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第2章 子育て世代の所得をめぐる環境
第2節 子育て世代内の所得格差

コラム 若年層で増えつつある貯蓄残高ゼロ世帯

「貯蓄残高ゼロ世帯」が急増している。金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」(2004年)によると、「現在貯蓄3を保有していない」と回答した「貯蓄残高ゼロ世帯」の割合は21.8%となっている。これは、5〜7%程度で推移していた1970〜80年代と比べ極めて高い水準である。昔から日本人は貯蓄好きと言われてきたが、今や我が国の4世帯に1世帯近くが全く貯蓄を保有していないということになる。内訳を年齢層別に見ると、特に20代での割合は37.4%とほかの年齢層に比べて突出して高く、貯蓄残高ゼロ世帯が急速に増えていることが分かる(図1)。20代の若い世代は、もはや貯蓄を行わなくなりつつあるのだろうか。

 

図1 増加する貯蓄残高ゼロ世帯(1)

 

図1 増加する貯蓄残高ゼロ世帯(2)

貯蓄残高(ストック)は貯蓄(フロー:各期における可処分所得から消費支出を除いたもの。)の積み重ねであるので、貯蓄率の推移を見てみよう。内閣府「国民経済計算」(SNA)ベースの家計貯蓄率は、高齢化の進展などを反映して低落傾向にある(図2)。SNAベースの貯蓄率は年齢層別に分解できないので、総務省「家計調査」で貯蓄率4の推移を見てみると、全体の貯蓄率はSNAと異なりあまり低下していない(図3)。この違いは家計調査の貯蓄率が[1]勤労者世帯のみを対象としている点、[2]持家の帰属家賃を所得及び消費に含めていない点、[3]固定資本減耗を考慮しない粗貯蓄となっている点などにより生じている。

 

図2 SNAベースでは家計の貯蓄率は低下している


 

図3 60代以外の家計貯蓄率は横ばい

年齢層別に見ると、貯蓄残高ゼロ世帯が増えている20代の貯蓄率についても家計調査上の貯蓄率は横ばいとなっている。若年層は持家を含め資産を相対的に持っていないため、上記の[2]や[3]の影響は比較的小さいと考えられる一方、最近の若年失業率の高まりを考慮すると[1]の影響は大きく、家計調査では把握されない無業者の存在が20代の貯蓄率を押し下げている可能性が高い。職を得ている人々の貯蓄率はさほど低下していないが、貯蓄をしにくい無職の人々が多くなっているために、全体として若年層の貯蓄率が下がり、その反映として20代の貯蓄残高ゼロ世帯が増加していると考えられる。これは、本文で述べている子育て世代内での所得格差の拡大とも整合的であり、職のある人々が所得を貯蓄に回している一方で、増大する無業者はとても貯蓄にまで手が回らないという現在の20代の姿がうかがわれる。

貯蓄を行うのは、病気など不測の事態に対応するほか、ライフサイクルに応じて予想される大きな出費に備えるためでもある。借入れに一定の制約がある若年層は、ある程度お金を貯めておかなければ、結婚や出産、住宅購入など人生の大きなイベントが先延ばしとなりかねない。

貯蓄残高ゼロ世帯の増加は、格差拡大とともに晩婚化・少子化が進む我が国の社会状況の一つの象徴かもしれない。


3 銀行預金のほかに様々な金融資産を含む。土地、住宅などの実物資産は含まない。

4 「家計調査」における「黒字率」であり、「平均貯蓄率」とは異なることに留意。


 

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