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第2章 家族の働き方の現状と課題

夫一人の収入に大きく依存する家計の不安定化

これまで多くの場合、サラリーマンの夫は、おもにフルタイム就業の形で働いてきた。多くの企業は、そうした就業者に対して、長期的に安定した雇用を保障し、若年期に相対的に安く中高年に相対的に高い賃金を支払ってきた。

これは、企業にとっては、長期にわたって就業者の勤勉さを引き出すことを可能とし、また、就業者の教育訓練を行いやすくするものであった。一方、就業者の側には、安定した収入見通しのもと、生活設計を立てやすいというメリットがあった。しかしながら、このような雇用慣行のもとでは、企業内部における長期間の競争への高いインセンティブや協調的な関係、職務分担の曖昧さが、長時間就業や有給休暇のとりにくさにもつながり、就業以外の活動を行いにくいことが指摘されている。

こうした中で、収入はサラリーマンの夫一人に大きく依存し、家庭内労働は専業主婦の妻一人で担う家計は、「夫は失業しない」、「夫の賃金は年齢とともに上昇する」ことを前提として成立してきたといわれている。しかし、このような前提は変化してきている。

1)「夫は失業しない」が変化

国際的に低水準で推移してきた我が国の失業率は、90年代に入り上昇している(第2−11図)。ここでは、夫が失業した場合の家計と再就職の状況についてみていく。

夫の失業の家計への影響について、世帯主が求職中でほかに有業者のない世帯の消費支出からみてみると、世帯主が40代の家計で支出が最大になっており、可処分所得と比較した赤字も大きい(第2−12図)。また、支出の内訳をみると、この年齢層では教育費支出の比率が高いことが注目される。40代世帯主の家計は、子どもの教育費に加えて住宅ローン等、削減しにくい支出が多いため、失業の際の経済的な困難が他の年齢層と比べて大きいものと考えられる。さらに、企業が求人の際に年齢要件を設定していること等から、中高年者の再就職は困難で、失業はこうした家計にとってより深刻となる状況がうかがえる(第2−13図)。

次に、離職前の産業別に再就職の困難さの違いをみると、産業全体に占める雇用者の割合が縮小している産業からの離職者ほど、再就職が困難な状況がみられる(第2−14図)。これは、そうした産業の離職者の場合には、離職以前とは異なる環境での求職をせざるを得ないことも多く、そのために新たな環境で働くための職業能力を形成することが必要となるため、再就職が特に困難となる状況を反映している可能性がある。

離職の可能性が増加する中で、企業を移っても通用するような普遍的な人的能力に乏しく、特定の企業にのみ有効な特殊的能力しか身に付いていない場合、再就職の困難性が増すおそれがある。こうした中では、特定の企業以外でも活かせるような知識を深め、技能を磨くことによって、エンプロイアビリティ(雇用可能性)を高めていくことが必要となっている。

2) 「夫の賃金は年齢とともに上昇する」が変化

従来多くの家族において、子どもの成長等に応じて増加していく家計支出に対応して、夫の収入は年齢とともに確実に上昇すると考えられてきた。しかし、そうした状況は変化しており、それが多くの家計に影響を与えている。

経済社会環境が変化する中、実質賃金の伸びは趨勢的に低下しつつあり、また、企業は、就業者全体に占める中高年層の割合が高まる中で、年功的な賃金体系を見直しつつあることが指摘されている。そこで、男性就業者の年齢別実質賃金の推移を出生コーホート別にみてみると、特に、90年代に入ってから、実質賃金の伸びはいずれのコーホートにおいても低くなっている(第2−15図)。

このように、経済社会環境の変化の中で賃金の伸びが低下している状況においては、各人が、年齢とともに上昇する過去の賃金パターンを前提に将来の収入見通しを立て、ライフサイクルを通じた消費を計画していた場合、その計画を見直す必要が生じることになる。しかし、負債等、過去の収入見通しに基づいて契約された支払いについては後から変更することが困難である。こうした状況も反映して、住宅ローン返済額の可処分所得に対する比率は、89年から99年にかけて世帯主の年収が800万円未満の世帯で大きく上昇している(第2−16図)。また、今日のように緩やかとはいえデフレにある状況下では、このような債務の負担はさらに高まっていると考えられる。

 
第2-11図 90年代に入り上昇する我が国の失業率

第2-11図 90年代に入り上昇する我が国の失業率


 
第2-12図 失業中でも削減困難な40代世帯主世帯の消費支出

第2-12図 失業中でも削減困難な40代世帯主世帯の消費支出


 
第2-13図 中高年者ほど困難化する離職後の再就職

第2-13図 中高年者ほど困難化する離職後の再就職


 
第2-14図 離職前の産業により異なる再就職の困難さ

第2-14図 離職前の産業により異なる再就職の困難さ


 
第2-15図 加齢にともなう上昇が穏やかになっている男性賃金

第2-15図 加齢にともなう上昇が穏やかになっている男性賃金


 
第2-16図 世帯主の年収800万円未満の世帯で高まる住宅ローン返済負担割合

第2-16図 世帯主の年収800万円未満の世帯で高まる住宅ローン返済負担割合


 

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