| 第3章 高齢者の人生の再設計 |
高齢期は、定年などにより仕事に関わる環境が大きく変わるとともに、子どもの独立など家庭生活でも変化が訪れる時期である。そうした中で、高齢者はそれぞれの考え方に基づいてどのような選択をし、どのような生活様式を再構築していくのであろうか。2007年以降、団塊の世代が定年を迎え、労働力不足や社会保障費の増大などが懸念される一方で、団塊の世代の高い消費意欲に期待が集まっている。こうした現象は、団塊の世代がどのような第二の人生を選択するかによって大きく異なってくる。本章ではそうした高齢者の人生の再設計に関わる問題を検討する。
|
第1節
|
変わる高齢者像
|
「高齢期」といっても、それは何歳から、と明確に区切られた年齢から始まるわけではない1。むしろ、健康など身体面の変化、職業生活における変化、家庭における変化などがあいまって、緩やかに移行していくものであろう。
高齢期における生活の変化を、まず働き方から見てみよう。高齢期にさしかかると、多くの雇用者が「定年」に直面し、それを機に仕事から引退したり、職場を変わったりする。再雇用制度などで同じ会社に勤め続ける場合でも、役職などの立場は変わることが多い。また、定年を待たずして出向、転籍などでそれまでいた会社を離れる人もいる。働いている男性が引退していく過程を見ると、55〜59歳では89.6%であった就業率が、60〜64歳で65.9%、65〜69歳で45.0%、70歳以上で20.8%と低下しており、60代の10年間をかけて全体の約7割の人々が職業生活から引退していくことが分かる2。
また、すぐに引退せず定年後もしばらく働き続ける場合も、多くの場合は働き方の大きな変化を伴う。それは雇用形態の変化であったり、統率役から助言役へといった立場の変化であったりと多様であるが、最も大きな変化は労働時間の減少であろう。週当たりの労働時間を見ると、60歳を境に就業時間が週34時間以下の割合が17.3%から27.2%に高まり、70歳以上では37.6%まで上昇している(第3−1−1図)。
このように、60歳を境として、労働時間を減らしながら、徐々に人生の重心を仕事から他の領域へと移していく人が多くなることが分かる。
第3-1-1図 60歳を境に短時間で働く人の割合が増える
|
高齢期には、子どもの養育にかかる負担も減少する。多くの場合、おおよそ50歳前後で子どもが高校や大学を卒業し、以後は子どもの教育問題などから自分の生活や夫婦での生活に関心を向けることが容易になると考えられる。これは経済面にも如実に表れる。世帯主の年齢層別に教育費支出を見ると、40代後半に月額4万4,615円とピークを記録し、50代前半でも3万5,899円と高い水準を保っているが、50代後半になると1万4,124円とピーク時の3分の1程度、60代に入るとほぼ無視し得る水準となる(第3−1−2図)。また、子どもの独立とともに子どものために費やす時間も少なくなると考えられ、50代後半あたりから、子どものために割いていた時間や費用が大幅に減少することが家庭生活の面での大きな変化と言える。
高齢期には健康面での不安がそれまでより高まるといった側面はあるものの、子育てに割いてきた時間などが減少するとともに、年金の受給開始などを背景に仕事についても負担を減らすことができるなど、人生の新たな設計図を引く上での「自由度」は高くなる。それでは、このような人生の再設計に際して高齢者はどのような生活を希望しているのだろうか。生活において仕事を優先するか、家庭生活や地域活動を重視するかを尋ねたところ、男性では60歳を境に「仕事を優先している」とする人の割合が減少し、「家庭生活又は地域活動を優先している」または「家庭生活又は地域活動と仕事を同じように両立させている」が大幅に増えている(第3−1−3図)。つまり60歳を境に、それまで仕事中心であった意識が、家庭生活や地域活動に重点を移すものと考えられる。
第3-1-3図 60歳を境に家庭生活・地域活動を重視するようになる
また、定年を迎えた男性3にこれからの生き方、考え方を尋ねたところ、「これからは自分の生き方を大切にしたい」、「これからは閉じこもらないで外に出るようにしたい」、「これからは地域社会のために何か役に立ちたい」、「これからは人生の総仕上げの時期としたい」といった項目で、「そう思う」が「そう思わない」を大きく上回っており、第二の人生を積極的に過ごそうという意識を持つ人が多いことがうかがわれる(第3−1−4図)。
|
|
テキスト形式のファイルはこちら
|