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本文 > 第2章 女性のライフサイクルと就業 > 第2節 女性の継続就業を妨げる壁

3.壁を打ち破る動き

前項では出産・育児と就業を両立させようとする女性が直面する「壁」として、育児休業が取りにくいこと、職場復帰後も保育環境が十分に整っていない場合があること、そして働き方の面でも様々な困難があることを見た。以下では、それぞれの壁について、欧米諸国における解決に向けた取組や、我が国の一部企業により行われている先進的な事例を紹介していきたい。

(1)育児休業

●育児休業取得者が安心して職場を離れられる環境

我が国において、育児休業は育児・介護休業法に基づき、一定の要件を満たせば本来誰でも取得することができるものである。在職中に出産した者または配偶者が出産した者に占める育児休業取得者の割合は、女性が70.6%、男性が0.56%であった7。一方、出産を機に多くの女性が離職しており、出産1年前に有職であった母親について、出産半年後も有職である割合は32.2%であり、67.4%の母親が無職となっている(きょうだい数1人の場合)8。したがって、妊娠以前に有職だった女性全体での実質的な育児休業取得率はかなり低いものと推測される。また、育児休業を取得しなかった女性にその理由を尋ねてみると、多くが「職場の雰囲気や仕事の状況から」と答えている(前掲第2−2−9図)。このように、制度として整備されていても、実際に働く女性が容易に取得できる環境になければ、政策としての効果は限られたものとなってしまう。

「職場の雰囲気や仕事の状況から」とは、育児休業を取得して一定期間職場を離れることにより、周囲の人々の業務負担が増大することなどを指すと考えられる。そこで、女性の育児休業の取得率が民間企業においても84.0%(2005年)9と高く、その約7割が1年以上にわたって休業するスウェーデンで、育児休業により生じた欠員にどのように対応しているかを見てみよう10。スウェーデンの企業に、従業員が育児休業を取得した場合の職場の対応を聞くと(複数回答)、「臨時契約社員を雇う」が74.4%、次いで「業務を分担する」が54.2%となっている。これに対し、我が国企業では「業務を分担する」が51.7%であり、「臨時契約社員を雇う」は39.7%にとどまっている11。このように、スウェーデンでは育児休業を取っても、多くの場合に外部から代替要員が確保されることにより、周囲の業務負担増が回避され、育児休業を取得しやすい職場の雰囲気につながっている。実際に、スウェーデンの女性従業員に対して、自分が育児休業を取得した際に同僚の業務負担が増えたと思うかと尋ねたところ、「いいえ、負担は増えなかった」が75.6%を占め、「誰も不満を言わなかったが、負担は増えただろう」は20.4%、「はい、同僚が不満を言っていた」は3.9%にとどまっている。また、同じく従業員に、育児休業を取る上で同僚や雇用主との間で人間関係上の困難があったかを尋ねたところ、大多数の87.9%が「ない」と答え、9.9%が「雇用主との間であった」、3.2%が「同僚との間であった」と回答している。

 
7

厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(2004年)による。

8

厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査」(2001年)による。

9

内閣府「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査」(2005年)。この数字は出産時に在職した女性に対する割合であり、上述の「妊娠以前に有職だった女性全体」を分母とする実質的な取得率ではないことに留意が必要である。しかしスウェーデンにおいては子どもの有無が就業率にほとんど影響を与えていないため(第2−2−17図参照)出産を機に退職する割合は低いと考えられ、分母を「妊娠以前に有職だった女性全体」としても、育児休業取得率は大きく変わらないと推察される。

10

以下本項のスウェーデンについての記述は内閣府「スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス 調査」(2005年)に負っている。

11

厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(2002年)。ただし「業務を分担する」は原文では「代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応した」、「臨時契約社員を雇う」は「派遣労働者やアルバイトを代替要員として雇用した」。

●育児休業を取りやすい環境を作るためのアイデア

我が国では育児休業により生じた欠員への対応は、「業務を分担する」が51.7%と、残った人々で業務を分担する企業が多いなど、育児休業を気兼ねなく取得できる環境であるとは言えない。さらに「臨時契約社員を雇う」とする企業は39.7%であるが、育児休業を取得する年代の女性は、その会社である程度のキャリアを積み、責任ある仕事を任されている場合が少なくなく、その場合は臨時契約社員が業務を十分に肩代わりすることが難しい。

しかしながら育児休業により生ずる欠員を、その業務の遂行能力を持った代替要員で補充することにより、育児休業を取得しやすい環境を作っている企業がある。東京都のある損害保険会社では、退職した社員の中で代替要員として働くことが可能な人を登録しておき、職場で欠員が生じた場合、これらの人々の中から代替要員を選ぶ制度を導入している。退職者はその会社特有の技能やノウハウを有しているため、短い助走期間で職場の即戦力となり得る。よって職場に残った人々の負担は小さくて済む。

もちろん、この企業のような取組は、規模や業種が異なるほかの企業でそのまま取り入れられるとは限らないが、企業のアイデアによって、育児休業を取得する人が安心して職場を離れられるような環境を作り上げることができる点で示唆を与えるものである。

(2)保育環境

●北欧の保育サービス事情

育児休業から復帰した女性が次に直面する壁が保育サービスの不足である。それでは、育児と就業の両立が容易であるとされている諸外国の保育環境は、どのような状況になっているのだろうか。

OECD加盟国の中で、子どものいる女性の就業率が高いのはスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドといった北欧の国々であり、国によっては子どものいない女性よりも就業率が高い場合もある(第2−2−17図)。

スウェーデンにおいては、1〜5歳の子どもの82%が保育所もしくは家庭型保育などで保育サービスを受けており、いわゆる待機児童はほとんど解消していると言われている12。利用料も市町村が多くを負担しているため、安価である13

ノルウェーでは、1〜5歳の子どものうち保育サービスを受けているのは66%であり(2002年)、これを待機児童がほぼいない状態に対応する8割まで引き上げることが課題とされている。保育所、家庭型保育を問わず、保育料は大部分が国・地方自治体によって負担されている14

第2-2-17図 スウェーデンでは子どもが増えても雇用者率は下がらない

第2-2-17図 スウェーデンでは子どもが増えても雇用者率は下がらない
 
12

内閣府「少子化社会白書」(2005年)による。

13

施設型保育の場合で、2000年時点の利用者負担は19%である。(内閣府「スウェーデンの家族と少子化対策への含意」(2004年))

14

厚生労働省「海外情勢報告」(2004年)による。

●社員の保育負担をサポート

我が国では大都市を中心に待機児童が多く存在し、また保育所に入所できても親の残業などに対応するサービスを十分に受けられるとは限らない。これに対して、政府は「待機児童ゼロ作戦」に基づき、保育所などにおける受入児童数の拡大を進めているとともに、延長保育に対する補助など、多様なニーズに合わせた保育サービス提供を促進している。

そのような中、企業においても社員の保育負担をサポートする動きが出ている。東京都のあるファッション関連企業は「優秀な人材を確保することが会社発展の礎となる」との考えの下、出産後も継続就業が可能となるように、企業内保育所を設置した。企業内保育所の場合、子どもを職場まで安全に連れて行けるかという問題があるが、この企業では短時間勤務制度を利用することで、通勤ラッシュを回避できるよう配慮している。またほかの企業はベビーシッター育児支援割引券を配ることで、従業員がベビーシッターを雇う際の費用を軽減している。

(3)働き方

●欧米諸国と比べて我が国では「仕事と生活の調和」が進んでいない

子育て期に仕事優先の働き方をする人が少なくない点を前節で指摘したが、これらの人々は希望して仕事を優先させているのだろうか。末子年齢が3歳未満の子どもを有する者に、生活と仕事のどちらを優先するか尋ねたところ、生活優先の働き方を希望する者の割合は56.1%と半数を超えているが、実際に生活を優先している者の割合は15.6%に過ぎない(第2−2−18図)。つまり子育て期に仕事を優先させている人の中には、生活優先との希望がかなわず、やむを得ず仕事を優先している者が少なからずいると考えられる。

仕事か生活かどちらか一方のみを重視するのではなく、男女双方の働き方を育児など様々な家庭責任と両立可能なものとしない限り、女性が就業を継続できるようにならないが、そのような考え方は、近年「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」として注目を集めている。

我が国において、そうした「仕事と生活の調和」がどの程度進んでいるかを、欧米諸国と比較してみよう。まず長時間労働の実態を、週50時間以上働く労働者の比率から見ると、日本が28.1%と高く、アメリカが20.0%、イギリスが15.5%と続いている(第2−2−19図)。他方、ドイツ、フランスなどほかのヨーロッパ諸国では、長時間働く労働者の比率は高い国でも5%程度と長時間働く人は少ない。

第2-2-18図 生活優先を希望するものの現状は仕事優先

第2-2-18図 生活優先を希望するものの現状は仕事優先

第2-2-19図 50時間以上働く日本の労働者は欧米に比べて非常に多い

第2-2-19図 50時間以上働く日本の労働者は欧米に比べて非常に多い

また子どもを持つ男性が仕事と生活を調和させているかを育児時間から見ると、我が国の男性は1日当たり25分と、ヨーロッパ諸国に比べて際立って短く、アメリカに比べても短い(第2−2−20表)。これを女性の育児時間と対比してみると、ヨーロッパ諸国では男性の育児時間は有業の女性の半分程度であるが、我が国では4分の1以下にとどまっている。以上から判断すると、我が国における働き方は、欧米諸国と比べて、仕事と生活の調和が進んでいない状況であると考えられる。

第2-2-20表 育児時間(国際比較)

第2-2-20表 育児時間(国際比較)

●アメリカやイギリスにおける「仕事と生活の調和」についての取組

欧米諸国では「仕事と生活の調和」が進んでいると考えられるが、イギリスとアメリカでは長時間労働をする人の割合が高いなど、相対的に見て「仕事と生活の調和」が進展していない。そのような中、イギリスとアメリカでは、「仕事と生活の調和」に向けた取組が進められている15

イギリスでそもそも「仕事と生活の調和」という概念が広まった背景には、生産性を改善するとともに、人材を確保するためには魅力的な就業環境を整備しなければならないとの企業側の問題意識があったと言われる。そのような中、97年に発足したブレア政権では「仕事と生活の調和」を政権の中心課題の一つと位置付け、育児期の働き方を変えるとの観点からは、父親休暇の導入、出産休暇の拡充16、「柔軟な働き方を要求する権利17」の新設といった施策を講じている。また2000年3月からは政府により5年間にわたり「仕事と生活の調和」普及促進のためのキャンペーンも展開された。

またアメリカでは、「仕事と生活の調和」を推進することが経営上の利益となると考える企業を中心に、柔軟な勤務形態の提供や、託児所の整備といった取組が進められている。これらの考え方は、もともと80年代後半の人材不足の時代に、優秀な女性をつなぎとめるため実施されたファミリーフレンドリー支援から始まっており、近年は自己啓発のための学費補助、従業員の心身の健康維持に対する支援など、すべての社員を対象とした多様な支援へと拡大している。

 
15

本項の記述は独立行政法人労働政策研究・研修機構「少子化問題の現状と政策課題−ワークライフバランスの普及拡大に向けて−」(2005年)に負っている。

16

出産給付支給期間を18週から26週に延長するとともに、給付額も引き上げた。

17

柔軟な働き方を要求する権利とは、6歳未満の子どもまたは18歳未満の障害を持つ子どもを持つ親が、[1]労働時間の変更、[2]勤務時間帯の変更、[3]在宅勤務のいずれかを経営者に申請する権利である。経営者は、その申請を真剣に検討する義務があり、追加費用の負担、顧客需要への対応能力に不利益が生じるといった業務上の理由があると認められる場合に限り断ることができる。

●人材確保のため「仕事と生活の調和」への取組を積極的に実施

イギリスとアメリカにおいて行われている「仕事と生活の調和」に向けた取組の共通点は、優秀な人材の確保や社員の能力向上といった経営上の利益を企業が認識し、自らが先頭に立って行動していることである。

では我が国企業は「仕事と生活の調和」をどのように認識しているのだろうか。企業に対して、仕事と生活の両立を支援するための制度導入についてその意識を尋ねたところ、「優秀な人材確保のために必要」と「労働者の労働意欲向上に寄与する」に対して肯定する企業は各々6割近くとなっているものの、「企業にとっての負担が大きい」とする企業も6割を超えている(第2−2−21図)。このように我が国では、「仕事と生活の調和」を進めることについて、メリットというよりは負担であると感じている企業が多い。

第2-2-21図 両立支援に伴う企業負担は大きいと考える企業が6割超

第2-2-21図 両立支援に伴う企業負担は大きいと考える企業が6割超 

ただし、企業の利益を高めるとの認識から、「仕事と生活の調和」に向けた取組を積極的に実施している企業もある。東京都のある総合電機メーカーでは、「仕事と生活の調和」のための取組は、優秀な人材の確保や離職率の低下につながり、それらの効果が採用や教育への追加負担を抑制すると考えている。また、従業員一人一人の満足度が上がり、その能力が最大限に発揮されることが会社全体の業績の改善にもつながるため、最終的には制度導入に伴うコストを上回る効果があると考えて多様な試みを行っている。例えば、配偶者が専業主婦であっても育児休業が取得できるだけでなく、業務やキャリアに応じて柔軟に取得できるように子どもが3歳に到達するまでに3回まで分割することを認めている。また、介護休業については、法律上では休業期間は93日であるのに対し、365日まで取得可能となっている。短時間勤務制度についても、子どもが小学校の第3学年を終了するまで何度でも取得することができ、さらにフレックスタイム制との併用も可能となっている。これらの制度を始めとした総合的な取組により、社員の離職率を低めることに成功している。

●父親の育児参加を奨励する企業

我が国では男性の育児参加が進んでいない。これは先に示した男性の育児時間の国際比較や、男性の育児休業の取得率が2004年で0.56%18と極めて低い点などから明らかである。育児休業取得については、「ぜひ機会があれば育児休業を取得するつもりである」が7.4%、「取得する希望はあるが、現実的には難しい」が36.0%と、男性の4割強は事情が許せば取得したいとの希望を持っている(第2−2−22図)。また育児休業の制度があって取得していない男性の37.0%19は、職場の雰囲気や仕事の状況から断念している。つまり、男性の育児休業については、同僚に迷惑をかけることや、評価が下がることに対する不安から取得する人が少ないのが現状である。

そのような中、東京都のある医薬品販売会社は、配偶者が出産したときに、法律で定められた育児休業とは別に、有給の育児休暇の取得を男性社員に連続5日間認めており、実際に配偶者が出産した男性社員のうち年間20名程度が取得している。これは男性社員が育児休暇を取得することを会社側が積極的に奨励していることによる。また、そうした男性社員が将来管理職になったときに、部下の育児休業取得などに対して配慮できるようになることが意図されている。

第2-2-22図 4割強の男性は機会があれば育児休業を取得したいと考えている

第2-2-22図 4割強の男性は機会があれば育児休業を取得したいと考えている 
 
18

厚生労働省「女性雇用管理基本調査」(2004年)による。

19

厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査」(2001年)による。

 
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