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本編 > 第2章 > 付論 > 1. 地域通貨に期待される役割

1. 地域通貨に期待される役割
 現在使われている「地域通貨」という言葉は、英語のコミュニティ・カレンシー(community currency)の訳語である。英語の「コミュニティ」には、精神的なつながりも含まれることから、地域通貨は単なる特定の地理的な範囲の中で流通する価値の媒体だけではなく、特定の価値観やニーズを共有するグループの中で流通する価値の媒体という意味も持っている。また、「通貨」と言っても、現金と似た紙や金属製あるいはプラスチック製のチップなどの形で流通させている場合もあれば、物理的な媒体を発行せず、口座上でのみ管理する場合もある。


コラム 世界各地の地域通貨

[1]タイムダラー
 1980年、アメリカのワシントンD.C.に住む弁護士・市民活動家のエドガー・カーン夫妻によって考案されたタイムダラーは、それまで無償とされていたボランティア的サービスを蓄積・交換するための仕組みで、どんなサービスも1時間1点として評価する。「役に立たない人はいない」という認識に基づき、従来はサービスの受給者だった人たちが主体的に自分たちの課題解決にかかわることで、コミュニティの再構築を目指している。

[2]LETS(Local Exchange Trading System)
 LETSは、 1983年カナダのバンクーバー島のコモックスバレーで、経営コンサルタントのマイケル・リントン氏によって発案された。同地域は当時失業者が急増し、深刻な経済状況に陥っていたが、法定通貨を補完するものとして地域通貨を流通させることにより、地域経済の活性化と住民の相互信頼関係の形成を目指したのである。LETS全体では残高は常にゼロになっている。参加者はサービスなどを提供すると「プラス」の価値を意味する「クレジット(信用)」を受け取り、サービスなどを購入すると「マイナス」の価値を意味する「コミットメント(約束)」が発生する。

[3]ゲゼル方式
 ゲゼル方式とは、ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼル(1862−1930)の考え方に基づき、利子をマイナスに設定することで、経済の循環を促進させようとするものである。世界恐慌後の1930年代、オーストリアのヴェルグル町では、失業対策のための公共事業を行い、その賃金の半額を「サービス・チケット」(地域通貨)で支払った。この「サービス・チケット」は毎月額面の1%分の切手を町から購入して貼らなければ使用できないとされた。早く使わなければ損になるため、商品の売買が加速し、税収も増加するなど、経済循環が刺激されたと言われる。

[4]WIR
 WIRは1934年スイスで中小企業が国民通貨を使用せず互いに仕事を支え合い、取引を活発化させることを目的に協同組合として設立され、36年にスイスの銀行法に基づくWIR銀行となった。現在はスイスの全中小企業の約20%が加盟している。WIRはスイス・フランを組み合わせた融資も可能となっており、地域通貨を活用した地域金融の事例として注目されている。


 地域通貨と言われるものの中には、地域内で利用できる商品券に近いものも存在するが、本白書では、暮らしやすさを目指した住民の活動に焦点を当てていることから、地域において繰り広げられている、他人の役に立つあるいは社会に貢献するような活動に利用されるタイプの地域通貨に着目することとする。

地域通貨の特徴
 地域通貨には通常使われる現金とどのような違いがあるのだろうか。法定通貨である現金(日本銀行券及び貨幣)は、法律によって日本国内のどこでも、誰にでも、何にでも、支払いや決済手段に使用できることが保証されているが、地域通貨は、一般に、住民あるいはNPOなどの団体が発行する特定の地域やグループ内でのみ有効である。言い換えれば、それを発行する目的に応じて、交換可能な地域、交換される対象、表現の方法や単位などを自由に決定できるということである。
 地域通貨には、地域内の交換を活発化させるために、長期間保有させないような工夫が見られる。例えば、マイナスの利子や有効期限を設定している場合もある。

○地域通貨「ピーナッツ(千葉県千葉市)」では、取引を記載した通帳を3か月毎に事務局に送付し、口座のプラスのポイントから月1%の割合で減価させ、ピーナッツでの交換を促している。

地域通貨導入により期待される効果
 地域通貨を導入することにより、地域の活動の担い手、活動が生み出すサービスの受け手及び活動の展開される地域には、どのような効果が期待できるだろうか。
 まず担い手にとっては、地域通貨が使われることにより、一般には法定通貨で取引しにくいボランティア活動、例えば話し相手、買物代行、留守中の花の世話などのちょっとしたサービスに対して、目に見える対価を受け取ることができる。これは担い手にとって活動を継続させる励みになる。
 次に受け手にとっては、目に見える形で活動の対価を渡すことができるため、無償では依頼しにくかったちょっとしたサービスの提供を受けやすくなる。
 さらに、地域通貨は、このような担い手・受け手への効果を通じて、地域の活動への参加者の裾野を広げ、一般の市場では取引されにくいちょっとしたサービスをやり取りするネットワークを構築するのに役立つ。こうしたサービスのやり取りが地域内で活発化することにより、住民同士がふれあう機会が増加することが期待される。

○地域通貨「ゆうゆうヘルプ波方(愛媛県波方町)」では、送迎、ついでのお使い、草取り、子守り、猫のえさやり、買い物代行など生活の中で必要なちょっとしたサービス30分につき手作りの紙券を交換している。日常生活で使える楽しいメニューをそろえ、それをコーディネートする世話人を置いたことで、交換が活発になった。


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