第1回世界における知的活動拠点研究会

議事録

時:平成12年1月28日
所:経済企画庁官房特別会議室
経済企画庁

第1回世界における知的活動拠点研究会議事次第

平成12年1月28日(金)15:00~17:00
経済企画庁官房特別会議室(729号室)

  1. 開会
  2. 委員紹介
  3. 牛嶋総合計画局長挨拶
  4. 世界における知的活動拠点研究会の公開について
  5. 世界における知的活動拠点研究会の趣旨、検討事項及びスケジュールについて
  6. 閉会

(配布資料)

  • 資料1 世界における知的活動拠点研究会 委員名簿
  • 資料2 世界における知的活動拠点研究会の公開について(案)
  • 資料3 世界における知的活動拠点研究会について
  • 資料3-参考① 経済審議会答申「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」(平成11年7月閣議決定)抜粋
  • 資料3-参考② 検討事項についての主な論点
  • 資料3-参考③ 既存の主な施策提言等

世界における知的活動拠点研究会委員名簿

(座長)

  • 伊藤元重 東京大学 大学院 経済学研究科 教授
  • 伊藤穣一 株式会社 ネオテニー 代表取締役社長、株式会社 インフォシーク 取締役会長
  • 植田憲一 電気通信大学レーザー新世代研究センター長・教授
  • 加藤秀樹 構想日本 代表、慶應義塾大学 総合政策学部 教授
  • 川島一彦 東京工業大学 工学部 教授
  • 北原保之 AOLジャパン 株式会社 常務取締役
  • 椎野孝雄 株式会社 野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部長
  • 杉山知之 デジタルハリウッド 株式会社 代表取締役社長
  • 田中明彦 東京大学 東洋文化研究所 教授
  • 林紘一郎 慶應義塾大学 メディア・コミュニケーション研究所教授
  • グレン・S・フクシマ アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社 代表取締役社長
  • 松岡正剛 編集工学研究所 所長、帝塚山学院大学 教授

〔 事務局 〕 遅れていらっしゃる委員の方もいらっしゃいますけれども、定刻を過ぎましたので、ただいまから会議を開催したいと思います。
 皆様方には、ご多忙の中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 では、ただいまから第1回目の会合を開催いたしますが、まず座長につきましては、A委員にお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

〔 委員一同 〕 異議なし。

〔 事務局 〕 それでは、以下の進行につきましては、A委員の方からよろしくお願いしたいと存じます。

〔 座長 〕 ただいま指名されましたAです。よろしくお願いします。
 これから、皆様の活発な議論で当研究会を円滑に運営していきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。
 当研究会にご参加いただく委員の方々は、お手元の資料1にございますが、初回でもございますので、事務局から簡単に、本日の出席の皆様を紹介していただきたいと思います。

〔 事務局 〕 それでは、私の方からお名前のみをご紹介させていただきます。
 まず、B委員でございます。
 C委員でございます。
 D委員でございます。
 E委員でございます。
 F委員でございます。
 その他の方はお見えになった時に、またご紹介をさせていただきたいと思います。
 なお、経済企画庁長官におかれましては、ただいま国会の方で政府演説を行ってございまして、その終了後にこちらに参る予定になってございますので、予めお知らせをさせていただきます。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 なお、私が欠席する場合もございますし、いろいろなことでお助けいただくこともございますでしょうから、もしよろしければ座長代理を指名させていただきたいと存じます。 それでは座長代理は、F委員にお願いしたいと考えておりますが、よろしくお願いできますでしょうか。

〔 F委員 〕 微力ですが、よろしくお願いします。

〔 座長 〕 それでは、総合計画局長よりごあいさつをいただきたいと存じます。よろしくお願いします。

〔 総合計画局長 〕 本日は、ご多忙中の所をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 この「世界における知的活動拠点の研究会」ですが、これは昨年の7月に閣議決定をいたしました新しい経済計画である「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」の中で、「『日本の社会を、特にグローバリゼーションに対応したものにしていくという観点から、日本が知恵・情報の創造・受発信において世界の中核の1つとなる』という姿があるべき姿の1つであり、そのため、日本を世界の知的活動拠点の1つとしていくべきである」としております。
 また、その中においては、「そのための包括的なプログラムの策定に取り組むべきである」ということが盛り込まれました。このこと自体は、経済審議会の場で議論をしていただき、私は、非常に夢がある話であり、計画に盛り込まれたことは非常にいいと考えておるところです。
 けれども、何せ非常に難しい問題でもございまして、お集まりいただきました様々な分野のご専門の方々から、それぞれ忌憚のない活発なご意見をいただいて、本当にどのような意味に置いてであれ、日本が知的な面で活動の拠点になるという第一歩が踏み出せればいいと考えておりますので、よろしくご審議方、お願い申し上げます。

〔 事務局 〕 ここで、先程ご紹介できませんでした委員の方をご紹介させていただきます。
 G委員でございます。
 H委員でございます。
 I委員でございます。
 なお、本日、J委員におかれましては、遅れまして後程、お見えになると伺ってございます。

〔 座長 〕 それでは、本日の議題に入らせていただきます。
 まず、本研究会の公開についてお諮りしたいと存じますので、事務局からご説明をお願いしたいと思います。

〔 事務局 〕 資料2をご覧いただきたいと存じます。本研究会の議事の公開は、今後、以下によるということでありまして、
 1.議事要旨を会議終了後、2日以内に作成し、公開する。議事録につきましては、会議終了後、1カ月以内に作成して公開する。ただし、いずれも発言者名は公開しない。
 2.議事日程は事前に公表する。
 3.配布資料は議事録と併せて公開する。
 以上で対応したいと考えてございます。

〔 座長 〕 ただいま説明にありました本研究会の公開について、皆さんのご了解を得たいと思いますが、よろしいでしょうか。

〔 委員一同 〕 異議なし。

〔 座長 〕 それでは、本研究会の公開については、本日の会合の冒頭にさかのぼって、そのようにさせていただきますので、よろしくお願いします。
 続きまして、本研究会の趣旨、検討事項及びスケジュールについて事務局から説明をお願いします。

〔 事務局 〕 それでは、資料3と関連する資料3-参考①、②、③の資料がございますので、そちらをご覧いただきたいと存じます。
 まず、資料3の本体です。本研究会の趣旨と検討事項、スケジュールが書いてありますので、簡単にご説明させていただきます。
 最初に資料3の「1.趣旨」ですが、局長のあいさつにもありましたが、昨年7月に閣議決定をされました従来の経済計画に代わります「あるべき姿と政策方針」の中で、従来の「規格大量生産型の経済社会体制」から、「多様な知恵の時代にふさわしい経済社会」へと脱皮していくために、IT革命によるネットワーク型社会の形成、さらにはグローバリゼーションの進展ということを踏まえまして、つまり、背景の大きな要素としては、「多様な知恵の時代」、「ネットワーク型社会」、「グローバリゼーション」という3つが考えられる訳ですが、こうしたことを踏まえて、「日本が知恵・情報の創造・受発信において世界の中核の一つとなる」ということでございます。
 イメージ的に申し上げますと、ここに書いてあります社会科学からハイテク技術、文化、ビジネスなどの分野における最新の知識・情報と世界最高水準の知的能力を有する人々が、サイバースペースあるいは現実社会の中を頻繁に行き交うような状況の創出ということでありますが、これは「あるべき姿」の1つとして描いてありまして、こうしたいわば「世界の知的活動拠点」となるための包括的なプログラムを策定すべきとされた所であります。本研究会は、そういったプログラムの策定に資するためにご検討をいただきたいということであります。
 資料3-参考①が、この「あるべき姿」の関連部分の抜粋でございますので、後程、ご覧いただきたいと思います。
 資料3の「2.検討事項」でございます。
 まず「(1)『知的活動拠点』を形成する目的・効果の明確化」ということでありまして、「①世界への貢献と安全保障」としております。
 これは、世界共通の課題への対応方策等を我が国から発信することによって、世界の発展と安定に貢献し、経済社会面での世界における主要プレーヤーとしての地位、あるいは国際的な安全ということを確保する。
 「②我が国の経済的・文化的・知的豊かさの増進」については、これからの多様な知恵の社会では、知的活動拠点になってこそ、経済成長の新たな源泉の確保が可能となりますし、我が国の文化的・知的豊かさの向上にもつながるということが書いてありますが、こういったことを中心に、世界の知的活動拠点を我が国で形成する目的と、それによる我が国社会への効果というのを、まず明確にするということであります。
 「(2)『世界の知的活動拠点』となるための環境整備」がそのための環境整備ということでありまして、世界の知的活動拠点となるために、これはよく言われておりますように、人材や情報を牽引できる魅力あふれるコンテンツの積極的な創造と発信が不可欠ということであります。手法としては、我が国から世界に向けて競争力を持って発信できると期待されるような分野を、具体的に想定しながら、一方で世界の知的活動拠点と目されております、ここにありますようなアメリカの各地域等との比較を通じて、「①知恵の創造と情報発信の変革の基本的方向性」といった、いわば総論的な事柄でございます。
 それから、2枚目の「②創造性を有する人的資源の育成」といった、教育等にかかわること。
 3番目で、大学あるいは研究機関における「③魅力的な研究開発環境の創出」。
 4番目として、「④ネットワーク型社会におけるビジネス戦略の構築」といった、世界レベルの知的活動と情報受発信を促進する環境整備のあり方を検討する。
 「(3)各知的活動・情報発信主体が果たすべき役割と変革の方向性」では、それを踏まえまして、ここの①から⑤にありますような、各主体が果たすべき役割と変革の方向性について提言をしていったらどうかということであります。
 ここで、資料3-参考②というのをご覧いただきたいと思います。ただいま申し上げました「(2)『世界の知的活動拠点』となるための環境整備」についての主な論点ということでございますが、内容的には、皆様方の講演会あるいは有識者からのヒアリングなどを通じて伺ったご意見を元にしまして、今後のご議論の端緒となればというような趣旨で、とりあえず大ざっぱに分類したラフな素材ですので、そのようにご覧いただきたいと存じます。
 ざっとご覧いただきますと、「1.世界に競争力を持って情報発信できると期待される分野の例」において、その例というものを幾つか拾ってございます。
 「(1)世界共通の課題への対応方策」ということで、経済理論ですとか、少子高齢社会の備え、環境との調和、震災対策、あるいは世界各国の合意プロセスの違いといったものを分かり易く整理して発信するといったような、世界共通の課題にあって、我が国がモデルとなるべき分野を挙げてございます。
 「(2)様々な技術開発・研究分野」においては、ここにありますように、ロボット、コンピューター頭脳でありますとか、遺伝子技術、モバイル、カーナビゲーションといった我が国が世界の最先端の一翼を担っているような分野を考えてございます。
 「(3)娯楽情報」がアニメ、ゲームソフトなど娯楽情報。
 「(4)我が国固有の文化とアイデンティティー」と書いてありますが、1つは日本古来の伝統的な文化を活用する。それから、現代文化にも可能性があるのではないか。
 日本人であることを実感して、それを世界に分かりやすい形で伝えることができる「ジャパン・ミュージアム」のようなものでありますとか、閉じた狭い世界で時間をかけて培ってきた伝統ある「クラブ財」のようなものも有力ではないかといったご意見を整理しております。
 2ページが、環境整備に関わる事項でありまして、「(1)知恵の創造と情報発信の変革の基本的な方向性」でありますが、最初は、世界規模の多様な知恵の交流という範疇でまとめてありますが、世界規模での縦横無尽のネットワークを築いて情報の交換を行うことが重要。こうした社会であっても、対面での交流というのも引き続き必要である。
 海外から世界的水準の研究者を日本に受け入れて刺激し合うということが重要である。そのために、そういった人を大切にする様々な仕組みを作っていかなければならない。知の統合を目指すというのが大事である。
 次は、社会のシステムあるいは意識変革に関するような範疇ですが、独創性を重視して、知的な競争を促すシステムと勝者への報酬のメカニズムをきちんと構築すべきである。
 知恵の創造に対する評価システム、諸評価についての意識変革が必要である。
 多様な知恵が結合する空間としてのインターネット上の参加型社会の構築が重要である。こういった観点からも、通信料金の低廉化や定額化が必要である。
 情報発信に際しての言語とかツールに関する国家的な戦略が必要ではないか。
 知恵をネットワーク上で受発信する技術リテラシーの向上、デジタル・ディバイトの是正が必要である。
 プライバシー保護ですとか、違法・有害コンテンツの排除とか、知的財産権の保護といったベーシックなインフラに関する法整備も推進すべきというようになります。
 次は、方法論に関する範疇ですが、知の創造から発信に至る一連の編集過程を方法論として確立することによって、理解可能性を高めていかなければならない。
 そのツールとしては、これまでのようにアメリカ追随ではなく、日本独自のツールを開発していくべきではないか。
 その担い手として、インターネット上のボランタリー組織が重要な役割を果たしていくのではないかということが書いてあります。
 3ページの「(2)創造性を有する人的資源の育成」が教育に関わる事柄ですが、基本的な方向としては、他者との違い、独創性を重視するような姿勢を醸成できる環境の整備が必要ではないか。
 競争のフィールドを多くすべきではないか。
 自分の中の創造性を発見でき、それを刺激できるような環境が必要ではないか。
 英語教育について、その教育内容の充実によってレベルを上げるべき。さらに、コミュニケーション能力とか、ネゴシエーション能力というコンテンツ制作能力の涵養といったことも重要である。なお、日本発の概念については、日本語のままで発信するということも必要だというように書いています。
 大学の定員や教育内容を現代社会のニーズにマッチさせるように見直すべき。
 大学の学内での分業とか、大学ごとの役割分担で効率的な運営・研究を行うべき。
 「(3)魅力的な研究開発環境の創出」が魅力的な研究開発環境に係ることですが、研究活動資金に関しまして、とてもよく言われておりますが、大学、NPOへの寄付金についての税制によるインセンティブを高める。また、学会活動を活性化させるための税制の見直し。
 大学の研究予算の重点化でありますとか、研究者が特許を取得する手続の軽減による経済的な対価の還元のようなこと。さらにはポストドクター制度の整備でありますとか、論文や基礎資料のデータベースを備えた知的拠点を作るべきではないか。
 最後に、4ページの「(4)ネットワーク型社会におけるビジネス戦略の構築」は、ビジネス関係で、最初に政府のやるべきことを集めてございます。
 エントリーコストを低くして、ハイリターンをねらえる仕組みを作ることによって、多くのトライアルが行われ、新たなビジネスチャンスが生まれてくる。また、法人税の問題でありますとか、ベンチャー支援のためには、金をばらまくということではなくて、物理的な情報インフラ、あるいは知的財産制度といったものを整備するとか、税制の改正、規制の緩和といったことを推進すべき。バイオ、福祉・介護、環境といったような新しい分野については、共通の規格・基準の整備とともに、ビジネスモデルや業界ビジョンを示すということが必要ではないか。
 以下、ややアットランダムですが、企業の側で留意すべき視点を挙げてございます。
 フランチャイズ・ビジネスのように、知恵の収集、還元を短期間に行うツールとしてインターネットを活用すべき。ビジネスの盛衰サイクルも早くなりますので、既存のビジネスだけでなく、新たなビジネスが次々と生まれていくということです。
 インターネット上の経済は、価格体系が従来と異なっておりまして、そういう面で新たなビジネスが構築される。
 それから、NPO的なユーザー集団をガバナンスし、顧客間のインタラクションを高めていくということが、消費者ニーズの的確な把握につながっていく。
 インターネット上の株取引が行われ、参加者が多くなりますと、従来の基準ばかりでなく、応援したいような企業というのも投資対象となってくる。
 エクイティーファイナンスによって、参加型のビジネスを興すことが大切になる。
 商品単品の技術力ではなくて、一群の商品生態系の戦いとする必要があり、異業種連携が重要となる。
 コンテンツの魅力の要素は、「ファン」または「ユースフル」で、それが高いコストパフォーマンスで提供されなければならない。
 コンテンツについては、クリエーターだけでなく、プロデューサーも大事だといったようなご意見を整理させていただいております。
 資料3-参考③は、分厚い資料ですが、以上に関連をいたします最近の施策提言などをまとめてみたものでありまして、これは目次だけざっとご覧いただければと思います。
 (1)では、「『共感を呼び起こす』コンテンツとその創造・流通の促進、情報発信能力の強化」という、電気通信審議会の中間答申がございます。
 (2)から(5)までは、学術の国際交流とか留学生の問題、研究基盤や産学官連携の強化に関します最近の「21世紀日本の構想懇談会」でありますとか、学術審議会、大学審議会等の答申でございます。
 (6)から(8)が、人材の育成に関するものでありまして、2枚目の(9)から(11)では、研究開発環境に関します国家産業技術戦略検討会とか科学技術会議の答申であります。
 (12)から(14)が、ネットワーク型社会のビジネスということで、アントレプレナー教育研究会でありますとか、工業所有権審議会の報告などであります。
 (15)、(16)が、高度情報通信社会の実現に関するもの、(17)、(18)に文化立国に関するもの等を集めてございますので、これも後程、ご覧いただければと思います。
 ここで、資料3の「3.スケジュール」に戻っていただきたいと思います。
 初めに、2回目から5回目までにつきまして、ここに書いてありますように日程をセットさせていただきましたので、ご了承いただきますとともに、よろしくお願いしたいと思います。
 1回目の本日は、ただいまご説明申し上げている事柄全般につきまして、フリーなご発言をお願いしたいと思います。それから、各論的には、導入部に当たります「目的・効果の明確化」の部分と「情報発信できると期待される分野」等について、ご議論いただければありがたいと思っております。
 2回目から4回目にかけまして、「知的活動拠点」となるための環境整備につきまして、ここに書いてございますようなテーマごとにご議論を深めていただければありがたいと考えております。5回目に中間的な取りまとめを行って、実は6月に経済審議会のフォローアップを予定しておりますが、そこに反映できればと考えてございます。
 最終的には、年内に取りまとめを行えればと考えているところでございます。
 以上でございます。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 今、ご説明がありましたように、いわゆる2つの論点、「世界の知的活動拠点を形成する目的・効果の明確化」とか、あるいは「世界に競争力を持って情報発信できると期待される分野」については、後でゆっくりお話を皆さんにしていただこうと思います。ただ、その前にもっと広くこの研究会についてのご質問やご意見、関連する議論でもいいのですが、自己紹介も含て、簡単にご発言していただきたいと思います。
 では、まず自由に、B委員からどうぞ。

〔 B委員 〕 多分、皆さんは、情報関係の方が多いかもしれません。私は物理屋でして、分野は大分違うようです。重力波天文学とか、核融合とかをやってきた訳ですが、今回のような知的活動拠点という点から言えば、今、物理学会と応用物理学会による合同出版会の活動をしています。協力をしながら、日本において世界と互角のジャーナルを作っていくことを目的に、英文で出ているジャーナルの統合化や共同出版を通じて世界と立ち向かおうと活動している所です。つまり、物理のジャーナルというのは、一応、国際的に競争ができている分野なのですね。
 ただ、今は電子化出版だとか、オンライン出版という技術がどんどんと入ってきて、この技術に立ち遅れると負けてしまうという状態になっています。ですから、単に学術的価値の高い論文を出せば、人がそれを見てくれるということではありません。これからは論文がデータベースにリンクされないといけない。それこそインターネットでお互いに物を見ていく時代ですので、テクノロジーに遅れると、情報が相手に伝わらないという時代に入りました。
 ですから、それに対して日本の学会も対応しようということで、この2~3年、かなり頑張っている訳です。その時には、世界的な学会同士の組織的な問題と同時に、個人ベースのつきあいが重要です。幸い物理系の研究者というのは、個人対個人のコンタクトが非常に強いのです。ですから、ある分野では、別に国籍は関係なく、元々、付き合っている訳です。学問の交流という点では、必ずしも日本人であるかどうかというのは関係ない訳です。みんなニュートンの弟子であったり、マクスウェルの弟子であったり、アインシュタインの弟子な訳ですから、そういう点では、かなり国際的にやっている。
 ただし、現代の科学技術の発展という点から言いますと、産業と結びついている分野になると、かなり国内の産業との関係が重要になります。つまり、学問というユニバーサルなものと、それから発達した技術のように、やはり地域、その社会と結びついたものを、どうリンクさせていくのかということが、かなり難しい。
 日本の場合、優秀な科学者は「米国学会ジャーナル」に出すとか、「ネイチャー」、「サイエンス」に出すことで満足してしまう。だけど、確かに、それは知的な何かを作っているかもしれない。しかし、それを自分達の手段で伝えるということをやっていかないと、ある一瞬の寄与はするのですが、それを100年、200年という歴史に残る単位で見た時に、日本が生み出したものを本当に日本の形で残していくということは、なかなか難しかろうと感じます。
 そういうことはどこも考えている所です。今はアメリカが強いですが、100年前はヨーロッパが強かった。また、人類史的にいえば、アレキサンドリアの図書館が燃えてしまって、古代から継承した学問体系の記録が消えてしまったということがある訳です。デジタル出版の時代に適合して、今現在、世界的なグローバル物理学データベースを作ろうとしています。それを行っているのが、国際純粋・応用物理学連合(IUPAP(International Union of Pure and Applied Physics))という世界の物理学系国際組織です。その中で、一応の基本的な方向は出しました。ただし、IUPAPは、権威はあるがお金を持っていない所なので、各国における活動が重要です。既存のデータベースでいうと、欧米は大きなものを持っていて、像のような存在です。一方、日本をはじめとする第3極は、今の所はまだアリのように小さい訳です。しかし、大きな理念からいえば、世界に対してフラットなデータベースを作って、知的生産の発信を、国籍に関係なくサポートしていこうと呼びかけ、その方向で活動しています。
 学術的なデータベースであっても、今、これが日本社会にどう影響を与えるかとか、寄与をするかということから言うと、そこはかなりナショナリズムが出てくるんですね。アメリカは、やはりアメリカに寄与しないといけない。ヨーロッパはヨーロッパに寄与しないといけない。したがって、現在は、かなりユニバーサルに、みんなが合意できる所をやっております。そして、そういうもののベースとして、ある種の世界の第3極を作る役割が日本にあるだろうと考えています。
 つまり、アジアの中に存在していて、これから発展していく中国とか韓国が近隣にある。一旦は崩壊したロシアという科学大国まで含めて考えれば、ある意味では、非英語圏の国々の学術出版、情報発信を、組織化してサポートしていくことも、非常に重要な問題になってくると思います。
 そういう中で、学会の役割を考え直すべきです。学術出版、情報発信、データベース構築のように公共性の高いパブリックなものの構築について、日本の中で、もう少し自由に動けるようにしないといけない。法的には同じでも、やはり欧米の学会というのは、非常にフリーに動いて、先に先に進んでゆきます。日本の学会はキャッチアップするだけでは間に合わない訳で、彼らよりも先を目指して、一歩先の提案をしながら行かないと、実績は向こうにある訳です。そこでもう1つは、学会員には自分のカテゴリーや自分達のツール、または、道具を作るということをやっていくように、意識改革をかなりしてもらおうとしています。また、ユーザーとしての参加ではなくて、クリエーターとして、ネットワークにしても、新しい情報を日本から出すにはどうするかということを、物理屋さんにも考えていただこうと、学会は活動しております。
 ですから、経済にどう結びつくかというと、ちょっと分からないのですが、そういう世界とのネットワークという点では、学会が現実にやっているものを参考にしていただければ良いかと思います。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。ぜひ、また後で具体的にご発言いただければと思います。
 では、G委員、お願いできますか。

〔 G委員 〕 タイトルが「知的活動拠点」ということで、自分の知的水準に全く自信がないものですから、余りお話しすることもないんじゃないかなと思って来ました。
 今、この資料をずっと拝見していて、ちょっと感じたことを申し上げたいと思います。
 役所の資料というのは、たくさん様々な良いことを書いて紙を作っているのに、それがなかなか活きないのはもったいないですね。そうでなくても、今の政府というのは経済戦略会議に始まって、いろいろな研究会等をたくさん作っていて、それは単なるガス抜きではないかと言う人もいますが、確かにそういう面もあるのではないかと思います。
 それで、例えば、最初の趣旨の「世界に伍していけるように」といった意味のこと、あるいは、「世界に対する発信」とか、あるいは「貢献」とか、「こういう言葉は、この研究会では一切使うのはやめませんか」ということを、まず言いたいと思います。恐らく、例えば、アメリカのどこかの田舎に非常にいい研究がある。あるいは、イタリアのどこかの田舎で非常にいいものを作っている。そういうことをやっている人達というのは、別に世界に対して発信しようとか、何かに貢献しようと思って作っているのではなくて、それは、「それが儲かるから」とか、「それが楽しいから」とか、違う理由だと思うんですね。
 ですから、私は、「発信しよう」とか「貢献しよう」という言葉というのは、飽きる程世の中には出回っている訳ですから、それは新聞に任せておけばいいと思っております。
 ですから、こういう所で、本当に実質的な意味のある議論ができるとすれば、「本当に日本の売り物というのは何なのか」ということです。そういう意味では、この中にもあるように、日本の文化というのは、非常に深いものがあると思いますから、そこから非常に新しいものに常につながってくる。何か古いカビの生えたようなものではなくて、どんどん新しいものを受け入れて変わって、なおかつ、それを消化していくということが得意な文化だと思います。ですから、その部分を徹底して活かすには、具体的にどうすればいいかという話だと思います。
 それから、例えば、「文化」というのは、今、保護の対象みたいに議論されたり、あるいは「科学技術」というのは、単に育成の対象になったりしている訳ですけれども、そうではなくて、育成とか保護されて、「では、どうなるのか?」ということです。今のB委員のお話も、それと関連があるのかなと思いましたけれども、必ずしも、それが有効に社会の中で活きていないのではないか。「政策の現場で、それが政策的なこと、あるいは具体的なことにつながっていないという所をどうするか」という仕組み作りを考える必要がある。私もその中の制度的なことや、あるいは、それを使うためにはどうしたら良いかということでは、貢献できるのかなと思っております。
 そういう意味では、企業の活動にしても、個人の活動にしても、企業というのは儲けるのが本来の目的ですし、個人は正に楽しいとか、おもしろいとか、そっちの方が何かいいねということでしょうから、そういう方向に動くためには、今の世の中の仕組みにどういう差し障りがあるのか。それをできるだけ早く取っ払うような仕組みについて考えるとか、あるいは、そのための基盤整備をどうするかということが大事なのではないかと思っています。
 余りこういうことを申し上げても、そもそもこの研究会の議論の前提がちょっと違うのかも分かりませんが、そんなことを含めて議論ができるといいなと思って伺いました。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 今、言っていただいたような議論をしていただくために、こういう最初のメモがあるのかもしれませんので、どうぞご自由に発言していただきたいと思います。また、これから皆さんで議論していく訳ですから、場合によっては、少し自分のやっていらっしゃることも説明していただいた方が、話がし易いかもしれません。
 では、C委員お願いいたします。

〔 C委員 〕 私は、非常に注目されている企業の肩書を背負って来ました。実は日本経済新聞の記者を三十何年やっておりまして、日本経済新聞の社長室にいる時に、いよいよ家庭にPCの入る時代で、日経はQUICKという金融証券端末をやっておりました。その情報発信の編集長を私がやっておりましたが、ロイター、ブルームバーグに完膚なきまでにやられました。それから日経は、データベースというものを非常に早く作って、日経テレコンという事業をやりましたが、これも世の中の価格破壊、オープン化というものに、どんどん音を上げて、首を締めてしまってうまくいっていない。
 技術革新の激しい時に、先行したばっかりに、先行は普通優位のはずなんですけれども、劣位に回っているという感じであります。家庭にPCの入る時こそは、失敗したらいけないと言うことで、私は「もはや手本はアメリカしかない」と、アメリカの調査をやらせました。当時、日経の役員会に私が出した資料は、「アメリカ第3位のパソコン通信AOLとの提携」という書類でしたが、5年程前のAOLは、まだ、コンピューサーブ、プロジディー、AOLと、アメリカで第3位、会員280万人、売上300億円ちょっとのナスダック・ベンチャーでした。「日経ともあろうものが、何でこんなベンチャーと手を組むんだ」といって、私は社内で袋叩きに遭いましたけれども、今、叩いた奴を見返している所です。
 そういう意味で、私がここで発言すると、そういう履歴が色濃く反映されるかと思いますが、ビジネスマンというよりメディア人間として発言するので、ちょっと異色だと思いますがお許しください。
 実は、ダボスの会議が今日から始まって、今日のクリントンの演説の前には、もう上院の院内総務がインターネット上でチャットをやっているんですよね。ダボス会議の期間中、CNN.comとネットスケープ・ネットセンターが共催で、ダボス会議の参加者のうち、チャットに出ても良い人を予め用意して、世界中の誰からとでもチャットを受けるという企画が、もう既に走っているんですね。
 これはCNNもネットセンターも、AOL及びタイム・ワーナーの企業群ですから、ちょっと宣伝めきますけれども、「この足の速さは誰がやったんだろう。いずれ沖縄サミットもしっかり参考にしなきゃいけないな」等と思っていました。また、そんな時に、官庁のホームページがハッカーに破られ、今日にこの会議があるということで、実に皮肉な感じがします。
 私は、そのブルームバーグ、ロイター等との、ビジネスの戦いを通じて、やはり、日本の情報のハンドリングの遅れを痛感しております。その後、日経サテライトニュースというCSの経済専門チャンネルの放送も、私が、スタジオからプログラムに至るまで全部作りましたが、今は、CNBCと呼びます。サテライトを使って情報発信をするという時に、サウジアラビアからシベリアまで使える赤道上にあるサテライトを、アジアの国に日本語が行くと文化侵略と言われるからまずいということで、レンズをわざわざ絞って、流す方向を韓国と日本だけにしている。こういったことは、本当に全体像が分からないままにやっているなと感じます。
 実は、この研究会の委員に入るつもりはなかったのですが、経済企画庁の担当の方がお見えになって、何かこういう研究をしているから意見しろと言う。日本人は「情報」という基本的な訓練を受けていなくて、G委員から怒られそうですが、新聞に勝手に言わせればいいというんですけれども、その新聞社では「戦略なき」と言うのでしょうか。やはり外務省の方にも言うんですけれども、全く情報というものの持つ意味を戦略的に考えていない。そういう点で非常に気になりまして、「まあまあ、日本が知的情報発信の拠点になる等と、経済企画庁はよく言うよ」と、来た方にコテンパンに言った所、その翌日には研究会の委員に入れということになった訳なんです。
 現に、AOLというビジネスを始めて、非常に参考になるものがありまして、実は、AOLは既に15カ国7言語なんです。多分、来月あたりにメキシコAOLというのがスペイン語で始まります。先月、ブラジルAOLがポルトガル語で始まりました。去年の秋には、香港AOLが中国語で始まりました。我々AOLジャパンは、1バイト以外の始めての言語だったんですけれども、1つのシステムの中に、1バイトと2バイトの言語をくぐらせて、限りなく変換をスムーズにさせて、1つのシステムにするという作業のために、実は、契約承認から営業開始まで10カ月かかってしまいました。
 こういうことを見ると、やはり、日本語というものは、ある意味で固有のもので美しいのですが、コミュニケーションの道具として検討をする時にはハンディがあるなと思いました。さらによくよく見ると、オンライン上でのアルファベットは、実に美しく洗練されておって、横に書くときれいなんですが、日本語の漢字、仮名というのは、画面上で拡大していくと、とても汚くて、とても文化と言えなかったり、教育のツールとしては実にお粗末だなと思います。この前も、㈱ジャストシステムに、「あんたの所ぐらいしかオンライン活字をきれいにする会社はないだろう」と注文をつけた次第です。そういうことから始めていかないと、情報発信は大変だなという感じがあります。
 私は方針を基本的に決めていまして、「アイデンティティーとは別に、道具としての英語を一生懸命やる。」右の方に英語で10メートル走るのであれば、その分、日本文化を左の方に10メートル走る。やっぱり、両刀遣いで行かなければいけない。アイデンティティーという問題とグローバルということは、全く等量にしていかなければいけない。これは、ほぼ皆さん分かっていると思います。 私が、スティーブ・ケースという男と38歳のときに契約交渉に行った時に、ジョイント・ベンチャーだからといって、出資割合が50:50だと、日本でもデッドロックに乗り上げているジョイント・ベンチャーがたくさんある。新聞記者の私は、「51取りませんか、あるいは49にしませんか」と言ったら、「やっぱり、グローバルな企業というのはローカリゼーションをしっかりしなきゃだめだ。日本では、日本人が日本のマーケットに日本語でしっかりしたビジネスを築いて、それをネットでつなげばいい」というお説教を食らいまして、「ああ、分かっているな」と思いました。
 ですから、AOLは、15カ国7言語で、それぞれがその国の言語でサービスを作って、それを単にネットで結んでいる。私に言わせると、これは事実上、世界連邦の建設みたいなことをやっているなと思っております。私のビジネスの周りには、そういう意味での教材が多いと思いまして、「では、経企庁さんのご指名でもありますので、受けましょう」と言って出て参りました。
 いろいろなことが言えると思います。非常にハンディキャップの多いことですけれども、私はそういう意味で、何かアメリカの追随でなく、日本固有のものを出していく必要があると思います。私は元々、ナショナリストですので、今、アメリカの素晴らしいものを学んでいる最中ですが、やがて日本も情報発信で素晴らしいものを作っていけると信じてやっております。いささか脱線の多い議論をしますけれども、お許しください。

〔 座長 〕 脱線とおっしゃいましたが、できるだけ広がりのある議論したいと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。
 では、D委員、お願いします。

〔 D委員 〕 我々の部門では、いろいろな日本の会社とか海外の会社の経営コンサルティングとか、新しい事業を立ち上げるコンサルティング等を受託で行っているところです。ただその中に、研究創発センターという自主研究をやっている所があって、そこが2005年の日本の社会像のようなことも描いています。 去年の暮れあたりから、当社の方で言い出している所で、「産業創発」という、2005年に向けて新しい産業をどんどん作っていかなくてはいけないのではないかといったようなことを言っています。そのために、これからはこういった知識をうまく使った産業であろうということで、いろいろな会社が「創知」と「統知」ということを言っています。「創知」は「知恵を創造する」という「ナレッジ・クリエーション」ということで、「統知」は「知を統合する」という「ナレッジ・インテグレーション」ということです。それぞれそういう知識なり新しいビジネスなりといった、新しいものを作る人達と、それをうまくインテグレートとしてビジネスとして仕立て上げる人達が出てきて、新しい産業が出てくるのではないかと言っています。
 それは、象徴的には「花びら型産業」と言っていて、お正月から日経新聞の「経済教室」で連載しております。これからの産業では、日本の中でも花びらそのものというのは、ナレッジ・クリエーションしてできるビジネスの種とか、知識とか、知恵とか、そういったものを作る企業が成長してくると思います。
 例えば、花びらとして、小さい部品とか、それぞれのパーツを作る企業と、花の真ん中のがくとして、それを取りまとめてインテグレートして、1つのビジネスとして成り立たせる企業です。コンピューター業界における、デル・コンピューターがいろいろな部品を調達したりとか、それをうまくインターネット通販をしたりする仕組みを、本当に環境を作って提供しているということが、その例になると思います。そういったような「創知」と「統知」をうまく活発にすることで、日本の産業はどんどん発展していくのではないかと言っています。
 「創知」の部分については、「日本人はオリジナリティーがないとか、なかなか新しいことを作り出すのが下手だ」とかと、前々から言われてきましたが、ただ、私は最近、「それはそういう場がなかったからじゃないか」と思っていて、余り心配はしていません。例えば、ワープロが発明されたら、それでみんなが、ミニコミ誌や壁新聞を作ったりする。そうして、どんどんコミュニティの新聞を作って、どんどん情報発信をしてみる。
 インターネットができたら、今度はみんなホームページを自分、自分で作る。日本はアメリカに次ぐ世界第2位のホームページ数がある訳ですけれども、そういった情報発信をした。iモードが出たら、今度はまたiモードに対して情報発信する個人のサイトとか小さいサイトが、今、4,000個ぐらいある訳です。NTTドコモが実際に認証しているサイトは300ぐらいしかないのですけれども、それ以外に、もう勝手勝手にどんどん作って情報発信しているサイトは4,000ぐらいあると言います。したがって、「日本人は、場が与えられれば、どんどん出すのではないか」ということです。
 さらに、例えば、証券会社の観点から言うと、今までは、東証と大証と店頭しかなかったけれども、マザーズができたら、またそこにどんどん上場しようという人が現れたし、ナスダック・ジャパンができれば、そこにどんどん上場しようという会社が現れるというように、やはり、今までは場がなかったから出なくて、場がいろいろと与えられれば、みんなどんどん出してくるという世界になってきている。やはり、そういう場をうまく作ってあげること、そして、その場をうまく盛り上げることが大切なのです。しかし、それがさっきの統知企業の役割かもしれません。
 そういう場をうまく作ってあげれば、日本のこういう知的活動もどんどん盛り上がるのではないか。そういうところを、うまく様々な目的のために様々な場を作ってあげて、そこにどんどんみんな集まって来て、情報を交換しながら、さらにまた知恵が高まるというような場が作れるようなことに貢献できればなと思っている次第です。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 E委員、お願いします。

〔 E委員 〕 一応、学校のようなものをやっています。
 僕は、元々、建築の世界の音響を大学4年の時に始めまして、その時からコンピューターを使い始めたので、一応、25年間、コンピューターをユーザーとして使っています。
 1990年ぐらいに、ちょうどマルチメディアという言葉が立ち上がりまして、その時に「マルチメディアというのは、結局は『読み書き』だ」と気付きました。その時に、21世紀の社会人なら、うまい下手は別として、きっと誰でもが映像とか音とか、文章を自由に組み合わせて、自分の言いたいことを表現しているに違いない。それはもちろん、パソコンを使って表現するので、自分の言いたいことは、マルチメディア化されて、ネットを通じて、世界の人と自由にやりとりしているのであろうと、1990年の頃に思いました。 「読み書き」だということになれば、これはメディアとも呼んでいますし、なるべく多くの人ができた方がいいという観点を持ちました。94年10月に、この会社を作りまして、その時もいろいろ皆さんに言ったことが、「寺子屋を作ったような気持ちです」ということだったように、本当に小さな学校でした。ですから、マルチメディアは、新しい時代の「読み書き」という点で捉えています。 ただ、ちょうど94年12月に、ソニーのプレイステーションとセガのサターンが出てきました。もちろん、僕達はそういうものが出てくるということで、1つの目標としていた訳なんですが、コンピューター・グラフィックスを使うコンテンツ・クリエーターみたいな人達が、非常に大量に、かつ、いきなり必要になりました。毎日、何万台と売れていく訳ですから。そこに何千人かの雇用が発生しまして、そこの部分には、私達の学校で学んだ人が、現在、働いているという状況です。ですから、今、店頭に並んでいるそういったタイプのゲームで、学校の卒業生が関わっていないものは、もうなくなってしまいました。
 それから、同じようにそういう映像はコマーシャル等々でもよく使われますので、テレビのコマーシャルでも、卒業生がやったものをよく見るようになっております。
 それから、同じく94年12月に、ネットスケープのバージョン1.0がアメリカで出まして、95年以降から、いきなりインターネットが世界的に爆発していく訳ですね。その中で、ホームページを作ることから始まり、徐々にビジネスに使えるようにと、このインターネットの世界がなってきた訳です。それに伴って、ホームページ等々を作るクリエーター達、それから最近は、そういうネットの環境を利用してビジネスをやろうという人達が、どんどん学校に集まっております。 ですから、私の学校の平均年齢は、初期は大体25~26歳だったんですが、現状ではネット系はだんだん上がってきています。35歳以上の男性も増えておりまして、中小企業の社長さんもよく習いに来ております。そういう場合、別にそういう人にデザイナーになってもらいたいとか、プログラマーになってもらいたいという訳ではないんですが、一通り作り方もお教えして、やりたい仕事とデジタルはどう組み合わせられるだろうというような勉強をみんなでするということです。 決して、僕らは教育をしているという気は全然なくて、学習支援という感覚でやるように努めています。ですから、「やりたい人に場を与える」という、今のD委員の話にもありましたが、「場を与える」というのが、本当に我々の役目です。 今、6年目に入ったんですけれども、1つの僕の驚くべき印象としては、「場を与えてみたら、日本にはこんなに才能ある人が幾らでもいるんだ」ということなんです。結局、今までに、受験産業の中でその才能を消されている。凄いものを作った人の経歴を辿って行くと、小学校ぐらいの時まではその周辺に知られた絵がうまい子だったりとか、県大会で何か賞状を持っていたりするんです。大体、中学の3年ぐらいで諦めさせられている。天が何物も与えるような人もいまして、普通の教科も十分勉強ができるし、音楽もできる、美術もできるみたいな子がいる訳ですね。そういう場合は、親が通常の大学へと誘っていきますので、そのままコースに乗り、大学に入ると大抵、遊んでしまいますので、大学3年の終わりに就職戦線に巻き込まれ、みんなと一緒に就職戦線に出て、それなりの会社に入り、会社に入って2年ぐらいで、「ああいう部長になったりするのが自分の人生ではない」と気付いて、本当に自分を探す訳ですね。「俺は本当は何になりたかったんだ」とか、「私は何だったんだろう」と考える。そうすると、小さい時に物作りが好きだったということを思い出す人達が、どうもうちの学校に来るという傾向なんです。
 ですから、デザイン教育とか美術教育を受けてこなかった人が多いにも関わらず、信じられないような作品を作る人が本当にたくさんいます。僕は、「1万人育てて1人ぐらい凄いのが出ればいい」と思っていたんですが、もっと全く大きな確率で出ますし、彼らが作る作品は国際的なコンクールでも、プロと一緒に評価されて、ちゃんと入賞してきます。ですから、全く日本人がクリエイティビティーが低いなんていうことは、もちろん絶対ない訳で、それはもう、ずっとこれまでの日本の歴史を見れば分かることで、正に才能の宝庫なんですよね。
 今までよく批判を受けてきましたが、実は、そういうものを支えているのは、文部省の教育なんです。きちっとしたレベルで論理的に考える方法とか、日本語での読み書きはしっかり教えられている。コンピューターを使いこなす上でも、結局は、コンピューターというのは論理的にしか動かないので、ロジカルな思考というのが大事です。また最先端のツールというのは、基本的にはカナダ、アメリカの辺にルーツがあるものが多いので、本当のことを知ろうと思うと、英語のマニュアルを読みこなすとか、毎日上がってくるホームページのバグ情報を英語で読む力が必要です。
 だから、どこの国でも、こういうレベルでいきなり皆デジタルコンテンツを作れるようになる訳ではなく、案外、基礎学力というのが、学習の時間に関係しています。通常、半年、1年という時間帯でしか、僕らは教えないのですが、その中で非常に大きな効果があるということは、実は、基礎学力が非常に重要であるということを、本当に認識しております。したがって、小学校であそこまで算数をやめてしまうのは、本当に大反対です。だから、僕自身も、出版社で小学校の先生と組んで算数の本を出したりしていますが、もっと算数をみんなに好きになってもらいたいと思っています。
 そんなことを思っていまして、私の学校について、データで言うと今までに1万3,000人程の修了生を輩出していまして、彼らは、いわゆるデジタル系のコンテンツ製作者として働いているという所でございます。
 以上です。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 では、F委員お願いします。

〔 F委員 〕 私もひょっとするとEさんの学校に行ける才能が隠されていたのかもしれませんが、非常に並みの道を歩みまして、しかも、非常に大きな会社に30年近くいましたので、いろいろと型にはまってしまったかもしれません。
 ただ、会社の中では非常に珍しい経験をさせてもらいまして、4分の1ぐらいは、技術の部門におりました。周囲からは「技術者ではないか」と思われていた所もあります。残りの4分の1は国際関係におりまして、そのまた残りの4分の1ぐらいは、経営企画とか管理部門、残りは現場をやっていたということでございます。
 それで、元々、私はこういう研究の方にも関心があったので、いろいろと外に出歩いたりしているうちに、だんだんどっちが本職か分からなくなりまして、遂にやめて学者になったということなんです。
 そんなことで、余り申し上げられることはないかもしれませんが、2点だけ最初に問題提起しておきたいと思います。
 1点目は、情報の中で「ビジネス系の情報」と「エンターテイメント系の情報」は、どうも性質も違うし、そのための作戦も違うのではないかという疑問が、ずっと抜け切れないでおります。私自身は、ビジネス系情報については、かなり土地勘があるような気がしますが、エンターテイメント系の情報については分かりませんので、他の方に教えていただきたい。
 2点目は、1点目と絡みまして、このビジネス系の情報の情報処理機関としては、「政府」と「企業」という大組織が圧倒的多数を作り出し、処理し、加工して発信していると思うんです。それで、私の意見としては、本研究会は、ちょっと構え過ぎではないかという感じがするんですね。先程、Gさんがおっしゃったことにも関係します。
 例えば、政府のサイト、特に自治体のサイトを見ますと、何かホームページを作るのが情報化だということもあったのか、あるいは、それで儲けようという某広告会社その他の作戦によったのか、最初のページは凄く美しいのですが、「ここをクリック」といってクリックすると、もうそれで終わりとか、そのようになってしまう。つまり、発信する前に処理をしている訳ですから、処理している情報をそのまま出せば発信できるのに、発信プロジェクトというのが別にあって、そこの人は処理する人と別である。もちろん、情報公開とか、いろいろな制度にも絡んでいると思いますが、そういうことではないと思うんですね。
 その一番いい例が、例えば、日本のプレスの発信力、あるいはカバレッジというのは、本当にどんなものなのか。それからもっと凄いのが、裁判所の判例は関係者以外に見せないという、凄まじい秘密主義。これを開放したら物凄い情報量が出てくる訳で、アメリカの判例評釈とか知的レベルの向上に、判例検索システム、レキシス、その他というのは、物凄く貢献していると私は思うんです。
 今、私は慶応義塾大学のプロジェクトとして、日米の政府サイトをお互いの母国語に翻訳して要約するソフトを働かせて、どこまでできるかということをやっているんです。主とする目的は、技術評価をやっているんですけれども、多分それに付随して、どういう作り方をしたり、どういう発信の仕方をすると伝わり易いかとか、それから例えば、文章はどう書いたらいいのかとか、いろいろなことが分かってくるのではないかと思っております。その辺は、逐次インプットさせていただきます。
 「余り構えない」、つまり、「日常やっていることが、そのまま出ていくためにはどうしたらいいか」という視点が、一番簡単じゃないかなということです。
 それから、最後はちょっと個人的な趣味もありますが、「知的所有権」制度です。実は「知的所有権」というのは、最初に「工業所有権」を訳したときに誤訳したからこうなっているんじゃないかという意見の方に、私はくみしておりまして、これは「知的財産権」と言う方がいいのではないかと思っています。その背景には、実は、言葉はかなり実態と関係していまして、今、アメリカを中心に創作者により有利な取引形態というのが圧倒的に広まっていると思います。
 私は、「知的財産権」には、二つの側面があると思うんです。一方で、権利者の権利を強める方がインセンティブが高まるという考え方があって、それは否定しませんが、もう一方で、なるべく利用し易くした方が、みんなに伝わり易いという要素がある。その辺のバランスを研究会の疑問にご配慮いただければありがたいと思います。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 では、H委員、お願いします。

〔 H委員 〕 私はちょうど31年前に、スタンフォード大学の学部の学生のとき、慶応義塾大学に交換留学生として、夏に2カ月程参りました。1971年の1年間慶応義塾大学に留学しまして、その時に主に日本語の勉強をやってきました。その時、初めて、趣味としてではなく、仕事として日米関係の仕事をしようと思いました。最初は、ジャーナリズムに関心がありましたので、一時、新聞社で働きましたが、その後、学者になろうと考え、ハーバード大学の大学院に行きました。そこで、8年間大学院生活をしましたが、学者になる前に実業の世界を経験したかったので、ロー・スクールとビジネス・スクールで勉強し、弁護士の仕事をしました。その時、政府から誘いがあり、、5年間程、日本では悪名高い「通商代表部」に勤めまして、日米の通商協議、また、アメリカと中国の経済関係に携わった訳であります。
 1990年からは、民間企業に移りました。アメリカの場合は、1つの職業に長く残るのは余り良くないと言われていますので、アメリカで代表的な企業であるAT&Tに転職をして、1990年から8年程勤めました。そして、1年半前に、1886年にできた世界で一番古い経営コンサルティングの会社に勤めています。
 こうした経験から、この「知的活動」に関しては、5つの側面、あるいは角度から関心があります。
 第1点は「言葉」あるいは「言語」です。
 私も、31年前に日本に来てから日本語を勉強し始めました。小学生の時にはスペイン語を少し勉強しました。中学、高校の時はフランス語、大学ではドイツ語を勉強したんですけれども、その後日本語を勉強して、いかに日本語は難しい言葉かと痛感しました。今だに苦労しています。 私の妻も、実は6年間程、ハーバード大学で日本語の先生をしていたんですけれども、アメリカの言語学者の研究によりますと、母国語が英語の人が日本語を勉強する場合、フランス語の修得の6倍、ロシア語の修得の少なくとも2倍は時間がかかると言われております。言語、言葉としての日本語が、少なくとも西洋の言葉が母国語の人にとって、いかに難しいかという角度から関心があるということです。
 2つ目は「コミュニケーション」です。個人間のコミュニケーションもそうですが、ジャーナリズムを含めて、コミュニケーションというテーマについても大変関心があります。それが2つ目の側面です。
 3つ目の角度は、「情報」です。特に、8年間AT&T、昔はアメリカの最大手の電話会社、今度はケーブルテレビ会社に変わっていますけれども、その仕事を8年間やっていましたので、情報とか情報技術、IT、ハードもソフトもコンテンツも非常に関心があります。
 4つ目は「文化」です。これはアメリカの政府の機関で、「日米友好基金」という基金があります。1975年に発足しまして、これは日米の文化交流、知的交流を促進するための組織です。その組織の副委員長を数年前からやっています。アメリカ側から見た日米の知的交流、文化交流をいかに促進したらいいかという議論をよくする機会がありますので、関心があります。
 それと関連して、いわゆる「ソフト・パワー」といいますか、文化的な力といいますか、それがどう世界で反映されているかというテーマにも若干関心があります。特に、日本の近頃の議論の中で、日本のソフト・パワーを育てなければいけないという、1つの産業政策的な考えもあるようなので、大変、興味があります。
 5番目の角度は、国際関係といいますか「日米関係」、「2国間の日米関係」だけではなくて、「多国間の関係の中での日米関係」です。その中における知的活動に関心があります。こういう5つの角度から、このテーマに関心を持っています。
 私は素人で、特に知的活動に関する専門家ではありませんので、これから皆さんから、いろいろと教えていただきたいと思います。

〔 座長 〕 ありがとうございました。
 それでは、最後になりましたけれども、I委員、お願いします。

〔 I委員 〕 最近やっていることだけをご紹介しながら、自己紹介とこの委員会への姿勢に代えたいと思います。
 今年に入りまして、ネットワーク上でバーチャルカントリー、「イシス(ISIS)」という国を開国いたしました。1月9日に開国して、大体10月ぐらいまで実験をして、そこから何かをやろうということなんです。まだOSとは言えないようなものなんですが、今までのOSではないようなものを用意して、そこで「ミーム・カード」という、「ジーン(gene)」に対する「ミーム(meme)」ですが、ミーム・カードという「一切の情報の交換取引関係が保存されて、履歴が残りながら、それに編集を加えていくと何かになっていくというカード」を、電子文房具として開発しました。それだけで1億5,000万円ぐらいの開発費用がかかってしまいました。
 それで、そのカードを使って、一種の「電子通貨」ではなくて、「文化通貨」というものを実験したいと思っているんです。「文化通貨」というのはどういうものかというと、例えば、僕は京都の呉服屋のせがれに生まれたんですが、京都では着物というのは、これ以上売れないものです。日本全体でも売れません。にもかかわらず、着物業界はアップアップしながら、1つの体を維持しているのは、着物が「文化通貨」だからなんですね。
 したがって、ある家のお嬢さんが、小紋でも訪問着でもお買いになる。そうすると、京都の経済文化には、お菓子屋からその方の誕生日に関連することから、その妹さんのことから、全部小さな小さな業界ですけれども、くるくる回り始めます。だから、着物を買ったか買わないか、あるいは買った着物がどういう柄だったかということが、1つの文化通貨になって動く訳です。そういうようなことが、「情報がくっ付いた通貨」、「情報通貨」と言ってもいいんですが、そういう格好でできないかということを、実験したいと思って開国いたしました。
 我々だけでは到底お金ができませんので、「イシス(ISIS)」には「建国の父」がおりまして、NTT、NTTドコモ、ソニー、凸版印刷、資生堂、その他の方々に建国の父となっていただいております。
 それから、先週、講談社から「知の編集術」という本を出しました。これは私が「編集」というものを持ち出している以上、もう少し普及しなければいけないということで、「情報編集力」というものがどうやって身に付くのかというような、非常にプリミティブなことをやってみました。ここには「編集稽古」というお稽古が入っていまして、発行は2万部の初版でしたのが1週間で増刷が決まりました。さらに2冊目の「編集稽古帳」を、「大野晋さんの『日本語練習帳』にあやかって出しなさい」と言われておりますので、今、その「編集の国」の中に「編集稽古」、「エディトリアル・エクササイズ」とか、「エディティング・エクササイズ」と呼んでおりますが、そんなものをやろうとしております。
 これは一言で言いますと、先程から皆さん、大変おもしろいご発言があって、僕はこの資料に書いてあるご提案も、アイテムとしては全部了解できるものばかりです。しかし、問題は、「情報」は対称性が破れていくことから編集が始まりますから、今日、既に皆さんのご発言の中で問題提起されたようなスタイル、ご指摘は当然であって、発信とか貢献とか受信というのではなくて、その対称性が破れていく。最初のB先生のご発言にもありましたように、情報の対称性というのはグローバルで、常にユニバーサルである。しかし、対称性が破れた所から非常にローカルなものが出てきて、ドメスティックとなる。しかし、それがもう一回、ユニバーサルでグローバルなものに帰っていくという繰り返しが情報の本来の姿であります。B先生がいらっしゃるのに私が言うべきことではないんですけれども、元々、情報が宇宙やどこかからやってきて、そしてエントロピーとか光とか時間の矢を組み合わせながら、生命の弧を重合化して高分子状態となり、生態膜を作っていく。そしてRNAという編集者を先にして、DNAという主人公を作りながら、編集行為を始めたそのプロセスの中には、必ず、その情報が満ち満ちていながら破れていく。そして、ナトリウム・チャンネルとか、カリウム・チャンネルとかという、今で言うゲートウェイを通しながら、情報の一種の格差を作っていくということが、本来の情報の本質だと思います。
 情報の対称性というもの、例えば、日本とアメリカとか、日本と世界とか、データベースでも何でもいいんですが、そういうものの中の対称的なものを早く入れてしまって、それを交換しながら、そこにある種の歪みとか、ディストーションというものを作っていくということが必要だという話をしております。
 それから、来月に、「日本流」という、「僕は日本流で行く」というタイトルのつもりで、朝日新聞社から1冊出します。これは、先程、G委員もおっしゃいましたけれども、日本には、おもしろいものがありながら、その解読、コード・ブレーキングがまだ終わっていない。司馬さんや堺屋さんを初めとして、いろいろなコード・ブレークをしていただいてきた訳ですけれども、必ずしも全部は終わっていないどころか、まだ1割ぐらいしか日本の情報文化は解けていないと思います。
 非常に簡単なことを1つだけ言いますと、「あはれ」と「あっぱれ」というのは、全く逆の言葉です。そして公家・貴族が「もののあはれ」と言ったものに対して、武家が「あっぱれ」と言っている訳ですが、これはコードとしては同じコードなんですね。「あはれ」を促音や破裂音を伴った「あっぱれ」と言っている。そうすると、そこで情報主体が「あはれ」と言っているものに対して、その客体あるいは主客を変えた立場から、「あはれ」をもう一回言い直したものが「あっぱれ」になっている訳です。
 例えば、そのように、日本文化の中に潜んでいるコードとかモードの本質的な文化性というものが、矛盾しながら孕んで、常にスプリットして出てきた訳ですね。「縄文」と「弥生」とか、「黄金」と「わび」とか、「野暮」と「粋」とか、そういう格好で出てきた訳です。これらは初代文部大臣の森有礼が「日本語をやめて、英語とかローマ字にしたい」と、明治6年に決断した時に、ワシントンのホイットニーに、「そのようにするにはどうしたらいいか」と言ったら、ホイットニーは「一国の文化というものは、一国の国語で作るものだ。余計な言葉で作るものではない」と言って、日本は日本語に戻りました。
 我々は、その日本語や日本文化そのものの中に潜んでいるものが、何かつまらないと思える限りは、常に「グローバリゼーション」というものに対して、間違った解釈をしかねないと思います。ですから、何とか日本というものの中に潜んでいる不思議な事と物というものを取り出したいと考えまして、「日本流」という本を来月、出してみるつもりです。
 ちょうどその頃の、2月に僕はパリにいまして、日仏会館で平家物語の展覧会のキューエーションとキューノットスピーチをいたします。それは、「奢れる者久しからず」ということが、日本にとって何だったのかということを、「平家物語」と琵琶法師達を連れていって、そして和紙人形を展示しながら語っていく行為なんです。これを言い出したのは、ポンピドーセンターの館長と、それから日仏文化会館側なんですね。
 「どうしてかな」と思っていたら、最近、フランスでは「五倫の書」の素晴らしいフランス語訳が出ました。僕も仏文科出身で、読んでみて大変いいものだと思いました。それから、吉川英治の「宮本武蔵」の全巻翻訳が終わりました。そして、フランス人は、フランス語から通した「五倫の書」ではあるんですけれども、そこにおける「受けてから制する」ということを非常におもしろがる訳ですね。
 今、ユーロとかフランスというのは、武蔵の考えていることは大変おもしろいと言われて、私は、「そんなふうに武蔵を言っていいんだろうか」とか、「日本でそんなことを言い出したら、国家主義になってしまう」とか、「しかし、こういうことを日本人が言えなくなったのは何故だろうか」とか、「気にしながらこんな話をしなきゃいけないのは何だろうか」という、大変な矛盾を感じました。
 そして、ある1人のフランス人と一夜、ゆっくり話す機会が一昨日ありました。彼は、オーギュスタンベルクという風土地理学者で、和辻哲郎のフランス人研究者なんです。彼がこういうことを既に書いているのは、僕も知っていたんですが、今回、詳しく話してくれたんですね。ベルクは、「日本人が主語のない文法でいろいろな話をすることはよく知っている。日本人は、それを非常に恥ずかしいと思っているかもしれないけれども、そういうことは気にしない方がいい。例えば、日本語には『キラキラ』というのに対して『ギラギラ』があり、『スルスル』に対して『ズルズル』がある。『トクトク』に対して『ドクドク』がある。こういう言葉というのは、フランスには一切ない。恐らく英語にもない」ということです。「チックタック」が「ティックタック」になったり、「ディングドング」が「ティングドング」になるということはまずない訳です。
 にもかかわらず、「日本人は膨大に『ワンワン言葉』と言われている『スベスベ』とか『スルスル』とか、『キンキンキラキラ』と『ギラギラな奴だ』とか、全部変えている。この述語的な情報量を、日本人はどう考えているのか」という議論を一夜いたしました。
 これは、とりもなおさず、カラオケとか劇画とかアニメーションとか、あるいはTVゲームとか、そういうものが日本で爆発的に当たって国際化したということの、実は、ある編集技術的な根拠に当たっている訳です。すなわち、あの技術というのは、OSがしっかりしている訳でもないし、主語・述語関係がしっかりしたロジックを持っている訳でもないにかかわらず、そこに入っていった人の一種の状況的なシュチュエーティッドな感覚というものを、非常にうまく捉えるようにできている。
 しかし、そのような述語的な状況的な表現世界というものは、普通、「情報」とは言われなくて、むしろ、形態用語、擬声語、擬態語という程度で言われている。けれども、今、手塚治虫が、天才として、日本のチャップリンやディズニーだと思え、黒澤明のドローイングが、今また脚光を浴びているという理由は何かというと、実はそういうロジックではなくて、そのような表現の何かに情報世界というものが潜んでいて、情報文化というものも、本質がそこにあるんだということだと思うんです。だとすれば、そういったものをもう少し取り出せるものを作れないかなと思います。
 一方、まだこれは終わっていないので、まだ中間発表する段階ではないんですが、私は「歌枕コンピューター」みたいなものとか、「水墨山水コンピューター」みたいなものを、今、作っている最中であります。それは何かというと、例えば、茶の湯の空間というものには、にじり口から、床の間から、掛け軸から、釜から、袱紗から茶掛けに至るまで、全部、情報がマルチメディアライクに入って出たりするような構造となっている訳ですね。その全部にタイトルやハンドリングネームが付いていて、ある種の文化アルゴリズムが付いています。
 それをわずか数時間の間に、物凄く的確にハンドリングいたしまして、茶の湯というものがなされる訳です。かつて、そのようなところで情報を処理していた日本文化が、デスクトップ・メタファーだけで情報処理できるかどうかということが、凄く疑問になりました。そこで、新たなメタファーとしての日本文化がコンピューティングの対象になるかどうかという研究開発を始めました。
 そうしますと、例えば「たらちね」というと「母」のシソーラスが出てくるとか、「ひさかた」というと「光」のシソーラスが出てくる、あの古今、新古今の三大和歌集全体が持っている情報データベースのハイパーリンク状態は驚くべきことだ分かります。しかし、あんな文化を今日発達させる訳には、もう恐らくいかないと思います。
 そこで、今、我々の若いスタッフと組んでいただき始めたのは、「GLAY」とか「TUBU」とか「ラルク・アン・シエル」のメンバー達で、彼らが毎日、日本中に振りまいている歌詞は、分析するとおもしろいんですけれども、非常にシソーラスに富んだもので、余り違いがないんですね。そして、「あるものが入っていくと、そこへすぐリンクが行く」、「ここからだったらこっちへ行く」ということが、大変よくできている。その歌詞を見て、「つんく」とか、「ラルク・アン・シエル」達は曲に乗せていく訳です。
 歌のイントロがバンと入ると、その言語感覚というのも、まるで西鶴が一晩で一万句ぐらいの連句をしたように、あるいは西行の歌が江戸時代でも何千回、何万回と本歌取りされたように、見当がつく訳です。それは、僕達の世界で言えば、春日八郎から美空ひばりまで、あるいは裕次郎でもいいんですが、その歌詞とか曲というものは、何となく一言聞くと分かったのと同様のことが、もっとインターネット・スピードで起こっている。しかし、そういうものがアメリカン・ロックにはないんですね。アメリカン・ポップスでもない、ブリティッシュ・ロックでもないんです。Jポップと呼ばれる、誠に独特な言語文化、社会構造が持っている訳です。
 こういうものに、お金をかけるかどうかは別として、思い切って研究するとか、単にロックコンサートを経済企画庁がやるという訳にはいかないですから、研究開発プロジェクトとしてロックをやるとか、そういうことが必要なのではないかなと思っています。
 もう一言。昨日、ある陶芸家が悩みを持って来られました。それは中村錦平さんという、日本の現代陶芸家で上から5番目ぐらいまでに入る方なんですが、この方は東京焼という焼き物をやっています。萩焼とか備前焼というのではなくて、この平成の世の中で、東京の土で東京で焼くものを東京焼にしたいんだということで戦っている人です。とてもいいものですね。三宅一生なんかは、非常にそれに影響を受けています。
 ところが、「東京焼をアメリカやフランス、イタリアに持っていこうと思って、いろいろな日本の各機関に援助を頼んでも全くだめである。何とかして下さい」というご相談だった訳です。それを聞いていまして、「ああ、これはやっぱり、日本の文化とか、情報文化とか言ったって、誰も何も見ていないんだ。中村錦平を知っている人がどのぐらいいるんだろうか」と感じました。ですから、ここに書かれていることは全て問題がない視点が出ているとは思うんですけれども、具体的な例というと、全然違ってくる。
 この研究会では、むしろ、発言の機会に、私はそういう具体的なものを申し上げたいと思います。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 もう大分、具体的な話に入りそうな所まで来ていて、もう少し聞いてみた方がいろいろな話が出るかもしれません。この時間を使って、最初の検討事項の「(1)『世界の知的活動拠点』を形成する目的・効果の明確化」に関わる話を、少しさせていただきたいと思います。
 先程、G委員の方から、「『世界の』は、余りそぐわないのではないだろうか」ということが出ましたし、この中身については少し広げて議論をしていただいたらいいと思います。要するに、「知的活動拠点」、あるいは「知的ネットワーク」、そういうようなものに関わるものの目的、効果という言葉が適当かどうか分かりませんが、そういう視点が必要である。それから、そういうことに関わって、もう少し具体的には、どういう分野があるのか、情報発信が期待される分野というようなことについて、ご自由にどなたからでもご発言していただければと思います。
 では、ここで、経済企画庁長官がお見えになりましたので、一言、ごあいさつをいただきたいと思います。

〔 経済企画庁長官 〕 お忙しい所、この「世界における知的活動拠点研究会」にご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 この研究会では、「日本から世界に対する情報発信」ということをテーマに、皆様方のご意見を伺い、どのような政策を立てていったらいいか、これからの10年程度の長期の問題として考えていきたいと思っていますが、ご意見はできるだけ集中的に協議していただきたいと思っております。 日本では、科学技術につきましては、かなり政策的にも議論されております。例えば、科学技術研究費がGNPの何%を占めるとか、あるいは、研究者の数がこれぐらいとかよく言われますけれども、いわば文系の経済学とか社会学とかの学問については、余りそういう比較もありませんし、どれほどのお金らいいかということも言われておりません。
 ところが、この10年、あるいは、もう少し長くかもしれませんが、かなり日本の情報発信力が衰えているのではないか。日本人の日本に関するものでない経済学や社会学での引用論文数というのが、減っているような感じもいたします。また、日本に関する日本の学術研究に関する英文の出版が、やはり90年頃から減少しております。これは、日本の経済力、特に投資の力が衰えたので、関心が下がったということもあるでしょうけれども、新しい発想というのは日本からは余り生まれていない、比較的少ないということが重要なポイントだろうと思っております。 世界中の人々が日本に来てくれる。日本で学び、日本から情報発信をしてくれる、そういうような拠点が作れないものかと思っております。
 今、話題になっておりますアラビア石油という会社がありますが、このアラビア石油はアラビア人にサービスとして留学生を世話しているのでございます。日本の会社がやっているにもかかわらず、そのうち、およそ1,250人ぐらいが留学先として、アメリカへ行っているんですね。日本へ来たのはおよそ70人なんですね。希望のままだったら、もっと偏るらしいのです。どうも、日本に研究に来る人が少ないし、また、コンピューターソフト業界等を見ますと、優秀な人が、中国や台湾から日本に来ても、なかなか日本に定着しない。これは日本の労働の問題、会社組織の問題、その他いろいろな関係があるんでしょうけれども、業績を上げるとアメリカとカナダへ行ってしまうという例がたくさんございます。
 そういうことも含めて、いかにすれば日本が知的な面で、あらゆる意味での創造力を発揮できるような拠点が作れるか、それを私は大変重要な問題だと思っています。もちろん、経済学や社会学や哲学だけではなしに、デザインであるとか、映画・映像作りであるとか、こういったものも同様です。今、日本でそういったソフトの面で世界的に誇れる程、発達しているものは、「カラオケ」と「ゲームソフト」、それから、「アニメーション」の3つのようなんですね。だけども、それ以外では余り、世界で誇れる程の目立った業績はないような気がしております。
 この情報発信と、その元になりますコンテンツ、そういったものを、本当に日本で作れるような世の中にするにはどうするか。また、日本語で発信した情報が世界に受け入れられる方がいいのか、あるいはそれはあきらめた方がいいのか、これも大きな問題だと思います。
 日本語の普及につきましても、いろいろ議論がありますが、私は、やはり、もうこのあたりで、日本語と日本文学は切り離して考えなければいけないだろうと思うんですね。我々の普通に使う英語というのは、英文学の英語ではなしに、通用すればいい訳なんですが、日本語は外国人に教える時に、日本文学と絡めて難しい教え方をしているんですよね。 だから、そういうことも、1つの情報発信の問題ではないかという気もいたします。
 今日の総理大臣の施政方針演説には、「美しい日本語を身につけるとともに、全部の日本人が英語を使い、自在にインターネットを操れるように教育改革をしよう」というのが入っておりました。これは21世紀懇談会の「英語を第2公用語にしろ」というのを受けたかもしれませんけれども、教育改革国民会議を開くということも入っておりました。そういう全般的な日本人のレベルの偏向と同時に、「知的拠点」として、非常に高度な分野に日本が参入するためにはどうするのか、ぜひ皆様方のお知恵を拝借したいと思っております。
 どうか、よろしくお願いいたします。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 では、議論を続けたいと思います。先程の話に続けて、この委員会全体の検討の目的等について、あるいは、それについてもう少し具体的なイメージがあれば、ぜひお話ししていただきたいと思います。
 今の大臣の発言をお聞きしていて、何か2つのことが同時に語られたと思います。1つは「いいものがあるんだから、それはどうやって発信したらいいんだろうか」という論点と、あるいは「発信しなきゃいけないから、どうやっていいものを作ったらいいんだろうか」という論点です。その2つを考えるというと随分違う議論になりますし、それ以外にも論点はあると思います。時間はあと10分ぐらいしか残ってませんが、できるだけ多くの方に言い残したことを、お話ししていただきたいと思います。

〔 I委員 〕 手短にいたしますけれども、今の長官とのお話との関連で言いますと、「カラオケ、ゲーム、アニメというものが流行っているだけに、他のことはどうだろうかという方向」と、もう一つ、「カラオケ、ゲーム、アニメが流行っている理由、当たった理由の研究という方向」が、もう1つにあると思うんですね。
 実は、いろいろなものを見ていても、その実態や先程申し上げた「キラキラ」と「ギラギラ」みたいな話も、余り研究されていないと思うんですよね。何であんなにカラオケが当たったり、日本のアニメーションというものが発達するのか。
 僕は、85年の科学万博で京セラの稲盛さんに頼まれて、京セラだけではないんですが、京セラを含めたベンチャー・パビリオンの演出をやりましたが、その時、大友克洋君に、「風神雷神」というロボットを作ってもらったんですね。非常におもしろかったんですけれども、大友克洋というのは「アキラ」のアニメのアニメーターで劇画家ですが、独特の発想をする訳ですね。
 浮世絵に対しても、読本に対しても、洒落本に対しても、それから当時流行っていたワールド・ミュージックに対しても、非常に独特の日本的発想をする訳です。それを活かして上手なデザインになったんですけれども、僕は、その当時、なぜ大友君にそんなことができるのか、その理由をつかめなかったんですね。それは石炭が日本で採れれば石炭の研究をするように、日本のカラオケやゲームやアニメに潜んでいるものは何かという研究を、国家プロジェクトでやるべきだというのが1つです。
 もう1つ、今度は、僕が悩んでいることでぜひご検討いただきたいのは、昔から日本は、小林一茶が一会とか、蘭渓道隆とか、その前の聖徳太子の外側の人達とか、あるいは、ルイス・フロイスとか、ザビエルとか、さらに李参平が儒教をもたらしたとか、明治を含めて外国人とうまくコミュニケーションしてきました。
 今、どうも全体にそっちに向かっていて、この「知的活動拠点」も、そういうものを入れようとしているんですが、その間、間ごとに、狩野派、雪舟は「もう中国に学ぶものがない」と言ったり、李参平が持ってきたものと柿右衛門の三代目が作ったものが全然違ったりします。そうすると、そのすき間というんでしょうか、日本というものが浮上する何かが、本当は日本史上には一杯あった訳ですが、それがどうも今の日本に、時代としてやって来ない。これは何故かということも、ぜひ気になるので、ご検討いただいたり、議論したいなと思いました。

〔 座長 〕 ありがとうございました。
 ではG委員。

〔 G委員 〕 I委員が、「具体的な例も紹介しながら」ということをおっしゃいましたけれども、ここは私は非常に大事な所だと思うんですね。さっきの繰り返しのようなことになるんですけれども、往々にしてというより、ほとんどの場合、役所が作る審議会等のレポートは、余り楽しくない。それと楽しくないだけではなくて、余り使われない。
 中身ではなくて、スタイルのことばかりを申し上げているんですけれども、例えば、何でもいいと思うんですが、それこそカラオケでもアニメでもいいんです。各省庁のうまくいった例、また、反対にうまくいかなかった例を調査する。そして、それが応用できるのかどうかというようなことを議論する。留学生が来ているけれども、余りいい思いをせずに帰っていくようなことでもいいですし、何でもいいんだと思います。
 「例えば…」というように、具体的な例を挙げながら議論をすると、後で読む方も分かり易いですし、使い易い。私は、仮に政府の中で使えなくてもいい、世の中で使われればいいと思います。それをやろうとすると事務局が大変で、予め具体的な例を調べて集めなければいけないので、とんでもないことだということになるかも分かりません。しかし、少しでもそういう工夫ができればなと思います。
 私は全く持っていないですが、他の委員の方は、恐らくそういう例は幾つも持っていらっしゃるのではないかと思います。ですから、予め委員の方からインタビューをするだけでも、かなりの例が出てくるのではないかと思います。

〔 座長 〕 今、G委員の話で、F委員がおっしゃった話を思い出していたんですけれども、自治体のホームページというのは、カバーページは非常に立派なんだけど、クリックすると何もない。この報告書も、表紙は非常に立派なんだけど、中を読むと何も分からないというのでは困りますから、具体的な例なのか、あるいは深みのある議論なのか、ぜひそういうことも考えていきたいと思います。ホームページの頭の部分はそんなに格好良くなくても、実のあるようなものができればと思います。
 どうぞ、B委員。

〔 B委員 〕 先程のI委員の話は、非常におもしろく聞かせていただきました。どうも今議論している「情報」の中には、2種類があるような気がします。我々が普通に「情報」と言っているものは、客観的に伝達できるものです。だけど、本当はそれだけでは全部の情報は伝わっていないということをおっしゃっているので、そういう意味では、より新しい質の情報をどう伝えるかという問題が発生します。このための方法は、必ずしもアメリカ発の技術ではない所にあると思うので、それは両方分けて議論をすべきではないかと思います。
 ただ、「日本発の情報発信」とか言う時には、まずは共通ルールの上でどうやって伝えるかということが必要ですね。それは、日本の技術には、かなり難しい所があります。「技能」という点では非常に優れている。だけど、それを自分以外に伝達・伝承できるかというと、若干、劣っている所があります。そういう問題をかなりきっちり議論したい。音楽そのものの評価は私はどうも分からないのですが、Jポップの話は非常におもしろく聞かせていただきました。
 もう1つは、「知的活動拠点」をどう捉えるかという点で、1つの例を挙げますと、イタリアに「エリチェ・スクール」というものがあります。いわゆるフェルミのスクールみたいなものです。我々が「知的活動拠点」と言ったら、「一番トップの活動をしている所が、知的活動拠点だ」と見るかもしれませんが、実は科学にしても、学術にしても、芸術にしても、実際にそこで活動している人だけで、それが成り立っている訳ではないのですね。それで「エリチェ・スクール」というのは、NATOのスクールで、ごく少数の優れた人を集めて、例えば、そこで2~3週間、ある意味での合宿をしたら本を書くというシステムで、もともとフェルミなどが始めた高級なスクールです。
 エリチェ・スクール自身はガリレオ・ガリレイの生誕400周年ということを記念して、大学復興運動のような形で始まりました。つまり、今の大学は、ある意味で無理やり教える教育恒常的な側面があるわけです。一方、昔は世界の果てから先生の所に行って、そこで教えてもらう訳ですね。そういうものでないとだめだということがあって始まったものです。
 エリチェ・スクールでは、イタリア人は誇り高くやっています。何故かと言うと、実は講演者の偉い先生は、ほとんどアメリカとドイツとイギリスから来ます。イタリアの方は、内容としての貢献は少ない訳ですね。だけど平気なんです。シシリー島という地中海の凄い所にあって、おいしい食べ物といい気候と凄くいい施設を持っている。彼らから言うと、「学問は必ずしも学問をしている学者だけできる訳ではない。現にルネッサンスを見ろ」と言う。ルネッサンスはメジチ家が一代で後援した訳ですね。絵を描いた人がいたって、それを支える人がいなければだめなので、スポンサーシップというのは極めて重要なのです。ですから、「イタリアは今、別に科学で最先端ではないかもしれないけれども、今の科学を支えていく一番重要なところをやっているのだから、全然気後れをする必要はないんだ」ということなんです。
 その時に、「日本こそやれ」と言われたました。ちょうど当時は、アジアが非常に発展しようとしていた時ですね。先程のご発言は、「日本の文化の再認識と確立ということが必要だ」ということをおっしゃっているんだと思いますが、同時に、その時には、「日本からちょっと出て、もうちょっと広く、例えばアジア圏だとか、そういうところも含めて見ていく必要があるのではないか」という気がいたしました。

〔 座長 〕 今、J委員がいらっしゃいましたので、もう時間があまり残っていないんですが、どんなことを今やっているのか、この研究会でどんなことを議論したいかというイメージ等をご自由にご発言していただければと思います。

〔 J委員 〕 遅れまして本当にすみません。
 今まで、私はインターネット・ベンチャーで事業の立ち上げをやってきております。
 私がこれからのインターネットのビジネスモデルを考えると、最もおもしろい現象が、インターネットの中では「価値」というものが、また、大きく考え直されているということです。製造と物を中心とした価値から、例えば、「リナックス」みたいに、「製造」と「コラボレーション(共同開発)活動」のコストがゼロになってしまうと、経済的価値がゼロなんですけれども、インターネットの世界では非常に「価値」が高い。インターネットの世界で物凄く関心が高いものとか、コミュニティの中での個人間の関係性が価値があるかとか、また、経済学的に突き詰めても、「今の貨幣の担保は何か」というと、これは全て「文化」だったりする訳ですよね。
 私も、「なぜ65%もの高い税金を払ってまで日本にいるか」というと、「寿司が好きだから」ですよね。私としては、日本の最大の価値は、「物」ではなくて「文化」なのではないかなと思っているんですね。「文化」と「価値」と「経済」の関係性の中に、物凄く重要なことがいろいろあって、今のネオ・クラシックの経済学では説明できないものがあると思うんですね。本当に経済企画庁が、「文化」を分析すると、実はこれは、これからとても重要なことだと思っています。
 逆にベンチャーから見ると、それが分かればいろいろなビジネス問題が出てくるんですよね。例えば、今、レッドハットという会社が、「リナックス」というフリーのソフトウェアを経済的に考えて、これをパッケージして配るということをやっています。このコマーシャル・ワールドとノンコマーシャル文化の間の所に、物凄いおもしろいチャンスがたくさんありまして、これはベンチャーにとっても、この課題は凄く重要だと思います。そういう訳で、様々な意味で、こういう接点はすごく興味がありますので、ぜひ今後ともいろいろな刺激を受けたいと思います。よろしくお願いします。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。
 所得税率は50%になったので、もうちょっと寿司がたくさん食べられると思います。
 本当は、もっと皆さんに議論していただきたいんですけれども、忙しい方に集まっていただいておりますし、今日の所はこの辺にしたいと思います。なお、電子メールとかファクス等の手法も使って、ぜひ今後、事務局の方に追加意見、あるいはご提案がございましたらご提出をお願いしたいと思います。
 時間になりましたので、今後、次回から第4回にかけて、「世界の知的活動拠点」になるための環境整備、具体的にどんなことをやっていくかということをご議論いただきたいと思います。しかしながら、当然、そうするためには、今日の話の具体論も、「何が目的なのか」ということに関わってくると思いますので、今日、言い残したことで、ぜひ発言したいという時には、そこでまた議論させていただきたいと思います。
 ただ、今後の進め方としまして、今度はテーマごとに、1~2人の委員の方から、じっくりお話をしていただいて、それをスタートとして議論を進めていくというようなことを考えております。どなたに発表していただくかということについては、事務局からまたお願いに行くと思いますので、ご協力をよろしくお願いしたいと思います。
 次回は、3月2日木曜日の本日と同じ時間帯、同じこの場所での開催を予定しておりますので、よろしくお願いします。
 本日は、長時間、どうもありがとうございました。

〔 経済企画庁長官 〕 ついでといったら恐縮でございますが、政府において、今年の12月31日から来年の12月31日までの丸1年間、新千年紀記念行事というのを行いたいと思っております。これはインターネットの上で博覧会を開くインターネット博覧会「インパク」というんですけれども、インターネット上に100程のテーマパビリオンを作りまして、そこで全国の人々、企業、NPO、大学にもご協力いただいて、何か新しい知的生産をしたいという訳です。 皆様方で、こういうテーマでやったら、ごく普通の人まで参加できておもしろいものができるのではないかというものがございましたら、ぜひご提案いただきたいと思います。間もなく2月の中頃には新聞広告もする予定でございますが、採用になりますと抽選で記念品もあります。どうぞよろしくお願いいたします。

〔 座長 〕 どうもありがとうございました。

―― 以上 ――