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全文 > 第2章 地域のつながり > 第1節 地域のつながりの変化と現状(1/5)
第2章 地域のつながり

人は、自分や家族だけでは充足できないことや達成できないことについて、近隣に住む人との助け合いによって満たしてきた。同じ集落に住む人々が協力して田畑を耕し、水を利用し、収穫するといったことは、かつて我が国の中心産業であった農業を行う上では欠かせないことであった。また、冠婚葬祭の手伝いや急病人が出たときの世話など「万が一のとき」だけでなく、日用品の貸し借りや届け物を預かったりお裾分けしたりなどといった「日常のとき」も含めた隣近所との協力関係は、農村部だけでなく我が国の至る所で目にされた光景である。さらに、地域の人との協力関係は、仕事や生活の様々な面に及んでいたことから、個人が自ら主体的に選択できる余地の少ない「全面的つながり」の関係に置かれることが通常であった。

ところが、経済・社会環境や人々の意識の変化に伴い、かつての全面的なつながりに大きな変化が生じ、地域のつながりが希薄化したと言われている。その一方で近年では、地域における特定の目的や課題に対応したボランティアや市民活動が新たなつながりとして増加傾向にある。さらに、少子高齢化の進展や地域の教育力の低下への対応として、地域が果たす役割への期待が大きくなっており、地域のつながりの重要性がますます高まっている。

そこで本章では、「地域のつながり」を「ある場所に居住し生活することで生まれるつながり」、「地域の地縁組織に参加することによって生まれるつながり」、「特定の目的を果たすため設立された組織に参加することによって生まれるつながり」の三つに区分し、それぞれのつながりがどのように変化してきたかを明らかにした上で、変化の背景とその影響を検証するとともに、今日抱えている問題を解消したり、期待されている役割を実現したりしている新しい地域の取組について、見ていくこととする。

第1節

地域のつながりの変化と現状

1.地域のつながりの現状

●地域のつながりが生まれるきっかけ

地域におけるつながりは様々なきっかけから生まれ得る。隣近所の人と顔を合わせるうちに仲良くなり、いつしか悩みを話す関係が築かれることもあるし、ボランティア活動を通じて知り合い、協力して地域の課題を解決することで価値観を共有することもある。これら地域のつながりは一つ一つ異なり同じものはない。しかしながら本白書では地域のつながりを、そのきっかけに着目して以下の三つに整理したい。

第一は、ある場所に居住し生活することで生まれるつながりである。人々は居住し生活する中で、顔を合わせる機会が多い近隣の住民と親しくなり、その結果として何らかのつながりが、いわば自然発生的に生まれることが一般的である。このようなつながりの特徴について、その範囲と選択可能性に着目して示すと、つながりの範囲は、住んでいる場所にも大きく左右されるが、「向こう三軒両隣」という言葉に示される範囲が一つの目安となろう。また選択可能性については、近隣の住民を選択することはできないが、近隣の住民とのつながりの程度は、つながりを結ばないことも含めて選択が可能である。

第二は、地域の地縁組織に参加することによって生まれるつながりであり、典型的な地縁組織として町内会・自治会がある。つながりの範囲は、地縁組織の圏域によって規定されるが、町または字の区域や小学校区単位であることが多い。また選択可能性については、加入資格が圏域内に居住する住民に限定されていることが一般的であることから、通常は参加する町内会・自治会を選ぶことはできない。さらに加入についても、しばしば義務化されているため、選択可能性が低い。しかし、実際に活動をどの程度行うかについては、多くの場合、本人の自主性に任されている。

第三は、特定の目的を果たすために設立された組織に参加することによって生まれるつながりであり、ボランティア団体やNPOなどがその典型的な組織と言える。つながりの範囲はその目的によって多様であり、一部の地域に限定されるものもあれば、全国的に広がる広域的なものもある。また選択可能性については、参加する組織、参加の程度ともに自らの選択に委ねられている。

地域のつながりは様々な切り口から分類が可能であるが、本白書では、地域のつながりを以上で示した三つの区分で整理し、便宜上、それぞれ、「近隣関係によるつながり」、「エリア型地域活動によるつながり」、「テーマ型地域活動によるつながり」と呼ぶ。そしてここからは三つの区分に沿って、地域のつながりの現状について見ていきたい。

●近隣関係によるつながりは総じて浅い

まず近隣関係によるつながりの現状である。近隣関係によるつながりについては、[1]近隣の住民と行き来する頻度(近隣関係の頻度)、[2]近隣の住民との関係の深さ(近隣関係の深度)によって測ることが可能である。そこでまずは近隣関係の頻度の現状を把握するため、隣近所に住む人々との行き来について尋ねた結果を見ると、「よく行き来している」が10.4%、「ある程度行き来している」が30.5%と、合わせて4割を超える人がある程度以上の頻度で近隣と行き来している(第2-1-1図)。

 

第2-1-1図 近隣住民と行き来が多い人、ほとんどない人は同程度

しかしその一方で、「ほとんど行き来していない」が31.9%、「あてはまる人がいない」も7.9%と、近隣との行き来がほとんどない人あるいはない人も4割弱いる。このように近隣関係の頻度については、近隣住民との行き来が多い人も、行き来がほとんどない人も、それぞれ同程度いることが分かる。

しかし近隣住民との行き来が多い人が、必ずしも深い近隣関係を築いているわけではない。近隣関係の深さを把握するため、近隣関係を浅いものから順に、「挨拶程度」、「日常的に立ち話する」、「生活面で協力し合う」との三段階に分けて、このような関係を持つ人が近隣に何人いるか尋ねた。その結果、挨拶程度といった最低限の付き合いさえ誰ともしない人は13.1%に過ぎない。しかし、近隣関係が深くなるほど、そのような相手がいない人が増え、生活面で協力し合うような相手を持たない人は65.7%と、3人に2人は深い近隣関係を持っていない(第2-1-2図)。

 

第2-1-2図 近所に生活面で協力し合う人がいない人が多い

なお近隣関係の頻度が高い人は、生活面で協力し合う人が多いとの傾向は見られるものの、近隣住民と「よく行き来している」人の24.7%、「ある程度行き来している」人の43.8%が生活面で協力し合う人がいない(第2-1-3図)。つまり、近隣住民との行き来が少ない人も多い中、行き来が多い人でも、深い付き合いにまでは至っていない場合が多く、このような観点から、近隣関係によるつながりは総じて浅いと言うことができよう。

 

第2-1-3図 隣近所と行き来の多い人は、生活面で助け合う人も多い

●結婚している人、子どもがいる人は、近隣関係が深い

ここまで近隣関係によるつながりの現状を見てきたが、近隣関係の頻度や深さは、個人の特性や居住に関する特性などによって一定の傾向を示すことが想定される。そこでどのような人が、[1]近隣との行き来が多いか16、[2]近隣と深い付き合いをしているか17について統計的に分析した(第2-1-4表)。

 

第2-1-4表 子どもの有無や住宅形態は近隣関係に影響を与える

[1]近隣関係の行き来をする確率

近隣関係の行き来をする確率が高くなる要素

・年齢が高いこと

・子どもがいること

・既婚・有配偶者であること

・居住年数5年以上であること

・農山漁村地域に住んでいること

・社会のために役立ちたいと思っていること

近隣関係の行き来をする確率が低くなる要素

・大学・大学院卒であること

・サラリーマンであること

・持ち家・集合住宅であること

・借家・集合住宅であること

・給与住宅などその他の住宅に住んでいること

[2]近隣と深い付き合いをする確率

近隣深い付き合いをする確率が高くなる要素

・子どもがいること

・既婚・有配偶者であること

・居住年数5年以上であること

・商業地域などが立ち並ぶにぎやかな地域に住んでいること

・農山漁村地域に住んでいること

・社会のために役立ちたいと思っていること

近隣深い付き合いをする確率が低くなる要素

・大学・大学院卒であること

・サラリーマンであること

・借家・集合住宅であること

・給与住宅などその他の住宅に住んでいること

(備考)
1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007年)により作成。
2. 近隣関係の行き来の有無および近隣の助け合う人の有無と個人の属性や居住地域との関係を、統計モデル(プロビット・モデル)により推定し、10%水準に有意な結果が得られた変数を示すもの。
3. 詳しくは、付注2-1-1参照。

 

分析結果から判断すると、まず、結婚している人、子どもがいる人は、それぞれ近隣住民との行き来が多いとともに、近隣と深い付き合いをする傾向にあると言える。これは配偶者や子どもといった家族を通じて、近隣関係が生まれ、深化する可能性を示唆している。またサラリーマンは無業者と比べて、近隣住民との行き来が少なく、近隣関係も浅い傾向にあるが、これは居住地域から離れる時間が長いサラリーマンは近隣関係を持ちにくいとの一般的な認識と整合的である。さらに、年齢が高まるほど近隣住民との行き来が多くなるとの関係も見られる。

また居住に関する特性も近隣関係に影響を与えている。5年以上居住している人、農山漁村地域に住む人については、近隣住民との行き来が多く、近隣と深い付き合いをする傾向が見られる。

一方、賃貸集合住宅に住んでいる人は、持ち家一戸建てに住んでいる人と比べて、近隣住民との行き来が少なく、近隣関係も浅いと言える。そしてこれらの結果は、長く住むほど近隣関係が構築される、農山漁村地域の近隣関係は強い、賃貸集合住宅における近隣関係は弱いといった、一般的な認識とも矛盾がない。

●エリア型地域活動とテーマ型地域活動によるつながりを持つ人は少ない

次にエリア型地域活動によるつながりの現状である。エリア型地域活動の「場」となる地縁組織には様々な形態があるが、町内会・自治会はその典型であろう。まず町内会・自治会でどのような活動が行われているか見ると、区域の環境美化や住民相互の連絡、防災活動・地域の安全確保など多岐にわたっている(第2-1-5図)。

 

第2-1-5図 町内会・自治会の活動は多岐にわたっている

ここで町内会・自治会への参加の頻度から、エリア型地域活動によるつながりの程度を見ると、町内会・自治会の活動に「参加していない」が51.5%と半数を占めている(第2-1-6図)。また、「月に1日程度」以上の参加も12.7%にとどまっており、エリア型地域活動によるつながりを持つ人は少ないと言うことができる。

 

第2-1-6図 町内会・自治会への参加は年数回程度以下が大半

続いてテーマ型地域活動によるつながりの現状である。テーマ型地域活動としては、ボランティア・NPO・市民活動やスポーツ・趣味・娯楽活動などが考えられる。そしてその活動分野を、NPOを例に取って見ると、「保健、医療又は福祉の増進を図る活動」、「子どもの健全育成を図る活動」、「環境の保全を図る活動」など、エリア型地域活動と同様、多岐にわたっている(第2-1-7図)。

 

第2-1-7図 多様なNPOの活動分野

ただし、エリア型地域活動は一つの組織で様々な活動を行う一方で、テーマ型地域活動は一つの組織で行う活動分野は絞られているとの違いがある。ここでテーマ型地域活動を、NPOなどのボランティア・市民活動に絞り、その参加頻度を尋ねた結果を見ると、「参加していない」が81.3%と大半を占めている(第2-1-8図)。そして「月に1日程度」以上の頻度で参加している人の割合は7.2%に過ぎず、エリア型地域活動と比べても、このようなつながりを持つ人が更に少ないことが分かる。

 

第2-1-8図 NPOなどのボランティア・市民活動への参加の頻度は更に少ない

●近隣関係を持つ人と地域活動に参加する人の特性はおおむね一致

エリア型地域活動やテーマ型地域活動によるつながりは、近隣関係のように地域で生活することで半ば自然発生的に生まれ得るものではなく、参加することがつながりの第一歩となる。よって地域活動によるつながりを持つ人の特性は、近隣と深いつながりを持つ人の特性と異なる可能性がある。そこでどのような特性を持つ人が、地域活動に参加する傾向にあるのか、別途統計的に検証した。

分析結果を見ると、結婚している、子どもがいる、年齢が高い、有業者でない、農山漁村地域に居住する、持ち家一戸建てに居住するといった特性を持つ人が、いずれかの地域活動に参加する傾向にあることが分かる(第2-1-9表)。つまり近隣関係を持つ傾向にある人の特性と、地域活動に参加する傾向にある人の特性の多くが一致している。また、5年以上居住している人がそれ未満の居住年数の人と比べてより地域活動に参加する傾向にあり、地域活動への参加には一定の居住期間が関係していることが分かる。

 

第2-1-9表 地域活動への不参加には、就業の有無や住宅形態といった要因が影響する

地域活動への不参加確率が高くなる要素

・有業者(サラリーマン、自営業者)であること

・集合住宅に住んでいること

・借家・一戸建てに住んでいること

・給与住宅などその他の住宅に住んでいること

地域活動への不参加確率が低くなる要素

・年齢が高いこと

・子どもがいること

・既婚・有配偶者であること

・居住年数5年以上であること

・農山漁村地域に住んでいること

・社会のために役立ちたいと思っていること

(備考)
1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007年)により作成。
2. 地域活動への参加有無と個人の属性や居住地域との関係を、統計モデル(プロビット・モデル)により推定し、10%水準に有意な結果が得られた変数を示すもの。
3. 詳しくは、付注2-1-1参照。

 


16  隣近所の人と「よく行き来している」人または「ある程度行き来している」人を近隣との行き来が多い人とした。
17  ご近所に、「互いに相談したり日用品の貸し借りをするなど、生活面で協力しあっている人」が少なくとも1人以上いる人を深い付き合いをしている人とした。

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