート、世代のデータを入れた経済成長論のモデルでございますが、今回はかなり理論モデルのような形でいろいろ実験を行うことができるというようなものでございますので、人口成長率に関しまして、いろいろな典型的なパターンを与えまして、実験的なことをやってみたということでございます。そういう意味で、現実の経済そのものに今後どうなるかという予測をしているというよりも、例えば人口が増加する時代から減少する時代に転換したときに、どのような姿になるのかというようなことを実験的にいろいろやってみまして、議論の素材にしたいということでございます。その結果等をご覧いただきまして、次の2つの視点からご議論いただければと思います。
1つは、人口減少下のマクロ経済の姿をどう想定するかということで、この世代重複モデルで提示いたしましたモデルに基づいて、あるいはそこから自由に離れていただいても結構でございますが、どのように見るのかということでございます。
それから、この世代重複モデルは、各世代が効用関数を最大化するという最適化モデルになっておりまして、そういった意味で経済厚生のようなものを論ずる上でいろいろ使われていると考えておりますので、そういった結果を提示いたしまして、どのように評価するのかという観点からもいろいろご議論いただきたいと思います。言ってみれば、第1の論点というのは、経済学で実証といいますか、ポジティブなことで、第2点目がノーマティブな、そういう規範的な視点ということでございます。
それから、1ページの下の方にございますように、いくつかのキー・イシューということで後ほどご紹介いたしますが、経済成長率の高低と経済厚生の関係ということ、あるいは労働力が少なくなるけれども資本が多くなるという、そういう資本の深化が人口減少下では見られるという結果になるわけですが、それをどう評価するかという問題があるということでございます。それから、人口成長率あるいは経済の成長率と金利の関係、このバランスをどういうふうに見るのかということがございます。それから、人口が減少に転ずることによって対外的なものも含めて貯蓄、投資バランスなどがいろいろどのような姿になるのか、あるいはどう評価するのかということがございます。
( 世代重複モデルの説明 )
それでは、最初に第1のテーマの方の資料の説明をいたします。
その前に今の資料1の3ページをご覧いただきたいと思います。
世代重複モデルとはどのようなものであるかということでございますが、人口のコーホートのデータを入れて、人口変動が起こる。もう一方で各世代がライフサイクルに基づいた貯蓄行動を行う。つまり勤労時代に賃金を得て、老後に備えて貯蓄をし、老後はその貯蓄で暮らしていくと、そういったライフサイクル貯蓄行動を前提にした行動を行うということで、人口の波動とライフサイクル貯蓄行動が組み合わさってマクロ経済の経路決まっていくと、そういったものでございます。個人は自らのライフサイクルを通じた予算制約のもとで効用を最大化すべく貯蓄・消費行動を行うというものでございます。これはやや経済モデル的な話になりますが、生涯を通じての最適化ということで、将来を完全予見して行動するという前提になっております。
それから、理論的なモデルではよく2期間のモデルが使われておりますが、これは人間が20歳から78歳まで生きるという前提のもとで、59期間のモデルであります。引退時期は、モデルの中でいろいろ外生的に与えることができまして、ここでは標準ケースを63歳で引退するというふうにしておりますが、20歳から63歳まで働いて、その後引退して過去の貯蓄で食べていくという、そういう行動であります。
若干特徴といいますか、メリット的なことを申し上げますと、先ほど言いましたように、最適化行動をすることを前提にしていますので、経済厚生の分析のようなものが可能であるということが1つございます。2つ目に当然ながら、コーホートの情報を入れておりますので、世代別の分析などが可能であるということでございます。
それから、3つ目に、これは企業部門を設けておりまして、生産関数が入っておりますので、比較的シンプルな会計的な恒等式だけによる分析よりは、膨らみがあるといいますか、家計が貯蓄したものが生産活動に回って資本ストックとして生産活動に参加していくというメカニズムが入っています。従いまして、世代間の移転等々の問題につきましても、会計的な恒等式に基づく分析では、直接的に移転だけを測るわけですが、このモデルでは実際には現れない移転といいますか、資本ストックが影響を受ける、そういった資本ストックによる後世代への負担ですとか、そういった影響も捉えることが出来るということでございます。
なお、テクニカルな話になりますけれども、このモデルでは「定常状態」と「移行期」を2つに分けておりまして、人口成長率が長時間ずっと一定で持続するという定常状態の姿と、それから人口変動がいろいろ波動が起きるという移行期の分析と両方が可能であるということで、そういった様々なパターンを与えることによって、人口の増加・減少そのものに起因する、そういった増加ないし減少に固有の問題とそれから移行期に起こる、人口変動が起こるときのそういったもの。すなわち、増加から減少に転換するために起こることと区別することが出来るということでございます。
( 定常状態のシミュレーション )
では、早速ながら資料2-1に入らせていただきまして、最初に表1でございます。
表1は定常状態、つまり人口増加率が長期間一定であって、他の諸変数も一定の率で皆同じような率で成長している。そういった状態を想定したものでございますが、ここで最初に行いましたことは、一定の人口成長率を与えたときにそれぞれの対応する経済の姿というのはどういうものになるのかということでございます。ここでは7つケースを与えておりますが、一番人口成長率が高い2.0%のケース、ずっと2%で人口が増えていくと、増え続けている状態がずっと続いている、そういったケースと、それから一番人口が低い、減少している、マイナス2%のケース、毎年2%ずつ人口が減り続けているケース、そういった状態を想定したケースまで7通り出しております。5つの項目について出しておりますが、それぞれの定常状態の中における一個人の生涯効用がどれだけの水準になるかというのが一番上でございます。貯蓄率が2番目。それから、資本が労働に対して何倍あるかという比率、これが3番目。それから、一人当たり労働者の賃金。そして、資本の収益率である利子率であります。
最初に、資本労働比率、真ん中からでございますが、これは2%のケースを 100といたしますと、右に行くほど多くなっていくということで、人口が減るほど資本の深化が進むという姿が描かれています。これに伴いまして、資本と労働の相対価格の比がこれに応じて変わっておりまして、一番下の利子率、資本の取り分でございますが、これは資本深化が進んでいるマイナス2%のケースが一番小さくて年率0.94%です。資本労働比率が一番低い2%のケース、これが2.02%ということでございます。これは生産関数がそういった限界生産力逓減のそういった想定をしておりますので、このような姿になっているということでございます。これに対して賃金の方は、逆に資本の進化が進んだ、資本集約度が高まっているマイナス2%のケースが高いということになるわけであります。
このそれぞれのケースの定常状態を生きている個人は、勤労世代に賃金を得て、その一部を貯めて、老後に利子を稼ぎながら貯蓄を取り崩して過ごしていくということでありますが、合計でどれだけ消費できるかというのが一番上に入っております。ここでは生涯効用の水準を消費換算したという形になっておりますが、2%のケースを 100としますと、マイナスの方に向かうにつれて少しずつでありますが減っていると、こういう形になっております。これは教科書的な経済学の世界ですと、こういう形にはなりません。通常は人口増加率が高いほどそれに必要とする資本が多くなる。資本ストックを多く装備しなければならないということで、消費の可能性が減るということですので、通常の場合、そういう純粋なケースの場合は、人口が減少するほど効用水準が高まるというふうに出ております。しかし、ここでは高齢者になるといろいろと費用がかかる医療の問題ですとか介護の問題ですとか、そういうものは個人にとってはやむを得ずそういうふうになって費用がかかるということでもありますので、これを公的に持つのか個人で持つのかは別としまして、その分だけそこに資源を投入しなければならないといったことを考慮いたしまして、高齢者の割合が高まるほど、そこに資源が奪われると、効用を生む消費の可能性が小さくなるという面がありまして、その関係で人口が減少していると効用の水準が低下すると、こういったことになっております。これはモデルの中では、高齢者の政府消費がほかの人よりもたくさんを必要とするということで、資料2-2に、モデルの概要と方程式体系などがありまして、一番最後のページ、12ページに設定したパラメーターとがあります。
この下から7番目に引退者一人当たり政府消費/就労者一人当たり政府消費という変数がありまして、これは外から与えるようになっていますが、高齢者の場合、就業者の3.5倍かかるということでございます。これはさまざまな医療のデータですとか介護のデータ等々から見ますと、現在、65歳以上で考えますと3倍弱ぐらいなのですが、今後、後期高齢者が増えるということを考えますと、ここでは 3.5という数値を与えています。この想定によって少し変わってくると思いますが、ここでは人口が増加する方が一人当たりでも生涯効用の水準は高まるという結果になったわけでございます。
なお、この点につきましてはどういうふうに考えるかということによって、いろいろと変わってくるかと思うのですが、例えば生産関数は、ややテクニカルな話になりますが、コブ・ダグラス型を使っているということで、資本と労働の代替の弾力性は1という仮定になっております。この仮定が楽観的過ぎるのかどうかという問題、あるいはもっと多くてもいいのではないかという問題があります。この資料の後の方にモデル以外の資料をつけておりまして、代替の弾力性に関するいろいろな過去の実証分析、7ページがマクロで推計したのもでございます。以前に私どもから委託調査の関係で推計して、橘木先生にお願いしたものがございますが、大体0.99という数字が出ております。マクロでやりますと大体1前後、1を超えるぐらいの推計が多いのですが、ミクロで産業別に見ますと、8ページ目以降に過去の実証が出ておりますが、比較的小さめのものがあるということでございます。
ここではマクロで、かつ30年、40年の長期を前提としたことでありますので、1というふうに小さくない値を置いておりますが、この仮定が妥当であるかどうかということでございます。これがもし1よりもずっと小さいということになりますと、人口減少で労働力が少なくなるような経済というのは、非常に厳しいということになるわけではございます。
以上が、先ほどの論点のペーパーでいきますと、1ページの真ん中あたりから今回のシミュレーション結果に関連するいくつかのキー・イシューの一番上の人口成長率の高低と経済厚生の関係というものに対応するものでございます。
さらに、この結果をどう評価するかということもあるのですが、もし仮に人口が増えた方が効用水準が高まるということがあるとすれば、出生率が高い方がいいということになるのかどうかということなのですが、子供というものは、社会にとって非常に将来いろんなことを生んでくれるものになるという解釈が成り立つわけで、もしかすると、公共財的な性格を持つのだろうか、そういう議論にも及ぶわけでございます。
ただ、ここでどう解釈するかという問題ですが、これはあくまでも世代重複モデルによる個々人が自分の生涯の効用を最大化するという行動をとることを前提に求められたものでございますので、もしかすると、社会全体としてはもっと違う姿を想定する必要があるのかもしれない。実際に黄金律の世界といいますか、そこからはかなり離れているわけでございます。その問題で成長率と利子率の関係、黄金律というのは成長率と利子率が一致するところが一番効用が最大化になるということなわけですが、そのところを見ていただきますと、これは生産性上昇率はゼロと仮定しておりますので、人口成長率がそのまま経済成長率になるということで、一番下の利子率と比べていただきますと、人口が2%の場合は利子率はほぼ同じで、これはもうほとんど黄金律に近い姿になっています。
それから、人口成長率が低下していくにつれて利子率も低下していくということになっていますが、人口が減るほどには利子率は減っていないという姿になっています。これはある意味では、当然といえば当然ということで、人口が減ったとしても、ややテクニカルになりますが、時間選好率がそっくりそのまま落ちていくわけではないという想定で、時間選好率は年率1%ということで仮定して、すべて共通に仮定して置いておりますので、そのことも影響しているだろうと思いますけれども、仮に人口がどんどん減っていく、減少率が高まっていったからといって、時間選好率がそれに応じてどんどん下がっていくと、マイナスが大きくなっていくということは余り想定しにくいので、このようになっています。以上が定常状態を想定したこのモデルの結果でございます。
( 移行期のシミュレーションの説明 )
次に若干、移行期、人口の成長率が一定でない時期を想定した、そういったシミュレーションをやっておりますので紹介しておきたいと思います。この資料の2ページ目からでございます。
これはまた典型的なケースを与えまして、どんな姿になるのかというのを実験的に描いてみたものでございます。ここではまず人口のケースを2通り考えまして、図1の下のところに書いておりますが、1つは、人口が増加から減少に転ずるケース、1970年まで年率 1.2%で人口がふえて、その後、年率 0.7%ずつ出生者数が減ってくるというものでございます。いずれは、人口全体がマイナス 0.7%になっていくというものであります。それに対してもう1つのケースは、ずっと引き続き年率 1.2%で一貫してふえ続けるケースが実線の方でございます。 1.2というのは、大体1960年代、70年代の平均ぐらいの増加率であるということであります。それに対して 0.7%マイナスというのは、人口問題研究所の低位推計の減少率に大体近いものでございます。ここでは図1で出しておりますのは、就業世代の数と引退世代の数の割合であります。よく2025年ぐらいになりますと、現役2人に引退1人と、そのようなことが言われておりますが、その値に近くなっています。これを前提として各経済の状況、経済変数がどうなるかというのは、この下の図2からでありまして、まず粗貯蓄率、これは人口が減る方向に転換するとした方が粗貯蓄率は徐々に落ちるということであります。
3ページの頭、図3でありますが、資本労働比率、これは人口は減少に転じた、ケース1、図の破線ですが、徐々に増え始める。徐々に高まり始めるというようになっております。先ほど定常状態でも見られた資本集約の上昇というものが見られます。一方では、労働力の方は、破線の方はいずれ減り始めるということが背後にあるわけです。これに対応して資本収益率は、人口が減り始めるとかなり低下していくということであります。労働に対して資本が相対的に多くなりますから、資本の限界生産力が下がるということであります。この辺を考えますと、例えば年金などでも積み立て方式でやっているときに、少子化の影響を全く受けないとは言えないのではないかということは、こういうことから出てくるわけでございます。
それから、4ページの頭で、今度は資本に対して労働の方の賃金率、これは逆に資本装備率が高まりますから、人口が減少に転じた方が増えてくるということであります。このモデルでは、一人一人は現役時代に賃金を稼いで、その間に貯めて、老後は貯蓄を取り崩すのと、そこから利子で食べていくと、そういった姿になっておりますが、トータルとして生涯所得を稼いで生涯で消費すると人口が増え続けた場合と減少に転じた場合とでどちらが多いかということにかかわりまして、図6に一人当たりの生涯の消費支出、現役世代も引退世代も入れたものでありますが、それを描いております。これは人口減少に転ずるケースが減少に転じた当初にはちょっと消費支出が上がりまして、最終的にはややまた下がっていくというような姿を描いております。
それから、5ページに、以上は実は一国だけで考えた想定でありますが、次に外国も存在して、かつ日本と外国とで人口の変化が違うということを想定してみたものでございます。日本の方は、今の人口転換ケース、増加から減少に転ずるというケースの方をとっておりまして、それに対しまして外国の方は、引き続き人口がふえ続けるという状況であります。現在も実際、日本が世界で最初に最も早いピッチで高齢化していって、外国の方は世界全体で見ればまだ若い人がいっぱいいると、そういった状況がありますが、そういったことを想定したわけであります。
その場合に、6ページの図8ですが、貯蓄率、投資率、そしてその差である経常収支がどうなるかというのをごらんいただきますと、貯蓄率は下がるけれどもゆっくりであると、それに対して投資率の方は、比較的早目に低下して、その結果、経常収支は当初かなりの大幅な黒字になるということでございます。これは前回、長岡先生から移行期ということでご指摘いただいたことで、いろいろ分けますと、このモデルがそのような姿をまさに描いているということでございます。
その下に対外純資産がありますが、この対外純資産の方は、経常収支が縮んだ後もまだしばらくプラスが続くということで、かなりの勢いで、この2050年までのシミュレーションでは上がり続けています。
人口の方は3つ想定して、単調増加ケース、先ほどの 1.2ずっといくというのがケース1。それから、増加から減少に転ずる、 1.2からマイナス 0.7に転じていくというのはケース2。それから、ケース3というのは初めて登場しますが、これはある特定のときだけ人間の数が多い、下の方に書いておりますが、70年から85年にこのモデルで新たに登場する20歳の世代が他の世代に比べて2割多いということで、団塊の世代が存在するケースということでございます。
以上をごらんいただきますと、同じ年金の賦課方式で運営したとしても、人口が増加のままいった場合と減少に転じた場合というのは、かなり違うというような姿が見てとれるかと思います。
私からの説明は以上でございますが、このモデルのシミュレーションのことに特にこだわらずに、皆さんからいろいろご意見をいただければありがたいと思います。
以上であります。
〔 座長 〕 ありがとうございました。
では、事務局の説明に対しまして、皆さんからご質問なりご意見なりをお伺いしたいと思います。手を挙げてください。
では、はい。お願いします。
〔 委員 〕 おもしろいシミュレーションだと思うのですが、ちょっと全体像がよくわからなかったのです、モデル自体の事ですけれども、最初に表1で、人口成長が低くなるほど、生涯効用の水準が高くなっているのは、先ほど高齢化に伴うコストが増加するからだと説明がありました。それを仮に入れない形で、こういったシミュレーションをするとどうなるのか、あるいはそれをやられたのかどうか。
〔 事務局 〕 それは逆転します。ちょっと今数字を持っておりませんけれども、それを 3.5倍というふうに申し上げましたが、1にすると逆転しまして、人口が減った方が高くなります。
〔 委員 〕 そこにかなり依存しているとすると、せっかくシミュレーションをして、こういった複雑なモデルをするよりも、先にそこだけが突出するような感じが多少します。それと関連して、そういう形でエージングコストを入れてしまいますと、人口成長率と利子率を比較してゴールデンルールという話が消えるのではないかと思います。要するにゴールデンルールというのは、基本的にそういうのがない場合に消費水準の全体をどうするかというときにそれを配分する話なので、そこにディストーションが入ってしまいますと、多分、利子率と成長率の比較ではなく、その要因をさらに加えることになりますから、確かにそれを入れるとおもしろい話だと思うのですけれども、そこはどのくらい重要なのかというところは少し気になっております。
それから、2国モデルと閉鎖経済をやっていますね。主に最初に閉鎖経済の方のデータ出たのですけれども、2国モデルにすると、金利などは多分オープンになるので、外国にかなり引かれるのですね。外国にはどのぐらいの規模で2国モデルが入っているのですか。
〔 事務局 〕 これは、外国はもともとアメリカを想定してつくっていて、日米の経済のことになっています。 1.5倍ぐらいの想定になっています。
〔 委員 〕 国内の閉鎖経済でのいろんな結果はある程度紹介されたのですけれども、2国モデルは経常収支のところを言わなかったので、定性的には同じと考えていいわけですか。
〔 事務局 〕 方向としては同じです。外国は2倍近いですから、大体金利が3対2ぐらいのところで割ったような姿になると。
〔 座長 〕 では、ほかの方。では、どうぞ。
〔 委員 〕 私も先ほど委員のご指摘された 3.5ですが、私もちょっと気になりました。あれがなくても人口が減ったら賦課方式で運営されているわけですよね。
〔 事務局 〕 これは、最初の定常状態は、全く年金なしという想定です。
〔 委員 〕 もし組み込まれていたら、人口が減ったら、生涯所得が落ちて、それで効用が落ちると。
〔 事務局 〕 そういうことになると思います。しかし、ここでは年金は全くなしの想定です。
〔 委員 〕 そういたしますと、家計の予算制約を見ると、年金しか政府から入ってこないのです。例えば高齢化が進むと、社会保障給付の変化というのは、年金以外でも医療とかそういうのがあろうと思うので、もしそれを考慮すると、高齢化が進む、人口が減ってもお金は入ってくるというふうなメカニズムもあるのではないかと思うのですけれども。政府消費だけが膨らむというふうな仕組みになっているのですけれども。
〔 事務局 〕 年金の方は考慮していなくて、ディストーションがあるということですけれども、そういうのは政府消費だけになります。それは政府の規模を、外から与えているということになっていまして、そこだけがマーケットと違うところです。
〔 委員 〕 遺産を考慮されているというふうにおっしゃったのですけれども、後ろの方を見るとBがゼロになっているので。
〔 事務局 〕 遺産は、モデルの中には遺産を入れることはできるようになっているのですが、ここではできるだけ純粋な姿でゼロにさせていただきました。
〔 座長 〕 日本では遺産動機は相当強いですよね。
〔 事務局 〕 遺産を入れると、人口は増加した方が若干有利に働くと、そういう結果になっています。
〔 座長 〕 遺産動機ゼロでないシミュレーションも内部でやっておられるのですね。
〔 事務局 〕 少しやってみたところです。
〔 委員 〕 わかりました。
〔 委員 〕 ちょっと気になるのですけれども、一人当たりの遺産なのか、子供の数を考慮されているのか。
〔 事務局 〕 子供の数は全く考慮しておりませんで、子供を持つことの効用とか、そういうのは全く考慮していないのですが、ただ、育児の直接的コストの方も考慮していない。だから、新しい人間にかかるコストは、キャピタル部分といいますか、資本の分配率を 0.3で与えていますが、その部分だけです。人的資本で金がかかるということも特に考慮していない。その辺考慮すれば、もっともっと人口が減った方が有利に出るわけですけれども、そこは考慮していません。
〔 座長 〕 では、委員。
〔 委員 〕 人口が減ったときに効用が下がるメカニズムの確認ですけれども、高齢者の方をサポートするための政府消費のために税金がふえるということですか。
〔 事務局 〕 税金がふえて消費の可能性が減ると。
〔 委員 〕 そういう可能性が減るということですか。
〔 事務局 〕 政府消費は家計効用に入れていないのです。
〔 委員 〕 老後を全く政府が責任を取らずに、自分で面倒を見るというふうにしても同じ結果になりますか。つまり、ある種の保険をつくって、政府は老後の面倒を見ないけれども、自分が面倒を見ると。
〔 事務局 〕 その場合にどう想定するかですが、例えば医療ですとか介護ですとかを自分でやっても同じと想定しています。
〔 委員 〕 介護保険を自分で負担をして入るわけですね。
〔 事務局 〕 本人にとってはハッピーではない、健康が悪くなるということはハッピーではないことですから、その分、コストであって、自分で払っても、あるいは保険で払っても、生涯の払うとすれば、その分、コストであるというふうに考えれば、もしそれが3.5倍だというふうに考えれば、それは政府が払うと考えた場合結論は同じことになるかと思います。
〔 委員 〕 人口が減っていくと、金利が下がっていくから、生涯所得が減るというメカニズムはありますね。そのメカニズムはプライベートな保険であろうと、政府の保険であろうと、変わらないとは思いますけれども、タクセーションで賄う場合に完全にプライベートな保険と同じ結果が出るのかどうかというのは、確認してみる余地があると思います。
〔 事務局 〕 それは先ほどの委員のご指摘とも関わると思いますが、プライベートだけの部分と、実際に政府がやるという部分がありまして、政府がやる部分というのは、その問題は起こると思います。賦課方式の年金と同じように現役世代の負担を多くしてということになると、その部分は残ると思います。
〔 委員 〕 このケースには技術進歩はありませんので、資本をいかに有効に活用するかというところが非常にキーになっていると思います。このため国際的な資本移動の可能性が重要で、日本が対世界で1対 1.5というのは、日本が大き過ぎるのではないかと思います。
〔 事務局 〕 全くの小国のケースと比べれば、違い相当あると思います。ただ、実際には設備のストックなどは、そんなにマレアブルではなくて、そんなに動かないわけですけれども、このモデルでは外国がこのぐらいのサイズでも収益率を内外で均等化させるようにすると、かなりの資本移動が量的には起きて、日本の設備投資などは、外国に少し大きいショックを与えれば、グロスでマイナスになってもおかしくないような状態が生じるわけです。これは長期ですから、1年、1年を気にする必要はないのですが、仮に年々で見ると、当初にそういうことが起こります。
〔 委員 〕 人口経済をやっている者からみると、ちょっと異質な感じがします。このモデルでは人口成長を入れているのですが、恐らくセンシティブなコーホートに入ってきた数の大小、その変化のことを言っているのだと思います。実際には人口が変化するときには、死亡率、出生率両方変化します。初期の段階では、確かに出生率の低下は非常に大きいのですけれども、人口が減り始めて高齢化の状態になってしまうと、死亡率の改善が非常に大きくなります。年齢コーホートとエイジストラクチャーがどのようにコンサンプション・ファンクションのところに入っているかよくわかりませんけれども、キャピタル・ディープニングの話が出てきました。でも、これが人口経済学の中では一番クエスチョナブルなのですね。これが本当にエンピリカルに証明されていないのです。なぜかというと、出生率が下がったときにミクロのレベルで家計でそれがベネフィットを享受されてしまうとマクロにはインパクトがないわけです。わかりますか。
出生率を下げますね、所得は多くなるけれども、そこで消費レベルが改善されてしまうと、家計の中でベネフィットが全部吸収されてしまって外に出ないわけです。そうした場合には、キャピタル・ディープニングというような形になかなかならないですね。わかりますか。
〔 座長 〕 ちょっとわからない。
〔 委員 〕 出生率が下がると、要するに所得が変わらなければ、一人当たりの所得が増えるわけですね。だから投資ができる。セービングができるという話になるわけですけれども、実際には所得は確かにそうなるのだけれども、消費の水準が変わってしまうわけですね。
〔 座長 〕 消費をしだすということですか。
〔 委員 〕 そうです。そうすると、本当にこのシミュレーションでやっているような、キャピタル・ディープニングの形にならないで、意外とキャピタル・ディープニングの効果が小さくなってしまうわけですね。
〔 総合計画局長 〕 それは子供がいなかったときにたくさん消費できるから、若いときにたくさん消費する癖がついてしまって、年をとっても消費すると……
〔 委員 〕 実際には貧困なレベルにいる人たちにしてみれば、当然、子供がいなくなれば一人当たりの分け前が多くなってくる。それは自分のところで……
〔 総合計画局長 〕 生涯で考えれば、貯蓄が増えない。
〔 委員 〕 意外とね。
〔 座長 〕 子供が少ないと、年をとったら海外旅行に行きましょうと、直観的に言えばそういうことですね。
〔 委員 〕 いろいろな栄養状態というのがよくなってきますから、それは生産性で、本当は生産関数に入ってくるのですが、その辺のキャピタルディープニングが誇張されているところがこのモデルの中で見られるところがかなりある。もう一つは全体的にこれだけ年齢と人口が変わった場合には、コーホートサイズ効果というのが非常に大きいのですね。やはり賃金などにきいてきますから、ベビーブームのコーホートのライフタイムの収入が変わってきます。そうするとやはりそういったものが出生率にコーホートサイズの大きさが影響してくる、賃金だけではなくて、出生率も変わってくるということで、そういったところが人口学者から見るとちょっと足りないかなという感じがします。
あとはセービングスに関して、我々が行った全国消費実態調査の分析で、ミクロから推計してみますと、やはり一人当りの期待遺産額によってコンサンプションが確実に変わってきているのですね。だから、その効果を、先ほどどなたかがセービングスのところでインハリタンスのことをおっしゃられましたけれども、子供の数が確実に減ってきた場合には、一人当たりのポテンシャルのセイビングスのトランスファーの額が将来変わってくるわけで、それが現在の消費ビヘイビアに直接きいてきていますので、そういったものを本当は入れていくと、もっともっと現実に近いものができるのではないかというふうに思います。
〔 座長 〕 これはサジェスチョンだから、考えていただくとして、ほかの方。
〔 委員 〕 非常に興味深いシミュレーション結果なのですが、思ったのは、やはり先ほど先生方も言われたとおりなのですが、高齢者が多くなって、高齢者のコストが増えることによって、生涯の効用水準が低下すると。あとの貯蓄率とか資本労働比率とか賃金率とか利子率というのは、割といわゆる新古典成長理論というところの示す、まさにそのとおりで、その1つだけがオリジナルというか、そういう観点でありまして、それはそれで非常に、これをやる価値はもちろんあると思います。ですが、私が思ったのは、今から30年ぐらい前のモデルで、日本が高度成長してきた時代のいわゆる労働と資本という、そういう2つの生産要素の重要性を生産に関するモデル化した新古典モデルというのは、高度成長の時代には比較的あったと思うのですが、これから今後50年の日本の経済成長を見るときにおいて、果たしてそれが有効かどうか。例えば最近の生産における知識とか人的資本とか、ナレッジとかそういう情報革命と言われて、余りそういうのがなくてもアイデアがあれば非常に成長していく、そのような生産関数がひょっとしたら日本経済にとって重要になってくるのかもしれない。
ですから、これは私の希望なのですが、そのようなものを念頭に置いたモデルも作成できれば、さらに今後どうなるのかということに関しては。
〔 座長 〕 それは、ここの技術進歩率がゼロではなくて、高くすることによって……
〔 委員 〕 そうですね、非常にこれはラフかもしれませんけれども、例えば最近の経済成長論の話で人口が増えるとアイデアが増えて、TFPみたいなのが増えるというふうなものが成り立っているような世界ですと、ちょっとラフというか大ざっぱかもしれませんけれども、人口が増えるとAが上がっていくとか、そのような第一次接近としてはやられてみるのもおもしろい、有益な結果になるのではないかというふうに思います。以上です。
〔 座長 〕 何か。
〔 委員 〕 私は、何が外生変数で何を内生変数としてどういうふうに推計したのかなと、さっきから結果を眺めているのですけれども、実はまだ余りよく見えていないのです。恐らく仮定の置き方にかなり結果は左右されるだろうと思うのですが、どの仮定がこの計算結果に強くきいているのか、また何がここで示されているのかが、まだよくわからっておりません。例えば個人の効用関数は「自分の消費水準」と「子孫への遺産」から構成されるというOLGモデルですね。「子孫への遺産」とは、次世代の効用を自分の効用としてどう考慮するか、ということですから、ある意味では子孫への遺産部分はこのモデルの中で「子供」を体現したものともなっています。つまり子供を意味しているのだけれども、それとは別に外生的に人口増加率を与えているわけですね。
〔 事務局 〕 子供は内生化はしていないのですが、遺産だけはモデルの中に入れています。遺産は効用関数の中に入っていますから影響を与えるというふうになっていて、子供そのものの効用は、特に想定されていないです。
〔 委員 〕 最初に拝見したときの印象は、人口2%成長が望ましいということを打ち出すための資料としていいかなと、まずはそういうふうに。
〔 座長 〕 私もそれを聞きたかったのですけれども、企画庁さんとしては、人口が減ったら困るよと、何とか人口成長率を高くした方がいいという魂胆はないかと…
〔 事務局 〕 ないです。全くの偶然です。意図することは全くなくて、このモデルはもともと橘木先生を中心に91年に企画庁でつくっていただいたもので、そのときから政府消費はその取り扱いになっていて、 3.5倍というのはそのころから想定されていた値です。それを人口のケースでいろいろ行ってみたらこのようになったということです。あと若干幾つか手直ししておりますけれども。
〔 委員 〕 より個人的におもしろいと思うのは、例えば税率とか、それから社会保険料とかを、どの年齢層、世帯属性から重く取るかとか、どこに給付するかとか、そういう政策変数を変えることで、どういう影響がそれぞれの世代や年齢層に出るかといった試算です。現実的な話としてどうなるんだろうと思うのですが、これは年齢階層や世帯構成等は考えず、同質的な1つのブロックとして推計してあるので、私のように、地に足が着いたところで物事を見ている者にとっては、こういう結果も出てきたのかなという、そういうのであって、よりもう少し具体性がある方がどうなるんだろうと知りたい気がします。
〔 事務局 〕 私も実際にいろいろなことを行ってみたいというふうに思っておりますが、技術的に非常に難しいという問題があります。58期間というか、60期間ぐらいで多期間のモデルというのは、そもそもめったになくて、これを動かすだけでも大変で、パラメーターをちょっと変えただけでもいろいろ大変なのです。固定パラメーターでも可変パラメーターになかなかできないという技術的な問題がありますし、このためにこの3日間ぐらいは真夜中まで作業をやって……
〔 委員 〕 勝手なことを言って申しわけありません。
〔 事務局 〕 そういうことで、非常におっしゃることはわかりますし、私もそういうふうに持っていきたいのですが、いろいろ技術的な限界があります。
〔 座長 〕 そういえば日本経済研究センターに出された研究があるじゃないですか。
〔 委員 〕 日本経済研究センターは58期間ではなくて6期間です。
〔 座長 〕 大分違う結果が出ているのですか。
〔 委員 〕 問題意識が違うのですけれども……
〔 座長 〕 公的年金の民営化を中心にやられたんですけれどもね。民営移行ですよね。
〔 委員 〕 私のは労働時間も内生化したものです。
〔 事務局 〕 こちらは労働時間は内生化されていないのです。ですから、本当は……
〔 委員 〕 でも、ほとんど結果は方向としては変わらないです。
〔 事務局 〕 プライムエイジの男性というのは、余り労働供給に影響がないと思います。しかし、引退時期をどうするかというのは、本当は内生化されていないといけない。このモデルですと、当然引退時期を遅くそればするほどいいということですけれども、それはある意味で老骨にむち打って働いているというマイナス面が入っていないわけですから、そういう問題はあると思います。
〔 委員 〕 目下男女間格差は考えていないのですか。
〔 事務局 〕 これは全く人口そのものをデータとして入れています。 ( 女性の就業と出生率について )
〔 座長 〕 ほかになければ、次に移ってよろしいでしょうか。
では、次の人口減少下で想定される経済については、このぐらいにしまして、次は2つ目の検討事項である「女性の就業」につきまして、事務局よりご説明をお願いいたします。
〔 事務局 〕 それでは、資料の3でございますが、資料1の論点の2ページ目でございます。
これは人口減少のもとで、労働力がどれだけ出てくるか、あるいは今後子供がどれだけ出生率が高まる、あるいは歯どめがかかるかということが問題になってきているわけですが、女性が社会進出していろいろ働き始めるということは、結果的には、この面では経済厚生を高めるという方向に働くのではないかと、そういった問題意識でございます。
ここでは、1つは、やや経済学的な冷めた言い方ですが、労働力としてどの程度出てくるのだろうかという可能性、それから経済効果はどのぐらいになり得るのだろうかということが1つございます。
それから、もう一つは、子供、少子化との関係で、これは幾つかありまして、子供の出生率の低下に歯どめをかける、あるいは回復させる、こういう話があり得るわけですが、政府がどこまで介入するかというときに、直接的にというよりは、もともと望んでいたことができない、障害があるのであれば、それを除く必要があるという観点からだと思いますけれども、それにしても少子化にどこまで歯どめをかけることができるのか。児童手当の問題もありますが、直接的に子供そのものに金を費やすのか、あるいは子供を出産する、そういった出産・子育て、そういったところにいろいろ働きかけた方が効果があるのか、そういった問題はいろいろ議論があるわけですが、そういった子供の問題との関係で女性の就業の問題を考えてみるということが問題意識としてあるわけでございます。
資料3では、そのうちのごく一部ということですが、日本経済にとってどのぐらいの影響度があり得るのだろうかということを出してみたものでございます。
1ページ目、これは女性の就業率上昇、あるいは女性の能力の向上と言った方がいいかもしれません。現状において十分に能力を発揮する機会が限られているということを想定すれば、こういった想定もあり得るのではないかということであります。
この表の一番上の方からごらんいただきますと、まずM字が消滅した場合、これは単純に労働力率のM字の真ん中のところがフラットになった場合、単純計算いたしますと、女性の収入増、就業率が高まったことによる雇用者所得に換算すると、3兆 2,320億円ふえるということで、これは雇用者所得を 1.1%増大させるということであります。実は、マクロ経済的に考えますと、この増加というのは、雇用者所得の増加だけに終わらずに、労働力が増えることによって、資本の収益率が高まって設備投資を誘発してKがふえる、資本ストックが増える。そういったメカニズムが働いて、最終的には国民所得の増大になるだろうということで、国民所得も 1.1%増えるという想定であります。M字の場合は、こういう大きさであるということです。
次に、アメリカ並みに女性の就業率が上がった場合どうなるか。これは雇用者所得の増大で10兆 7,960億円、 3.8%増える。時間がたてば、国民所得も 3.8%増える。こういうことであります。
以上が就業者数が増えるということで前提にしたものでありますが、次に男女間賃金格差が縮小する方向で女性の能力が向上して、それがプラスになるということも含めるとどうなのか。アメリカ並みだと20兆円。波及して国民所得の増大で27兆 7,000億円、7%増えるということになるわけであります。
今後30年、40年のことを考えますから、アメリカ並みにとどまらずにスウェーデン並みということも考えてみたということでありますが、就業率ですと18兆円増える。国民所得で25兆円、 6.4%増えるということであります。さらに男女間賃金格差の縮小、これも達成された場合、最終的には17.5%増えるということであります。
これが30年で達成されれば、経済成長率は毎年0.6%、50年でも0.3%増えるということでありますが、計算上はこういうことになるということでございます。
以上がマクロの話でして、次に2ページ目にミクロの話、ミクロということで、これはマクロには結果的に今申し上げたような話になり得るということですが、ミクロの方は実際の社会的なコストベネフィットはどうなのかということも勘案して出しております。
これは、例えば保育サービスの充実などによって、就業の中断をしなくても子育てが可能になったというようなことを想定して算出しておりまして、もともとの根っこにあるものは、私どもが直接今回はじいたものではなくて、前回、第1回の会議でも資料だけ提出いたしましたが、3ページの一番下に書いておりますが、以前の総合計画局で行いました国民生活研究会というところの中間とりまとめの報告書の中に入っているというものでございます。
2ページのこれもご案内の図でありますが、就業中断をしなければ、この斜線部分だけ所得が失われないで済んだということで、これが上の表にありますが、数字で言うと一番左側の下から2番目、①-②と書いたところがこの斜線部分に当たりまして、 7,000万円であると、生涯通じて大体 7,000万円ぐらいの違いが出るというものであります。これは可処分所得ですと 4,500万円。これは社会的にどう評価するかということで、個人のこの女性の所得が増えたというだけでは、それだけのことになるわけですが、実際には税金の形で社会に還元されるというふうに考えますと、所得税・住民税で 1,700万円、さらに医療保険等の関係で 200万円ぐらいあると。厚生年金の保険料はいずれ自分に戻ってくるという部分であると考えるとカウントしないとしても、 1,950万円ぐらい大体社会に還元されるということであります。
一方、仮にこれが保育サービスの充実が行われたことで可能になったというふうに考えますと、下の方に保育サービスのコストがありまして、社会的コストは公的負担であると。これは多い場合に大体 600万円ぐらいということですから、社会的コストベネフィットといいますのは、税金で入ってくる、社会に還元される分の方が大きいという結果になるわけであります。
こういったことが示されておりまして、この限りでは保育サービス充実のベネフィットは、社会的にもかなりプラスである可能性があるということであると思うのですが、さらに、実は先ほど言いましたように、雇用者所得だけではなくて、国民所得にも波及すると。そうなると、もし仮に計算すると、さらに大きな額になっていくということでありますし、さらに、もし広げて、生まれてきた子供が将来、社会保障の原資になるというところまで考えますと際限なくなりますが、さらにベネフィットは大きい可能性があるということです。
実は、先ほど、一番最初に出しました定常状態のシミュレーション結果で、人口成長率が高いほど効用が高まるということから、ちょっとこれは目の子で計算しただけですが、1人子供が生まれると大体 1,000万円ぐらい、この計算からいくと社会に還元されるということが出てくるということになるのですが、ただ、この数字自体がやはり幅を持って見る必要があるということですので、先ほど来ご指摘いただいておりますように、そこまで確たることが言えるのかどうか、子供がもたらすベネフィットまで言えるのかどうかというのは、ちょっと確たることは言えないということでございます。いずれにしても、これは数字でお示ししたものですが、社会的な便益に似たものを考えても、いろんなプラスはあるのかどうかということであるかと思います。
4ページ、5ページですが、これは国際比較データで、一般に日本国内で通常考えると、女性の賃金が上がると仕事を中断する機会費用が高まりますので、それがその2ページの話であるわけですが、そうすると、これは出生率にネガティブな影響を与える可能性があるということがいろいろ言われているわけですけれども、国際比較データで見ますと、どうも最近は必ずしもそうはなっていない。4ページは、縦軸に労働力率をとって、横軸に出生率をとると、昔は負の相関というのは、最近は正の相関に近くなっているというのが一つあるわけであります。
それから、5ページですが、ちょっとこれはコピーが見にくくて恐縮ですが、横軸に男女間賃金格差、右にいくほど女性の賃金が総体的に高いということですが、縦軸に出生率をとりますと、こういうU字型のカーブがある。真ん中辺は一番低いのですが、あるところまで女性の賃金が高まってくると、だんだん上の方にU字型のカーブが最近見られている、そういったことであります。これはどういうふうに解釈するのかということでございます。
私からの資料説明は以上です。
〔 座長 〕 ありがとうございました。
では、この説明に対しましてご意見、ご質問があれば、手を挙げていただければ。
〔 委員 〕 私は専門ではないのでよくわからないのですけれども、最初にやらせてください。
マクロの推計ですけれども、これは確かにこういう仮定としてこういうことが出てくるといいますか、1つ気になるのは、問題はどうして今女性が逆にこの中で働いていないのかをどう見るかということなのです。仮に何らかのコーナーソリューションか何かの非自発的に制約があって働けないのか、それは制約を取っ払って働いてしまうとなると、何のコストもなしに可能になるわけですけれども、そうするとその分、資源が有効に活用されて、GDPが増えるというのはあると思うのですけれども、もしも、何らかの形で自発的に最適化の結果として引退していると、ある時期に上がるとすると、それを変えるためには、何らかの政策的なインセンティブを与えなきゃいけないので、そのためには、多分、何らかの働くことに対してお金を出せば、当然、そのための財源をどうするかという話になっていって、そこで税金がふえて、その効果がGDPを減らすかもしれない。どういう理由でこういったM字型が消滅するのかという、そういうストーリーが背後にないと、なかなか単純にこうなりました、なる場合はそうなりますと言われても、そうですかということしか言えないのではないかというのが1つ気になるところです。
それから、もう一つ、男女格差の縮小については、これは多分、男性の方が高く、女性は低いと思うのですね。男性の方に持っていけばそうなるという話だと思うのですが、格差を縮小するといっても、男性の賃金が下がって縮小するときもあるような気がするのですが、男性が下がらざるを得ない。
〔 座長 〕 男性が下がらざるを得ないです。
〔 委員 〕 男性が素直にストレートに上がっていくのが、どういう場合にそれが出てくるのかというのがよくわからないので、そうなればそうなるというのがわかるのですけれども、では、これはどのくらい意味があるのかというのは、多少気になる。
それはミクロのところでも、確かにこういうところからM字型、一旦下がったりすることがなくなれば、そのとおり働きに行けばその分所得が出てくるというのはわかると思うのですが、仮にみんなそういった形で働き出すと、女性の供給が増えるわけですから、需要が一定であれば賃金が下がるはずですね、労働条件から見て。本当にこういったことがいけるのかどうか、多少ミクロ的なところも気にはなります。それまでをちゃんとやりますといったら大変だとは思いますけれども、どういう前提でこうなるのか、少し気になるところがあります。その程度です。
〔 事務局 〕 この数字自体は、どの程度まで可能性があり得るのかということの目安として出しているというふうにご理解いただきたいと思います。ストレートにこのとおりになるとは思いませんし、女性が男性並みになる、スウェーデン並みになっていったら、ほとんど1億総企業戦士みたいな、将来は、企業戦士ではないかもしれませんが、そういう状態というのはあるのかどうかというのは、確かにあります。スウェーデンでも男女それぞれより短い労働時間でフルタイムにおけるとかそういう例が多いと思いますので、確かにご指摘の点はあると思います。
〔 座長 〕 では、はい。
〔 委員 〕 私も専門外なのです。スウェーデンの就業率が上昇していくというのですけれども、実際には僕らもミクロのデータを調べてみたら、日本は子供が未就学児童を抱えた母親の41%しか働いていなくて、スウェーデンは83%働いている。実際に83%といっても、54%ぐらいの人が実際に働いていて、残りは休暇中なのです。就業率が上がったからといって、単にスウェーデン並みの計算を就業率だけで計算することに非常にリスクがあると思うのですけれども。
あともう一つは、公費負担の点なのですけれども、これは一橋大の高山教授がやられた分析ですけれども、東京都の場合にはランニングコスト一人当たり、公的費用の場合、一人当たり子供を預かると1ヶ月当たり50万円かかるのです。そうすると、とてもじゃないけれども、6年間で 700万円ぐらいのコストではなくて、東京都の場合は物すごく膨大になってくるので、意外と地域格差が大きい。このデータの 700万円というのはどこから出てきたのかちょっとわからないのですけれども、高山さんの言っている理論から言うと、かなりアンダーエスティメイトぎみではないかと。
それから、もう一つは、完結出生率と女性の労働を考える図で、このデータはいろんなところで見るのですけれども、一番統計的にアンサイエンテフィックでないと思うのですね。例えば、アイスランドみたいに下の一つを外すと全然変わってしまうし、実際問題としてスウェーデンは変わってきている。日本だけではないかな、このデータを出して説得力を高めようとしているのは。いろんな国際会議でこの表を出すといろんな先進国の連中に笑われてしまいます。スウェーデンはこっち側にきてしまっているのですね。スウェーデンは、日本にもかなり近いところに落ちちゃいましたからね。そうすると、完結出生率が上がって、女子の労働参加率だけ高いということになると、スウェーデンはこっちにきますと、もうかなり関係が大分変わってきてしまっているわけですね。
人口経済学の中で一番難しいのは、女性の地位の問題と労働参加だと思います。女子の参加の場合に、一番統計的に難しいのは、やはり相関だと思うのですね。要するにどっちがどっちを決めているかという内生テストをしないと、本当によくわからないところがあって、単なる相関があるからこうではないかという議論に対しては、非常に僕は躊躇してしまうというか、懐疑的になります。割とこの表3というのは、日本の社会の中で非常によく使われて、だから政府も介入することが非常に重要ではないかと、このくらい効果があるという話に持っていかれるのですけれども、日本以外のところでは余り、少なくとも人口経済学の部分では、ほとんどこの辺は、外国人は乗ってこないところの議論なので、その辺ちょっと注意して考えた方がいいのかなという感じがします。
〔 事務局 〕 高山先生の50万円というのは、大き過ぎるような感じです。
〔 座長 〕 1ヶ月に50万円ですか。
〔 委員 〕 1ヶ月50万円です。
〔 事務局 〕 20万円という話は聞いたことがありますけれども……
〔 委員 〕 高山先生にお聞きになるといいですよ。
〔 委員 〕 それは東京都のある区のゼロ歳児の実際の月間コストです。ゼロ歳児についての国の公費、都の負担、区の負担、保護者負担分、すべてを合わせた実コストです。
〔 座長 〕 どっちの数字が正しい、高山さんの数字、こっちの数字と。
〔 委員 〕 東京都のある区は0歳児では実際50万円ぐらいかかっていると聞いています。ただし、1歳児、2歳児、3歳児と年齢が上がるに従って、だんだん下がっていくのですね、保母対子供比率は違いますから。
〔 座長 〕 そうすると、この 700万円、あるいは 400万円というこの数字は妥当だと。
〔 委員 〕 それは低すぎる数字だろうと思います。考えてみれば、ゼロ歳から6歳までの子供の昼間の養育という大変な労働をたったの 700万円ではできないのではないでしょうか。家庭で育てる場合の、0-6歳の子育てコストがどのくらいなのか、離職して育てている母親の機会費用を幾らとするかによって異なる数字を出せるでしょうが、もし保育園で0-6歳の7年間合計を700万円相当の労働力で同様に育てられるのでしたら、全部保育園でやった方がよろしいということになるのではないかと思います。
ただ、では東京のある区のゼロ歳児で月50万円というのがかかり過ぎでないのか、となりますと、月50万円というのは、同じ効果をもっと低い値段でできるのではないかという気がしますが。
〔 座長 〕 あと、この出生率のクロスセクションのデータはいけないということですが…
〔 委員 〕 いけないというか、かなりコントロールして、このデータでもって政府の介入が絶対に必要であるとか、保育施設や何かつくって女性の労働参加を上げればいいと、出生率が上がるというのとは、ちょっと違うところがあると思います。ゴウティーという学者の研究では、このメカニズムは非常に複雑なのですね、各国比較によると。こんな単純な問題ではなくて、いろんなディメンションがあるので、かなりこの1枚の表だけでは無理ではないかと。
〔 座長 〕 これを出すときは、リザベーションをもって書かなければいけないということですね。
〔 委員 〕 ただ、ちなみに、アイスランドをとってしまうとどうなりますかね。アイスランドはちょっと異常な国ですよね、出生率に関しては。
〔 座長 〕 あれはカソリックの国でしょう。ものすごく人口が少ないでしょう。少ないのに1のサンプルを持っているから大きくなるのですよ。
〔 委員 〕 ほかのカソリックは大変低いでしょう、スペインにしろイタリアにしろ。
〔 委員 〕 賃金格差でもそうです。アイスランドが、アウトライアーであるということは。
〔 委員 〕 いろんな点でね。
〔 座長 〕 男女間賃金格差だけで出生率の説明というのは、ちょっと私も強引だと思う。
〔 事務局 〕 時系列を見たときにどうなのか、例えば4ページでも上の図と下の図で違う。つまり、もともとはもっと負の相関が強かったけれども、そういう事ではあるのでしょうか。
〔 座長 〕 やや説得力はありますね。
〔 委員 〕 私は日本の国内で自治体レベルでの推計をしたことがあります。市レベルだけを見た結果ですが、そうしますと、実は労働力率と出生率との関係は、どちらかというと正です。その理由というのは、地方にいくほど実は出生率は高くて労働力率は高いのです。日本は、都市部は女性の労働力率がうんと低くて出生率も低いので、この数字は出そうと思えば出すことは可能です。ただ、その原因が何かということを考えてみると、それは職場との近さとか親との同居率の高さとか、さまざまな要因でそういう事柄ができ上がっているので、労働力率が高いなら出生率が高いという因果関係なのかどうか、そこはもっと研究をしなくてはならないと思います。ただ、日本の大都会における子供を抱える家庭の女性の働きにくさというのは、これは世界的にも私は突出したものだというふうに理解しております。
それが日本の女性の好みなのか、文化なのか、あるいはそのほかの要因があるのかは別としても、突出したものであります。私自身の予想では、例えば男女共に働くようになると、恐らく男性の賃金が下がっていって、女性の賃金がやや上がっていって、全体に2人働かないと暮らしていけないような、そういうような具合になっていくのではないかということが想像されます。そのような社会での社会保障、税金、あるいは後世代の保障、そういう全体の社会システムというあり方を考える必要があります。一方で、現在のように男性が市場労働を主に行い、、女性が家事育児介護労働のほとんどを担うという形、そのかわり男女間の賃金格差は非常に大きいという社会全体のシステムのあり方があります。現在の日本は、税金の面から見ても、社会保険の面から見ても、あるいは退職金とか、持ち家制度とか、すべての面から見ても世帯主が働いて女性は家庭にいて子供の世話やおばあちゃんの面倒を見ると、そういうような社会のあり方だと思うのですが、そうじゃなくて別の方に移行した場合にどういう効果があらわれるかということを推計することは、おもしろいことなのではないかなと私は個人的には思います。
〔 委員 〕 もう一つ、今この出生率の表を見て思ったのですけれども、ヨーロッパ全体で非常に出生の年齢的なタイミングがずれていますので、ここでは35歳時点でとらえているのですけれども、60年前のコーホート、1930年のコーホートでは、出生のタイミングが物すごく大きくずれています。ですから、その後、結婚するのも遅れていますけれども、第一子を持つのもおくれて、第二子、第三子、全部がおくれているので、そうすると、最近では35歳の時点で完結出生というのはとてもいえないのです。完結ではないのです。これがヨーロッパの出生率が下がっている最大の理由です。だから、その辺を30年の間隔で調べて、30年の間にヨーロッパに非常に大きな出生の変化が起こっているのです。これが、もう一つ、この出生の関係を狂わせるというか、変化させている可能性がありますね。
〔 座長 〕 私は、委員の意見に非常に賛成で、男女間賃金格差は女性が出てきたら男性の賃金が絶対下がりますよね。デマンドがふえない限り。女性がいっぱい出てきたら、企業の採用能力はコンスタントに仮定しているのですか、このモデルは。
〔 事務局 〕 これはもともと50年ぐらいを検討の対象にするということですから、ほとんど調整は終わった後の姿を想定してという一応の前提に立っています。
〔 座長 〕 それから、家族の役割の変化とか、そういう扶養の形態の変化などがどういう効果を与えるかというのもやはり大事だと思います。この研究会でそれをやるかどうかは、これはまた別の問題ですけれどもね。
ほかの方は。
〔 委員 〕 きょうの話、前半と後半に非常につながりがうまくいっていて、それを表面的に見ると、非常に政策的なインプリケーションがはっきりしていると思うのです。前半の話は、人口が増えたらみんなハッピーになりますと。後半の話は、女性の就業率を上げるとか賃金格差を小さくしたら人口が増えると。だから、結局、政策的には女性に働く機会を与えましょうというふうなことになるのでしょうけれども、ロジックはロジックとしていいのですけれども、やはり前半と後半の議論の舞台が違うような気がしてならないのです。前半の議論は、人口の増加率を所与として置いているわけです。消費で大体効用が決まるというような、そういう舞台で話をしています。後半の方は、そういう話ではもっぱらなくて、女性が出ていったら、あるいは賃金格差が縮小したらどれだけ数字が出てきますかという議論がありますので、整合性みたいなのがはっきりしていないなという気がするのです。
そこで一つお聞きしたいのですけれども、就業率上昇のマクロ的効果というのは、これはモデルとしては、中期なモデルとか、そういう需要サイドのモデルなのでしょうか。
〔 事務局 〕 これは全く単純な供給サイドということです。数十年単位ということですから。
〔 座長 〕 たまたま女性が働いていて、男性並みの賃金をもらったらどうなりますかという仮定の計算でしょう。
〔 事務局 〕 長期的に女性の生産性が上がるということを前提にして、長期的には、それが資本ストックにも波及していってという全くの供給サイドの議論です。
〔 委員 〕 そういう想定のとき、家計の効用がどういうふうに変化するのかという話ではないわけですよね。子供が増える事による効用の話では。それと前半の話は、まず子供の数ありきということですので、表面的にはすっきりしているのですけれども、全体を通して見ると、土俵の違う2つの舞台で話をつなげているという気がするのです。
〔 事務局 〕 若干申し上げますと、前半ももともとは人口もある程度内生的に考えいるということを念頭に置いていたわけです。それは政策的に動かすというような話になってしまうかもしれませんが、最適人口成長率的なそういう目安みたいなものが出てくるのかどうかということでまずやってみたのです。結局、先ほどのゴールデンルール(黄金律)からぐっと離れているということがあって、もちろん、いろいろなディストーションがあってそうなっているわけですけれども、それ以上追及しようがなかったということがあります。例えばゴールデンルールを達成するために、財政収支で調整する。そういうことをやったときに、マイナス 0.7%の人口ですと、最適にするには、財政黒字をGDP比10何%にして、貯蓄率を10何%上げなければいけないというようになります。単純計算するとそのような数字が出てしまって、政策とどこまで現実的なのかという問題があります。そういう意味で、財政によって最適な水準を政策的につくるというのは余り考えられないのではないかと思います。
それから、もう一つつながるのは、人口が増えた方がプラスになるのであれば、子供に外部性がある、子供の公共財的な側面があるということです。負担の方は私的な育児負担ですから、それが出生率が上がらない状態をつくり出しているのではないかという議論はあるかもしれないということなのです。それで少し計算してみると、先ほど言ったように、一人当たりだと 1,000万円ぐらい将来収支で税金を払う方が多くなるというような、議論もあるのですが、そこまで議論しても、やや議論が膨大過ぎるなという感じがして、それ以上は行っていないわけです。結果的に、人口が増えた方がプラスがもっと大きい、有意に大きいというような話がもう少しできれば、そういう話までいったと思いますが、そこまではなかなか言えなかったということです。
〔 座長 〕 ほかに男女の方の話で質問ございますか。
〔 委員 〕 今ちょうど事務局が言われたことを私もいろいろ考えるのですけれども、2ページの保育施設の充実というところで、私は基本的にこれは重要だと思うのですが、今回は税の側面で提示されておられるのですが、もっと広いマクロ的な視点からどうとらえるかという研究会ということですので、かなり難しいとは思うのですが、そこのあたりは、例えば外部性とか将来の経済を支える若い人が増えるとか、そういったことも踏まえてもっと提示されると、そういう視点が重要だということで計算されると、もっとこの保育サービスの充実ということが重要だということが指摘されるのではないかと思います。税だけの話ですと、私のイメージだと短期的な採算の話になるところも重要なのですが、もっと重要な長期の話だとすると、将来の子供が若い労働者になるくらいの期間、50年という話ですから、そこら辺の話もできれば試算されると非常に有益だと思いました。
それと、質問なのですが、4ページの完結出生率と女性の労働市場参加率というのは、これはどういうイメージと理解したらよろしいのかという質問をさせていただきたいのですが、1930年生まれ、30年前に生まれた母親の出生率と子供ではないか……
〔 事務局 〕 本人です。
〔 委員 〕 本人ですか。ということは……
〔 事務局 〕 1964年に34歳のときに働いていたかどうかということです。
〔 委員 〕 なるほど、そうすると、上ですと、たくさん子供が生まれた経済では……
〔 事務局 〕 その国では女性の労働力は低かったということです。
〔 委員 〕 低くなるということですか。この図を見て、上と下を足し合わせたプールデータみたいにしてみてみると、実は結構、出生率と就業率の関係はマイナスなのではないかと。例えばそれをパネルデータにして、サンプルは2つしかないのですが、これは明らかにどの国も大体右下がりの傾向ですよね。そうすると、どっちをとるかというと、横の比較で見るならば、2期間のクロスセクションがいいかなと思うのですが、各国の中の時間的な推移を見ると、依然としてマイナスの関係が成り立っているのではないかと。それがどう意味するのかと、私はこんがらがっているのですけれども、子供が多いと参加率が低いということかな。最近の先進国は子供が少ないから参加率が高くなる、そういうふうにも見てとれるかなということです。
〔 座長 〕 これは委員が言われたクロスセクションの問題をはっきりしないと、読み切れないですよね。
〔 委員 〕 きょうは女性の就業の割合に介護の問題、介護負担が出てこなかったのです。実際、日本の場合を考えてみますと、介護負担が大きいので、ミクロのデータをはじき出すと子供1人持つことによって、女性のフルタイム賃金(時間給)が10%下がって、介護を1人見ると、老人で母親、父親、寝たきりを介護した場合には12%落ちているのです、10カ月見た場合。そうすると、女性の就業のパターンを見るときに、日本の場合、出生率だけ、子供をいくら生んだという状況だけでなくて、女性就業の場合、介護に入ってくる人が35歳時点で大体今のところ7%の人が出産と介護と両方に絡んでしまっているのです、ミクロのデータで計算すると。それでだんだん年をとってくると、介護の負担が非常に多くなってきますので、将来をどういうスパンで見るかなんですけれども、介護の負担というものも考えてみる必要があるのではないかと思います。
ただ、国際比較の場合、外国では在宅で見ているとか、そういうのは余りないですから、そこは国際比較が非常に難しいところなのです。日本に的を絞って女性の就業を考えるとき、介護という問題が重要な点ではないかと思います。
〔 座長 〕 日本は、委員も言われたけれども、タイムシリーズでは、総体のことができるのでしょうね。介護の問題、子供の出産、それから労働参加率なのかは。タイムシリーズでは当然見られるでしょう。クロスセクションとタイムシリーズ両方で。
〔 委員 〕 タイムシリーズだと、一定の傾向なので難しいかもしれないです。
〔 委員 〕 介護のデータがないのです。 ( 次回の予定 )
〔 座長 〕 ほかに何かございませんか。
なければ、時間の関係もございまして、これで終わりたいと思いますが、もし、ご意見なりご質問があれば、事務局までご連絡いただきたいと思います。
では、次回の日程につきまして事務局よりご説明いただけないでしょうか。
〔 事務局 〕 次回、第3回は3月15日を予定しております。きょうと同じように、前半の方でマクロ計量モデルを使ったシミュレーションのようなものを出したいと思っておりますが、きょうのモデルはどちらかというと理念型みたいなもので、人口の方も典型的なパターンを与えて、もっとも純粋な形でどうなるのかというのを実験的にやってみたというものですが、次回提出したいと考えておりますモデルは、実際の日本経済の姿がこの数十年でどうなっていくのかということを追っていくような、そのようなモデルのシミュレーション結果を提出いたしまして、またご議論いただきたいというふうに考えております。
〔 座長 〕 では、第2回目の研究会をこれで終わりたいと思います。
本日は長時間どうもありがとうございました。
- 了 -