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今週の指標 No.1012 原油価格の消費者物価に与える影響について

ポイント

2011年10月3日

  1. 最近の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合:以下コアCPI)の前年比を見ると、平成17年基準から平成22年基準への基準改定により平均0.6%ポイントの下方修正となったが、先月発表された平成22年基準8月のコアCPIの前年比は「エネルギー」、「サービス」の上昇が寄与し、0.2%の上昇となった。中でも「エネルギー」の寄与は2010年3月からプラスに転じ、最近まで増加傾向にある。(図1)。
  2. 寄与度を高めている「エネルギー」を構成する品目は、電気代、都市ガス代、石油製品(プロパンガス、灯油、ガソリン)である。このうち電気料金やガス料金は原燃料費調整制度によって毎月調整されるが、調整幅は、電気料金では原油、LNG、石炭の貿易統計価格、ガス料金ではLNG、LPGの貿易統計価格によって決まり、電気料金、ガス料金ともに11月まで値上がりすることになっている。(例えば、11月の電気料金は6、7、8月の貿易統計価格の平均が反映される。11月の電気料金は電力会社によってまちまちであるが、電力10社全体でみると値上がりする)。また、ガソリン等の石油製品は国際商品市場価格(日本を含むアジアの指標原油はドバイ原油の価格)の影響を受ける。図2は国内の経済主体が直面する原油の輸入物価指数を示しており、最近では、リーマンショック後の急落を経て上昇トレンドにある。また最近輸入量が増加しているLNGの価格は、JCC(Japan Crude Cocktail:日本向け原油平均価格)に連動しており、原油価格に影響される。
  3. こうした原油価格の上昇による物価への影響を調べるために、ここではBlanchard and Gali (2009)の研究を参考にし、構造VAR(Vector Autoregression)分析を試みる(備考参照)。ここでは原油価格、GDP、GDPデフレーター、コアCPIの4変数構造VARモデルを考える(ラグ次数はAIC基準から4を選択)。この際、原油価格のショックを識別する制約として短期のリカーシブ制約を置く。サンプルを前半期間(1970年から1994年)と後半期間(1995年から2011年)に分け、各期間の原油価格ショックに対するコアCPIのインパルス応答関数を比較する。インパルス応答関数をみると、前半期間と後半期間で結果は顕著に異なっている。まず1四半期後のインパルス応答関数のマグニチュードは、後半期間は前半期間の6分の1程度になっている。また前半期間のインパルス応答関数は3四半期後でほぼゼロになり、4四半期後にプラスに転じるが、その後はマイナスで推移する。後半期間ではインパルス応答関数は3四半期後でほぼゼロになり、その後マイナスで推移するが、8四半期後以降はほぼゼロで推移する。また累積インパルス応答関数をみると、前半期間は原油ショックが9四半期後まで残存するのに対し、後半期間では6四半期後にほぼゼロになるが、期間を通じて低い水準で推移する。インパルス応答関数の分析をみると、原油価格ショックの物価に与える影響は過去と比較して低下している。
  4. こうした原油価格の消費者物価に対する影響度が低下してきている要因として、家計の原油消費割合が減少してきていることが考えられる。図4の(1)は消費者物価指数の各基準年におけるエネルギーの1万分比ウェイトを1970=100とする推移を示している(1970年基準では525/10000=5.3%)。エネルギーのウェイトは2000年基準で下落した後、2005年基準、2010年基準では再び増加しており、家計のエネルギーに対する支出割合は増加している。一方、(2)は実質家計最終消費支出に対する原油輸入量の割合を示しているが、実質家計最終消費支出1単位に対する原油輸入量は趨勢的に減少してきている。このことから原油に大きく影響されるエネルギーへの家計の直接的支出は近年再び増加しているが、原油を投入して生産する財・サービスへの消費支出(つまり原油への間接的支出)は減少しており、総合的にみると、家計の原油消費割合は減少している。
  5. 現在、原子力発電所の稼働率低下に伴い、電力供給は火力発電所の再稼働で代替されていることからLNG等の輸入量が増加している。また、輸入価格も上昇している。こうした輸入価格の相対的上昇は交易条件の悪化であり、我が国からの所得流出を意味し、実質所得を減少させる等のマイナス面がある。したがって、原油価格の物価に与える影響は低下しているものの、その価格動向については引き続き注視していくことが必要である。

図1 コアCPIの動きと寄与度分解 図2 原油の輸入物価指数 図3 原油ショックのコアCPIに与える影響 図4 消費者物価指数の各基準年におけるエネルギーの1万分比ウェイトの推移

(備考)

  1. Blanchard and Gali (2009)では、原油価格、CPI、GDPデフレーター、賃金、GDP、雇用の6変数構造VARで分析、原油価格ショックが経済に与える影響が減少していることを示した。その要因としては、①実質賃金の下方硬直性が弱まっていること、②金融政策の信認が高まっていること、③消費や生産において原油の占めるシェアが減少していることの3つの仮説を挙げている。
  2. Blanchard, O. and Gali, J. (2009) “The Macroeconomic Effects of Oil Price Shocks: Why are the 2000s so different from the 1970s?” Gali, J. and Gertler, M. (eds.), International Dimensions of Monetary Policy A National Bureau of Economic Research Conference Report, University of Chicago Press
  3. 構造VAR分析については次の通り。
  4. 期間:1970年第1四半期から2010年第2四半期まで。
    原油価格:過去の原油系列には輸入物価(契約通貨ベース)が存在しないため、輸入物価(円ベース)の原油を為替の影響を除去するため名目実効為替レートを乗じ、前期比年率化した。 GDP:季節調整済の前期比年率を用いた。なお、現在の93SNAではデータが1980年以降しかないため、1980年以前については68SNAを用いた。つまり1970年第2四半期から1980年第1四半期までの前期比年率の成長率は68SNAを用い、1980年第2四半期から2011年第2四半期までの前期比年率の成長率は93SNAを用いた。 GDPデフレーター:GDPに同じ。 コアCPI:2005年以前のCPIには季節調整値が存在しないため、四半期平均したコアCPIの原系列にX-12-ARIMAで季節調整を施した。この季節調整済コアCPIを前期比年率化した。
  5. 短期リカーシブ制約とは、構造VAR内の同時点外生性が、原油価格>GDP>GDPデフレーター>コアCPIの順であり、各変数はこの順にリカーシブ(再帰的)に決定されると仮定することを意味している。
  6. 期間を1995年で分割する理由は、1995年以前は交易条件が趨勢的に改善しており、1995年以降は交易条件が趨勢的に悪化していることから先験的に構造変化があったとみている。
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担当:参事官(経済財政分析ー総括担当)付 長谷川 昌士 直通:03-3581-9516

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