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全文 > 第3章 職場のつながり >第2節 職場のつながりの変化をもたらした背景(1/2)

第2節

職場のつながりの変化をもたらした背景

第1節では、職場における「人と人のつながり」および「職場と人のつながり」の双方について、希薄化する傾向を見てきた。

このような職場におけるつながりの希薄化は、企業を取り巻く経済・社会環境が変化する中で、企業の雇用や人材育成などにかかわる経営方針の変化、働く人自身の仕事に対する意識の変化といった要因が相互に関連しあって生じたものと考えられる。本節では、希薄化の背景を、経済・社会環境、職場たる企業そして職場で働く個人という三つの側面から見ていくこととする。


1.企業を取り巻く経済・社会環境の変化

「職場と人のつながり」の希薄化には、企業を取り巻く経済・社会環境の変化に適応しようと、企業が経営や雇用に関する方針を見直してきたことなどが影響していると考えられる。特に、1990年代には、長期間続いた経済の低迷、および企業活動のグローバル化や規制緩和に伴う競争激化を背景として、企業において従来以上にコスト意識が高まったことから、後述するようにそれまでの日本的雇用慣行の見直しを迫られたと考えられる。そこでまず、その時代背景を見てみよう。

●90年代の長期経済低迷と失業の深刻化

日本経済は、90年代初めのバブル経済の崩壊以降、長期的な経済の低迷が続き、98年には24年振りのマイナス成長を記録した。

このような厳しい経済環境により、それまで「右肩上がりの成長」を前提に設備投資や雇用を行ってきた企業は、バブルの後遺症とあいまって、三つの過剰(過剰雇用、過剰設備、過剰債務)を抱えることとなった。これを雇用人員や生産・営業用設備の過剰感の推移から見ると、90年代に入って過剰感が急激に高まり、その後、2000年代初頭まで高水準で推移したことが分かる(第3-2-1図)。

 

第3-2-1図 90年代を通じ、企業の雇用や設備に対する過剰感が高まる

そして、このような企業の雇用人員の過剰感は、企業に対する雇用調整圧力を強め、新規採用の抑制やリストラが行われる一因となったと思われる。

●経済のグローバル化や規制緩和などによる競争激化

長期経済低迷が続く一方で、経済のグローバル化、規制緩和などが進展した。

グローバル化が進展し、資本や労働力の国境を越えた移動が活発化する中で、我が国の企業間の競争は激しさを増したと考えられる。特に、近年は中国やインドなど、アジア各国の経済成長が著しいこともあり、日本企業は欧米企業のみならず、アジア企業とも互角に競争していくことを迫られるようになった。その結果、企業のコスト意識が高まっていったと考えられる。

また、これとともに、90年代以降は電気通信、小売、金融、運輸などの幅広い分野で価格規制や新規参入規制の緩和・撤廃が進められた。規制緩和は、市場での競争を促進し、新たなビジネスチャンスを生み出す原動力となるが、一方では企業にとってはコストの引下げの圧力ともなる。

このように、経済のグローバル化や規制緩和の中で、企業間の競争環境が激しさを増した結果、企業はコストを意識しつつ、雇用の在り方などについても見直す必要に迫られたと考えられる。


2.企業側の雇用方針、人材育成方針の変化

(1)相互依存型の雇用関係からの脱却

●雇用関係はよりビジネスライクに

これまで述べたような経済・社会環境の変化により、厳しさを増したビジネス環境に対応していくために、日本の企業は、企業と従業員の関係、すなわち「職場と人のつながり」に関する考え方の見直しを進めることになった。

従来、我が国の企業と従業員との関係は、長期的雇用関係を前提とした「企業と従業員の相互依存」というものであった。企業は従業員の生活や雇用、キャリア形成について大きな権限や責任を持つとともに、その生活を支援する。一方、従業員は企業に帰属し、高い忠誠心を持つとともに、仕事を通じて最大限に貢献するといった形で双方にメリットがもたらされていた。しかし、ともすれば、過度の依存を招くこともあった29

しかし、バブル経済の崩壊後、経営の効率化を進める中で、米国に比べて低いと言われていたホワイトカラーの生産性をいかに高めるかが日本企業の課題として認識されるようになった30。また、雇用関係においては、企業と従業員は対等のビジネスパートナーとして、労働市場を介して「企業が提供する仕事」と「個人が有する能力、価値」をやりとりする、とのイメージが提示されるようになった31

以上を勘案すると、企業側が求める「職場と人のつながり」は、従前の相互依存を基調とした関係から、より個人を前提としたビジネスライクな関係、より従業員の自律を求める関係へと変化したと考えることができる。

(2)日本的雇用慣行の変化

企業側が求める「職場と人のつながり」の在り方が変化したことから、強固な「職場と人のつながり」、職場における「人と人のつながり」を特徴としてきた日本的雇用慣行にも変化が見られるようになった。以下では、日本的雇用慣行の特徴とされる終身雇用制と年功的賃金制について見ていくこととする。

●終身雇用に対する意識には変化の兆し

まず、新卒で採用された従業員が原則定年まで一つの企業で勤務するという終身雇用制について見てみよう。第1節で述べたように、男性の平均勤続年数は、企業内で従業員の年齢構成が高齢層に移行したことなどにより、長期化しているものの、50代前半以下の年齢層では短期化する傾向にある(前掲第3-1-18表)。

企業の人事担当者に、今後の終身雇用制に対する考え方を尋ねたところ、「原則、これからも終身雇用を維持していく」が37.4%であるのに対し、「基本的な見直しが必要である」が15.8%、「部分的な修正はやむを得ない」が41.4%を占め、5割以上の企業が終身雇用制について何らかの見直しをする方針を有している32

もっとも、正社員の雇用期間について尋ねてみると、「原則として定年まで雇用する」と答えた割合は現状では88.5%と、終身雇用制を維持している企業の割合が依然として高い。しかし、今後については75.7%と、現状に比べ10%ポイント以上低下している(第3-2-2図)。さらに、「中高年齢者には、出向・転籍もすすめる」とする割合は、現状が7.3%であるのに対し、今後については16.1%と倍以上になることから、企業が今後終身雇用制について見直しを考えていることがうかがえる。

 

第3-2-2図 今後も正社員を「定年まで雇用する」企業は4分の3

今後の正社員の雇用期間について、企業規模別に見ると、「原則として定年まで雇用する」と回答する割合は、従業員数299人以下の企業が79.9%であるのに対し、1,000人以上の大企業では65.0%にとどまるなど、企業規模が大きくなるほど低下する傾向にある(第3-2-3図)。また、大企業では「独立や転職が多いことを前提に管理を行う」と回答したところも1割程度ある。

 

第3-2-3図 大企業では「出向・転籍をすすめる」割合が高くなる

かつては、人生の成功のモデルとして「いい大学に入って、いい会社に入る」、すなわち大企業に就職すれば雇用と相対的な高収入が保障され、安定した人生を送ることができるという見方があった。しかし、最近では大企業の方がむしろ終身雇用制の見直しを検討しており、このような図式は今後はより成り立ちにくくなると考えられる。

●大企業を中心に成果主義の導入が進む

次に、もう一つの日本的雇用慣行の特徴である、勤続年数の長さに応じて賃金が上昇する年功的賃金制について見てみよう。

大学・大学院卒の男性の年齢層別賃金プロファイルを見ると、以前よりも賃金カーブの傾斜が緩やかになっている(第3-2-4図)。過去20年の賃金カーブを比較すると、90年代以降は長期的な経済の低迷を背景に全般的に賃金が抑制される中、特に40代から50代にかけての賃金水準が抑制され、カーブの山が緩やかになっている。この結果、2005年では、40代後半から50代においては山がほとんど見られなくなった。企業は、就職から管理職となる40代半ばまでは勤続年数をある程度賃金に反映させる方向を維持しつつ、40代後半以降は年功的な要素を抑える傾向を強めているものと思われる。

 

第3-2-4図 賃金カーブは緩やかになっている

また、賃金制度に係る変化として、90年代半ば頃より、個人の業績を賃金に反映させる、いわゆる「成果主義」の導入が進展している。個人の業績を賃金に反映させている企業の割合を見ると、管理職で48.2%、管理職以外で50.5%とともに半数を占める33。企業規模別に見ると、管理職、管理職以外ともに、常用労働者数99人以下の企業でも4割程度を占めるが、1,000人以上の企業では約8割に達し、大企業を中心に導入が進んでいることが分かる(第3-2-5図)。

 

第3-2-5図 大企業では8割が成果主義的賃金制度を導入している

年功的賃金制は、その企業で働く年月が長いほど、賃金面でも報われることから、従業員を企業に定着させるインセンティブになっていたと考えられる。しかしながら、成果主義の浸透などにより年功的要素が弱まっており、賃金を介した職場と人のつながりは薄まっていると考えられる。

(3)雇用の非正規化の進展

●90年代後半以降、パート・アルバイトへの移行が加速

先に日本的雇用慣行の変化を見てきたが、そもそもこの慣行が適用されない、パート・アルバイトといった就業形態が増加している。

90年代の経済低迷に伴い、企業収益が悪化する中、一般的に正社員と比べて人件費を抑えることができ、雇用調整もしやすいパート・アルバイトを増やす動きが進んだ。このことは、企業にとって日本的雇用慣行を全従業員に適用することが重荷になってきていることの現れとも考えられる。

正社員とパート・アルバイトについて対前年増減数を見ると、90年代後半から正社員数が大きく減少している中、パート・アルバイトは増加しており(第3-2-6図)、パート・アルバイト数は95年の1,001万人から2006年には1,677万人に達している34。特に、若年層(15〜34歳)では、雇用者の31.4%をパート・アルバイトが占めており、企業側は正社員の新規採用を抑制し、これをパート・アルバイトに置き換えたことがうかがえる(第3-2-7図)。

 

第3-2-6図 90年代後半に雇用の非正規化が進展

 

第3-2-7図 若年層で増えるパート・アルバイト

パート・アルバイトは、一時雇用・短期雇用を前提としているため、正社員に比べて、「職場と人のつながり」は弱くなりがちである。また、第1節で見たように、パート・アルバイトは正社員に比べ、職場における「人と人のつながり」が希薄な傾向にある。したがって、雇用者に占めるパート・アルバイトの比率の上昇は、全体としての職場のつながりを希薄化させると考えられる。

●パート・アルバイトの能力開発には、消極的な企業

ここでは、パート・アルバイトの「職場と人のつながり」の弱さを、企業の能力開発の実施状況の観点から見てみよう。

第1節で、企業が90年代において職業教育訓練を縮小させる傾向にあることを見てきたが、企業の従業員に対する職業能力開発の実施状況は正社員とパート・アルバイトでは異なる。就業形態別に職業能力開発の実施状況について聞いたところ、正社員については、「計画的なOJT」を実施している事業所の割合は52.2%、「OFF-JT」では63.1%となっている(第3-2-8図)。一方、パート・アルバイトでは、計画的なOJT、OFF-JTともに実施している事業所の割合は2割程度にとどまっている。

 

第3-2-8図 パート・アルバイトの能力開発の機会は限られている

このような違いは、どのような背景によって生じているのだろうか。従業員数100人以上の企業に、能力開発の重視度、企業の関与度、対象者の絞り込みの有無を尋ねてみると、正社員の場合、重視度については「能力開発を重視する」と回答した割合が93.4%と大部分を占める(第3-2-9図)。そして、企業の関与度では「会社は積極的に従業員の能力開発に関わる」が62.1%、「会社の行う能力開発は最小限とし、従業員個人の自主的な能力開発に任せる」が34.1%となっており、約6割の企業が積極的に関与していきたいと考えている。

 

第3-2-9図 企業は能力開発の対象者を絞り込んでいる

他方、パート・アルバイトの能力開発については、重視度、関与度のいずれについても正社員を大きく下回っている。これに加えて、関与度では「会社は能力開発を行わず、従業員個人の自主的な能力開発に任せる」とする割合が36.1%、対象者の絞り込みでは「対象としていない」が37.3%となっており、能力開発の機会がそもそも限定されていることが見て取れる。

 


29  社団法人日本経済団体連合会「エンプロイヤビリティの確立をめざして−『従業員自律・企業支援型』の人材育成を−」(99年)。
30  社団法人日本経済団体連合会「新時代の『日本的経営』−挑戦すべき方向とその具体策−」(95年)、社団法人経済同友会「第14回企業白書」(99年)
31  社団法人経済同友会「第14回企業白書」(99年)。
32  独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の人事戦略と労働者の就業意識に関する調査」(2003年)による。無回答は除いて集計している。
33  厚生労働省「就労条件総合調査」(2004年)による。
34  総務省「労働力調査特別調査」(95年)、「労働力調査(詳細結果)」(2006年)による。

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