目次 | 前の項目に戻る | 次の項目へ進む
全文 > 第1章 家族のつながり > 第2節 家族のつながりの変化による影響

第2節

家族のつながりの変化による影響

家族に期待される役割は時代とともに変化しているが、人々にとって大切な存在であることには変わりがない。しかし前節で見たように、家族がそれぞれ個別に行動する時間が多くなった、家族が離れて暮らすことが多くなったなど、家族のつながりの弱まりを示す動きが見られる。そしてその結果、家族は期待される役割を発揮できなくなる可能性が懸念されている。そこで本節では、家族のつながりの変化が、家族がこれまで果たしてきた役割にどのような影響をもたらしているのか検討していくこととする。


1.精神的やすらぎへの影響

●家族を大切と思う人は増加している

人は家族に様々な役割を求めているが、第1節で指摘したように、その中でも、やすらぎを得る、愛情を感じるなど、家族から精神的なやすらぎや充足感を得ようとしている。先に、近年、心の豊かさがより重視されるようなった点を見たが、このような中で精神的な豊かさをもたらすことが期待される家族の存在が、人々にとってより重要な存在になっていると考えられる。

「あなたにとって一番大切なものは何か」との質問に対し、「家族」を挙げる人の割合は1958年には約1割に過ぎなかったが、70年代以降は一貫して高まり続け、2003年には約5割となっている(第1-2-1図)。前節では家族のつながりの弱まりを幾つかの指標から見てきたが、家族を何よりも大切と思う人は、逆に大きく増えていることがこの結果から見て取れる。

 

第1-2-1図 家族が一番大切と思う人は増加している

●家族のつながりが十分でないと精神的やすらぎが得られない

先に、家族とのつながりがある人ほど精神的なやすらぎを得られることを統計的に確認したが、以下では改めてその関係を見てみよう。なお、家族は様々な行動を通じてお互いのつながりが生まれているが、中でも人と人との最も基本的かつ重要なコミュニケーションの手段の一つである会話は、家族のつながりの強さを示す一つの尺度になると考えられる。そこで、「家族との会話頻度」と「精神的なやすらぎ」について、その関係を明らかにしていきたい。

まず「家族との会話が十分取れている」と回答した人について見ると、80.7%が精神的なやすらぎを感じている一方、やすらぎをほとんど感じていない人の割合は2.9%に過ぎない(第1-2-2図)。そして、家族との会話の頻度が落ちるほど、やすらぎを感じる人の割合が低下する傾向が見られ、家族との会話がほとんど取れていないと回答した人で見ると、やすらぎを感じる人の割合は43.3%に低下する一方で、ほとんどやすらぎを感じていない人の割合は18.7%に高まっている。もちろん、家族との会話がほとんどできていないと回答しながら精神的なやすらぎを得ている人もいることから、他の要素も精神的なやすらぎに影響すると考えられるが、以上の関係を見る限り、家族とどれだけ会話するかが、精神的なやすらぎを得るためには重要であることをうかがい知ることができる。

 

第1-2-2図 家族とのつながりがある人ほど精神的やすらぎが得られる

●親子の会話の充足度が低下している

精神的やすらぎを得るためには、家族との会話が重要であることを見たが、家族行動の個別化が進むことで、人々は家族と十分に会話ができなくなっている可能性がある。そこで、国民生活選好度調査から、「親子の間に対話があり互いに相手を信頼しているかどうか」について、どの程度重要と感じているか(重要度)と、現在どれだけ満たされているか(充足度)を見ていこう。

まず重要度得点8については、78年から2005年にかけて高水準で推移している一方で、充足度得点9は84年をピークに低下が続き、2005年には最も低い水準となっている(第1-2-3図)。つまり、親子の対話は、過去30年程度において、一貫して重要であると認識されているものの、近年になるほど、人々は親子で対話が十分できていないと感じていることが見て取れる。

 

第1-2-3図 親子の対話の重要度と充足度には乖離が見られる

このように、総じて見ると、人々は家族と十分に会話しているとの意識を持てなくなってきているが、このような家族との会話の充足度の低下により、精神的やすらぎを得られにくくしていることが近年の生活満足度の低下をもたらしている要因の一つとなっているとも考えられる。


2.家庭における教育力の低下

第1節の冒頭で示したように、家族には「子どもを生み育てる」役割も求められている。家庭における教育は、子どもが社会に適応し生きていく能力や知恵を身に付けさせる教育の原点である。基本的な生活習慣や感性などの基礎は家族の中で培われるものであり、親が子どもに対して、愛情を持ってしっかりとしつけをすることが重要である。しかし、これまで見たような家族のつながりの変化が、こうした役割を弱めている可能性がある。そこで、以下ではその影響について見ていくこととする。

●子どもに対してしつけがあまりできていない

家庭における教育力は落ちているのだろうか。「昔と比べて親は自分の子どもに対して、しつけがきちんとできているか」との質問に対して、「どちらかと言えばできていない」と「全くできていない」と回答した人を合わせた割合は52.6%となり、半数以上が「できていない」と感じていることが分かった(第1-2-4図)。

 

第1-2-4図 昔と比べて親は自分の子どもに対してしつけがあまりできていない

さらに、「どちらかと言えばできていない」と「全くできていない」と回答した人に対して、その理由を尋ねたところ、「親自身が基本的な生活習慣が身に付いていない」、「親の責任感や心構えが弱い」と回答した人がそれぞれ約6割と親自身のことを理由に挙げる割合が高い(第1-2-5図)。しかし、これに次いで、「祖父母世代から父母世代へ知恵が伝承されていない」、「家族が一緒に過ごす時間が少ない」、「親の仕事が忙しすぎる」などを挙げている人もそれぞれ約3割前後に上っている。

 

第1-2-5図 家族のつながりの変化が家庭における教育力を低下させている可能性がある

第1節では、親の仕事が忙しい、子どもは塾に忙しくまた家でも家族と触れ合わないなどの理由から、家族が個別に行動する傾向にある点を指摘したが、上記の結果から、このような家族のつながりの変化が、家庭における教育力を低下させていることが示唆される。

●多くの子どもに「孤食」が見受けられる

次に、家族との食事について見てみよう。家族の食卓は、家族のきずなを深める団らんの場であると同時に、子どもが規則的でバランスの良い食事をとる習慣や、食べる姿勢、食事のマナーなど、基礎的な食習慣を身に付けたり、社会性などを学習する重要な場と言えよう。

しかし、家族行動の個別化などにより、家族が一緒に食卓を囲む機会は減少している。家族そろって夕食をとる頻度を見ると、毎日一緒にとる割合は1976年の36.5%から低下傾向にあり、2004年には25.9%となっている。一方、週3日以下10の割合は上昇しており、2004年には53.9%と半数以上を占めている(第1-2-6図)。

 

第1-2-6図 家族そろって夕食をとる頻度は減少している

また、朝食についても、小学生の5割、中学生では7割が親と一緒にとっていない。さらに、「自分ひとりで」朝食をとっている割合は、小学生は2割、中学生の4割にも達しており、子どもが一人で食事をするいわゆる「孤食」も見受けられる(第1-2-7図)。

 

第1-2-7図 親と一緒に朝食をとっている子どもは半数以下

このように、食を通じた家族のコミュニケーションの機会の減少は、子どもの健康的な心身を育み、豊かな人格を形成する場としての家族機能が低下していることを意味している。

●親子の会話と子どもの知的好奇心は関係性が深い

親子の会話に対する充足度が低下している。また、家族で一緒に食事をする機会が減少しているなど、親と子どものコミュニケーションが以前に比べて取りづらい環境になっていることを見てきた。では、このような環境の下、親子のコミュニケーションが不足した場合、子どもはどのような影響を受けるのだろうか。

以下では、親と子どもとの会話量と子どもの学習の取り組み方との関係を見ることで、そのような影響について検討しよう。

ある民間企業のアンケートでは、小学校高学年を対象に、親との会話量と学習への取り組み方について尋ねている。そこで、親との会話量が多いか少ないかによって、学習への取り組み方がどのように変化するかを見よう。アンケートでは、学習への取り組み方を把握するために、「わからないことがあれば知りたいと思うか」と尋ねているが、親との会話が多いと回答した小学生の71.3%が「知りたいと思う」と回答している。一方で、親との会話が少ない小学生では52.6%がそのような回答をしているに過ぎず、親との会話が多い小学生に比べて18.7%ポイント低い結果となっている。

また「テストで間違えた問題をやり直す」、「親に言われなくても自分から勉強する」との問に対して、それぞれ「やり直す」、「勉強する」と回答した小学生の割合は、会話の多い小学生の方が、会話の少ない小学生より高くなっている(第1-2-8図)。

 

第1-2-8図 親との会話が多いほど知的好奇心が育まれる

一方、「勉強しようという気持ちがわかない」については、会話が多い小学生の28.4%が「わかない」と回答しているのに対し、会話が少ない小学生では44.4%と割合が高い。

このような結果は、親と子どもの会話の量によって子どもの学習の取り組み方に差が出ることを示唆するものと言える。

●親とのコミュニケーションが大人になってからの行動に影響

さらに、別の調査で、子ども時代の親とのコミュニケーションの体験と成人後の仕事に関する能力の関係を見てみよう。

子ども時代に「親と将来のことについて話すこと」、「家事の手伝いをすること」など、親とのコミュニケーションをよく体験した人ほど、成人になってから「自分の考えを分かりやすく説明すること」、「自分の感情を上手にコントロールすること」、「自分から率先して行動すること」といった仕事に関する能力について、それぞれ「できている」と回答する人11が「できていない」と回答する人よりも割合が高くなっている(第1-2-9図)。

 

第1-2-9図 親とのコミュニケーションが大人になってからの行動に影響する

このように、子ども時代において親と豊富な会話を持つことや一緒に体験することを通じてのコミュニケーションは、子どもの知的好奇心を育むだけでなく、大人になってからの行動にも少なからず影響があることを示唆しており、その大切さを裏付けしているものと言えよう。


3.子育て負担の偏り

前節で、家族行動の個別化により、特に父親が家にいない、あるいは、親世代と子ども世代が別居するなどにより、家族のつながりが弱まっている点を指摘してきたが、このような家族のつながりの弱まりからは、子育て負担が母親に集中しがちになり、ひいては家族の子育て機能を阻害している可能性がある。以下では家族のつながりの弱まりが子育て機能に与えた影響を見ていこう。

●母親に子育て負担は集中している

まず、実際にどの程度、母親に子育てが集中しているのか、その現状を見てみよう。

子育てにおける母親と父親の分担の割合について、実態を母親に尋ねた結果を見ると、「妻8:夫2」と回答した人の割合が29.3%と最も高く、続いて「妻9:夫1」(29.1%)、「妻7:夫3」(21.3%)となっているなど、子育てが女性に偏っていることが分かる(第1-2-10図)。

 

第1-2-10図 子育て負担は母親に偏っている

しかし、母親に対して本来期待している子育ての役割分担について尋ねたところ、「妻6:夫4」と回答する人の割合が40.0%、次いで「妻7:夫3」(32.0%)、「妻5:夫5」(17.3%)と実態とは異なる結果となった。

こうしたことから、母親は子育てについて、父親により多くの役割分担を期待しているものの、現実は母親に負担が偏っていることが見て取れる。

●夫の家事・育児分担は妻の出産意欲に関係する

このように子育てについては、母親に負担が集中しているが、この結果として母親の身体的・精神的負担が大きくなり、これが母親の出産意欲を低下させる要因の一つになっている可能性がある。

そこで、夫が家事や育児を分担し、妻の負担を軽減している場合には、妻の出産意欲が変わるのかを見てみよう。まずは既に子どもがいる夫婦についてであるが、夫が家事・育児をしている場合は、「さらに子どもが欲しい」との回答は44.2%であったのに対し、夫が家事・育児をしていない場合は36.6%と割合が低くなっている(第1-2-11図)。一方、子どもがいない夫婦では、夫が家事をしている場合は「子どもが欲しい」と回答した人の割合が65.9%であるのに対し、夫が家事をしていない場合は64.8%とほとんど差が見られない。

 

第1-2-11図 夫が家事・育児を分担すると妻の子どもを持つ意欲は高まる

子どものいる夫婦において、夫が家事をしていない場合と、夫が家事をしている場合と比較して、「さらに子どもが欲しい」と回答する割合が低くなっていることについては、一度子育てをして夫の協力が得られない場合の子育ての大変さを妻が実感した結果であるとも解釈できる。また子育てを経験していない場合は、夫の家事分担のいかんによって、「子どもが欲しい」と回答する割合に差が見られないが、このことは、上記の解釈を踏まえれば、まだ夫が参加しない子育ての大変さを実感していないためと考えられる。これらを勘案すると、育児負担が女性に偏る場合、特に第二子以降の出産に影響する可能性があると言うことができよう。

●子育ては父親以外の協力・支援も必要である

母親の子育て負担が大きくなっている背景として、ここまでで見てきたように父親が仕事で忙しく子育てや家事に協力が得られないことのほかに、親世代との同居率が低下していることから、父親以外の同居家族の協力も得にくくなっていることも、少なからず影響していると考えられる。

子育てをしている人がその協力・支援が必要となった場合、誰に頼ることが多いのだろうか。「子育てに手助けが必要になった場合、あなたは誰を頼るか」と尋ねた結果を見ると、「自分の親」が78.0%、「配偶者の親」が38.1%と、夫婦いずれかの「親」と回答した人の割合が突出して高くなっている(第1-2-12図)。そのほか、「公的な子育てサービス」(ファミリー・サポート・センターなど)や「有料の子育て支援サービス」(ベビーシッターなど)などの外部サービス制度、「友人」や「近所の知人」などの交友関係などを挙げる人もいるものの、その割合はおおむね3割以下で「親」と比べるとはるかに小さい。

 

第1-2-12図 子育ての手助けを頼る相手は親が多い

では、実際に子育てに対する周囲の協力・支援が得られると、子どもが生みやすいのだろうか。そこで、夫婦の親と同居している場合と別居している場合の平均出生子ども数を比較して見ると、同居している場合には平均出生子ども数が2.05人であるのに対し、別居している場合には1.69人と、同居している場合の方が別居している場合より、子どもを生みやすいことを示唆する結果となっている(第1-2-13図)。親と同居することにより、妻の身体的、精神的な負担が軽減されることが期待できることから、このような同居による子育て負担の軽減が、生まれる子どもの数にも影響を及ぼしている可能性がある。

 

第1-2-13図 親と同居している方が子どもの数が多い

●子育ては社会全体で支える必要がある

次に、子育て世代は、子育てに関する地域や社会の支援状況に対して満足しているのかを見ると、8割弱が「不十分である」と感じている(第1-2-14表)。特にその割合は男性に比べて、子育てを中心に行っている女性の方がより大きくなっている。子育ては一義的には家族を中心に行われるものであるが、家族だけが担うべきものではない。子どもを家族が育み、その家族を地域社会が支え、さらに企業、地方公共団体および国などの連携の下、社会全体で支えていくことが必要であろう。

 

第1-2-14表 子育てに対する社会の支援は不十分と感じている人が多い
【コラム】 介護は外部化が進展
  高齢化が進展している。健康で元気な高齢者が増える一方で、体力・身体機能の低下に伴い、介護が必要となる人が増加している。そこで、介護は誰が担っているのだろうか。その現状を見てみよう。
   高齢者のうち、394.3万人(2004年度末)が介護保険制度における要介護者または要支援者(以下「要介護者」という。)として認定されている。要介護者を誰が介護している場合が多いのかを見ると、同居している家族などが66.1%、別居している家族などが8.7%、事業者は13.6%となっており、依然として同居している家族の誰かが介護を担っている場合が多い(図1)。さらに、同居している家族の誰が介護を担っているかを見ると、配偶者が24.7%と最も多く、子の配偶者が20.3%、子が18.8%と続いている。
   しかし、2001年と2004年のデータを比べると、同居している家族が担っている割合は、配偶者、子の配偶者、子、いずれにおいても低下している。その一方で、事業者の割合は9.3%から13.6%に増えており、家族以外の人が介護を担う動きが進んでいることが分かる。そして、この結果は2000年の介護保険法の施行を契機に、介護サービスの利用も進んでいることを示唆していると言えよう。

 

図1 介護者は同居家族が依然として多いものの、低下している
   次に、介護のあり方に対して、社会全体の意識を見てみよう。
   「高齢者の医療・介護は、個人や家族の責任でしょうか、国や地方自治体の責任でしょうか。」と尋ねた結果を見ると、国や自治体の責任と考えている人の割合が6割以上となっており、医療や介護は個人や家族だけが担うのではなく、国や自治体、すなわち社会全体で支えていくことが望ましいという意識が見て取れる(図2)。

 

図2 介護は国や自治体の責任と考えている人が多い
  また、高齢者自身の意識を見ると、「望ましい在宅での介護」の状況について、家族だけに介護されたい人の割合は低下している(図3)。一方、家族における介護に加え、ホームヘルパーなど外部の者の利用も含めた介護を希望する人の割合が高まっている。

 

図3 介護は家族と外部利用の併用を望む人が多い
  このように介護の場は、従来の家族だけが担う姿から、外部サービスなどを上手に利用する動きが見られる。こうした動きは、介護を担う家族の負担を軽減するとともに、介護される人にとっても質の高いサービスの提供を受けることができるなど、介護をする人、される人双方にとって利点があると考えられ、家族に求められる役割の新しい形とも言えよう。

 


8   重要度得点とは、各質問項目の「重要である度合い」を得点化したもので、重要度の5段階それぞれに「きわめて重要」=5点から「まったく重要でない」=1点までの得点を与え、各項目ごとに回答者数で加重した平均得点を求め、重要度に関する人々の評価を指標化したもの。
9   充足度得点とは、各質問項目の「充足されている度合い」を得点化したもので、充足度の5段階それぞれに「十分満たされている」=5点から「ほとんど満たされていない」=1点までの得点を与え、各項目ごとに回答者数で加重した平均得点を求め、充足度に関する人々の評価を指標化したもの。
10  「週2〜3日」、「週1日だけ」、「ほとんどない」を合わせた割合。
11  いずれも「自己評価」であることに留意が必要である。

テキスト形式のファイルはこちら

-
目次 | 前の項目に戻る | 次の項目へ進む