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はじめに

人は、この世に生を受けた瞬間から、家族を始め誰かに支えられ守られている。成長するにしたがって、活動の場は広がり、隣近所の人と遊び、地域の学校で友達と学び、社会人となってからは職場の人と共に仕事をするなど、様々な人と触れ合う。そして、その過程で、コミュニケーションを図り、人的ネットワークを形成するなど、人々とのつながりを育んでいく。どのようなつながりを持つかは、日々の生活を安心して快適に過ごすことに、ひいては充実した人生を送ることに、大きく影響を及ぼすと考えられる。

さて、つながりは、一人だけで生まれ得ず、相手が必要である。つながる対象やつながりの生まれる場は様々であると考えられるが、その中でも生まれると同時に持つつながりの相手であり、多くの人にとって生活のよりどころとなるのは「家族」であろう。そして、家族が生活を営み、子どもから高齢者まで幅広い年齢層で活躍する場ともなる「地域」、さらに就職してからは1日のかなりの時間を費やす場であり、個々人の生活を経済面から支える基盤でもある「職場」を中心に、人々は社会生活を営み、つながりを得ていると言えよう。

そこで、本白書では「家族」、「地域」、「職場」という、人生の中で継続的な関係が求められるこの三つのつながりについて重点的に扱うこととする。


1.人々の生活満足度

●生活全般に対して満足している人の割合は低下

人々が求めるつながりは千差万別であるが、そのようなつながりを持つことで、人々はより充実した快適な生活を送り得る。つまり、人々が生活に満足するか否かは、望むようなつながりが持てるか否かによっても影響される可能性がある。そこで以下では、人々が生活についてどの程度満足しているか、その動きを見た上で、その動きにつながりがどのように影響しているかについて見ていきたい。

まず、生活全般に関する満足度について尋ねたところ、「満足している」と回答した人の割合は、1978年には10.9%であったが低下傾向が続き、2005年にはわずか3.6%となった(第1図)。そして「満足している」、「まあ満足している」と回答した人の割合を合わせても35.8%と4割弱にとどまり、過去最も低い値となっている。一方、「どちらかといえば不満である」、「不満である」と回答した人の割合を合わせると、78年は15.6%であったが、2005年には28.3%にまで高まった。

このように生活に満足する人の割合が低下し、その一方で、不満である人の割合が高まるなど、総じて人々の生活に対する満足度は低下していると見ることができよう。

 

第1図 生活全般に対して満足している人の割合は低下している

●近年「物の豊かさ」よりも「心の豊かさ」を求める傾向が強い

前項で生活全般に対する満足度が低下していることを指摘したが、人々は生活にどのような豊かさを求めているのだろうか。

「今後の生活で心の豊かさと物の豊かさのどちらかに重点をおくか」について尋ねたところ、72年は「物の豊かさ」と回答した割合は40.0%であり、「心の豊かさ」と回答した割合の37.3%よりも高かった(第2図)。しかし、78年には「心の豊かさ」が「物の豊かさ」を上回り、2005年には「心の豊かさ」は62.9%まで高まり、「物の豊かさ」は30.4%まで低下している。

人々が生活をしていく上で、安定的な収入や所得を得るなど、経済面での充実が必要であることは言うまでもない。しかし、生活水準の向上により、物の豊かさはある程度満たされるようになってきたこともあり、最近では、心の豊かさがより重視される傾向が強まってきていることが見て取れる。以上のことを勘案すると、生活満足度の低下には、より重要となってきた心の豊かさが満たされていないことが影響している可能性がある。

 

第2図 心の豊かさを重視する割合が高まっている

2.つながりが精神的やすらぎと生活の豊かさに及ぼす影響

●つながりは精神的やすらぎをもたらす

心の豊かさには、人々の精神的な充実感や安心感が大きくかかわっていると考えられる。ここでは、つながりが精神的な充実感や安心感と関係しているかどうか、両者の関係を統計的に分析してみよう。

つながりには様々な形があり、その強弱を測る尺度も様々なものがあると考えられるが、そこで、「家族」と過ごす時間、「隣近所」、「職場」の人と行き来する頻度を、つながりを示す指標とする。つまり、家族と一緒に過ごす時間の長い人、隣近所の人との行き来が多い人、職場・仕事関係の人との行き来が多い人には、それぞれ「家族」、「隣近所」、「職場」のつながりがあると考え、精神的やすらぎとの関係を統計的に分析してみた。その結果、家族と一緒に過ごす時間が長い人、隣近所と行き来する頻度が多い人、職場の人と行き来する頻度が多い人ほど、精神的なやすらぎを得る傾向にあることが分かった(第3表)。

このように、この結果からは、家族を始め隣近所や職場の人とつながりがある人ほど、精神的やすらぎを得ることができると言えよう。

 

第3表 家族、地域、職場の人とのつながりは精神的やすらぎをもたらす
(備考)
1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007年)により作成。
2. 精神的やすらぎの有無と家族と過ごす時間、隣近所・職場の人との行き来の頻度との関係を統計モデル(プロビット・モデル)を用いて分析した結果。
3. 詳細は、付注第1を参照。
4. サンプルは、全国の15歳以上80歳未満の男女2,071人。

●つながりは生活満足度を高める

つながりが、精神的なやすらぎをもたらすことを見たが、近年、物の豊かさより、心の豊かさが重視されることを踏まえれば、人々のつながりは生活全般の満足度を高める効果を持つことが想定される。そこで、以下では、つながりと生活満足度の関係を見てみよう。

精神的やすらぎと同様につながりを示す指標として、「家族」と過ごす時間、「隣近所」、「職場」の人と行き来する頻度を用いて、生活満足度との関係を統計的に分析してみたところ、家族と一緒に過ごす時間が長い人、隣近所の人と行き来が多い人、職場・仕事関係の人と行き来が多い人ほど、生活満足度を感じる傾向にあることが分かった(第4表)。また、単身世帯よりその他の世帯(夫婦世帯、夫婦と子ども世帯など)、未婚者よりも既婚者、高収入の人ほど、生活満足度が高まることも見て取れる。

この結果から、生活満足度を高める要因には様々なものがあるが、つながりの観点からは、家族を始め、隣近所や職場の人たちとのつながりがある人ほど、生活全般に対して満足していると言えよう。

 

第4表 家族、地域、職場の人とのつながりは生活満足度を高める

生活満足度を高める要素

・家族と一緒に過ごす時間が取れている人

・隣近所の人と行き来している人

・職場の人と行き来している人

・単身世帯以外の人

・既婚の人

・年収が高い人

(備考)

1. 内閣府「国民生活選好度調査」(2007年)により作成。

2. 詳しくは、付注第2参照。

 


3.つながりの希薄化

●つながりの在り方にも変化が見られる

「家族や地域のきずなが希薄化した」、あるいは、「職場の人間関係が希薄になった」などの言葉が聞かれるが、「地域」、「職場」のつながりに対する人々の意識はどのように変化しているのであろうか。

「地域」と「職場」における望ましい付き合い方について、過去からの推移を見ると、「地域」、「職場」共に、何かにつけて相談するような「全面的」な付き合いを望む人の割合が低下する一方で、必要があれば気軽に話し合うような「部分的」な付き合いや、必要最低限の「形式的」な付き合いを望む人の割合が高まる傾向にある(第5図)。このことより、「地域」、「職場」においては、全面的な深いつながりを求める意識が総じて弱まり、その一方で適度に距離を置いた緩やかなつながりを求める意識が強まっていると考えられる。

ただし、「家族」については、第1章で後述するように、家族を大切と考える人の割合は、最近ますます高まっている。家族は生活を共にする集団であることを考えれば、人々が家族についてはむしろ深いつながりを求めている可能性もある。

 

第5図 付き合い方は「部分的」な付き合いが望まれる傾向

●つながりの希薄化により人間関係が難しくなったと感じている人が多い

地域や職場において、ある程度の距離を置いた付き合いを人々が望むようになっている一方で、実際にはつながりの希薄化により人間関係が難しくなったと感じている人も相当程度存在する。

「一般的な人間関係について難しくなったと感じるか」と尋ねたところ、「難しくなったと感じる」と回答した人の割合は63.9%と6割以上を占めた(第6図)。さらにその理由について尋ねたところ、「人々のモラルの低下」が55.6%と割合が最も高いものの、「地域のつながりの希薄化」(54.3%)、「人間関係を作る力の低下」(44.5%)、「核家族化」(41.8%)、「親子関係の希薄化」(27.5%)、「職場環境の悪化」(11.6%)が続くなど、家族、地域、職場内におけるつながりに関する項目を挙げる人の割合も高くなっている(第7図)。

 

第6図 「人間関係」が「難しくなった」と感じる者は6割強

 

第7図 「人間関係」が「難しくなった」要因として、「つながりの変化」を挙げる割合が高い

人間関係が難しくなった要因として、これらのつながりの希薄化に関する項目が多く挙げられていることを考えると、つながりが希薄化したことを懸念している人が、かなりの割合で存在していると見られる。このことからは、人々はある程度の距離を置いたつながりを好むようになったとはいえ、現実のつながりがそれ以上に希薄化が進み、むしろ必要とするつながりが持てないことへの不都合を感じている様子がうかがわれる。先に、つながりを持つ人は、生活満足度が高い傾向にあることを指摘したが、生活満足度が近年低下傾向で推移している背景には、人々がつながりを得にくくなっていることが影響している可能性がある。

では、つながりの現状はどうなっているのだろうか。過去と比べてつながりはどのように変化し、その変化は国民の生活にどのような影響を及ぼしているのだろうか。また、つながりの希薄化のために生活の豊かさが感じられないのであれば、どのようにしたら、求めるつながりを得ることができるだろうか。こうした観点から、以下では「家族」、「地域」、「職場」の三つの「つながり」に焦点を当てて、変化の状況や、その背景および国民生活への影響について、分析を進めていくこととする。


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