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本文 > 序章 多様な可能性に挑める社会とは > 第2節 仕事についての挑戦のしやすさ

2.我が国の労働市場における転職・中途就職のしやすさ

それでは、こうした仕事に関する挑戦についての充足度の低さの背景には何があるのだろうか。職業生活に関わる項目の中で、いずれの年齢層においても「転職」、「高齢者・障害者の就業」の充足度が低いことも踏まえ、ここでは人々の人生設計において特に大きな意味を持つと考えられる転職や中途就職のしやすさについて概観する。

●中途入職率・離職率にすう勢的な変化は認められない

転職や、中途での就職のしやすさは「雇用の流動性」と呼ばれる。職を離れたり就職したりといった、人々の働き口に対する「出入り」が一般に活発であればあるほど、転職や中途での就職はしやすいと考えられる。近年、そうした雇用の流動性は高まっているのだろうか。

まず中途入職率(新卒者を除いた入職率)の推移を見てみよう。男性について、90年以降、景気動向に伴う変動はあるものの、いずれの年齢層においても目立った傾向的な変化は見られない(序−2−4図)。女性については、93〜94年頃を底とした変動が男性よりもはっきりと認められるが、これはすう勢的な変化というよりは景気動向によるものと考えられる。

離職率についても、男性・女性、各年齢層においても、すう勢的な変化は見られない(序−2−5図)。

序-2-4図 入職率にすう勢的な変化は見られない

序-2-4図 入職率にすう勢的な変化は見られない

序-2-5図 高齢者以外の離職率は横ばい

序-2-5図 高齢者以外の離職率は横ばい

●転職率の変化は主にパート・アルバイト比率の上昇によるもの

中途入職率・離職率に近年大きな変化は確認できないが、これらは統計上の制約から、パート・アルバイトの動向を十分に反映していない可能性がある2。そこで別の統計を用いて、転職率(前の職を離れて1年以内に再就職した人の雇用者に占める割合)の推移を見ると、男性については多少の変動はあるが90年の3.6%から2001年以降の5%程度まで緩やかに上昇している(序−2−6図)。女性は91年から97年まで6%台で推移した後、98年以降7%台となっている。このように、パート・アルバイトを含めて見た場合、転職率は上昇している。

しかし、これを正社員とパート・アルバイトに分けてみると、男女とも正社員については転職率にほとんど変化はなく、パート・アルバイトについては96年から98年にかけて上昇した後ほぼ横ばいとなっている(序−2−7図)。このように、転職率のすう勢的な上昇には、正社員の転職率の変化はほとんど寄与しておらず、パート・アルバイトにおける転職率の上昇と、雇用者に占めるパート・アルバイト比率の上昇により説明される(付図序−2−4)。

なお、正社員の転職率は景気動向の影響を受けないのだろうか。正社員の転職率を、前職を会社都合で辞めた者と自己都合で辞めた者に分解してみると、特に男性において、景気回復期には会社都合の転職が減少する一方で自己都合による転職が増加し、景気後退期にはその逆の現象が生じていることが分かる(付図序−2−5)。女性においても、男性ほど明瞭ではないが同様の関係が見て取れる。このため、会社都合による転職の動きと自己都合による転職の動きが相互に打ち消しあうために、全体の転職率はそれほど景気動向に伴う動きを見せていない。

序-2-6図 転職率は上昇傾向

序-2-6図 転職率は上昇傾向

序-2-7図 正社員の転職率は横ばい

序-2-7図 「転職」の充足度が際だって低い
 
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ここで用いている厚生労働省「雇用動向調査」では、常用雇用者を一般労働者とパート労働者に分類している。パート労働者とは、1日の所定労働時間がその事業所の一般労働者よりも短い者またはその事業所の一般労働者と1日の所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない者を指す。このため、職場でいわゆる「パート」とされていても、労働時間が一般労働者と変わらない場合、一般労働者に分類されることに注意が必要である。また、同調査は企業に対する調査であり、人事部が必ずしも動向を把握していない、現場採用のパート・アルバイトなどが抜け落ちている可能性がある。

●正社員の長期雇用慣行は、部分的には深化している

転職や中途就職の活発さを、勤続年数の面から見てみよう。概して長期雇用が一般的であるほど、中途採用などの余地は小さくなる。我が国の長期雇用の状況について、学校卒業後すぐに就職した企業に勤め続けている雇用者(正社員3)の割合を見ると、男性はほとんど変化がなく、女性については90年代後半から傾向的に低下している(序−2−8図)。

学卒後すぐに就職した企業に勤め続けなくても、25歳くらいから遅くとも35歳くらいまでの間に定着した企業に勤続する人はどれくらいいるだろうか。40代で勤続15年以上、50代で勤続25年以上の労働者の割合を見てみよう。男性については、15年勤続の割合は横ばいである一方、25年勤続の割合は90年代に上昇している(序−2−9図)。また女性についてはいずれの勤続年数も基本的に上昇している。これらを見ると、正社員に限って見れば、長期雇用慣行が「深化」している側面もあることが分かる。

序-2-8図 一つの企業に勤め続ける女性は減っている

序-2-8図 一つの企業に勤め続ける女性は減っている

序-2-9図 35歳までに定着した企業での女性の勤続割合は高まっている

序-2-9図 35歳までに定着した企業での女性の勤続割合は高まっている
 
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厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における一般労働者。

これまでいくつかの指標で見てきたように、転職や再就職といったチャレンジのしやすさを反映する雇用の流動性は、パート・アルバイトの占める割合の上昇により高まっているが、正社員についてはむしろ低下している側面もある。また、非自発的失業者の転職のしやすさを日米で比較した研究によると4、アメリカの25〜34歳の平均離職期間が4.0週、35〜44歳では8.2週であるのに対し、我が国では25〜34歳では9.4週、35〜44歳では11.1週と、大幅に長くなっている。転職でどれだけ賃金が変化したかについても、アメリカでは25〜34歳では5.5%の増加、35〜44歳では0.5%の増加となっているのに対し、我が国では25〜34歳では0.52%の増加、35〜44歳では0.73%の減少となっている。このように我が国の雇用慣行が転職コストを高め、人々が意志や環境の変化に応じて望む職業へと移っていく上での大きな壁となっている可能性がある。

こうした中で、先にチャレンジ環境について見たとおり、若年層については転職についての充足度が低いことから、「適職探し」が円滑に行われていないのではないかと考えられる。また、若年層・壮年層にわたって子育てや、仕事と生活の調和についての困難が強く意識されており、女性の育児と就業の両立、男女の働き方などが依然として大きな課題であることを示唆している。また高齢者の就業や、地域活動についての充足度の低さは、高齢者が就業を続けるにしろ、生活の重心を仕事から社会貢献活動などに移すにしろ、何らかの障害が存在していることを物語っている。

こうした観点から、本白書では様々な「チャレンジ」、「挑戦」の中でも若年者の適職探し、女性のライフサイクルと就業、高齢者の人生の再設計に焦点を当てて、第1章以降の分析を進めていくこととする。

 
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樋口美雄「雇用と失業の経済学」(2001年)第5章。なお、ここで非自発的離職者が取り上げられているのは、転職コストはあくまで企業経営上の理由により転職せざるを得なかった人の経済的損失から推計されるべきとの考え方による。また、ここで用いられているアメリカのデータ(Hipple,“Worker displacement in the mid-1990s,”Monthly Labor Review, 1999)は前職の勤続年数が3年以上の男女労働者が対象になっており、しかも各変数の集計値が中央値となっているのに対し、日本のデータ(厚生労働省「雇用動向調査」)は有期雇用者を除く男性常用労働者が対象であり、その平均値を取っているため、厳密な比較はできないことに留意する必要がある。

 
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