こうした中で、高齢者が自分たちで起業して柔軟な働き方を実現させたり、若年者と高齢者のそれぞれが得意とするところを組み合わせて成果を上げたりといった動きも見られる。ここではそうした先進的な事例を紹介する。
高齢期に再就職するよりも、専門知識や得意分野を持ち寄って起業する方が、高齢者に適した働き方で、活き活きと働ける可能性もある。
国民生活金融公庫「新規開業実態調査」によると、開業時の平均年齢は1991年度の38.9歳から2005年度には43.0歳へと14年間で約4歳上昇している。特に90年代後半以降、開業者に占める50代、60歳以上の割合が高まる傾向にある(第3−2−22図)。
開業の動機(複数回答)を見てみると、60歳以上では「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」が27.4%と最も多く、次いで「自由に仕事がしたかった」が11.3%、「事業経営という仕事に興味があった」が9.4%などとなっている。ほかの年齢層と比べると、「社会の役に立つ仕事がしたかった」、「年齢や性別に関係なく仕事がしたかった」と回答した割合が高くなっている点が特徴的である(第3−2−23図)。
また、開業に踏み切った直接のきっかけでは、「定年退職した」、「経営上のパートナーが現れた」を挙げた割合がいずれも13.1%で最も多く、以下、「開業に必要な免許、資格などを取得した」が12.1%、「友人や知人から勧められた」が11.2%、「取引先から勧められた」が8.4%などと続いている。定年を契機として、これまでに培った経験・知識を活かしつつ、年齢に関係なく働く場として起業を選ぶ中高年が増えていることがうかがえる(第3−2−24図)。
第3-2-22図 50代、60代の起業は増加傾向
第3-2-23図 60歳以上で多い「社会の役に立つ」、「年齢や性別に関係ない」を動機とする起業
こうした高齢者による起業の例として、埼玉県のある住宅サービス企業組合が挙げられる。同組合は、民間企業を退職後に高等技術専門学校の住宅サービス科で技術を学んだ卒業生7人(早期退職者と定年退職者で構成)が2000年7月に設立した法人17である。中核メンバーの「前職の職務経験と専門学校で学んだ技術を活かして高齢者に喜んでもらえる仕事がしたい」との思いが組合設立の出発点となっているが、実際に請け負っている業務内容は、住宅のリフォーム(バリアフリー工事を含む)、顧客の要望・アイディアを採り入れた家具や日用品の製作・販売、庭木の手入れなど多岐にわたっており、ゼネコンや工務店では採算が合わず取り扱わないような細かい仕事が多い。
設立から5年以上が経過した現在では、口コミを中心に依頼される仕事の数も増え、平均月収は約10〜15万円と経営はおおむね軌道に乗っている。しかし、組合の収入だけで住宅ローンを払ったり、家族を養っていくには心許なく、組合活動での収入はあくまで年金の補完との位置付けにとどまっている。
このように、起業という選択にはこれまで蓄積してきた経験・技術を活かして高齢者に合った働き方ができるというプラスの側面がある一方、安定した収入源の確保といった経営上の課題もある。しかし、気の合う仲間がいる、経営上のアドバイスや支援が受けられるといった条件に恵まれれば、定年退職後の第二の人生を有意義に過ごすための選択肢となり得る。
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千葉県のある精密機械器具製造会社では、熟練技術者が長年の経験と豊富な知識・技術の蓄積により培った精密加工技術を、若手技術者に継承する教育システムを導入している。従来、高度な精密加工技術を持った熟練技術者は、閉鎖的な職人気質のために自分の技術を他人になかなか教えたがらないところがあった。しかし、同社では、評価の基準を技術者の「熟練(ウデ)」から、精密加工技術を有する技術者をどのようにして育成したかという「若手人材の育成」へと変えることにより、高齢技術者に意識の変革を促した。
新たに導入された手法では、高齢の熟練技術者が若手技術者を一対一で指導し、時間をかけて加工技術のカンやコツを伝授する。このような教育システムにより、この会社では競争力の源泉となる高度な加工技術の継承や、熟練技術者と若手とのコミュニケーションの円滑化が図られると同時に、高齢者にとっては自分の技術を部下に教えることで、働きがいや生きがいを感じられるようになった。こうした熟練技術者から若手への技術移転を経て、現在、高度な精密加工作業に携わる技術者の平均年齢は27〜28歳にまで若返っている。
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