ここまで、若年者の適職探しの試みが様々な壁により阻害されていることを見た。以下では、その壁を打ち破る国内外の動きを見てみよう。
企業の中では、留学生や外国人などを含めた多様な人材を幅広く採用できるように、国籍や年齢制限を廃止して通年採用によるボーダレス採用を行うところも現れている。例えば、東京都に本社を置くある総合化学会社では、より優秀な若年者を採用するため、総合職の応募資格を新卒者に限定せず、既卒者や外国人・留学生などへも広げた「ボーダレス採用」をいち早く実施した。採用方針転換の96年当初、「ボーダレス採用」は総合職採用の1割程度と限定されていたが、現在では、特に限定せずに若年者の採用はボーダレス採用を積極的に実施している。
また、東京都に本社を置くある出版会社も、新卒採用枠の拡大に取り組んでいる。この会社は2003年の採用活動まで、新卒採用の対象者を「翌年卒業見込み」の者と「既卒1年まで」に限定していたが、2004年の採用活動時より「大卒以上の年齢満26歳まで」に拡大した。
このように、ここ数年、新卒者採用枠の拡大に積極的に取り組む企業の動きも出てきており、今後、より一層そうした動きが広がることで、若年の適職チャレンジの機会拡大に結び付くことが期待される。
諸外国では学卒後の職業生活への移行状況はどのようになっているのであろうか。ここでは、大卒後の移行状況について、欧州諸国の状況を見てみよう16。欧州の大学と日本の大学では、その入学や卒業の状況に大きな違いがある。日本と欧州諸国の大学入学・卒業年齢・在学年数を見ると、日本では、高校卒業後18〜19歳で大学に入学し、学士であれば4年間で卒業するのが一般的である。一方、欧州を見ると、卒業・入学年齢が多様であり、卒業平均年齢は20代後半の国が多い。また、日本と比べてその卒業年齢にも大きなばらつきが見られ、例えば、イギリスでは、30歳過ぎで卒業する者や20代前半で卒業する者まで卒業時期の幅が比較的大きくなっている。このように、日本とは異なり、欧州の場合新卒者といっても、多様な年齢層の人材が含まれることになる。また、大学入学前に何らかの社会経験を積む者が多く、日本に比べて進路が多様である。したがって欧州においては、日本ほど硬直的な新卒枠の運用は見られないものと考えられる。
|
そこで、欧州と日本の大学生の就職活動状況を見てみよう。日本の大卒者の多くは在学中に求職活動を行うことで、比較的早い時期に内定を決め、大卒後、すぐに職業生活に移行している。一方欧州では、在学中に求職活動を行う者は、ドイツやイギリスでは50%前後、イタリアに至っては15%程度であり、大半の学生は卒業後に求職活動を行っている(第1−2−21図)。もちろん欧州諸国においても新卒者の採用は行われているが、その形態は日本とは異なっている。例えば、イギリスの新卒採用の特徴を見ると、各自の専門を考慮した職種別採用の例が比較的多く、日本のような職種を問わない一括採用をとっている企業は少ない。また、大学在学中に就職活動をしない者が大半を占めることや、大卒後ボランティア活動などをして社会経験を積んだ後就職活動を行うことも多い17ことから、新卒採用の範囲も卒業後3年以内など、比較的広く設定されているのが特徴である。
このように、欧州諸国においては、多様な新卒者の在り方に合わせて新卒採用枠が比較的柔軟に運用されている。他方、欧州の中でもイタリアのように大学在学中に就職活動を行わない者が特に多い国では、若年者の失業率が高くなっているなどの問題も生じている。このように新卒枠の柔軟な運用は決して良い面ばかりではないものの、新卒後の若年者の生活や働き方が多様化しつつある日本においても、卒業後すぐの就業にとらわれない欧州諸国の柔軟な新卒採用方法は一つの参考になるであろう。
第1-2-21図 日本と比べて欧州では卒業前から就職活動をしている大学生は少ない
|
応募者がフリーターというだけでマイナスと評価せずに、若年者の資質をじっくり見極めようという企業側の動きもある。ここでは、契約社員として雇用した若年者に正社員への道を確保している栃木県に本社を置くある電子機器会社の正社員登用制度について見てみよう。
この会社は若年者をウィークリーワーカーおよびマンスリーワーカーと呼ばれる契約社員として採用している。そして、働きぶりが認められれば、正社員へと登用される。
この制度により、ウィークリーワーカーの90%以上がマンスリーワーカーへ昇格し、さらにマンスリーワーカーから正社員には3%程度が登用されている。また、マンスリーワーカーといっても働きぶりによっては正社員以上の収入を得ることができるなど、比較的高待遇で雇われている。
正社員になるにはそれなりの実績が必要とされるなど厳しい面もあるが、企業側は意欲や能力の高い人材を時間をかけて選別することができ、若年者側も自分に合った仕事かどうか見極められると同時に、努力すれば正社員に登用されるメリットがある。このような方法は、企業側のフリーターに対する統計的差別や、若年者側の入社後に気付くミスマッチといった課題を克服するのに有効であると考えられる。
企業にとって、一般に正社員は経済状況に応じた雇用調整は難しいものの、専門的能力を身に付けさせやすい。一方で、パート・アルバイトは専門能力は期待できないが、人件費の節減や仕事の繁閑への対応がしやすい。このように企業はそれぞれの雇用形態に各々異なるメリットを感じている。しかしながら、人材派遣会社の立場で、高度な専門的能力を備えながら柔軟に調整できる労働力を提供している事例がある。
東京都に本社を置く、技術者の派遣を主な業務としている会社では、新卒および中途で採用した社員に対して採用時に行われる導入研修のみならず、派遣期間中や派遣契約の端境期などに、全国各地にある研修施設や在宅のeラーニングなどにより年間300〜500講座におよぶ研修メニューを用意し、社員に専門能力を身に付ける機会を提供している。派遣先についても、本人がそれまでに蓄積した能力を最大限発揮できるとともに、更に高度な能力に発展させられるような企業を割り当てるようにしている。
この会社では社員を自社の正社員として雇用し、取引先には派遣社員として送り出している。またそのグループ企業では、技術者としての経験が浅かったり中断期のある若年者などにも契約社員として門戸を開いており、必要なブラッシュアップ研修なども行っている。
こうした事例は、社員の能力を体系的かつ長期的に把握している人材派遣会社の下であれば、派遣社員であっても職業能力を高める機会が得られることを示しており、職業能力構築に関わる壁を解消するための一つのあり方として注目される。
(3)教育段階から職場定着への移行を円滑化し、適職探しを支援する動き
適職探しを支援するという観点からは、これまで述べてきたような「再挑戦」だけでなく、そもそも新卒時の挑戦の段階で、若年者がより円滑に情報や助言を得られ、自分の希望する職に就きやすくすることも必要である。そのためには、学校教育段階から職場体験学習や将来のキャリアに関連した就業体験(インターンシップ)などを推進するとともに、専門高校などでの教育訓練と企業実習を組み合わせた人材育成システム(デュアルシステム)を活用することが有効である。
インターンシップについては、2001年よりインターンシップの受入先となる企業を開拓する事業を経済団体へ委託して実施しているところである。若年者がインターンシップにより学校教育の段階から職業経験を持つことは、職業についての具体的なイメージを持ちやすくなり、新卒時の職業選択の円滑化に有益である。
このような制度を活用し、在学中から何らかの専門性を伴った職業能力を身に付けておくことは、新卒時に希望する職に就くのに役立つとともに、その後希望の職が変わったとしても、専門能力の土台を活かして新たな分野の知識を習得できる可能性もあろう。また、分野を問わず専門知識を身に付けている実績そのものが評価される場合もあり、若年者の可能性を大きく広げるものと考えられる。
このような採用慣行や能力開発についての流れが根付き、拡大していくためには何が必要だろうか。もとより、企業の採用方法や能力開発体系は各企業が自ら決めるべき事柄である。しかし、企業もこれまでの慣行に固執するだけでは立ちいかない状況に置かれている。少子高齢化による労働力不足のみならず、経済のグローバル化や技術革新の波は企業の経営環境を様々な面で厳しくしている。また、90年代に雇用の非正規化が進展し固定費の削減が図られた一方、正社員の採用を抑制したことから、企業内で技能の伝承や社員の年齢構成に問題が生じてきている。こうした環境の下、企業が新たな人事管理制度を模索する中で、従来の枠組では挑戦が困難だった若者の可能性が発掘されるような取組の実施が期待される。また、従来の企業の基準ではいわば「規格外」とみなされていた意欲ある若年者が見出され、活躍する先進事例が積み重ねられることは、企業の意識を更に変える原動力となっていくと考えられる。
●若年者の経済的展望を拓くことは、少子化の流れを変えることにもつながる
こうした取組を通じて転職・やり直しの可能性が広がることは、若年者の経済的展望を拓くことにもつながる。たとえ新卒時に就いた職の収入に不満があっても、努力次第で転職も可能であれば、生涯所得の見通しはそれほど暗いものとはならない。また、希望どおりの転職ができれば、より意欲的に働けることから、生産性や職業能力が更に高まり、より高い報酬を得ることができる可能性もある。このように、若年者の適職探しを妨げる壁を低めていくことは、若年者の経済的基盤を強化する上でも重要である。
これは、少子化の流れを変えることにもつながる。平成17年版国民生活白書でも分析したとおり、一定の所得を下回る世帯は、子どもを持たない割合が高い傾向が見られる18。転職ややり直しが容易になり、若年者が努力次第でより明るい経済的展望を持つことができれば、子どもを持とうとする意欲が高まると考えられる。
|
|
テキスト形式のファイルはこちら
|