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むすび

つながりが築く豊かな国民生活


本白書では、家族、地域、職場のつながりに焦点を当てて、つながりに期待する役割と現状、また近年における変化と国民生活への影響について分析してきた。以下では、これまで見てきた論点を再確認し、その背景にある要因を検討した上で、つながりを再構築するためには何が必要かを考えていく。

●経済・社会環境の変化や意識の変化などによりつながりは弱まっている

家族、地域、職場のつながりの姿は、それぞれ大きく変化している。例えば、家族ではそれぞれの行動が個別化しており、地域においても、近所付き合いは疎遠となり、町内会・自治会へあまり参加しない人が増えている。また職場では仕事以外の付き合いが減っているとともに、企業に帰属するとの意識が薄くなっている。

このような変化は様々な要因から生じたと考えられるが、その一つとしては経済・社会環境の変化を挙げることができよう。例えば、雇用者や単身者世帯の増加は地域のつながりを、また日本的雇用慣行の変化は職場のつながりを、それぞれ弱めたと考えられる。

また、生活の質や利便性の向上も、つながりの変化の一因であろう。テレビが一人1台にまで普及したこと、家庭用ゲーム機器の進化は、家族の個別化を進めた可能性があるし、電子メールなどIT技術の進歩は、個人で仕事を行う機会を増やしたとも考えられる。

さらに人々の意識の変化も要因の一つであろう。地域にせよ、職場にせよ、従来は深く立ち入ったつながりを求める人が多かったが、最近は、適度に距離を置いたつながりが求められるようになっている。

●つながりの弱まりは人々の生活満足度や経済社会に影響する可能性がある

つながりの弱まりは国民生活に様々な影響を及ぼしていると考えられる。つながりがもたらす効果は様々であろうが、大きく二つに分けることができると考えられる。一つは、「家族でいるとやすらぎを感じる」、「地域活動に参加することにより達成感が得られる」など、精神的なやすらぎや充実感をもたらす効果である。またもう一つは、「子どもをしつける」、「防災や防犯のために地域の人と見回りをする」、「職場で一致団結してプロジェクトを達成する」など、人々の助け合いや協力によって、人々や社会が求める何らかの価値を生み出す効果である。

つながりが弱まることで、人々はかつてつながりから得ていたこのような効果を得られなくなっている可能性がある。近年心の豊かさが重視されるようになっているが、つながりの弱まりによって精神的なやすらぎや充実感を得られなくなれば、人々は決して生活の豊かさを実感できないだろう。また、つながりが生み出す価値を人々が得られなくなるという影響もある。例えば、家族におけるしつけが不十分であれば、次世代を担う子どもの人格・能力に影響する可能性があるだろうし、地域に期待されている教育、子育て支援、防犯・治安といった機能が低下すれば、地域の人々の生活の質に影響するだろう。また職場でも、助け合いやコミュニケーションが不十分になることで、人々のストレスが高まることも考えられるし、企業の業績や、ひいては我が国経済の活力にも影響が生ずることもあり得る。

●つながり再構築のための二つの方向性

つながりの弱まりにより人々の生活に様々な影響が出ていると考えれば、つながりがもたらす効果を十分享受するためには、つながりの再構築が必要になる。そのためには、大きく二つの方向が考えられる。一つはつながりを持つ上での制約をなくすことである。人々は以前ほど深いつながりを求めてはいないものの、つながりを持ちたくても持てない人が少なくないことから、現実のつながりが人々の意識以上に弱くなっていると考えられる。つながりたくてもつながれない理由、つまり、つながりの制約をなくすことができれば、総体としてつながりが強まることが期待できる。

また、もう一つの方向は、家族、地域、職場のそれぞれが、現状に即したつながりを構築するための工夫をすることである。つながりが弱まった背景には、経済社会の変化や生活の質や利便性の向上があるが、こうした時代のすう勢が短期的に変わると考えることは現実的ではない。よって、このような流れの中でも、つながりを強められるような知恵を出す必要があろう。

なお、本白書の分析からはつながりの制約要因として、以下の二つが浮かび上がった。第一は時間的制約である。働く父親の長時間労働、子どもの塾通いや長時間にわたるテレビゲームなどにより、家族の行動が個別化し、家族が交流する時間が持てなくなっている。また時間的拘束が強いサラリーマンほど地域の活動から遠ざかっている。第二は、つながりを持つ機会や具体的に参加したいと思うようなつながりの場が十分に提供されていないことである。地域への貢献意識は高まっているが、活動へ参加するきっかけや情報が得られないことにより、参加をあきらめている人は少なくない。さらにパート・アルバイトでは、職場の人と仕事以外での付き合いを希望しても、それが実現できていない人が多く、職場の人の交流の場が少ないことが影響している可能性がある。

●つながり再構築へ向けた動き

人々が求めるつながりを持てるようにするためには、これまで指摘したようなつながりの制約を取り払うことと、現状に即したつながりを再構築するための工夫をすることが重要である。現実にも、一部においてではあるが、これらつながりの再構築につながる新しい動きが生じている。


<ワーク・ライフ・バランスの取組>

仕事と育児の両立支援のために、企業が育児休業制度や短時間勤務などを導入するなど、ワーク・ライフ・バランスの取組が進んでいる。こうした両立支援制度の導入は、家庭での子育てに費やす時間の確保だけでなく、職場内での仕事の進め方についての見直しや、長い目で見れば、従業員で助け合う雰囲気や、企業や職場への愛着も深まるなど、職場の一体感に対しても好影響を与えると認識されている。また、有給休暇の取得促進などにより、長時間労働による時間的制約を緩和し、家族と触れ合う時間の確保につなげている事例もある。


<魅力ある新しいつながりの形成>

現代の経済社会や生活の姿に合った新たなつながりの形も生まれてきている。例えば、家族については、家族が個室にこもらないように家づくりに工夫を施し、自然な形で家族が触れ合う機会を作ったり、それぞれの家族の事情に応じて、家族のきずなや一体感を高めるための取組を実践している事例がある。地域においては、平日や昼間は参加できないサラリーマンも活動しやすいような工夫をした地域活動が見られる。また、職場では、就業形態にかかわらず学ぶ意欲のある社員に能力開発の機会を提供したり、社員に交流の場を提供することにより、業務の改善やコミュニケーションの活発化を促している企業もある。

また、子育てや介護については、家族だけに任せるのではなく、地域も担い手となるような動きが出てきている。ワーク・ライフ・バランスの取組により、子育てを支援している企業もある。このように、様々なつながりを組み合わせることにより、必要なサービスを満たす動きも出てきている。


<ITの活用>

ITの発達は、時間的・空間的制約を取り払い、新たなつながりを持つ機会を提供することに貢献している。例えば、家族と離れて暮らしていても、携帯電話やメールなどの活用により、多くの情報を共有し、家族としての一体感を持てる。また、地域では、地域版ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの利用により、活動が活発化している例もある。ITの活用により、顔が見えるコミュニケーションの機会が減少し、意思疎通が滞る場合もあるが、基本的には、多様な形でコミュニケーションを促す手段として、その効果的な活用が期待されている。

●つながりを持てるような環境整備が必要

人と人とのつながりは、個々人が主体的に選択し合わなければ、結ばれることはない。最終的に、自分の生活を充実させるために、どのようなつながりを選択するかということは、個人の選択の問題である。

このため、政府が特定のつながりを個人に押しつけることはあってはならない。しかしながら、つながりを持ちたいと希望しつつ持てない人がいることなどを考えれば、政府としては以下のような対応策を講じ、個人が必要とするつながりが持ちやすい環境を整備することが求められる。

第一は、ワーク・ライフ・バランスの一層の推進のための環境整備である。既に、ワーク・ライフ・バランスに向けた取組を始めた企業もあるが、こうした取組が社会全体で共有できるよう、企業の雇用環境に関する施策を整備し、働き方や多様なライフプランに関する意識啓発や情報提供などを推進する必要がある。

第二は、つながりを持ちたいと考えている人に、つながりの場や、新たなつながりの形について情報提供に努めることである。特に、地域活動については、団塊の世代が退職期を迎え、今後、潜在的な参加希望者が大きく増える可能性がある。しかしながら、現時点では、地域活動に参加する希望があっても、一緒に参加する仲間がいないこと、活動内容に係る情報が不足していることなどが壁となり、実際の活動に至らない高齢者が多い。地域活動に携わりたい高齢者の参加が実現するためには、定年を迎える前から、少しずつでも地域などにおいてつながりを築く機会を持つことが重要ではあるが、それとともに、地域においても、高齢者向けの積極的な情報提供や気軽に参加しやすい雰囲気づくりに取り組むことが望まれよう。今後、健康寿命が伸びることを背景に、高齢者は自由に活動できる時間をこれまでにも増して持つことになると予想されるが、参加希望のある高齢者が皆、地域活動に携わることができれば、住民のニーズに合ったより魅力的な地域づくりが可能となるだろう。

第三は、つながりに関する国民の意識啓発である。つながりについては、持って初めてその価値に気付いたという人が少なくない。つまり価値に気付かず、つながりを持つことに対し消極的になっている人がいることが予想される。そこでつながりの価値について認識できるように意識啓発に取り組む必要がある。この観点からは、2006年6月に少子化社会対策会議において決定された「新しい少子化対策について」では、長期的視点に立って、家族・地域の絆を再生する国民運動、社会全体で子どもや生命を大切にする運動を展開する必要性が明記されており、今後の国民運動の展開などが期待される。

●つながりにより豊かな国民生活を創り出す

国民一人一人が魅力的なつながりを持てる社会では、人々はつながりから安心のできる快適な生活を送ることが可能となる。家族との触れ合いにより、人々は心のやすらぎを得ることができるし、地域でも人々との付き合いや活動により住民のニーズに細やかに対応したサービスが提供され、人々は安全・安心を享受できよう。また望む付き合いやコミュニケーションが職場で実現すれば、人々はより活力を持ちつつ働くことができるだろう。

そして、子どもを持つことを希望する人が、安心して子どもを生み、育てることができる社会には、家族が協力して子どもを育み、その家族を地域が支える環境が備わっていることが重要である。そのような環境は、人と人とのつながりなくしては醸成できない。つまり、一人一人が魅力的なつながりを持つことは、少子化の流れを変え、次世代を背負って立つ子どもや若者が健全に育成されることにもつながっていくだろう。

経済・社会環境の変化や人々の意識の変化などにより、家族、地域、職場のつながりは弱まっており、人々さらに社会はつながりに期待する価値を十分には得られていないと考えられる。しかし、人々が望むつながりを持てる環境を創り、またつながりの重要性を共有することによって、つながりの希薄化の流れを変えることができると考えられ、実際にそのような動きも始まっている。

今後は、このような、つながりの希薄化の流れを止め、つながりを再構築する動きを社会全体に広げることで、人々が魅力的なつながりを持つことができるようになれば、個人が魅力ある豊かな生活、さらには人生を享受できるのみならず、活力と優しさに満ちあふれた社会の創造につながることが期待できよう。

 
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