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本編 > 第1章 > 歴史的建造物の保存・再生運動(旧小熊邸倶楽部)

歴史的建造物の保存・再生運動
NPO法人 旧小熊邸倶楽部

 北海道札幌市では、歴史的建造物である旧小熊邸を単に保存するだけでなく、生活者の視点に立って建物の再生利用まで考えた運動が始まり、現在は歴史的建造物の保存・利用の動きが北海道全域に広まっている。

〇歴史的な建築物について住民の意向を調査しその再生利用を進めている。


1. 活動開始の背景と経緯
旧小熊邸の保存運動がきっかけ生活者の視点で再利用
 かつて社宅や円山倶楽部として使用された旧小熊邸。1927年に北海道大学農学部小熊博士宅として設計された歴史的建築物であったが、95年に老朽化のために取り壊しの方針が出されていた。これに対し、96年に北海道大学教授や、建築家、芸術家らが集まって保存を考える市民団体「旧小熊邸を考える会」を結成した。「考える会」は保存のための署名活動とアンケート調査を実施、取り壊しに反対する6,000名の署名とアンケートの回答を1年間で集め、取り壊しは2年間延期された。しかし、「考える会」は、単に保存するにとどまらず、生活者の視点を入れた建物の再利用が必要だと判断した。こうして買い取って利用してくれるところを探していたところ、札幌市交通局の第三セクター「札幌振興公社」が旧小熊邸を購入し、その後移築し喫茶店とすることが決まった。
 この間、地域住民に旧小熊邸の保存活動を知ってもらうため、同会では絵葉書の販売、見学会やフォーラム、コンサートなどを開催し、新聞を通じた広報にも力を注いだ。
 97年8月、札幌市長が旧小熊邸の移築計画を公表したのに伴い「考える会」は解散、翌日市民団体「旧小熊邸倶楽部」を立ち上げ、99年にNPO法人格を取得した。
 建物の移築・喫茶店への改装については、旧小熊邸倶楽部、札幌振興公社、喫茶店の経営者の3者が費用を負担した。

旧小熊邸外観
旧小熊邸外観


2. 活動の内容
現在は調査活動が中心
 旧小熊邸倶楽部の活動内容は、主として、歴史的建造物についての住民意向調査、歴史的建造物についての実測調査である。
 委託元はプロジェクト毎に異なっており、マンション建設事業者からの建設予定地にある古い建物などの調査依頼が多い。その場合、移築したり、マンションの共同施設として残すことを提案している。

3. 運営の状況
建築関係者中心の活動者
 現在、旧小熊邸倶楽部の事務局は建築関係者を中心に13名おり、非常勤有給が2名の他は、無給で活動している。
 会員は、1999年のNPO法人設立時に、「考える会」で小熊邸の再生プロジェクトに関わっていた4名を含み、建築関係者を中心に100名程である。

調査活動による事業収入
 調査は有償で、料金は内容により異なる。ただし、調査の受託主体は旧小熊邸倶楽部ではなく、会員の建築会社やコンサルタント会社であることがほとんどである(旧小熊邸倶楽部で受託したものは過去5年間で3件、会員の関連会社の受託分も含めると、50件以上となり、最近は年間15〜16件の受託実績)。なお、関連会社が受託した場合は、受託費用はNPO法人には入らず、会員の関連企業が直接受け取る。

協力団体の意志を尊重
 活動を実施するに当たっては、行政のほとんどの部署、建築関連の団体などと協力関係がある。また、歴史的建造物が福祉施設や不登校児のための施設になる場合には、社会福祉法人や教育委員会とも関係が生じている。
 これらの団体などの意見を最終的には尊重しながら、歴史的建造物をいかに生活者の視点に立って再生利用していくかということを助言している。
 その他、歴史的建造物を移築した際に出てくる古材の活用を工夫している。

4. 成 果
北海道全域に歴史的建造物の保存・再生の動きが強まる
 旧小熊邸の移築が完了し喫茶店がオープンすると、観光客が詰め掛けた。市民の意識の高まりは、行政や公社の態度を大きく変えることになったし、他の地方公共団体からも文化財の保存・再生についての相談が来るようになった。
 そして、市民が自分たちの街の歴史的建造物の保存・再生利用について当事者意識を持ち始め、地域ごとに市民による建造物の保存活動が始まったり、建造物をめぐる観光ボランティアやNPO同士の連携が行政区域を越えて広がっている。
 旧小熊邸倶楽部が関与している事例では、増毛町で教育委員会が取り壊しを決めていた町立増毛小学校が、町民の嘆願により保存され、現在も小学校として利用されている。また、中標津町でも、道立農業試験場の保存が決まり、所有権が道から町に無償譲渡された。町ではNPOに無料で貸し出し、NPOは農業試験場をNPO向けの貸事務所、レストランとして活用している。


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