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第2章 デフレ下で厳しさを増す若年雇用

オランダ パートタイム労働者の均等待遇

オランダでは、70年代の2度の石油ショックに伴う石油価格の高騰により、石油産業は多額の収益を上げた。しかし、もう1つの輸出産業であった製造業部門は、石油部門に引っ張られる形で、生産性の伸びを上回って賃金が急上昇し、競争力を失った。80年代に入ってからも、景気の低迷と著しい物価上昇が続き、失業率の上昇やこれに伴う社会保障支出の増大などに見舞われた。このような苦境に陥った当時のオランダの経済状況は、「オランダ病」と呼ばれた。

こうした事態に危機感を抱いたオランダ政府は、財政緊縮や物価水準の安定化に努めると同時に、労働市場については、82年に、政・労・使の三者が経済の危機を回避し、かつ立て直すため、「ワッセナー合意」と呼ばれる合意に達した。それは、.労働側は企業業績向上のために、賃金の削減に協力する、.企業側と労働側は雇用の確保・創出のために、労働時間の短縮を認める、.政府は労働者の所得減少を補うため、減税と社会保障負担の削減を行うとともに、財政支出のカットを行う、の3点に要約される。

その後、雇用の創出のために、96年の労働法改正によって、フルタイム労働者とパートタイム労働者との間で、時間当たりの賃金、社会保険制度への加入、雇用期間、昇進等の労働条件に格差をつけることを禁じ、両者を労働時間数に比例して平等に扱うこととした。また、2000年に労働時間調整法が施行された。この法律は、労働者が使用者に対して、労働時間数の増減を要請し、フルタイムからパートタイムへ、あるいはパートタイムからフルタイムへ移行することを認めており、これにより、週当たりの労働時間を労働者自身が決められるようになった。ただし、使用者は、代替要員の確保が非常に困難である場合、あるいは、勤務時間割に重要な問題を引き起こす場合などには、労働者の要請を拒否できるとされている。

「オランダモデル」と呼ばれるこのような政策の導入によって、労働者は雇用形態や労働時間を自ら選べるようになり、自分や家族のライフスタイルに沿った働き方が可能になるとともに、失業率は下落し、マイナス成長から安定成長への転換を成し遂げた。すなわち、パートタイム労働者の雇用増加(雇用者に占めるパートタイム労働者の比率は、83年の18.5%から2001年には33.0%に上昇)によって、2001年には失業率は2.4%まで下落した。また、実質GDPの伸び率は、81年のマイナス成長から徐々に回復を示し、その後はほぼ2〜4%の安定成長を示している。また、99年には25年ぶりに財政の黒字化に成功した。

オランダの雇用政策の特徴は、パートタイム労働を労働市場に組み入れることで、ワークシェアリング(仕事の分かち合い)を実現し、新しい雇用を発生させ、その結果失業が減ったという点にあるが、1人当たりの労働時間が減ったときには、時間当たり、あるいは1人当たりの生産性の低下が問題となる。生産性が低下すると、雇用は増えるが、企業の競争力は落ちることになるからだ。新たに雇用者を雇う際には、社会保障費用の事業主負担や職業訓練費用等の非賃金コストが増加する。また、ワークシェアリングの下では、短時間勤務のために能力が十分に発揮されなかったり、勤務交代が非効率を招いたりして、労働生産性上昇率が鈍化する可能性が高い。実際、オランダの場合も生産性上昇率が低くとどまっている。そのため、賃金上昇は抑制されていても、労働コスト増から物価は上昇傾向にある。特に、2001年には賃金上昇率が高まり、インフレ率が高まっている。このため、生産性の向上が課題となっている。

こうした生産性の問題にみられるように、「オランダモデル」も決して万能とは言えない。最近では、早期退職制度を選択した人、労働障害保険(労働者が疾病や障害により働けなくなった場合に、それが業務上の原因かどうかにかかわらず支給される保険)の受給者など、統計上に現れない「隠された失業者」が存在することや、パートタイム労働者の職種は、管理職はまれであり、秘書及び事務職などに限られている、といった問題点を指摘する向きもある。

しかしながら、日本においても、自由な働き方を望むといった理由から、積極的にパートタイム労働を選択する人が多くなっており、「オランダモデル」における政労使間の合意による賃金抑制策、フルタイム労働との平等な待遇によるパートタイム労働の促進など、学ぶべき点は多いと思われる。ただし、「オランダモデル」が機能するには、パートタイム就労が普及しやすい条件を整備しなければならない。そのためには、賃金、昇進、休暇などの待遇面、年金保険、医療保険などの社会保障制度などについて、パートタイム労働を不利にしないよう見直すことによりパートタイム労働者とフルタイム労働者との間の均等取扱いを保証し、働きに応じた公正な処遇を実現すること、また、パートタイム就労の普及によって仕事の引継ぎや情報共有の面で生産性が低下しないようにすることが必要であろう。



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