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第3章 子育てにかかる費用と時間
第1節 子育てにかかる費用
出産退職にともなう機会費用は大きい

一方で、いったん退職してしまうとどのくらいの機会費用が発生するのだろうか。ここでは、就業を中断した場合の生涯所得と就業を継続した場合の生涯所得との差額を見ていくこととする。生涯所得は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」に基づき職種ごとの年齢別の賃金(賃金カーブ)を求め、それを合計することによって求める16第3−1−23図)。

 

第3−1−23図 機会費用とは、出産・育児のため就業していなかった期間の所得と、再就職後の所得差の合計額

大卒の女性標準労働者17が、就業中断をすることなく定年(60歳)まで勤務した場合、賃金の2億5,400万円と退職金の2,270万円を合計した2億7,700万円を生涯に得ると推計される。これに対して、28歳に一時退職し第一子を生み、31歳で第二子を生む女性の場合について考えよう18

まず、育児休業制度を利用して同一企業に復職する場合の試算結果を見ると、生涯所得で見た逸失額は1,910万円となっている(第3−1−24図(1))。この場合、勤続年数の面では休業期間があるため退職金の算定において不利となっている一方で、賃金の上昇が休職しなかった場合と比べて2年遅れつつも、定年までの間に着実に賃金が上がっていくため、結果として逸失率は6.9%にとどまる。

 

第3−1−24図 正社員からパート・アルバイトへ再就職する機会費用は大きい[1]

 

第3−1−24図 正社員からパート・アルバイトへ再就職する機会費用は大きい[2]

次に、第一子出産を機に退職し、第二子出産後1年を経過して一般労働者として別の企業に再就職した場合を仮定すると、逸失額は5,880万円、逸失率にして21.3%となる(付表3−1−16)。逸失所得が増えた理由は、同一企業に復職する場合と比べて、経験年数がいったんリセットされ、賃金カーブが下がるとともに退職金も低くなってしまうことによる。なお、出産後3年での再就職を仮定すると逸失率は25.2%、6年では35.9%と、一層機会費用は大きくなっていく(第3−1−24図(2))。

さらに、実際に最も多いと考えられるパート・アルバイトとして再就職する場合については、第二子出産1年後の再就職では2億2,100万円、同3年後では2億2,400万円、6年後の再就職では2億2,700万円の逸失額となり、6年後の逸失率は82.2%にも達する。これは、パート・アルバイトは年齢が上がっても年収が増加しない(ここでは、賃金構造基本統計調査の20代〜40代の女性パートタイム労働者の平均賃金より120万円で固定)ことが大きい(前掲付表3−1−16)(第3−1−24図(3))。

再就職の機会やその際の労働条件が一般と比べて恵まれているとみられる専門職として働く女性の機会費用はどうであろうか。ここでは、その一例として、国家試験受験資格として4年制大学(総合大学の薬学部,薬科大学)で薬学に関する正規の課程を卒業した者であることを要する薬剤師を取り上げる。

女性薬剤師が定年(60歳)まで就業した場合、生涯所得は2億2,100万円と推計される。先程と同じ条件で退職し再就職した場合の逸失額については19、1年後の再就職では2,870万円(逸失率13.0%)、同3年後では4,080万円(同18.4%)、6年後の再就職では6,380万円(同28.8%)となり、標準労働者の場合と比べて小さくなっている(前掲付表3−1−16)(第3−1−25図)。

 

第3−1−25図 女性薬剤師の出産・子育てにかかる機会費用


16 実際の賃金カーブはサンプル数の影響で特に年齢が上がる程「ぶれ」が激しくなっているが、ここでは特に調整を行っていない。

17 学校卒業後直ちに企業に就職し、その後引き続き同じ企業に在職している者。

18 2003年における平均第一子出生年齢が28.33歳、平均第二子出生年齢が30.59歳(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2005年版))であることに基づく。

19 賃金構造基本統計調査では、専門職の勤続年数別データを15年以上について把握できない。しかし、一般に専門職の場合年功序列カーブは比較的なだらかであり、勤続年数の賃金に及ぼす影響は小さいと考えられ、また、退職しても比較的再就職は容易である。そこで、ここでは、再就職時には退職時と同一の賃金で復職し、就業継続の場合と比較して4〜9年遅れの賃金で昇給していくという仮定を置いて考える。


 

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