目次  前の項目に戻る  次の項目に進む
本文 > 第3章 高齢者の人生の再設計 > 第1節 変わる高齢者像

2.変わる高齢者像

ここまでで見たように、高齢期には自らを取り巻く様々な環境が変わり、それに伴って多くの人が人生を再設計する。しかし、そうした高齢者の姿も時代とともに変わりつつある。以下では、そうした高齢者像の変化が人生の再設計にどのような影響を与えているかを検討する。

(1)高齢者の健康面での変化

●健康寿命の伸長が高齢期の生活の可能性を広げている

2004年の我が国の平均寿命(0歳時点での平均余命)は、男性78.64歳、女性85.59歳であり、30年前(1975年)と比べてそれぞれ6.91年、8.70年伸びている(第3−1−5図)。

こうした我が国の平均寿命は世界でもトップクラスを誇っているが、これは戦後の我が国の経済発展、生活水準や医療技術、衛生環境の向上などの成果である。しかし、人々の関心は寿命の長さだけでなく、日常の生活の質にあるだろう。単に平均寿命が伸びるだけでなく、人生において健康に過ごせる期間がどれだけ続くかが重要である。そこで、心身ともに自立して生活できる期間として、いわゆる「健康寿命」に着目してみよう。健康寿命の計算方法には様々なものがあるが4、ここでは無障害平均余命の推移を見る。無障害平均余命とは、「健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」との問に対し「ない」とされる者を「無障害者」とし、通常の平均余命の考え方に則って、無障害である期間の平均を試算したものである。データの制約から過去15年間に限られるが、65歳時点での無障害平均余命は、89年から2001年にかけて平均余命の伸びに見合った伸長を示している(第3−1−6図付注3−1−1)。直近の2004年では、2001年に比べ男女ともにやや減少しているものの、89年から総じて増加傾向にあり、健康でいられる期間は伸びていると言える。

男性の健康寿命が2004年時点で78年5であるので、22歳で社会人になった場合、健康で活動できる期間はそれから56年間となる。このとき、50歳はほぼその中間地点に当たり、60歳でもようやく3分の2である。つまり現在の高齢者は、「老後をどう過ごすか」ではなく「第二の人生をどう生きるか」という問に向き合っていると言えよう。

第3-1-5図 我が国の平均寿命は伸び続けている

第3-1-5図 我が国の平均寿命は伸び続けている

第3-1-6図 健康でいられる期間は伸びている

第3-1-6図 健康でいられる期間は伸びている
 
4

WHO(世界保健機関)“The World Health Report 2004”によれば、2002年の我が国の健康寿命は男性72.3歳、女性77.7歳。なお、WHOは各国の健康寿命を2000年からしか公表していない。

5

2004年の65歳時点の無障害平均余命が12.64年であることから、健康でいられる期間の合計は約78年となる。

(2)高齢者の家族環境の変化

●単独・夫婦のみ高齢者世帯の増加と独立志向の高まり

過去30年間、少子化などによる人口構成の変化や家族をめぐる価値観の多様化などを反映して、高齢者を取り巻く家族環境も変化している。その大きな特徴は、三世代世帯の占める割合の激減である。75年に60歳以上の者がいる世帯全体のほぼ半分を占めていた三世代世帯の割合は、2004年には2割以下にまで減少している(第3−1−7図)。一方、単独世帯と夫婦のみ世帯が占める割合は75年に比べてそれぞれ8.8%から20.4%、14.6%から30.4%へと倍増している。

このように高齢者の単独世帯や夫婦のみ世帯が増加した背景には、高齢者の独立志向の高まりがある。65歳以上の高齢者に、子どもとの同居についてどう考えるかと尋ねたところ、「同居したい」とする割合が83年には66.3%であったのが、2000年には37.9%まで低下している(第3−1−8図)。ただし、独立志向が強いと言っても、子ども世代から完全に独立して生活したいと考えているわけではないようである。同じ調査によると「子どもが近くにいれば別居でもよい」と回答した人の割合が7.8%から25.5%に増えており、同居の煩わしさは避けたいが、利便性やいざというときのために子どもの近くには住んでいたい、との意向がうかがえる。

また、60歳以上に同居を希望しない理由を尋ねたところ、「子ども世代とは生活習慣が異なるから」が54.2%と最も多く、「お互い人間関係の面で気を遣うから」が50.9%、「子ども世代に迷惑を掛けたくないから」が41.5%と続いている(第3−1−9図)。このように、60歳以上の世代はお互いの価値観や生活習慣を尊重した関係を保つため、子ども世代から独立した生活を望んでいるといった姿がうかがえる。

第3-1-7図 高齢単独世帯と夫婦のみ世帯が大幅に増えている

第3-1-7図 高齢単独世帯と夫婦のみ世帯が大幅に増えている

第3-1-8図 高齢者の独立志向は高まっている

第3-1-8図 高齢者の独立志向は高まっている

第3-1-9図 互いに価値観や生活習慣を尊重し別居を望む

第3-1-9図 互いに価値観や生活習慣を尊重し別居を望む

●豊かな高齢者ほど独立した生活が容易に

もちろん、高齢者の独立志向が高くても、ある程度の経済力がないと独立した生活は難しい。独立した生活は、子ども世代との同居に比べて一般に費用がかかる。高齢者が単独で生活する場合と、子ども世代(夫婦)と同居する場合の一人当たりの生計費とで比べると、単独で生活する方が月当たりで合計約3.8万円多くなっている(第3−1−10図)。各費目別に見てみると、最も差が生じているのは住居費であり、同居することにより一人当たりの住居費は大幅に安くなることを反映している6。食費や教養娯楽費についても支出額に差が見られる。これらは家族の人数が多い方が食材を効率的に利用できたり、耐久消費財を共用できたりするといった「規模の経済」によるものと考えられる。また、そもそも教養娯楽にお金をかけることのできる高齢者が独立して生活することを選択している可能性もある。しかしいずれにしても、同居による生活費の節約を考慮しなくても良い豊かな高齢者が、独立志向を実現させることができている。全般的な生活水準の向上や年金など社会保障制度の整備が、子どもに依存せずに暮らせる高齢者を増加させており、それが高齢者の単独世帯および夫婦のみ世帯の増加につながっている7。もっとも、少子化に伴いそもそも同居する子どもの数が減っており、同居したくてもできない高齢者が増えている点にも留意が必要である8

第3-1-10図 子ども世代との同居により生計費は安くなる

第3-1-10図 子ども世代との同居により生計費は安くなる
 
6

単独世帯の持ち家率が74.7%であるのに対して、同居世帯では97.3%であるため、家賃支出は単独世帯の方が多くなるが、それだけでは単独世帯の住居費が同居世帯の3倍以上となることを説明しきれない。また、持ち家の場合土地家屋借入金(住宅ローン)返済が生じることが多いが、これを考慮しても同居世帯の方が住居関係費は低い。

7

厚生労働省「厚生労働白書」(2003年版)では、所得の低い者ほど同居志向が高い傾向が見られることから、年金の充実などにより高齢者の経済的自立の可能性が高まったと推察している。

8
例えば、75年当時に60歳だった1915年生まれの女性は平均して生涯に4.18人の子どもを産んでいるが、45年生まれの女性の場合は2.18人であり、夫婦当たりの子どもの数は大きく減っている(総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「出産力調査」および「出生動向基本調査」)。
 
テキスト形式のファイルはこちら

目次  前の項目に戻る  次の項目に進む