市場の失敗 (4)情報の非対称性


 情報の非対称性とは、ある経済主体とある経済主体が、取引や契約などの何らかの関係にあるとき、一方の経済主体が他方の経済主体よりも多く情報を持っている、つまり、情報が偏在していることをいいます。これは双方に情報が完全に行き渡っていない、ということから、情報の不完全性としても知られています。

 通常の経済学の理論によれば、最適な市場の結果をもたらすためには市場は完全競争市場でなくてはなりませんが、そのためには、その市場で取引する経済主体が互いに完全に情報を共有している必要があります。ある特定の経済主体に情報が偏在していると、これは正当な取引とはなりません。たとえば株式のインサイダー取引が処罰されるのはこの理由によります。情報の非対称性があれば、その市場は完全競争市場として機能することができず、いわゆる「市場の失敗」を引き起し、市場を歪んだものにします。このために政府の介入が必要であるとされます。

 政府規制の問題を情報の非対称性の観点から論じるには、情報の非対称性を2つに分類することが便利でしょう。1つは、規制する政府と規制される企業の間で存在する情報の非対称性と、もう1つは、規制される企業と消費者の間で存在する情報の非対称性です。まず、規制する政府と規制される企業の間で存在する情報の非対称性について見ていくことにしましょう。たとえば政府が企業に価格規制を行う場合を考えましょう。最近の価格規制はプライス・キャップ制やヤードスティック規制などに見られるように多様化していますが、従来からレート・ベース方式で行われてきています。レート・ベース方式では、規制する政府は規制される企業の費用状態をくまなく把握し、それに基づいて価格を許認可します。ところが政府は実際に生産活動を行っている当事者ではないので、企業の内部の情報に精通しているわけではありません。そこで価格の許認可では、企業から出された報告に頼らざるを得ません。ここには費用に関する情報の非対称性が存在します。企業が正直であれば問題はありませんが、場合によっては、企業は自分に有利な許認可を得ようとして、故意に政府に一部の情報を流さなかったりすることなども考えられることです。このとき政府の規制は失敗するものとなります。

 次に、規制される企業と消費者の間で存在する、情報の非対称性について考えて見ることにしましょう。さまざまな財・サービスを購入する消費者にとっては、1つ1つの財・サービスについてはいわば素人です。一方、個々の財・サービスを供給する企業はその財・サービスに関してはプロフェッショナルであるので、必然的に双方の間には情報の非対称性が存在します。企業はライバル企業の情報を把握してさまざまな価格戦略で消費者を獲得しようとする、消費者はいちいち全ての企業の動向を把握して価格を比較して購入しようとする時間や余裕がありません。そこで政府の料金規制が必要である、ということがよく言われます。

 情報の非対称性の問題には情報公開のより一層の促進が重要です。規制する政府と規制される企業の間での情報の非対称性の問題に対しては、企業が正直に全ての情報を政府に提供せざるをえない仕組みを作ることが必要ですし、企業と消費者の間では、価格情報誌などの発行などによって、消費者に価格を周知徹底させるようなことができれば、情報の非対称性にかかわる問題は、より一層解決に向かうことでしょう。